『冬の日溜まり』


いつものラジオ局で録りを終え、ツルツルの路面に用心しつつ、事務所へと車を走らせる。
既に夜九時を回っていて、本来なら真っ直ぐ帰りたいところだが、今日はモリから招集がかかった。
次回公演の台本が、先日上がったのだ。
東京でのドラマ撮影で多忙な大泉も、昨日からおにぎりのロケで帰ってきているという。
そして、誰より会いたかった琢ちゃんも、十日間に渡る稚内でのドラマ撮影を終えて帰ってきている筈だ。

事務所に着き、真っ直ぐ稽古場へと向かった。
集合時間にはまだ早いから、一番乗りかなあ…と思いつつ、稽古場の扉を開けた。
「……あ、」
稽古場に置いてあるソファーの上には、ニット帽を被った琢ちゃんが横になってうずくまり、気持ち良さそうに眠っていた。
他のメンバーはやはりまだのようだ。
何も掛けずに眠る琢ちゃんに、自分のダウンジャケットを脱いで掛けてやり、傍らに腰を下ろして寝顔を見つめた。
ドラマ撮影の為に髪を切り、食事制限にジム通いと、随分頑張っていた。
ここよりもずっと寒い土地での撮影は、きっと大変だったことだろう。
撮影に入る前に会ったときよりも、顎のラインが更にシャープになってる気がする。
起こしちゃいけない、なんて思いながらも、触れたくてついつい手を伸ばしてしまう。
ニット帽の上から、そっと頭を撫でる。
大好きな少しクセのあるふわふわの髪は、この帽子の下にはもう存在しない。
正直、少し寂しいとは思う。
「……ん…――――?」
身じろぎした琢ちゃんは、うっすらと目を開けて俺を見上げた。
「けん…ちゃん…?」
「…おはよう。」
琢ちゃんは目をショボショボさせながら体をずらして、俺の膝の上に頭をのせた。
くんっとセーターの裾を引っ張って、またトロトロとまどろみはじめる。
久し振りなのも手伝って、可愛らしい行動に心臓がばくばくしてしまう。
「…顕ちゃんの匂いだぁ…。顕ちゃん……」
甘えるような声に堪えきれず、無防備な唇にちゅっと口付けた。
ここが稽古場でなかったら、このまま襲ってしまいたいくらいだ。
眠そうな目で俺を見上げた琢ちゃんは、キスをねだるようにまた目を閉じた。
いつにも増して、大胆で可愛い。
そっと掌で琢ちゃんの頬を包み、もう一度唇を合わせた。
琢ちゃんは片腕を俺の首に回して、ぎゅうっと抱きついてきた。
「琢ちゃん…何かあった?」
何かありでもしない限り、滅多なことでは甘えてこない琢ちゃんだけにそう思った。
でも、琢ちゃんの答えはいたってシンプルだった。
「……会いたかった…」
「………え?」
「向こうではねえ…皆親切だったし、撮影だって大変だったこともあったけど楽しかったよ。でも、一人でこんな長い間仕事って初めてだったから……ホームシックでもないんだけど、無性に顕ちゃんが懐かしくてねぇ……」
「……………」
意外な言葉に、嬉しくて言葉が出てこない。
何も言わない俺を不思議に思ったのか、抱きついたままだった琢ちゃんはそっと俺から離れ、顔を覗き込んできた。
「顕ちゃん?」
「…あっ、いや…。…俺も…すっごく、会いたかった……」
ぎゅ、と琢ちゃんを抱き直す。
琢ちゃんの温もりが、ふんわりと伝わってくる。
………ホッとする。ずっとずっと感じていたい温もり。
いつものクセで髪を撫でようとして、ふと、まだ琢ちゃんの頭を見ていなかったことに気付いた。
「…ね、琢ちゃん…頭見せてよ。」
「…いいけど…笑うなよ。」
琢ちゃんは、ちょっと恥ずかしそうにうつむいた。
「笑わないよ。」
――――――――しかしニット帽をゆっくり脱がした俺は、不覚にも笑ってしまった。
…正確には、琢ちゃんのいがぐり頭が可愛いから小さく吹き出してしまったのであって、決して馬鹿にしてのことではなかったのだが。
「笑わないって言ったろ?!」
「笑ってないよぉ。」
「ウソだ!今笑った、確かに笑った!」
「笑ってないって。」
顔を真っ赤にして俺の手からニット帽を奪い返そうとする琢ちゃんをなだめ、ぎゅっと抱き寄せて動きを封じた。
琢ちゃんの髪の長さは五ミリくらいだろうか。
頬ずりすると、しょり、と何とも気持ちいい感触。
思わず何度も頬ずりして、掌でしょりしょりと撫で続けてしまう。
「顕ちゃん…」
琢ちゃんが呆れたように呟いたが、気にもせずその行為を続けた。
「いや〜、気持ちいいなあv クセになるな〜v
「笑ったくせに。」
「…だから笑ってないってば。あんまり可愛かったからさ〜v 頭の形もいいね、琢ちゃんはv
前髪をよけないと出来なかったおでこへのキスも、今は容易い。
ちゅ、とおでこにキスをして、またしょりしょりと髪に頬ずり。
………ホントにやめられない。
「離したくないなあ…マジで。」
「……あんま撫でると油つくと思うよ。…俺もキモチいいけど。」
呆れつつもすっかり俺に体を預けて、琢ちゃんは目を瞑った。
「…眠い?」
「…ん…。気持ち良くてまた眠くなってきた………。」
「皆揃うまで眠りなよ。まだ時間あるからさ。」
「うん……」


窓の外は、ぼたん雪が静かに静かに舞っている。
腕の中でとろとろまどろむ琢ちゃんを見つめながら、このまま皆来なければいいのにと思った。

END.

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はい、琢ボンズで御座います
琢ちゃんの短い髪をショリショリする顕ちゃんが見たいな〜なんて
メールでおねだりしたら、翠さんがばきーーーっと書いて下さいました!
ちょっぴり淋しくて甘えんぼさんになってしまった琢ちゃんが、猫のようでとびきり可愛いすね〜
いつも以上にホッとする雰囲気の優しいお話、
皆様にも楽しんで頂ければ幸いです。。。




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