「……どうじゃニース?ワシ等の姿が見えるかの?」
「ニース様、私達の顔は見えますか?視力は戻りましたか?」

 リクがニース様の下を去ってからから2週間後、ニース様は角膜移植手術を受けられたわ。
そして、移植を受けてから包帯を外すまでの間に、12歳のお誕生日を迎えられた。
……ふふふふ、プレゼントには綺麗な服が欲しいだなんて、カワイイじゃないの。
きっとリクに見せるつもりね。……ホント、恋する乙女ね。

 そして今日、手術から3週間が過ぎ、目を覆っていた包帯を取る日が来た。
お医者様は『手術は成功しました』とおっしゃっていたから、
大丈夫だと思うけど……本当に大丈夫なのかしら?視力を取り戻せたのかしら?

「……ハッキリと見えない、ぼやけて見えるわ。うん……でも、見えるわ!
覚えていた顔より、少し老けたおじい様の顔。
覚えていた顔より、優しい表情をしているナルディア。
うん、見える……見えるわ!アタシ、目が見えるようになったわ!」

 キョロキョロと周りを見ながら、目が見えるようになったのを確かめるニース様。
よかった……本当によかったわ!嬉しそうに周りを見るニース様を見て涙が零れる。
これもリクのおかげね。……リク、連絡が全然ないけど、元気にしているのかしら?

「……ナルディアよ。お主の涙はベッドの上で、ワシにだけ見せてくれんかの?」

 嬉しさのあまり涙を流す私に、そっとハンカチを差し出してくださるカシュー様。
やっぱり優しいお方ね。こんな優しいカシュー様だからこそ、私は好きに……ベッドの上で?
もう!人前でイヤらしい事は言わないで下さい!
ニース様に聞かれたら、どうするおつもりですか!

(……イヤらしいことを言うカシュー様とは、もう夜を共にしません!)

 ニース様に聞こえないように、カシュー様の耳元で囁く。
カシュー様がこんなにイヤらしいお人だとは、知らなかったわ!

「おお、そうか、夜は嫌なのか。もちろんワシは昼でもかまわんぞ?
ただし、いつものように何回も求められては、身体が持たんでな。1日1度にしてくれんかの?」
 
 ニース様を気にしようともせずに話すカシュー様。
くっ!ニタニタと、イヤらしい笑顔を浮かべて……私はまだ貴方の物じゃありません!
雰囲気に流されるままに、何度も夜を共にしたのが間違いだったわ!

「う〜ん、ぼやけて見えるってのが気に入らないけど、まぁいいわ。
あ、この飾ってある服が、アンタ達からのプレゼントね?
リクと会う時には、これを着てあげるからね!」

 だいたい1日に1度だけってなんですか!1度だけでは足りません!
その、カシュー様と一つになっていると、落ち着くというか……気持ちいいというか……

「そうだ!ナルディア、手術したんだから、リクからのラブレ……手紙を渡しなさい!」 

 ……た、確かに何度も求めてしまう、私も悪いわ。
でも、私をそうさせているのは、貴方ではありませんか!せめて2回は抱いてください!

「ねぇ、ナルディア?なにヘンな顔してるの?アタシの話、聞いてるの?」

 1日1度って言われても、貴方のせいでこうなってしまったんですからね?
責任を取って2回はしてもらう……な、何を考えているのよ!
なに抱かれることを前提で考えているの?ナルディア!しっかりしなさい!

「ナルディア、一体どうしたの?どこか痛いの?治してあげようか?」
「ニ、ニース様……ニースさまぁ!よかったです!本当によかった!おめでとうございます!」

 違うことを考えていた私の身体を気遣ってくださる、とてもお優しいニース様。
そんなお優しいニース様のお心に、感動してギュッと抱きしめてしまう。
ニース様……本当によかった!手術成功、おめでとうございます!

「ヒィ!ナ、ナルディ……グェェ〜!た、助け……リク……息、出来な……」
「グスッ……ナルディアはこれからも一生、ニース様にお仕えいたします!」
「し、死に、たく……な…………い…………ガフ!」
「お守りいたします!私が一生お守りします!」

 ニース様の小さな身体を、ギュッと強く抱きしめて忠誠を誓う。
リクに託されたこの小さな御主人様を、これからもずっとお守りしよう!
私はニース様を力いっぱい抱きしめて、強く心に誓ったわ。



 ……包帯を取り、3ヶ月が過ぎた。
ニース様は手術のおかげで、視力を取り戻すことが出来たわ。
でも取り戻したといっても、ある程度しか見えない。
普段の生活は、かなりキツイ眼鏡をしないとダメみたい。
……意外とネガネが似合ってるのよね。
でも、それでも手術はカシュー様や私、それに屋敷で働く使用人達全員が待ち望んだこと。
それに……ニッポンのリクも、きっと喜んでいるはず。
私は手術成功をリクに知らせるため、手紙を書こうとした。でも、ニース様に止められたの。

『アタシが書くわ!ニッポン語で書いて、リクをビックリさせるんだから!』ってね。

 そして頬を赤く染め、こうも言ってたわ。

『その、ラブレ……て、手紙の返事も書かなきゃいけないでしょ?』とね。

 ニッポン語で、リクに手紙を書くために、来週からニッポン語の教師をつける予定。
視力がなかったため、読み書きができなかった子の考えとは思えないわ。
読み書きを教えていて驚いたのだけど、ニース様って、もの凄く頭がいいの。
一度教えた事は全て覚える。たった3ケ月で読み書き全てが出来るようになったわ。
この調子だと、ニッポン語もすぐにマスターしてしまいそうね。
カシュー様も大変お喜びになられているし……本当によかったわ。

 そのニース様は今、屋敷や敷地内を駆け回っている。
何故って?それは字が読めるようになったあの子に、リクから託されていた封筒を渡したか
ら。
その封筒の中には、あの子が期待した愛の手紙は入っておらず、
ただ一言、『カシュー様に手紙をもらえ』とだけ書かれていたの。
そのカシュー様に手紙をもらい、中を見てみたら『調理師のエトさんに手紙をもらえ』と書かれ
ていた。
その後も、次々と『〜〜さんに手紙をもらえ』と書かれた手紙を読まされていたわ。

『あのバカリクがぁぁ〜!なんでこんな面倒なことをすんのよ!ふざけてんじゃないわよ!』

 そう激怒しながら、律儀に手紙を読むために走り回ってる。 
で、今は、庭師のギムおじさんを探して、広い庭を駆けずり回っているところ。 
あの時リクが、何故私に手紙を2通渡したのか、なんとなく分ってきたわ。
フフフフ……あの子、最後の手紙を私が持っていると知ったら、怒るかしら?
引き出しの奥にしまってある、大きく『2』と書かれた手紙を取り出して、ニース様を待つ。
フフフフ、あの子、どんな顔してここに来るのかしら?
おそらく顔を真っ赤に染めて、怒鳴り込んでくるであろうニース様を想像し、頬を緩める。
そんな私の耳に、ドタバタと、廊下を走る音が聞こえる。
ウフフフ、ついにゴールにたどり着いたのね。
手紙を探し、お屋敷の中を駆け回って……ちょっとした冒険ね。

「ナァルゥディアァァ〜!アンタ、手紙を2通もらってたんなら、最初から渡しなさいよ!」

 真っ赤な顔で怒り心頭といった感じのニース様。
床をダンダンと踏みながら私に手を伸ばし、手紙を催促する。

「ニース様、お帰りなさいませ。お屋敷の中の大冒険は、どうでしたか?」
「大冒険って何よ!すっごく疲れたわよ!これも全部、黙ってたアンタのせいよ!
くっだらないイタズラを思いついた、リクもリクよ!アタシはもう歩き疲れたわ!」

 怒り心頭のニース様のあまりの可愛さに、笑いを堪えて手紙を渡す。 
真っ赤な顔で、頬をプクッと膨らませ、私の手から手紙を分捕るニース様。
フフフフ、ちょっと下品ね。けど、仕方ないかな?
待ちに待ったリクからの手紙なんですものね。
目を瞑り、手紙を抱きしめ、息を整えてから封筒を破り、中から手紙を取り出すニース様。
……カ、カワイイ。ギュッと抱きしめたくなる可愛さね。
でも待ちに待った手紙なんだから、邪魔しちゃいけないわよね?
あとで少しだけギュッとさせてもらおうかな?

「…………うきぃぃぃ〜!何なのよ!いったい何なのよぉぉ〜!」
「ど、どうされましたか?ニース様、いったい何が書かれていたのですか?」
「これ見て見なさいよ!ナルディア!アンタ他に手紙、隠してないでしょうね!」

 え?他に手紙って?いったいどういうこと?
手紙を私に差し出しながら、怒りに震えているニース様。
とりあえず差し出された手紙を読んでみる。

『最後の手紙は木の下に埋めてます』

 ……ええ?木の下に埋めている?ええ?いったいどういうことなの?
裏を見ても何を書いていない。ニース様は封筒の中まで確認している。

「何なのよぉ……グス、リクはアタシをからかって遊んでるの?
ずっと手紙を読むのを楽しみにしてたのに……ヒック、酷いよぉ」

 封筒を床に投げ捨てて、涙を零すニース様。

「木の下ってどこの木なのよぉ……ヒック、そんなの探せないよぉ」

 ワンワンと大きな声で泣き出したニース様。
わわ!ど、どうしたらいいの?確かに木の下としかヒントは書かれてないし……
木なんて庭に何百本も生えているわ。そんなの探しようがないじゃないの。
リク、もしかしたら、ヒントを書くのを忘れてしまったのかしら?いったいどうすればいいの?
このままじゃ、手術してから手紙を読むことをずっと楽しみにしてた、ニース様が可哀想だわ。

「あのぉ……ナルディアさん、ちょっといいですかいのぉ?」

 泣きじゃくるんニース様をどう慰めればいいのか、考を巡らせていた私に話しかける男の声。
え?貴方は庭師のギムおじさん?私に話しかけてくるなんて珍しいわね、どうしたのかしら?

「リクの手紙なんだけんども、ワシに思い当たる場所があるんじゃけんど……」
「ええええ!ど、どこです?リクは一体どこに手紙を埋めたんですか!」

 思わぬ言葉に、ギムおじさんの両肩を掴み、ユサユサと揺さぶってしまう。
言いなさい!さっさと言うのです!隠す事は許しませんよ!

「い、言いますだ!言うから殺さないでくれぇ!
に、庭の外れの小さな木!そこでスコップを持ったリクを見たことがあるだ!
言っただ!知ってる事は言っただ!だから殺さな……ぐぇぇぇ!」
「ありがとう!これでニース様にリクの手紙を読んでもらえるわ!本当にありがとう!」

 庭の外れの小さな木?あそこね?あそこに埋めてあるのね!
重要なヒントをくれたギムおじさんをギュッと抱きしめ、お礼を言う。
よかった……これで手紙を読んでもらえるわ!
ニース様、すぐに探しに行きましょう!
……何か、ボキボキって音がしなかった?いったい何の音かしら?

「お、落ち着こうね?ナルディア、少し深呼吸しない?」
「は?そ、そうですね、少し落ち着いた方がいいですね」

 ギムおじさんの話に、テンションが上がってしまった私を落ち着かせようとするニース様。
ニース様が落ち着いているのに、慌ててしまうなんて……恥ずかしいわ。
ギムさんから手を離し、上がったテンションを下げるため、一度深呼吸をしてみる。
……どうしたんですか?私が手を離した瞬間、床に倒れ込んだギムおじさん。
ギムおじさん、一体どうしたの?ピクピクと痙攣して……疲れてるのかしら?
……ま、いいわ。そんなことより、手紙よ!
リクからの手紙をニース様に読んでもらわなければ!
ニース様と2人で深呼吸をして息を落ち着かせる。
……よし!落ち着いたわ!さっそく探しに行きましょう! 

「……よし、ニース様、早速探しに行きましょう!」
「うん!リクめぇ、なんでこんな面倒なことをするのよ!
ツマンナイ事書いてたら、絶対に許さないわよ!」

 ニース様の手をギュッと握り締め、庭の外れの木を目指し、走り出す。
そんな私達を見て、リクから手紙を託されていた他の使用人たちもついてくる。
そんな使用人全員と手分けして、木の下を掘り返し、リクが埋めた手紙を探すニース様。

 手紙を入れた小瓶が見つかったのは、夕方遅くになってからだったわ。



(やっと……やっと手紙にたどり着いたのね!バカリクがぁぁ〜!いったいなに考えてんの
よ!)

 リクから手紙を預かっていた使用人達にも手伝ってもらって、
やっとの思いで探し当てた小さな小瓶。
その中に、アタシが求めていたリクからの手紙が入っている……はずよ。
これでもし入ってなかったら、お仕置きなんだからね!

「よく見つけてくれたわね。エト、よくやったわ。……アリガト」
「いいえ、ニース様のお役に立てて光栄です。さ、早くお読みください」

 小瓶を見つけてくれた調理師のエトから受け取る。……ドキドキしてきたわ。
いったい何が書かれてるんだろ?……スキだとか書かれてるのかな?
エヘヘヘ……ま、まぁアタシのことスキになるのは分かるわ。
でも、アタシが無礼でイジワルなリクなんかと、こ、恋人になるなんてありえないわ!
……可能性がゼロじゃ可哀想ね。ま、恋人にしてあげるかは、今後のリクの態度によるわね。
あまりお仕置きをしないってのなら、少しは考えてあげてもいいかな?
……ま、まぁ怒られる様なことをするアタシも悪いんだし、時々はお仕置きしても許してあげよう
かな?
……なんだか下腹が熱くなってきたわね。これってなんなんだろ?

「ニース様、嬉しいのは分りますが、そろそろお読みになられてはどうですか?」
「へ?……う、うっさいわよ!言われなくても分かってるわ!」

 ニコニコ顔のナルディアに言われるまでもないわ!読んであげるわよ!
……ゴクリ。なんだかすっごく喉が渇いてきたんだけど?
緊張で震える手でビンを空け、中に入っている手紙を取り出す。
目を瞑り、一度深呼吸をして手紙に目を落とす。
こんなに苦労させたんだから、ツマンナイ事書いてたら許さないんだからね?

『ニース様、この手紙を読んでいるという事は、手術が成功して、目が見えるようになったんで
すね?おめでとうございます。これで自分自身の目でいろいろな物を判断できますね』

 なによ、これ?いきなり真面目な事書いてるんじゃないわよ!
愛してるとか、大好きだとか書いてなさよ!

『私がニース様の下を去ると決めた理由は、そこにあるのです。
私やナルディアさんに頼ってばかりだと、人としての成長が出来ないと判断したからなのです。
ですが、ニース様はご自身で手術を決断なされ、見事に視力を取り戻しました』

 ……そんなこと、ナルディアに聞いて知ってるわよ!
リクがアタシの事を本気で考えてくれてたんだって……すっごく嬉しかったわ。

『ニース様は私にこうおっしゃられてましたね?
「ワガママなアタシなんかみんな嫌いなんだ。目が見えないから優しくしてくれてるんだ。
だから目が見えるようになったら、みんなアタシの事を嫌いになるんだ」と。
今、ニース様の周りには、誰がいますか?
手紙を探してお屋敷中を駆け回り、木の下に埋めた手紙を掘り出す時、周りに誰がいました
か?』

 リクの言葉でハッとして、周りを見てみる。
……最初に手紙を渡してくれた、いつも優しいナルディア。
そのナルディアに寄り添うように立っている、とっても優しいアタシの自慢のおじい様。
それに小瓶を見つけてくれた調理師のエトに、リクがビンを埋めた場所を教えてくれたギム。
……ギム、胸を押さえて青い顔してるわね。やっぱりナルディアに絞め殺されかけたんだ。
他にも、運転手のベルドにメイドのディード。おじい様のボディーガードのウッドもいる。
他にもたくさんの……本当にたくさんの使用人たちが、
泥だらけになって手紙を探すのを手伝ってくれた。
ナルディアも、おじい様も泥だらけ。そういうアタシだって、泥だらけ。
こんなに……こんなにたくさんの人が手伝ってくれたんだ。
アタシの為に泥だらけになって、命令もしてないのに一緒に探してくれたんだ。
アタシを手伝ってくれたみんなの優しさに感動しながら、リクの手紙に目を落とす。

『どうですか?ニース様の周りには、たくさんの人がいるでしょう?
目が見えるようになっても、嫌われたりしてないでしょう?
ニース様は、目が見えるようになったら嫌われると泣かれてましたが、安心してください。
嫌われたりしていません。ニース様は愛されてます。周りにいる人たちがその証拠です』

 もう一度周りを見てみる。
……みんな泥だらけだけど、微笑んでいる。
ヒック、アタシを見て、微笑んで、嬉しそうにしている。
ヒック……ア、アタシ、嫌われてないんだ。嫌われてなかったんだ!
ウ、ウレシイよぉ〜!ヒッ、うれし……うえぇぇぇ〜ん!

「ひぐ、字が歪んで、読めな……ヒック、ナルディア、代わりに読んでぇ〜」

 涙で手紙の字が歪んで、読めない。
リクのバカァ〜……なんで手紙でもアタシを泣かせるのよ!

「急に泣き出されて、どうなされたのですか?
……分かりました、では代読させていただきますね?
『ニース様、この手紙を読んでいるという事は、手術が成功して、目が見えるようになったんで
すね?おめでとうございます。これで自分自身の目でいろいろな物を判断できますね。
ニース様は私にこうおっしゃられてましたね?
「ワガママなアタシなんかみんな嫌いなんだ。目が見えないから優しくしてくれてるんだ。
だから目が見えるようになったら、みんなアタシの事を嫌いになるんだ」と。
今、ニース様の周りには、誰がいますか?
手紙を探してお屋敷中を駆け回り、木の下に埋めた手紙を掘り出す時、周りに誰がいました
か?どうですか?ニース様の周りには、たくさんの人がいるでしょう?
目が見えるようになっても、嫌われたりしてないでしょう?
ニース様は、目が見えるようになったら嫌われると泣かれてましたが、安心してください。
嫌われたりしていません。ニース様は愛されてます!周りにいる人たちがその証拠で……す』」

 リクゥ…リクゥ!でもいないのよ……一番側にいて欲しい、
ずっと側にいて欲しい人がいないのよ!
なんで帰っちゃったのよぉ……リクゥ、寂しいよぉ、帰ってきてよぉ〜!
リク……リクゥ!うえぇぇぇ〜ん!いなくなっちゃヤダぁ!

「……グス、申し訳ありません。カシュー様、グス、続きを読んでいただけますか?
これ以上は読めそうにありません。……グス」
「手紙で美女を2人も泣かすとは……リクめ、相当なプレイボーイじゃの」

 ヒック、ナルディアも泣いちゃったんだ。グス、バカリクのクセに生意気よ!
屋敷に帰ってきたら、ナルディアにギュッとしてもらうんだからね!

「2人共、もういいかの?では読むからの?……コホン!
『私は側にいることはできませんが、ニース様の側にはたくさんの人がいます。
これからの人生、たくさんの辛い事、悲しい事があるでしょう。
ですが、貴女は1人ではありません。辛くなったり、泣きたくなった時には周りを見てください。
きっと貴女の力になれる人が側にいます。ニース様、貴女は決して1人ではありません。
遠い日本の空の下から、貴女が健やかに成長する事を願ってます。
……素敵な女性になられたら、デートを申し込みに行きますね?』
……リクの手紙は以上じゃ」

 やだぁ……アタシはすぐに会いたいの!すぐにデートしたいの!
リクゥ……今すぐに会いに来てよぉ……手術したら会いに来るって約束だったじゃない!
ヒック、リクゥ……会いたいよぉ。
もうワガママ言わないからぁ……いい子でいるからぁ……寂しいよぉ。

「さて、と。……ニースや。ニッポン語の勉強は来週からじゃったな?頑張るんじゃぞ」
「ひっぐ、リクゥ……ヒック、リクのばかぁ……グス」
「しっかりと勉強してある程度はなせるようになったら、実際に話せるかを試さなければいかん
のぉ」

 泣きじゃくるアタシの頭を、優しく撫でてくれる大きな手。
……へ?おじい様、試すってなに?いったいなんのこと?

「ヒグ、おじい様、どういうこと?試すってなんなの?」
「せっかくニッポン語を勉強するんじゃ。話せるようになったら、使わねばもったいないじゃろ?
でじゃ。どうせ使うなら、本場のニッポンで使ってみたくはないかの?」

 アタシにニヤリと笑いながら、ニッポンで使ってみたくはないかと言ってきたおじい様。
へ?ニッポンで使う?なんでわざわざニッポンに行かなきゃいけないの?
……そうだわ!そうなのよ!なんでこんな簡単なことを思いつかなかったの?アタシのバカ!
そうよ!なにもリクがアタシに会いに来るのを待たなくてもいいのよ!
アタシがニッポンに会いに行け……遊びに行けばいいのよ! 
ま、遊びついでにリクに会ってあげてもいいかな?
そうだ、ニッポンでの案内を、リクにさせてあげようかな?
そうと決まれば、早くニッポン語をマスターしなきゃいけないわね!

「おじい様!アタシがニッポン語を話せるようになったら、ニッポンに連れてってね?」
「おお、かまわんよ。ワシも一度は行ってみたいと思っておったからの。
その時はニースに通訳を頼むとするかの?こりゃ楽しみじゃ!わっはっはっは!」

 大きな口を開けて大笑いするおじい様。それにつられて皆の顔も綻びだした。
そんな皆の嬉しそうな笑顔を見て、頑張らなきゃって思ったわ。

 リク……アタシ、皆と仲良くやっていけそうよ。
これも全部、アンタがヘンな手紙を皆に渡してたから。
アンタはいなくなっても、アタシを守ってくれてる。……でも、側にいてほしいの。
だからアタシ、ニッポン語を覚えてニッポンに行くわ!
リク、待ってなさい!アタシがアンタを迎えに行ってあげるからね!

 

 アタシはニッポン語をマスターする為に必死で勉強をしたわ。
とりあえずニッポン語でリクに手紙を出してみたけど、届くのかな?
リク、返事を返してくれるかな?……喜んでくれるかな?
アタシは言葉を勉強しながら、ニッポンの文化も勉強することにしたの。
まぁある程度はリクから聞いてたから、大丈夫だと思うけどね。
とりあえず、リクから習ったニッポンの文化を、復習の意味もこめて一度調べてみる。

 ……え?ニッポン人って、今はもうセップクしてないの?
ウソでしょ?だってリクは、ニッポン人は約束を破るとセップクするって言ってたわよ?

 ……ええ?警察にニンジャ課ってないの?だってリクは子供の憧れの仕事だって教えてくれ
たわよ?

 ……えええ?混浴が当たり前じゃないの?
だってリク、屋敷に来てすぐの時、アタシやナルディアに混浴はニッポンじゃ当たり前ですよっ
て言って、一緒にお風呂に入ろうとしてたわよ?

 ……ええええ?『痛いところにツバをつけておけば治る』って例え話みたいなもので、
本当じゃないの?
だったらリクがアタシのお尻を舐めたのはなんだったの?
た、確かに気持ちよくて痛さは吹き飛んだけど……まさかリク、アタシを騙してたの?

 ……えええええ?お、お仕置きでお尻に指を入れるのってないの?
リク……アタシを騙して何をしようとしてたの?

 ……うえええええ?指きりを破ったら、お尻に物を入れるのってないの?
だったらあの『直径4センチ、長さ14センチ程の棒状の物をお尻につっこむ』っていうのは何な
の?

 
 調べれば調べるほど出てくる、リクがアタシについたウソ。
……そうか、そうだったのね。……リク、アタシを騙して、好き勝手に遊んでたのね?
目が見えないアタシを騙して……アタシを心配してるフリをして……リクゥゥ〜!
ひっく、信じてたのに……リクはアタシを一番に思ってくれてるって信じてたのに……なんで騙し
たのよ!
ぐす、リクゥ……なんでなのよぉ。なんでそんなイジワルしたの?
……こうなったら直接聞いてやるわ!
一刻も早くニッポンへ行って、リクをとっ捕まえて全部吐かせてやる!
おじい様にお願いして、一刻も早くニッポンへ連れてってもらわなきゃ!

 ……今は連れて行けないってなによ!
なんでダメなの?アタシ、ニッポン語をある程度は話せるようになったわよ?
ある程度話せるようになったら連れて行ってくれるって約束だったでしょ?なんでなのよ!

 ……へ?妊婦に無理はさせれない?妊婦って誰よ?……ナルディア?ウソでしょ?
ナルディアが誰の子供を妊娠して……お、おおおお、おじい様のこどもぉ?


 ふ、ふふふふ……そうだったんだ。 
みんなアタシに優しいフリをして、アタシを騙して好き勝手にしてたんだ。
みんなしてアタシを騙してたんだ……アタシ、騙されてたんだ。
……違うわ。そうよ、騙される方が悪いのよ。
騙されて、利用される方が悪いのよ。
ナルディアはアタシを利用して、おじい様を物にした。
リクは無知なアタシを利用して、好き勝手にアタシで遊んだ。

 ふ、ふふふふふふふ……いい勉強になったわ。ありがとうね、ナルディアにリク。
あなた達のおかげで、アタシは一つ賢くなったわ。




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