「では館長、直樹先輩、お先に失礼します!」
僕は週に3回、池田道場でちびっ子に空手を教えるバイトをしている。
父兄の方にも好評みたいで館長、バイト代を上げてくれたんだ!
自分の仕事が評価されるっていうのは嬉しいよね!
で、毎回バイトが終わった後、池田館長に空手の稽古をつけてもらっている。
けど今日は直樹先輩が道場に来たんで直樹先輩に稽古をつけてもらったんだ。

(ふぅ…やっと稽古終わったよ。直樹先輩ってホントに厳しいよね)
昨日静馬さんにやられたばかりだったのに…体中もうボロボロだ。
直樹先輩、久しぶりに道場に来たと思ったらいきなり『稽古をつけてやる』だもんなぁ。
かなえさんになにか酷いことされたのかな?
…いいかげん僕への八つ当たりは止めてほしいよ。
直樹先輩っていうのはここ池田道場の館長、池田清正さんの息子さんでここでの先輩なんだ。
で、この直樹先輩の奥さんが池田かなえって人で…娘の名前はこの人から貰ったんだよね。
ちなみに僕の奥さん…ますみさんの大学での先輩なんだ。
そのせいか、ますみさんはかなえさんに頭が上がらないんだよね。
ますみさんだけじゃなく、なんとあの彩さんも頭が上がらないんだよ!
…多分僕達の中で一番の権力者だと思うよ。
鬼のように強い直樹先輩も尻に敷かれてるし…見た目は綺麗で優しそうな人なんだけどね。
ホント、人は見かけによらないよね。

「綾崎、今日お前の部屋行っていいか?かなちゃんと遊ばしてくれよ」
急いで愛する家族の元へと帰ろうとしていたら、直樹先輩に止められてしまった。
「ええ?今日ですか?今日はちょっと……ぜ、ぜひ遊びに来てください!かなえもきっとかなえ
も喜びますよ!」
ううう…直樹先輩って理不尽だ。断ろうとしたら胸倉をつかまれた。
きっとかなえさんにバレちゃいけないことがバレちゃったんだろうな。
…僕の部屋を逃げ場所にしないでほしいよ。
はぁ…せっかく今日こそはエッチをしようと思ってたのになぁ。
「な〜にため息ついてんだ?飯ぐらい食わせてやるからいいじゃねぇかよ。
たまにはますみちゃんにも美味いもん食わせてやらないとな。…寿司でいいだろ?」
「あ、ありがとうございます!御馳走になります!」
やった〜!お寿司を食べれるなんて…久しぶりだぁ!
僕達のご飯はいつもますみさんの手料理なんだ。
貧乏な僕達には外食なんてとてもとても…たまに行くラーメンぐらいしか手が出ないんだ。
…情けないよね。一家の大黒柱としてはホント情けない。
…いつかは家族みんなでお腹一杯になるぐらいに焼き肉を食べに行くぞ!
「お、おいおい…寿司ぐらいでそんなに目を輝かせんなよ。
…しゃーねぇなぁ。おら、さっさと行くぞ!ますみちゃんが腹空かせて待ってんだろが!」

直樹先輩はいい人だ。そりゃ時々理不尽なことをする時もあるけど…
上握りを4人前なんて、とてもいい人だ!
おまけに太巻きを2本もつけてくれた。ホントにいい人だよね!

「ただいま〜!ますみさん、直樹先輩が遊びに来てくれましたよ!
ほら!お土産でこんなにお寿司を買ってくれたんですよ!」
ますみさんに美味しいものを食べてもらえるとニコニコ顔の僕。
そんな僕をますみさんは満面の笑顔で迎えて…あれ?
なんなんだろ?ますみさんの表情が硬い。んん?…直樹先輩、足下を見て震えだしたぞ?
僕も足元を見てみる。…誰の靴なんだ?玄関には知らない女性物の靴があった。
「あら?あなたも遊びに来たの?そうよね、かなちゃんカワイイから会いたくなるわよね〜?
……あたしはまた隠れてキャバクラにでも行ったのかと思っていたわ」
殺気…っていうんだろうね。
部屋の中からかなえさんが出す殺気が溢れだして来た。
直樹先輩はガタガタと震えてる。
かなえは寝てるからいいけど、起きてたら間違いなく泣いてるよ。
だって僕が泣きたいくらいだもん。
「か、かなえさんもお土産のお寿司、食べませんか?ちょうど人数分ありますしね!
ね?ますみさんもお腹空いてますよね?」
とりあえず僕は場の空気を和まそうと努力する事にした。

(なんでかなえさん怒ってるんですか?)
かなえさんはベビーベッドで寝ているかなえを見ている。時折頭を撫でたりしてて嬉しそうだ。
その横で直樹先輩が俯きながら正座している。
(それがね…また先輩に黙っていやらしいお店に行ってたのよ)
またか…直樹先輩、全然懲りない人だなぁ。
せっかくのお寿司なのに味わって食べれなかった。無言の食卓って空しいよね。
「か、かなえぇ〜、あれはそのあれなんだよ。…そう、ワザとじゃないんだ!偶然なんだよぉ」
「へぇ?じゃ、偶然入ったお店がセクキャバで、その偶然が4回も重なったんだ。
それじゃあ仕方ないかな?…って、そんな偶然ありますか!」
直樹先輩、そんな小学生みたいな言い訳通じませんよ。
かなえさんますます怒っちゃったじゃないですか。
変な言い訳に怒りを爆発させたかなえさん。
『おぎゃ〜!おぎゃ〜!』
うわ!怒りの大声にかなえがビックリして泣き出しちゃったよ!
「あ、ああ、ゴメンね、かなちゃん。いい子だから泣かないでね?」
必死であやすかなえさん。けど泣き止まないかなえ。
「先輩、もしかしたらお腹が空いてるのかも?…少しいいですか?」
そう言ってかなえに母乳を与えるますみさん。
「……こういうのも有りね。今夜さっそく直樹と…」
それを見ていたかなえさんが呟いたのを聞いてしまった。
な、なにが有りでなにをさっそくなんだろ?
なんでおしゃぶりをじっと見つめてるんです?
ねぇなんでガラガラを持ってニヤリと笑ってるんです?
どうしてスーパーで大人用のオムツも売っているか聞いてきたんです?

結局かなえさんはおしゃぶりとガラガラを持ち、直樹先輩を引き連れて帰っていった。
直樹先輩が連行されるのを見ていたら頭の中でドナドナが流れてきたよ。
直樹先輩、いったい何されるんだろ?
……世の中には知らないほうがいい事っていろいろあるよね?
また一つ大人になったような気がした。

池田夫婦が帰ってくれたことにより、やっと家族だけになった。
よし、今がチャンスだ!かなえもお腹一杯になって眠くなったのか、また寝てくれたし…
ポケットに入れたままのコンドームを握る。…今日こそは!
「ま、ますみさん!一緒にお風呂に入って体を洗いっこしません『ピンポーン』…か?」
突然のチャイム。いったい誰だよ!こんな時間に!
せっかくますみさんとイチャイチャしようとしてたのに…はぁぁ〜。
ため息混じりにドアを開けてみるといきなり抱きしめられた。
むにゅむにゅして気持ちいい…この気持ちいい胸、誰なんだ?
「ピュアく〜ん!かなちゃん見せて!」
ええ?い、いづみさん?
「いや〜、すまんな綾崎君。家内がどうしても見たいといって聞かんでな。
少し見せてもらえんか?」
か、館長まで一緒なんですか?
僕を抱きしめているいづみさんのお腹はかなり大きくなっている。出産予定は10月らしい。
時々夫婦二人でかなえを見に来るんだけど…今日じゃなくてもいいじゃないか!
僕の背後では、ますみさんが殺気を振り撒いている。
僕をいづみさんが抱きしめたままだからだ。…いづみさん、離してください。
「ほれ、お土産も買ってきたから別にいいじゃろ?」
ますみさんの殺気に気づいた館長がお土産を見せてきた。
そのお土産を見た瞬間、ますみさんから殺気が消えた。
「池田館長、こんな美味しそうなお酒、どうもありがとうございます。ささ、上がってくださいな」
一升瓶2本を受け取り、ニコニコとほほ笑むますみさん。…お酒に釣られましたね。

結局今日もエッチは出来なかったんだ。
館長夫婦は2時間ほどで帰ったんだけど…僕が酔いつぶれてしまったんだ。
朝起きたら一升瓶が空だった。…2本とも、だ。
ますみさんが僕の隣で満足そうな顔をして眠っている。
かわいいなぁ…お酒臭く無かったらね。
ふと時計を見たらもう大学に行く時間だった。
慌ててシャワーを浴びて、ますみさんを起こさないようにして大学へと向かう。
くそぉ〜!またエッチ出来なかったじゃないか!
絶対の絶対に今夜こそはエッチをするぞ〜!
ポケットに忍ばせたコンドームを握り締めながら誓う僕。

けど今夜も邪魔が入るような気がするなぁ〜。




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