夢魔に取り付かれているのではないかと思うほどの極上の夢を見た気がして、セロンは目を覚ました。一片の曇りも無い闇に、エンペラーイエローの瞳が煌く。 どうも自分の身体に違和感を感じて、セロンは低く呻く。性行為、もしくは吸血行為をされた後のような疲労感。身体に纏わりつくような熱。――この違和感に、心当たりなど一つしかなかった。 全身に広がる疲労感を振り払って、右腕をゆっくりと足の方へ伸ばす。すると途中で、がしりと何者かに手を掴まれた。 細く息を吐いて、この後に訪れる衝撃を覚悟する。 「――ッ」 掴まれた手首に鋭い釘を打ち込まれたような痛み、そして広がってゆく全身を支配する熱と痺れ。 「――っ…、ぁ、あっ……」 セロンは我知らず首を反らせた。寝起きの掠れた声が闇を揺らし、吐息が「彼」を微笑に誘った。 一つの衝撃が去ると、次の波が来る。セロンは諦めて身体を投げ出した。 自分の意思とは関係なく熱を篭らせた下半身、そこを「彼」の手が握りしめ、下腹部全体に「彼」の重みがかかる。陰部は蕩けるような熱さに飲み込まれていった。 「っ、ん……寝起きなのに、ゲンキだね……っ」 艶めいた「彼」の声が、セロンを挑発する。 「一人で元気なのは、お前だろ……」 セロンは呆れ果てて片手を額に当て、大きな溜息をついた。これでは本当に夢魔に取り付かれているのと変わらない。 「お前、サキュバスに転職した方がいいんじゃねぇの……」 言いながら、セロンは飲み込まれた陰部から沸き起こる衝動のまま、腰を浮かせた。 「っあ! ぁ……、インキュバス(男性型)じゃ、なくて?」 「……インキュバスは人の精液貪ったりしねぇんだよ」 セロンがそう言って右手を空に伸ばせば、人の顔にたどり着く。手探りで唇に触れると、セロンの思ったとおり「彼」の唇は粘度の高い液体で濡れていた。 セロンの指摘に、「彼」は開き直って笑う。 「精液もスキだけどさ、やっぱりこっちの方が美味しいし」 唇に触れていた手を掴み、「彼」はセロンの指の間に歯を突き立てた。ズズッ、と「彼」がそこからセロンの血液を吸い上げると、セロンの身体は熱をあげる。 「ん……あは、おっきくなったよ……?」 「……パーシー、それは生理現象だ」 高貴な純血の吸血鬼、パーシヴァルに血を吸われて、快感を感じない者など、いない。そんな主張を、セロンは身体を張って証明している。 自分の意思でないのに、欲しくてたまらない身体を求めて、セロンは腰を突き上げた。 「っぁ、あ、っ……セオっ……」 切なそうに喘ぐパーシヴァルの声が耳に心地よかった。彼の熱い身体の奥をもっと好きにしたくて、セロンは状態を起こし、パーシーの腰を抱いた。 「んんっ……、ねぇ…もっと……」 背を反らせ、青み掛かった薄い緑の瞳を猫のように光らせて、パーシヴァルは酷く淫らに足を開いた。誘われるままにパーシヴァルの身体に迫っていくと、いつの間にか彼の身体を組み敷いている状態になる。 パーシーは片腕で状態を支え、左手をセロンの頬に伸ばすと、手入れした長い爪で引っ掻き傷をつけた。 「ね、セオ……もっと僕を、好きにしていいんだよ…?」 売春婦のように淫らで、悪戯好きの少年のように無邪気。言葉どおりの挑発。傷つけられた所為か、否か、頬がかっと熱くなった。 セロンは組み敷いた身体をがくん、がくん、と激しく揺さぶった。 「……ぁ、……ぁあっ、……ん……ふ、ぅ……んっ」 パーシヴァルの膝を広げ、折り曲げさせ、肉体の出す音としか思えない水音と弾力の響きが、闇を忍びゆく。セロンの動きに合わせて、パーシーの中は収縮し、光る黄金の瞳が細められる。 「っぅ……ぁ、ぁ…っ、パーシヴァ、ル…っ……!」 繋がった箇所は二人に際限の無い快楽を呼び、全身が噴き出す汗に濡れそぼった。 「ん、ぁ…っぁ、あああっ、あーっ、あ……も、ぅ、……っ、」 やがてパーシヴァルの渾身の締め付けに耐え切れず、セロンは彼の体内に熱を吐き出した。 「ふ……、ぁ……んん……」 吐き出された熱を嬉しげな表情で受け止めながら、パーシヴァルも精を撒き散らした。 「ねーぇー、セオ、人のナカで気持ちよーくイっといて、それって酷いんじゃないの?」 ぐったりとうつ伏せて青ざめたセロンの背中に、べったりとうつ伏せに乗っかったパーシヴァルは片足をぴこぴこと宙で遊ばせて、ベッドに囁いた。 「てめぇ……人の血と精気を満腹になるまで貪っといて……!」 ゼイゼイと息を切らせて言うセロンだったが、あとは言葉にならない。 「僕、これでも遠慮したんだよ? セオがちょっと萎びてきてんじゃないの?」 セロンは吸血鬼になってせいぜい200年とそこそこ、といった所である。優に1000年を生きてきているパーシヴァルに言われたくない。だが言い返す気力も無い。(――しかし、とりあえずそこを退けとは言いたかった。) 「そんなんじゃ狩りに行けないよー。しっかりしてよねー」 限りなく夢魔に近い性質を持つ吸血鬼様はセロンの上から退く気配も無い。 「二人とも、いつまでも寝ているんだ。いい加減起き……」 「「あ」」 棺桶(ベッド)で裸になって睦み会う(?)二人を起こしに、ヴィンセントが寝室(地下室)の扉を開け、そして固まった。ヴィンセントの右手はランスロットの小さな左手を引いているのであって。そんな現場を目撃したランスロット少年は。 「いいなぁ、僕も混ざるー」 可愛らしく走りよって、ぺったりと裸の二人の上にうつ伏せに乗っかったのだった。 そんな吸血鬼たちの、一日の始まり。 |