帰りのバスはすいとる
そやのにジローはかなり急いで乗り込むんや
ジローには特等席があって
そこやないと気が済まんらしい
ほらまた今日も駆け込んで
転んだらどないするん
そない焦らんでもあいてるの見えとるやないか
「よかったー今日もあいてた、おれの席!」
白い歯見せて嬉しそうに
ジローはいつもの席につく
「自分の席ちゃうやろ、公共物やで」
運転席の後ろの列の前から2番目
ちょうどタイヤの上にある席
「Eの!この時間のこの席はおれのなの!」
「はいはい、ようわかりましたぁ」
「ついたら起こしてねー」
「はいはい」
いくら自分がちっさいからって、いくらなんでも窮屈やろうに
なんでそんなとこがええねん
って聞いたら
膝の上に頭を置けて楽なんやて
苦しそうやん
窒息しそうやん 言うたら
せまい方が落ち着くんだよ
やて
しゃあないから俺はいつもジロの後ろの席に座る
タイヤの分だけジロの席のが高いから
俺んとこからはつっぷして寝とるジロの毛先しか見えへん
なんかなぁ アホみたいやけど
淋しいやん
俺の肩にもたれたってええし
できるなら膝貸したってもええから
「たまには隣に座ってみたいわ」
…膝はやっぱ無理やろうけど、スペース的に
今日もまた ジローは急いでバスに乗る
あの席ならあいとったで
言うても無駄やからもう言わんけど
と思たら
特等席を通り過ぎて
ジローはずんずんバスの奥へ
「おれ、まど側ね!」
あれよあれよ ジローはさっさと2人がけの席の窓際を奪いよった
運転席の後ろの列の後ろから3番目の席
「自分、寝とったんちゃうんかい」
「ねてたけど、でも聞こえたから」
白い歯見せて笑うジロ
めっちゃ恥ずい
それにしても予想以上に狭いわ
俺体育座りみとおなっとるやん
中学生男子がこんなすいとるバスで
2人がけの席にみっちり座っとるなんて
なんか不自然やん
なんかみっともないやん
「1番後ろ行かへん?」
「だめ」
「なんで」
「侑ちゃんのとなりはおれ以外すわっちゃだめなの」
ああもうほんまにみっともない
せやけど1番みっともないんは
こんなんで嬉しゅうなっとる俺ちゃうやろか
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