「お帰りなさい。暑かったでしょう」 そう労われて松田は軽く赤面した。 まさか竜崎にそんな事を言われる日が来ようとば夢にも思っていなかったからだ。 「…そう言えばワタリは、」 いつもならそれは、今この場にいないあの品のいい老紳士の役目なのだが。 「ワタリは今日、所用で出てもらっています」 答えた竜崎の表情が僅かにかげったのは、右腕の男がいない所為だと思われた。 「冷たいものでもいかがです?」 問われて松田は些か目を剥いた。 これも常ならばワタリの台詞である。 はっきり言って竜崎のキャラには合っていない。 「え、あの、いいんですか」 「まあ遠慮なさらず」 呆気に取られる松田を気に止めるでもなく、竜崎は部屋に設えられたキッチンへ向かって行った。 いや、まさかあの自分の事すらほぼ全てワタリ任せの竜崎が。 人の為、ましてやいち捜査員でしかない自分の為に…。 ある意味失礼な感慨に打たれ、松田は呆然と猫背の背中を見送った。 この人に着いて来て良かった…などと思っている内に竜崎は戻って来た。 澄んだ茶色の液体がなみなみと注がれたグラスを乗せた、 銀のトレーを両手で持ちながら歩く彼はどうにも危なっかしい。 立ち尽くしたままの松田の前までよろよろと歩み寄り、目顔で座るよう訴える。 下手に手伝おうとすればグラスを引っ繰り返しかねない、 と判断した松田はややあたふたしながらもソファに腰を降ろした。 その目の前に置かれるトレー。 辛うじて惨事は免れたようだ。 松田はほっと胸を撫で下ろす。 それから改めてグラスを眺める、が、ここで問題が1つ。 (これ…どうやって飲もう…) 表面張力の賜物で中身が零れずにいるだけの、このグラスをいかにして持ち上げるか。 恐らく最善の策としては、まず縁に口をつけてすすり込み、 少しでも減らしてから…だと思うのだが。 さすがにそれは行儀が悪いかも知れない…松田の逡巡は続く。 それをいつもの無表情で見つめていた竜崎。 「そんなに警戒しなくても、中身はワタリの淹れたアイスティーですよ」 「あっ、え?」 明らかに面白くなさそうな声に、松田は我に返ったが時既に遅し。 「…どうせ私にワタリの代わりはつとまりません…」 言うが早いか竜崎はソファに膝を立てて座り、更にはそのまま膝に突っ伏してしまった。 「あっあの、そういう意味では決して、」 「いいんです、皆さん示し合わせたように同じリアクションでしたし…」 黙々と作業していた捜査員達が一様に肩をビクリと震わせたのが、 松田の思い違いでは恐らくない。
色んなサイト様で、現在ワタリ不在らしいと知りました 自己管理できるかどうか怪しいLが心配でたまりません ジャンプ買おうかなぁ…Lの為だけに… (本館のジャンルは原作どうでもいい) 04.08.22