「……おはよ」
「おはよう彩、朝ごはん出来てるわよ……って、どうしたの、その目?
充血して真っ赤じゃないの!」
「……パパに借りた三国志、読んでたら朝になった。……眠い」

 『りくそん』と『かんぺい』をネットで調べてみたら、昔の中国の武将だと判明した。
バカをバカにするために三国志の情報を調べていたら、パパが三国志の小説本を貸してくれ
た。
……まさか一睡もせずに読みふけってしまうとは。
とても興味深く、面白い内容だった。……一晩かけて、まだ一巻目しか読んでいない。
まだ『りくそん』も『かんぺい』も出てきてはいないが、ネットで調べた時に二人の知識は覚え
た。
他の武将も何人も覚えたし……これでバカをバカに出来る!……あぁ、眠い。

「はぁぁ〜……ほら!シャキッとしなさい!本を読むのに徹夜するなんて……自業自得よ!
眠いから学校を休むなんて許さないわよ」
「それは大丈夫。私をバカにしたバカを、バカにしなければいけないから休まない」
「よく分からない理由ね?まぁいいわ。それより朝ごはんが冷めちゃうわよ?
今日の御飯は、鮭の切り身に、彩が大好きな玉子かけごはんよ」

 ……何?玉子かけごはん?
あぁ……白い、まるで雪のように真っ白な、一粒一粒が立っているアツアツの白ごはんに、
私が毎日スーパーで吟味して仕入れている、新鮮な生卵をポトリと落とす。
器で醤油とかき混ぜてからごはんにかける人もいるそうだが、それは邪道だ。
何故なら器を洗う水がもったいないじゃないか!……容器についたたまごももったいない。
玉子をかき混ぜながら、醤油を適量入れる。もちろん濃い口醤油だ。それ以外は認めない。
そして、玉子とごはん、醤油のコラボレーションが完成したら、口の中にかきこむ。
たまごで温度が下がったとはいえ、アツアツのご飯だ。
ハフハフ言いながら口の中に放り込むと、口いっぱいに広がる、ごはんとたまごと醤油が生み
出す芸術的な味。
あぁ……これを至福の時といわなければ、なんと表現すればいいだろうか?
そして、鮭の切り身を口に入れ、その油の乗った味を引き立てる絶妙な塩加減を堪能し、
再びたまごかけごはんをほうばる。
あぁ……何度食べても永遠に続けばいいと思う瞬間だ。

「こら!いつまで想像してるの!早く食べなさい!じゃないとたまご抜きにするわよ」
「そ、それは横暴だ!例えママといえど、そこまでする権利はあるのだろうか?」
「早く食べないと、拓と直樹にあげちゃうわよ?」
「そ、それは困る!では頂きます」
「はいどうぞ、召し上がれ。食べたら拓と直樹を起こしてきてね?」
「はむ、ふぁふぁっは」
「ほら、女の子なんだから、食べながら話さないの!お行儀が悪いわよ?」

 朝からこんな美味しいものを食べられるなんて……今日はいい一日になりそうだ。

 

「島津?お〜い、起きてるか〜?」
「……くぅ」
「ダメだ、起きないな。しかし島津が授業中に寝るなんて今まであったか?初めてだよな?
記念に写真にでも撮っておくか?」
 
 ふふふふ……バカめ。劉備は関羽と張飛と義兄弟なのだ!
貴様はそんな簡単なことも知らないのか?だからバカなのだ!
 
「派手にコックリコックリと舟を漕いでるな〜。おい、誰かそろそろ起こしてやれ」
 
 はっはははは!長宗我部元親が四国統一してすぐに、秀吉に敗れたと知っているのか?
……知らない?だからお前はバカなんだ!
 
「……くふ、くふふふふ」
「セ、センセー、島津さんが笑ってますけど?」
「お、おう、不気味に笑っているな。どんな夢見てるんだ?」
 
 ……マ、ママ!そんな無茶はダメだ!
甘口カレーを玉子かけごはんにかけるなんて……贅沢すぎるではないか!
いや、食べないとは言ってない!
しかしだな、いくら私がアイツを叩きのめしたお祝いだといっても、これは豪勢すぎる!
……ゴクリ。今まで想像もしていなかったが……とても美味しそうだ。
本当にこれを食べてもいいのだろうか?……いいの?では、いただきます!
 
「島津っち!いい加減起きなよ?先生怒ってるよ?」
 
 スプーン一杯に甘口玉子かけごはんカレーをすくい、口に運ぼうとしたら、邪魔をされる。
人の食事を邪魔するのはマナーが悪い行為だ!いったい誰だ?……せっかくのカレーが冷め
てしまうではないか。
 
「ん……んん?」
「起きた?島津っちが寝るなんて珍しいね?徹夜で勉強でもしてたの?」
「……カレーがない。私のカレーはどこに行ったのだろうか?」
 
 おかしい。さっきまで目の前にあったのに、『甘口玉子かけごはんカレー』がないではない
か?
さては拓と直樹が横取りしたな?人の物を取るとは……説教確定だな。
 
「カ、カレー?……ぷ、ぷははははは!島津っちサイコー!面白すぎるよ!」
「……ここは、教室?あれ?先ほどまで家にいたはずなのだが……何故学校にいるのだ?」
「くっ、はっははは!島津、カレーは家に帰ってから食べるんだな、残念ながら今は授業中だ。
夢の中では後一歩でカレーを食べられたのか?」
 
 ……夢?夢だったのか?あれが……夢?甘口玉子かけごはんカレーが……夢?
 
「セ、センセー……島津さん、これ以上にないって程、落ち込んでますけど?」
「お、おう。ここまで落ち込まれると、起こした事に罪悪感を感じるな」
 
 ゆ、夢……だった、のか。そう、か。あれは……夢。
 
「す、すまなかったな、島津。今度からは起こさないから。だから、な?そう落ち込まんでくれ。
な?なな?」
「よ、よかったじゃん!これからは授業中、寝放題だよ?だからさ、そんな暗い顔しないでよ」
 
 後一歩……後一歩で味わえるところだったのに……夢、だったのか。
何故だ……何故人は実現不可能な夢などを見てしまうのだ?何故なのだ?
 
「セ、センセー……ますます落ち込んでますけど〜?」
「お、おう、落ち込んでるな。……どうしよう?」
 
 甘口玉子かけごはんカレー……夢ではなく、死ぬまでには一度は食べてみたいものだ。



「なあなあ、お前、授業中にカレーの夢を見てたん……」
「ふん!」
「ぐはあ!」

 昼休み、クラスメートに囲まれて食事を取っていたら、バカが来た。
私が授業中に寝ていたことを聞きつけたバカ。そのことでバカのクセに私をからかってきた。
……だから蹴り飛ばした。私は悪くない。

「初めて見たときは衝撃的だったけど、3日連続で見せられると慣れるものなんだねぇ」
「島津っちはキックが上手いねぇ、なんだかカッコイイよ。キックの練習してるの?」
「カ、カッコイイ?そ、そうだろうか?練習などはした事はないのだが……
ママが格闘技が大好きで、幼い頃に遊びでよく座布団を持ったパパを蹴っていたんだ。
きっとそのおかげだろう」

 そう、ママは格闘技が大好きだ。昔に付き合っていた男の影響で好きになったそうだ。
……そんな話をパパの前で嬉しそうに話すのはいいのだろうか?

「それにしても結城も懲りないねぇ。もしかしてワザと蹴られに来てるのかな?」
「ワザと?それはいったいどういう意味……結城?そうだった、忘れてしまうところだった」

 顔を抑えて床を転がっているバカ。
私が寝不足で授業中に寝てしまったのも、全てはコイツのせいだ。
ふっふっふ……一晩かけて覚えた知識でお前をバカにしてやる!

「おい、起きろ!」

 顔を抑えてゴロゴロと転がっているバカを、足で小突く。さぁ勉強の成果を見せてやる!

「お、お前、蹴り飛ばしといて起きろはないだろうが!」
「お前は昨日、陸遜について訊ねて来たな?」
「聞いたけどお前、知らなかっただろ?」
「ふっふっふっふ……陸遜とは中国の三国時代の呉の武将だ。
若くして君主孫権に認められ、華々しい活躍をした。
だが晩年は空しいもので、主君の孫権に疎まれ、最後は憤死したといわれている。
どうだ?お前はこのようなことを知っていたか?」

 私の言葉にきょとんとした顔を見せるバカ。
ふっふっふっふ、驚いたようだな。これでもう私をバカにはできまい?

「へぇ〜、お前、スゴイなぁ。やっぱり頭いいんだな」
「ふっふっふ、これで分かったか?分かったらもう二度とバカなどと言わないように!」
「昨日は知らなかったのに、たった一晩で覚えたのか?」
「そうだ、三国時代の武将の事はほぼ全て網羅している。
調べたおかげで三国時代に興味が沸き、小説を読んでいるところだ。
そのせいで徹夜をしてしまい、授業中に寝るなどという失態をしてしまったがな」
「へぇ〜!三国志って小説になってるのか!どんな話なんだ?教えてくれよ?」

 三国志が小説になっているのも知らなかったのか?情けない奴め!
ふっふっふ、仕方がないな。バカには私が教えてやろう。三国志の面白さというものを!



「張角が率いる太平道という宗教結社が各地で一斉に蜂起、これが黄巾の乱と呼ばれる反乱
だ。この反乱を抑えるために劉備達は戦ったんだ。そして、反乱は治まった。
しかし次に董卓が権力を握り、悪政をしだしたんだ。だから今度は董卓に対して劉備達は戦い
だした。これが私が徹夜して読んだ第一巻の内容だ」

 口を開け、ポカンとした表情で私を見つめるバカ。
ふっふっふ、どうだ?とても面白く、興味深い内容だっただろう?
実は休み時間に読もうと第二巻を持ってきているのだが、クラスメート達が読ませてくれそうに
ない。
この人達は何故私につきまとうのだろう?……何故あなた達もポカンと口を開けているんだ?

「ねぇ島津っち、その説明、本気で言ってるの?」
「本気?本気とはいったいどういう意味だろうか?」
「……お前、人に物を教えるのがヘタだなぁ」

 な?なんだと?人に物を聞いておきながら、ヘタとは何だ!

「私の説明のどこがヘタなんだ!」
「じゃあ関羽と張飛は何をしたんだ?」
「もちろん劉備に付き従い、勇敢に戦った!」
「なんで劉備に従うようになったんだ?」
「はぁ?そんなの決まっているだろう?3人は義兄弟だ、一緒に戦うに決まっている!」
「ならなんでそこの話をしないんだ?お前の話を聞いてるだけだと、関羽と張飛はいないことに
なってるぞ?」

 なに?……言われてみれば、3人が義兄弟とは言っていなかったな。
ふとクラスメートを見てみる。……バカの意見に同意なのか、首をコクコクと頷いている。
ま、まさかバカの言うとおり私は説明がヘタなのか?
い、いや、そんなはずはない!重要事項を的確に説明したはずだ!
きっと皆は分かってくれているはずだ!
私は少し不安になり、クラスメートに尋ねて見た。

「も、もしかして私の話では、三国志の面白さがまったく伝わらなかった……のか?」
「う〜ん、島津っちの話を聞いててもよく分からないし、面白いって全然思えないんだよねぇ。
ちょっと説明を短くしすぎじゃないの?」
「ぐっ……そ、そうだったのか?私は……説明がヘタだったのか」

 ガックリと膝をつき、うな垂れる。
バカに説明がヘタだと指摘されるまで、気がつかなかったなんて……もしかして私はバカなの
か?

「ど、どうしよう?島津っち、また落ち込んじゃったよ」
「ちょっと結城!アンタが落ち込ませたんだから、どうにかしなさいよ!」
「ええ?お、オレがぁ?」

 そ、そうだったのか……私は、説明がヘタなバカ女だったのか。
どおりで弟達に何度悪戯をしてはダメだと説明をしても、聞き入れてもらえなかった訳だ。
あの子達が悪いのではなく……私の説明がダメだったのか。



「し、島津っち!結城が色んなお話を聞かせてくれたお礼に、カレー食べさせてくれるんだっ
て!」
「おい!なんで勝手に決めてるんだよ!」

 ……カレー?

「……甘口なのだろうか?」
「もちろん甘口!好きなだけトッピングつけていいんだって!」

 トッピング?トッピングとはいったいなんのことだ?
よく分からないが……カレーといえばアレがなければカレーではない!

「……らっきょうと生卵もいいのだろうか?」
「もちろん何個でもOKだって!」
「お前らなに勝手に言ってるんだよぉ。なんでオレがこんなバカ女に奢らなきゃ……ぎゃふ
ん!」
「うわぁ〜……島津っち、落ち込んでても蹴り飛ばすんだぁ。
でも下着見えちゃうからキックはよくないと思うよ?」

 またバカにバカと言われた!
確かに私は自分で考えていたよりも頭はよくないようだ。三国志の面白さを説明できなかった
のだからな。
が、それを貴様に指摘される筋合いはない!
っと、こんなことをしてる場合ではないのだった。
カレーをどのくらいまで食べさせてもらえるのかを確認せねば。そう、せっかくの奢りだ。
どうせなら、夢とはいえ、後一歩で食する事ができた……あの幻のカレーを奢ってもらおう!

「……甘口玉子かけごはんカレーにしてもいいのだろうか?」
「島津っち、まだ落ち込んでるんだ。……甘口玉子かけごはんカレー?なにそれ?」 
「玉子かけごはんに甘口カレーをかけるという、贅沢極まりない一品だ。
一度は食してみたいと、常日頃思っていたのだが……いいのだろうか?」

 そう、後一歩で口に入れることが出来たのだ。
それが例え夢の中でもかまわない。死ぬまでの間、一度でいいから食して見たいのだ!

「……玉子かけごはんにカレーをかけるの?」
「……そうだ、とても豪勢な、夢のような一品だろう?」
「イテテテテ……お前、なんですぐに蹴り飛ばすんだよ!奢ってやらねぇぞ?」
「うるさい!貴様は余計な事を話さずに、私に甘口玉子かけごはんカレーを御馳走すればいい
んだ!」
「甘口玉子かけごはんカレー?なんだ、それ?」
「キサマ、私の説明を聞いてなかったのか?だからキサマはバカなのだ!」

 仕方あるまい。その空っぽの頭に叩き込むがいい!
カレーの最高峰!最高の贅沢、甘口玉子かけごはんカレーを!!

「甘口玉子かけごはんカレーとは、キサマが想像すらしたことがないような贅沢なカレーだ。
まず、ごはんが一粒一粒が立っている炊き立ての白ごはんに……もちろんお米は新米だ、そ
れ以外は許さん!
そのごはんに新鮮で、黄身が箸で摘めるようなLサイズの生卵をぽとりと落とすんだ。
そして、ゆっくりと、かつ大胆にかき混ぜて、炊き立て白ごはんと、新鮮な生卵をミックスさせ
る。
これだけでも御馳走なのに、そこに甘口カレーをたっぷりとかけるのだ!
どうだ?新鮮な玉子と一体化した白ごはんに、程よい辛さの甘口カレーがかけられる。
それをスプーン一杯にすくい、口の中に放り込む!
あぁ……私はいまだ食した事がないから、味を説明する事はできないが、きっと奇跡のような
美味しさのはずだ。
あぁ……想像するだけで唾液が止まらなくなる。……あぁ、お腹がすいた」

 私の説明に口を大きく開け、ポカンとしたまま動かないバカ。
やはりキサマのそのバカな頭では、想像すらできなかったようだな!
至福の、甘口玉子かけごはんカレーのことを!



「……なぁ、自信満々のところ悪いんだけど、皆が言わないようだからオレが言うぞ?」
「なんだ?キサマが私になにを言うつもりだ?」

 バカなキサマが私になにを言うつもりなのだ?
どうせ、『すごい美味しそうだ!』とか、
『そのような魅惑の食べ物がこの世の中に存在していいのだろうか?』とか言うつもりなのだろ
う?
……周りのクラスメート達が、バカに何かを期待する目を向けているような気がするのは、何
故だろうか?

「お前が言ってた甘口玉子かけごはんカレーって、カレーに玉子を落とすのと同じじゃないの
か?
玉子を落とす順番が先か後か違いだけだろ?なぁ、そうだろ?」

 キサマはなにをバカなことを言っている……い、言われてみれば確かにそうだ。
玉子を先に落とすか、後に落とすか、その違いだけのような気がする。
ま、まさか私以外の皆はこの事に気がついていたのか?
慌てて周りのクラスメートを見てみる。……皆の視線が痛い。
そ、そうか……私だけが気がついていなかったのか。
気がついておらずに、一人で舞い上がり……夢を見ていたのか。

「わ!わわわ!島津っち、また落ち込んじゃったよ!」
「う〜ん、こうしてみると、島津さん、とっても面白い人だったんだねぇ」
「……なぁ、お前らも気がついていると思うけど、コイツ、やっぱりバカだろ?」

 ふ、ふふふふ……やはり私はバカが言うようにバカなのか?…………キサマにだけは言わ
れたくはない!

「ふん!」
「あべし!」
「落ち込んでても島津っちの蹴りはスゴイねぇ。下着、今日も白なんだね」
「う〜ん、島津さんの清純なイメージとピッタリだねぇ」
「でもさ、島津っちって大人っぽいイメージもあるから、黒も似合いそうだよね!」
「そのイメージも、ここ最近の騒動で崩れ去っちゃったけどね。……いい意味でね」
「す、すまないが下着の批評をするのは止めてくれないか?少し恥ずかしいのだが」

 私の下着の事を好き勝手に批評しているクラスメートを窘める。
蹴りは下着を見られてしまうのか……次回からはパンチにしよう。

「それよりさ、放課後、皆でカレー食べに行くんでしょ?ならお昼ごはんはもう止めとかない?」
「そうだね!どうせ結城に奢ってもらうんだから、たくさん食べなきゃね!お腹空かせとこう
よ!」

 いつの間にかクラスメートもカレーを奢って貰えるようになっていた。
奢ってもらう立場でなんなのだが……こんなにもの大人数、バカのサイフは大丈夫なのだろう
か?

「そ、そうだな。せっかくカレーを御馳走になるんだ。お腹を空かせて美味しく食べないといけな
い」
「そうそう。『甘口玉子かけごはんカレー』をお腹一杯に、ね」
「ぐぅ……あ、あまり苛めないでほしいのだが」
「アハハハハ!島津っち、赤くなってカワイイ!」
「カ、カワイイ?私が?そのように言われたのは、初めてだ」
 

 結局その日はお昼ご飯を抜いただけあって、カレー専門のチェーン店で美味しくカレーを頂
いた。
まさかカレーにチーズを入れると、あそこまで美味しくなるとは……想像すらしていなかった。
カレーとは魔法の食べ物だな。何を載せても美味しくなる、魅惑の食べ物だ。
……クラスメートの分もお金を支払ったバカは、血の涙を流していたが、私には関係ない。



「おはよ〜っす」

 チーズカレーを堪能した次の日、校門を入ったところで声をかけられる。
声をかけてきたのは、昨日血の涙を流していたバカだった。
……なんだ、キサマか。
無視してもかまわないのだろうが、昨日は御馳走になった身だ、お礼の一つも言わねばいけな
いだろう。

「おはよう。昨日は御馳走になった」
「お前、カレーを前にしたら目がキラキラ輝くんだな。お前、やっぱりメチャクチャ面白いな!」
「ウルサイ!また蹴られたいか!」

 バカのクセに私をからかうとは……今度からは感情を顔に出さないように気をつけねば。

「それよりさ、今度は長宗我部元親について詳しく教えてくれよ」
「またか?お前は自分で勉強するクセをつけた方がいい。でないと何時までたっても頭がよくな
らないぞ」
「大きなお世話だよ!お前も人に教えるのがヘタだろ?だからオレで練習すると思って教えてく
れよぉ」

 むぐぅ!た、確かに私は者を教えるのがヘタだそうだ。弟達にも揃ってそう言われてしまっ
た。
しかしだな、ママ曰く『彩はヘタなんじゃないの、少し不器用なの』だそうだ。
……ヘタと不器用の違いがよく分からないな?

「何故私なんだ?他の人に頼めばいいだろう?」
「だって他のヤツ、戦国時代に興味ないんだよ。お前くらいなんだよ、戦国時代が好きなのっ
て」
「何時私が戦国時代が好きだと言った!」
「まぁまぁ、戦国時代ってメチャクチャ面白いぜ?
そうだ!お前、シュミレーションゲームってしたことあるか?オレ、戦国時代の持ってるから貸し
てやるよ!」

 むむ?ゲーム?自慢ではないが、我が島津家にはゲーム機というものはない。
だから私は今までゲームというものをしたことがない。……だから、興味があるのは仕方がな
いと思う。

「ほら、携帯ゲーム機も貸してやるし、ソフトも貸してやるからさぁ。
だからさ、色んな武将のこと、教えてくれよぉ」

 ゲーム機本体も貸してくれる、だと?こ、これはいい提案なんじゃないか?
弟達もゲーム機をほしがっていたし、姉として、借りてきてやったといえば大喜びしてもらえるの
ではないか?


「あ、島津っちがまた結城と話してるよ?」
「なんかさぁ、あの2人、意外と似合ってない?」
「あ、アタシもそう思ってたんだよねぇ。だって結城くらいしか島津っちに話しかけてこないじゃ
ん」
「そうそう、他の男共はなにやってんだぁ〜!って感じだよねぇ」
「ま、結城が話しかけるまで、話さなかったアタシ達が言っても説得力ないけどねぇ」
「けどまさかあの島津さんがあんなに面白い人だなんて思いもしなかったからね」
「ホント、人って見た目ではわかんないよね〜」
 

「……分かった。では、そのゲーム機を貸してくれるのなら、教えてやらん事もない」
「おし、これで交換条件成立だな。じゃあゲーム機貸してやるから放課後家に来いよ」
「うむ、分かった。ちなみにそのゲーム機で使える他のゲームも貸してもらえるのだろうか?」
「おお、別にいいぞ。じゃあ放課後にな」

 なかなかいい交換条件を結べたな。バカに少し戦国武将について教えてやるだけでゲーム
機を借りれるとは。
これで弟達も大喜びだな!姉としての威厳を保てるな!

 あまり深く考えずに、バカの家に行くと言ってしまった私。
そのおかげで、今後の人生で、長くお世話になる2人に出会うことが出来た。
そして、あの辛い出来事があってからも私が生きていく事が出来た、新しい居場所を作る事も
できたんだ。
 




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