「ナルディアよ、やはりワシの言ったとおりじゃろ?
リクを雇ってからはニースのワガママも減り、見違えるようじゃわい」

 暑い日が続く夏の夕方、書斎でくつろぐカシュー様に冷たい紅茶を入れてさし上げる。
どうやらカシュー様は、ニース様の為に雇ったニッポンジン、リクの事が気に入ったようね。
リクの教育の成果か、ニース様も以前のようにワガママを言われる事も少なくなったわ。

「確かにそうですね。あれほど手を焼いていたニース様が、今ではキチンと挨拶も出来る子に
なりましたからね」
「そうじゃろう、そうじゃろう!ワシの目に狂いはないわい!」

 一時は私がこのお屋敷を辞めようかと考えていた原因、
ニース様のワガママが劇的に改善されている。
それも旦那様が新しく雇ったニッポンジンのリクが教育係についてから。
私達が散々手を焼いていたあのニース様を、ここまで教育するとは……悔しいわね。
ついこの間招かれたリクにできて、ニース様が幼い頃から一緒にいる私ができないなんて。
ふふ、やはり私の教育が甘かったようね。
キツクできなかったのは、あの人が残した忘れ形見だからかしら?
決して結ばれる事がない、もうこの世にはいないあの人の子供だから。
私が愛したあの人の子供だから……ふふ、女々しいわね。
もうあの人が死んで5年も経つのに、まだ引きずっているのね。

「ナルディアよ、暗い顔をしていったいどうしたんじゃ?」
「……ニース様のお役に立てない自分の不甲斐なさを思うと、情けなくて」
「……気にするでない。お前がいなければこのラインフォード家は成り立たん。
お前がおるからワシ等は安心して暮らせるのじゃ」
「旦那様……ありがとうございます」

 まったく違うことを考えていた私に頭を下げてくださった旦那様。
ふふ、さすがは親子ね、優しかったあの人にそっくりだわ。
こんなにお優しい旦那様を見捨てて、一度はお仕えするのを辞めようかと考えた自分が情けな
いわね。
お優しい旦那様に報いるためにも、私も頑張らなきゃ!リクになんかに負けてられないわ!
けど私にはニッポンジンのリクのように、ニース様を教育する自信がない。
けど、そうね、違うわ。……そう、私は私、リクはリクよ。
そうね、私は私なりにニース様に接しよう。
そしてニース様を立派な女性に育て上げよう!
書斎の窓から見える綺麗な夕日にそう誓った時、ドアをノックする者がいたの。

「失礼します。旦那様、少しお話しがあるのですがよろしいでしょうか?」

 ドアを開けて入ってきたのは、私達の会話の話題だったリク。話とはいったいなにかしら?



「おお、リクか!よくニースを躾けてくれておる。おかげであれもだいぶマシになったわい。
お前のおかげじゃ、感謝しておるぞ。で、願いとはいったいなんじゃ?」

 オレの手を取り、ありがとうと頭を下げるカシューじいさん。
ンッフッフッフ、まさか躾と称してニースの尻を弄りまくってるとは思うまい。
オレを見つめるナルディアさんの目も、心なしか尊敬の眼差しのように見えるし……
ナルディアさんもいけるかな?

「私などにはもったいないお言葉……カシュー様、ありがとうございます。
お願いというのは、そのニース様についてなのですが……」
「ニースがどうしたんじゃ?」

 さすがは過保護のじいさんだ、ニースの事になるとすぐに反応するな。
しかしカシューじいさんは、孫思いのいいじいさんだよな。
ま、死んだ息子の忘れ形見だ、大事にしたい気持ちは分るけどな。

「実はニース様に私の故郷、日本の事を話したのですが、
日本で夏に食べる食べ物に大変興味をもたれたようで、
その食べ物を是非食べてみたいとおっしゃられたのです」
「ほぅ?ニッポンの食べ物とな?面白そうじゃな。それはいったいなんじゃ?
わが国でも手に入るのか?」

 自分も興味を持ったのか、オレの話に食いついてきたカシューじいさん。

「いえ、それを作るのにはある機械とシロップが必要でして、
日本から取り寄せる必要がございます。
そこでお願いなのですが、その機械とシロップを取り寄せてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、カワイイ孫の願いじゃ、すぐに取り寄せよう。で、その食べ物とはいったいなんじゃ?」
「は、日本では夏に子供も大人もよく食べる……カキ氷でございます」

 そう、カキ氷なんだ。この国の夏は日本並みにクソ暑い。
冷たいものを食いたいと思い、ニースにカキ氷の事を話したらオレの話に食いついてきやがっ
たんだ。
『カキ氷?それは美味しいものなの?ならすぐにでも作りなさい!今すぐ食べたいわ!』って
な。
オレも食いたいからじいさんに頼みに来たってわけだ。
案の定可愛い孫の頼みだ、じいさんが断わるわけもなくすぐにカキ氷機とシロップを取り寄せ
る手配をした。
あとは機械とシロップが来るのを待つだけだな。……おっといけねぇ。
今すぐかき氷を食いたいなんてワガママを言う悪い子には、お仕置きをしなきゃいけねぇな。



「ニース様、カシュー様がカキ氷機を取り寄せてくださるそうです」

 カシューじいさんとの話しを終えニースの部屋に戻ると、ベッドに仰向けに寝ており、枕に顔を
埋めていた。
オレが部屋に入ってきたことに驚き、慌ててサングラスをかけるニース。 
……自分の白く濁った目を見られるのがイヤなんだろうな。
確か11歳だっけか?その年で目が見えないなんて可哀想なヤツだな。
仕方ないな、目が見えないコイツの為に、オレがいろいろ教えてやるか!
……世の中の厳しさってヤツをよ!

「やったぁ!さすがはおじい様ね!どこかの使えない野蛮人とは違うわ!」

 ニースはカキ氷が食べれる事がよっぽど嬉しいのか、
少し古びたクマのぬいぐるみを抱き抱えてベッドを転がる。
こういう仕草は可愛くて仕方がないんだがな、普段の言動がダメだ。
だから他の使用人からは、よそよそしい態度で接せられるんだな。
仕方ない、言葉使いは人付き合いではとても大事な事だと、
身体に教え込まなきゃいけないな。

「さて、と。ニース様、さきほどから貴女は何故下品な言葉使いをしているのですか?」
「へ?げ、下品ってなによ?アタシは下品なんかじゃないわよ?」
「やれ『カキ氷を食べたい。すぐにでも作れ!』だとか、
『どこかの使えない野蛮人とは違うわ!』だとか……」
「へ?や、そ、それはあれよ、え〜っと……そう!
カキ氷ってのが美味しそうだからつい興奮しちゃったの。
リクも分るでしょ?興奮したらちょっと言葉おかしくなるって」

 慌てて言い訳をするニースは、言葉がオドオドして落ち着きがない。
んっふっふっふ……可愛いじゃねぇか。ますますそそるぜ!

「ニース様、私は悲しいです。何度も何度も言葉使いを正してきたのに……お仕置きです」
「ひゃ!ゴ、ゴメン!もうヘンな言葉使わないから許してぇ〜!」
「許しません!貴女はいつもそうやって誤魔化している!これは愛の鞭です!!」
「い、いやぁぁぁ〜!いったぁ〜い!痛い!もうやめてぇ〜!!」

 両手をブンブン振り回し、無駄な抵抗するニース。
オレはそんなニースをひょいっと抱え上げ、小脇に抱えて小さな尻をバチバチ叩く。
叩く度に声をあげ、背中を反らしながらゴメンなさいと泣き喚くニース。
何度してもSプレイをしているようでなかなかいいな!
金髪美少女を苛めるなんて日本じゃいくら金を払ってもできないぞ?
ビバ!外国!ビバ!金髪!
十分にSプレイを堪能して満足したオレは、今度は尻の触り心地をチェックする事にした。

「ニース様、私はニース様が憎くて叩いているのではありません。
貴女に立派な女性になってほしくて叩いているのです」

 ホントは尻を楽しむためだけどな。
小さなお尻をスリスリサワサワモミモミと撫で回し、感触を楽しむ。
さっきまでは泣き叫んでいたニースは、オレのズボンをギュッと握り締め、
声を上げないように耐えている。
コイツ、尻が性感帯だな。そろそろ指を入れてもいいか?
う〜ん、まだ抵抗されるかもしれないな。失敗は許されないんだ、じっくりといくか。

「ん、あん……ねぇリク、アンタの手ってまるで魔法のようね。んん!」
「魔法?それはどういうことでしょうか?」
「アンタに痛いの飛んでけ〜ってされると、んあ!頭が真っ白になって、んん!
とっても気持ちいいの。
だから、あん、痛みなんてすぐに飛んでっちゃうの。ん、ホントに魔法の、んん!ようだわ」
 
 もう感じちゃったのか?ニースはエロい女だな。大きくなったらどんだけエロくなるんだ?

「ニース様はきっと立派な女性になられますよ。このリクがそうしてみせます!」

 そう、立派なエロ女にしてやんよぉぉ〜!

「ん、あん!そ、そうかな?なれるかな?」
「えぇ、きっとなれます。いいえ、必ずなります!」
「アタシもナルディアみたいになれ……はぅ!ちょ、ちょっとリク!
なんでお尻の……触るのよ!」
「申し訳ありません。ニース様の痛みを取るのに必死で、
つい、お尻の穴を触ってしまいました」
「こらぁ!そんな恥ずかしい事は言わなくていいの!」
「本当に申し訳ない」
「ひゃん!こ、こらぁ……ダメェ、お尻の…触っちゃヤダァ……はぁはぁはぁ……ふあああ!」

 イヤだと言いながらも、オレにされるがままに抵抗をしないニース。
小指を下着の上から穴にスリスリしても、身をよじり声を上げるだけだ。
これはもうどんなに触っても怪しまれないな。
ていうか最初から怪しんでる雰囲気はなかったけどな。
オレ、日本人でよかったよ。尻を触りたい放題しても怪しまれないんだからな。
お父様、お母様。貴方達の自慢の息子は、
遠い異国の地で日本人として立派に生きています。
日本人に産んでくれてありがとぉぉぉ〜〜!!



 シャコシャコシャコシャコ……

 アタシの耳に聞こえる氷を削る音。
リクが言ってた『カキゴオリ』とか言うデザートを作る機械がついに届いたの!
思ったよりも小さいらしく、アタシの部屋でリクに作らせてるわ。
今日もリクと2人きり……ゴクリ。またお仕置きされちゃうのかな?
叩かれるのはイヤだけど、リクに痛いの飛んでけ〜ってされるのはスキなのよね。
お尻を撫でてもらうのがスキなんておかしいのかな?
ナルディアに相談したいけど、
お仕置きされてるのがバレたらセップクだし……セップク怖いよぉぉ〜。
ナルディアにはセップクは昔の話だって聞いてたんだけど、
リクは今でもしてるって言ってたし……ニッポンジンって恐ろしいわね。
……ナルディア?そうだわ、ナルディアにも食べさせてあげよう!
たまには配下の者にも施しをしなきゃね!

「リク!『カキゴオリ』をナルディアにも食べさせるわよ!」
「は?私は別にかまいませんが、急にそんな事を言い出すなんてどうしたのですか?」
「たまには施しをしなきゃね!使用人の心を掴んでないと、いい当主にはなれないわ」
「はぁ、分りました。ですがナルディアさんだけでよろしいのですか?他の者はどうします?」
「はん!アンタまだ分ってないの?この屋敷の使用人どもを仕切ってるのはナルディアよ!
頭さえ抑えておけば、後はどうにでもなるわ。アンタも覚えておきなさい」
「はぁ、分りました。ではナルディアさんを呼んでまいります。
っとその前に、カキ氷が出来上がりましたが、どのシロップをおかけしましょうか?」

 やた!『カキゴオリ』がついに出来上がったのね?
氷を削って雪のようにしてからシロップをかけて食べるなんて、涼しげなデザートじゃないの。
すっごく楽しみだったんだから、早く食べさせなさい!

「なんでもいいわ。いいから早く食べさせなさい!」
「とりあえずイチゴ味とメロン味を取り寄せているのですが、イチゴでよろしいですか?」
「イチゴとメロン?どっちがいいの?」
「そうですね、イチゴというのは赤い色をしている甘いシロップです。
赤とはどのような色かといいますと、ワガママを言う悪い子供の頭を鈍器で殴り、
吹き出た血の色といえば分りやすいでしょうか?」
「……ゴクリ。わ、分んないけど、イチゴはイヤね、メロンがいいわ」

 どんな色の表現をすんのよ!食欲なくなっちゃうじゃないの!

「分りました、メロン味のシロップですね?メロン味のシロップは緑色をしていまます。
緑色というのは、ワガママを言う悪い子供に無理やり飲ませる、地獄のような苦さの薬の色で
ございます」
「……リクのイジワル!なんでそんな言い方するのよ!食べれないじゃないの!」

 このバカリクがぁ!なんでそんな気味の悪い言い方をするのよ!

「はははは!冗談でございます。ナルディアさんを呼んできますので、しばらくお待ちください」

 食欲をなくすようなイヤなことを言って、部屋を出て行くリク。
……鈍器で殴って吹き出た血の色って何よ?地獄のような苦さの薬の色って何よ!
もう!そんな事言われたら食べれないじゃないの!どうしてくれんのよ!
……ニッポンじゃそんなことするのかな?
ワガママを言う子を鈍器で殴ったり、地獄のような苦さの薬を飲ませたりするのかな?
アタシは素直でいい子だから関係ないわよね?
……アタシもされちゃうのかな?ヤダ!ぜったいにヤダァァ〜〜!!



「……ニース様はなぜ頭を抱えて転がっているのです?
リク、あなたニース様に何をしたのですか?」

 ニース様が私を誘ってくださるなんて……初めてのことに戸惑いながらもニース様の部屋に
来てみた。
何故かニース様が部屋の真ん中で、頭を抱えて何故か転がっている。
コロコロと転がりながら『ニッポン怖いよぉ〜』と嘆いている。
リク、あなたはいったい何を教えているのです?

「ナルディアさん、そんなに睨まないでくださいよ。ちょっとした冗談を真に受けてるんですよ」
「ニース様に危害を加えようものなら……殺しますから」
「イ、イヤだなぁ、そんな冗談止めてくださいよ」
「……冗談は嫌いです。それよりニース様!お行儀が悪いですよ?」
「はっ!ナ、ナルディア?よく来てくれたわね!
いつも迷惑を掛けているお礼よ、アタシが取り寄せるように指示を出した『カキゴオリ』、沢山食
べなさいな」

 ニ、ニース様がこのような言葉をおっしゃるなんて初めてね。これがニッポン流教育の成果な
の?

「あ、ありがとうございます。では早速頂きます。……リク、早く作りなさい」
「ナルディアさん、殺すって冗談ですよね?ねね?」
「冗談のままにしておきたいわね。で、この機械で氷を削って食べるのですか?」
「え、ええ、そうです。では早速作りますので。……さっきの話は冗談ですよね?」

 私の顔色を窺いながら、小さな機械で氷の塊をゴリゴリと削るリク。
以前にモップで喉を抉るフリをしたのが効いてるわね。……私は冗談はキライよ。

「……おし!出来ましたよ!さ、ニース様、ナルディアさん、溶けないうちに食べてください」

 ガラスの器にこんもりと盛られた氷を削り、まるで雪のようなカキゴオリ。
その上に赤色と緑色のシロップをかけてニース様と私の前に差し出す。
これがカキゴオリなのね、冷たそうでとても美味しそうだわ。今日のような暑い日にはちょうどい
いデザートね。

「さ、ニース様。リクが食べさせてあげますね。カキ氷は一気に食べるのがいいんですよ」
「一気に食べる?どういうことなの?」
「さ、口をあけてください。行きますよ?」

 そう言ってニース様の小さなお口に次々と、赤色のシロップがかかったカキゴオリを放り込む
リク。
なるほど、これがニッポン流のカキゴオリの食べ方なのね。
ゆっくりと食した方が良さそうだけど……ニッポン流で食べてみましょうか。 
リクの言うとおりにパクパクと、冷たいカキゴオリを口に運ぶ。
確かに冷たくて美味しいけど、急いで食べる理由が分らな……痛ぅ!あ、頭が!痛いわ!

「リ、リク!ちょっと待って!あ、頭が割れるのよ!キーンって痛いのよ!」

 私と同じく頭に痛みが走り、リクの手を止めるニース様。
こ、これはキツイ食べ方ね。ニッポンジンは何故このような食べ方をするのかしら?
……頭が痛いわ。
あまりの痛さに眉間を押さえ、呻いてしまう。
やはり東洋の神秘ね。ニッポンジンは何故このような食べ方をするのかしら?
不思議に思い、リクを見てみる。……何故お腹を抱えて笑っているの?

「あっはははは!ダメですよ、行儀悪く一気に食べたら頭が痛くなりますよ?
いや〜、見事な騙されっぷりですね。ナルディアさん、そう思いませんか?」

 ……セイ!

「ごぼを!……ナ、ナルディアさん、何故に?」
「……死ね。ふん!」
「ナ、ナルディ……ゴブ!」
「ナ、ナルディア?なんか蛙を踏み潰したような呻き声がしたんだけど、
今のってリクの声よね?」
「……ニース様、今、紅茶を用意しますので少し我慢してください」
「ナルディア?リクはどうしたの?なんかうめき声が聞こえて気味が悪いんだけど?」
「かしこまりました。……ふん!」

 ……グチャ!

「ひでぶ!」
「……これでうめき声も上げれないはずですよ」
「よ、よく分んないけど……アタシは何も聞かなかったことにするわ!」

 冷たいカキゴオリを一気に食べたため、カタカタ震えているニース様に紅茶をお出しする。
こんな冷たいものを一気に食べさせるなんて、リクは何を考えているのかしら?
オドオドしながら紅茶を口に運ぶニース様。
お可哀想に……よほど冷たかったのでしょうね。
目の見えないニース様を騙して楽しむなどと……ふん!
ピクリともしないリクに、2回目のトドメを入れる。
ニース様をコケにした報い、存分に味わいなさい!

 ……ニース様、まだ震えてるわね。もう2,3回、トドメを入れるべきかしら?



「リク、アンタ生きてたの?大丈夫?」

 目が覚めるとオレは自分の部屋で寝ていた。
喉やら鳩尾やら腹やら後頭部やら……まぁ、体中いたるところがズキズキ痛い。
なんでこんなに痛いんだ?
確かニースの部屋でカキ氷を作ってたはずなのに……そう思い、ニースに部屋に来てみた。
部屋に入るとオレを心配するニース。いったいオレに何があったんだ? 

「……ニース様、私に何があったのでしょうか?カキ氷を作ってたはずなのに、記憶が一切な
いんですよ」
「アンタがヘンなこと言って、アタシとナルディアを騙したから、ナルディアが怒っちゃって……」
「ナルディアさん?ナルディアさんがどうかした……な、なんで身体が震えるんだ?」

 ナルディアさんの名前を聞いた瞬間、ガタガタと震えだすオレ。
なんだ?なんで震えるんだ?なんで歯がガチガチ震えるんだ?

「リク、アンタ災難に遭ったわね。それにしてもナルディアがあんなに怖いとは知らなかったわ。
それより身体、大丈夫?リク、ココに座りなさい」

 ベッドに座り、自分の隣をポンポン叩き、オレに座るように促す。
は?何をする気だ?もしかして、オレを誘ってんのか?
期待に股間をドキドキさせながらニースの横に座る。
押し倒していいのか?やっちゃってもいいのか?ハメてもいいのか?

「リク、痛かったでしょ?いつもはアタシがしてもらってるけど、今日はアタシがしてあげるわ。
痛いの痛いの飛んでいけ〜。痛いの痛いの飛んでいけ〜」

 ニースはその小さな手で、オレの頭を『痛いの痛いの飛んでいけ〜』とナデナデする。
なんだろう、この感じは?こんな事されたのすっげぇ久しぶりだ。
一生懸命『痛いの痛いの飛んでいけ〜』と撫でてきて、
時折『痛いの治った?』と聞いてくるニース。

「ニース様、ありがとうございます。おかげで痛みはもう大丈夫です。
ニース様の手は魔法の手ですね。痛みが消え去りましたよ」
「ホント?アタシがしても痛みが引いたの?」
「えぇ、もう全快しましたよ。これもニース様が『痛いの痛いの飛んでいけ〜』としてくれたおかげ
です」
「そっかぁ、アタシにも出来たんだ。……出来ることがあるんだ」

 エヘヘヘと嬉しそうに笑顔を見せるニース。

「ニース様、とても嬉しそうですがいったいどうなされたのですか?」
「ん?なんでもないわ。ねぇリク、これって他の人にもしていいかな?ナルディアにしてあげたら
喜ぶかな?」
「ええ、それはもう大喜びでしょう。きっと涙を流して喜んでくれますよ」
「ホント?おじい様も喜んでくれる?」
「もちろんです。カシュー様も涙を零してお喜びになられますよ」

 オレの言葉でご機嫌になるニース。枕を抱きしめ、
嬉しそうにベッドの上をゴロゴロと転げ回る。
なんだ?何がそんなに嬉しいんだ?喜ばれるのがそんなに嬉しいのか?

「ニース様、いったいどうなされたのですか?とても嬉しそうですが?」
「な、何でもない……ねぇリク、誰にも喋らないって約束出来る?」
「ええ、喋りません。お約束いたします」
「ホントね?もし喋ったらセップクだからね?
……アタシ、事故で目が見えなくなってからね、皆にすっごく酷い態度取ってきたの。
貶したり、罵ったり、自分でも最低な人間だって思うほど酷い事を言ってきたわ。
自分でも分ってたの。こんなんじゃいけないって。
こんなことしてたら死んだお父様やお母様の名前を汚すって」

 枕を抱いたまま暗い表情で話すニース。
これはかなり重い話だな。聞かなきゃよかったかな?

「アタシね、このままじゃいけないって分かってたの。
だからね、少し前にみんなの役に立つ事何かしようと考えてみたの。
でもね……アタシ、目が見えないでしょ?
だからナルディアたちの手伝いをしようとしても邪魔になるだけだったの。
余計な仕事を増やすだけだったの。
『ニース様、仕事の邪魔をするのはいい加減にしてください』とか言われちゃったしね。
だからね、そんな何もできない自分にイラついちゃって、みんなに八つ当たりをしちゃったの。
『アタシは何もできないんだ、邪魔者なんだ』ってね」

 そうか、コイツはコイツなりに一生懸命自分を変えようと考えてたんだ。
コイツ……いい子じゃねぇか!すっげぇいいヤツじゃねぇか!

「ニース様、自分を変えるというのはとても難しい事です。
それに挑戦しようとするニース様を、リクは応援いたします!」
「……うん、アリガト。ねぇリク、アタシ変われるかな?いい子になれるかな?」
「お任せください。このリクがいい子にして差し上げます!」
「エヘヘヘ……うん、なんか変われるような気がしてきたわ」

 照れているのか、頬を赤く染め微笑むニース。
オレはそんなニースをギュッと抱きしめてしまう。

「お任せください!このリクがニース様を変えます!きっと変えてみせます!」
「リ、リク?い、痛いわ!そんなに強くされたら痛いのよ!」

 邪まな考えを持ってニースに接してきたオレだったけど、
ニースの心の内を聞いて何かが変わった。
この日を境にオレは本気でニースに接するようになった。
なぜならオレにはニースと一緒にいられる残された時間があまりないからだ。
残されたわずかな時間でニースを変えてみせる!
小さなニースをギュッと抱きしめそう誓った暑い日の夜だった。

 ……いい抱き心地だな。ちっちゃくてもさすがは女の子、下半身が疼いてくるぜ。




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