「始めまして、上杉さん。小日向さんのクラスメートの西原です。
今日はよろしくお願いしますね」

 買い物に付き合うと約束をした日曜日。
美佳ちゃんの部屋に車で迎えに行くと、下着が見えそうな位に短いスカートを穿いた、カワイイ
女の子がいた。
こ、これはもしかして『じょしこうせい』という生き物ではないのか?
てっきり美佳ちゃんが好きになった男を紹介されるのかとドキドキしていたんだが、そうじゃな
かったんだな。
やっぱり紹介されるなら、女の子のほうがいいもんな。
あれ?紹介?……は!も、もしや、この買い物は、美佳ちゃんが俺に同級生を紹介してくれよ
うと企画してくれたのか?

「上杉さんと二人で買い物をするのもあれですので、付き添いに来てもらったわたしの友達の
西原さんです。西原さん、こんな古い車でゴメンね?でもね、この車……」
「わ、わぁ〜!とっても素敵な車ですね!ピッカピカに磨いているし、大事に乗られてるんです
ね!」

 準ちゃんや俺の両親と、何度も一緒にドライブに出かけた思い出の詰まっている愛車を、古
い車と言い切る美佳ちゃん。
美佳ちゃん、この思い出の詰まった車を、ただの古い車だと思ってたんだ。
はぁぁ〜……どうやら俺は、本格的に美佳ちゃんに嫌われているらしい。
この間、頭を撫ですぎたのが原因か?もう男の手に恐怖感を感じていないと思ったんだけどな
ぁ。
……あ、だからか?恐怖感を感じなくなった代わりに、鬱陶しく感じるようになったのか?
それなのにあんなに撫で回したのがいけなかったのか?
そりゃそうだよな?美佳ちゃんの様なカワイイ子の頭を、グシャグシャと好き勝手に撫で回した
んだ。
普通は嫌がるよな?俺のようなおっさんに触られたりしたら、嫌になるよなぁ。
はぁぁ……今日の買い物、付き添うのが憂鬱になってきた。
それにしても、俺をフォローしてくれる西原さん、いい子だよなぁ。
最近の女子高生って感じでカワイイし、何よりも、短いスカートから覗く、輝くような太ももがタマ
ラン!
もうね、俺の首を三角締めで絞めてきても、抵抗せずにそのまま昇天してもいいくらいだ!
むしろ、下着を見ながらある意味昇天させてくれぇ〜!

「は、ははは、じゃ、行こうか。荷物持ちは任せてくれよな。こう見えても俺、結構力持ちだから」

 美佳ちゃんの言葉にちょっと凹んだ俺は、軽く力こぶを作り、荷物持ちをアピールする。
いつまでも嫌われたと落ち込んでちゃダメだよな、今日で少しは挽回しなきゃな!

「西原さん、本当にこんな古い車でゴメンなさい。でもね、この車、とっても乗り心地が……」
「わ、わぁ〜!腕、かたぁ〜い!上杉さん、ホントに力持ちなんですね!」

 俺の作った力こぶを触り、硬いと褒めてくれる西原さん。
毒を吐こうとした美佳ちゃんの言葉をさえぎり、俺をフォローしてくれる。
うぅぅ、ホントにいい子だ。君のその優しさが心に染みるよ。
……美佳ちゃん、俺の車嫌いになっちまったのか。
はぁぁ〜、嫌われても買い換える金、ないしなぁ。

「や、そ、その、この車、古いけど、乗り心地はさいこ……」
「今日はいっぱい買い物しちゃおうかなぁ!上杉さんの素敵な車のあるし、たくさん買っちゃお
うね、小日向さん!」
「え、あ、は、はい。たくさん買っちゃいましょう。で、この車なんですけど……」
「う、上杉さん、あたしたち後ろに座りますね?運転よろしくお願いしま〜す!」
「え?や、でも、私は助手席が……」
「いいから後ろに座りなさい!」
「ひゃわ!西原さん、無理やり押し込むのはいけないと思いますぅ!」

 なぜか助手席に座りたいと言っている美佳ちゃんの頭を抑え、無理やり後部座席に詰め込
む西原さん。
んん?美佳ちゃんも今日は珍しく短いスカートを穿いているんだな。
おいおい、押し込まれる時に下着が見えたぞ?こんな短いスカートを穿くなんてけしからん!
あとで注意をしなくちゃな。



(ちょっと小日向さん、あなた何考えてるわけ?確かに古臭い車だけど、何も直接言う事ないで
しょうが!)
(や、その、ゴメンなさい。でも、作戦で……)

 私を無理やり後部座席に押し込み、直人さんに聞こえないようにコソコソ話をしてくる西原さ
ん。
物凄く怒っちゃってるのか、眉間にしわを寄せ、私の太ももをギュッと抓りながら話してきます。
い、痛いです!太ももはギュッとしちゃいけないと思います!

(作戦?あなたねぇ、アタシがフォローしないと上杉さん、怒って帰っちゃったかも知れないわ
よ?大事に乗っている車を貶されて、喜ぶバカはいないわよ!
どんな作戦か知らないけど、そんなの止めなさい!)
(や、でも、せっかく皆さんが考えてくれた作戦が……いぎゃ!痛いです!)

 一段と力を込めてギュッと抓ってきた西原さん。い、痛いです!とてつもなく痛いんです!
これは暴力なんです!

(どんな作戦か知らないけど、男を落とす作戦ならアタシが実践してあげるわ。
……いい?しっかりと見ておくのよ)

 お、落としちゃうんですか?西原さん、凄いです!男の人を落としちゃうなんて凄いんです!
でも痛いです!太ももが物凄く痛いんです!

(ひゃ、ひゃい、しっかりと見ておきますです!)
(しっかりと見て、勉強しなさいね)
(ひゃい!勉強します!ですので、そろそろ太ももを抓るの、止めてくれませんか?)
(あ、ゴメンゴメン、つい強く抓っちゃったね。痛かったかな?痛いの痛いの飛んでいけ〜)

 抓るのを止めて、痛いの飛んでいけと撫で撫でしてくれる西原さん。
や、その、西原さん?その、撫でてくれるのはありがたいんですけど、内腿まで撫でるのはどう
してなんでしょうか?

(小日向さん、男なんて生き物はね、ちょっとしたスキンシップですぐに勘違いする悲しい生き
物なのよ)
(や、ん!その、西原さん?内腿までさわるにはどうかと思うのですが……)

 その、西原さん、ですから教えてくれるのはありがたいのですが、その、そろそろ触るのを止
めてくれませんか?

(ま、このアタシにかかれば冴えない親父なんてイチコロよ!……よぉく見ておくことね!)
(あ、んん!その、西原さん?いつまで触ってるんですか?その、かなり恥ずかしいです……)

 結局目的のショッピングモールに着くまで、サワサワと太ももを触り続けた西原さん。
着いた後に謝ってくれました。『スベスベで触り心地がいいものだからつい触っちゃった』って。
……つい触っちゃうってなんなんでしょうか?触られる身にもなってほしいです!



(……俺はとてつもない勘違いをしていたのかもしれん。
美佳ちゃんはやはり好きな人を紹介するために、今日の買い物を企画したんじゃねぇのか?)

 美佳ちゃんと、美佳ちゃんの友達の西原さんを連れて、買い物先へと車を走らせていた時、
俺は恐ろしいものを見てしまった。
二人とも後ろの席に座り、コソコソ話をしてたので、何を話しているんだとバックミラーで様子を
見ていたのだが……
そのバックミラーには、赤い顔をしている美佳ちゃんの耳元で囁きながら、
短いスカートから覗く、美佳ちゃんの白い太ももを撫でる西原さんが映っていた。
……そ、そうなのか?美佳ちゃんはそっちの趣味だったのか?
いつの間にそんな趣味に走っちまったんだ?
目の前でファストフード店のメニューと睨めっこしている美佳ちゃんを見て思う。
……わ、悪ふざけしてただけだよな?最近の女子高生の間じゃ、あのくらい当たり前なんだよ
な?

「う〜ん、フライドチキンセットにしちゃいましょうか?それとも、チキンカツセットがいいかな?
う〜ん、悩んじゃいます……どれも美味しそうで悩んじゃいます」

 いつもように、一生懸命悩んでいる美佳ちゃん。
うん、こうしてみると、いつもの美佳ちゃんだ。何事にも一生懸命な、美佳ちゃんのままだ。

「小日向さん、いつまで悩んでるの?早く決めなきゃ時間がもったいないわよ?」
「でもチキンが凄く美味しそうなんです。でもでも、チキンカツも物凄く美味しそうなんです!」
「や、そんな握りこぶしで言われても困るんだけど……」

 ……ははは!やっぱりいつもの美佳ちゃんだな!
ちょっと様子が変だったけど、やっぱり美佳ちゃんは美佳ちゃんだな!

「おし、じゃあ美佳ちゃんはチキンカツセットを頼んだらいいよ。
俺がチキンのボリュームセットを頼むから。何個か分けてやるから腹いっぱい食いな」

 俺の言葉に目を輝かせ、力いっぱいチキンカツセットを注文する美佳ちゃん。
うんうん、こうでないと美佳ちゃんじゃないよな。……西原さんが呆れた顔で見てるけど、気にし
ちゃいけないぞ?

「西原さんは何を食べるんだい?好きな物を頼んでいいよ、奢っちゃうから」
「え?いいんですか?ありがとうございま〜す!え〜っとぉ、どれにしようかなぁ?」

 俺の隣でメニューに目を落とし、どれを注文しようかと悩む西原さん。
……いい香りがする子なんだな。これはシャンプーの匂いか?女の子らしい、いい香りだ。
そういえば女の子とこんなに接近するのって久しぶりだよな?
鼻腔いっぱいに香りを吸い込み、久しぶりの女の子の匂いを堪能する俺。

「上杉さんはチキンボリュームセットにするんですよね?」
「あ、ああ、そうだよ」
「じゃあアタシはチキンカツにしようかな?ご馳走になってもいいですか?」

 小首をかしげ、ニコリと微笑む西原さん。
い、いい!若い娘のこの仕草、いい!女に餓えてる俺は、この何気ない仕草にも感動してしま
う!

「お、おう、何でも食っていいぞ。好きなだけ注文しなさい」
「やったぁ、ありがとうございまーす。ご馳走になりますね」

 奢ってもらえるのが嬉しいのか、俺の腕に抱きついてきた。
……い、いかん、俺としたことがこんな小娘に惑わされるとは!
し、しかしだな、いくら小娘といえど、おっぱいに罪はない。
だからこの腕に押し当てられているおっぱいの感触を楽しむのはいいと思う。
腕に抱きついてきた西原さんの胸の感触を密かに楽しむ俺。
……ファストフード店で、夜のおかずまでゲットできるとは、思いもしなかったな。



(むぅ〜、直人さん、顔がデレデレですぅ……西原さん、くっつきすぎだと思います!)

 直人さんとの買い物中、お昼御飯に立ち寄ったフライドチキン屋さん。
そこで西原さんが、男を落とす方法を実践してくれているのですが……直人さん、顔が緩みっ
ぱなしですぅ!
西原さん、わざと身体をくっつけてます!さっきから直人さんと身体が触れるか触れないかとい
うところで、話してます!
美味しいチキンカツバーガーも、楽しそうに会話する二人を見ていたら、美味しくありません。
直人さん、私と話す時にこんな顔見せてくれません。ヒドイです!直人さん、とっても酷いんで
す!

「あははは!上杉さんって、とっても楽しい人だったんですね。
いつも小日向さんにお話を聞いてて、どんな人なのかなぁって想像してたんですよ。
優しくて大人な人かなって想像してたんですけど、とっても愉快な素敵な人だったんですね」
「そ、そうかい?西原さんのような若い子に褒められると嬉しいよ。
君のような若い女の子と話す機会なんてないからね、今日はとても楽しいよ」

 むぅぅ〜、西原さんの話術に直人さん、デレデレです!

「若い子って……もう、上杉さん、そんなこと言ってたら、小日向さんに怒られちゃいますよ?」
「え?ああ、そういえばそうだった。ははは、美佳ちゃんも立派な女子高生だったんだ」
「上杉さんヒドーイ!小日向さん、こんなに綺麗になってるのに、子ども扱いはヒドイですよ〜」

 そうです!子ども扱いは酷いんです!私も女の子扱いをしちゃってください!

「ははは、ゴメンゴメン、そんなにむくれるなって。美佳ちゃん、お詫びに俺のチキン、喰っても
いいよ」
「え?い、いいんですか?」
「おう、喰え喰え!ほら、お腹いっぱい食べな」

 わ!わわ!直人さん、フライドチキンを2つもくれました!
熱々の、ジューシーフライドチキンを2つもですよ?直人さん、とっても気前がいいんです!

「どうだ美佳ちゃん、美味しいかい?」
「はひ!熱々でジューシーでとっても美味しいです!」

 お口が火傷しそうなくらい熱々で、ジューシーでとても美味しいんです!
美味しさのあまり、ついパクパク食べちゃいます。

「こ、小日向さん、あなた……」

 なぜかため息を吐く西原さん。西原さん、ため息なんて吐いてどうしちゃったんでしょうか?
あ、もしかしてお腹いっぱいになっちゃったんでしょうか?
でも西原さん、チキンカツしか食べてません。西原さんって食が細いんですね。

「ははは、西原さんはこんな美佳ちゃんを見るのは初めてかな?面白いだろ?」
「や、確かに面白いけど……」

 美味しいです!熱々チキン、とっても美味しいです!
かみ締めるほど溢れてくる肉汁、いくつでも食べられちゃいそうです!
あまりの美味しさに、1個目を食べ終わり、2個目に手を伸ばしちゃいます。
……西原さんの、何か悲しいものを見るような視線が、気になっちゃいます。
もしかして西原さんも熱々ジューシーチキン、食べたかったんでしょうか?



「小日向さん!あなた自分が何したのか分かってるの?好きな男の前で、バクバク食べる子が
どこにいるのよ!」
「ひゃ、ひゃい!すみまふぇんでひた!」

 美味しい熱々フライドチキンでお腹いっぱいになった私を、トイレへと連行した西原さん。
トイレに入るなり、ほっぺを抓ってきて、お説教が始まっちゃいました。

「小日向さんがこんなに食い意地が張っているなんて、思いもしなかったわ。……少しは慎みな
さい〜!」
「いひゃいいひゃい!ほっぺがひちれちゃいまふ!」
「は・ん・せ・い……しなさい!」
「ひぎゃ!」

 反省しなさいと言いながら、ほっぺを引きちぎるように引っ張った西原さん。
い、痛すぎです!千切れちゃうかと思いました!西原さん、酷いんです!

「まったくもう……上杉さんのあなたを見る目、まるで自分の子供を見ているようだったわよ」
「い、ひゃいですぅ……ぐすっ、とても痛いんです」
「はいはい、いつまで痛がってるの。問題はこの失点をどう挽回するかね。……どうしよう?」
「ふえ?し、失点ですか?」
「……普通ね、御飯をバカバカ食べる女の子には、男は恋をしないわよ」
「ふええ?」
「美味しい美味しいって、首をブンブン振りながら食べてるところは可愛かったけど……恋愛対
象外ね」
「た、対象外、ですか……」

 西原さんの冷徹な言葉にがっくりと膝をついちゃいます。
そ、そうだったんですか……好きな男の人の前で、お腹いっぱい御飯を食べちゃダメだったん
ですね。
……た、大変です!ダメだったこと、今までたくさんしちゃってます!しまくっちゃってます!

「ど、どうすればいいでしょうか!私、今までたくさん失点しちゃってます!」
「これが野球ならすでにコールド負けね」
「ま、負けちゃってるんですか?そ、そんなぁ〜」

 コ、コールド負け……すでに勝負がついてるなんてヒドイです!む、無効試合なんです!再試
合をしちゃってください!

「でもね、恋愛にはコールド負けなんてないわ。ここから挽回しなきゃね!」 
「ば、挽回、ですか?」
「そう、挽回よ!頑張ってね、小日向さん!」

 そ、そうです!負けてなんてないんです!途中まで負けてても、最後に勝てばいいんです!
私、頑張ってたくさん得点しちゃいます!……何点くらい点を取らなきゃいけないんでしょう
か?

「頑張っちゃいます!……頑張るとは言ったものの、どうすれば挽回できるんでしょうか?」
「頑張ってね、小日向さん!」
「ねぇ西原さん、どうすれば挽回できると思いますか?」
「頑張ってね、小日向さん!」
「あ、あれ?西原さん、私の話を聞いてますか?」
「頑張ってね、小日向さん!」
「あ、あの、西原さ……」
「頑張ってね、小日向さん!」
「さいば……」
「頑張ってね、小日向さん!」
「はいぃぃ〜、自分で考えてがんばりますぅ〜」

 きょ、拒否です!相談を拒否されちゃいました!言葉では応援してるけど、拒否してるんで
す!
西原さん、ヒドイです!友達の相談は聞かなきゃいけないと思います!
こ、こうなったら……チャットで教えてもらった作戦をするしかないです!
皆さんに聞いた、直人さんの好みに合わせて、がんばっちゃいます!
皆さん、直人さんはツインテールにニーソ、メガネに金髪にツンデレが好きだって教えてくれま
した!
ツインテールにニーソはすでにしちゃってます!あとはメガネとツンデレと金髪です!
いっぱいツンして、たくさんデレちゃいます!直人さん、覚悟してくださいね!……私、間違って
ない、ですよね?



「買い物も終わったことだし、約束どおりに晩御飯食べさせてあげますね。
お礼で作るだけなので、ヘンな勘違いはしないでくださいね」

 夕方近くになり、買い物を終えた俺たちは、西原さんを家まで送るついでに、近くの大型スー
パーへと向かう。
かなりの時間をかけて買い物をしていたため、結構遅くなっちまったな。
ま、ほとんどが西原さんの買い物だったんだけどな。
美佳ちゃんも西原さんに勧められるがまま、いくつか服を買っていた。
最近の女の子が着るようなカワイイ物ばかりだ。
で、買い物を終えて、西原さんを家まで送ろうとしていたんだが……やっぱり俺、美佳ちゃんに
嫌われちまったんだなぁ。
昼飯食ってる時はいつもどおりだったんだけど、また言葉に棘が出てきた。
はぁぁ〜、何で嫌われちまったんだろ?

「こ、小日向さん!お料理上手なの?すっごいなぁ!」
「や、その、上手というか、どうにか作れるというレベルですよ?」
「で、でも作れちゃうんでしょ?よかったですね、上杉さん!
小日向さんみたいなカワイイ女の子に手料理作ってもらえて幸せですね」
「あ、あぁ、そうだな。美佳ちゃんみたいな子には普通は作ってもらえないもんな」
「ヘンな勘違いはしないでくださいね」
「きょ、今日は何を作るつもりなのかなぁ!アタシも用事がなければ食べたかったなあ!わぁ
〜、ざんね〜ん!」

 美佳ちゃんの冷たい言葉に心が折れそうになる俺を、慌ててフォローしてくれる西原さん。
あぁ、この子、いい子だなぁ。こんないい子が彼女になってくれたら最高だろうなぁ。

「今日はカレイの煮つけを作るつもりです。
べ、別に直人さんの大好物だから作るとかじゃないですから、勘違いしないでくださいね」
「お?カレイの煮付けかぁ。俺、大好きだから楽しみにしてるよ」
「へぇ〜、小日向さん、そんな料理作れるんだぁ。直人さん、きっと小日向さんっていいお嫁さん
になれますよね」
「ははは、そうだな。料理は苦手なはずだったのに、いつの間にかレパートリー増えてるんだ
な。カレイの煮付けはよく作るのかい?準ちゃんにでも習ったのかな?」

 そっか、美佳ちゃんも色んな料理が作れるようになってきたのか。一人暮らしの成果が早くも
出てきたんだな。
準ちゃんと2人で暮らしてた頃は、食事の準備は準ちゃん。掃除洗濯が美佳ちゃんと分担して
たもんな。
この前の旅行の時に食べた玉子焼きは、殻が入ったままで正直不味かったけど、どれだけ作
れるようになったのか、楽しみだな!

「え?や、その、実は今日が初めてで……ネ、ネットで調べて完璧に作っちゃいますから!」
「は、初めてなのか?カレイの煮つけって結構難しいと思うぞ?」
「だ、大丈夫です!ネットで調べちゃえばきっと大丈夫なんです!簡単にパパッっと作っちゃう
んです!」
「そうそう!大丈夫ですよ!だって小日向さん、最近お弁当とかも自分で作ってきてますから
ね!上杉さん、小日向さんは素敵な女の子になろうと色々と頑張ってるんですよ?」

 な、なるほど。お弁当も自作なのか。ということは、前よりは料理の腕も上がってるはず……
だよな?
俺の大好物のカレイの煮付け……淡い期待でもしておくかな?
……素敵な女の子になろうと頑張っている?それってもしかして、惚れた男のためか?



「は、ははは、期待させてもらうよ。美味しい御飯、食べさせてくれよな。
そういえば美佳ちゃん、最近髪型変えたり、流行の服を着だしたりしだしたね。
今日の買い物も、洋服だったし……最近はおしゃれに気を使いだしたのかな?」

 前までは準ちゃんの買ってきた服やお下がりを着ていた。
準ちゃんにしても、安い服を探して買ってきてたんだ。……俺の稼ぎが少ないばかりに、2人に
は苦労をさせているなぁ。
金をもっと稼ぐために気合を入れて頑張らなきゃな!
準ちゃんのお店の開業資金に、美佳ちゃんの進学のための学費。まだまだ金はいるんだ、も
っともっと働いて、稼がなきゃな!

「それなんですけどね、上杉さん。小日向さん、好きな人の気を惹こうと頑張ってるんですよ。
上杉さんから見て小日向さんはどう見えますか?彼女にしたいとか思っちゃいますか?」
「んな?な、ななななにを言っちゃうんですか、西原さん!」
「はっはっは、そうかそうか、美佳ちゃんは惚れた男の気を惹こうと頑張ってるのか?
そうだなぁ……美佳ちゃんは十分に可愛いと思うよ。素直でいい子で頑張りやさんだしな。
髪形を変えてから、ますます可愛くなったもんな。こんだけ可愛いんだ、周りの男が放っておか
ないんじゃないか?」
 
 そうだよなぁ、髪型をツインテールに変えてから、ますます可愛さに磨きがかかってきたよな。
素直で頑張りやさんで可愛くて……こりゃモテモテだろ?

「そうなんですよ、学校でもすっごく人気があるんですけど……小日向さん、好きな人一筋なん
ですよね。好きな人しか見えてないみたいなんですよ。ね、小日向さん?」
「さ、さささ、西原さ〜ん!ヘンな事、言わないでください!」
「髪型を変えたのだって、好きな人の気を惹こうとして変えたらしいですよ?」
「ほぉ〜?美佳ちゃんの好きな人はツインテールが好きなのか。ま、男なら誰しも好きだと思う
よ?」
「もしかして上杉さんもツインテール好きなんですか?小日向さんを見て、ドキッときたりしちゃ
いませんか?」

 はぁ?美佳ちゃんを見てドキってするってか?俺がか?ないない!それはない!
そりゃこんだけ可愛いんだ、今までの美佳ちゃんを知らなければそういう気持ちも沸いただろう
けどな。
今はもう、準ちゃん美佳ちゃんのことは、自分の娘のように思ってるからな。

「ははは、そうだなぁ、もっと磨きがかかったら、そのうち来るかもしれないな」
「だそうよ?頑張ろうね、小日向さん!」
「さ、さいぶぁらさぁぁぁ〜ん!」
「はっはははは!どうした美佳ちゃん?何を慌ててるんだ?」
「な、なんでもないです!直人さんの為に綺麗になろうとしてるんじゃないですから!勘違いしな
いでください!」
「なんだか今日の美佳ちゃん、言葉に棘があるね。なにかあったのかい?」
「なんにもないです!そ、それよりも、メガネでもかけちゃおうかな?」

 何でか知らないが、とんでもなく慌てている美佳ちゃん。
きっと好きな人の事を聞かれるのかと恥ずかしがってるのかな?ははは、カワイイなぁ。
こうしていると、美佳ちゃんも普通の恋をする立派な女の子に成長してきたんだな。
嬉しいような、寂しい様な妙な気分だ。これが父親の心境ってヤツなのかもな。
……へ?メガネ?美佳ちゃん、目が悪くなったのか?もしかして勉強のし過ぎか?

「え?美佳ちゃん視力悪かったのかい?それはいけない、すぐにでも眼鏡屋に行って買わなき
ゃな。今の視力、いくつくらいなんだい?」
「え?や、その、両目共に1,5ですけど」
「は?1,5?メガネかける必要ないじゃないか?」
「な、直人さんには関係ないです!で、でも直人さんがそう言うならかけるの止めちゃいます」
「かけるもなにも、目がいいんだから必要ないんじゃないのかい?」
「も、もうメガネはいいです!あ〜あ、なんだか髪を染めたい気分になってきちゃいました。
思い切って染めちゃおうかな?……金髪に」

 どうも様子がおかしいな?今まで大人しいけど素直でいい子だった美佳ちゃんが、急に棘の
ある話し方になったり、
かけなくてもいいメガネをかけようかななんて言い出したり。いったい何なんだ?
……き、きききき、金髪?か、かか髪を金髪に染めるだってぇ?



「こら美佳ちゃん!髪を染めるのはまだしも、金髪に染めるだって?ダメだ!絶対にダメだ!
ぶん殴ってでも止めるからな!」
「そ、そうよ、小日向さん!せっかく綺麗な黒髪なのに、何で染めようとか考えちゃうわけ?
それも金髪なんて、ありえないわよ!」
「あ、や、その、えっとぉ……じょ、冗談、です!冗談で言っちゃいました!」
「冗談?本当だろうな?もし本当に染めようと考えてるんなら、本気で怒るからな」
「や、その……グスッ、ゴ、ゴメンなさい」
 
 俺の怒りの言葉に、シュンとして、半べそを掻く美佳ちゃん。
さっきの反応からして、どう考えても冗談とは思えない。俺の怒りに慌てて誤魔化したって感じ
だ。
……もしかして美佳ちゃんの好きな男ってのは、ヤンキーなのか?
そいつは純粋な美佳ちゃんを、不良に引きずり落とそうと考えてやがるのか?
やはり一人暮らしをさせてのが失敗だったのか?
でも今さら準ちゃんのところへ行けなんて言えないし、かといって、家に来たらおふくろの前で
萎縮してしまいそうだし。
一体どうすりゃいいんだ?俺が常に監視できればいいんだけど、仕事もあるからあまり合いに
はいけない。
いったいどうすれば……そうだ!西原さんに見ていてもらえばいいんだ!
普段の美佳ちゃんが、どういった暮らしをしているか、西原さんに教えてもらえばいいんだ!



「さて、食材の買い物は美佳ちゃんに任せるよ。その間に俺は西原さんを家に送るから」
「は、はいです。西原さん、今日はどうもありがとうございました」
「うん、また一緒に遊ぼうね?じゃ、上杉さん、家までお願いしま〜す」

 美佳ちゃんを大型スーパーに降ろし、西原さんを家へと送る。
おし!今がチャンスだ!普段の美佳ちゃんの事を監視してくれるようにお願いするぞ!
信号待ちで車を止めた時、西原さんに話しかける。西原さん、協力してくれるだろうか?

「西原さん、美佳ちゃんの好きな男ってどんなヤツか知っているかな?
男の趣味に合わせるためなんだろうけど、金髪に染めたいだなんて……もしかして不良とかじ
ゃないだろうな?」
「え?ふ、不良?や、それはないない!年上の彼氏だそうですよ?」
「年上か……そいつは大学生とかなのかな?そいつは信用できるのかな?」

 不良じゃない?だったらさっきの金髪発言は本当に冗談だったのか?
年上だって言ってたな、美佳ちゃんよりも年上というと、大学生か?
……もしかして、元ヤンキーなんじゃないのか?

「は?し、信用、ですか?信用は……出来るんじゃないかな?」
「……西原さん、お願いがあるんだけどいいかな?」
「え?お、お願いってなんですか?」
「俺、仕事が忙しくて、あまり美佳ちゃんまで目が届かないんだ。
こんな事お願いするのなんだけど……普段の美佳ちゃんを俺に教えてほしいんだ!」
「へ?教える、ですか?」
「そう、教えてほしいんだ。今日だって言葉に棘があったり、急に金髪にするとか言い出したり。
俺にはあの大人しいけど素直で優しい美佳ちゃんが、あんな態度を取るなんて信じられないん
だ。
きっと何かあったと思うんだよ。俺じゃなく、友達の西原さんにしか分からない事もあると思うん
だ。
何かおかしいと思うことがあったら、俺に知らせてほしいんだ。
こんな事お願いするのは失礼だとは思うけど、君にしか頼める人がいないんだ。
俺は美佳ちゃんが道を踏み外さないか心配なんだ。頼む!協力してくれ!」

 俺の急なお願いに、驚いている西原さんに頭を下げる。
こんな年下の女の子に頭を下げるなんて思いもしなかったな。
でも美佳ちゃんのためだ、大人しいけど素直で優しい美佳ちゃんのためだったら、何だってや
ってやるさ!

「ええ?や、ちょっと頭上げてください!わ、分かりました、分かりましたから頭を上げてください
よ、上杉さん!」
「ほ、本当かい?協力してくれるのかい?ありがとう!本当に助かるよ!」
「ちょ、ちょっと上杉さん、そんなに頭、下げないでくださいよ!」

 あまりの嬉しさに、信号が変わっていることも忘れ、頭を下げる。
おし!これで美佳ちゃんの情報が入ってくるぞ!
……いったい何処のどいつだ?美佳ちゃんを悪に道に誘惑するボケは!

「いやぁ〜、よかったよ!本当によかった。無理なお願いをして、ゴメンな?」
「い、いえ、ちょっとビックリしちゃいましたけど、気にしないでくださいね。
……でも上杉さん、小日向さんのために必死ですね。
前に準さんが、上杉さんは自分の買いたい物を我慢して、生活費を削ってまで私達に支援して
くれているって言ってましたけど、
どうしてそこまでするんですか?」

 俺が二人の為に支援している事を不思議に思ったのか、問いかけてくる西原さん。
俺は西原さんの問いかけに、昔の……二人の出会う前の、何もない俺自身を思い出し、口を
開いた。

  

「んん?どうして?そうだなぁ……自分のため、かな?」
「自分のため、ですか?」

 何もなかった、ただ毎日を漠然と過ごしていたあの頃を思い出し口を開く。

「そう、自分のためだよ。……二人と出会うまで、俺には何もなかったんだ。
自慢できる事、胸を張れることが一つもなかった。俺には誇れるものなんか、何もなかったん
だ。
あの夜、あの繁華街で、少し汚れた服を着た二人と……妹の為に我が身を犠牲にしようとして
いた妹思いの準ちゃんと、
暗い表情で、その姉を見つめていた妹の美佳ちゃん。あの二人と出会うまで俺には何もなかっ
た。
……それが今はどうだい?確かにお金はなくなったけど、毎日充実している。
二人の成長が楽しくて楽しくて仕方がない!準ちゃんなんて、人生の伴侶と目標まで見つけて
くれた。
美佳ちゃんも真っ直ぐに成長してくれて、君のようないい友達にも恵まれた。
二人と出合ったことで、何にもなかった空っぽの俺が……うん、俺の人生の目標っていうのか
な?
そう、目標が出来たんだ。二人を一人前にするっていう、人生をかけてもいい目標がね。
……二人はいつも俺に感謝してくれてるけど、感謝したいのは俺のほうさ。
俺のつまらなかった人生を、やりがいのある、楽しいものに変えてくれたんだからな。
二人を一人前にしたら、きっと死ぬ時は満足して死ねると思うんだ。
満足して死ねる……多分だけど、そんな人間、滅多にいないぜ?」

 そう、二人を立派な一人前の人間に成長させる。俺の人生をかけてもいい、大事な目標だ。
この目標を達したら、きっと満足して死ねると思う。
俺のような空っぽだった男が、準ちゃんに美佳ちゃんのようないい子を一人前に育てる事が出
来たんだからな。
準ちゃんはもう立派な一人前の人間だ。目標の半分は達成した事になるのかな?
あとは美佳ちゃん……美佳ちゃんが人生の目標を見つけてくれて、
それに向かって歩き出してくれたら、こんなに嬉しいことはない!
美佳ちゃんが自分の人生を、自分の意思で歩き出してくれたら、俺の役目も終わりだ。
……その時は、きっとメチャクチャ美味い酒を飲めるんだろうな。
早く飲みたいような、飲みたくないような……ははは、少し寂しいような妙な気分だな。

「上杉さん……小日向さんと準さんから、上杉さんはとても素敵な人だって聞いていたんですけ
ど、その意味がやっと分かりました。
上杉さん、携帯貸してくださいね?アタシのアドレス、登録しておきますので」

 俺の携帯を手に取り、慣れた手つきで自分の携帯アドレスを登録する西原さん。
おお、さすがは女子高生だな。正直な話、俺、携帯の機能はあまりよく分かってないんだよな。
だから登録なんてすぐには出来ん。……こんな事で感心しちまうなんて、俺もおっさんになった
なぁ。

「はい、登録しておきました。……上杉さんには役目の終わりなんてないと思いますよ?
小日向さんも準さんも、これからもずっと上杉さんと一緒にいたいと思っているはずです。
だから、ずっと小日向さんと一緒にいてあげてくださいね。あ、ここで降ります」

 いつの間にか、西原さんの自宅前に着いたみたいだ。
……でけぇ高級そうなマンションに住んでるんだな。もしかして結構な金持ちなのか?
それにしても本当にいい子だな。準ちゃん美佳ちゃんが俺と一緒にいたいって?
嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか。

「んん?ははは、二人が嫌がらなければ喜んで、だよ。今日はありがとう、これからもよろしく頼
むよ」
「はい、こちらこそありがとうございました!素敵な上杉さんと知り合いになれて嬉しかったで
す!今度メールしますね?」
「おいおい、俺を褒めても何もでないぞ?美佳ちゃんのこと、よろしく頼むよ。じゃ、またね」
「はい、今日は本当にありがとうございました!いい話をたくさん聞けて嬉しかったです!」
「ははは、なんだか照れるな。じゃ、また今度遊ぼうな」

 輝くような笑顔を残し、マンションへと入っていった西原さん。
西原さん、カワイイよなぁ。あんな彼女がいたら、人生変わるだろうな。
美佳ちゃんになにかあればメールで教えてくれるだろうし、ホントにいい子だ。
……メール?あれ?もしかして俺、意図せずして女子高生のメールアドレスゲット?
これって上手くやれば、西原さんと……お、おおぉおおぉおぉおぉおぉおぉ〜!
きたぁ〜!俺にも春が!長い冬を耐え忍んだかいあって、春がきたぁぁぁ〜!……かな?
ま、そう上手くはいかないだろうけど、生まれて初めて女子高生のアドレスゲットだ!
いやぁ〜、嬉しいねぇ。こんな年下の女の子のアドレスゲットできるなんて!

「うまく二人で会えるように持って行けば……ヤレちゃったりして?いやぁ〜、夢が広がるな
ぁ!」

 女子高生とヤルんだぜ?同僚の高橋のように80キロの横綱とかじゃなく、メチャクチャ可愛
い子とだぜ?
あの太ももに顔をすりすりしたり、足首をペロペロしたり、手でコキコキしてもらったりするんだ
ぜ?
Tシャツ一枚になってもらって、シャワーで水をかけてTシャツから透けて見える素肌を眺めたり
できるんだぜ?
おいおいおいおい……大事な事を忘れてた、足コキも仕込まなきゃいけねぇな!
タマランなぁ、夢が広がるな、おい!

「……ま、無理な話だけどな。夢を見るのは自由だから、もう少し見させてもらうとするかな?
さて、そろそろ美佳ちゃんを迎えに行かなきゃな。
結構時間をくったから、一人でいるのが寂しくて涙目になってるかもしれんな」 

 西原さんとのバラ色の恋人ライフを妄想しながら大型スーパーへと向かう。
美佳ちゃんを迎えに行ったら、案の定涙目で俺を探してきょろきょろしていた。
俺を見つけて笑顔を見せ、しばらく楽しそうに会話をしていたんだが、何かを思い出したように
文句を言われた。

『直人さん、迎えに来るのが遅いです!女の子を一人で待たせるなんて最低ですね。
私でしたからいいですけど、他の女の子だったら嫌われてるところですよ。
ですから私以外の女の子とは買い物には行かないほうがいいですね。絶対に嫌われちゃいま
すから』と。

 はぁぁ〜、美佳ちゃん、ここ数日でホントに様子がおかしくなったよな。
やっぱり好きになった男の影響か?前までは絶対に言わなかったようなことを平気で言ってく
るようになったもんな。
西原さんからの情報では年上の男って話だったけど、それだけじゃよく分からんな。
もっと詳しい情報を教えてもらわなきゃな。



 それにしても男を好きになっただけでこうまで性格が変わるものなのか?
前までだったら、絶対に文句なんか言ってこなかったぞ?やっぱり相手の男がダメなんじゃな
いか?
誰かに相談してみるか?しかし女のことで相談できるようなヤツはいないしな。
う〜ん、西原さんにでも相談するか?いや、知り合ってばかりで相談するってのもヘンだよな。
誰か女の気持ちが分かるようなやつで、気軽に話せる人、いないのか?
……よく考えたら俺って、女の知り合いいないんじゃねぇか?
どうしよう?お袋にでも相談するか?いや、相談なんかしたら美佳ちゃんがとんでもない説教を
食らう気がするな。
やっぱり西原さんに相談するか?でもなぁ、知りあったばかりの子に相談ってもの、やっぱりお
かしな話だしなぁ。
でも女の気持ちが分かるような人、俺の知り合いには他にいないし……あ、いた。
そういえばあの人も女に分類される生物だったな。
そうだそうだ、俺には長年バカ話をしてきた、あの残念な人がいるじゃねぇか!
あの人、ああ見えて相談事とかは結構真面目に答えてくれるしな。相談相手にはうってつけだ
な。
うん、久しぶりに俺もみんなと話したいし、久しぶりに行ってみるかな?
俺が長年入り浸っていた、あの居心地のいい空間……下半身紳士同盟へ。

 俺は美佳ちゃん手作りの残念なカレイの煮つけをご馳走になったあと、ネットカフェへと車を
走らせた。
久しぶりにみんなとバカ話ができる、そう考えただけでなんだかワクワクしてきたぞ!
ネットカフェに着き、はやる気持ちを抑えて通いなれたいつものチャットチャンネルに入る。
みんな元気にしてるかな?俺のこと忘れてねぇよな?……忘れてないよね?
ちょっとした緊張感を持ちながらチャンネルに入る。
俺がチャンネルに入ったのは結構早い時間だったんだけど、チャンネルには二人、人がいた。
一人は俺が相談をしたいと思っていた人物、unaさんだ。
そしてもう一人は、最近ここにきだしたという、kohiという人がいた。
こんなところに来るなんて、この人もよっぽどなHENTAIなんだな。おっし!今日は久々に
HENTAIトークを楽しむか!

 久しぶりに楽しむことの出来る、友人達との遠慮のいらない会話に胸を躍らせる俺。
やっぱり週一くらいで遊びに来るかな?バカ話をしないとストレスが溜まっちまうもんな。



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