『ピピピピッ!ピピピピッ!』

 タイマーをセットしていた時計のアラームが鳴り、夢のような一時が終わりを告げる。
週末の土曜日、いつものホテルでのデート。
3回も愛し合った私達は、お互いを抱きしめるようにベッドに寝転び、まどろんでいた。
愛する修太に抱きしめられるように寝転がり、腕を枕にして横顔を眺める。
……私はこの一時が大好きだ。お互いを激しく愛し合い、その激しさを冷ますようなこの一時
が大好きなんだ。
私の頭の下にある修太の逞しい腕。幼い頃から家の手伝いで米袋を担いでいたせいだろう
か?
同年代の男よりも男らしい硬い筋肉が付いている。私はこの逞しい腕に強く抱きしめられるの
が大好きなんだ。
タイマーの音に急かされるように私は修太の腕から頭を上げ、タイマーを止める。
ふふふふ、この腕を枕に寝るというのは何度してもいい気分だ。
修太の汗の匂いを嗅ぎながら、腕の逞しさを感じることが出来る。……これほど幸せを感じる
時はそうはないだろう。
腕枕から身体を起こし、タイマーを止めた瞬間、お尻に感じる違和感。
先ほどまで散々触っていたにもかかわらず、まだ触り足りないのか?
お尻を下から上へと撫でるように優しく、時折お尻の谷間に滑り込ますようにいやらしく触ってく
る。
手がお尻を撫でる度、背筋をゾクゾクと電気に似たような感覚が走り、
お尻の谷間に滑り込んでくる度に、子宮がズキズキと疼いてくる。
こら、そんなイヤらしい触り方をするヤツがあるか。
……疼いて我慢できなくなってしまうではないか。

「ん……こら、もう時間だ。そろそろシャワーを浴びて着替えないと、延長料金を取られてしまう
ぞ」
「ん〜?彩のお尻って柔らかくて、スベスベしてて最高だなぁ」
 
 最高だと褒めてくれたのは嬉しい。君に褒めてもらえるならどんなことでも嬉しいよ。
でも早く着替えないと延長料金を請求されてしまう。だから名残惜しいが早くシャワーを浴びて
着替えなければ。

「……んん!だ、だからもう時間だと言っている!」

 お尻を触ってくる修太の手を抓る。
まったく……君は3回も出したというのに、まだ求めてくるのか。
……私も全然足りないのを我慢をしているんだ、君も我慢をしなさい。

「ちぇ!もう一回くらいはしたかったのにな。なぁ、ラストくらい1回いいだろ?」

 後ろからそっと抱きしめ、耳元で囁く修太。
耳にかかる修太の息が、耳元で囁かれる甘い誘いが私の頭を痺れさせる。
あ、あと1回か……どうせならもう2,3回くらいはしたいな。……ダメだダメだ!延長料金が高
くついてしまう!

「ダメだ!延長料金を取られてしまう!」
「ええ〜?別にいいじゃんか。金払うのオレだし、彩が気にかける事ないだろ?
延長料金くらいオレが払ってやるからさぁ……いいだろ?」

 後ろからギュッと抱きしめられ、そのまま両手で胸を揉まれてしまう。
首筋にキスをされ、胸を揉まれ続ける。
胸を揉まれ乳首を摘まれる度、首筋にキスを落とされ耳元で囁かれる度に、押さえつけていた
欲望が暴れだす。
欲望によって壊れかけの理性をなんとか繋ぎとめ、胸を揉んでいる両手を払いのける。

「ダ、ダメだ!……今、延長したら帰るのが遅くなってしまう。おじさん達に何を言われるか分か
ったものじゃない。……来週だ。来週のデートは午前中からホテルに来よう。
来週には気の済むまで抱いてもいいから……抱いてもらうから。それまでは我慢してほしい」
 
 私も我慢するんだから、君も我慢してほしい。
私の提案に手が止まり、考え出した修太。きっとおじさんという言葉に引っかかってしまったの
だろう。
もし私達が毎週ホテルでSEXをしていると知られたら、どうなるか想像もしたくない。
おそらく修太はおじさんに半殺し……いや、殺されてしまうのではないか?
最近のおじさんとおばさんは、私を実の娘のように大事に扱ってくれている。
ついこの間もあと少しで事件になってしまうようなことがあった。
店番をしていた私にナンパ目的で話しかけてきた若い男がいたんだ。
その男に気づいたおばさんが慌てておじさんを呼びに行き、
駆けつけたおじさんが男の胸倉を掴み、殺してしまうのではないかと思うほどの凄い勢いで怒
鳴りつけたんだ。
実際私が止めなければ殴りつけていたと思う。そうなれば傷害事件としておじさんは逮捕され
ていたのではないか?
私のことをそこまで大事に思ってくれているおじさん達には感謝の言葉しかないが……
パパと同じく、少し……いや、かなり大げさのような気がする。
ナンパ目的で声をかけてきたとはいえ、一応はお客様だ。
そのお客様に10キロの米袋を投げつけるのは、いかがなものなんだろう?

「来週まで我慢するのか?そんなの無理だって!だってさ、オレ、もうこんなになってるんだ
ぜ?なぁあと一回だけ、いいだろ?な?なな?」

 考え事をしていた私のお尻にツンツンと当る、修太のペニス。
硬く、そして、とても熱くなっている。私なんかにこんなにも興奮してくれたいるんだ……物凄く
嬉しい。

「こんなに硬くして……そ、その、手でもいいのであれば、修太の部屋でしてあげよう」
「おおおお!手コキか?手コキってヤツか!おし!絶対にしてくれよ?約束だからな!なな!」
「あ、あぁ、約束だ。だから早くシャワーを浴びて部屋に戻ろう」
「おお、さっさと汗流して帰ろうな。手っこき手コキ〜、気持ちい手コキ〜」

 嬉しそうに満面の笑みで歌いだす修太。手でするだけなのに、そこまで嬉しいものなのか?
……何故コンドームを持っているんだ?

「シャワーを浴びるだけなのに、何故コンドームを持っている?」
「まぁまぁ、それよりも早くシャワーに行こうぜ」

 問いかけに答えず、私の両肩を押し、シャワー室へと連れて行こうとする。
……まさかお風呂でするつもりなのか?

「ちょ、ちょっと待て!お前、お風呂でするつもりなのか?そんな時間はないと言っているだろう
が!」
「まぁまぁまぁ、早くしなきゃ時間がないんだろ?」
「た、確かに時間はないな。って、何故コンドームの封を破く!
部屋に帰ってから手でしてあげると言っているだろうが!」
「まぁまぁまぁまぁ、それはそれ。これはこれってことでいいだろ?」
「な、何がいいだろうだ!いい加減にしないと本気で怒……んん!きゅ、急に触ってくるなんて
反則、ひゃう!」

 無理やりお風呂に連れ込まれ、そのまま後ろからギュッと抱きしめられる。
後ろから回された逞しい腕が私を力強く抱きしめ、胸に回された手は、ムニムニと私の胸を揉
み解す。
その手の動きがイヤらしく、首筋を這う舌の感触が子宮を疼かせる。
その疼きに抵抗していた私の理性は、耳元で囁かれた甘い言葉で崩壊してしまった。

「だ、だから、んあ!時間が……んん!延長料金を取られてし……あん!」
「彩……好きだぞ。オレ、お前のことが大好きだ。愛してるぞ」
「しゅうたぁ……わ、私も好き……愛してる!」
「うお!ちょ、ちょっと待て!彩、ちょっとストップ……んぐ!」

 修太のせいで崩壊してしまった私の理性。
理性の壊れた私は、本能のままに修太を押し倒し、キスの雨を降らせてしまった。

「ん、ちゅ……ちゅる、ぢゅちゅ……んん、すきぃ。しゅうたぁ……ん、すきぃ……ちゅぢゅ」

 バカな私なんかに愛を囁いてくれた唇に舌をねじ込み、修太の舌を絡めとる。
首筋にギュッと強く抱きつきながら、舌で修太を犯す。
ちゅくちゅくと舌を動かしながら、修太の唾液を味わい、私の唾液を送り込む。
すると修太も舌を絡めてきてくれ、ギュッと抱きしめてくれた。
修太に抱きしめてもらっている……修太に強く抱きしめてもらいながら激しいキスをされている
んだ。
……そう考えただけで、私の身体は潤んでしまい、受け入れる準備が整ってしまった。

「しゅうたぁ、わたしぃ、もうわたしぃ……欲しい。君が欲しいんだ。
これを……この大きな君をわたしに入れて欲しい。もう我慢出来ない!
これも全部君が悪いんだ、君がすべて悪いんだ!」

 馬乗りになり、はち切れんばかりに大きくなっている修太に手を添え、私へと導く。
少し腰を浮かせ、後は腰を下ろすだけ……腰を下ろせば一つになれる。腰を下ろすだけで修
太と一つになれるんだ。
本能に支配された私は、早く修太を体の中で感じたいがために腰を下ろそうとした。
けど、そんな私を両手を使い、力ずくで止める修太。……何故そんな意地悪をするんだ?君は
私が欲しくないのか?

「ちょっと待ったぁ!コンドームつけなきゃヤバイって!お前、前から避妊はちゃんとしなきゃダ
メだって言ってたろ?
今すぐ着けるからさ、ちょっと待ってくれよ」
「……ダメだ。待てない。待ちたくない!一刻でも早く、君と一つになりたい!1秒でも早く君と
愛し合いたいんだ!」
「彩、落ち着け!すぐだから!すぐ着けるから落ち着けって!」
「イヤだ!子供が出来ても生んであげる!だから早く君を入れて……んん!」

 くちゅ……異物を受け入れるのには十分すぎるほど潤んでいる私に何かが入ってきた。
その何かは、ペニスでは出来ない複雑な動きで私の中を動き回り、クチュクチュと掻き出すよ
うに私を犯し始めた。

「しゅ、たぁ……ヤ、だぁ……ゆび、イヤぁ……君が、いいのに……指なんかで感じたくな……
んん!」
「もうちょっと待ってろよ……コンドーム、あと少しで着けれるからな。それまでは指で勘弁な」

 クチュクチュクチュ……私を掻き出す指が2本に増え、いっそう激しく私を犯す。
私は修太に覆いかぶさったまま、体の下に寝転がっている修太の指で犯されて快楽に支配さ
れていく。
指で感じるはイヤなのに、私の意志に反して身体はドンドンと高まっていき……すぐに限界を
迎えた。

「やぁだぁ……こんな、こんなの、いやぁ……い、やぁ……や、あ、んあああ!」

 腰から全体へ波及するかのように痙攣が広まっていく。
修太の指でグチュグチュと犯された私は、快楽に抵抗することも出来ず、一気に達してしまっ
た。
ペニスではなく、指で達してしまった。……指なんかでイッてしまったんだ。
快楽に支配されている頭で考える。私は……イクことができればなんでもいい女なんじゃない
か?
グスッ、私はなんて淫乱な女なんだ。修太がいいと言いながら、我慢できずに指なんかでイッて
しまうなんて。
……こんな淫乱な女は嫌われてしまうのではないか?修太に嫌われてしまったのではない
か?
自分自身が情けなくて涙が出てくる。……そんな泣きじゃくる私をギュッと抱きしめてくれる優し
い修太。
抱きしめてくれながら、耳元で優しく囁いてくれた。

「彩……ゴメンな?オレがコンドームを着けるのに手間取っちまったから、指なんかでしちゃっ
てさ。
でもさ、指でイッたお前の顔、メチャクチャ綺麗だったぞ?オレ、惚れ直したぞ」
「ひっぐ……しゅ、たぁ……ゴ、ゴメ……しゅうたぁ〜!」

 優しい言葉に涙が止まらない。ただし、先ほどまでと違い、悔し涙ではなく嬉し涙だ。
……修太に綺麗と言ってもらえた。惚れ直したと言ってもらえた!
人間というものはいい加減な生き物だ。我ながら呆れてしまう。
先ほどまでは死にそうなくらいに情けなく、悔しかったのに、今では嬉しすぎて天にも昇ってしま
いそうだ。
そうか……修太は私に惚れ直したのか。……ますます私を好きになってくれたのか!
嬉しくて嬉しくて、ますます涙が止まらなくなってしまった私。
そんな泣きじゃくる私の頭を、優しく撫でてくれるとても優しい修太。
私は君のそんな優しいところも大好きだ。

「ホントにゴメンな?オレ、お前を泣かせるつもりなかったのに……オレ、ホントにバカだよな。
好きな女を泣かせちまうんだからな。ホントにゴメンな」
「……ヒック。しゅうたぁ……わたしぃ、わたしぃ〜!」

 優しい言葉にますます涙が零れ、声を出すことが出来なくなる。
何故君はここまで私を泣かせることが出来るんだ?

「ホントにゴメンな?……今日はもう帰ろうか?
オレ、これ以上お前の泣き顔を見たくないんだよ。
オレ、お前の笑ってる顔が一番好きなんだ。オレ、お前を悲しませたくないんだ。
……オレ、お前を守りたいんだよ」

 ……嬉しい。笑ってる顔が好きだと言ってもらえた。守りたいと言ってもらえた!
今までの人生の中で、今日ほど嬉しい日はない!
だが、修太と一緒なら、これからはもっと嬉しい日を……
修太と2人で笑いあえる、嬉しい日々を過ごすことが出来ると思う。
修太も私と過ごすことでそうであってくれたら、嬉しいな。……帰るだと?

「ダメだ!私はまだ君を感じていない!指なんかじゃ終わらせない。
私は君を感じたい。君が欲しいんだ!」
「あ、彩?だってお前、号泣してたじゃんか」
「君のせいで泣いてたんだ!だから責任を取って……私を犯して欲しい。
はしたない話だが、私はまだ濡れている。君を受け入れたくて濡れたままなんだ。
君も大きいままじゃ辛いだろう?だから早く君を私の中に入れて欲しい。
私をこの大きな君でグチャグチャに突きまくり、指ではなく、君自身でイかせてほしい。
……私は君でイきたいんだ。君と一緒にイきたいんだ」

 修太は私の言葉に優しく微笑み、そっと唇を合わせるような優しいキスをしてくれた。

「お前はホントにバカだな。オレなんかにそんな嬉しいことを言ってくれるのは、世界中を探して
もお前だけだぞ?」
「そうだ、私はバカだ。バカだからこそ、君を好きになった。バカだからこそ、君と恋人になれ
た。
私は自分がバカでよかったと、心の底から思っているよ。バカだからこそ、君とこうして愛し合
えている」
「彩……オレもバカでよかったよ。ハハハ、お前とこうしてられるのもバカのおかげだな!」
「……バカ。また私を泣かせてどうするつもりだ?」
「どうって……こうするつもりだよ」

 くちゅ……大きいままの修太が、私の入口に添えられる。
その瞬間、背筋をゾクゾクとした、電気のようなものが走りぬける。
あぁ……何度してもこの瞬間が大好きだ。
修太を私の中に向かい入れるこの瞬間が、とても大好きなんだ。

「彩……愛してるぞ。じゃあ、入れるからな」
「ん……愛してる。私も修太が大好き……んあああ!」

『ぐちゅ!ぐちゅ!ぐちゅ!』

 修太の上に乗ったままの私を、ギュッと身動きできないくらいに強く抱きしめながら力強く貫
く。
息が出来ないくらいに抱きしめられて、パンパンと、お風呂場に音が響くくらいに激しく突き上
げられる。
下から修太に激しく子宮を突かれる度に頭が真っ白になる。
キスで口をふさがれて、唾液流し込まれる度に、私が私じゃなくなる。
ラブホテルのお風呂場で、息が出来ないくらいに強く抱きしめられながら激しくキスをされ、激し
く貫かれる。
その行為の一つ一つが私を狂わせていき、身体で感じる修太の激しさが、私を壊す。

「しゅうたぁ……しゅうたぁ!わた、も、いクぅ……イク!イクイクイク!」
「あやぁ……オレも、出そうだ!すっげえ気持ちよすぎてもう出そうだ!」
「イクぅ〜!イく!イク!イグぅ〜!イ、ヒィ!……んああああ〜!」

 ズグン!……子宮を貫くのではないか?そんな勢いで私を貫いた修太の激しさに、一気に達
してしまった私。
修太も同時に射精をしてくれたようだし……コンドームで修太の精液を感じられないのが残念
だ。
早く君の子供を生める年齢になりたいものだ。……早く、君の子供を生みたいな。
まぁ差し当たっては……子供を作るための行為の練習を重ねるとしようかな?

「はぁはぁはぁ……彩、気持ちよかったぞ。じゃあシャワーを浴びて、汗を流そうか?」
「はぁ〜はぁ〜はぁ〜……次はベッドでしてほしい」
「……へ?次って?お前、またヘンなスイッチ入っただろ!今日は4回もしたんだ、もう出ねぇ
っての!」
「変なスイッチだと?君が入れたんだろうが!責任取って体の疼きが収まるまで抱いてもらうか
らな!」
「ちょ、ちょっと待て!落ち着け彩!オレ、ホントにもう無理……んぷっ!」
「ん、ちゅ、ちゅば……しゅうたぁ、んちゅ、ちゅぢゅ……すきぃ、あいしてるぅ」
「よ、よせ!落ち着け!落ち着い……んんん〜!」

 ……2時間も延長してしまったのは反省をしないといけない。延長料金でお金も高くついてし
まった。
帰りが遅いとパパとママにも怒られてしまったし、来週からは、もっと早くにホテルに入るとしよ
う。



「う〜ん……お前の気持ちも分かるがなぁ、もったいなくはないか?」

 月曜日の放課後、担任の先生に呼び出され、私の進路についての話をされる。
先生曰く、『就職ではなく大学に進学し、もっと色んな勉強をするべきだ』とのこと。
進学し、色々な勉強をすれば給料のいい会社にも就職でき、その方が家計も助かるだろうと
の考えのようだ。

「いえ、以前から決めていることです。私は働いて家計を助けようと考えています」
「しかしだなぁ、お前のような賢い子が、就職なんてもったいないぞ。
いい大学を出たら、凄い給料のもらえる会社にも就職できるんだぞ?
そっちのほうがよくないか?後々を考えると、絶対進学した方がいいって!」

 確かにその通りだろう。しかし、私が進学をすれば、弟達が大学に行けなくなるかもしれな
い。
我が島津家は、私たち兄弟全員が進学できるほど裕福ではないのだ。
それに、進学をしてしまうと家を出て、大学の近くで1人暮らしをしなければいけなくなるだろう。
島津家の家計を取り仕切っている私が家を出てしまうと、誰が島津家の家計を支えるのだ?
パパもママも、私たちのために一生懸命働いてくれている。
仕事で忙しいパパやママの負担を軽減させる為、私が家事を取り仕切らなければいけないん
だ。
……まぁ私も時々は大学に行ってみたいと思うこともある。
最近、クラスの友人達が話している大学に進学してからのこと。
色々なサークルに入り、大学生活を楽しみたいと嬉しそうに話している。
そんな楽しそうな話を聞いていると、私も進学について、考えてしまうこともままある。
しかしだな、進学し地元を離れるということは……高校卒業後には家業を手伝う予定の結城と
離れてしまうことになる。
……嫌だ。結城と離れて暮らすなど、今では考えられないことだ。
パパやママ、弟達には悪いが、家族と離れて生活することよりも、結城と離れ離れになること
のほうが嫌なんだ。

「私の将来のことを心配してくれているのは、とてもありがたいです。しかし、私は地元で働くつ
もりです。出来れば公務員となり、家族を支え、弟達を大学に行かせてあげたいんです」
「……そうかぁ、そこまで言うのなら先生、無理に進学は薦めないよ。
しかしだな、まだ時間はあるんだ。就職すると決め付けないで、ゆっくりと考えればいい。
他の生徒と違って、お前は勉強に時間を割く必要もないからな。
大事な将来のことだ。焦って決めずに親や友人と相談し、ゆっくりと考えなさい」
「……はい、分かりました。話は以上ですか?では私は結城に勉強を教える約束をしているの
でこれで失礼します」

 私の為に時間を割き、進路相談をしてくれた先生に頭を下げ、生活指導室を出る。
先生には悪いが、就職することはもうずいぶんと前から決めていることだ。
……そんな事よりも早く結城の部屋に行かなければ。
今日も私が作った小テストを解いてもらおう。
成績がよければご褒美として……手でしてあげよう。
ふふふふ、私が手でしてあげるといったら、嬉しそうな顔をしていたことだしな。
嬉しさのあまり、『彩、大好きだ!愛してる!』と言ってくれないだろうか?……言ってくれるとい
いな。

「島津っち〜。廊下でなに結城の事を考えてるの?顔、ニヤケっぱなしだよ〜」
「いいねぇ〜、ラブラブだねぇ〜。2人の愛は燃え盛ってるんだねぇ〜」
「あはははは!盛ってるのは島津っちだけどねぇ〜。結城、またゲッソリしてたよ?今度は何
回させたの?」

 結城の事を考えていた私を呼び止めるクラスメートの声。
んな?何故結城の事を考えていたと分かるんだ?私の心の中が分かってしまうとは……皆は
超能力者なのか?

「ゆ、結城の事を考えてしまうのは仕方がないことだと思う。好きな人なのだから考えるのは当
たり前だろう?」
「も、燃え盛ってる?た、確かに、その……2人きりだと燃えてしまっているな」
「な、何回といわれても……土曜日に7回、昨日が3回だ。これが平均的じゃないのか?」

 私の質問への答えに、はぁ〜っとため息を吐く友人達。
皆ため息なんか吐いてどうしたんだ?

「島津っち……盛るにも程があるよ。少しは我慢しなきゃ結城がヤリ疲れて死んじゃうよ?」
「やり疲れるとはいったい何のことだろうか?……んな、何故死んでしまうんだ!どうしてだ!」

 結城が死ぬと言った友人の両手で肩を掴みブンブンと揺さぶる。何故だ!何故死んでしまう
んだ〜!


「ちょ、ちょっと島津っち?冗談!冗談だから!そんなに揺らさないでぇ〜!アタシが死んじゃう
よ〜!」
「お、落ち着いて?深呼吸して落ち着こうね?」
「そそ、島津っち、落ち着こうよ。いくら結城がバカでも、こんな綺麗な彼女を置いて死なないっ
て!」

 ……冗談?死ぬというのは冗談だったのか?
ふぅぅ〜、すっかり騙されてしまったな。まったく……いくら友人といえ、悪い冗談は止めてほし
いな。 

「ふぅぅ〜、冗談なのか。いくらなんでもそんな冗談は止めてくれないか?死ぬほど驚いてしまっ
たよ」
「ア、アタシは死ぬかと思ったけどねぇ〜。あ、頭がフラフラだよぉ〜」

 結城が死ぬかもと言った友人は、私が力いっぱいに激しく揺らした為か、軽く目を回しフラフ
ラとふらついている。
悪い冗談を言うからそうなるんだ。……ゴメン、少し揺らしすぎた。

「と、ところでさ、今日も結城の部屋に行くの?結城、下駄箱で待ってたよ」
「え?ま、待っててくれたのか?時間がかかるから先に帰るようにと言ったのに……まったくバ
カなヤツだな」

 ホントにバカなヤツだ。先に帰って待っているようにと言ったのに……腕を組んで一緒に帰る
としよう。

「アハハハ、島津っち、スッゴク嬉しそうな顔してるよ?」
「ホントだねぇ、見てるこっちまで嬉しくなっちゃうよねぇ」
「そういえばさ、今日ってさ、結城の誕生日だよね?島津っち、プレゼントはなにあげるの?」

 今日が誕生日?誰の?……結城?ええ?そ、そんな話、知らない!私は聞いていないぞ!
 
「ええ?ゆ、結城の誕生日?そ、そんな話、知らないぞ!私は聞いていない!」
「へ?そうなの?島津っち、アイツの誕生日知らなかったの?恋人なのに?」
「アイツってさ、毎年誕生日になると『今日はオレの誕生日だ!何かくれよぉ』
ってクラス中にプレゼントをねだってきてたんだよね。確かアタシ、去年は消しゴムをあげたっ
け?」
「アタシはシャー芯3本あげたよ。1本じゃ少ないって文句言ってたけど、3本あげたらメチャ喜
んでたよ」

 な、何故だ?何故そんな大事なことを教えてくれない?何故恋人である私に教えてくれない
んだ?
……グスッ、結城にとっては、私との関係は自分の誕生日を教える必要のない関係ということ
なのか?
ひっぐ、そうなのか?私は1人で恋人だと思い込んでいたのか?
結城にとっては、恋人でもなんでもないのか?
わ、私は、ひぐ、皆が知っている誕生日を教えてもらえないくらいの、希薄な関係の女なのか?
……やだ。嫌だ!そんな関係は嫌だ!私は恋人がいいんだ!結城の恋人でいたいんだ!

「し、島津っち?ゴ、ゴメンね?謝るから泣かないでよ……島津っちが泣いてると、アタシ達まで
泣きたくなるんだから」
「そ、そうだよ、泣かないでよ。結城が誕生日を教えてなかったのにも理由があるんだよ」
「そうそう、アイツってバカだから、きっと自分の誕生日を忘れてるんだよ」
「……ぐすっ。結城はそこまでバカじゃない。きっと私に教える気がなかったのだろう。
教えるほどの女じゃないと思われているんだ。きっと私の事を恋人でもなんでもないと思ってい
るんだ。ひっぐ、何故私は嫌われたんだ?う、うえぇ、いやだぁ〜!うええ〜ん!」

 結城に嫌われた。そう考えただけで涙が溢れてくる。
学校の廊下だというのに、声をあげて泣きじゃくってしまう。
こんなにも大勢の前で泣きじゃくるようなバカな女だから、嫌われてしまったのか?
やはり結城はバカな女は嫌なのか?何故私はバカに生まれてしまったんだ?

「わ、わわ!島津っち、号泣しちゃったよ!ど、どうすれば……」
「ああ!結城が来た!結城に責任取らせようよ!」
「結城、早くきなさい!アンタの恋人が泣いてんのよ?早く慰めなさい!」

 え?ゆ、結城が来てくれたのか?私の為に?……いや、偶然通りかかっただけだろう。
結城はバカな女は嫌いなんだ。バカな私の為に来てくれるなんてありえない……ゆ、結城?

 学校の廊下で泣きじゃくる私を、ギュッと強く抱きしめてくれた結城。
何故だ?何故抱きしめてくれたんだ?君にとって私はどうでもいい女ではないのか?

「おい、ホントに大丈夫か?お前、なんでこんなところで泣いてたんだ?」

 泣きじゃくる私を抱きしめながら、優しく頭を撫でてくれる、とても優しい結城。
……何故だ?何故そんなにも優しくしてくれる?君にとって私はどうでもいい女ではないのか?
そんなに優しくされると……淡い期待を持ってしまうではないか。

「コラ、結城!アンタねぇ、島津っちを泣かせて、悲しませてどういうつもりよ!」
「そうよ!アンタ、なんで今日のこと島津っちに教えてなかったのよ!
島津っち、教えてもらってなかったことがショックで泣いちゃったんだからね?」
「アンタ、島津っちの恋人失格ね!島津っちの気持ち、ちゃんと考えたことあんの?
島津っち、アンタに嫌われてるって泣いちゃったんだよ?」 

 私の為に一気にまくし立ててくれた優しい友人達。
たとえ結城に嫌われていたとしても、優しい皆がいれば、私は生きていけそうだ。……皆、あり
がとう。

「へ?オレに嫌われてる?なんで?オレ、島津のこと大好きだぞ?」
「ならなんで誕生日のこと黙ってたのよ!島津っち、教えてもらってないってショックで泣いちゃ
ったのよ!」 
「誕生日?誰の?」
「アンタのでしょうが!忘れてたなんて言わせないわよ!」
「オレの誕生日?……ああああああ!そうだった!今日オレの誕生日だった!すっかり忘れ
てたぁ!」

 ……はい?結城の言葉に涙が止まる。あれほど流れていた涙がピタリと止まってしまった。
悲しさが消えたからではない。結城の予想外の言葉に驚いて止まってしまったんだ。
ま、まさか……友人の言うとおりだったのか?じ、自分の誕生日を忘れてただけなのか?

「わ、忘れてたぁ〜?ウソつくな!去年まであんだけプレゼントをたかって来てたでしょうが!」
「い、いや、だってさ、今年は島津にいろいろ勉強教えてもらってるじゃん?だからだよ」
「それがどうしたのよ!関係ないでしょうが!」
「いやいや、だっていろいろ覚えさせられてるんだぜ?そりゃ誕生日くらい忘れちまうよ」
「わけ分かんないこと言ってるんじゃないわよ!」

 ……何故だろう?結城がなにを言いたいのかが私にはハッキリと分かってしまった。

「結城、少し確認をしたい。
君が私に誕生日を教えてくれなかったのは、ただ単に自分の誕生日の事を忘れていたからな
んだな?」
「おお、少しは元気になったか?あまり泣かないでくれよな。オレ、お前の泣き顔見たくないん
だからさ」
「質問に答えてくれ。誕生日を忘れていたから教えてくれなかったんだな?」
「おう、そうだぞ。すっかり忘れてたなぁ。どおりでお袋が今日は島津と一緒に帰って来いって言
ってた訳だ」
「そうか、忘れていただけなのか」

 よかった。嫌われていた訳でないのだな?……なんだろう?この胸に湧き上がる感情は?

「その忘れた理由なんだが、君が言いたいのはこうじゃないのか?」

 胸に湧き上がる感情を抑え、なるべく冷静に話す。冷静に話さないと友人達には分からない
からな。

「私と勉強することによって、いろんな知識を覚えることが出来た。
そのかわり以前は覚えていた知識が、新しい知識に押し出されるかのように頭から出て行った
と言いたいんだな?」
「それそれ!その通りだぞ!やっぱりお前、頭いいなぁ。オレが言いたいこと、すぐに分かって
くれるんだからな」

 嬉しそうに話す結城を見ていた友人達が視線で何かを訴えかけている。
……何故だろう?友人達の気持ちも分かる。それはきっと私も同じ気持ちだからだと思う。
この胸に湧き上がる感情のままに行動しろということなんだと思う。

「そっかぁ〜、今日はオレの誕生日なんだな。おっと忘れてた!なぁお前ら、誕生日プレゼント
なにかくれよぉ〜」
「……るな」
「お?島津、何か言ったか?」
「ふ・ざ・け・る・な!と言ったんだ」
「……なぁ、いくら頭の悪いオレでも分かるぞ。お前、怒ってるだろ?なんで怒ってるんだ?」
「何故怒っているかだと?それはお前の頭がところてんの様に覚えていたものが押し出される
からだ!」
「お、落ち着かないか?オレ、お前の怒った顔も見たくないんだよ」
「……プレゼントをあげよう。とても強力なヤツだ、しっかりと喰らうがいい。……ふん!」
「く、喰らう?食べ物なの……へべし!」

 グシャリと足に感じる肉を潰すような感触。ここまで会心な蹴りは初めてじゃないのか?
その証拠に、私の蹴りを顔面に喰らい、倒れこんだ結城は痙攣をしている。
……ふん!私を心配させた罰だ!しばらくは痙攣しておけ!

「……なんか今日はさ、二人の惚気コントに巻き込まれたって感じしない?」
「ホントだねぇ。心配して損しちゃったね」
「それよりさ、下着、ブルーのストライプだったよ?島津っちも下着にお金をかけだしたねぇ」

 だから下着の品評は恥ずかしいから止めてくれないか?
……そろそろいいかな?これ以上床に寝かせておくのは、可哀想だ。

「けど結城もホントにバカだよねぇ。自分の誕生日を忘れちゃうなんてさ」
「だいたい結城って約束とか忘れること多いし、時間にもルーズだしねぇ」
「島津っちと付き合いだしてから改善されたと思ったけど、そうでもなかったんだねぇ」

 痙攣してる結城に膝枕してる私の目の前で結城の欠点を話し合う友人達。
確かにその通りだ。結城はよく約束を忘れたり、デートに遅れてきたりする。
きっとあまり時間を気にしない性格だからなんだろう。そこが結城らしいといえば結城らしいん
だが……
デートの待ち合わせ時間くらいはキチンと守って欲しいな。
時計くらい身につけて、少しくらいは時間を気にして欲しいものだ……時計?

「そ、そうか!時計だ!腕時計だ!」
「おわ!きゅ、急に大声出して立ち上がるなんて、島津っちどうしたの?」
「皆、教えて欲しい。近くに男物の腕時計を売っている、いい店はないか?」
「へ?腕時計?あ、もしかして結城への誕生日プレゼント?」
「それよりさ、膝枕してたのに急に立ち上がるもんだから、結城の首、凄いことになってるよ?」

 腕時計をプレゼントして、デートの待ち合わせ時間を守ってもらうように教育しよう!
私は遅刻した結城がいつ来るのか待っている時間も大好きだ。
しかし、遅刻して過ぎてしまったその時間を一緒に過ごす方がいいに決まっている!
きっと結城もそうに決まっている。私と少しでも長く一緒にいたいに決まっているんだ。
そう思い、足元で寝たままの結城を見てみる。
……人間の首というものはああいう形に曲がるものなんだろうか?

「ゆ、結城?何故首が変になってる?起きろ!目を覚ませ結城!起きるんだ〜!」

 ビクビクと痙攣が治まらない、首が変に曲がってる結城を揺する。
嫌だ!目を覚ましてくれ!起きてくれぇ〜!

「う〜ん、オチは一緒だけど、オチまでの流れは今までとは違ってたねぇ」
「けど結局はこうなっちゃうんだね。結城も災難だねぇ」
「それよりいい腕時計を売っているお店、ここら辺にあったかなぁ?」

 10分後、何事もなかったかのように目を覚ました結城を連れて、友人達に教えてもらったお
店に腕時計を買いに行った。
結城はよく物にぶつかったりしてしまうから、壊れないように頑丈なのがいいだろう。
そう思い、とても頑丈なデジタルタイプの腕時計を買い、結城の誕生日のプレゼントとした。
ちょうどパパにお小遣いを渡す為にお金を下ろしていてよかったよ。
結構な値段がしてしまったが、どうにか買うことが出来た。ありがとう、パパ。
……今月のお小遣いなんだけど、私のバイト代が出るまで待っててほしい。
今月分だけでは足りないので、足りない分は分割で返すつもりだ。
それまではしばらく辛抱して欲しい。優しいパパならきっと今月分のお小遣いが少なくても辛抱
してくれるはずだ。


 
「おい、オヤジ!これを積んだら午前の配達の分は終わりなんだな?」

 配達用の軽自動車に米袋を積み込み、オヤジに確認する。
朝っぱらから力仕事はシンドイよな。けど、金がいるから仕方ないしな……ホテル代が結構か
かるんだよな。

「おう、これで終わりだ。積み終わったら、さっさと汗拭いて、着替えて出て行けよ。
今日もデートなんだろ?島津さんを待たせるんじゃないぞ?」
「大丈夫だって!今日は遅刻しないって!なんせこの腕時計があるんだからな」

 オレ自身が忘れていた誕生日にもらった、島津からのプレゼント。
黒色のカッコイイ腕時計。頑丈で防水加工ってのをしてて水に濡れても大丈夫なんだそうだ。
オレ、こんなまともなプレゼントを貰ったのって初めてだから、めちゃくちゃ嬉しくってさ。
貰ってから24時間毎日つけてるんだ。
この腕時計をつけてるとさ、いっつも島津と一緒にいるような気分になれるんだよ。
オレ、島津にもその気持ちを味わってほしくて、オレと同じ時計を買ってプレゼントしたんだ。
所謂ペアウオッチってヤツだな!島津の細い腕にはちょっとでかい様な気もしたけど、喜んでく
れたからいいや。

「しかし、アンタのようなバカ息子にあんないい子が恋人になってくれるなんてねぇ……奇跡っ
てあるもんだねぇ」

 お袋は今だに信じられないらしい。オレと島津が恋人同士だってことが。
確かにはた目から見れば、島津は美人で天才で、オレなんかを相手にしてくれるような女じゃ
ない。
でもな?……アイツもオレと同じくバカなんだよなぁ。

「お袋、最近そればっかりだな。じゃあオレ、そろそろ着替えて行く準備をするわ」
「今日はデートの待ち合わせ、午前中なのかい?珍しく早いんだね」
「別にいいだろ?仕事はちゃんと手伝ったんだからさ」

 そう、今日のデートは午前中、9時に待ち合わせだ。
いつもの駅前での待ち合わせ。いつものようにそのままホテルへと向かうことになると思う。
……先週は島津のスイッチが入っちまい、とんでもない目に遭ってしまった。
まぁ気持ちいいからいいんだけど……さすがに5発くらいまでに押さえてくれないかな?

「なにニヤニヤしてんだい!しかしあの子も変わり者だねぇ、こんなバカのどこがいいんだろう
ね?」
「お袋、自分の息子をバカ呼ばわりはないだろ?これでもテストじゃ平均以上取れるようになっ
たんだぞ?」
「おい!いつまで喋ってんだ!いい加減着替えて待ち合わせ場所に行かねぇか!」
「オヤジも心配性だな。まだ時間あるって!
待ち合わせ時間になったら、アラームがなるようにタイマーをセットしてるんだよ。
オレだって遅刻しないように考えてるんだから、そう心配するなよ」

 そう、この9時にセットしたタイマーが鳴れば、待ち合わせの時間。
この腕時計には色んな機能がついているらしく、やっとタイマー機能を使い方が分かったところ
なんだ。
島津はすでに全ての機能を使いこなせるようになったと威張ってた。
今日、SEXをしたあとにでも教えてもらうとするかな?

「9時にタイマーが鳴るようにセットしてるから、それまでは大丈夫だよ」
「じゃあ9時に出て行くんだね?朝ごはんはどうするんだい?島津さんと何か食べるのかい?」
「9時にここを出るってことは、待ち合わせは10時くらいか?9時までは……20分もねぇな。
準備は出来てるんだろうな?たまにはビシッとしねぇと嫌われちまうぞ?」
「たまにはって……オレはいっつもビシッとしてるっての!
今日だって、待ち合わせの9時に遅刻しないようにしっかりとタイマーを合わせてるんだから
な!」
「……は?お前、いま何時に待ち合わせって言ったんだ?9時とか言わなかったか?」
「そうだよ、9時だよ。9時に待ち合わせだから、9時にアラームが鳴るようにセットしてるんだ。
どうだ?オレ、ビシッとしてるだろ?」

 腕時計を指差し、勝ち誇るオレ。オレでもたまにはビシッと決めるんだよ!
まぁ遅刻しないことがビシッと決めてるかどうかは知らないけどな。

「お前は……本当にバカなんだなぁ。とうさん、悲しくなってきたぞ」
「……島津さん、この子と付き合っててもいいのかねぇ。
こんな大バカを相手にしてたら、あの子までバカになりそうで怖くなっちゃうよ」
「なんだよ2人とも。いきなりため息なんか吐いて、どうしたんだ?」
 
 ガックリと肩を落とし、大きなため息を吐くオヤジにお袋。2人とも急にどうしたんだ?

「お前なぁ……待ち合わせ時間にアラームが鳴るようにセットしてもダメだろうが!」
「……なんで?」
「お前、アラームが鳴ってから家を出るつもりだったろ?そのアラームがなった時点でもう待ち
合わせ時間なんだよ!
アラームが鳴った時点で、島津さんは待ち合わせ場所でお前を待ってるんだ!
ホントにお前はバカだ!大バカだ!」

 凄い剣幕で怒鳴りつけてくるオヤジ。
……は?どういう意味だ?待ち合わせに遅れないように9時にセットしたタイマーが鳴ったら、
既に待ち合わせ時間?
……うわ!マジだ!マジでその通りだ!ヤバイ!今日も遅刻だ!

「ヤ、ヤベエ!ち、遅刻だ!オレ、行ってくる!」
「このバカ息子!島津さんにしっかりと謝るんだぞ!」
「気をつけて行くんだよ。島津さんに失礼しないようにね」

 急いで着替えて慌てて家を出る。
やべぇなぁ〜、島津、今日のデートをメチャクチャ楽しみにしてたからな。
遅刻なんかしたら怒られちまうよ。まぁどう足掻いても間に合わないんだけどな。
急いで駅まで自転車を走らせる。立ち漕ぎ全開でダッシュで走るぜ!
でも待ち合わせ場所の駅まで3駅もあるんだよなぁ、どんなに急いでも絶対に間に合わないよ
なぁ。
どうやって機嫌をとればいいんだろ?ひたすら謝りたおすか?う〜ん、どうしよう?
どうすればいいのか悩むオレは、赤信号に引っかかり、駅まであと少しというところで足止めを
食う。
チクショウ、さっさと青になれよな。1秒でも早く島津のところへ行かなきゃまた蹴り倒されちま
う。
焦るオレを焦らすかのようになかなか変わらない赤信号。
イラつく気持ちを抑え信号が変わるのを待つ。
信号が変わった瞬間、自転車を漕ぎ出す。
自転車を一歩漕ぎ出した時、腕時計のアラームが鳴り響いた。

(うわ!もう9時になっちまったのか?はぁぁ〜今日も遅刻確定かぁ)

 そう思い、自転車を止め、アラームを止めようとした瞬間、けたたましい車のクラクションの音
がした。
なんなんだ?そう思った瞬間、キキキキィー!っと聞こえた大きなブレーキ音。
その瞬間、ドン!という音と共に暗くなる視界。
真っ暗になった視界の中、彩の…微笑んでいる……顔を………見たような気が…………し
た。



『ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!』

 腕時計のアラームが鳴り、待ち合わせの時間の9時が来たことを告げる。
……はぁぁ〜、やはり遅刻なのか?腕時計をプレゼントしたくらいでは遅刻は直らないのか?
まったく結城のヤツは……今日は時間も十分にあるんだ、たくさん結城を感じさせてもらうとし
よう。
腕時計のアラームを止め、周りを見渡す。……やはりいないな。遅刻確定、だな。
仕方がない、結城が来るまでの時間を利用して、もう一度腕時計の使い方を勉強しなおすとし
よう。
どうせ使い方が分からないと泣きついてくるに決まっている。
優しく教えてあげて感謝させないといけないな。こんないい時計をプレゼントしてくれてありがと
う、と。
結城にプレゼントしてもらった時計を撫でながら、説明書を手に取り、機能についての勉強を
する。
……ふふふふ、何が『同じ時計がいい』だ。なにが『ペアウオッチで恋人って感じがするだ
ろ?』だ。
女である私に男物の時計をプレゼントするなんて、君くらいなものだぞ?
私の手首を覆い隠すような大きさの腕時計。まるで私を守ってくれているかのようだ。
……ありがとう。一生大事にするよ。だから君も一生大事にするように!
プレゼントした時計も……恋人である私も。
ペラペラと説明書を流し読みしながら結城が来るのを待つ。
早く……早く結城に会いたいな。結城が来たら、抱きついてみようかな?ふふふふ、きっと驚く
だろうな。
私を待たせた罰だ、抱きつくくらいはさせてもらうとしよう。
……腕時計のタイマーのように、止めることが出来たらいいのにな。
この『会いたい』と思う気持ちはとてもやっかいだ。
ついさっきまで会っていたのに、デートが終わり家に帰るともう会いたくなってくる。
会いたいと思ってしまったら、もう止めることは出来ない。
いくら電話で話しても、君の体温を感じることが出来なければ意味がないんだ。
はぁぁ〜。早く来ないかな?早く私を抱きしめてくれないかな?
……私は、この時間が好きだ。結城を待っているこの切ない時間が大好きなんだ。
この時間は私がどんなに結城の事が好きかを自覚させてくれる大切な時間だ。
そして、この時間があるからこそ、結城の顔を見た瞬間の嬉しさが倍増する。
結城にも、こういう時間があってくれたら嬉しいな。

 遠くで聞こえる救急車のサイレンを聞きながら、結城の事を想う。
早く……早く君に会いたいな。君も今、私の事を想っていてくれたら、嬉しいな。



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