「なぁ池田よ、結婚生活っていいもんだな。なんつーかやる気が出るよな!
愛する妻のためなら何だってやってやる!ってなるよな?」
仕事帰りの電車の中、隣で小刻みに震えている同僚の池田に話し掛ける。
池田はオレの話を無視して青い顔してブツブツ言っている。
おいおい、少しは惚気話を聞いてくれよ。コイツさっきから何ブツブツ言ってんだ?
少し気になったので聞き耳をたててみた。
「キュウリは食べるものだよぅ…入れるものじゃないよぅ」
………電車の窓から見える夕日は、とても悲しい色をしていた。
『なすびは無理』と言う呟きは聞こえなかったことにしよう。

オレの名前は静馬拓。ついこの間、恋人の国生彩と式を挙げ夫婦になったところだ。
つまりは新婚ホヤホヤってことだ。
愛する嫁さんの彩は自慢じゃないが極上のスレンダー美人で、料理も美味い。
おまけにオレにベタボレだ。
今日も『淋しいから早く帰ってきて』とメールが届いている。まったく可愛いヤツめ。
「おい静馬、人が絶体絶命のピンチだってのに何ニヤついてんだよ!俺たち親友だろ?
今日泊りに行っていいか?今日だけとは言わずに2、3日…1週間ぐらいいいだろ?」
「お前なぁ…そんな事したら余計に怒りを買うぞ。素直に謝ったほうがいいんじゃないのか?」
池田の家は嫁さんのかなえちゃんが絶対王政をひいている。
かなえちゃんに逆らうと、とんでもない目に合うらしい。
「俺は悪くねぇんだよ!ほら、お前達の式の前日にランパブ奢っただろ?
それを知ったかなえが浮気したって激怒してるんだよ。何で浮気になるんだ?
ただ下着姿のおねえちゃんと飲んだだけなのに…理不尽だよなぁ」
「そりゃ災難だな、触ってもないのにな。ま、頑張って怒りを収めてもらえ…よ?」
ちょっと待て。かなえちゃんにバレたということは…彩にもバレたのか?
う、浮気じゃないよな?浮気には入らないよな?酒飲んだだけだもんな?
気が付くとオレまでガタガタと震えてた。
かなえちゃん…彩には秘密にしてくれ!オレはまだ死にたくないんだよ!
電車の中で震えるオレ達二人。今の心境はドナドナだ。

「た、ただいま〜。彩、帰ったぞ〜」
部屋へと帰りついた俺は恐る恐るドアを開けた。そこには鬼が立っていた。
「この浮気者がぁぁぁ〜〜!!」
怒声と共に炸裂する左右のビンタ!いや、張り手といったほうが正しいな。
手のひらの硬い骨で的確に顎を捉えた強烈な打撃にふらつくオレ。
そんなオレに彩はローリングしてのチョップを頚動脈に叩き込んできた。
首筋に叩き込まれた一撃で一瞬意識が飛んでしまった。
次に意識がハッキリした時には彩が助走をつけてこっちに走ってきているのが見えた。
「いっぺん死んで来〜い!」
そう叫ぶと同時にオレの顔面目掛け飛び膝蹴りを炸裂させる。
この技は…プロレスリング・ノア、期待の若手KENTA選手の得意技『ブサイクへの膝蹴り』だ。
グチャ!という嫌な音と共にオレは吹き飛ばされマンションの廊下の壁に叩きつけられた。
薄れゆく意識の中、悪魔がビール瓶片手に歩いてきてるのが見えた。
そして…ゴンッ!という音と共に頭に衝撃が走り、オレは意識を失った。

「ゴメン、ほんっと〜にゴメン!正直スマンカッタ!」
オレは彩に土下座している。
気がついた時にはベットで寝てた。そして彩が手当てをしてくれていた。
彩は意識を取り戻したオレに『拓にぃ大丈夫?』と涙目で心配してくれた。
そんなに心配するなら手加減してくれよ…オレ、そのうち死んじゃうよ?ポックリ逝っちゃうよ?
「で、なんでまたエッチなお店に行ったの?前にもう二度と行かないって約束したよね?」
「そういう店じゃないって!この間行ったところは酒を飲みながら下着姿のお姉ちゃんとおしゃ
べりするだけなんだよ。触ってもないし、口説いてもない。気持ちいいことをしてもない。
そういう事はお前としかしないよ、約束しただろ?」
そう、オレは前に彩とエッチな店にはもう行かないと約束した。
オレはその約束を律儀に守っているんだ。
オレの中ではランパブはセーフだったんだが…彩にとってはダメみたいだな。
「お酒なんて家で飲んだらいいじゃない!下着姿の女なんかと飲んで楽しいの?
信じらんないわ!」
ううう…彩相当怒っているな。どうしよう?どうにかして誤魔化さないと…
ん、飲んで楽しいかだって?
「…ああ、楽しいさ。飲んで楽しみ、目でも楽しむ。メチャクチャ楽しいんだよ!」
オレは以前からしてみたかった事を実践するために、わざと彩を怒らせる事にした。
「サイッテー!拓にぃ最低!見損なったわ!」
「ああ、オレは最低さ!だからお前と楽しみたい!」
「…は?拓にぃ急になに言いだすの?頭でも打った?」
お前がさっきビンで殴ったろ!
「彩、お前はさっき『下着姿の女と飲んで楽しいの?』って言ったよな?実際楽しいよ。
けどお前とならもっと楽しいと思う。オレの愛する…世界で一番愛してるお前と一緒に飲みたい
んだ!…下着姿で」
「し、下着姿?な、な、な、なに言ってんのよ!アタシに下着姿でお酒飲めって言ってんの?
このヘンタイ!」
「彩、お前はさっき『お酒なんて家で飲めばいい』と言ったよな?なら下着姿の女はどうしたらい
いんだ?家に連れてくるのか?そんなの嫌だろ?だからお前がするしかないんだよ」
「う、確かにそんな女が来るのは嫌だけど…なんか違うような気がするなぁ」
よしよしよし!だいぶこっちに傾いてきたな!あと一息だ!
「違わない!オレはお前が好きだ!愛してる!だから一緒に飲みたい!
お前が下着になってくれないとまた他の女と飲まなきゃいけないんだ!それでもいいのか?」
「そんなのダメよ!分かったわ、下着になればいいのね?…うう、なんか騙されてる気がする」
「うん!オレも脱ぐからさ、安心しろよ。あ、下着は初夜のときに着てた勝負下着で頼むな」
「勝負下着って言うなぁ!着替えてくるからちょっと待っててね」
そう言って寝室へと向かう彩。
いよっしゃ〜!念願だったセクシー下着の彩とのお酒を楽しめるぞ〜!
いや〜、言ってみるもんだな。人間やる気になれば何でもできるんだな、感動した!
おっと、彩が来るまでにオレも脱いでおくか。ホントはオレが脱ぐはことないんだけどな。
パンツ一枚になりアルコールの準備をするオレ。
今日はここがランパブに…いや、セクキャバになるんだ!うお〜!燃えてきたぁ〜!
「お、お待たせ拓にぃ。恥ずかしいよぅ…これでいいの?」
着替えを終えた彩が両手で胸とアソコを隠すようにしながら出てきた。
上下黒のセクシーランジェリーに黒のガーターベルトで網タイツを止めている。
…完璧だ。誰がなんと言おうが完璧なんだ!…ゴクリ。
「も、もう…そんなに見ないでよ。これでお酒飲めばいいんでしょ?さっさと飲もうよ」
「…いや、飲む前に食べたい」
「え?じゃあすぐにご飯の用意するね?ちょっと待ってて…」
「違うよ、食べたいのはご飯じゃない。俺が食べたいもの、それは……お前だぁぁ〜!!」
「ふぇぇ?ちょ、ちょっと拓に…きゃあぁぁぁ〜!」

結局その日はお酒を飲めなかった。
そのかわりに『静馬彩のセクシーランジェリー盛り』美味しく頂きました。





トップへ
トップへ
戻る
戻る