「おう、いらっしゃい、話はシーリスから聞いてるよ。桃子に恋の相談だって?
お前勇気あるなぁ…まぁここじゃなんだから、部屋に上がれよ」
…いきなり不安になりましたわ。
やっぱり神楽姉さまに相談なんて間違いなんじゃないんですの?
部屋へと通される私。神楽姉さまはリビングにいて写真を眺めていましたわ。
「お邪魔しますわ。神楽姉さま、今日はわたしの相談に乗ってほしいんですの」
「じゃ、オレは外でパチンコでもして時間を潰しとくわ。
桃子、レイリアちゃんは真剣な悩みらしいから、しっかり考えて答えてあげるんだぞ?」
そう言って部屋を出て行った江口おじさん。パチンコって…ホントにおじさんですわね。
もしかしたら加齢臭が出てるんじゃないんですの?
「…レイリアちゃんいらっしゃい。話はシーリスから聞いてるわ」
アルバムを閉じ、私と向き合う姉さま。ちょ、ちょっと怖いですわね。
「単刀直入に聞きますわ。姉さまはどうやって江口おじさんを物にしたんですの?
12年もの歳の差をどのように埋めたんですの?レイリアにも教えてくださいませ!」
「…私は特別なにもしてないわ。私がしたことといえばただ江口さんを信じて待っていただけ。
江口さんがいない間もずっと好きでいただけ。ただそれだけよ」
…はぁぁ、やっぱり無駄足でしたわね。こんな事だろうと思ってましたわ。
予想通りの結果にため息を吐く私。
そんな私に神楽姉さまが真っ直ぐな瞳で私を見つめ、話し出しましたわ。
「…ねぇレイリアちゃん。あなたの想いは相川君に届いてるの?」
ど、どういうことですの?私の想いが健一さまに届いているかですって?
「そ、そんなの届いているに決まってますわ。私は6年もの間、ずっと健一様一筋ですのよ?
健一様もそれは知っているはずですわ。なにを言うんですの、お姉さまは?」
やはりダメですわ、この人全然役に立ちませんわ。
何故シーリス姉さまはこんな人に相談しろなんて言ったのかしら?
「…想いが届いているのなら相川君は真剣に答えてくれるはず。
それがYesなのかNoなのかは分からないわ。
あなたは相川君から真剣な言葉を聞いたことがあるの?」
…え?健一様からの真剣な言葉?そ、それはもちろんある…あるはずですわ!
そうですわね、あれは…え〜っと…ん〜っと…ひっ、あ、あれですわ。
ひっく、私が、ぐす、忘れて…ひ、ひぇぇぇん!
「か、神楽姉さまぁ、わた、わたくしは健一さまに一度も、ひっく、真剣な言葉を…うわぁ〜ん!」
き、きら…嫌われてますわぁぁぁ!健一さまに私、嫌われてるぅぅ〜!
「…泣かないで。レイリアちゃん、きっと大丈夫よ。
私も江口さんに想いが届くまで時間がかかったわ。
私も江口さんには子ども扱いされていた。いいえ、娘のように思われていたわ」
「…ひっく、ではどうしてお付き合いできるようになったんですの?
12歳も離れているのに、どうして恋人同士になれたんですんの?」
「…私の想いが伝わって、江口さんが真剣に私のことを考えてくれたからだと思うの。
レイリアちゃんも相川君に想いを伝えないと始まらないわ。
相川君ならきっと真剣に考えてくれる。
中学時代に相川君がいなかったら私達はクラスの皆から仲間はずれにされてたと思うの。
相川君は周りをよく見てくれてて、私達が気づかないうちにクラスの皆と仲が悪くならないように
と行動してくれたわ。とても優しい相川君…レイリアちゃんの好きな人はとても素敵な人よ。
頑張ってね」
はぁぁぁ〜…お姉さまぁ、桃子お姉さまぁ。
レイリアは…レイリアはお姉さまが大好きになりましたわ!
「…桃子姉さま、有り難うございます!私、なんだかやれそうな気がしてきましたわ!
なにが8年の歳の差、ですわ!そんなもの吹き飛ばしてあげますわ!」
そうですわ、そうなんですわ!愛に歳の差なんてありませんわ!
「…レイリアちゃん頑張って。相川君はきっと答えてくれるわ」
桃子お姉さまぁ…あぁ、なんてお優しい人なんですの?優しいお姉さま大好きですわ!
「お〜い、話はもう終わったのか?」
…なんですの?人がせっかく感動に浸っているのに…おじさんは空気が読めませんわ。
「…なんでオレを睨むんだ?ま、いいや。車で部屋まで送らせるから駐車場まで行きなさい」
「いいですわ。迎えが待ってるはずですので結構ですわ」
「ああ、あの美人さんと大男か?あの人達は帰したぞ。いいから駐車場に行って送ってもらえ」
強引にわたしを部屋から追い出す江口おじさん。
なんですの?私はまだ桃子お姉さまとお話をしたいですわ。
だいたい榊と長尾を帰したって…この車ですの?う〜ん、安物のニオイがしますわね。
こんな車に乗るなんて…け、健一様!
「江口さんの命令だから送ってくよ。はぁぁ…運転中は何もするなよ?
事故なんてイヤだからな!」
こ、これは…ナイスですわ!江口おじさまありがとう!
健一様と夢にまで見たドライブデート…ぶふ!
「お、おいおい、なんで鼻血出すんだよ?…はぁぁ、憂鬱だなぁ」
お、落ち着いて、落ち着くんですの!静まりなさい、私の心臓!
桃子姉さまに言われたように、まずは私の気持ちを伝えなくてはなりませんわ。
健一さまに想いを真剣に伝えようと決めた私。…勝負下着を穿いてくればよかったですわ。
(はぁ〜、それにしてもついてないよなぁ〜。なんでレイリアを送っていかなきゃいけないんだ?)
借りていた車を返しに来たらいきなり「レイリアちゃんを送っていけ!」だもんなぁ。
失恋したばっかりなのに、その子と瓜二つの女の子を送らせるなんて…
江口さん、おれをからかってるのか?
「…け、健一様、お願いがありますの!」
はぁぁ、ほらきた。今度は何だ?
またこの紙にサインしてほしいとかいって婚姻届を渡すつもりだろ?
まだ結婚できない歳なのに、コイツは馬鹿なのか賢いのかよく分からないんだよな。
「…なに?おれになにをさせたいの?悪いけど今日のおれ、ちょっと機嫌悪いんだよ。
だからいつものふざけたお願いだったら怒るからな」
いつものおれじゃないことにちょっと驚いた顔を見せるレイリア。
なんでそんな顔までそっくりなんだよ!
「…わ、分かりましたわ。え〜っとですね、あの…その…」
なんだ?赤い顔してモジモジと…はっは〜ん、そうか、そうだったのか。
「…そこのコンビニでいいだろ?さっさとトイレ済ましてこいよ」
レイリアも女の子だからな。トイレに行きたいだなんて、そりゃ恥ずかしいよな。
「な?ち、違いますわ!何を言うんですの!私はそんなこと少しも考えてませんわ!」
真っ赤な顔になり文句を言うレイリア。ホントそっくりだよなぁ。
ん?携帯が鳴ったぞ?いったい誰だ?
「ああ、ちょっと待ってくれ。携帯が…誰だ?あれ、江口さん?
さっき別れたばかりなのにいったいなんだ?」
とりあえず車を止めて江口さんからの電話に出てみる。
レイリアはため息をついて肩を落としている。なんだ?そういやおれに何をさせたかったんだ?
「あ、江口さんですか?なんか用事でもあるんスか?」
『デート中に悪いな。いやな、お前がレイリアちゃんをホテルに連れこんでないかと思ってな』
「はぁ?おれがレイリアをホテルに?はははは!そんなのありえないっしょ?
で、何のようです?」
ホント江口さんってくだらない冗談を言うよな。神楽はどこがよくて付き合ってるんだ?
おれの隣でガックリと肩を落とすレイリアを無視して話す。
『いやな、昨日一緒に釣りに行こうって話したろ?今日、今から湖に下見に行って来い。
ちなみにこれは命令だから。もし命令を拒否したらお前の秘密をバラすぞ?』
「ひ、秘密ってなんすか?おれの何を握ってるんすか!」
『それはだな…むっふっふっふ。聞きたいか?』
「い、いいです。恐ろしくて聞けません!」
あれか?あれなのか?あれは違うぞ!
たまたま宅配で買ったお徳用DVDにホモビデオが入ってたんだ!
おれはホモじゃない!断じて違う!…信じてくださいよぉぉ〜。
「相川健一、ただいまより釣りの下見に行ってきます!…はぁぁ」
ため息を吐き携帯を切る。
江口さん、なんでいっつも無茶を言ってくるんだよ…おれを何だと思ってるんだ?
とりあえずレイリアを送ってから行くか…めんどくせぇなぁ。
だいたい下見ってなんだよ!あんなとこ下見なんて行く必要ないだろ?
そうだ、江口さんには行ったことにして、どこかで時間潰すか?
…ん?江口さんからメールが?…証拠写真送ってこいだとぉぉ?
コイツ、いつか不意をついてブチ殺してやる!
「…健一様、いったいどうなさいましたの?肩を落とされて、なんだか元気がありませんわ」
お前こそなんだ?暗い顔しててレイリアらしくないぞ?
「んん?江口さんからの無理難題の指令で、今から湖に行かなきゃ行けないんだ。
めんどくせぇぇ〜!」
「み、湖ですか?い、行きたいです!レイリアも連れて行ってくださいませ!」
…ほら、めんどくせぇ。
一人じゃ寂しいし、コイツと行ってもいいけど、レイリアはすぐに暴走するんだよなぁ。
ジト目で睨む。う〜ん、どうしよっかなぁ?
「そ、そんなにレイリアといるのはイヤなんですの?
レ、レイリアは、健一さまに嫌われて…ひっく、ご、ごめんなさい。
ひっく、キライにならないでぇぇ〜!」
「わ、わわ!泣くな!分かったから泣くなっての!…しょ〜がねぇな、連れてってやるけど暴走は
するなよ?もし暴走したらお前を置いて帰るからな」
おれの言葉に嬉しそうに頷くレイリア。お前、泣いてたんじゃなかったのかよ!
「…これでいいのか?オレもあの二人がくっつくのは賛成だが、
無理やりってのは健一が可哀想だろ?」
桃子から頼まれて健一に無理やり指示を出した。うまくいくのかねぇ。
「…違うわ。6年間もずっと想い続けてるレイリアちゃん方が可哀想だわ。
今回は相川君にレイリアちゃんはシーリスじゃないと気づいてもらえればいいの。
…待つのはとても辛いの。私も毎日泣いていたからレイリアちゃんの気持ち、とても分かるの」
桃子…オレは思わず桃子を強く抱きしめてしまった。
初めての健一様とのドライブデート。
車を運転する健一様のお顔といったら…なんて凛々しいんでしょう!
凛々しいお顔を眺めながらの二人でのドライブ。あぁ、夢のようですわ!
健一様も私との会話を楽しんでくれているようですし…これはいけるんじゃないんですの?
途中のサービスエリアという場所で休憩を取りながら2時間かけて目的の湖に着きましたの。
あぁ…夢のようですわ。まさか健一様とこのような場所に来れるなんて。
これも全ては江口おじさまのおかげですわね。
「やっと着いたな。じゃあ写メを撮って…と。よし、これで帰れるな。
レイリア、用も済んだしさっさと帰るぞ」
…はい?ちょ、ちょっとそれは酷すぎですわ!
これから一緒にボートに乗ったりいろいろしたいですわ!
ボートでキスしたり、湖畔でキスしたり、湖に沈む夕日を見ながらキスしたり…
キスをするまでは帰れませんわ!
「健一様、それは酷いですわ!
私はずっと健一様とこのようにお出かけする事を夢見てたのに…酷いですわぁぁ」
「お、おい、こんなとこで泣くなって!
…しゃーねぇな、1時間だけだぞ?1時間だけここで遊んだら帰るからな」
「1時間?それは少なすぎますわ!せめて4時間は健一様と一緒に湖を楽しみたいですわ!」
4時間もあればキスには持っていけますわ!
「4時間?そんなにいれるか!おれにはバイトもあるんだ、夜までに帰らなきゃいけないんだ。
帰りの時間を考えて…よくて2時間だな、それが限界だ。
それが嫌ならお前一人でここに残れよ」
「一人でって…ひ、酷いですわ。レイリアは健一様と、グスン、やっと二人での…ヒック」
冷たいですわ!健一様冷たすぎますわ!
「あ〜、ゴメンゴメン。そうだよな、ちょっと酷い事言っちゃったよな。
ゴメンな、今日はおれ、ちょっとイラついててな。ホントゴメンな」
泣きじゃくる私を優しく撫でてくれる健一様。あぁ、なんてお優しいんですの?
「先ほどもそのような事を仰ってましたけど、なにがあったんですの?
レイリアが力になれるならなんでもしますわ!」
私の言葉にポリポリと顔を掻きながら話し出す健一様。なにがあったんですの?
「いやな、ちょっと失恋してな。いや、失恋じゃないよな?告白も何もしてないんだからな」
え?失恋?健一様が失恋した?ということは…シーリス姉さまを諦めたんですの?
「ま、もとから勝ち目が無い相手だったからな。
おれが好きになるにはレベルが高すぎたんだよ」
ガックリと肩を落とし、ため息を吐く健一様。何を言っているんですの!
健一様は最高なお人ですわ!
「そ、そんなことありませんわ!
確かにシーリス姉さまは凄く綺麗で優しくて、素晴らしいお姉さまですわ!
けど健一様もとってもお優しい、迷子の私を助けてくれたヒーローですわ!」
手を力いっぱい握り締めての私の言葉に目が点になる健一様。
うふふふふ、ドサクサに紛れて手を握りましたわ。
この手はしばらくもったいなくて洗えませんわね。
「ちょ、ちょっと待て!どこで聞いた?いったい誰に聞いたんだよ!
おれがシーリスが好きだったと誰に聞いたんだ!
江口さんか?江口さんが喋ったのか!あのヤロウ、ぶっ殺してやる!」
私の肩を掴み力いっぱいに揺する健一様。あ、頭がふらつきますわ。
「健一様、違いますわ!私が知ったのは昨日、釣堀でお会いした後に行った公園でのデートの
時ですわ。健一様、姉さまのお話をされる時はすっごく嬉しそうなお顔をしていましたのよ?
私、それを見て分かりましたの。健一様はお姉さまが好きなんだって。
…とても悲しかったですわ。
せっかく一緒にいるのに、健一様はレイリアではなくシーリス姉さまを見ているんですもの。
いくら私が姉さまと似てるからといって、姉さまの代わりにされては悲しいですわ」
驚きの顔を見せる健一様。私が気づいているとは思っていなかったんですわね。
「そうか、おれ、顔に出てたのか。
ははは、ゴメンな、なんかお前をシーリスの代わりにしてたみたいでさ。
実はな、自分でもシーリスが好きだったって気づいてなかったんだよ。
けどな、シーリスそっくりに成長して、綺麗になったお前を見て気づいたんだよ。
おれ、まだシーリスの事好きなんだって。実はな、おれの初恋の人ってシーリスなんだぜ?」
え?健一様の初恋はシーリス姉さま?く、くぅぅぅ〜…
「…く、悔しい、悔しいですわ!何故私は健一様と同い年に生まれる事が出来ませんでしたの?
8年もの歳の差があるから女として見てもらえない…悔しいですわ!悔しいですわぁぁ〜」
せっかくの健一様と楽しい一時になるはずだったのに…
感情を爆発させてしまい、涙がポロポロと止りませんわ。
悔しくて悔しくて涙が止りませんの。そんな私を暖かい何かが包んでくれましたわ。
え?これはまさか…健一様が抱きしめてくれてるんですの?……ええええ!
泣きじゃくる私を優しく抱きしめてくれた健一様。
あぁ…夢でもいいですわ。もっと強く抱きしめてくださいませ!
(お、おれはいったい何をしてるんだ?なんでレイリアを抱きしめてるんだ?)
おれの前で悔しいと泣き出したレイリア。
そんなレイリアを見て体が勝手に動き、抱きしめてしまった。なんでだ?
「健一様ぁ…レイリアは、嬉しゅうございますわぁ」
火照ったような赤い頬、潤んだ瞳でおれを見つめるレイリア。
か、かわいいなぁ…ってそうじゃねぇだろ!これはヤバイ!
この顔はレイリアが暴走する時の顔だ!
「まさかこんなに早く健一様に抱きしめてもらえるなんて…はぁぁ、まるで夢のようですわぁ」
…あれ?暴走しないの?ウットリとした表情でおれの胸に顔を埋めるレイリア。
それよりレイリアって意外と柔らかいんだな。これが女の子の体なのか?
それにいい匂いがするし…っていかんいかん!いつまで抱きしめてるんだよ!
レイリアを離そうと両肩に手を置いた時、その小さい肩がフルフルと震えているのが分かった。
や、やっぱり暴走するんだな?やばいぞ、ここから逃げなきゃ貞操の危機だ!
「ひっ、う、うれし、ひっく…健一様に抱きしめてもらえるなんて、ひっく、夢でもうれしい…」
…ドキン!
な、なんだ?急に胸がドキドキしだしたぞ?
お、おかしい、おかしいぞ?なんでおれがレイリアにドキドキしなくちゃいけないんだ?
…はっは〜ん、そうか、そうだったのか。そりゃドキドキするよな。
よく考えたらレイリアは、おれが好きだったシーリスと瓜二つなんだからな。
そっかそっか、だからこんなにドキドキするん…ぶふ!お、お前何してるんだ!
おれの目の前で目を瞑り、唇を尖らせるレイリア。こ、これはキスをせがんでるんだよな?
やっぱり暴走しやがったか。にしてもこれはカワイイな。
こいつってシーリスに似てるだけあって、メチャクチャ可愛いんだよな。
「こら!調子に乗るのもいい加減にしろ!」
バチン!レイリアのカワイイ額に会心のデコピンをする。
「いぎゃ!ひ、酷いですわ!…おでこが割れるかと思いましたわ」
不意をついた攻撃に驚き、飛び上がるレイリア。ははは、そんな行動もカワイイな。
「お前が調子に乗ってるからだろうが!」
もう一度、今度は軽くデコピンをする。
「お前今、暴走したろ?約束通りお前を置いておれは帰る。達者で暮らせよ、じゃあな」
やばいやばい。おれ、まだシーリスを吹っ切れてないんだな。
今の状態でシーリスそっくりなコイツに迫られたりしたら大変な事になるぞ!
「え?えええ?け、健一様、酷いですわ!せ、せめて一緒に写真だけでも撮りたいですわ!」
ちくしょー、昨日あんだけ泣いたから忘れる事ができたと思ってたんだけどな…
そう簡単にはいかないか。
「お、お待ちになって!お願いですわ!せめて一緒に写真を!」
行きしなに買ったのか、使い捨てカメラ『撮っちゃうんデス』を片手に必死の形相を見せるレイ
リア。
ははは、そんな顔してたら百年の恋も冷めるぞ?
「…写真だけだぞ?いいな、それ以外はしないからな!」
さすがにこれだけで帰るのは可哀想な気がしてきた。
行きの車の中で、あれだけ嬉しそうにしてたんだ。ちょっとはサービスしてやるか。
「は、ハイ!それはもう分かってますわ!では早速ボートに乗って二人のお写真を…」
「おいおい、写真だけって言っただろうが?なんでボートに乗らなきゃいけないんだ?」
「そ、それは、あれですわ!
あの…え〜っと…んとですわね、そう!湖の上で撮りたいんですわ!」
「なんか取ってつけた様な理由だな。ま、いいや。時間もあまりないし、さっさと行くぞ!」
あの後ボート遊びだけでは済まず、結局いろいろと連れまわされてしまった。
…正直な話、結構楽しかった。ああ、そうさ!レイリアと二人で遊んで楽しかったさ!
けどそれは…おれがレイリアをシーリスの代わりにしたからだと思う。
はぁ…おれ、やっぱりまだシーリスを引きずってるんだな。おれ、ホント情けないよなぁ。
クソ、誰かにこのイライラをぶちまけたいぜ!
…このことを相談できる人って江口さんぐらいしかいないよな。
はぁぁ…今日のバイトはサボろう。こんな気持ちじゃ働けねぇよ。
車を返しに行くついでに江口さんと飲むか?そうだな、それでそれでスッキリしよう!
「だいたい俊のヤロウが美味しいとこだけ持っていきやがったんすよ!」
クソが!こいつ完璧にタチの悪い酔っ払いになりやがった!
せっかく2人にしてやったのに、あんなカワイイ子を口説かなかったのか?
…冷静に考えたらレイリアちゃんは12歳か。そりゃ無理だよなぁ、手を出したら犯罪だしな。
「江口さん、聞いてるんすか?おれ、もう一生女なんて好きにならねぇっすよ!
神楽も食ってばかりじゃなくおれの話を聞けっての!」
「…ええ、聞いているわ。シーリスを諦めたと思っていたらやっぱり諦めきれていなかった諦め
の悪い話。相川君、レイリアちゃんとはどうなったの?」
おお!オレが遠慮して聞けないことをズバッと聞くなぁ。
さすがは遠慮を知らない桃子だ!かわいいぞ!
「へん!湖でちょっと遊んだだけっすよ。けどさすがにシーリスに似てるっすよね。
アイツはシーリスみたいだから一緒にいたらドキドキするんすよ。
はぁぁ〜、オレと俊が逆だったらなぁ。
今頃はシーリスとラブラブで…クソぉ!飲むぞ!焼酎おかわり!」
コイツ、今日は飲むなぁ…自棄酒なんざ体に悪いだけだぞ?
けど若いうちにこういう辛いことも勉強した方がいい。
その辛い分だけお前はいい男になれるんだよ。…顔は無理だけどな。
「朝は吹っ切れたと言ってたが、やはりそう簡単にはいかないか。
しゃーねぇな、今日はとことん付き合ってやるよ!」
グラスに残っているビールを一気に飲み干す。
「お?さっすがはえぐっさん!おれのアニキなだけはあるっすね!」
「お前も辛い立場だったんだな…親友の女に恋をした、か。
しかしお前まで俊や正吾なみに鈍感だったんだな。
よく今まで自分の気持ちに気づかなかったな?」
確かシーリスは中学時代に転校してきたんだよな?
それから高校大学と同じ進路を進んで…何年一緒にいたんだ?
健一よ、お前、鈍感すぎるにもほどがあるだろ?…ちょっと待て。なんかおかしくないか?
「おい健一。お前ホントにシーリスが好きだったのか?
よく考えたら今まで自分の気持ちに気づかないっておかしくないか?」
「は?何言ってるんすか?おれはシーリスが好きッスよ!…いや、好きだったんすよ。
レイリアを見たら昔のシーリスを思い出してドキドキするぐらいっすからね!」
それだ!なんか引っかかったのはそれなんだよ!
「オレにはいまいち理解できんのだが、好きな子がそばにいるのにドキドキせずに、
似ている子にドキドキするってのはおかしくないか?」
おかしいよな?どう考えてもおかしいよな?
「はぁ?なに言ってるんすか?シーリスが好きだからレイリアにドキドキしてるんすよ。
えぐっさんバカじゃね〜の?」
…こいつ完全なる酔っ払いに進化しやがった!
「おい桃子。ちょっと実験したい事があるからシーリスとレイリアちゃんをここに呼んでくれ。
オレの考えが間違ってなければ、健一の失恋話は今日で終わりだ」
オレの言葉に口からやきそばを垂らしながら首を傾げる桃子。
桃子お前、いくらなんでもそれは…カワイイ過ぎるにも程があるぞ?
「いきなり呼び出すなんていったい何よ!アンタ、分かってるんでしょうね?
アタシ、こっちに帰ってきてから一度も俊とラブラブしてないのよ?
そろそろ禁断症状が出そうだわ。
アンタにはレイリアの相談に乗ってもらった恩があるから来てあげた…あれ?
レイリアも来てるんだ。ねぇ桃子、今日の集まりってなんなの?アンタ、なに企んでんの?」
せっかくの俊との一時を邪魔する桃子からの呼び出し。
アンタが居酒屋に呼び出すなんて初めてよね?
何事かと思い来てみれば、レイリアまで呼出してんの?いったい何よ?
「お姉さまも呼ばれたんですの?桃子姉さま、いったいなんで私たちを呼び出したんですの?」
レイリアも理由を聞いてないみたいね。
いきなり電話が掛かってきて『今すぐここに来て。これは約束。約束は守らないとダメ』だもん
ね。
「…いきなり呼び出してゴメンなさい。こっちの部屋に江口さんと相川君がいるわ」
…はぁ?それがなんだって言うのよ?
相川がいると聞いて、レイリアは嬉しそうに鏡を見て自分の顔をチェックしてるけど…
なんでアタシが必要なの?
あ、そうかそうか。相川ってアタシのことが好きだったっけ?
なに?もしかして告白とかされんの?
きもちわる〜、どうせ江口さんのお節介なんでしょうけど、いい迷惑よね!
「まずはシーリス、部屋に入って」
はぁ?まずはって何よ?アタシになにさせるつもり?
桃子に言われるがまま部屋に入ると、江口さんと相川がいた。
「おお、シーリスおれにあいにきてくれたのかああ〜?すきだぞお〜」
うわ!コイツすごく酔ってない?きもちわる!
「おい健一、シーリスを見て胸がときめくか?ドキドキするか?」
「はぁ?アンタばかっすか?いまさらそんなのあるわけねーじゃねーか!
なんねんいっしょにいるとおもってんすか?
ひゃははは!これだからおっさんはだめなんだっての!」
うわぁ…やっぱりメチャクチャ酔ってるわね。関わりたくないわ、さっさと帰ろっと。
「オドレ調子こいてんなやゴラァァ!あとで痛い目あわしたるからの!
まあいいや。おい、桃子。次はレイリアちゃん入れてくれ。お前も入っていいぞ」
なに?江口さんはいったい何をしたいの?
「シーリスもコイツの反応を見ててくれ。
もしかしたらコイツ、自分の気持ちに気づいてないだけかもしれん」
はあ?なんでアタシがそんなの見なきゃいけないの?
自分の気持ちに気づいてない?わっけわかんないわね。
「し、失礼しますわ。ああ!健一様、いったいどうされたんですの?
そんなにお酒を煽っては体に毒ですわ!」
レイリアったら赤い顔して…我が妹ながらやっぱりカワイイわね。
そんなに相川に会えたのが嬉しいの?
こんなにカワイイのに、なんで相川は付き合わないのかしら?
こんなカワイイ子がアンタを好きになるなんて奇跡、他にはありえないわよ?
…あれ?相川が急に大人しくなった?なんでだろ?不思議に思い、相川を見てみる。
顔が赤くなってレイリアを見つめている。なんで?
「健一よ、レイリアちゃんを見てどうだ?ドキドキするか?胸がときめくか?」
「え、ええ。やっぱシーリスに似てるだけあって、ドキドキしますね。胸が苦しくなります」
「シーリスを見たらどうだ?」
「だからさっきも言ったとおり、そんなの感じませんよ。それよりさっきから何やってるんすか?」
……はっは〜ん。なるほどなるほど、そうだったのね。やっと江口さんの考えが分かったわ。
レイリアを見たとたんに酔いが冷めたのか、質問に冷静に答える相川。
これでもうアタシは用無しね。
「江口さん、アタシはもういいでしょ?帰るわよ?…レイリア、おめでとう、よかったわね」
アタシの言葉が何を意味するのか分からずに、キョトンとしてるレイリアのおでこにキスをして
部屋を出る。
まったく江口さんも物好きね。
アタシと俊だけでなく、レイリアと相川もくっつけようとするんだから。
けど相川もやっぱり俊の親友よね、ヘンなとこで鈍感なんだから。レイリアも苦労しそうね。
ふふふ、好きだと思ってる人を見てもなんともなくて、その人と似てる人にドキドキする。
なに勘違いしてんのよ。
アンタが本当に好きなのはアンタの心臓がはっきりと言ってるじゃない。
いい加減気づきなさいよ?じゃないと時間がもったいないわよ?
アタシは時間を無駄にしないため、愛する俊の待つ部屋へと急いで帰ることにした。
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