「……ねぇやーくん、おかしいと思いません?」

 学校のお昼休み、屋上で美里さん特製の手作りハンバーグ弁当をパクりと頂く。
……うん、とっても美味しいよ!美里さん、料理の腕をますます上げたね?

「なにがおかしいの?このハンバーグ、とっても美味しいよ?」
「もう!ハンバーグの事じゃありません!……秋山の事ですわ」
「秋山さん?う〜ん、確かに少しおかしいよね。
秋山さん、ボーっとしちゃっててホントどうしたんだろ?」

 美里さんが言うように、最近秋山さんの様子がなんかヘンなんだ。
本人は気づいてないようだけど、よく思い出し笑いをしてて何だか気味が悪い。
時々サイフから何かを取り出し、それを見てニヤついてるし……どうしたんだろうね?

「少し思い当たる点があるんですけど……やーくん、聞きたい?」
「ん?なに?なにが思い当たるの?みーちゃん教えてよ?」

 教えてとお願いする僕を見て、ニヤリと微笑む美里さん。
なんでそんなイジワルな顔をするの?

「ん〜?教えてほしいんですの?どうしようかな〜?」

 人差し指を顎に当て、どうしようかなとイジワルな笑顔で話す美里さん。
この笑顔は……簡単に教える気はないんだね?なら無理にでも話させてあげるよ!

「みーちゃんヒドイよ、そこまで言って教えないなんて!
……なんてイジワルな口なんだ、そんな口は開けないようにしてあげるよ!」
「きゃ!ちょっとやーく……んん!」

 イジワルのことをいう可愛い唇をキスで塞ぎ、下半身に手を這わす。
慌てて太ももを閉じ、抵抗をする美里さん。
なぜか抵抗される方が燃えてくるんだよね。……今日はたっぷりと苛めてあげるよ!
逃げようとする美里さんをギュッと強く抱きしめて動けないようにする。
そして舌で唇をこじ開けて、美里さんの舌を絡めとる。
くちゅくちゅと舌を動かしながら唾液を送り込み、ぴたりと閉じている太ももを愛撫する。
しばらくすると抵抗する力が弱くなり、美里さんも僕を抱きしめてきた。

「ん、んくぅ……やーくぅん、こんなハレンチな…んあ!
ダ、ダメですわ!お願い、ヤメ……ふぁぁ〜!」

 トロンとした目で文句を言ってくる美里さん。
その隙を突いて下半身を攻めていた手を下着の中へと進入させる。
下着の中はすでに滑っていて、少し動かすだけでくちゅくちゅとイヤらしい音がした。

「みーちゃんが素直に教えてくれないからでしょ?
これはお仕置きなの、イジワルなみーちゃんへのお仕置き。
みーちゃん、自分で分かるかな?もうこんなに濡れちゃってるよ?」
「んな?……グスン、やーくんのイジワル!こんなことをされては……んん!」
 
 瞳に涙をいっぱいに溜めて抗議してくる美里さん。
カワイイなぁ……けど1番カワイイ表情は、イク瞬間なんだよね。
ってことで一度イッてもらおうかな?
下着の中の指を激しく動かす。
指が動く度にぐちゅぐちゅと音を出し、美里さんは息荒くギュッと抱きついてきた。
目を瞑り、体中をピクピクと痙攣させて喘いでいる。
もうイッてしまいそうなんだね?
いいよ、何度でもイカせてあげるよ!

「隠し事をしようとするイジワルなみーちゃんは、学校の屋上でイッてしまいそうなんだね?」
「はぁぁ……やーくん、やーくぅん……もう、もうわたし……やーくん!」
「お前等いい加減にしろ!ここは学校だろうが!するなら屋敷に帰ってからにせんか!」

 あと少しで美里さんがイクという大事なところで、屋上に響く怒鳴り声。
何事かと思った瞬間、頭にゴツンと激痛が走る。
イテテテ……秋山さん、拳骨を落とすなんてヒドイよ。

「美里様もいい加減にしなさい。……今まで甘やかしすぎたようですな。
これからは心を鬼にして、2人には接しますので覚悟するように!」
「んななな?な、なにを言っているのです?
秋山、あなたはわたしに雇われている身ですわ、そこをよく考えて発言するよう……キャン!」

 文句を言う美里さんにも拳骨を落とす秋山さん。
オ、オニだ、オニの秋山が復活してしまった!

「ここは学校ですから、性行為はしないでもらいますよ。
学び舎でそのような事は学ばなくて結構、分かりましたね?」
「ぐぅぅぅ……秋山、醜い嫉妬はよしてくれません?
わたしとやーくんのラブラブっぷりを見て羨ましいのは分かりますけど、
八つ当たりはかっこ悪いですわ。
……そんなかっこ悪い秋山を見て、池田さんはどう思うんでしょうね?」
「……美里様が何を考えているか分かりませんが、私は果歩のことを何の意識もしていませ
ん。そのように思われていると迷惑です、そういう考えは止めてください」
「あらあら、池田さんと行った遊園地の写真を大事に持っている人の話とは、
とても思えませ……ひぃ!じょ、冗談です!秋山、冗談ですから……やーくん助けて!」

 もしかして美里さんが思い当たる点ってこれのことかな?
そういえば池田さんと遊園地に行ってから、ボ〜っとする事が多くなったんだよね。
もしかして秋山さん、ホントに池田さんのこと好きになっちゃったんじゃないの?
目の前で美里さんのお尻をバチバチ叩いている秋山さんを見て思う。
上手くいけば池田さんとくっつくんじゃないの?
何事もやってみるもんだね、まさか成功するなんて思ってもいなかったよ。

「さぁ次はお前だ。どの指がいい?選ぶがいい」

 涙をボロボロと流しながら倒れこみ、お尻を押さえている美里さん。
そんな美里さんを置いたまま、鬼のような形相で僕に向かってくる秋山さん。
あれ?なんで僕までやられなきゃいけないの?ていうかまた指折れられるの?
冗談だよね?じょ、冗談ですよね?冗談であってほしいなぁ……冗談という事にしてください。

 ………ポキン!

「うっぎゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」


 
「なんか今、ヘンな声聞こえなかった?」
「別に何も聞こえなかったわよ、気のせいじゃないの?」
「そうかなぁ?ラインフォード先輩は聞こえませんでしたか?」
「例えヘンな声が聞こえたとしても、それがなんですの?
私と健一様に何か影響があるんですの?」
「……全然ないです、ゴメンなさい」

 お昼休みの生徒会室。
今日も先輩とかなちゃんに挟まれて惚気話を聞かされている。
ヘンな叫び声が聞こえたから話をそらせると思ったんだけど……無理だった。
はぁぁ〜……拷問だよ、これは人権侵害だよ!
毎日毎日2人して惚気ちゃってさ、寂しい私の身にもなれってんだ!

「そういえば果歩、足治ったの?
せっかくの秋山さんとのデート、捻挫したおかげで中途半端に終わったんでしょ?」 
「ん〜?足はもう大丈夫だよ。確かにデートは中途半端で終わったね。
秋山さん、晩御飯食べさせてくれなかったもん」
「そういえば池田さん、デートに行ってたんですわね。どうなったんですの?」

 今思い出したという顔で尋ねてくる先輩。
……酷くない?先輩が私をけしかけて、秋山さんとデートさせたんだよね?
なんで忘れてるのかな?おっかしいな〜って思ってたんだよね。
デートしてから3日も経ってるのに、なんにも聞いてこないんだもん。

「楽しかった事は楽しかったですよ。
途中で秋山さん、なんでか怒っちゃったけど最後は仲直りしました」  
「ふ〜ん……で、なにか進展はありましたの?
もしかして、普通に遊園地で遊んだだけですの?……お子ちゃまですわね」
「し、ししし進展はあったよ!もんのスゴイ進展だよ!」
「へぇ〜、どんな進展?聞かせてほしいなぁ〜……ねぇ先輩?」
「面白そうなお話ですわね。
恋愛とはまったく縁のなかった池田さんが男と進展があったなんて。
どういった進展なんですの?キスでもしたんですの?それとも体を捧げたんですの?」
「か、体を捧げるってなんなのかな?ただ次のデートの約束を取り付けただけです!
足を捻挫しちゃって観覧車に乗れなかったんで、
今度乗せてくれるって約束してくれたんですよ」

 先輩の発想は飛躍しすぎだよ、ちょっと引いちゃったよ。
だいたい秋山さんとは何にもないっての!
……そりゃ秋山さん、ああ見えて優しいところはあるよ?けど20歳も年上のおっさんだよ?
いくら男の子に縁のない私でもイヤだよ……え、縁がないんじゃないっての!
ただ出会いがないだけだっての!こう見えても私、結構可愛いんだよ?
そりゃかなちゃんの爆乳やラインフォード先輩の美しさにはかなわないけど、
贔屓目に見れば、十分カワイイっての!……自分の事ながら空しくなってきたよ。

「観覧車……ですの?観覧車、観覧車ねぇ……はぁはぁはぁはぁ、い、いいですわ!
その観覧車、採用ですわ!さっそく長尾に命じて工作をさせなければ……」

 私の観覧車という言葉を聞いて、先輩急にはぁはぁ言い出しちゃった。
長尾さんに命令して工作って何かな?
携帯片手に命令を出している先輩。
頂上付近で止めるって言ってるのは何のことかな?私、巻き込まれたりしないよね?
かなちゃんと2人、顔を見合わせる。
さすがはかなちゃん、私と同じ事考えてるみたいだね。
どうか巻き込まれるのなら、かなちゃんが巻き込まれますように……

「池田さん、その遊園地に私と健一様も一緒に行きますわ!ダブルデートですわ!
夕暮れ時の観覧車、アクシデントで止まってしまいますの。
動かない籠の中で夕日の下、健一様と2人きり。動かなくなった観覧車に動揺する私。
そんな私を勇気付けるために健一様は優しく抱きしめてくださいますの。
私はお優しい健一様に抱きしめられて、そのままされるがままに……
はぁぁぁ、健一さまぁ……あまり激しくされると、レイリアは壊れてしまいますわぁ」  

 ……大体想像してた通りだね。はぁぁぁ、やっぱり巻き込まれるのは私なんだ。
たまにはかなちゃんも巻き込まれようよ。
ガッツポーズをしているかなちゃんを見る。
……理不尽だよ!世の中は理不尽に出来ているんだよ!

「池田さん、あなたは秋山とか言う西園寺の手の者にこの事を伝えなさい。
……分かっているとは思いますが、私は失敗という言葉は大きらいですわ」
「わ、わわわわっかりました!秋山さんを誘って日曜日に遊園地に行きまっす!」

 秋山さんを誘うとは言ったものの、ウンと言ってくれるのかな?
だってこの前の時は、『美里様に言われたから来た』みたいなことを言ってたしね。
……断わられたらどうしよう?先輩の事だから、私、きっと酷いことされちゃうんだよ!
多分、中東とかの大金持ちに売られちゃうんじゃないのかな?
で、気に入られちゃって無理やり結婚させられちゃうんだよ!
やばいよ!大金持ちだよ!毎日焼肉食べれちゃうよ!
でも毎日食べたら太っちゃうかな?……ダイエットは後で考えたらいいんだよね。
毎日タン塩かぁ……じゅるるる。考えるだけで涎が出ちゃうよ。
お金持ちになったら、どうしよっかなぁ?
かなちゃんにぴっちぴちの水着を着せて躍らせたりしちゃおうかな?
んっふっふっふ、たっのしみだねぇ。どうせ結婚するならカッコイイ人がいいなぁ。


「次の日曜に遊園地?分かった、日曜だな。果歩、今度は遅刻はするなよ?」

 砕けたよ。淡い夢は砕け散ったんだよ!
なんでかな?なんで今回は乗り気なのかな?
おかげでタン塩食べ放題が消え去ってしまったよ!

「……何故睨む?せっかくなかなかカワイイ顔をしているのだ、どうせなら笑っていろ」

 妙に嬉しそうな秋山さん。
くっそ〜、私の野望を阻止した事がそんなに嬉しいのかな!秋山さん、見損なったよ!
……あれ?今、私のことカワイイとか言わなかった?

「今度は晩飯を奢ってやる。何を食いたい?」
「タン塩!絶対にタン塩!食べ放題のタン塩を是非堪能させて下さい!」
「なんだ、焼肉か?いいだろう、俺も焼肉屋は久しぶりだ。たらふく食わせてやろう」
「おおおお〜!さすがは秋山さん!伊達に歳を食ってないよ!」
「……貴様はいちいち気に障ることを言うな。フン、まぁそれがあってこその果歩だがな」

 何故かご機嫌な秋山さん、あっさりとOKしてくれた。
なんであっさりとOKしてくれたんだろ?そんなことより焼肉だよ、焼肉!
お店で食べるのなんて、高校の入学祝いでお義姉さんが連れてってくれた時以来だよ! 
人生で2回目の焼き肉屋さんでの焼き肉!あぁ、夢みたいだよ!
日曜日は何も食べずに行かなきゃね。一か月分は肉食べちゃうからね!



「健一さまぁ、レイリアはとても怖かったですわぁ。
何故お化け屋敷に入ろうなんて言い出したんですの?お化け屋敷はもうイヤですわ」
「確かになかなかの怖さだったな。ははは、けどビビッてるレイリアの顔も怖かったぞ?」
「もう!健一様のイジワル!……怖がる私を励ましてくれた、お優しい健一様。
とても凛々しくて素敵でしたわぁ。レイリアは惚れ直しましたわぁ」

 日曜日の夕方、綺麗な夕日が見えると評判の遊園地。
お化け屋敷を出たところでイチャイチャと、バカップルが楽しそうに話してる。
ウットリとした表情で、相川先生を見つめるラインフォード先輩。
普通ならこんなバカップル、無視して行くんだけど……はぁぁ、そうもいかないんだよね。

「ラインフォード先輩、そろそろ観覧車に並びませんか?
いつまでもバカップ……じゃないや、アツアツな二人を見せられたら、
目のやり場に困るんですけど」
「あらあら……池田さん、醜い嫉妬は空しいだけですわよ?
あなたも西園寺の手の者と楽しく遊びなさいな。お互い空しい独り身でしょう?」

 嬉しそうに相川先生の腕を抱きしめて微笑むラインフォード先輩。
そんな先輩に何故か不機嫌な秋山さんが噛み付いちゃった。

「……フン!見え透いた演技は止めた方がいい。貴様の演技はバレバレだ」
「わぁ〜わぁ〜わぁ〜!秋山さん、早く並ぼうよ!」
 
 ムスッとした顔でブツブツと文句を言ってる秋山さんを引っ張り、観覧車の列へと並ぶ。
眉間をピクピクさせながら、ラインフォード先輩も後ろに並んだ。
なんで余計な事を言っちゃうのかな!後でヒドイ目に遭うのって私なんだよ?
秋山さん、年食ってる割には大人気ないんだね、子供だねぇ。
ブツブツ文句を言っている秋山さんを黙らせながら、順番が来るのを待つ私。
後ろから感じる殺気が背筋を凍らせる。なんでこんな目にばっかり遭っちゃうのかな?
カワイイ子って理不尽な目に遭うのが定めなのかな?
……もしかして、私がカワイイからこんな目ばかりに遭っちゃってるの?
罪だよ!カワイイって事は罪なんだよ!
そんなくだらないことを考えていたら、やっと乗れる順番が回ってきた。
ブツブツ言ってる秋山さん引っ張って乗り込む。
ラインフォード先輩、観覧車で機嫌が治ってくれるといいんだけどなぁ。
徐々に登りはじめた観覧車、窓から外を見ながらため息を吐く。

「はぁぁ〜、こわかったぁ。殺されちゃうんじゃないかと思ったよ」
「フン!あんな外人のどこが怖いんだ?お前はビビリすぎだ」

 まだプンプン怒ってる秋山さん。なんでそんなに怒ってるのかな?

「秋山さん!なんで先輩にケンカ腰な態度を取っちゃうのかな!」
「だいたい何故あの外人が来てるんだ?俺は聞いてないぞ!」
「聞いてない?そりゃそうだよ、だって教えてないもん」
「貴様はぁぁ〜!」
「いががががが!ふじょぼーこーはんた〜い!」
  
 大きな手で、ギリギリと頭を締め付ける秋山さん。
痛いよ!とっても痛いんだよ!これ以上頭が小さくなっちゃったら可愛さが増しちゃうよ!



 夕方の遊園地、果歩と2人での観覧車に乗っているのだが……つい苛めてしまった。
果歩の暴れる姿がなかなか可愛くて、ついつい苛めてしまう。

「ヒドイよ……グスン、秋山さんは女の子を苛めて喜ぶ悪魔のような人だよ」
「スマンスマン、暴れてるお前の姿がなかなか可愛くてな」

 頭を抑えて泣いているフリをする果歩。
まったく下手な演技だ、嘘はつけんヤツだな。
俺が言った可愛いという言葉に一瞬ニコッと微笑んだが、すぐに泣いてるフリをする。
本当にお前は演技が下手だな。フフフ、そんなところもなかなか可愛いな。

「グスッ、ヒドイよ。秋山さんは女の子を苛めるオニのような……」
「分かった分かった、焼き肉食い放題プラス肉のお持ち帰りだ。それでいいだろう?」
「うおおをおをを?さっすがは秋山さん、伊達に年はとってないよ!」

 肉に釣られ、とたんに満面の笑みを見せる果歩。
お前は本当に可愛いヤツだな。見ていて飽きないぞ。

「年寄り扱いするな!……しかしお前は安上がりな女だな。
肉で釣れる女なんてお前ぐらいなもんだぞ?」
「釣れるってなにかな!釣られたんじゃなくて妥協してあげたんだよ。
せっかく観覧車に乗ってるんだから、楽しく乗りたいからね」

 焼き肉を食えるのがよほど嬉しかったのか、ニコニコ微笑みながら外を眺める果歩。
しかし何故そこまで観覧車にこだわるんだ?正直面白いとは思えんのだがな。
そんなことを考えながら果歩の横顔を見る。
……おかしい、先ほどまでは嬉しそうな顔をしていたのに、今は浮かない表情をしている。
何故だ?

「どうした?浮かない顔して何かあったのか?」
「……綺麗な景色だねぇ。昔もこんなに綺麗な景色だったのかな?」

 質問には答えず、エヘヘと微笑みながら俺を見る。
その笑顔はどこか寂しげで、俺が好きな満面の笑みとは違った。

「……昔ね、まだ私がお母さんのお腹の中にいる時にね、
お父さんが遊園地に連れてってくれたんだって」
「………」
「でね、お母さん達って出来ちゃった結婚だったから、
あんまり遊びには行けなかったんだって」

 両親の思い出話か?そういえば確か父親は果歩が幼い頃に死んだのだったな。

「あははは、酷い父親だよね?家族サービスをしないうちにさっさと死んじゃってさ。
私はまだお母さんのお腹の中だったけど、
家族揃って遊びに行けたのってその時が最後だったんだって。
お母さん、今でも時々嬉しそうに話すんだよ?
『観覧車から見た景色がすっごく綺麗だったよ』って」

 夕日を浴びながら話す果歩の寂しそうな横顔。
俺は何故かその横顔に視線が釘付けになった。

「だからね、一度見て見たかったんだよ。お母さんが言ってた綺麗な景色って。
……秋山さん、ありがとうね。家族で見た景色とは違うと思うけど、とっても綺麗だよ」
「……あぁ、凄く綺麗だ」

 夕日に照らさた横顔、父親のことを思い出したのか大きな瞳は潤んでいる。
俺はその夕日に照らされた綺麗な横顔から目が離せなくなった。
何故だ?何故目が離せない?……動悸か?胸が苦しくなってきたぞ?

「あはははは、私がこんな話するのって似合わないよね?
……って秋山さん、真っ赤な顔してどうしたの?あ、もしかして私の話で感動しちゃった?」
「な、ななな何でもない!誰が貴様の話で感動なんてする……うお?」

 立ち上がり、果歩の顔を鷲づかみしようとしたその時、突然止まった観覧車。
突然の事でバランスを崩す俺。
よろめいた先には果歩がいて、果歩を押し倒すように倒れこんでしまった。

「うわわわわ?秋山さん、女の子を押し倒すなんて……やっぱり鬼畜さんだったんだね」
「ち、ちちち違う!これは不可抗力……ゴクリ」

 俺に押し倒された形で果歩が体の下にある。
そして目の前には果歩の可愛い顔がある。
今日の為にオシャレをしてきたのか、薄いリップを塗った可愛い唇がすぐそこにある。
ゴクリと唾を飲み込む。おかしい、何故俺は動こうとしない?
この体勢はマズイ、早く退くべきだ。
頭では分かっているのだが、体が動かん。
視線は果歩の唇から外せない。何故だ?ええい、俺の体、いい加減に動かんか!
いや、体が勝手に動いてしまっているのか?
マ、マズイ!止まれ!止まらんか!何故止められんのだ!
俺の意識とは関係なく、果歩の頬に手を添えてしまった。
そんな俺の行動にキョトンとした表情でされるがままの果歩。

「ふぇぇ?秋山さん?真剣な顔でどうし……んんん〜!」

 唇に伝わる果歩の温もり。
力を入れて抱きしめれば折れてしまいそうな体を強く抱きしめる。
何をしている?俺はいったい何をしているんだ!
混乱する頭。しかし体は果歩を抱きしめ唇を奪い続けている。

 ガリッ!

 混乱したまま唇を合わせていたら唇に痛みが走った。
痛ぅ……果歩め、噛み付いたな?

「痛ぅ!果歩、何をするんだ!」
「はぁはぁはぁはぁ……それはこっちのセリフだよ!」

 唇を噛み付かれ、一瞬怯んだ隙に俺の腕から逃れる果歩。
果歩は素早い動きで立ち上がり、「セイッ!」と気合を入れた掛け声を出す。

 バキン!

 顎に走る衝撃。果歩の正拳突きが正確に顎を捉えた。
立ち上がろうとしていた俺は、正拳突きを食らい尻餅をつく。

「秋山さん、最低だよ!私、初めてだったのに……無理やりキスするなんて見損なったよ!」
「ま、待て!キスしてしまったことは謝る!だがワザとじゃないんだ!」

 ボロボロと涙を零しながら大声で叫ぶ果歩。
その顔を見て俺は自分がとんでもない事をしたのだと気がついた。
お、俺はなんてことをしてしまったんだ!
何故キスをしてしまった?何故果歩にキスを……何故だ?

「信用してたのに……サイッテーだよ!」

 唇を腕で拭き取り、キッと俺を睨みつける。
その時、止まっていた観覧車が動き出した。
観覧車が下に降りるまでの間、一方的に罵られ、貶され続けた俺。
それでも果歩の気は治まらなかったのか、観覧車を降りた瞬間に蹴りを食らわされた。

「死んじゃえ!このチカン野郎!」

 最後に思いっきり俺を蹴りつけて、走り去っていく果歩。
俺は……何故あんなことをしたんだ?
何故俺は……せっかく仲良くなれたのに、俺は何故?
ふらつく足で遊園地を出て行く。
途中で誰かが俺の名前を呼んだ気がしたが、振り返りもせずにそのままフラフラと歩く。

 俺はいったい何をしたかったんだ?何故果歩を襲ったんだ?……襲った?
そうだ、動かなくなった観覧車に乗じて俺は果歩を襲ったんだ。
俺は果歩を……好きな女を襲ってしまったんだ。
……好きな女?誰がだ?……俺が?誰を好きなんだ?……果歩をか?
嘘だろ?何故俺が果歩を好きにならなければいけないんだ?
20も年下の色気もないクソガキだぞ?
しかし、そうでなくては説明が付かん。……そうなんだな、そうだったんだな。
俺は自分でも気が付かないうちに、果歩のことを好きになっていたんだな。
……だからか。だから果歩を襲ってしまったのか。
ハ……ハハハハ!最低だな!本当に最低な男だな!
好きな女を無理やり襲い、唇を奪ったのか!
はっはっはっはっはっはっは!……消えよう。果歩の前から消えよう。
こんな年の離れたおっさんに唇を奪われるなんて、果歩にとっては悪夢以外の何物でもないだ
ろう。 
せめてもの罪滅ぼしだ、今まで貯めていた金は全て果歩にやろう。
綺麗さっぱり無一文になって、この町から消えていこう。
……美里様、申し訳ありません。裕彦との結婚式には出れそうにありません。
裕彦……美里様を任せたぞ。
お前一人に任せるのは不安だが、俺が鍛えられた池田道場を紹介しよう。
そこでみっちりと鍛えてもらえ。
……果歩。俺が自分の気持ちにもっと早く気づいていたら、お前との関係は違う形になってい
たかもな。
フッ、それはないか?お前には俺のようなおっさんは似合わない。
お前はいい女だ、そのうちいい男が寄ってくるさ。
……スマンな。俺のような男がお前の唇を奪ってしまって。
お前の前から消えるから、許してくれ。
金も置いていく。それで好きなだけ肉を食うがいい。

 ……お前の顔を見て、直接言いたかったな。
 
 果歩……果歩、好きだ、愛しているぞ。



(最低だよ!せっかく楽しみにしてたのに……なんであんなことするのかな!)

 遊園地で秋山さんに襲われて、急いで家へと帰って来た私。
部屋に閉じこもって枕を抱きしめ布団に顔を埋めて考える。

(なんであんな事になっちゃったのかな?
やっぱりラインフォード先輩と係わってたらヒドイ目に会うんだね)

 観覧車での出来事を思い出し、唇を触ってみる。
ゴクリ。ここに秋山さんがチュってしてきたんだよね?
チュっじゃないか、ブチュって勢いだったね。

(せっかく初キスだったのに、もう少し丁寧に優しくしてくれなきゃいけないと思うよ?
秋山さん、昔はたくさん女の人と関係を持ったって威張ってたけど、あれはウソだね。
だって秋山さん、必死にキスしてさ、余裕がなかったもん。
痛いくらいに抱きしめたりしてさ、女の子はもっと優しく扱わなきゃね)

 そんなことを考えてたらあまり嫌な気分じゃないことに気がついちゃった。
あれ?なんでかな?私、無理やりキスされたんだよ?
襲われちゃったんだよ?20歳も年上のおっさんに初めてのキスされちゃったんだよ?
……なんだろ?なんでちょっと嬉しいのかな?
おかしいなぁ、私、秋山さんって趣味じゃないのになぁ。
……もしかして、秋山さんのこと好きになっちゃった?
っていうか、前から好きだったの?
自分の考えに驚き布団から跳ね起きる。
ふと鏡を見てみる。……うわぁ、顔が真っ赤でデレデレだ。耳まで赤いよ。
う〜ん、これはもしかしたらもしかしちゃったりしてるのかな?
……先輩たちの策略通りにことが運んじゃったのかな?
そうだ!明日かなちゃんに相談しよう。
秋山さんにもなんであんなことしたのか聞かなきゃいけないしね。
……秋山さんの唇って意外と柔らかかったんだね。
私の唇はどう感じたんだろ?明日聞いてみようかな?


 秋山さんとのキスを思い出し、唇を触る私。キスって気持ちがいいものだったんだねぇ。



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