「ガってさ、かわいそうだよね」 部活の帰り道。 すっかり暗くなった街灯に群れ寄る虫を眺め、芥川は言った。 「なんで?」 一歩遅れて歩む忍足は、その小さな呟きに応える。 半ば独言だったのだろう、芥川は足を止め振り返った。 聞き逃す筈がないのだ、たとえどんなに微かな声でさえも。 忍足は何気ない風を装いながら、目も耳も肌でさえも総動員させているのだから。 芥川の全てを集めてしまいたいと、そう思っているのだから。 「かわいそうじゃん。だってただの電球だよ?そんなもんに必死んなってあつまってさ。 ガラスがあるからあれ以上近くによれねーのに。 ガラスん中入れたって、さわったら焼け死ぬだけだし。何も意味ねーじゃん」 忍足はそれには返事をせずに、ただ少しだけ口角を引き上げた。 「なんだよ、おれ何か変な事言った?」 その仕草が馬鹿にしている様に見えたのだろう、芥川は鼻白んで見せる。 「いや、別に?」 そう言いながらも、忍足の笑みは益々深まる。 それとは反比例にして芥川の機嫌は、右肩下がりに悪くなっていく。 「じゃあ何で笑うんだよ」 両手をポケットに突っ込んだまま、芥川は歩き出す。 先刻と同じく一歩後を忍足が続く。 忍足の表情は変わらない。 芥川がよく『厭らしい顔』と表すものだ。 的確な指摘だと忍足は思う。 芥川にしてみれば気分の良いものではないだろう。 四六時中視姦されている様なものなのだから。 自覚の有無を差し引いても、だ。 「…ジローはそう言うけどな。 俺らにとっちゃただの電球でも、あいつらにしたら何かもっと凄いもんなのかも判らんで? それこそ身を捨ててでも、傍に寄りたいもんなんかも知れん。 触ったら焼け死ぬ事くらい、あいつらかて知っとるんと違うか?」 忍足が機嫌良くそう言うと。 芥川は憮然としたまま眉尻を下げた。 「…オシタリって時々バカなんだか頭いいんだかわかんねー」 「天才はいつの世も理解され難いもんやからな」 「何だよそれ。バカじゃねーの。オシタリやっぱバカだ」 「お前にバカとか言われとうないわ、アホ」 忍足の上機嫌は揺るがない。 反撃の罵倒が効かなかった事が悔しいのか、芥川は不貞腐れて歩を早めた。 流石に少々やりすぎたかと、忍足は取り繕う。 一歩分の距離は埋めないままに。 「拗ねんなや。俺が笑うてたんはお前やのうてあの蛾の所為なんやから」 「ふぅん」 芥川は速度を緩めない。 「何かな、あいつら…、俺に似とるなて思うて」 忍足は早歩きだが、芥川はほぼ駆け足である。 コンパスの違いがまた悔しいのか、芥川のスピードは上昇の一途を辿る。 しかし忍足もそれに合わせる、決して追い付きも追い抜きもせず、微妙な距離を保って。 状態は既に鬼ごっこの相を呈し始めていた。 「…オシタリも光るもんが好きって事?」 全速力の手前の芥川は息一つ乱さず、的を得ている様な外れている様な問いを投げて寄越す。 「そうやなぁ。お日さんみとおに光っとる奴が好きやなぁ」 誘蛾灯に意志はない。 ただ、あるがままに輝くだけ。 その無意識の眩しさが、恋しくて、恋しくて。 「ふぅん」 気のない、返事。 先を行く芥川の表情は、忍足には読めない。 触れれば身を灼く光としても。 いつかこの見えない壁を越える事が出来たとしたら、 その時は迷わず手を伸ばすだろう。 誘蛾灯は決して振り返りはしない。

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