俺は、侑ちゃんが好き。

だって、優しいし、頭いいし、

可愛いし。

だから、どうしても納得いかないんだ。

…なんで侑ちゃんが、あんな奴を好きなのかが。








それでも。







「なんやジロー、怖い顔して」


目を開けたら、侑ちゃんがいた。

俺の顔覗き込むみたいにして、太陽を背にして、立ってた。


「こわいかお、してた?」


「おお、しとったしとった。なんやココに皺寄せよって、まるで跡部みたいに」


侑ちゃんは眉間を指差して、にこにこしながら俺の一番聞きたくない名前を出す。


「…侑ちゃんは、跡部が好きだもんね」


「え?」


「誰でも跡部に見えちゃうんじゃないの」


「そない意地悪言わんといてぇな」


起き上がった俺の隣に侑ちゃんは、困ったように笑いながら座った。


「なんや、ゴキゲンナナメか?」


「うん」


「何かあったん?」


「…邪魔、されたから」


「そら悪かったな。せやけどしゃーないやん、部活中に寝る方も悪いんやで」


侑ちゃんは勝手に勘違いして、さっきよりも困った顔をする。

そうじゃないよ。

それに今、俺、寝てなかったし。

…跡部を好きになるまで、侑ちゃんはずっと俺のだったのに。

今じゃ、事あるごとに「跡部、跡部」って。

俺と一緒にいたって、あいつの話ばっかりで。

くやしい。むかつく。

なんでそんなに跡部がいいの?

頭はいいけど、性格悪いし、全然優しくもないのに。

いつもちょっかい出しては冷たくされてるくせに。

…昨夜だって、泣いてたくせに。

それでも、あいつがいいの?


「ほれ、いつまで寝惚けとるつもりや。行くで」


「えーやだ!侑ちゃんもいっしょにサボろーよぉ」


もうちょっと二人っきりでいたいのに。

そんな俺の気も知らないで、侑ちゃんは俺の手を掴んで立ち上がる。


「早よ戻らな、俺まで怒られるわ」


そう言いながら、笑ってる。

嬉しいのを隠してる時の顔で。

俺を連れ戻したって、跡部は笑ってくれないよ?

褒めてなんか、くれないよ?

…だけど、それでも侑ちゃんは、跡部が好きなんだろうね。

しょうがないから俺は、精一杯眠そうな顔をつくって、侑ちゃんの後を着いてった。




文中で跡部様を「性格悪い」とか言うてますが、雨鳥は跡部様大好きです。いや、本当に。
携帯版自サイトより転載。

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