竜崎が立ったのを見たのはこれで2回目だったので少し驚いてしまった。
そのまま思案顔で部屋の出口方面へ歩いて行ったのだが、
7歩程進んだ所で急に小首を傾げ、
右手親指の爪をいつものようにカリカリやりながら戻って来た。
その時。
ごつん、と鈍い音がした。
竜崎の左足がソファの角に当たったらしい。
角度的に見て小指を直撃したものと思われる。
しかし彼は顔色一つ変える事なく、ソファで元通り体育座りの姿勢を取った。
さすが竜崎…いや、L。
どんな時でも冷静沈着だ。
「そう言えば、」
背後のワタリに話し掛けた…と、一瞬の間の後、両膝に顔を埋めてしまった。
「どうかしましたか、竜崎」
ワタリが声をかけると、
「…いや、何でも…。
ちょっと痛くて…」
そう答えた彼の左足はピクピクしていた。
…痛がるのが遅すぎやしないだろうか。
そのまま暫くそうしていた竜崎だったが、2分程して漸く痛みが和らいだらしく、
隣に控えたワタリに何事か話しだした。
こちらにふってこない、という事は雑談の類だろうか。
元々ボソボソ喋る竜崎が小声になると、本当に聞き取れない。
見ていると、ワタリがうんうんと何度か相槌を返している。
「それではこちらの、」
ワタリが纏めに入ろうとすると。
「…すまない、ちょっと」
それを遮って竜崎は立ち上がった。
それから再び、部屋の出口方面へと足を向ける。
当初の目的を思い出したらしい。
バスルームの隣の扉を開けた。
竜崎は数分で戻って来た。
今は何事もなかったようにワタリと話している。
どうでも良い事だが今爪を噛んでいる彼が、
きちんと手を洗ったのかどうかが少し気になった。
Lは捜査員に軽く珍獣扱い。
トイレに立っても珍しがられるといい。
04.08.22
|