あぁ…新婚っていいな。ビバ新婚!
昨日は新婚さんの定番メニュー『裸エプロン』を堪能した。
彩もかなりの乱れっぷりだったし…週一ぐらいでやらせるとするかな?
通勤電車でニヤつくオレ。はたから見れば危ないヤツに見えてるだろうな。

「おっはようございま〜す!」
オレが会社についてから少し遅れて池田夫婦が出社してきた。
あれ?かなえちゃんやたらテンション高いな?
昨日は体調不良で休んでたのに…やっぱり池田が無茶なプレイでもしたのか?
「おはよう、かなえちゃん。もう体は大丈夫なのか…ゴフッ!」
かなえちゃんの肩を叩き、体調が良くなったか聞こうとした瞬間、鳩尾に衝撃が走った。
腹を殴られ崩れ落ちるオレ。
倒れたオレを睨みつける池田。て、てめぇなにしやがる!
「静馬ぁ…てめぇ身重のかなえに何するつもりだ!変なことしやがったらぶん殴るぞ!」
も、もう殴られてるぞ。………なんで殴られたんだ?
「あなた!急になにするの!すみません先輩、大丈夫ですか?」
慌ててオレを抱き起こしてくれるかなえちゃん。
「お、おいかなえ。そんな大声出したらお腹の子供に…」
「あなた!急に殴るなんてなに考えてるの!これはお仕置きね。
……熱いのと冷たいの、どっちがいい?」
「ちょ、かなえ違うって!静馬のヤロウがかなえに手を出そうとしたからだな…」
「手を出そうとしたって…肩を叩こうとしただけじゃないの!
…そうね、今夜は両方しちゃいましょうね?」
ガタガタと震えだす池田。ざまぁみろ!急に殴って来るからだよ!
ところで前から思っていたんだが…池田ってわざとお仕置きされるような事してないか?
実はお仕置きされるのが好きなんじゃないのか?こいつ…Mだったのか?だとしたらかなりの
真性だな。
しかしなんで肩を叩こうとしただけで殴られなきゃいけないんだ?
だいたいお腹の子供ってなんだよ!……あれ?確かにお腹の子供って言ったよな?
…ええ!ということは?
「お、お前等、まさか…出来たのか?」
赤い顔して頷くかなえちゃん。池田は頭をボリボリと掻いている。
「…マジで?出来ちゃったの?」
再度の問い掛けに嬉しそうにお腹を撫でるかなえちゃん。
「…三ヶ月です。やっと子供が出来ました」
「すまんな静馬。かなえに触ろうとしてたから、つい殴っちまった。
大事な体だから仕方ないよな?かなえの体にはもう一人の命が宿ってるんだからな」
赤い顔して照れながら話す池田。
そうか…こいつ等ついに出来たんだな。
かなえちゃん、子供が出来ないってずっと悩んでたもんな。
「昨日会社を休んで病院に行ってきたんです。ついにあたしにも…ぐすん」
今までのことを思い出したのか、涙ぐむかなえちゃん。
そんなかなえちゃんを池田がそっと抱きしめた。
「かなえ…ありがとな。俺なんかの子供、身籠ってくれて…俺、お前等を絶対に幸せにするよ」
「直樹…うれしい、愛してるわ!」
なんて感動的なシーンなんだ!…ここが職場じゃなければな。
オレ達職場全員の視線を浴びながらも抱きしめあう池田夫妻。
こいつ等…バカップルだったのか?


「ただいま〜。彩、今帰ったぞ〜」
ふぅ〜、疲れた。仕事もしんどかったが、二人に惚気話を聞かされたのが堪えた。
「お帰り拓にぃ!…チュッ」
小走りに走ってきて抱きつきキスをしてきた彩。あぁ…癒されるなぁ。
「ん?拓にぃどうしたの?なんかすっごく疲れた顔してるよ?」
元気のないオレの顔を見て、心配してくれた。お前はなんて優しいんだ!
「彩、お前は聞いているのか?かなえちゃんが妊娠したんだと。で、池田夫妻に惚気話をずっ
と聞かされてたんだよ。
なんで今さら出会いから結婚、新婚生活の惚気話を聞かされにゃいけないんだ?…ホント疲
れたよ」
思い出しただけでドッと疲れがでてくる。
そもそも出会いといってもオレも一緒にいたから知ってるんだよ!
「え?先輩も妊娠したの?よかったぁ〜、先輩だけ仲間はずれになるんじゃないかって心配し
てたの」
パチパチと小さく手を叩く彩。…か、かわいいじゃねぇか。
「明日にでも役所に妊娠の届出をしに行くって言ってたな。早く母子手帳が欲しいんだと」
「へ〜、じゃ、アタシも一緒に行こうかな?アタシも母子手帳欲しいしね」
赤い顔して話す彩。なんでお前が照れるんだ?
「ははは、お前がそんな物貰ってどうするんだ?それより風呂沸いてるのか?
疲れたから風呂でゆっくり疲れを癒したいんだよ」
「……沸いてるから勝手に入ったら?」
オレの言葉にムッとした顔になり、ドシドシと台所へと歩いていく彩。
なんだ?急に機嫌が悪くなったぞ?オレ、なにか変なことでも言ったのか?
よく分からんな…ま、いいや。風呂に入って疲れを癒すか。
体を洗い湯船に浸かる。あぁ気持ちいい…彩、入ってこないかな?
怒ってるみたいだから入ってこないよな。なんで怒りだしたんだ?
母子手帳が欲しいとか訳の分からんこと言い出すし………え?ま、まさか!
「あ、彩!お前まさか、に、にんし…ぐほおっ!」
慌てて湯船を飛び出して、料理を作っていた彩に素っ裸のまま詰め寄った。
悪かったよ。確かに急に裸で詰め寄ったオレも悪い。
しかしな…なんで急所を的確に蹴り飛ばすんだよ!
急所攻撃で悶絶するオレ。い、いてぇよぉ〜。そ、それより妊娠したかを聞かないと…
「あ、彩、お前にんし…うごあ!!」
彩に顔を向けたオレの視界に飛び込んできたものは『死ねヘンタイ!』という叫び声と川田利
明なみの顔面蹴りだった。
薄れいく意識の中、子供は男がいいと思った。女の子で彩に似たら育てるのに大変だ。
我が家に…お転婆は……一人で………いい…がふっ!


「え〜では、オレ達三組の夫婦が揃って子供が出来たという事を祝って…乾杯!」
拓にぃの音頭でグラスを合わせる。
今日はアタシ達三人に子供が出来たお祝いで、池田さんと拓にぃのおごりでちょっとした居酒
屋パーティーをしている。
アタシもついに妊娠することが出来た。やっと拓にぃの子供を産めるんだ…うれしいよぉ。
でもアタシだけじゃなく、先輩も妊娠してたなんてビックリしたわ。
「ねぇますみ、あたしの子供が男の子だったら、かなちゃんをお嫁にちょうだいね?」
あ、先輩ずるい!かなえちゃんはアタシの娘にするんだからね!
「ダメですよ!かなえちゃんはアタシの子供と結婚するんだから!
それに先輩と同じ名前じゃないですか。親子で同じ名前ってややこしくないですか?」
「う〜んそれもそうね。じゃ、二人目をもらおうかしら?ますみ、絶対に女の子を産みなさいね」
「二人とも気が早いわよ。まだ二人の子供が男の子って決まったわけじゃないんだから」
「「絶対に男よ!前からそう決めてるの!」」
アタシと先輩はますみの言葉にハモりながら答えてしまった。
思わず二人で顔を見合わせ笑ってしまう。そんなアタシ達を見てますみも笑い出した。
「ヒッヒッフ〜!ヒッヒッフ〜!…こうか?こうなのか?」
「直樹先輩、まだ練習するのは早いと思いますけど?」
笑うアタシ達をよそに、池田さんが綾崎にラマーズ法の呼吸方法を聞いている。
プッ、子供が生まれるのまだまだ先なのにね。
「バカヤロウ!明日にでも陣痛が始まったらどうするんだ!ヒッヒッフー!こうか、綾崎君?」
……拓にぃまで練習してる、恥ずかしいよぉ。
「ちょっと違いますね。こうですよ、いいですか?ヒッヒッフ〜、ヒッヒッフ〜」
「おお、なるほど!いや〜頼りになるな、流石は綾崎君だ」
拓にぃに褒められて照れる綾崎。池田さんは無視して必死に練習してる。
なんか三人を見てたら胸がじわ〜ってしてきた。…う〜ん、これが幸せってやつなのかな?
「ん?彩、どうしたの?胸を押さえて…大きくなるのはまだ先よ」
…うっさいのよますみ!失礼な勘違いしてんじゃないわよ!
「違うわよ!なんかあの三人を見てたら胸がじわ〜ってしてきて…これが幸せなのかなって」
「ふふふ、あたしも彩と同じ事を考えてたわ。…あたし達ってとっても幸せね。
妊娠をこんなに喜んでくれる人と一緒になれて…本当に幸せだわ」
先輩の言葉に頷くアタシとますみ。胸だけじゃなく体中がじわ〜っとしてきた。
あぁ…すっごく幸せだわ。そっとお腹に手を添え撫でてみる。
ふふふ…あなたもアタシ達みたいに大事な人を見つけれるのかな?
「…や。おい、彩どうした?」
いっぱい…いっぱい幸せになろうね。だから元気な子に産まれなさいよ〜、じゃないとフェイス
ロックだからね!
「気分でも悪いのか?さっきからなにも食ってないじゃないか。たくさん食って栄養をつけないと
…」
あなたが男の子だったらいろんな技教えてあげるわ。男は強くなきゃね!
女の子だったら…料理をみっちりと鍛えこんであげる。男を落とすには手料理が有効よ。
「ホントにどうしたんだ?お腹を押さえてニヤニヤと…大丈夫なのか?」
ロックに興味があるんならギターのひき方教えてあげるね。あ、そうだ、あなたの為に1曲書い
てあげようかな?
親子でライブするっていうのもいいかもね?……ってさっきから耳元でうるさいのよ!
「さっきから耳元でうっさいのよ!邪魔すんな!」
さっきからうるさい男に右、左と左右のワンツーエルボーを食らわせる。
顎を捉えた左右のエルボーでフラフラになっている邪魔男にトドメの一撃を入れる。
体を回転させ勢いをつけてのエルボー!
これぞエルボーの貴公子『三沢光晴』の得意技、ローリングエルボーよ!
グシャリ!と手ごたえバッチリに決まったわ!…あれ?なんかこの感触、覚えがあるような?
嫌な予感がして足元を見る。…拓にぃが泡ふいて倒れてたわ。
周りを見てみる。……みんなの視線が痛い。
そっとお腹を撫でてみる。…早くあなたとタッグを組んで拓にぃとプロレスゴッコしたいな。
拓にぃやられるフリ上手いからすっごく盛り上がるよ?だってほら、泡まで吹いてくれてるんだ
よ?
やられたフリをしてくれているはずの拓にぃは、邪魔だからと池田さんに部屋の隅に持って行
かれた。
運ばれていくときまで手をだら〜んとさせるなんて……拓にぃってホントに演技上手よね!
ああ〜、早くあなたと会いたいなぁ〜。一緒に拓にぃに技を決めようね?
うふふ…すっごく楽しみ!オリジナルを考えなきゃね!
泡を吹いたままの拓にぃを眺めながらお腹を撫でる。
あなた達の為ならアタシ、なんだってするわ。だから三人で幸せになろうね!
幸せへの第一歩として、まずはどうやって拓にぃと仲直りするかよね。……どうしよう?
アタシはお腹を撫でながら頭をフル回転させ始めた。




「彩…あなたの子供が男の子である事を祈るわ」
「先輩、わたしもそう思います。彩そっくりな女の子がもう一人いたら、静馬さん確実に死にます
からね」




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