「ねーオシタリ、電気消してよ」
「…お前今日、何飲んだん」
眠レ不
ジローはカフェインに極端に弱い。
コーヒーとか、紅茶とか緑茶とか、その辺のものを滅多に飲まないせいもあるんやろうけど。
せやからたまに飲むとこれや。
日頃炎天下の屋外でもグースカ眠れる奴が、明るくて寝られないとか言い出すんや。
ちゅうかな、電気のスイッチお前のが近いっちゅうねん。
…いやいや、消されたら困んねんて!
「…カフェオレ」
「なんでそんなもん飲んだんよ、今日に限って」
「んーなんか、たまにはいっかなって」
「もっと後の事考えて行動せぇや。眠れんくなるんぐらい、自分が1番ようわかっとるやろ」
挙句、わざわざ人ん家来てぐずりよるんやからな。
ホンマ勘弁して欲しいわ。
「…だって、オシタリ帰れって言うじゃん」
「は?」
「俺がオシタリん家来て寝るとさ、寝るんやったら帰れーって怒るじゃん」
「普通やろ」
大体ジローは遠慮っちゅうもんがなさすぎんねん。
人ん家来たら行儀ようするのが常識やろ?
まぁ今更かしこまられても、それはそれで怖いけどな。
せやけど少しぐらい遠慮するんが礼儀ってモンやろ。
床とかで寝るんやったらまだ可愛げもあんのに、コイツ俺のベッド占拠しよんねん。
ほんで起きひんねん。
何が悲しゅうて部屋の主の俺が床で寝なあかんねん。ありえへんわ。
せやから、寝んなら帰ってからにせぇ言うんや。
言いはするけど…。
「別に怒ってはないやんか」
「でも帰れって言うじゃん。俺あれけっこー傷付くんだよね、なんか邪魔にされてるってかさー」
いや、実際邪魔やから言うとんねん。
「だから、寝ないんだったら追い出されねーかなって思って来たのに」
「寝なかったらええってもんでもないわ」
「じゃあ俺、今、邪魔?」
…そない犬みとぉな目ェされても困るんやけど…。
「邪魔っちゅうか、ちっと黙ってられへんのかーいう感じやな」
「静かにしてたらいてもいい?」
「…別に構わへんけど」
眠れん時は無理して寝ようとせんで、大人しゅう本でも読んどけばええねん。
て、さっき言うたらソッコー却下されてん。
あれはちょっとカチンと来たわ。
「…じゃあさー」
結局喋るんかいな。
黙ってられたん5分ぐらいやないか。
俺は宿題で忙しいねん。古文訳とか言ってだるすぎるわ。
ほんまは俺かて今すぐ寝たいねん。
集中途切れるさかいやめてほしいんやけどほんまに。
追い出されたいんか?
「俺いつも寝てて静かにしてんのに、なんで帰れって言うのさ」
…拗ねとるんか?もしかして。
ほんで意外と根に持ちよんのな、コイツ。
振り返ったらほんまに拗ねとった。
ベッドに寝っ転がって口尖らせて。
わかりやすいやっちゃな。
「…お前いっつもベッド占領しよるさかい嫌やねん」
「どかせばEじゃん」
「どかせへんさかい言うとんのや。
おまけにさっきから「帰れ」て怒る、言うとるけどな、自分それで帰ったためしないやろ」
「帰りたくねーんだもん」
…どこまでワガママなんやコイツは。
これ以上言うても時間の無駄やわ。
なんやもう、つきたないけど溜め息出るわ…。
「じゃ、一緒に寝よーよ。俺ちょっと寄って寝るからさ」
「狭いし」
「ゼータク言わない!」
いや、贅沢ちゃうやろ。
「そうと決まれば早く寝よって。ほらオシタリ、こっちこっち」
「俺まだ寝られへんし」
ちゅうかそないベッドばんばん叩きなや。
埃出るっちゅうの。
しかも決まってへんし。
「なんでさー」
「宿題終わってへん」
「そんなんEじゃん」
「いい事あらへん」
ちゅうかコイツ、寝られへんかったんちゃうんかい。
寝る気満々らしいけど。
「ねぇってば、早くおいでよ」
「うっさい先寝とけ」
「んーわかった。じゃあ後で入ってきてね、おやすみー」
…寝たんか?
寝よったんか?
今まで散々邪魔しといてさっさと寝たんか!?
ごっつむかつくわ。
もうええ。寝る。俺も寝る。
宿題なんか明日誰かに写さしてもろたらええねん。寝るわ。
立ち上がって電気消したら、ジローがくすくす笑いながら布団から頭出しよった。
…寝てへんやないか。
「…自分、一体何がしたいねん…」
|