涙目の女が道場にへたり込み、俺をキッと睨みながら肩で息をしている。
乱れた体操服から覗く、ピンクの下着が色っぽく……ないな。
そもそもコイツにブラは必要なのか?押さえ込んでもあまり胸の感触を感じなかったぞ?
これは役得だと考えていたのだが……本当に面倒なだけだな。

「はぁはぁはぁ……ひ、酷いよ。
か弱い女の子に、こんな酷いことするなんて……これは事件だよ!婦女暴行だよ!
秋山さん、私が訴えたらきっと捕まるよ?」

 コイツ……あれだけ極めてやったのに、まだ減らず口を叩けるのか?

「ほぉ……驚いたな、まだ余裕があるのか。これならまだまだ出来そうだな」
「あんたオニだよ!か弱い女の子をケチョンケチョンにして喜ぶなんて……もしかしてSなのか
な?」
「はっはっは!ヘトヘトになってもそれか!くっくっく……お前は面白い子だな。
減らず口を叩く暇があれば、シャワーでも浴びて汗を流して来い。汗臭いと男にもてないぞ」
「うっさいよ!何でモテないとか言うのかな?……私の繊細な心は傷ついたよ」

 ブツブツ文句を言いながらシャワー室へと歩いていく女。
繊細な心を持つ者は、自分でそうは言わないぞ。まったくあつかましい女だな。
美里様から頼まれて、寝技の稽古をつけてやったんだが……この女が勝てないだと?
コイツは俺が少し本気を出さなければいけないほどの実力者だぞ?相手はどんな女なんだ?
世の中には俺の知らない事が多いようだな。どんなゴリラと戦うつもりなんだ?
ま、いいさ。どうせ俺には関係がないことだ。さてと、掃除をするか。

 稽古を終えた後は必ず道場を掃除をする。これは俺が昔通っていた空手道場で叩き込まれ
た事だ。
もししなければとんでもない目に会っていた。今も思い出すだけで身震いする。
……恐ろしい人だったな、直樹先輩は。
直樹先輩か……懐かしいな。あの人と最後に会ったのは、館長の葬式だったな。
今、何をしているんだろうな。
あの人のことだ、どうせ人様に言えないような仕事をしているか、館長のように殺されたか。
ま、もう俺には関係のないことだ、二度と会う事も無いだろう。

 昔を思い出しながら道場を掃除する。
掃除も終わろうかという時に、わぁわぁ騒ぎながら女が走ってきた。

「た、大変だぁ!先輩が、西園寺先輩がぁ!」
「なんだと?美里様がどうした?何があったんだ!」

 よっぽどの事があったのか、下着姿で走ってきた女。美里様に何があったんだ!

「シャ、シャワーから出て脱衣所にいたら、
『も、もうダメ、やーくん苛めないで!こんな事されては死んでしまいま……はぁぁぁ!』
って先輩の泣き声が外から聞こえたの!
きっと青葉くんとケンカして、ひっどいことされてるんだよ!
このままじゃ先輩、殺されちゃうよ!」

 ……まったくあの2人は。まるで盛りの付いた猫だな、大人しく部屋ですればいいものを。
庭でSEXするなどと……後で説教をしなくてはな。

「ど、どうしたの?早く助けに行かなきゃ!
青葉くんってヘンタイっぽい顔してるから、ひっどいことしてると思うよ?
秋山さん、早く助けに行こうよ!」
「フッ、確かにアイツはヘンタイだな。
SEXするなら部屋ですればいいものを……屋外でするなどあの2人にはまだ早い。
後で俺から注意するからお前は気にするな」
「へ?せ、せっくすって?……うえぇぇぇ?そ、そうなの?……そ、そうなんだ」

 2人がSEXをしていたと聞いて、耳まで真っ赤になる女。
今時の高校生にしてはウブなヤツだな。
真っ赤になるほどウブなくせに、自分自身の格好はいいのか?

「あぁ、そうだ。だから安心してお前は着替えて来い。
お前も一応は女の部類に入る生き物だ、いつまでも下着姿でいるのは止めた方がいい」 
「ふぇ?下着姿って……うえええ?見、見るなぁぁぁ〜!」

 俺に言われるまで自分が下着姿だと気づいていなかったのか、女が叫びだした。
うるさい女だな、お前の下着姿なんぞ見たくもな……うおおお!

「貴様なにをする!……セイ!」

 慌てた女が放った目潰しを右手で払い落とし、正拳下段突きを下腹に食らわす。
ぐぇぇ、と呻き、崩れ落ちる女。あ、危なかった、もう少しで両目を潰されていたぞ。
迷いのない、スムーズな動きで目潰しにくるとは……この女、いったい何者だ?
しかし参ったな。つい反射的に拳を腹に入れてしまった。
このままにしておく訳にもいかんだろうし……本当に面倒だ。
上着を脱ぎ、倒れている女の下着を隠すようにかけ、抱き抱えて意識を確認する。
ふむ、気絶しているだけのようだ、これなら大丈夫だろう。
深刻なダメージではなさそうなので安心してホッと息を吐く。そこに慌てた裕彦が来た。

「秋山さん、ここに池田さんが来ませ……ん?うわあああ〜!あ、あんた何してんだ!」

 裕彦のヤツ、この女にSEXしているのを知られたから口止めにでも来たのだろう。
しかし何を騒いでいる?騒がしいヤツ……ち、違う!ヘンな勘違いをするんじゃない!

「池田さんを気絶させて何しようとしてるんですか!女の子を襲うなんて最低だ!
秋山さん、あなただったら大丈夫だと思ってお願いしたのに……見損ないました!」
「ち、違うぞ裕彦!これは誤解だ!俺は何もしていない!」
「ならなんで池田さんが下着姿で気を失ってるんですか!
あんたが襲うために気絶させたんでしょうが!」
「ば、馬鹿やろう!俺にも女の趣味というものはある!
なんでこんなヘンなのを襲わなきゃいけないんだ!」
「ヘンなのって……それは酷いんじゃないのかな?私も一応はうら若き乙女だよ?」
「うるさい黙ってろ!裕彦、落ち着いて聞いてくれ。これは事故だ。
わざとじゃないんだ、事故なんだ!」
「青葉くん違うよ。この人『ぐえへへへ、美味しそうな体だ、いっただきま〜っす』
ってルパンダイブしてきたんだよ。カッコいい顔してさ、ヘンタイさんだったんだね」
「う、うるさい!貴様は黙ってろ!
だいたい貴様が下着姿で……気がついたのならさっさと服を着て来い!」

 俺の腕から跳ね起き、ブカブカの上着を着て俺に向かって『ベぇ〜』と舌を出し、着替えに向
かう女。
クソが……もう少し強く入れておくべきだったな。

「なんだ、池田さん元気じゃないか。てっきり秋山さんが襲ったのかと思ったよ」
「裕彦……どの指がいい?今だけのサービスだ、4本折ってやる。さあ選べ」
「じょ、冗談ですよ。秋山さん、そんなに怒らないでくださいよ」
「フンッ、だいたいキサマが外でSEXするから悪いんだ!だからあの女に聞かれる。
するなら大人しく部屋でしていろ!外でして何かあったらどうするつもりだ!」
「ハイ、反省してます、ゴメンなさい」
「もういい!どうせあの女に声を聞かれたのを知り、慌てて追いかけてきたのだろう。
いつまでも美里様を一人にするな!お前が守るのだろう?ならしっかりと守らんか!」
「ハイ!分かりました!……ハハハ、秋山さんの慌てた顔って初めて見ましたよ。
新鮮な驚きでした」
「さっさと行け!指を折られたいか!」

 裕彦のくせに、俺をからかおうなどと10年早い!
俺は裕彦のケツを蹴り飛ばし、道場から追い出す。
裕彦にからかわれるとは……あの女のせいだ!
クソッ、あの女にペースを狂わされた!いったいなんなんだ!



「おおお!これが焼き鳥屋さんの焼き鳥なんだね!
食べに来るのって初めてだよ。秋山さん、ありがとうね」
「ぐっ、なにがありがとうだ!貴様が無理やり奢らせたんだろうが!」
「んっふっふっふ。だって秋山さん『ふじょぼーこー』したんだよ?
焼き鳥で示談成立って安いものでしょ?」
「なにが婦女暴行だ!貴様が目潰しをしてきたからだろうが!」
「目潰しの証人はいるのでしょうか?私のは青葉くんが見てたモンね。
じゃ、いっただきま〜っす!」

 いや〜、言ってみるもんだね。秋山さんが焼き鳥奢ってくれるんだって!
殴られて腹が立ったから婦女暴行だって言ってみたら、奢ってくれるって!
焼き鳥で口止めって、なんか安くないかな?……ま、いっか。
今日はお母さんも夜勤だし、ゴチになりまっす!

「まぁまぁ、そんなに怒んなくてもいいんじゃないのかな?
だって女子高生の下着姿を見たんだよ?秋山さんぐらいの歳だったら嬉しいんじゃないの?」
「俺はまだそんな歳じゃない!それに貴様の貧弱な体を見ても興奮せんわ!」
「あぁ〜!ひっど〜い!傷ついたよ!ガラスの心はバッキバキに傷ついたんだよ!
この傷を癒すためには……つくねともも、あとは手羽ってのもくださ〜い」
「ふん!貴様はまだ色気より食い気だな。まぁいいさ、今日は奢ってやる。ドンドン食え」
「おおおお!さっすが秋山さん!だてに40歳を超えてないよ!」
「バカヤロウ!俺はまだ36だ!年寄りにするな!」
「ふぇぇぇ〜、私より20も年上なんだ?十分おっさんだね」
「こ、このクソガキ……ふん、まぁいい。お前はドンドン食って胸に肉をつけなさい。
お前には絶対的に胸の肉が足りてないからな」

 なんか気になる言い方だけど……ま、いっか。
秋山さんのお許しも出た事だし、どんどん食べるぞ〜!

「あらあら、こんなところでお会いするなんて、なにかと縁がありますわね?
池田さんもデートなんですの?こちらがお相手の方?……ずいぶんと年上ですわね」
「ぶふ!ラ、ラインフォード先輩?こ、こんばんわっす!」

 背後から名前を呼ばれたので振り向いてみると、この店には似合わない金髪美人が。
な、なんでラインフォード先輩がここにいるのかな?ビックリして焼き鳥ふきだしちゃったよ。

「なんで先輩がこんなところに?あ、そっか、せんせ……じゃなかった、彼氏と来てるんです
か?」
「池田よ、お前がこんな店に来てるなんて珍しいな。
まさか危ない事してるんじゃないだろうな?」

 私と秋山さんを交互に見ながら不審がってる相川先生。危ない事って何かな?

「おいおい、勘弁してくれ。貴様が何を勘違いしているかは知らんが、
こいつとは何の関係もない。晩飯を奢ってやってるだけだ」 
「あらあらあら……たかが西園寺さん使用人ごときが、健一様に『貴様』と言いましたの?
いい度胸をしてますわぁ。さすがは西園寺さんの犬だけありますわね。
無礼な口のきき方が飼い主そっくりですわ。犬の分際で無礼な口をきく者は、
二度とそのような口のきき方を出来なくしてさし上げま……ひぎゃ!」
「西園寺の使用人?……あぁ、どこかで見た人だと思ったら、確か…秋山さんでしたっけ?
学校ではよく会ってますが、こうして話すのは初めてですね。
相川といいます、よろしくお願いします」

 ラインフォード先輩に拳骨を落としながら挨拶をする相川先生。
すごいねぇ、あの先輩が頭を抑えて涙目だよ。なんか先生を尊敬しちゃいそうだよ。

「こちらこそ、よろしく。あなたのクラスには青葉裕彦がいます、
しっかり教育してやってください」
「ははは、分かりました。しっかりと鍛えてあげますよ。
そのかわり、今日の事は秘密という事にしてくれませんかね?」
「フッ、いいでしょう。貴方にはなにかと迷惑を掛けるかもしれませんからな、
秘密にしておきましょう」

 秋山さんに口止めをする先生。何を口止めして……あ、そうか!
先輩との仲って秘密だったんだよね。

「おお!ありがとうございます!おいレイリア、いつまで頭抑えてるんだ?」
「ひっく、酷いですわ。ひっく、健一様は婚約者を苛めて喜ぶヘンタイさんですわ」
「それがどうした?それよりさっさと食おうぜ、おれ腹へってたまらないんだよ」
「どうせ苛めるならベッドの上でしてくださいませ。レイリアはそっちの方が嬉しいですわ」
「いいから早く注文しろ。じゃないと食わせないぞ?」
「あん、健一様のイジワル!けどそんなイジワルな健一様も素敵ですわ」

 ……なんなんだろうね?先輩達から出ているバカップル臭は?
見てるだけで胸やけがする、甘ったるい感じがするよ。
秋山さんも同じみたいで顔をしかめてるし……これは早く食べて、さっさと出たほうがいいね。 
離れた席に着いた先輩達を見て早く食べようと決めた私に、秋山さんの呟きが聞こえた。

「ふん、今のうちに恋人ゴッコを楽しんでおくがいい。
すでに手は打ってある、それまで楽しむんだな」
「……なにが手を打ってるのかな?秋山さん、何のことなのかな?」
「子供は知らなくていい話だ。お前はたくさん食って胸に肉をつけなさい」
「なんか秋山さん、微妙にセクハラ発言してないかな?」
「減らず口はいい、さっさと食え。……ちょっと席を外すぞ。お前は勝手に食ってろ」

 セクハラ秋山は携帯片手に店の外に出て行った。
女の子をこんなところに一人にするなんて、マナーがなってないんじゃないのかな?
……今のうちにお持ち帰り分を頼んじゃえ!お母さん、何が好きなのかな?
う〜ん、めんどくさい!どうせタダだし全種類いっちゃおう!

 店の外に出て行った秋山さんは20分ぐらいして帰って来た。 
ふぅ〜、どうにかセーフだったね!持ち帰り分、ゴチになりまっす!
その5分後、店内に先輩の叫び声が響いた。
な、何が起こったのかな?先輩、大丈夫かな?



「フンフフフ〜ン、今日はたっのし〜い焼き鳥で・え・と。
うふふふ、お腹いっぱい食べていただいて、夜はレイリアを召し上がって……あぁ健一様!」

 顔を鏡でチェック!うん、今日もレイリアは綺麗ですわ。
これなら健一様の隣にいても大丈夫ですわね。
さ、早く席に戻って健一様の焼き鳥をふ〜ふ〜して冷まさないと……なんですの?あの女は?
化粧室から出てみると、健一様と私の愛の席に女がいましたわ。
まさか健一様の知り合いですの?
だとしたらマズイですわね、この秘密の愛がバレてしまいますわ。
教師と生徒の燃えるような禁断の愛。あぁ……切ない愛ですわぁ。
私は知られても全然かまわないのですけど、
健一様が嫌がって……んなああああああ〜〜〜!!!
だ、だだだ抱きついた?健一様に抱きつい……ふがああああああ!!!
キキキキ、キスした?私の健一様にキスを?……イヤァァァァァ〜〜〜!

「何をしてるんですの!わた、私の健一様にキスするなど!このドロボウ猫が!」

 女の胸倉を掴み、顔を叩く。私の目の前でキスするなどと、いい度胸をしてますわ!
ご褒美として、その惨めな一生を暗い穴の中で終わらせてさしあげますわ!

「ふ〜ん、これがあの鬱陶しいって言ってた女?
カワイイ子じゃないの、こんな子を捨てるなんてもったいなくない?」

 すて……捨てる?誰が?健一様が?……私を捨てる?この女は何を言ってるのです!

「ちょ、ちょっと待て!アンタいきなりなんなんだ?
いきなりキスしてくるなんて、何考えてるんだ!」
「いきなりも何も……今更照れる間柄じゃないでしょ?いったいどうしたの?
いつもの野獣のようなケンちゃんは何処に行ったの?……ま、いいわ。
いつものホテルで待ってるから。
じゃあね、金髪ちゃん。せいぜい安い焼き鳥でも食べておねんねしなさいな」

 私の手を払い除け、店から出て行こうとするドロボウ女。ま、待ちなさい!逃がしませんわ!

「ま、待ちなさい!あなたは健一様のなんですの!いったいなんなんですの!」
「待てレイリア!おれはこの人とは何の関係もない!」
「あらら、酷いこと言うのね。
いつもベッドでは『お前が一番だよ。早くあんな外人とは別れたいよ』って言ってくれるのに」
「が、外人?け、健一様がそんな事言うわけありませんわ!」
「『ホントめんどくせえ外人なんだよ。いきなり転がり込んできてさ、恋人面してんだぜ?
鬱陶しくて仕方ねぇよ。強制退去にでもなってくれねぇかな』とも言ってたわね」
「お前何言ってんだよ!誰がそんな事を言うか!」
「あははは、もう隠さなくてもいいじゃないの。
だってこの小娘を抱いたのだってお金目当てでしょ?
約束の車、いつ買ってくれるの?さっさとお金を引き出して買ってよね」
「お前さっきから何勝手な事を言ってるんだ!レイリア!こんなヤツの言う事、信じるな!」
「……イヤ、健一様が私を……イヤァァァァ〜〜!!パァン!」

 頭が混乱している。何がなんだか分からない。
これ以上話を聞きたくない私は、訳も分からず店を飛び出しましたの。
ただ健一様のお顔を叩いたのだけは覚えていますわ。
今でも残っている健一様の頬の感触。わ、私は健一様に捨てられてしまいましたの?
イ、イヤですわ。健一様に捨てられるなど……イヤァァァァ〜〜!
恐怖のあまり、私は逃げるように走り出しましたの。
……健一様から別れの言葉を聞きたくなくて、逃げ出しましたの。



「な、ななななにが起こってるのかな?先輩、泣きながら出て行ったよ?」

 突然現れた美人さんにキスされた先生。
それを見た先輩が先生の顔を叩いて泣きながら出て行った。
慌てて追いかける先生。こ、これはいわゆる……修羅場?

「フン、見たままだな。男が浮気をしていてその相手が乗り込んできた。
聞いている分だと、男の本命はあっちの日本人のようだな」

 へ?……うええええ?ウソだよね?相川先生が浮気?他に相手がいる?絶対にウソだ!

「それはないよ、絶対にウソだよ!だって先輩、先生のために一生懸命だったもん。
そんな先輩を裏切るような先生じゃないよ。きっと何かの間違いだよ!」
「男と女の関係はドロドロしてるもんだ。ま、経験のないお前には分からんだろうがな」
「うっさいよ!そういう秋山さんこそ経験なんてないでしょ?だってその歳で独身だもん。
相手がいないんだよね?空しい独り身なんだよね?」
「……貴様はいちいち癇に障る言い方をするな。
お前と一緒にするな、俺は今まで100人を超える相手と……何を言わせる!さっさと食え!
俺の用事は済んだんだ、お前が早く食わんと帰れん」

 ひゃ、100人?秋山さんってすっごいねぇ。お猿さんだったんだねぇ。
早く食べないと、私が食べられちゃうのかな?もしかして私、狙われてる?

「……貴様、今、なにか不快なことを考えてなかったか?
一言言っておく。俺は貴様に何の感情も持ってない!
いや、女のクセによく食うなとは思っているが……なんなんだ、この伝票は!」

 何気なく手に持った伝票を見て驚くおサル秋山さん。
あちゃ〜、お持ち帰りを勝手に頼んだのバレちゃったかな?ま、いっか。とりあえず食べよう。

「おじさ〜ん、つくねと、皮、あとももの追加お願いしま〜す!」
「ちょっと待て!いくらなんでも1万円越えるのは頼みすぎだろうが!
貴様には遠慮というものがないのか!」
「ちっさいねぇ……秋山さん、とっても小さいよ。カワイイ女の子とご飯食べてるんだよ?
いいとこ見せようとか思わないのかな?」
「き、貴様……本当に女なのか?遠慮というものを知らんのか?」
「さっきからなんで貴様とかお前とか言うのかな?
私にはお父さんがつけてくれた果歩って立派な名前があるんだよ。
名前で呼んで欲しいなぁ」
「もういい、黙って食え!貴様と話すとペースが狂う!」
「貴様じゃなくて、か・ほ」
「はいはい、アホよ、早く食え」
「んな?ひ、人の名前をからかうのってダメなんだよ!秋山さんサイッテ〜。見損なったよ」
「うるさい!さっさと食え!」
「名前は?呼んでくれなきゃ食べないよ?」
「はぁぁぁぁ〜……果歩、頼むからさっさと食ってくれ。俺はもう疲れた」
「まぁいいでしょ、そんなにお願いするなら食べてあげるよ。それにしても秋山さん、歳だねぇ。
あの程度の稽古で疲れるのってダメだよ?」
「貴様のせいで疲れてるんだ!」
「貴様じゃなくて果歩でしょ?」
「……果歩よ、頼むから早く食ってくれ。はぁぁぁ〜」
「あれ?ため息?もしかして秋山さん、私を名前で呼んで照れてるの?意外とウブなんだねぇ」
「お前の相手をして疲れているんだ!果歩、さっさと食ってしまえ!」
「あはははは、秋山さんって面白い人だったんだね、じゃ、いっただきま〜す!」

 私を見てため息を吐く秋山さん。あんまりからかうと怒られちゃうかな?
それより先輩達、大丈夫かな?秋山さんが言ってたように先生が浮気してたの?
それは絶対にないと思うんだけど……先輩、大丈夫かな?



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