「お茶、ここに置いておいておくからね?じゃあ修太、しっかりと勉強するんだよ?
島津さんに迷惑かけるんじゃないよ、分かったね?
島津さん、バカ息子ですがよろしくお願いしますね」
「島津さん、このバカをよろしくお願いします!
言うこと聞かないようだったらぶん殴っていいですから。
変なことしてくるようだったら、遠慮せずおじさんに言っておくれ。ぶち殺すから」

 お茶とお菓子をお盆に乗せて私達に差し入れを持ってきてくれた、おじさんにおばさん。
結城に勉強を教える時は、わざわざお菓子まで用意してくれている。
私の愛する人のためだ。
私が好んで教えているのだから、そんなにも気を使わなくてもいいのに……
そう思いつつも、これが密かな楽しみなのも事実だ。
どうも私は自分で思っているよりも、食べ物に関しては卑しい性格らしい。
結城やクラスメートの皆にも、よく言われてしまう。
『美味しいものを前にしたキラキラおめめの島津っちって、カワイイねぇ』と。
結城に褒めてもらえるのは嬉しいのだが……何かが違うような気がする。
いったい何が違うのだろう?

 さて、と。せっかくおばさん達が用意してくれたのだから、美味しく頂かなくてはもったいない。
今日のお菓子は……河童印のえびせんか。これは私の大好物の一品じゃないか!
エビ風味の程よい味付けに、サクサクとたまらない食感。
一本を口に運ぶと、あっという間に『サクサクサク!』と一気に食べ進み、
えびさえんを口に運ぶ手が止まらなくなってしまうという、スナック菓子界の王様だ。
小学生の頃、パパがママに内緒で時々買ってきてくれて、よく弟達と取り合いになったものだ。
結局はママに隠れて食べていたのがバレてしまって、パパや弟達と一緒に正座でお説教をさ
れた。
懐かしいな……河童印のえびせんは、島津家の思い出の味なんだ。
……ダメだ!これは食べると止まらなくなってしまう!
それでは結城が集中出来ないではないか?
仕方がない、結城に集中してもらう為、このえびせんは私が全ていただこう。
とりあえずは……おじさん達には早く出て行ってもらおう。でないと食べることが出来ない。

「おじさんにおばさん、私に任せてください。ビシバシと鍛えて、次こそは平均点を越える成績に
します」

 胸をドンと叩き、おじさん達にやる気を見せる。
今から勉強をするのだから、早く出て行ってくれないだろうか?
早くサクサクのえびせんを口いっぱいに頬張りたいものだ。あぁ、おなか空いた。

「ありがとうね、島津さん。貴女みたいないい子が、このバカ息子の彼女だなんて……
人間まじめに働いてたらいい事があるもんだねぇ」
「ホントだなぁ。このバカが、こんないい子と恋人同士だもんな。こりゃますます頑張って働かな
きゃな!」

 私の言葉に涙ぐむ2人。
そこまで喜んでくれるのは嬉しいのだが、これ以上頑張って働いたら身体に悪い。
働きすぎて倒れる人もいることだし、注意を促さなければいけないな。

「おじさんにおばさん。仕事を頑張るのはいい事ですが、体にも気を遣ってください。
特に自営業の人は健康管理を怠ることが多いそうですから、一度キチンと健康診断を受ける
ことをお勧めします」

 そう、自営業の人は健康診断をあまり受けないそうだ。
魚屋さんの大将も、去年の年末の忙しい時期に倒れ、新年を病室で迎えていた。
私の大好きなおじさん達にはそうなってほしくはない。……好きな人を生んでくれた2人だ。
この2人がいなければ、私は結城と出合うこともなかった。いわば2人は私の恩人なんだ。

「あぁ……ホントにいい子だよぉ。
グスッ、こんないい子が修太の恋人だなんて、夢のようだよぉ」
「グスッ、ホント、優しくて素直で頭もよくて、おまけに美人で料理まで上手い!
こんな完璧な子が修太を好きになってくれるなんて……奇跡ってのは起こるもんだな」
「もういいよ!いい加減出て行ってくれよ!これじゃいつまで経っても勉強できやしねぇよ!」

 なかなか部屋を出て行かないおじさん達に、辛抱を出来なかったのか、結城が大声を上げ
た。
確かに早く出て行ってもらいたいが、大声を上げるまではないだろう?

「はいはい、2人のところ邪魔して悪かったね。じゃあ母さん達は出て行くからしっかりと勉強頑
張るんだよ?」
「島津さん。バカ息子をよろしくお願いします。修太!失礼なことをしやがったら承知しねぇ
ぞ!」

 渋々といった顔をして、部屋を出て行く2人。ふぅ、これでやっとえびせんを食べられるな。



 金曜日の放課後、結城米穀店でのアルバイトを終えた私は、
結城の為に手作りをした問題集のプリントを片手に、結城の部屋にお邪魔した。
相変わらずゲームやマンガの多い部屋だ。……今日はどのマンガを読もうかな?

「なんでオレの親は息子が勉強するのを信じないんだろうな?
お前はマンガ読んでるだけで、勉強してるのはオレなのにな」
「ん〜?それは今までの行いが悪いからだろう?
結城の場合は成績まで悪いからな、信じてもらえないのは仕方がないことだと思う」

 結城の言葉に適当に答え、本棚から一冊のマンガを取り出す。
うん、今日はこの戦国時代物のマンガを読むとしよう。
主人公が長宗我部元親ならよかったのだが、どうやら彼はマイナーな武将らしい。
結城との接点を作ってくれた武将だ、私は彼が大好きなのだがな。
読む本も決まったところで、次は食べる物を用意しなければ。
結城が勉強に集中できるよう、私1人で食べてあげないといけない。
これも結城の為だ、心を鬼にして食さねばいけないな。
……決して独り占めしたいのではない!
おばさんが持ってきてくれたえびせんを開け、パクリと一本を食す。
サクサクサク……うん、このサクサクの食感がたまらない!
あまりの美味しさに、次々と口の中に放り込み、サクサクと食す。ダメだ、もう止まない!
あぁ……こんなにも食べるのに夢中になってしまう食べ物が、この世の中にあっていいのだろ
うか?

「……なぁ島津。お前、お菓子食いに来てるだけだろ?」
「ふぉんふぁふぉふぉふぁふぁい!」
「お前、口の中にどんだけ詰め込んでるんだよ!オレにもよこせよ!」

 袋を奪おうとする勇気の手を叩き、えびせんを死守する。
いくら結城でもえびせんは渡さない!これは私の物だ!

「ダメだ!このえびせんという物は、美味しさのあまり食べると止まらなくなるんだ。
一本でも食べると美味しさのあまりにもっと食べたくなり、集中力が切れてしまう。
そうなるともう勉強どころではなくなってしまう。そうなってしまっては困るだろう?
結城には勉強をしてもらわなければいけない。
おじさんとおばさんにもしっかりと勉強させると誓ったしな。
だから、このような危険な食べ物を君に食べさせるわけにはいかないんだ。
分かってほしい。私も君と同じ食べ物を分け合いたいんだ。
でも、このえびせんだけはダメなんだ」

 私の言葉に、真剣な表情で見つめてくれた結城。
そうか、私の心が伝わったのだな?……そ、そんなに見つめないでくれないか?
嬉しいのだが、少し恥ずかしいんだ。
そんな真剣な眼差しの結城が、私に向かい、口を開いた。

「島津、お前……この間のシュークリームの時もそう言ってたよな?」

 …ぐぅ!

「その前のイチゴ大福の時もそうだったな?」

 ……ふぐぅ!

「そのまた前の、もみじ饅頭の時もそうじゃなかったっけ?」

 ………はぐぅ!

「お前……食いしん坊だな」

 …………や、やはりそうだったのか。私は……食いしん坊だったのか。
ぐすっ……なにが結城のため、だ。自分がえびせんを食べたいためじゃないか。
こんなにも美味しいえびせんを独り占めして……私は最低な女だ。
こんな最低な女だと、結城に嫌われてしまう。……もう、嫌われてしまったのかもしれない。
ぐすっ、私は、馬鹿だ。救い様のない、大馬鹿だ!
このようなことで、愛する、大切な人から嫌われてしまうなんて……どうしようもない大馬鹿なん
だ!

 嫌われてしまった……そう考えただけで全身から力が抜け、ガックリと膝をつき両手をついて
しまう。
もう二度と、手を繋いで歩いてもらえないのだろうか?
もう二度と、お弁当が美味しいと満面の笑みで褒めてもらえないのだろうか?
もう二度と……好きだと囁いてもらえないのだろうか?
結城と恋人でいられなくなるかもしれない……そんな絶望的な考えを巡らせている私に、結城
が言葉をかけてきた。

「島津……お前ってやっぱり面白いな!」
「……ぐすっ、面白い?」
「あぁ、すっげぇ面白い!やっぱりオレ、お前のこと好きだわ」

 落ち込んでいる私を、ギュッと抱きしめてくれる結城。
か、顔が!結城の顔がすぐ側に!……す、すすす好き?今、好きと言ってくれたのか?

「す、好き?ま、まだ私のことを好きでいてくれているのか?」
「ははは、当たり前だろ?お前のそんなヘンなとこに惚れるのは、オレ位なもんだぞ?」
「ひっく、ぐすっ……やはり結城は馬鹿だな。こんな馬鹿な私を好きになってくれるのだから」

 結城の優しい言葉に涙が溢れてくる。その涙をそっと拭いてくれる優しい結城。
あぁ……結城が触れると身体が熱くなってしまう。これはいったいなんなのだろう?

「はははは、バカ同士で丁度いいじゃないか。けどえびせん独り占めは止めてくれよな。
オレにも少しは食べさせてくれよ」

 自分にもえびせんを食べさせてほしい。当たり前の意見を述べる結城。
確かにその通りだ。私達は恋人同士なんだ、大切なものは分け合わないといけない。
……いや、それでは勉強にならなくなるのではないか?
えびせんは食べてしまうと止まらなくなる、魔力にも似た力を持っている。
そんな危険なものを食べさせたら、集中力がなくなってしまうではないか!
……仕方ないな、味だけでも味わってもらうとしよう。

「……ダメだ。結城は勉強に集中しなければならない。だからえびせんは食べさせることはでき
ないな」
「なんだよ、それ!ちょっとくらい食べさせてくれてもいいじゃんか」
「絶対にダメだ!……と言いたい所だが、せめてもの情けだ。味だけでも味あわせてあげよう」

 言葉の意味が分からずに、キョトンとした表情の結城の顔に手を添えて唇を合わせる。
抱きしめてくれた君が悪いんだ。君の顔をこんなに近くで見て、我慢できるわけがない。
結城の首に腕を回して抱きつき、もっと深く唇を合わせる。
そして、突然のキスに驚く結城の口の中に私の舌をねじ込んだ。
舌を入れると同時に唾液も送り込み、結城に私の口の中に残っているえびせんの味を堪能し
てもらう。
すると結城もえびせんの味を味わおうと私の舌に絡み付いてきた。
お互いに舌を絡めあい、いつしかえびせんの味はなくなり、お互いの味しか味わえなくなってし
まった。
私は……クラスメートに教えてもらった、このキスが大好きだ。
舌を絡めあっていると結城と一つになれたような気がして、とても幸せな気分になるんだ。
……結城もそうだといいな。私と一つになっている感触を、楽しんでくれていると嬉しいな。

 5分ほどお互いの味を堪能した私達は、名残惜しむかのような唾液の橋を架けながら唇を外
す。
結城の目は虚ろになっていて、おそらく私もそうなっているのだろう。
その証拠に、結城のこと以外を考えられなくなっている。
結城も私のことだけしか考えられなくなっていたら、嬉しいな。
……ダ、ダメだ!今日、何の為に私はここにいるんだ!
結城に勉強をさせるためではないか!こんなことをしている場合ではない!

「さぁ、十分にえびせんの味も堪能しただろう?早速勉強を開始する!」
「へ?勉強?今日はもういいじゃんか。それよりオレ、もっと島津とキスしたいぞ」

 キ、キスをしたい?わ、私とか?……ゆ、結城ぃ、私も君をもっと感じたい!
だが……断腸の思いだが、君には勉強をしてもらわなければいけない!

「結城もキスをしたいと思ってくれているなんて、とても嬉しいよ。
でも……ダメだ。おじさん達に勉強をさせると誓ったんだ。あの2人に嘘はつけない」
「チェッ、もっとしたかったのに……もうちょっとくらいいいだろ?」

 唇を突き出し、迫ってくる結城。
だから言っているだろう?君は勉強をしなければいけないんだ! 

「いい加減にしないか!次の試験でいい成績を修めたら好きなだけしていいから。
だから今は勉強を頑張るんだ」
「え?ホントか?試験で点数よかったら、いくらでもしていいのか?」
「あ、あぁ、頑張った君へのご褒美だ、そのくらい別に構わないよ」

 キスは頑張った君へのご褒美であり、私へのご褒美でもあるんだ。
だから是が非でも成績を上げてもらわなければいけない。
結城、私の為にも頑張るんだ!……正直、君とはもっとキスをしていたいんだ。

「ご褒美?じゃあさ、成績上がったらご褒美の代わりにオレのお願い聞いてくれないか?」

 キスがご褒美だと言ったところなんだがな、いきなり話がすり変わっていないか?
ご褒美の代わりに、だと?私とのキスよりも欲しい物があるというのか!

「なにが『じゃあさ』だ!……ま、まぁ、頑張って成績を上げたのなら考えてあげなくもない。
ただし!私に出来る範囲でのことだぞ?」

 キスの変わりにと言われていい気はしないが、結城の喜ぶ顔も見て見たい。
好きな人の願いだ、どうせなら頑張ったご褒美でなくても叶えてあげたい。
だが勉強も頑張らせなければいけないし、ご褒美というニンジンをぶら下げた方が成績もよく
なるだろう。
……キスは私へのご褒美としてするとしよう。

「おおっしゃ!じゃあオレ、頑張る!頑張って勉強してご褒美ゲットするぜ〜!」
「す、凄いやる気だな。ちなみにそのご褒美とはいったいなんなのだ?」

 結城をここまでやる気にさせるご褒美が気になる。いったいなんなのだろう?

「んっふっふっふ……それは秘密だ!だって言ったらお前、断わりそうだもん」
「わ、私が断るかもしれないことを要求するつもりか?」
「ご褒美なんだからいいだろ?おし!早速勉強するぜ!今日の分のプリント、貸してくれよ」

 ご褒美目当てで張り切りだした結城に問題プリントを渡し、勉強を開始する。
私に何をさせる気なのか気になるところだが……やる気になってくれたのは嬉しい。
どのようなご褒美なのかは気になるところだが、このやる気に水を差すわけにはいかない。
成績が上がったら、約束どおりにご褒美をあげなくてはいけないな。
……どんなことを要求してくるのだろう?
少し不安であり、ちょっと期待もしてしまう。いったいどんなご褒美なのだろう?



「島津っち〜、聞いたよ?最近結城の部屋に入り浸ってるらしいねぇ」
「あの結城の成績が上がってきてるって、先生達驚いてたよ?
島津っちはいい彼女してるねぇ」

 学校での休み時間、いつものように友人達に囲まれる。
結城と出会う前には、とても考えられなかった光景だ。
結城と出会ったことで、私の周りが劇的に変化している。
……いや、変わったのは私自身なのだろうか?
その証拠に、友人達に結城とのことをからかわれても、怒りの感情は沸いてこない。
むしろ、結城の話をもっと聞いて欲しいと思ってしまう。
これが『惚気る』ということなのだろうか?

「い、入り浸ってはいない……と思う。
確かに最近は勉強を教える為に毎日部屋に行ってはいるが、目的はあくまで勉強なんだ。
だから入り浸っているという表現は違うと思う」
「成績が上がってきたのは結城の努力があってこそだ。
それに結城に勉強を教えることにより、私が学ぶことも多いんだ」

 そう、私が教えられることも多い。
自分では認識していなかったのだが、私は人に物を教えたりすることが、とてもヘタだったよう
だ。
今思うと、結城に初めて勉強を教えた時、とてもヒドイ教え方をしていた。

『教科書の50ページから、75ページまでを全て暗記して欲しい。この範囲を覚えれば成績も上
がると思う』

 いくら私が教科書を全て暗記しているからといって、それを結城に押し付けるのはダメだ。
当時の私はそのことを理解しておらず、結城にダメだしされるまで、それに気がつかなかった。

『覚えれるわけないじゃん、もっと解りやすく教えてくれよ。お前、教えるのがヘタだな』

 こう言われて、私は落ち込んでしまった。
しかし愛する人の成績を上げるためだ、私はどう教えればわかり易く理解してもらえるのかを
研究した。
その研究のかいあって、結城の成績は格段に上昇した。
……といっても、赤点がなくなっただけで、平均点以下なのは変わらなかったが。
次こそは平均点。その次は、平均80点を越えてもらおう。
出来れば私と同じく全ての教科で100点を取ってもらいたいものだ。
……そういえば成績が上がったら、ご褒美をあげることになっていたな。
どんなご褒美を要求されるのだろうか?
どうせ結城のことだ、お弁当のおかずにお肉をもっと入れて欲しいとか、そういうことなんだろう
な。
まったく……君の健康を考えてのお弁当なんだから、ワガママを言わずしっかりと野菜をとって
ほしいな。
しかし、頑張ったご褒美として、少しはお肉の量を増やしてあげてもいいかな?
美味しそうにお弁当を食べてくれる結城の顔を想像し、頬が緩む。
……結城の分のお肉を増やすために、パパの分のお肉を減らすとしよう。

「島津っち、なにニヤニヤしてるの?どうせ結城のことを考えてるんでしょ?
ホント、大好きなんだねぇ」

 結城の喜ぶ顔を想像し、頬を緩めている私の頬を突く友人。
何故私が結城の事を考えていると分かったのだろう?

「んん?いや、結城へのご褒美について考えていたんだ。
どうせお弁当のお肉をもっと増やして欲しい、と言ってくるのだろうなと思ってね」
「へ?ご褒美?ご褒美って何?」
「あぁ、説明不足だったな。次のテストで結城の成績が上がったら、結城の求めるご褒美をあ
げると約束をしたんだ」

 牛肉は止めて豚肉にしよう。牛よりも豚の方が身体にはいい。
まったく、結城め……私へのご褒美のキスは、たくさんしてもらうとしよう。

「いやいやいや!島津っち、それ多分違うよ?」
「そうそうそう、健全な男子高校生が、島津っちのような綺麗な女の子にそんなご褒美求めてる
訳ないじゃん」
「……は?お肉ではないのか?ではデザートだろうか?」

 デザートか。果物でいいのだろうか?
りんごをウサギさんにしてあげたら喜んでくれるのだろうか?

「いやいやいやいや!それも違うって!……あれ?ある意味デザートになるのかな?」
「そういえば2人が付き合いだして、半年くらい経つんだねぇ。そろそろ頃合だよね?」
「頃合というか、少し遅いと思うけどね。あ〜あ、これで島津っちも大人の仲間入りかぁ」
「……は?皆はいったい何を言っているのだろうか?私が大人の仲間入りとはどういう意味な
のだろう?」

 皆の言葉の意味が解らずに、不思議がっている私に説明をしてくれた。
友人達曰く『結城が求めてくるご褒美は間違いなく島津っちの身体。つまり、えっちしたいんだ
よ』だそうだ。
……そ、そうなのか?結城がついに私を求めてくるのか?
た、確かにいつかはそういう時が来るとは思ってはいたが……その時がついに来るのか?
……し、下着を買いに行かねば!大人雰囲気をかもし出している、セクシーな下着を!
結城に喜んでもらう為、少しでもセクシーな下着を!

 その日の放課後、結城との勉強会をキャンセルした私は、友人達と下着を買いに行くことに
なった。
何も知らない私にいろいろなアドバイスをくれた、優しい友人達。
皆、ありがとう。いきなり求められていたら、どうすればいいのか戸惑うところだった。
皆のアドバイスで購入した、この黒い下着を身に着けて、結城と一つになろうと思う。
バイト代のほとんどが消えてしまったが、後悔はしない。結城に喜んでもらう為だからな。
ママに購入した下着について色々聞かれてしまったが、気にしない。
……パパが下着を見て号泣したけど、無視してしまった。パパ、ゴメンなさい。



 下着を購入した日から2ヵ月後、ついにその日が来てしまった。
友人達にいろんな知識を教えてもらい、ママからも避妊の大切さを再度教えてもらった。
私はこの2ヶ月間で、いつでも結城の要求に答えることが出来る、知識を手に入れた、と思う。
その結城は、猛勉強のかいあって、全ての教科で平均点どころか、平均を上回るという予想外
の高成績を収めた。
テストに向けて猛勉強をする結城の横顔は、なかなか凛々しくてカッコイイものだった。
そ、そんなにご褒美がほしかったのか?……そこまで私が欲しかったのだろうか?

「島津っち、スゴイねぇ。結城、平均点以上の成績だったみたいじゃん」
「島津っちって勉強を教えるのが上手なんだね。学校の先生とか似合いそうだね?」
「あ、それいいね、美人の天才女教師!男子生徒の人気を集めるよ」

 いつだろうか?いつご褒美を求めてくるのだろうか?不安と緊張と、少しの期待でドキドキし
ている私。
いつだろう?いつ求められるのだろう?どこで求められてしまうのだろうか?
結城の部屋か?しかしあの部屋ではおじさんやおばさんが、いつ様子を見に来るかわからな
い。
今思えば、時々勉強の様子を見に来ていたのは、私達がSEXをしていないかをチェックするた
めに来ていたのだろう。
もし、私達がSEXしている現場を見られてしまったら……結城はおじさんに殺されてしまうので
はないか?
きっと私もタダではすまないだろう。……拳骨を落とされてしまうのではないだろうか?
ダメだ!結城の部屋でのSEXは危険すぎる!では私の家でするのがいいのだろうか?

「でも島津っちは天才だからねぇ。先生とかじゃなく、何かの研究者になるんじゃないのかな?」
「それも似合う気がするねぇ。島津っちは将来何になりたいの?意外と結城のお嫁さんとかか
な?」
「あははは!それ、ありえそうだね!島津っちって、ちょっと変わってるから、それもいいかもし
れないね」

 しかし私の家でSEXをしても、弟達に見つかってしまったらマズイのではないか?
それよりもパパが結城と会ってしまったら……何をするか分からない。
私を大切に想ってくれているのは嬉しいのだが、結城を敵視しているみたいなんだ。
だから二人を合わせるのはまだ時期尚早で、危険のような気がする。
……いつかはパパにも紹介したいな。

「でもこれでご褒美あげなきゃいけなくなったね。島津っち、緊張してる?」
「あははは、もうガッチガチだねぇ。ほっぺはプニプニだけどね。緊張してたら、濡れるものも濡
れなくなるよ?」
「そそ、濡れてなきゃ痛いからね。初めては濡れててもすっごく痛いんだから、濡れてなきゃも
っと痛いよ?」
「……は!す、すまない!皆の話を聞いていなかった、申し訳ない」

 私の緊張を解す為か、頬を抓ってくる友人達。
今からこんなに緊張していたら、結城と肌を合わせる時にはどうなってしまうのだろう?
……やはりSEXというものは、キスよりも一体感があって気持ちいいものなのだろうか?
友人達やママの話では、SEXは慣れるまでは痛いだけだという話だが……初めてはやはり痛
いのだろうか?

「いったい何を話していたのだろう?その、緊張して、話が耳に入っていなかったんだ。申し訳
ない」
「あははは!島津っちは初めてだからねぇ。アタシも初めては緊張しちゃったもんね」
「島津っちは将来何になるのかなって話してたの。学校の先生とか似合うんじゃないかって言っ
てたんだよ」
「もしくは結城のお嫁さんとかね。結城のおじさん達とも仲いいんだよね?嫁姑問題も起こりそ
うにないじゃん」
「いや、私は高校を卒業したら就職をするつもりだ。公務員になりたいなと考えている。
我が島津家は家を買ったおかげで家計が火の車なんだ。
すこしでも家計を助けたいと思っているんだ。
大学へはお金に余裕がなくて、行けそうにないというのも理由の一つだ。
私が大学に行けなくても、私が働いてお金を稼ぎ、弟達を大学に行かせてあげたいとも考えて
いるんだ。……ゆ、結城のお嫁さん?」

 お、お嫁さんというと、私が結城と夫婦になるということか?
パパやママみたいに時々口げんかはするけど、お互いを大切に想い、共に力を合わせて暮ら
すということなのだろうか?
おじさんやおばさんのように力を合わせ、仲良く働くということなのだろうか?
私が結城と……そうなれるのだろうか?
パパやママのように、おじさんやおばさんのように……結城と、そういう風になれるといいな。

「そ、それは、その……まだ私達は若い。人生経験も少ないんだ。
だから、私と結城が、その……け、けけけ、結婚なんてまだ早いと思っている」
「ああ!島津っち、結城が来たよ!赤い顔してる場合じゃないってば!」
「あ、あれだ、確かに結城とはこれからもずっと一緒に、死ぬまで歩いて行きたいと考えてい
る。しかしだな、だからといって結婚なんて……結城が嫌がるかもしれないじゃない……ゆ、結
城が来た?ま、まだお昼じゃないぞ?いったいなにをしに来たんだ?」
「何をしにって……ご褒美のお願いじゃないのかな?」

 突然の結城の登場に頭の中が軽くパニックになる。そんな私に聞こえた友人の一言。

『ご褒美のお願いじゃないのかな?』

 や、やはりそうなのか?
確かに成績が上がったらご褒美をあげると約束をした。
でも、学校でご褒美の事を言い出さなくてもいいのではないか?
その、せめて二人きりの時にだな、私の肩を優しく抱きしめてくれながら迫るとかにしてくれれ
ばよかったのに。

「なんだ?島津、お前なんか様子がヘンだぞ?何かあったのか?」
「んな!な、なな、なんでもない!」
「あははは、島津っち、なんでもないって感じはしないねぇ」
「ん、んん!コホン!私はなんでもない、それよりも急に訪ねてくるとは、どうしたのだろうか?」

 余計なことを言いそうになる友人を咳で牽制し、結城に用件を聞く。
いくら結城でも、まさか皆の前で、その……く、口に出して言うことはしないだろう。
……い、いや、そのまさかが有り得てしまうのが、結城だ。
裏表がなく素直でいい人なところが、私は大好きなのだが……今は素直さを出さないで欲しい
な。

「オレには様子がヘンに見えるけど……ま、いいや。オレ、テストで頑張っただろ?」
「あ、ああ、平均点以上を取ったみたいだな、おじさんやおばさんも大喜びすると思うよ」
「なぁなぁ、約束覚えてるか?成績が上がったら、ご褒美としてオレのお願いを聞いてくれるっ
て」
「お、おおお覚えてはいる!覚えてはいるが……な、なにもこんな大勢の前で言うことはないの
ではないか?」

 ま、まさかがきた!どうしよう?もしかして学校の帰り道で求められたりするのか?
……はっ!そ、そうか!帰りに誰にも邪魔をされない場所で迫ってくるつもりなのか!
ママや友人達に聞いた、そういうことをするための施設……ラ、ラブホテルという場所で。
しまったぁ!まさかこんな展開になるとは想像してなかった!
せっかく準備していたセクシー下着を身に着けていない!
何の為にバイト代をつぎ込んで買ったんだ!……白い下着じゃやはりダメなのだろうか?
ど、どうしよう?何か理由をつけて家に帰らせてもらえれないだろうか?



「オレが島津にお願いしたい、ご褒美はだな……」

 そ、そうだ!今日は確かパパが休みだった!
今から電話してパパに下着を持って来てもらえば……な、何を考えている!
パパにそんな事をお願いしたら、どんなことになるか分かったものじゃない!
落ち着け!落ち着くんだ、私!よく考えれば解決策は必ずある!
なにか……何かいいアイディアがあるはずなんだ!落ち着いて考えるんだ!

「弁当のおかずにさ、肉をもっと増やしてくれよ。オレ、もっと肉を食いたいんだよ」

 どうする……どうすればいい?
そ、そうだ!急病だと言って早退すれば……ダメだ!家にはパパがいるではないか!
それにウソをついて学校を早退するなんて、ママに説教されてしまう!
しかしこのままだとせっかくのセクシー下着が役に立たなく……に、肉?
今、結城は肉を増やしてくれと言わなかったか? 

「島津が作ってくれる弁当って美味いんだけどさ、野菜が多くて肉少ないじゃん?」

 まさかのご褒美のお願いに唖然とする私。
まさかが有り得てしまうのが結城だとは思ってはいたが……こんなまさかだとは思いもしなかっ
た。

「オレさ、成長期だろ?だからさ、肉いっぱい食って力つけたいんだよ」

 な、なんだったんだ?ご褒美の約束をしてからの2ヶ月間。
知識を得るために友人やママにSEXについて聞いて回った努力の日々。
この2ヶ月間の努力は……私の苦労はいったいなんだったのだ?

「オレさ、肉食いたくて勉強頑張ったんだから、約束守ってくれよな?ご褒美なんだから肉大盛
りで頼むぞ?」

 ……友人達の視線が痛い。
哀れんでいるかのようなその視線が、私の心にグサリと突き刺さるようだ。

「お・に・く!お・に・く!……あれ?島津、どうしたんだ?お前、ヘンな顔してるぞ?何かあった
のか?」
「……るな」
「なんだ?『るな』ってなんなんだ?」
「……覚悟を決めていたのに、お肉だと?……ふざけるなぁぁぁ〜!」
「へ?……何故にぃ!」

 ヒュン!グチャ!……ドサッ。

「はぁ〜はぁ〜はぁ〜……ゆ、結城?す、すまない!つい我慢できずにやってしまった!大丈
夫か結城!」

 や、やってしまった!久しぶりに蹴り飛ばしてしまった!

「はぁぁぁ〜……やっぱり結城はバカなんだねぇ。気合入れて準備してた島津っちが哀れでなら
ないねぇ」
「いやぁ、今日の下着は白だったね。用意してた黒色セクシー下着ははいて来てなかったんだ
ね」
「ゆ、結城?しっかりするんだ、大丈夫か?何故動かない?」

 ゆ、結城が!結城がグッタリとして動かない!ど、どうすればいいのだ?いったいどうすれば
いいんだ!
こ、このままでは死んでしまうのではないのか?……死んでしまう?結城が死ぬ?そ、そんな
馬鹿な!

「イ、イヤだ!結城、死んではダメだ!私を一人にしないでくれぇ!」

 結城ダメだ、死ぬな!私を残して死なないでくれぇ〜! 



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