「ナルディアさん、ニース様はどうでしたか?」

 凄惨な殺人現場から逃げ出したオレは、犯人が出てくるのを部屋の外で待っていた。
しばらくすると、ドアを開けて殺人犯が出てきた。
……ホントに殺してないよね?ニース、死んでないよね?ねね?

「……リク、ニース様は暴れ疲れてお休みになられたわ。
ねぇリク、貴方はここを本当に出て行くつもりなのですか?」

 ……疲れて寝てるだと?アンタが殺しかけたんじゃないのか?
思わず口に出しそうになった言葉を飲み込む。……オレ、被害者にはなりたくないんだよ。
真剣な顔でオレを見ているナルディアさんを見てゾッとする。
うおおお!背筋が寒くなったぞ!いくら綺麗な女でも、殺し屋は勘弁だな。
特に、自分が危険だと意識してない殺し屋ほど、危ないヤツはいないもんな。

「えぇ、出ていくつもりです。最初からそういう契約ですし、自分には親もいますからね」
「そうですか……親の都合で仕方なく出て行くのですか?
それとも望んで出て行きたいのですか?」
「は?どういう意味ですか?」

 なんだ?いきなり何を聞いて来るんだ?訳が分からん……ま、まさか!
もしかして答えを間違ったりしたら、粛清されちゃう?
オレ、もしかしてロックオンされてる?殺されちゃう?……死ぬのはいやぁぁぁぁ〜〜!

「出来ることならこのままでいたいのか。
ここでこのままニース様の使用人として働いていたいのかと聞いているのです」
「は?ニース様の下で働き続けたいのかということですか?う〜ん、どうだろうなぁ?」

 落ち着け。落ち着いて答えを探せ!間違えたら抹殺されちゃうぞ!
……でも、確かにここでの生活は楽しかったよな。
ロリっ子を好き勝手に弄れるってのも日本じゃありえない話しだし、けっこういい給料だし。
……ニースがどんな女に成長するのか、見てみたかったな。
アイツ、ワガママで強がりで……でも、優しくて寂しがり屋なんだよな。
最初の頃はワガママを注意すると『アンタなんかニッポンへ帰っちゃえ!』って何度も言われた
もんな。
そのくせ、オレが教える日本の話を嬉しそうに聞くんだよな。
……8割方ウソを教えてたのにな。
オレの事をまったく疑おうともしない、素直でいい子なんだよなぁ〜。
お仕置きでお尻を叩くのも疑わなかったし、尻に指を突っ込んでも疑わない。
クンニしても大丈夫だったし……多分、アナルファックしても大丈夫だと思う。
……それだけオレを信用してるってことか。初めてだな、人にここまで信用してもらえたのは。
オレ、そんなニースを騙して、やりたい放題してるんだよな。
はぁぁ、我ながら最低な男だな。よくこんなオレを信用したな。アイツ、馬鹿じゃねぇのか?
……少しは役に立ったのだろうか?
オレ、ニースの為に、少しは役に立ったのかな?アイツの力になれたのかな?
オレ、ニースがこれからの人生を強く生きていく為の力になれたのかな?

「リク?ボ〜っとして、どうしたのです?」
「……ナルディアさん、オレ、ニースの役に立てたのかな?
少しはあの子の役に立てたのかな?」
「そうですね、貴方は私達には出来なかった事をしてくれました。
短い間だけど、貴方と過ごした事で、あの子にも考えることがあったのでしょう。
以前と違い、見違えるように素直で、優しくなりました」

 ……はぁ?今、なんて言った?見違えるように素直で優しくなった?
じゃ、何か?オレが来るまでアイツは素直じゃなく、優しくもなかったってのか?
……ふざけんじゃねぇ!人間がそう簡単に変わるかよ!
てめぇらがニースを甘やかし、ワガママに育ててたんだろ言うが!

「……それは違う。ニースはオレが来た時から、素直で優しかった。
まぁ少しは……いや、かなりのワガママ娘だったけどね。
でも、ニースの優しさや素直さに気がつかなかった、
ニースをワガママにさせていた、アンタ達が悪い。
ニースをワガママなだけの子だと決め付けていた、アンタ達全員が悪い!
アイツはまったく悪くない!」
「……そうね、あの子は悪くないわ。全てはリクが言うように、私達が悪いわ。
あの子を可哀想な子供と決め付けて、腫れ物を触るように接してきた私達が悪い。
……ねぇ、リク。ニッポンに帰るをを取り止めてもらえないかしら?
今の言葉を聞いて、確信したわ。あの子にはあなたが必要だわ」
 
 ナルディアさんはオレの話を聞いて興奮したのか、
少し頬を赤く染めながら、オレの手を両手でギュッと握り締めてきた。
そしてオレを見つめながら、日本へ帰らないでくれと頼んでくる。
おお?高感度アップか?これはナルディア攻略フラグ、建ったのか?
これは上手く立ち回ればSEXまで持っていける……イテ!イテテテ!
手、手が折れる!手が砕ける! 

「いがががが!わ、分かりました!分りましたから手を離し……折れる!
手からボキボキと変な音が!嫌な音が!破滅の音が!……イッギャァァァァ〜!」

 ……ニース、お前の気持ちが分ったぜ。オレ達、いろいろと分かり合えるかもしれないな。



「ニース様、大丈夫ですか?生きてますか」 
「……ナルディアはいないでしょうね?」
「ええ、暴れ疲れて寝ているって言ってましたよ。……寝たふりとはやりますね」
「リク、アタシは実感したわ!人間、生命の危機に立たされるとなんでも出来るのよ!」
「ははは、私も今しがた生命の危機に遭っていた所です。
ニース様のお気持ち、よく分りますよ。よ〜っく分ります!」

 そう、つい今しがた、手を圧し折られるところだった。
ニースが前から絞め殺されるとか言ってたのは、
ヘタな冗談だと思ってたんだが……冗談であって欲しかったなぁ。
ズキズキと妙な痛みがする右手を擦り、ブルブルと震える。
なんであんな細い腕で、怪力なんだ?なに食べたらああなれるんだ?

「ところでニース様、お話があります」
「話?話ってなによ?……あ!もしかしてやっぱりここで働きたいってんじゃないでしょうね?
まぁホントなら一度辞めると言った裏切り者は許さないんだけど、アタシは心が広いの。
許してあげてもいいわよ?ただし!……その、お仕置きは時々にしてね?」

 真っ赤な顔でブツブツと呟くニース。
働かせてあげる代わりに、お仕置きを時々にしてほしいと言ってきやがった。
これはあれだよな?時々お仕置きを……尻を苛めてほしいってことだよな?
おいおいおいおい!完璧に開発出来てるじゃねぇか!後はいつぶち込むかだな!
……ってこんな話をしに来たんじゃねぇっての!

「ニース様、ここで働き続けるかは質問の答えを聞いてからです。
ニース様、カシュー様に聞きました。角膜移植、何故断わられたのですか?」
「ええ?おじい様、話しちゃったの?もう!なんで話すのよ!」
「いいから答えてください!何故角膜移植手術を断わられたのですか?
目が見えるようになるチャンスなんですよ?
カシュー様やナルディアさん、それにこのお屋敷で働く他の皆も、
ニース様の目が見えるようになることを待っているんですよ?」
「うっさいのよ!アタシにはその皆がいるわ!
皆がアタシの目の代わりになってくれる、だから必要ないのよ!」
「……ウソですね。ニース様はこんな大事な事までウソをつく悪い子なんですね。
皆の心配を無にするような悪い子には……お仕置きです!」
「へ?なんでお仕置きなのよ!ウソなんかついてないわ!ちょっと待って……ひゃん!」

 暴れるニースを小脇に抱え、その小さな尻にビンタをバチバチと喰らわす。
絶対にウソをついている!オレには分かる、ニースはウソを吐いている!
……かどうかは、正直よく分らん。
でもドラマとかじゃ、こういう時って大概はウソを吐いてるもんな? 

「ひぎゃ!痛い!リク、いつもより痛いわ!全然気持ちよくない!
もっと優しく……ひぎゃ!痛い!」

 ニースが何かを言っているが無視して叩く。
絶対に本当の事を吐かせてやる!本当の事を言うまで、ずっと叩き続けるからな!

「さぁ本当の理由を言うのです!ウソはいけないと何度言えば分るのですか!」
「ひっく、言うからぁ!言うから止めてぇ〜!」

 濁った目からボロボロと涙を零し、話すからと言い出したニース。
いつもより強く叩いた為、尻がよほど痛いのか泣きじゃくっている。
やり過ぎてしまったかもしれんが、これも全部手術を嫌がる本当の理由を聞くためだ。
さぁ、嫌がる理由を話してもらおうか!……ヘタなウソだったらもっとキツク叩くからな!

「ひっく、ヤなのぉ。ひっく、……みんなが、グス、優しくしてくれなくなるのがね、イヤなの。
……目が見えるようになったらきっと、グス、アタシのことなんかどうでもよくなっちゃうんだ。
ワガママなアタシなんか、ひっく、みんな嫌いなんだ。目が見えないから優しくしてくれてるんだ。
だから目が見えるようになったら、みんなアタシの事を……ヤダァ〜!
そんなのイヤ!ナルディアやおじい様、リクが冷たくなるのはイヤなの!絶対にヤダァ〜!」

 ワンワンと大声をあげて泣き出したニース。
皆に嫌われるのがイヤ?手術をして目が見えるようになったら、皆が優しくなくなる?
そんな子供のような理由で手術を断わっていたのか?……いや、コイツはまだ子供だ。
こんな小さな身体で、目が見えないという不安と戦って……
不安だからワガママを言ってしまい、でも嫌われたくなくて……
こんな小さな身体で頑張ってたんだな。1人で色んな不安を抱えて頑張ってたんだな。
思わずニースをギュッと抱きしめてしまう。……ホントに小さな身体だ。
こんな身体に大きな不安を抱えて……チクショウ!
なんでニースが辛い目に遭わなきゃいけなんだ?

「ひっく、リク、いなくならないで……お願いだからアタシの側にいてよ!
ニッポンへ帰るなんて……ヤダ」

 フルフルとオレの腕の中で震えているニース。
そこまでオレを必要としてくれてるのか?
オレ、他人にココまで必要とされたこと、今までなかったぞ。
……おし、決めた。オレ、ここに残ろう。残ってニースと暮らそう。
ここまで必要とされちゃ、断われないよな?よし、帰らずにここに残ってやるとするか!

「……分りました。私はニース様の下で働きます。ずっと働きます!」
「……ホント?ウソじゃないわよね?いなくなったりしないよね?
ウソ吐いたらお仕置きなんだからね?」
「ええ、約束します。この間、ウソを吐かないと2人で指きりしましたよね?」
「エヘヘヘ……アリガト。アンタを一生アタシの目として使ってあげる。
アンタは目、ナルディアは手足として、3人でずっと一緒に暮らすのよ!」

 ……はい?オレやナルディアさんを目や手足にする?
それってずっと手術をしないってことか?オレ達にずっと世話してもらうってことなのか?

「ニース様、手術は一生しないおつもりですか?」
「する必要がないでしょ?だってアタシには、リクとナルディアがいるんだからね!」
「ですが、せっかく目が見えるようになるチャンスなんですよ?」
「もう!しつこいわね!アンタ達がいるんだから、必要ないんだって!」

 おいおい、コイツ、自分が何を言っているのか分ってるのか?
角膜移植なんて、そう簡単に出来るもんじゃないんだぞ?
きっとカシューじいさんが影で動いたおかげで、出来るようになったはずなんだ。
それをコイツは……いや、問題はそこじゃない。
問題は……オレやナルディアさんに、頼りきろうとしてることだ。
コイツこのままじゃ、自分1人じゃ何もできない……何もしようとしない、
最低な人間になっちまうんじゃねぇのか?
オレ達が側にいたら甘えて、そうなっちまうかもしれない。……そんな人間にはしたくない。
ニースには今のまま、ちょっとワガママだけど優しくて素直な、いい女に育ってほしい。
ニースを……クズのような人間に育てるわけにはいかないんだ!

「ニース様、やはり私は日本へ帰ります。私は、この屋敷から消えなくてはいけないのです」
「へ?帰る?……えええ?なに言ってんのよ!そんなワガママ許可しないわ!
アンタ、ずっとここで働くって言ったばかりじゃないの!……ねぇなんで?なんでなの?」

 あ〜あ、せっかく泣き止んでたのに、また泣かせちまったな。
こりゃナルディアさんに、叱られるかな?
でもな、ニースがいい女に育つために、オレが障害になるってのなら……喜んで消えよう。
ナルディアさんがいなくなる訳にはいかないからな。

「私が帰る理由ですか?それは……ニース様、あなたですよ」
「ひっく、アタシが悪いの?だったら直すから。悪いとこ全部直すから!
いなくなるなんて言っちゃヤダ。……リクがいなくなるなんてヤダよぉ」

 オレの胸に顔を埋め、ワンワン泣き出すニース。
ゴメンな、お前の気持ちは嬉しいよ。でもオレ、ここにいちゃダメなんだ。
オレかナルディアさん、どちらかがいなくならなきゃならないんだ。
でないとお前はこれから一生、人に頼って生きていくことになる。そんなの嫌だろ?
自分で出来ることは自分でやる。ニース、お前、オレにそう言ったよな?
オレが言ったウソを真に受けて、頑張るって言ったよな?
……本当はオレも、お前と一緒にいたい。
でもな、オレとナルディアさんの2人がいたら、お前の為にならないんだ。
だからオレがここからいなくなる。オレは元々部外者だしな、いなくなっても大丈夫だろ?

「ニース様……私はいなくなります。あなたの目の代わりにはなれません」
「やだぁ……ヤダヤダヤダヤダ!いなくなるなんて言っちゃヤダ!」
「ニース様、目の手術をしてください。大丈夫です、目が治ってもみんな優しくしてくれます。
ニース様はこのお屋敷の皆に愛されてますよ。このリクが保障しますから大丈夫です!」
「ひっく……っっちゃえ。バカリクなんて、もうどっか行っちゃえぇぇぇ〜!」

 両手をブンブンと振り、暴れるニース。
その手が顔を叩くが、たいして痛くはない。オレは暴れてるニースをベッドに座らせる。
そしてオレを罵倒するニースを無視して部屋を出た。
オレは部屋の外で待っていた二人に……カシューじいさんとナルディアさんに報告する。

「カシュー様、ナルディアさん……オレ、今日でここを辞めます。辞めて、日本へ帰ります」

 

 昼食の準備が出来たのでニース様を呼びに行く。
ふぅ……ニース様、昨日から何も召し上がってないわ。
よほどリクがいなくなると言ったのが、ショックだったのね。
そのリクも、今朝、出て行ったし……ニース様、見送りにも来なかったわ。
リクもリクよね。もう少し先延ばしに出来なかったのかしら?
あんなに泣かれたニース様は初めて見たわ。……よほどリクの事が気に入ってたのね。
少し嫉妬しちゃうわね。もし私がいなくなると言えば、同じように泣いてくださるのかしら?

「ニース様、昼食の準備が整いました」

 部屋の扉をノックして声をかける。……返事がないわ。やはりまだ落ち込んでいるんだ。
仕方がないわね。無理にでも連れて行って、少しでも食べさせなきゃ。
じゃないと身体に悪いわ。

「失礼します。昼食ぐらいはおとり下さい。昨日から何も食べてないではありませんか」

 ドアを開け、ベッドにうつ伏せに倒れるように寝転んでいるニース様に声をかける。
……まだ泣いているんだ。小さな肩が、フルフルと震えてるわ。

「……いらない。なにも食べたくない」
「ニース様……お気持ちは分ります。ですが少しはお食べにならないと……」
「……分る?アンタになにが分るっていうのよ!アタシの気持ちの、何が分るって言うのよ!」

 大声を上げながら、両手でボスボスとベッドを叩きだしたわ。
……リクがいなくなって、よほど悲しいのね。
ベッドに顔を埋めたまま嗚咽を漏らし、ベッドを叩き続けている。

「リクは……リクはアタシが嫌いになったのよ!アタシが大キライになったからいなくなったの
よ!ひっく、ねぇナルディア。なんで嫌われたのかな?
リク、なんでアタシの事イヤになったのかな?」
「ニース様、リクは屋敷を出る際、ニース様の事が大好きだと言ってました。
最後にニース様の顔を見たかったとも言ってましたよ」

 泣きじゃくっているニース様に、リクから頼まれていた伝言を伝えることにする。
もう少し落ち着いてから伝えようと思っていたけど、このままじゃ身体を壊されてしまうわ。

「ぐす……ウソ。だったらなんで出て行ったの?アタシの事、キライになったからでしょ?」
「違います。リクはニース様の為に出て行ったのです。
私もリクの話を聞いて思い知らされました。
誰よりもニース様の事を大事に思っていたのは……リクだと。
私事で申し訳ないのですが、実は私、ある男性からプロポーズされていたのです。
ですが、リクの話を聞いて断わりました。……リクにニース様を託されたのですから」
「ええ?ナルディア、やっぱり結婚を考えてたの?ぐす、アンタもいなくなるんだ。
ひっく……ええ?こ、断わったの?えええ?アタシを託されたってなに?
リクはなにを言ってたの?」

 ガバっと起き上がり、驚きの表情を見せるニース様。
私の話に興味を持ったのか、やっと顔を上げてくれたわね。
……酷い顔ね。一晩中泣いていたのでしょうね、目が腫れてるわ。
顔にはベッドの跡がくっきりとついてるし……服はしわくちゃ。
とてもじゃないけど外へは連れて出れないわね。

「リクは今朝お屋敷を出て行く時に、私とカシュー様にこう言い残しました。
『本当は自分も働きたいです。
ですがここで私が働くという事は、ニース様の為にならないのです。
ニース様は、私を自分の目にすると言ってくださいました。
ナルディアさんを手足にするとも言ってました。
それは私にはもったいなく、大変名誉な事です。
ですが……ニース様御自身の為になりません』とね」
「なにがアタシの為にならないの?リクはなにを考えているの?」

 涙も止まり、私の話に夢中になっているニース様。リクのことになると真剣に話を聞くわね。
短い時間しかいなかったけど、よほどリクが気に入ったんだ。

「リクはその理由をこう言っていましたよ。
『他人に頼りきることは、ニース様の人としての成長を妨げます。
本当なら1人で何事も出来るようにならなければいけませんが、
さすがにそこまでは無理でしょう。ですから新参者の私がこの屋敷を去るんです。
まぁ私には日本に親もいることですしね。ですからナルディアさん、ニース様を頼みます!
自分の分までしっかり守ってあげてください!』
フフフフ……頭を深々と下げてこう言っていたわ。
ニース様、リクにずいぶんと大事に思われていたんですね、少し驚きました」

 そう、驚いたわ。私にニース様を頼むといってきたリクの顔、凄く真剣だったしね。
……あら?ニース様、また泣いているの?
肩をフルフルと震わせて、涙を零すニース様。
唇をギュッとかみ締め、声をあげるのを我慢している。
これは嬉し泣きね。リクに大事に想われてたって聞いて、凄く嬉しいのね。
ウフフフ、なんだかイジワルしたくなっちゃったわ。
よし、ちょっと泣かしちゃおうかしら?……うん、もっと嬉し泣きをしてもらおう。
昨日から部屋に閉じこもって散々心配させたんだから、
そのくらいはさせてもらってもいいわよね?

「ニース様、リクからの伝言です。
『ニース様、目が治ったら会いに来ますね。その時はまた雇ってもらえますか?』
リクはそう言ってましたよ。
ですからニース様、角膜移植の手術をお受けになって……ニ、ニース様?」
「ひ、ひぇぇぇ〜ん!リク〜、ヤだよぉ、いなくなるなんてヤだぁ〜!
ひっく、いい子にするからぁ、ひぐ、手術も受けるから……いなくならないでぇ〜!うえぇぇ〜ん」

 わ、わわ!これは嬉し泣きどころじゃないわ!大泣きしちゃった!
ど、どうしよう?まさかここまで泣かれるとは思っていなかったわ。
大きな口を開け、ワンワンと泣きじゃくるニース様。
う〜ん、これは……もの凄く可愛いわ。ずっと見ていたいわね。
けどそうも言ってられないわ。まだ言伝が残ってるんだから。

「ニース様、実はリクからもう一つ頼まれていることがあります。
リクは屋敷を出る際、私に封筒を渡して行きました。
中にはニース様宛の手紙が入っているそうです」
「ひっぐ、でがみ?ナルディア、ひぐ、ぞのでがみ読んで。りぐのでがみ読んでよぉ〜」
「ダメです、リクとの約束なんです。それは出来ません」
「なんでよぉ〜、イジワルしないで読んでよぉ〜」

 ヒックヒックと肩を震わせながら、文句を言ってくるニース様。
……カ、カワイイ!すっごくカワイイわ!
思わずギュッと抱きしめてしまう。フルフル震えてすっごくカワイイ!
ニース様、私がリクの代わりにお守ります!ニース様を一生守り続けます!

「ひぃ!ナ、ナルディア?お、落ち着いてね?落ち着いて話してね?」
「はい、分かっております、ニース様」
「ホ、ホントに分かってるの?強く抱きしめちゃイヤだからね?
で、なんで手紙読んでくれないの?なんでそんなイジワルするの?」
「イジワルではございません。リクが手紙を渡す時、こう言ったのですよ。
『この手紙はニース様宛ですから、他の人は読まないように。頼まれても読まないで下さいね』
そう言われたので、私には読むことが出来ないのです。
ウフフフ、他人に秘密とは……もしかしたらニース様へのラブレターかもしれませんね?」

 ……ボボン!

 え?今のはなに?何か変な音がしたような?
不思議に思い、ニース様の顔をのぞいてみる。
……なんなの、これは?ニース様の顔が、まるでりんごのように真っ赤に染まってるわ。
え?真っ赤?私の冗談で、一瞬にしてニース様の顔が真っ赤に?
何故?何故そんな事になったのかしら?……まさかこの子、リクの事を?

「そ、そうなんだ……ラブレターなんだぁ。エヘヘヘ、ラブレターかぁ……エヘヘヘヘ」

 な、なにこの表情は?さっきまで泣いていたとは思えないほど緩みきった顔。
今まで見たことがないくらいに、フニャフニャな顔ね。
……もしかしてこの子、本当にリクの事を?
そういえばこの子、今まで屋敷で働く男以外に、異性と接することがなかったわね。
う〜ん、しまったわ、どうすればいいかしら?
この子、おそらく……いえ、確実にリクに恋してるわね。
う〜ん、本当にどうすればいいのかしら?
私がアドバイスできればいいんだろうけど、あまり恋愛経験がないからアドバイス出来ないわ。

「いぎゃ?ちょ、ちょっとナルディア?強いわ!強く抱きしめすぎ……ひぎゃ!」

 う〜ん……カシュー様に相談すべきかしら?
……カシュー様?ダメダメ!カシュー様になんか相談したら、私が何をされるか分らないわ!
昨日の夜だって、雰囲気に流されるまま……つい、その……ボン!

「ナ、ナル……い、息、出来な……たすけ、りくぅ…………かふ!」

 誰に相談していいのか分らずに、ニース様をギュッと抱きしめる。
本当に困ったわね。どうすればいいのかしら?……あら?ニース様?
昨日から泣き続けていた為か、私の腕の中でグッタリとお休みにななられたニース様。
私はそんなニース様に寝ていただく為に、ベッドを綺麗に整えて、そっと寝かせる。
ニース様、夢の中でリクと会えるといいですね。

 ……そういえばこの子、視力がないから、リクの顔を知らないんだったわ。
夢の中で会えるのかしら?




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