「……うん、今彼氏と一緒にいるんだ。エヘヘヘ、凄いでしょ?
……そうだよ、ついに出来ちゃったの!相手は前に言ってた秋山さん。
……そだよ、空手が強いっていってたあの秋山さん。エヘヘヘ、ビックリでしょ?
……え?連れて来いって?お兄ちゃんが?なんでかな?
……うん、お母さんも紹介して欲しいんならしょうがないね、お願いしてみるよ。
……じゃ、すぐに帰るから。お腹が減って我慢出来なかったら、残り物温めて食べてね?
……うん、アリガト。詳しくは帰ってから報告するね?じゃあね」

 初めてのSEXを終えた後、果歩は携帯で母親に連絡を取っている。
少し遅い時間になってしまったからな、母親を心配させてはいけない。
母親に連絡を取り終えた果歩は、携帯を切り、ふぅ〜っと一息ついた。
そしてカバンに携帯を入れ、満面の笑みで俺を見つめる。

「エヘヘヘヘ……秋山さん、今日暇かな?」
「……何故だ?」
「お母さんとお兄ちゃんがね、私の彼氏を見て見たいって言ってるの」
「あぁ、大丈夫だ。もとよりお前を家まで送るつもりだった。
お前の家族には挨拶をしなくてはと考えていたからな、ちょうどいい」
「アリガト、秋山さん。……ん」

 俺が挨拶に行くと言った事がよほど嬉しいのか、嬉しそうに微笑んで唇を合わせる。
唇に感じる柔らかい果歩の感触。唇から広がる温かい温もり。
こんなに気持ちのいいキスなら、いつまでもしていたいものだな。

「エヘヘヘ……じゃ、帰ろっか!
早く帰って家族に見せたいからね!こんなカッコイイ人が彼氏ですってね!」

 俺が好きな、輝くような笑顔で腕に抱きついてきた果歩。
微かに感じる胸の感触がたまらない。
しかし笑顔を見せていた果歩は何かを思い出したのか、少し暗い表情になった。
なんだ?急にどうしたんだ?なにか嫌な事でも思い出したのか?

「秋山さん、お母さんはいいけど、私のお兄ちゃんって結構怖いから大変だよ?」
「ほう?お前の兄は不良かなにかか?」
「あはははは!違うよ、空手家だよ。今日は稽古の日だから家に来てるんだよ。
私、お兄ちゃんに空手習ってるの。お兄ちゃん、すっごく強いんだよ、オニのように強いんだよ」
「ははははは!そうかそうか、なら今日は俺が稽古をつけてやろう。
たまには違う流派と組み手をするのも勉強になっていいことだぞ」

 果歩の兄か……年齢的には高校生か大学生くらいだろう。
色々教えてやってポイントを稼がなくてはいけない。
なんせ、俺のお義兄さんになるかもしれない人なのだからな。

「おおおお?さっすが秋山さん!お兄ちゃんすっごく喜ぶよ!
最近は誰も相手をしてくれないって嘆いてたもん。お兄ちゃん、手加減がヘタなんだよね。
だから門下生が集まらないんだよ。じゃ、道場の準備するように電話するね?」

 道場?そういえば裕彦が前に言っていたな。果歩の実家は空手道場を経営していると。
確か赤字経営で大変だとか言っていたな。
果歩が家計をやり繰りしてどうにか経営をしていると。
……そうか、果歩の兄はその赤字道場でお山の大将になっているのだな?
なら俺がガツンと鍛えてやるしかあるまい。……名誉挽回したいしな。

「秋山さん、お兄ちゃんに連絡したら、すっごく喜んでたよ。
でもホントに大丈夫なの?お兄ちゃんって化け物クラスの強さだよ?」
「そうかそうか、それは楽しみだ。俺も最近は本気で戦った事がないからな。
いいリハビリになる」
「なんか秋山さんカッコイイよ。……入れただけでイッちゃった人とは思えないよ」
「…………ホントにすまんかった。全面的に俺が悪かった、もう勘弁してくれ」

 意地悪く微笑む果歩に頭を下げる。……最低だ。まさか入れた瞬間イッてしまうとは。
あそこまで気持ちがいいとは思いもしなかった。
好きな女を抱くことは、あれほど気持ちがいいものだったんだな。

「ちょっと聞いていいかな?秋山さんってホントに遊び人だったの?
なんか全然イメージが湧かないよ。……すぐにイッちゃったしね」
「……確かに俺は10代の頃、いろんな女と関係を持った。
しかしだな、それ俺の意思ではない。俺が通っていた空手道場の先輩が、俺を売ったんだ!」
「う、売ったってなにかな?秋山さん、特売品だったの?」

 今思い出しても震えが来る、あの憎たらしい顔。
アイツのせいで俺の人生は狂ってしまったんだ。

「……俺が初めて女を抱いたのは小学5年の時だ。
いや、抱いたというより抱かれた、という方が正しい表現だな。
その先輩というのが極悪人でな、俺を1回数千円で大人の女に売ってたんだよ」
「えぇぇぇ〜!そ、そうなんだ……秋山さん、大変な目に遭ってたんだね」
「あぁ、大変だった。その当時の俺はかなり可愛い男の子でな、
年上の女性に大人気だったらしい。毎日のように買われていたよ。
……まぁ気持ちよかったからいいんだがな」
「……なんかムカついた。私は気持ちよくなる前に終わっちゃったけどね!」

 俺の話に腹をたてたのか、嫌味をチクリと言ってから、プイッ!っと顔を背けた果歩。
しかし俺の腕に回された手はギュッと強く抱きしめたままだ。
まったく可愛いヤツめ……いい加減すぐにイッてしまったことは言わないでくれないか?
本気で泣いてしまいそうだ。

「だがこれだけは言える。俺が本気で抱きたいと思った女はお前が初めてだ。
俺が好きな女を抱いたのはお前が初めてなんだ。
果歩、お前は俺がSEXしたいと心から思った最初の女だ」
「秋山さん……そんな真顔で言われたらちょっと照れちゃうけど、嬉しいよ。
うん、すっごく嬉しい。ありがとう、秋山さん」

 頬を赤く染め、俯き加減で話す果歩の顎に手を添え少し持ち上げる。
潤んだ瞳で俺を見つめる果歩。俺はそんな果歩の唇に吸い寄せられるように唇を重ねた。



「ここら辺に住んでいるのか。……昔はよく来たものだ」
「へ?秋山さん、ここに来たことあるの?もしかしたらどこかで会ってたかも知れないね?
えへへへ、ひょっとして私たちが恋人になったのも運命なのかな?」

 果歩の実家の最寄駅で降りる。
この町には昔、毎日のように来ていたな。
俺が通っていた悪名高い『池田道場』があった町だ。
まだ道場は残っているのだろうか?館長が死んでからどうなったんだろうな。
直樹先輩が立て直したのか?
いや、あの人は何を血迷ったのか普通の会社員になっていたな。
世も末だな。あんな人格破綻者を雇う会社があるなんて。

「残念だが俺がこの町に来ていたのは10代までだ。お前はまだ生まれていないよ。
……お前が住んでいたのなら、この町に通い続けるべきだったな」
「あははは!……冗談でも嬉しいよ。
でも他の人に言ったらロリコンだと勘違いされるから言わない方がいいよ?」
「お前とならロリコンと言われてもかまわんさ。で、お前の家はどっちの方角だ?」
「あっちだよ。あそこの角のタバコ屋さんを曲がってしばらく行った所にあるの。
道場と家とが並んで建ってる所だよ」
「おお、懐かしいな。あのタバコ屋はまだ潰れていないのか。
俺が昔通っていた道場も、あそこを曲がって真っ直ぐ行ったところに……なんだと?」

 なんだ?今、なにか強烈な違和感を感じたぞ?
何故果歩の実家の空手道場が、俺が通っていた道場と同じ道のりなんだ?
よく考えろ、そもそもこの町に空手道場がいくつもあったか?
いや、無いはずだ。昔あった他の格闘技の道場は全て清正館長が潰したはずだ。
闇討ちや道場破りで一つ残らず全てな。確かそう言っていた。実際に無かったしな。
なら何故果歩の実家が道場を経営している?俺が知らないうちに新しく出来た道場か?

「どしたの?秋山さん、なんで固まってるの?」
「い、いや、なんでもないさ。ところで、お前の家の道場はなんて名前だ?」

 そ、そうだ、そうに決まっている。新興道場だから経営がうまくいっていないんだ。
教える人が足りないのなら、俺が無料で教えに来てやってもいいな。
その方が家族に対してポイントアップになるだろう。

「それなんだよね。結構歴史があるんだから、カッコイイ名前をつけた方がいいと思うんだよ。
だってさ『池田道場』だよ?そのまんまだよね?そりゃ門下生も増えないよねぇ」

 全身の毛穴が開くのが分かる。開いた毛穴からドバドバと脂汗が出ているのも分かる。
ま、待ってくれ!よ、よりによってお前の実家が池田道場だと?

「まぁお父さんの時代から儲け度外視でやってたらしいからねぇ。
お兄ちゃんもそれを受け継いで、門下生を強くしようと厳しくするから長続きしないんだよね」
「ち、ちちちちなみに、お、おおお前の父親のな、ななな名前はなんと言うんだ?」
「へ?言ってなかったっけ?『池田清正』っていうの。結構有名な空手家だったみたいだよ?」
「な、ななならお前の兄というのは……まさか直樹?」
「おお?なんで知ってるの?もしかしてお兄ちゃんも有名人なのかな?
お兄ちゃん、大会とか興味ないから強いのにあんまり名前が売れてないんだよね。
せっかく鬼の様に強いんだから、大会でバンバン優勝して道場を宣伝したらいいと思うんだけ
どね」

 目の前が真っ白になる。
そうか、今さらながら気がついた。果歩の苗字は『池田』だったな。
まさかあの清正館長の忘れ形見だったとはな。

「秋山さん?だ、大丈夫?顔真っ青だよ?もしかして病気にでもなっちゃったの?」
「あ、ああああ、だだだだだいじょじょじょぶぶだだだ」
「こ、壊れたスピーカーだよ!秋山さんが壊れちゃったよ!どうしよ……そうだ!
お兄ちゃんに迎えに来てもらって家で看病すれば……あ、噂をすればお兄ちゃんだ」

 なんだと?果歩が手を振る先を見る。
……だいぶ年を食ってはいるが、そこにあの鬼がいた。
俺に空手を叩き込み、女を教え、色々な悪事を教えてくれた、あの鬼の直樹先輩が。
指をボキボキと鳴らしながら俺を睨みつけ、恐怖の笑顔を見せながらこっちに歩いてくる。
あ、歩いて来くるだと?マ、マズイ!今すぐここから逃げねば殺される!

「いいところにお兄ちゃんが来たよ。秋山さん、今すぐ家で治療するからね?
お母さんって看護士してるから、病気や怪我には結構詳しいの。
って顔色が青を通り越してドス黒くなってる?マズイよ!これはきっと生命の危機なんだよ!」
「か、かかかか果歩、今日は帰っていいか?
た、たたた体調が悪いからお前に迷惑はかけれない」
「そんな遠慮しなくていいよ。それに、秋山さんを看病したいし……
えへへへ、お母さんにナース服借りようかな?」

 ナ、ナース服だと?ゴクリ……み、見てみたい。果歩のナース姿、最高じゃないのか?
目を瞑り、ナース服を着込んだ果歩を想像してみる……エロいな。
今度お願いしてみてもいいのだろうか?恋人同士だし、かまわないよな?
そんな想像力を働かせていると誰かが肩に手を載せた。
なんだ?今いいところなんだから邪魔はしないで……く………れ?
目を開けて肩に手を乗せた人物を見てみると……鬼がいた。

「な、ななななな直樹、せせせ先輩?お……うおぉぉおおぉぉおをおぉおぉぉ〜〜!!」

 俺の悲鳴が静かな夜の町に響き渡った。



「あら?今日は綾崎さんお一人?池田さんはどうしたんですの?」  

 健一様と仲直りした翌日のお昼休み、
いつもは2人仲良く来るはずなのに今日は綾崎さん一人だけ。
池田さんはいったいどうしたのかしら?風邪でも引いたんですの?
日本の伝説ではおバカさんは風邪を引かないんじゃなかったのかしら?

「ラインフォード先輩こんにちは。
果歩なんですけど……これからしばらくの間は彼氏とお昼を食べるって言ってるんですよ。
なんでも彼氏が顎と奥歯と利き腕を骨折したとかで大変なんだそうです。
けど、彼氏と2人きりでお昼なんて、ちょっと生意気ですよね?」

 あら生意気。せっかく私がえっち用の教材として
『レイリア×健一 愛のメモリー DVDボックス第32弾』
を持って来てあげましたのに……ムカつきますわね。

「せっかく池田さんに彼氏と上手く付き合う方法を教えてあげようと考えていましたのに……
そうですわ!綾崎さん、せっかくですからあなたに教えてあげますわ」
「へ?あ、あたしにですか?な、なにを教えてくれるんですか?」

 カバンからDVDボックスを取り出す。1ボックス10枚セットの愛の記録ですわ。
ついでに、感想文用のレポート用紙を取り出してっと。

「せ、先輩?その分厚いレポート用紙、何に使うんですか?」
「綾崎さん、このDVDボックスを見て勉強しなさいな。
このDVDには健一様と私の愛の記録が詰まってますわ。
で、このレポート用紙5枚以上に感想を書いて提出するんですの。分かりましたわね?」

 感動でカタカタと震えている綾崎さんのためにDVDをセットしてあげる。
あぁ、レイリアはなんて後輩思いなんですの?
こんな優しいレイリアを健一様はどうお思いになられるんでしょう!
まぁまぁ、涙ぐむまで嬉しいんですの?綾崎さん、カワイイですわね。

「綾崎さん、涙ぐむまで嬉しいんですの?そこまで喜ばれると私も嬉しいですわ。
ではDVD一枚につき感想文をレポート用紙5枚、お書きなさいな」

 ガックリと膝をつく綾崎さん。
どうしたんですの?お腹がすいたのかしら?
そうですわね、まずはお食事をしないといけませんわ。
はぁぁ〜、それにしても池田さんが羨ましいですわ。学校で恋人とお食事が出来るなんて。
今頃2人でラブラブなお食事をしているであろう池田さんを羨ましく思う。
……そうですわ!私は卒業したらこの学校に就職すればいいんですわ!
保健医なんていいですわね。保健室で健一様といちゃいちゃでラブラブですわ!

 ……ところで綾崎さん、泣きながらご飯を食べるのって美味しいんですの?

 

「秋山さんお弁当作ってきたんだけど、食べれるかな?」
「おお、どうにか食えそうだ」
「ホントにゴメンね?バカお兄ちゃんは地獄に送ったから大丈夫だよ。
お義姉さんがお仕置き部屋に引きずってったから、多分二度とあんなことしないよ」

 ビックリしたね〜。秋山さんがお父さんの弟子だったんだからね。
それに秋山さんを悪の道に誘い込んだのがお兄ちゃんだったとはね。
……あんなに怒ったお義姉さん、久しぶりに見たよ。
お兄ちゃん、どうなっちゃったのかな?

「さすがの秋山さんもお兄ちゃんにはボッコボコだったね。
秋山さん、稽古不足なんじゃないのかな?」
「ぐぅ……うるさい!それより早く飯を食わせてくれ」
「あははは!秋山さん、あ〜んってしてよ食べさせてあげるからさ。はい、あ〜ん」

 一瞬赤く顔を染めた秋山さんが躊躇しながら小さく口を開ける。
おおお?これはなかなかいいね、いい感じだねぇ。
なんか好きな人にご飯を食べさせてあげるのって、とっても嬉しいんだね。

「秋山さん、美味しいかな?」
「あぁ美味い。毎日こんな美味い弁当を食えるのかと思うと、つまらん学校も楽しくなるな」
「あははは!そうだよねぇ。西園寺先輩に付き添ってただけだもんね。
そういえばさ、西園寺先輩、青葉君になにしたの?
青葉君、お尻をずっと痛がってたよ?椅子に座るのも痛いって涙目だったよ?」
「ははは、美里様のお遊びが過ぎたようだな。ま、これでしばらくは2人とも大人しくなるさ」
「何のことかよく分んないけど……ま、いっか」

 タコさんウインナーを箸で摘み秋山さんの口元に……やっぱやめ!
せっかく恋人同士のご飯なんだから、恋人らしく食べささなきゃね!

「ん…ふぁきやまふぁん、あ〜んひて」
「お、おい、ここでそれはマズイ……頂きます」

 口に咥えたタコさんウインナーにかぶりつく秋山さん。
まるで餓えた狼のようだよ。勢いあまってそのままキスされちゃったよ。

「ん……んぁ、んん……ねぇ秋山さん、今日も道場に行っていいかな?」
「あぁ、かまわんぞ。俺もお前に来てくれと言おうと考えていたところだ」
「ん、嬉しい……秋山さんは空手もえっちも稽古不足だから、私が稽古相手になってあげるよ」
「ははは、そうか、ならお願いするか。ただしこの体だ、空手の稽古は出来んぞ?」
「うん、分ってるよ。秋山さんの場合、空手よりえっちの方が稽古不足だからね」
「ぐぅ……」

 唸ったきり黙っちゃった秋山さん。
あははは、もしかして怒っちゃったかな?これはいろいろと使えそうな手だねぇ。
そんなことを考えながら、少し拗ねてる秋山さんの腕に抱きつく。

「秋山さん、2人でいっぱい稽古して、いっぱいデートして、たくさん思いで作ろうね?」
「あぁ、言われなくてもそのつもりだ」
「あははは、同じこと考えてたんだ?
嬉しいなぁ……でもね、私以外の人と稽古しちゃダメだからね?」

 腕に抱きついたまま秋山さんを見上げる。
にやりと笑った秋山さんはそのまま顔を近づけてきて……んん。



 秋山さん……いっぱい、いっ〜ぱい思いで作ろうね?
2人きりでの思い出、かなちゃんや青葉君、ラインフォード先輩や西園寺先輩、
皆での楽しい思いでも、たくさん作ろうね!たくさんたくさん作ろうね!

 いつか……ホントに来るか分んないけど本番が来るまでの間、2人でいっぱい稽古して、
いっぱい思いで作って本番を迎えようね?

 私は少し……いや、かなり年上の稽古相手を抱きしめて、
幸せってこういう事なんだと実感した。




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