『りくこんにちわ。にーすです。め、なおりました。みえるようになりました。
やくそくです。あいにくる、やくそくです。いつです?あいたいです。
なるでいあもおじいさまも、あいたいです。いってるます。
てがみさがしてみんながやさしいわかりました。ありがとう。
いま、にっぽんごれんしゅうです。さみしいです。あいたいです。
わがままいいません。あいたいです。め、みえるようになりました。あいたいです。
りくのかお、みたいです。はやくあいにくるやくそくです。あいたいです』

 ニースから送られてきた手紙をポケットにしまう。
へったくそで、キタナイ平仮名で書かれた短い手紙。
そのヘタクソでキタナイ手紙を、もう何度も読み返している。
……あの屋敷を離れてもう一年以上は経つ。
だが、今だにあの屋敷での生活を思い出しては、顔が綻んでしまう。
ははは、皆が優しいのが分かったってことは、手紙の仕込が上手くいったんだな。
我ながらよく思いついたよなぁ。
元ネタが便所の落書きだって知ったらニース、大激怒するかな?
よく駅の便所に書かれてた落書きで、トイレの壁に書かれてたのを少しアレンジしただけなの
にな。
便座に座り、前を見たら『右を見ろ』、で、右を見たら『左を見ろ』
左を見ると『上を見ろ』、なんなんだ?と上を見てみたら『ざまぁみろ』だもんな。
この落書きを考えた奴、天才だな!引っかかった時は、感心してしまったもんな。
しかしその落書きを応用して、ニースを屋敷の皆と仲良くさせたオレはもっと天才だな!
……皆、元気なのか?カシューじいさん、死んでないだろうな?
もしかしたらボケは始まってるかもな?そういやまだそこまでの歳じゃなかったな。
ナルディアさんは元気なのかな?オレの事を思ってオナってたりしないかな?
ははは、こんな事考えてるなんて知られちゃ、絞め殺されそうだな。
アイツは……ニースは元気なんだろうか?
手紙の返事は書いてない。正直何を書けばいいのか分らずに、返事を書けなかったんだ。
へったくそな字で何度も書かれていた『あいたいです』の文字。
まるでミミズがのたうっている様な、ヘタクソな字。
だが、この字がオレをある思いに駆り立てた。

「お〜い、藤原君。そろそろ休憩終わりだぞ〜」
「うぃ〜っす、わっかりました!」

 深夜0時。休憩時間が終わり、ヘルメットを被って交通整理の為に工事現場の横に立つ。
ふぅぅ〜……なかなか目標金額まで到達しないな。
……カシューじいさんから貰った給料、バカみたいに使わなきゃよかったな。
向こうへの飛行機代に、ホテル代。目標金額まであと少しなんだがな。
ニースからの手紙を貰ってすぐに始めた深夜の警備員のバイト。
本当ならとっくの昔に目標金額が溜まってるはずだったんだけど……ギャンブルって怖いよ
ね。
まるでお札が紙くずのように見えるんだもんな。
……今後、雀荘には絶対に近づかないと誓おう。あと競馬場とパチンコ屋も。
バイト代が入ったらギャンブルにつぎ込む。バイトを始めてしばらくはそんな生活をしていた。
ギャンブルで金をもうけて、早くニースに会いに行こうと考えてたからな。
……世の中そんなに上手くはいかないんだよなぁ。世間の厳しさを痛感したぜ。
……風俗はご褒美だから行ってもいいよな?
ニースに会いに行こうと誓い、バイトを始めてから3ヵ月後、オレは悟ったんだ。

『ギャンブルに手を出してなかったら目標金額貯まってたんじゃんねぇの?』ってな。

 今では真面目に貯金して、目標金額まであと少しって所まで来た。
金の問題は、どうにか目処がついたからいいんだ。問題は親になんて言うかだ。
前の時は親に『自分を探したいんだ。オレに何が出来るのかを、見つけたいんだ!』
なんてカッコいい事を言って、旅費を出させたからなぁ。
オレの親、人がいいからすぐに騙されて金を出してくれた。……そんなに裕福じゃないのにな。
大学を休学するのにも反対をせずに、オレの将来の為だって喜んで送り出してくれた。
……問題はそこなんだよなぁ。オレがいないとあの2人、詐欺に引っかかりそうなんだよな。
オレが騙しといてなんだけど、オヤジもおふくろもいい人すぎるんだよ。
多分、ニースの所へ行ったら日本には帰って来れない。……いや、帰って来ないと思う。
裕福じゃない家なのに、オレのワガママで大学まで行かせてくれて、
おまけに自分探しの旅なんて、ふざけた旅行も行かせてくれた。
オレ、そんな両親を捨てることが出来るのか?
はぁぁ〜……親不孝だよなぁ。
オレ、ニースにワガママはいけないなんて言える立場じゃなかったんだな。
ニースを教育してて、自分のダメさ加減が分かったよ。
本当なら心を入れ替えて、親の為に真面目に働かなきゃいけないんだろうけど……
オレは今、大学にはほとんど行かず、バイトをしている。
遊びのつもりだった自分探しの旅で、ホントに見つけちまったんだ。
オレがしたいこと。オレが守りたい物。一生をかけて守り続けたい、オレの大事なものを。

 ……オレがニースの下を去ってから、一年と一ヶ月が過ぎようとしていた。



「ニース様、『フジワラリク』は情報通り、深夜の仕事をしているようです。
昨日の夜も働いているのを確認しました」
「そ、ご苦労様。で、リクはいつ部屋に帰ってくるの?」
「は、いつも通りならそろそろ帰ってくる頃だと思われます」
「ホント?帰ってくるの?……ご苦労様、アタシが呼ぶまで下がってていいわ」
「は、では失礼します」

 リクについて調べていたウッドに報告を受け、下がらせる。
リクがアタシの下を去ってから一年と一ヶ月。ついにこの日が来たのね。
……長かったわ。ついに、ついにバカリクに復讐できるのね!
あんのバカリクめぇぇ〜!何も知らないアタシに好き勝手して……絶対に許さないわ!
手紙の返事も送ってこないで……アレを書くのにどんだけ時間がかかったと思ってんのよ!
ホントならもっと早く会いに……コホン!復讐に来るつもりだったけど、
ラインフォード家の当主として、そう簡単に動けなかったのよね。
さて、と。んふふふふ……リクにはどんな目に遭ってもらおうかな?
アタシを騙して好き勝手してくれたんだから、それなりの制裁は受けてもらうわ。

「ニース様、ウッドからの連絡です。『フジワラリク』が帰ってきました」

 ま、まぁ、どうしてもイヤだって言うのなら、許してあげないこともないわ。
もちろんアタシに一生忠誠を誓うのが条件よ!
一生側にいて、アタシに仕えること!これが最低限の条件ね。

「ニース様、お会いに行かれますか?それとも拉致するよう、ウッドに指示を出しましょうか?」

 そう、リクはアタシと一生を添い遂げるのよ!
……そ、添い遂げる?な、ナニ考えてんのよ!
添い遂げるって、け、けけ結婚するみたいじゃないの! 
……結婚、かぁ。アタシもナルディアみたいに赤ちゃんを産めるのかな?

「……ニース様?ヘンな顔されてますが、どうなされたのですか?」

 ……は!な、なにがナルディアよ!裏切り者なんて関係ないわ!
おじい様を誑かし、ラインフォード家を乗っ取ろうなんて……裏切り者め!
おじい様もおじい様よ!
あんな女に誑かされるなんて……カシュー・B・ラインフォードも落ちたものね。
当主から身を引いてもらって正解だったわ。

「……はぁぁ〜。今度は難しい顔しだしたよ。こんな時、ナルディアさんならどうするんだろ?」
「ちょっとベルド!ナルディアの名前なんて出さないでよ!で、リクは帰ってきそうなの?」

 アタシの前でナルディアの名前は禁句よ!いい加減覚えときなさい!

「うわ!ニ、ニース様、急に驚かせないで下さいよ。
『フジワラリク』は仕事から帰ってきて、もう部屋に入ったそうです」

 はぁ?もう帰って来たって……アンタ達!一体どこ見てたのよ!

「アタシへの報告が遅いんじゃないの?ウッドは何を見張ってたのよ!」
「いえ、報告しましたが。
ニース様は、赤い顔して考え事をされていたようで……申し訳ありませんでした」

 あ、赤い顔?……くぅぅ〜!恥ずかしいとこ見られたじゃないの!
これも全部リクのせいよ!リクめぇ〜!よくも使用人の前で恥をかかせてくれたわね!

「……そ、そう、今後は気をつけなさいね。じゃあ部屋に乗り込むわよ!
アタシ1人で乗り込むから、アンタ達は車で待機してなさい」
「しかし、大丈夫だとは思いますが、万が一という事もありますので……」
「はん!そんなの大丈夫よ!……ね、この服で大丈夫かな?おかしくない?」
「ええ、大丈夫ですよ。そのワンピースはニース様に大変似合っており、とてもカワイイです。
きっとリクも『とてもカワイイですね、よく似合ってます』と褒めてくれますよ」
「エヘヘヘ、アリガト。……ほ、褒めてもらうって何よ!
アタシはそんなのでこの服を着てるんじゃなんだからね?」

 ベルドはなにを言ってるのよ!
アタシは褒めてほしくてこのワンピースを着てるんじゃないわ!
……カ、カワイイって褒めてくれるのかな?

「じゃあ行ってくるわ。……眼鏡は外した方がいいかな?」
「ニース様、眼鏡を外されては、あまり物が見えなくなり危ないですよ。
大丈夫です、ニース様は眼鏡も大変お似合いですから。
きっとリクもこのカワイイ子は誰だってビックリするはずですよ」 

 そ、そうね、眼鏡は外さない方がいいわね。外したらあまり見えなくなっちゃうからね。
……エヘヘヘ、カワイイって褒めてもらえるのかな?

「ベルド、しばらく待ってなさいね。じゃ、行ってくるわ」

 リムジンを降りて、リクの部屋に向かう。
……ドキドキしてきた。リク、アタシを見て驚くかな?ビックリするかな?
……アタシを忘れてたりしないよね?もし忘れてたら……お仕置きだからね!
ドキドキしながら階段を上がり、リクの部屋をノックする。

「ふぁ〜い。……こんな朝っぱらから、いったいどちらさん?」

 ドアの向こうから聞こえてきた懐かしい声。……リクだ。この向こうにリクがいるんだ。
鼓動がドキンドキンと早くなり、緊張でゴクリとツバを飲み込む。
で、出てきたらなんて言おうかな?
『よくもアタシを好き勝手にしてくれたわね!』かな?
それとも『ずいぶんとお久しぶりね。手紙を無視するなんていい度胸じゃないの』かな?
う〜ん、どっちもいいわね。とりあえずは思いっきり顔を引っ叩いてやるわ!
アタシに寂しい思いをさせたんだから、そのくらいは当たり前……

 考えを巡らしてるアタシの目の前で、扉がゆっくりと開いた。
思わずゴクリとつばを飲みこむアタシ。そのアタシの目に1人の人物が映った。
シャツ一枚で眠そうな顔をしている、ボサボサ頭の冴えない男。
これが……リク、なの?
ひっく……人を散々待たしといて……ひっく、なんてかっこうしてんのよ!
リクの……ぐす、リクのバカァ!

「え〜っとお嬢さん、オレになんの用……もしかして、ニース様?」
「ひっく、アタシ以外に誰がアンタみたいな冴えない男に会いに来る……きゃ?」

 溢れてくる涙でリクの顔がぼやけてきた。
そんなアタシを急に包んだ力強い腕。少し汗の匂いがする大きな胸。
あぁ……リクぅ……リクぅ!
リクの腕に抱かれながら、泣きじゃくるアタシ。
……バカリクのくせに、よくもアタシを泣かせてくれたわね!
この仕返しは絶対にするんだからね!覚悟なさいよ!



「ニース様は紅茶でよろしかったですよね?」
「そ、そうね、久しぶりにアンタが作ったのを飲みたいわ」

 これは夢なのか?さっきから何度も頬をつねってるけど、どうやら夢じゃないみたいだ。
ってことは何か?ニースがオレに会いに来てくれたのか?
オレが屋敷から出て一年以上経ってるんだぞ?手紙を貰ってからも半年以上経っている。
手紙の返事も書かなかったからな。
オレのことなんか忘れてるんじゃないかと不安になってたんだ。
まさか会いに来てくれるとは……メチャクチャ嬉しいな!

「ねぇリク。なんでこんな狭い部屋に通すの?他にも部屋はあったじゃないの。なんで?」
「……は?他の部屋?ここ以外のですか?そんなのありませんよ」
「へ?だってこの建物にはたくさんの扉があったわよ?ここがアンタの家なんでしょ?」

 ……そうか。そういやコイツ、超がつくほどのお嬢様だったよな。
このマンション全部をオレの家だと思ってるんだな?
んな訳あるかい!家賃5万円のワンルームで精一杯だっての!

「ははは、ニース様、私が住む部屋はここだけです。他の部屋には違う人が住んでますよ」
「えええ?こんなクローゼットよりも狭いところに住んでるの?
ニッポンジンって変わってるわね。なんで広い部屋に住まないの?
これが『ワビ・サビ』とかいう物なの?」 
「残念ながら違います。これが日本の住宅事情なんですよ」
「ふ〜ん、そうなんだ。ニッポンって窮屈なところなのね」

 キョロキョロと部屋を見渡すニース。狭い部屋に住んでて悪かったな!
そんなニースを改めて観察する。……眼鏡をかけて、白いワンピース姿のニース。
分かれたときより背も伸びており、もはやあの頃の小さいニースといった印象はない。
そっか……目の手術、本当にしたんだな。見えるようになったんだな。

「ニース様、紅茶が用意できました。
安物ですのであまり美味しくないと思いますが、どうぞ召し上がってください」
「あ、ありがと。安物だってのはこの部屋を見れば分かるわ。
そっかぁ〜、リクは貧乏なんだ。だから夜に働いてるの?」

 貧乏で悪かったな!久しぶりに会ったというのに、相変わらず口が悪い!
いったい誰が貧乏なんて言葉、教えたんだ?……え?貧乏って言葉?
あれ?オレ達って日本語で会話してないか?
え?ええ?なんでニースが日本語を話してるんだ?
 
「ニ、ニース様?い、いま日本語で話されてませんでしたか?」
「はぁぁ〜……やっと気づいたのね。アンタってホントにバカリクねぇ〜」

 大きなため息を吐くニース。うお!やっぱ日本語だ!
そういや手紙には日本語を練習してるって書いてたな。 
ってことはコイツ、日本語を話せるようになったのか?おいおい、すげぇじゃねぇか!

「ニッポン語なんて、3ヶ月でマスターしたわよ。
ホントはもっと早くにニッポンに来たかったんだけど、ちょっとゴタゴタしてたからね」
「ゴタゴタ、ですか?何かあったんですか?」
「……リク、アタシに仕えなさい。アタシに仕えればこんな貧乏生活なんてしなくていいわ。
今のアタシには右腕になる人材が必要なの。
アンタは信用できるわ。アタシの右腕になりなさい」

 は?右腕になれだって?いきなり右腕になれって何だ?
そりゃ金が貯まってたらニースに会いに行き、また雇ってくれるよう頼もうかと考えてたけど、
右腕になれってのは想像してなかったな。

「ニース様、急にどうなされたんですか?
いきなり右腕になれって言われても、訳が分かりませんよ?」
「……アンタはアタシに酷い事をたくさんしたわ。でも、アタシをすっごく大事に思ってくれてた。
アンタが手紙で屋敷の皆と仲良くしてくれたのには、すっごく感謝してるの。
……だからアンタは信用できる。ナルディアなんかと違って、アンタは信用できるのよ」
「は?ナルディアさんがどうしたんですか?」

 ニースはナルデイアさんの名前を出した瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をした。
なんだ?オレがいなくなってから2人の間に何があったんだ?

「……アイツはね、あの女はね、ラインフォード家を乗っ取ろうと企んでいたの。
おじい様を誑かし、子供を作ってアタシを追い出そうと企んでいたのよ。
……信用してたのに。アタシ、ナルディアのこと、すっごく信用してたのに、裏切られたのよ」

 ポロポロと涙を零し、話し続けるニース。
ニースの話にオレは言葉が出ない。ナルディアさんが子供を作った?
カシューじいさんの子供?……あのじいさん、まだ枯れてなかったのか?
あの歳で妊娠させるなんて……すげぇな!男の鏡だな!
驚きのあまり、思わずカシューじいさんを尊敬してしまった。

 そんな俺を無視して話し続けるニース。 
その目からは涙がポロポロとい零れ続けている。

「アタシはね、裏切り者は許さない事にしたの。
ホントはアンタも許さないって思ってたんだけどね、アンタは手紙の件があるから許してあげる
わ。おじい様もあんな女に誑かされるなんて、もうろくした証拠よ。
そんなもうろくしたおじい様に、ラインフォード家は任せられないわ。
だからアタシが当主の座を受け継いだの。今はアタシがラインフォード家の当主よ。
リク……アンタがアタシにウソをついて、好き勝手にイタズラしてたこと、許してあげるわ。
だからアタシに、一生の忠誠を誓いなさい。これからはアンタがアタシの右腕になるのよ。
ナルディアなんて必要ないわ。アンタがいれば、あんな裏切り者なんか必要ないのよ」

 冷静に話してるつもりだろうけど、涙がポロポロと溢れ続けている。
現場にいなかったから状況があまり理解できんが、
ニースは、ナルディアさんに裏切られたと強く思ってるみたいだな。
……バレちゃってたの?ウソついてイタズラしてたこと、バレちゃった?
どうする?どうやって誤魔化す?どうやってこの状況を乗り切ればいいんだ?
頭をフル回転させて、どうしたら誤魔化せるか考える。
……すぐにいいアイディアなんて出てこないって!
許してくれるって言ってるけど、ホントなんだろうな?
屋敷に連れて帰ってから殺すとかじゃないだろうな?
とりあえずニースの顔色を伺ってみる。
ヤバそうだったらこの場から逃げ出さなきゃいけな……震えてる。
あの頃のように、涙を零して肩を震わせて泣いている。
唇をギュッとかみ締め、声を殺しながら泣いている。
ニース、ナルディアさんに裏切られた事が、ホントに辛いんだな。
……オレのことは後でいいや。とりあえずはニースを安心させなきゃいけない。
泣きながら震えてるニースを……オレの大事な人を守らなきゃいけない!

「ニース様、言われなくとも貴女の側に一生いるつもりでした」
「ひっく、ホント?ホントに側にいてくれるの?ウソじゃないでしょうね?」
「本当ですよ。貴女に会いに行くために大学にも行かず、深夜の仕事でお金を貯めているんで
す。私はニース様の下で働きたいです。ニース様、昔のように私を雇ってもらえますか?」

 ニースはオレの言葉が嬉しかったのか、ニッコリと微笑み頷いた。輝くような笑顔だ。
オレ、この笑顔を見たかったんだな。……この笑顔を守りたいんだな。

『ニースの笑顔を守りたい』

 そう思った瞬間、勝手に身体が動いた。
オレの動きに驚いた表情を見せるニース。そんなニースをギュッと強く抱きしめてしまった。

「ニース様、この私がお守りいたします。ニース様の笑顔をお守りいたします!」
「リ、リク?……うん、アリガト。ずっと……ずっとアタシを守ってね?約束よ?」

 腕の中からオレを見上げ、満面の笑みを見せるニース。
これだよ……この笑顔を見たかったんだ。この笑顔を守りたいんだ。
これがオレの生きる道なんだ!

「ねぇリク。さっきもそうだけど、なんでアタシを抱きしめてくれるの?」
「え?な、なんでって言われても……それはですね、え〜っとですね……」

 それはだな、オレはお前の事が……恥ずかしくて言えるか!
いい大人なのに子供のニースの事が、す、す……言えるか!

「ねぇリク。アタシはね、アンタに抱きしめてもらえて、すっごく嬉しいの。
アタシね、アンタがいなくなってから、ずっとアンタのことを考えてたわ。
最初はね、アタシにイタズラをしたアンタを許さないって思っていたの。
でもね……アンタがいないのがね、寂しいの。
みんなアタシに優しくしてくれるけど……アンタがいないとイヤなの。
アンタはアタシに好き勝手してたけど……ヒドイことばかりしてたけど……
側にいてほしかった。どんなイタズラされてもいい。お尻を叩かれてもいい!
だからずっと側にいてよ!って思ってた。
……今日、アタシがどれだけ緊張してここに来たか分かる?
昨日の夜ね、一睡も出来なかったの。
リクに会えるって思っただけで……嬉しくて眠れなかったの。
もしアタシの事忘れてたらどうしようって……すっごく怖くて……眠れなかったの。
リクのばかぁ……なんで手紙の返事くれなかったの?すっごく寂しかったんだからね?」

 輝くような笑顔は、見る見るうちに涙で濡れていく。
オレ、ニースに酷いことばかりしてるよな。守りたい人を泣かせてばかりいて……ゴメンな?
震えているニースをギュッと強く抱きしめる。するとニースもオレに抱きついてきた。
しばらくの間、お互い無言で抱きしめ合う。
どのくらい抱きしめ合っていたんだろう?ニースが話しかけてきた。

「ねぇリク。アンタの顔をもっとよく見たい。
せっかく目が見えるようになったんだから、この目でアンタをよく見て見たいの」

 オレの手から離れ、眼鏡を外し、机の上の置くニース。
オレの顔を見て見たいって……眼鏡を外したらよく見えないんじゃないのか?

「それはかまいませんが……眼鏡を外して見えるのですか?」
「全然見えないわ。ぼやけてまったく分らないわ。でもね、眼鏡越しじゃなく、アンタを見たいの」
「そう言われましても、やはり眼鏡をかけたほうがいいのでは?」
「離れてるからよく見えないのよ。もっと近づけば、よく見えるわ」

 机に眼鏡を置いたニースは、再びオレの胸に飛び込んできた。
ニースの行動に驚きながらも、オレはそれを受け止める。

「ほら、近づいたら見えるようになったわ。
でもね、まだぼやけてるの。だからもっと近づいて……」
「ニ、ニース様?それ以上近づかれては顔が当りますが……」
「まだよ。まだハッキリ見えないわ。だからもっと近づいて……」

 そう言いながらどんどんオレに顔を寄せてくるニース。
その距離は鼻と鼻が当るくらいにまで近づいている。
思わずゴクリとツバを飲み込んでしまう。
何度も夢を見た……オレが人生をかけて守りたいと生まれた初めて思った女の顔がすぐそこ
にある。
そう思った瞬間……唇が重なった。オレはニースの唇を奪ってしまったんだ。

「ん、んん……リクのばかぁ。急にキスしてくるなんて……んん、すきぃ……大好きなのぉ」

 ギュッと抱きついてきて、オレの唇を貪るようにキスをするニース。
ニースの情熱的なキスにつられ、オレも応戦する。
お互いの口の中を行き交う舌。唾液を送りあい、舌を絡めあう。
互いの唾液を飲みきれず、口の端から垂れてくる。そんな事もお構いなしに舌を絡めあう。
何故こうなったのか、もはや考える余裕もない。
今はニースと舌を絡め合うことしか考えられない。
どのくらいお互いを貪りあっていたのだろうか?
ニースが唇を離し、オレ達の唇に、唾液のアーチがかかった。

「はぁはぁはぁ……リクぅ、指きりの約束覚えてる?嘘ついたらお仕置きするって指きり」

 虚ろな目で小指を立てるニース。そんなことよりもっとキスを……指きり?

「ええ、覚えてますよ。嘘をついたらお仕置きをするって……ええ?ニ、ニース様?」

 オレの目の前で突然始まったストリップ。何故かニースが服を一枚ずつ脱ぎ始めた。
前に見た体よりも少し肉付きがよくなっており、以前はしていなかったブラジャーをしている。
ワンピースを脱ぎ捨てた手がそのブラも外し、ピンク色のカワイイ乳首が丸見えになる。
そしてその手はそのまま下へと降りていき……ショーツを降ろした。
そこは昔と同じくまだ何も生えていなく、幼いままだった。

「アタシね、ウソついたの。ウソつかないって指切りしたのにウソついたの。
リクが出て行く時、ホントは側にいてほしかったのに……どっか行っちゃえってウソついたの。
だから、ね。……リクぅ、お仕置きしてぇ。嘘つきなアタシにお仕置きしてぇ」

 自ら裸になりお仕置きをしてと、泣きながらねだってきたニース。
オレはその異様な光景にツバを飲み込んだ。

 そして……一年前よりも、少し大きくなっていたニースの身体を押し倒した。




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