「侑ちゃあん」 
「何やねん」 
「あっついよー」 
「俺かて暑いわ」


梅雨明け、朝から日差しは全開で 
学校までの長い上り坂を、先を歩く忍足のシャツの裾を掴んで芥川は登る


「アイス食べたいー」 
「コンビニ寄る暇なんてないで。遅刻するわ」


ジージージージー
元気なのは目覚めたての蝉ばかり

 
「あづいよーおれ、とけちゃうよー」 
「勝手に溶けとれ」


(そしたらちっとは軽ぅなってええかもな)
忍足の皮肉にも芥川は気付かない
(もしかして脳味噌が汗になって溶け出してんとちゃうやろな)
虚ろな目で後ろを歩く芥川に、在り得ぬ懸念が脳裏を過る 


「おれがとけたら侑ちゃんのせいだかんねー」 
「なんでやねん」 
「侑ちゃんがコンビニ寄ってくんないからー。ちゃんとセキニンとってよねー」 
「どうやって」 
「だからぁ、とけたおれをもってかえってもとどおりにすんの」


(コイツヤバイわ)


「…冷凍庫でええか」 
「せーひょーき入れたらだめだかんね」 
「ちっこくて四角いジロが仰山できるやろなぁ」


冷凍庫を開けるとコロコロと2cm角の芥川が出て来るのだ
(それはそれでおもろいかも知れん)
忍足は本来リアリストだ
しかし芥川といると引き摺られるように夢想がちになる
実はそれが嫌ではない忍足だ
空想仮定の話題は途切れる事がない

 
「せやけど冷凍庫で固めたら、もう常温で生きてけんかも知れんで」
「そしたら侑ちゃんちのレートーコに住むよー」


先刻まで汗に濡れたシャツは、電車の冷房によって冷やされていて
その余韻を、忍足のシャツの分まで味わっていた芥川だったが
しょうもない話をする内すぐに温くなってしまった


「ドウセイだね」 
「冷凍庫から出られん奴とでも同棲て言えるんかいな」 


冷静に聞こえる忍足のツッコミも実は現実から的外れ
自覚しながらの戯言遊び、芥川に合わせるのは心地良いのだ
愛だの恋だのを差し引いても


「これからおれの住所は侑ちゃんちのレートーコ内、だね」 
「手紙来るんかいいっちょまえに」 
「来るよ!そんでおれも書くよ!侑ちゃんに」 
「俺にか!」
「そーだよー。

“侑ちゃんへ。

こないだ侑ちゃんのおかーさんが送ってきた、さかなのひものがくさいから
はやくたべてください。
あと、侑ちゃんがたのしみにとっといたアイスくっちゃった。ごめんね。

レートーコからアイをこめて。あくたがわじろう。”
 ってね!」 「あ、このやろ!風呂上りに食べよ思うとったのに!  …て怒ったるわ、そしたら」 (あー、そうやったらどんなにええか) そんな事にまで思いは及ぶ きっと夢見がちの素質はあったのだろう それを呼び覚ましたのが、芥川 この恋しさはその所為か否か そのどちらをも否定して、忍足 (それもあるけど、それだけやない、きっと) 「それにしても締めの一言が粋やないの。  どこで憶えたん」 「えー、わかんねー。でもさぁ、なんか、そーなったらおもしろいねー」 (同じ事思っとる…) 「そやな、それもええかもな」 「じゃあおれ、とけるよ!」 「おー、ガンバレ」 ジージージージー 元気なのは蝉だけでなく 朝も早よから立ち上る陽炎 ここも現か、幻か 「あ!でもとけたらテニスできねーよ!」

雰囲気系目指しました 失敗してる感が一杯でごめんなさい でも無駄にお気に入りです 夏の始めに書いた話だったんですが(以下略) 元拍手お礼でした 04.12.06

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