You're The Gift of Love




 「ね、それじゃ、してみたい事があるんだけど。」
顕ちゃんの誕生日が近付いたある日。
プレゼントは何にしたらいいのか考えに考えたのに何も浮かばなくて、さり気なく探り入れたりしたんだけど……期待外れの言葉ばかりで、顕ちゃんが何欲しがってるのかさっぱり分からなかったから、業を煮やしてストレートに聞いてしまった。
それでも『何もいらないよ』とか、『気、使わなくていいよ』とか言う顕ちゃんにどうしても何かしてあげたくて。物じゃなくてもいいんだよって言ったら、暫く考え込んじゃって、その末に出た言葉がそれだった。
もともと物欲は薄い方だし、その言葉には納得出来た。
「何? してみたいことって。」
俺の言葉に、顕ちゃんは考え込むように空を見上げた。
「…ん――――…、琢ちゃん、まとまったオフってある?」
「え? えーと……」
聞かれて、手帳を取り出してパラパラとめくった。
「…あー―――…まとまったオフとは言いがたいけど…来週の金曜の夕方から…土、日も予定入ってないかな? 月曜日は昼のラジオに間に合えばいいし…」
「…んじゃ、そこ空けといて。僕に付き合ってくれる?」
「……? うん、いいけど…何すんの?」
俺の問い掛けに、顕ちゃんは悪戯っぽく笑って。
「まだヒミツ。…あ、そうだ、これ。」
顕ちゃんはジャケットの内ポケットをごそごそと探り、鍵を取り出した。
「僕の部屋のスペアキー。持っててよ。来週の金曜日さ、仕事終わったらメールして。」
「うん…いいの? これ。」
スペアキーを受け取りながら聞いた。付き合い長いし、…いわゆるコイビト同士になってからだって結構経つのに、スペアキー渡されるなんて初めてで。
「うん。僕の方が仕事終わるの遅いだろうし。何ならメールしなくても、真っ直ぐ僕んち行っててもいいし。」
「ん、分かった。」
嬉しそうな様子の顕ちゃんが何を考えているのか、その時の俺は知る由もなかった。


 約束の日。ラジオの中継を終え、局へもどって打ち合わせを済ませて時計を見ると、四時を廻ったところだった。
「…顕ちゃんはこれから本番かあ…メールしとこうかな。」
いくらスペアキーを渡されてるとはいえ、やはり無断で人んちに入るのは気が引けるので。一言断っておこうと携帯を取り出した。
「あ、メール来てる……」
顕ちゃんからだった。
『そろそろ終わった? 風呂とか自由に使ってていいから。』
……いつもの事ながら、簡潔なメール。
もう電源切っちゃってるかもしれないけど『これから向かいます』と、一応返事を送信した。


 顕ちゃんのアパートに着き、スペアキーで鍵を開けた。
……変な感じ。いつもなら顕ちゃんの後ろに続いて入るか、呼び鈴鳴らして開けて貰うかの、どっちかだったから。
部屋に入ると、相変わらず綺麗に片付いてて感心してしまう。ストーブのスイッチを入れ、上着を脱いで、ベッドが置いてある奥の部屋をそっと覗いた。別にチェックを入れるつもりとかじゃなくて、顕ちゃんのいない顕ちゃんの部屋が、ただ珍しくて。
掛け布団も毛布も、きちんとたたまれてる。でも流石にパジャマは脱いだまま、ぱさっと毛布の上に置きっぱなし。
ころんとベッドに寝転がって枕に顔を埋めると、ふわりと顕ちゃんの匂いがした。だからつい考えてしまった。今までここで何回身体を重ねただろう、なんて。
出会った頃は、まさかこんな関係になるなんて思いもしなかった。最初の印象は確かに、綺麗な人だなとは思ったけど……無口だったし、どっちかっていうと取っ付きにくい人だった。
仲良くなったきっかけといえば、演劇研究会の泊まりがけの宴会で寝る部屋が一緒になって、酔い潰れた顕ちゃんの面倒をちょっとだけみてあげたことだったろうか。面倒みたっていっても俺もかなり酔っていたから、せいぜい水を持ってきてあげたり、布団かけてあげたりって事くらいしかしてない筈なんだけど……その辺の記憶は自分でも定かでない。けど、その日以来顕ちゃんは俺に好意的になり、何かと構ってくるようになった。
当時、安田先輩といえばリーダーと並んで物凄く華があったから、優しくされて悪い気もしなかったし、ひっつかれても嫌悪感も無かった。あるがままを受け入れるとか、そんな大袈裟なもんじゃないけど……ただ顕ちゃんのしたいようにさせてて、俺はそれで良かっただけで。
結果的に顕ちゃんの行動がどんどんエスカレートしていって、冗談でキスされるのも『好き』とか『愛してる』の言葉にも慣れっこになって……本気で告白されても、何の違和感も無くなってた。
……流石に最初のうちは、セックスは抵抗あったけど。でも、それも今では…。そりゃあ恥ずかしいのはいつものことだけど、身体は正直なもので。
顕ちゃんに抱かれるのは、嫌いじゃない。…と、思う。


 「……くちゃん、琢ちゃん。」
名前を呼ぶ顕ちゃんの声で、ぱち、と目を開けた。いつの間にか眠っていたらしい。
「寝るなら毛布くらい掛けないと。風邪引くよ。」
ベッドに腰掛け俺の髪をそっと梳いて、顕ちゃんが微笑んだ。
「今何時……?」
「もうすぐ八時。ごめんね遅くなって。腹減ったでしょ?」
「んーん…俺もごめん…晩飯くらい用意しとこうと思っていたのに…」
「いいって。スープカレーテイクアウトしてきたから。冷めないうちに食べよう?」
カレーと聞いて、急に腹の虫が騒ぎ出してしまった。
「え、ほんと? 嬉しいなー 何処の?」
「この前見た雑誌に載ってた、中央区のプルプルって店。食べてみたいって言ってたでしょ?」
「…え……」
もう二週間以上も前の話だ。顕ちゃんと仕事で一緒になったとき、撮影の待ち時間に北海道ウォーカーを見てて、……一番人気が『ナットひき肉ベジタブルカレー』だって載ってて、どんな味か試してみたいなって俺が言ったんだ。
そんな前に言った、俺の何気ない言葉を覚えててくれたのが意外でびっくりしたのと、嬉しいのとでつい黙ってしまった。
「…あれっ、違ったっけ? 他の店だった?」
「あっ…ううん、そこ。覚えててくれたんだね、すげえ嬉しい……」
「良かった。」
顕ちゃんは安心したように、にっこり笑った。……これじゃ、どっちの誕生日を祝う為なんだか分かんないじゃないか。
「ほら、早くおいでよ。」
顕ちゃんに促され、リビングへ行った。ほかほかと湯気を上げている器の中身は、一見スタンダードなスープカレー。人参とじゃがいもと、オクラがころころと入っている。スープにはひき肉とひきわり納豆と…ナメタケまでもが入っていると聞いて、最初の一口は躊躇してしまった。が、食べてみるとなんとも微妙に絡み合ってて、クセになる。
「すっげー美味い! 思ったより辛くないんだね。」
「ああ、辛さは百段階あったんだけど、よく分からないから甘口でって頼んだんだ。」
「百も? んでこれは何段階目?」
「……聞くの忘れた……」
そういう抜けたトコが、顕ちゃんなんだよね。思わず苦笑してしまった。
「他にはどんなメニューがあったの?」
「チキンベジタブルとか、きのこチーズとか……十種類くらいあったかな。」
「今度はさ、店で食べて見ようよ。俺、奢るから。」
「うん。」
 
 食事を終えると、いつものように酒を飲みながらテレビ観て、ダラダラ。お互いの仕事の話、思い出話やこれからの舞台の事、くだらないバカ話……日によって色々だけど、楽しい時間。
認めてしまうのはちょっと悔しいけど、話しているときにふと見せる表情とか仕草に、ドキッとさせられる事もある。先輩と後輩として出会って、ホモかって周りから突っ込まれるくらい仲良くなって、それが洒落じゃすまない関係になって………付き合いは本当に長くて、どんな表情も仕草も見てきた筈なのに……未だにドキドキするのは、やっぱり“好き”の意味が、ただの友達だったときのそれとは異なってきているからなんだろう。
そんなことをボーッと考えていて、そう言えば今回の顕ちゃんの『してみたいこと』が何なのか、未だに知らされていなかった事に気付いた。
「ねえ、顕ちゃん。してみたいことって何?」
何でか、顕ちゃんはむせてしまった。
「顕ちゃん?」
顕ちゃんは口許を拭い、言い出しづらそうにしてる。
「…えっと……大雑把に言うと、琢ちゃんを独り占めにしたかったってことなんだけど…」
今更の言葉に、きょとんとしてしまった。
「それはだって、いつもの事でしょ? 具体的に言うとどうなのよ。」
顕ちゃんの顔が、若干赤いような気がする。
「…あー…、その…。…まあいいか。琢ちゃんは僕の頼み、断ったこと無いもんね。」
…何だろう。つまり、聞いたら断りたくなるような事なんだろうか。でも、顕ちゃんに無理なお願いなんてされたこと無いし…せいぜい仕事でキツイ企画に付き合わされる位で、プライベートでは覚えが無い。
不安より好奇心が勝って、俺はわくわくと突っ込んでしまった。
「だから何? 言ってみてってば。」
「…その……してみたいプレイがあるんだけど。」
……顕ちゃんの言葉の意味を咄嗟に理解できず、またしてもきょとんとしてしまった。
「………プレイって何の?」
「…だから、その……えっちの。」
しどろもどろな顕ちゃんの顔は、もう真っ赤で。ようやく理解した俺も、頭にカーッと血が昇るのが分かる。
ああ…きっと俺も真っ赤なんだ。
「そんなん、わざわざ断ることじゃないだろ?!」
「だって、聞いたのは琢ちゃんだろ?!」
そりゃ、確かにそうだけどさ……。恥ずかしくて二の句が継げないでいる俺に、顕ちゃんは溜息混じりに続けて言った。
「…まあ、いっか…。…事に至ったらさり気なくやっちゃおうかなーなんて思ってたけど…琢ちゃんも生理的に受け付けないことあるだろうし、丁度いいや。絶対されたくないことって何かある? 教えてよ。絶対しないから。」
「え? えーと……」
面と向かってされたくないことって急に聞かれても……顕ちゃんはいつも優しかったし、体位だって変わったのはしたことないし、……キモチ良かったし……。何も思い浮かばない。
そして考えに考えた末、俺の口から出た言葉といえば。
「…ハ…ハメ撮りとかコスプレとかはあんまり……」
顕ちゃんがまたむせてしまった。さっきよりも酷く咳き込んでる。
「だっ…大丈夫だよ。どっちも僕の趣味じゃない。」
咳き込みすぎて、涙目になってる。俺、そんなに変なこと言っちゃったかなあ……。
顕ちゃんは、俺のそんな戸惑いに気付いたのか、苦笑して。
「ごめんね。いきなり聞いたって答えられないよね、そんなの。そろそろ風呂入ろっか。」


 顕ちゃんの言葉に甘えて、先に風呂に入らせて貰った。
さっきの顕ちゃんの言葉を思い出してみる。
『されたくないことって、何かある?』
……だってさ……ホントに思い浮かばないんだよ。多少強引なときもあったけど、本当にいつも優しかったから。
湯船に浸かって、ぼんやりと今までの顕ちゃんとの行為を思い返す。本当に嫌な、プライド傷付けられるようなことって……やっぱりされたことない。
「…やば……のぼせちまう…」
熱いお湯に浸かってそんなこと考えてれば、当たり前な訳で。勢い良く立ち上がって、湯船から出た。タオルにボディーソープを泡立てて、がしがしと急いで身体を洗う。早く出ないとほんとにのぼせちゃいそうで。
――――――と、不意にドアをノックする音。
「琢ちゃん、入っていい?」
「えっ?! ま、待ってよ! すぐ上がるから!」
自分が考えてたことがことだけに、ドッキリしてしまった。一緒に入ったことはあるけど、銭湯とか温泉とかで他の友達も一緒だったり周りに人がいたから。
二人きりでなんて経験はまだ無かった。
「冷たいなー、琢ちゃん…」
あからさまにがっかりしたような、顕ちゃんの声。そんな声聞くと、言うこと聞いてあげたくなってしまう。こんなだから皆によく言われるんだ。
『お前は安田を甘やかしすぎだ』って………。
「ほんとにダメー?」
駄々をこねるような声に、もういいやって気になってしまう。さっさと先に上がっちゃえばいい訳だし。
「…いいよ、入って。」
「ほんと? じゃあ入るよー。」
うって変わって嬉しそうな声。
ガチャリとドアが開き、顕ちゃんが顔を出した。
「あ、丁度良かった。背中流して上げるよ。」
「えっ…いいよそんな…」
「いいから。ほら、タオル貸して。」
俺の手からタオルを取って、背中をこしこしと洗い出した。
「何年振りだろうね、背中流すの。学生の頃はよく流しっこしたよね、銭湯行って。」
「…うん……」
学生時代、顕ちゃんが住んでたアパートには風呂が無かったから……顕ちゃんちに泊まり掛けで遊びに来たりすると、よく一緒に銭湯行ったっけ。
「これも、したかったことの一つとか?」
顕ちゃんがあんまり嬉しそうだったから。俺の言葉に顕ちゃんの動きが止まり、持っていたタオルを桶の中に放り込んだ。
「顕ちゃん……?」
顔が見えない分、無言の顕ちゃんがなんだか怖くて。
顕ちゃんは、そのまま後ろから俺をぎゅっと抱き締めた。顔を上げてはっとする。目の前の鏡に映る顕ちゃんの顔が、ぞくっとする位真剣で。
「…そうだけどね、僕が考えていたのは…もっとずっとやらしいことだよ…」
「…えっ……」
顕ちゃんの手がするりと股間に滑り込んできた。その手が俺のものを包み込み、そっと扱いた。
「……っ…何…!!」
まさか、こんなとこでする気なんだろうか。
後ろから左腕でがっちりと抱えられ、身体を捩っても石鹸で滑るだけで、顕ちゃんの手を引き剥がそうと試みても力が入らなかった。
「…ゃ…あっ……!」
顕ちゃんが、扱く手の速度を早めた。身体がびくりと反応してしまう。石鹸のぬるっとした感触に、余計に快感を煽られる。
「顕ちゃ……駄目…だって……っ…」
「…琢ちゃん…可愛い…。見てごらんよ、鏡……」
自分の顔がかあっと赤くなるのが分かる。鏡の大きさからいって、せいぜい頭から胸元までしか映っていない筈だけど、顕ちゃんに弄られて感じてる顔は、鏡越しにしっかり見られてた。
さっきからずっとそうやって楽しんでたんだ。
「や…離してっ……」
「やめちゃっていいの……? こんなになっちゃってるのに…。それとも自分でする…? 僕の見てる前で……」
限界が近付いてるのは分かってる。でも、顕ちゃんの思うままにイかされるのは悔しくて。
かといって顕ちゃんの見てる前で、自分でするなんて絶対出来ない。
「意地…悪っ……」
耳元でくすっと笑う声。どうせまた、可愛いなんて思ってるんだ。俺だって情けないよ……精一杯頑張ろうとして、出た言葉がこれだもの。
「ね、口でされるのとどっちが気持ちいい…? 言ってみて……」
「馬鹿…っ……そんなのっ……あ、あ……!」
言えないし、分からないよ。
「…意地張ってないで……イっちゃいなよ…」
「…ひぁっ……!」
俺自身を扱き続ける顕ちゃんの手が、更に強い刺激を与え―――――意地悪く耳に舌を這わせ甘噛みされて、悲鳴じみた声を上げてしまった。
「ぃゃ……っ……、ぁぁっ…――――!!」
白濁する意識。顕ちゃんの手の中に欲望を吐き出し、俺は顕ちゃんの胸にぐったりと身体を預けた。支えが無いと椅子にも座ってられなくて、顕ちゃんは俺の身体を持ち上げて椅子をどけ、直に床に座らせて壁にもたれかけさせた。
息を整えながら、きつく閉じていた目を開いた。顕ちゃんが愛しそうに見つめてる。
「大丈夫…?」
聞かれて、こくっと頷いた。顕ちゃんは安心したように微笑んで、そっと唇を重ねてきた。
脱力したままの身体を、また優しく洗い始める。
「……洗い方がやらしい……」
別にそんなことは無かったけど、何か悔しくてわざと悪態ついてみた。
「そういうコト言うと、ほんとにいやらしい洗い方しちゃうよ? いいの?」
そう言った顕ちゃんは悪戯っぽい表情で。
……やりかねない……と感じて、口を噤んだ。


 結局顕ちゃんに全身洗われて、俺は先に上がらせてもらった。のぼせたのか、それとも顕ちゃんにあんなことされちゃったせいなのか、頭がぼうっとする。
パジャマを着るのも面倒で、腰にバスタオルを巻いたままベッドにばふっと横になった。
何だかんだ言っても……どんなに恥ずかしいことされても受け入れられちゃうのは、好きだからなんだろうな……。
男と女とどっちが好きかって聞かれたら、女って即答出来る。男なんて恋愛対象には絶対ならないし、身体を許すなんて考えたことも無い。…わざわざ男の俺を抱きたいなんて物好きは、いないだろうけど……仮にいたとしても、もし押し倒されでもしたら、そいつのこと半殺しにしてしまいそうな気がする……。
そうまで思うのに、顕ちゃんだけはいつでも特別だった。
「琢ちゃん? またそんなカッコのままで…風邪引くよ?」
いつの間にか風呂から上がっていた顕ちゃんが、腰にバスタオルを巻いたままの格好で何も掛けずにベッドに寝そべっていた俺に、呆れ声で言った。
「んー…暑かったから……頭ボーッとしてるし…」
「のぼせちゃったかな? タオルケットくらい掛けなきゃダメだよ。」
言いながらタオルケットを掛けてくれ、ベッドの端に腰掛けた。
顕ちゃんも俺と同じく腰にタオル巻いてて、肩から下げたタオルで髪を拭いてる。その後ろ姿をぼんやり見つめながら、なんで顕ちゃんなんだろう……なんて、今更な事を考える。
俺の視線に気付いたのか、顕ちゃんが振り向いた。
「どうかした?」
「…ううん。顕ちゃん、肌白くなったよね。背中、綺麗だなって思って……」
数ヶ月前、出演番組の企画絡みで二人して日焼けサロンに行って黒く焼いて、皆にえらく笑われてたのが嘘みたいだ。あれからジムにも通ってないけど、相変わらず均整のとれた体つきで。
「琢ちゃんだってすっかり戻ったじゃない。焼けてんのも好きだったけど、白い方が可愛いよ。」
「…また始まった……」
いつもいつも、何かにつけてこうやって言うんだ。可愛い、可愛いって。
顕ちゃんはくすっと笑って、俺の上に覆い被さってきた。
「仕方ないでしょ? ほんとにそう思うもの。」
優しく笑って、ちゅっと唇にキス。
「ほら、やっぱり冷えてるじゃない…」
俺を抱き締めた顕ちゃんの腕は、とってもあったかくて。気持ち良くて、顕ちゃんの胸に甘えるように顔を埋めた。
「…だって、どうせこれから暑くなることするんでしょ…?」
「…うん……琢ちゃんがすごく欲しい……」
顕ちゃんはそう言うと、俺に掛けたタオルケットをそっと剥がした。掌が俺の首筋から肩を巡り、脇腹を撫で下ろした。
「………っ……ん……」
きつく抱き締められ、貪るようなキスを繰り返した。顕ちゃんの唇が、舌が、肌を吸い上げ舐め廻していく。
胸の突起を捉えられ甘噛みを繰り返されて、身を捩った。
「やっ……ん……っ……」
顕ちゃんはシーツを握り締めていた俺の両手を取り、指を絡めて押さえつけた。
「…や……っ……」
シーツを握って耐えていたのに、押さえつけられてどうしようもなくなる。もう何度も聞かれちゃってるけど、甘ったれた声聞かれるのはやっぱり恥ずかしくて………必死で声を噛み殺した。
顕ちゃんはそこを舌で嬲り続けながら、右手でさっとバスタオルを解き、俺自身をそっと握った。さっきの感覚が蘇り、俺は思わずびくっと身体を強張らせてしまった。
たやすく快感に流されてく自分自身がちょっとだけ情けなくて、悔しい。好きって気持ちにもキリが無くて、どんどん顕ちゃんに惹かれて膨らんでいって……幸せだけど苦しくて、このままいったら自分がどうなっちゃうのか………考えると怖くなる。
「琢ちゃん……」
俺の胸中に気付いているのか、顕ちゃんは俺をぎゅっと抱き締めた。
「…絶対離さない……だから…安心して僕を好きになって? …頼むから…」
――――――普段は鈍いくせに。何でか、こんなときいつも俺の欲しい言葉を言ってくれちゃうんだよね、顕ちゃんは。
嬉しさと切なさが混じり合って、顕ちゃんの背中に腕を廻して、きゅっと抱き締め返した。息が苦しくなるほど深く唇を貪り合い、顕ちゃんはまた愛撫を繰り返した。
自身を握り込まれ揉みしだかれて、呼吸が激しく乱れていく。両膝を立てさせられ、顕ちゃんが両脚の間に割って入った。
太股の内側に顕ちゃんの息遣いを感じて、背筋がぞくっと粟立つ。
「……っ…や…!!」
生暖かい感触に、口に含まれたんだと気付かされ羞恥に震えた。きつくシーツを握って、漏れそうになる声を耐えていて、さっきの風呂場での行為が頭を過ぎった。
『口でされるのと、どっちが気持ちいい?』
………やっぱり分からないよ……恥ずかしいのは、間違いなくこっちだけど。
「…あ……っ…、」
大きく脚を開かされて、膝裏を持ち上げられた。俺自身を愛撫していた舌先が、その下、俺の最奥を舐め上げた。
「…………!」
顕ちゃんの指がじわじわと中へ入り込んでくるのが分かる。舌先で唾液を流し込みながら、顕ちゃんはゆっくりと指を動かし内壁を擦った。
「やあっ……んっ……」
「…気持ちいい……? 琢ちゃん……」
俺に聞くまでもなく、顕ちゃんは知り尽くしてる筈だった。どこをどうすれば俺が泣くほど感じるかとか、どんな声を上げるかとか。
指が出し入れされる度、そこがくちゅくちゅと淫猥な音を立てた。その音に、更に欲望と羞恥を煽り立てられる。全身にじわりと汗が滲んで、頭の中が霞み始める。
「顕ちゃ…っ…も、や………。指じゃ…やだ……」
自分が狂ってるって思う瞬間。正気じゃとても言えない、恥ずかしい言葉。
「琢ちゃん……」
顕ちゃんの指が、ずる……とそこから引き抜かれた。俺の脚を抱え直し、顕ちゃんがゆっくりと入ってきた。
「…っ………ぁ……」
「…息、吐いて……ゆっくり……」
強烈な圧迫感に思わず息を詰めた俺に、顕ちゃんは息を吐いて力を抜くように促した。ゆっくりと息を吐き出して、全身から力を抜いた。
そっと閉じていた目を開くと、俺の中に全て収めきったらしい顕ちゃんが、ほっと息をつく。顕ちゃんの肩に腕を廻し、互いの唇を貪り合った。
「んぁっ……」
顕ちゃんがゆっくりと動き始めた。
うっすらと汗を滲ませた顕ちゃんの顔が、いつにも増して綺麗に見える。
甘い疼きに支配されて、白濁していく意識。顕ちゃんに与えられる快感と温もりだけが全てになっていく。
「あ、あんっ……ゃ…あ…」
激しく突き上げられて耐えきれずに漏らしてしまった声は、自分でも信じられないくらい甘い。
「…好きだよ……琢ちゃん……」
洗い吐息混じりに耳元で囁かれただけで、イきそうになる。
顕ちゃんの背中に縋り付き、必死にそれを耐えた。
「あ、あっ…! や……!!」
顕ちゃんの手が俺自身に触れた。ギリギリまで張り詰めている筈のそこを揉みしだかれて身体ががくがくと震えた。
「いゃっ……ああ……!!」
「我慢しないで……イっちゃいなよ……」
「ひっ…ああっ…―――――!!」
抉るように突き上げられて、例えようのない快感が全身を駆け抜けていき―――――白濁した意識はそのまま、霞んで溶けていった…………。


 目を覚ますと、もう外は明るくなっていた。
夕べあのまま眠ってしまったらしい。ふと隣を見ると顕ちゃんの姿が無い。ベッド脇に置いてある時計の針は、まだ八時前を指している。
「顕ちゃん……?」
目を擦りつつ起き上がり、顕ちゃんが貸してくれたパジャマをはおった。ベッドの端に腰掛けて、立とうとして足元がふらつく。
「ああ……またかよ……」
顕ちゃんとした後、いつもって訳ではないけれども……腰が立たなくなるとか、上手く歩けないなんてことが、たまにあって。そんなヤワなつもりじゃなかっただけに、最初の頃はえらいショックだった。
………今でも、ちょっぴり悔しくなる。
溜息をついて、よいしょと立ち上がり、ドアを開けた。リビングにも、顕ちゃんの姿は無い。風呂にもトイレにも入ってる気配は無し。
「…どこ行っちゃっんだろ……」
急に仕事が入るなんて事は無い筈だし。
……あれ? そういえば、俺の服と荷物が見当たらないような……。
もう一度ベッドまわりを見て、リビングもきょろ、と見回したが、やっぱり無い。
おかしいなー、なんて思ってたら、玄関のドアが開く音がした。
「あれ? もう起きた?」
紙袋とコンビニの袋を持った顕ちゃんが、少し驚いた様子で言った。
「目が覚めたらいなかったから、どうしたのかと思って…。買い物行ってたんだ?」
「うん。美味いって評判のパン屋が近所にあるって、話には聞いてたんだけどさー、開店が早い上に売り切れたら閉店なんだよ。折角琢ちゃん来てるし、一緒に食べようと思ってさ。」
「それでわざわざ早起きしたの? 折角のオフなんだから、ゆっくり寝てればいいじゃん。」
普段俺よりずっとハードスケジュールのくせに。
「んー、こういうことでもなきゃ食べれないでしょ? …コーヒーでいい?」
「うん。」
朝食は顕ちゃんに任せ、顔を洗おうと風呂場の脇にある洗面台に向かった。なんの気無しに鏡を見て、首筋や胸元に幾つかの赤黒い跡を見つけてしまった。しかも鏡ってだけで、風呂場での顕ちゃんの言葉を思い出しちゃって……。
『…琢ちゃん…可愛い…。見てごらんよ、鏡……』
言われて、薄目を開けて見てしまった自分の顔。全然嫌がってなんかない、締まりのない淫らな顔だった。
……頭に血が昇ってくる。ふるふると頭を振り、勢い良く水を出して顔を洗った。
 テーブルの上にはサンドイッチと菓子パンが数種類に、コンビニサラダ。コーヒーが湯気を立ててる。
「琢ちゃん、ミルクと砂糖いる? …………どうしたの?」
あわわ。また顔が赤くなっているんだろうか……ちゃんと鏡でチェックしたのに。
「何が? あ、ミルクだけちょうだい。」
動揺してんのがバレないように、なるべく普通にしてたつもりだったんだけど……冷蔵庫から牛乳パックを取り出して俺に手渡した顕ちゃんの顔は、にやけてるように見えた。
それに気付かないフリで、コーヒーの入ったカップにとぷっとミルクを注いだ。一口含んで顔を上げると、顕ちゃんはいつもの顔でサンドイッチにかぶりついてた。
にやけてるように見えたのは気のせいかな? と思いつつ、俺もサンドイッチにかぶりついた。
「あ、美味いねー。」
「ね。早起きしたかいあったよ。」
昨日から餌付けされっぱなしだなーなんて思いつつ、美味しいもので幸せになれてしまう単純な俺。
「ここってマヨネーズとかジャムも手作りなんだって。………琢ちゃん。」
呼ばれて、パンを頬張ってもごもごしたまま顔を上げた。顕ちゃんの顔が近付いてきて、口の端をぺろっと舐められた。
「なっ…何……」
いきなりのことに、訳も分からずうろたえてしまう。
「いや…タマゴついてたから…」
「口で言えばいいだろー?!」
当然のことをしたまでとばかりの顕ちゃんは、きょとんとしてる。
恥ずかしくて無言でパンを頬張り続けていると、顕ちゃんがぷっと吹き出した。
「変わんないよね、琢ちゃんは。未だにこんなこと恥ずかしいんだ。今まで何回もえっちしてきたのに。」
「…だってっ、それとこれとは……。えっちモードに入ってんならともかく、今はさあ……」
普通に朝飯食ってるんだから、驚くのが普通じゃないのか? 
残りのコーヒーを飲み干して、口許を拭った。
「琢ちゃんのことだから、どうせさっきも昨日の夜のこと思い出しでもして赤くなってたんでしょ? …スイッチ入れてあげようか? どうせ明後日の朝まで、時間はたっぷりあるんだし。」
「…えっ……」
やっぱり、にやけているように見えたのは気のせいじゃなかったんだ。
腕を掴まれてぐいっと引っ張られ、顕ちゃんの胸に倒れ込んだ俺の唇を、思う様貪られた。俺を抱き締める手が、パジャマの下の素肌をまさぐってる。
「ん…っ、ふうっ……」
舌を絡められ吸い上げられて、頭がぼうっとしてきた。
「やだっ…待っ……」
絨毯に押し倒されて首筋に押し当てられた唇に、ぞくっと身を竦ませた。
「…ここじゃ…やだ……」
俺の言葉に、顕ちゃんが微笑む。
「スイッチ入れるの簡単だね…琢ちゃんは。」
「また馬鹿にしてっ…。…顕ちゃんじゃなかったら、……こんな風にはなんないんだからね?」
墓穴を掘るつもりは無かったけど、つい言ってしまった。
また顕ちゃんに笑われる……と思ったのに。
顕ちゃんはすごく真面目な顔で、俺を見つめ返した。
「僕以外の奴に簡単にスイッチ入れられたら、困る…」
もう一度キスされて、そっと抱き起こされた。
「ベッド行こう? 琢ちゃん……」
たやすく流されることに嫌悪感を感じながらも、されることを望んでいる自分もいて。
顕ちゃんに促されるまま寝室へ行った。ベッドに横たえられ、上に覆い被さる顕ちゃんを見上げた。
優しく俺を見つめるその目に、一体俺はどんな風に映っているんだろう……。
「どうかした?」
「…うん、みっともなくないのかなーって思って……」
「何が?」
顕ちゃんがきょとんとする。
「…されてるときの…顔……」
「…そんなこと気にしてた? いつも言ってるでしょ? 可愛いって。」
…また出た……。聞き飽きたってば。
「またそんな顔して…言っても信じないのは琢ちゃんの勝手だけどさあ。」
思ったまんま顔に出してしまったらしい俺に、呆れたように言った後、耳元で囁いた。
「…昨日言った、試してみたいプレイ…してみてもいい?」
どんなことをしたいのかって内容は、まだ聞いていなかったけど……きっと何されても、拒むことは出来ない。第一、馬鹿正直にそんな事を聞いてくるあたりが、もう憎めないもの。
正直、ちょっと不安っていうか…ドキドキはしてるけど。
「……痛くないならいいよ。」
「しないよ、乱暴なことなんか。」
顕ちゃんはごそごそとクローゼットを探り、バンダナを数枚取り出した。
「? …どうすんの? それ。」
俺の問いに顕ちゃんは悪戯っぽく笑って、耳元に唇を寄せてきた。
「………………」
小さく囁かれて耳を疑った。ありがちと言えばありがちだけど、全く頭に無かったから“されたら嫌なこと”を聞かれたときも全然出て来なかったんだ。
「えっ?! 嘘っ…マジで?!」
「両手だけ、ね。」
顕ちゃんは俺の両手を取り、胸の前で両手首をバンダナで一つに縛った。それで終わりかと思ってたら、そのまま頭上に持って行かれて……もう一枚のバンダナでベッドのパイプに縛り付けられてしまった。
顕ちゃんのベッドは、通販カタログなんかによく載っているシンプルなパイプベッドで。ヘッドの部分が板じゃなく、パイプになってる。普通の板だったら縛り付ける場所なんか無かった筈なんだけど……。
「…顕ちゃん、あのっ………」
さすがに戸惑って、顕ちゃんを見た。
「痛い?」
「い…痛くはないけど……ほんとにこのまますんの?」
「うん。」
顕ちゃんは平然とした顔つきで答えた。
俺の上に覆い被さり、パジャマのボタンを外していく。
露わになった肌を、顕ちゃんは指先でなぞった。
「んっ………」
「…琢ちゃんいつも顔とか口とか、手で隠したがるでしょ。だから意地悪してみたくなっちゃって。」
「……悪趣味……っあ、ああんっ…」
胸の突起を嬲られて、思わず声を漏らしてしまった。いつもなら、シーツを握るとか口許を覆うとかして耐えるのに、それが出来ない。拘束されるってことがどういうことか、俺は全然解っていなかった。
顕ちゃんの手が脇腹を撫で下ろしていき、そのままパジャマのズボンが引き下ろされた。途端に恥ずかしくなって、顔を逸らし唇を噛み締めた。
膝を立てさせられ、脚を開かされる。その先の行為を予想して身体を竦ませたが、それに反して顕ちゃんは太股の内側に、触れるか触れないかのキスを繰り返した。
「…ぁ………」
焦らすような愛撫に、じわりと身体が疼き始める。息が乱れ、自身が熱を帯びてくるのがはっきりと分かる。
「や…っ……!」
顕ちゃんがその先端を舐め上げた。続けて、ねっとりとした感触に包まれる。
口に含まれて舌先で刺激され、強烈な快感に襲われた。
「はんっ…あ、ああっ……や……」
手を握り締めて堪えようとしても、吐息混じりに声が漏れてしまう。
身体が自由にならないせいで、余計感覚が鋭敏になっているような気がする。
「…ゃ……あ、っ……」
息が激しく乱れていく。
顕ちゃんがそこから顔を離し、膝裏を持ち上げて身体を折り曲げさせられた。いつも顕ちゃんを受け入れているそこを舌先で解すように愛撫されて、背筋がぞくりとする。
「ひあぁっ……! や、ああっ!!」
指を差し入れたられた上、また自身を口に含まれて、悲鳴じみた声を上げてしまった。
「やああっ……!! や、いや、顕ちゃんっ…!」
埋め込まれた指が、内側からじわりと刺激を与えてくる。それだけでも充分なのに、自身までも嬲られて気が狂いそうになる。
身体ががくがくと震え、縛り付けられているベッドのパイプが、ぎし…と軋んだ。
「やだぁ……も、やだ……ヘンになるっ……」
「…すっごく可愛い…琢ちゃん…。イっちゃっていいよ……」
顕ちゃんはそう言うと、先端をきつく吸い上げた。
「ひっ…――――――――!!」
はじけ飛ぶ意識。顕ちゃんの口の中に欲望を吐き出して、自分が涙を流していたことに気付いた。
視界がちょっぴり滲んでる。口許を拭った顕ちゃんが、涙をそっと舐め取った。
顕ちゃんは凄く愛しそうに俺を見つめてた。息を整えながら、顕ちゃんの目を見つめ返す。自由にならない腕がもどかしかった。
顕ちゃんの思うままに翻弄されるのは、確かに悔しい。でも、好きだから。やっぱり好きだから、戸惑いながらも受け入れてしまう。今、顕ちゃんに触れたいと思うのに、縛られたままの手がそれを許さない。
「…顕ちゃん…、解いて……」
顕ちゃんは無言でバンダナを解いた。解放されて、顔の前で手のひらをグー・パーしてみる。両手首はうっすらと赤くなってる。
「ごめん…痛い? やっぱり嫌だった?」
顕ちゃんの問いに、ふるふると顔を横に振った。全然痛くなんかない。
「違う…。顕ちゃんに触りたいのに触れないのが嫌なだけ……」
手を伸ばして、顕ちゃんの背中に廻した。顕ちゃんの胸に甘えるように、ぐりぐりと頭を擦り付けた。
「…琢ちゃん……そのっ……あんまり可愛いことされちゃうと、僕……キリが無くなりそうで怖いんだけど……」
顔赤いよ、顕ちゃん……。さっきまで俺にあんな事してたくせにさ……。
「…キリなんか無くていい…。また縛ってもいいよ……?」
「しないよ、もうそんなこと。ごめんね…」
前をはだけられたままだったパジャマを脱がされ、そっと唇が重ねられた。
「好きだよ琢ちゃん……。感じてる声も顔も、全部……」
顕ちゃんは耳元で囁いて、首筋に口付けた。
顕ちゃんの手が身体をまさぐっていく。また、身体の奥から熱が呼び覚まされる。与えられる快感に、うっとりと目を閉じた。
乱れていく呼吸が頭の中に響く。両脚の間を割り、顕ちゃんがゆっくりと入ってくる。
最初の圧迫感にはなかなか慣れることが出来なくて、どうしても息を詰めてしまう。
「痛くない……? 琢ちゃん…」
「…ん………」
小さく頷いた俺に安心したように微笑んで、顕ちゃんが動き出す。突き上げられる内壁を擦られる感覚に肌が粟立ち、顕ちゃんの背中に縋り付いた。
「…っあ……!」
顕ちゃんの手が張り詰めている俺自身を包み込んだ。
「顕…ちゃ……や、…ゃだっ……」
身体を振って抵抗してみても、繋がってんだから無駄なのは分かってるけど。
「…昨日…からっ……俺ばっか……イかせてっ……」
「…ばっかりじゃないでしょ? それに…僕、琢ちゃんの中でイくのと同じくらい、琢ちゃんのイく時の顔……好きだよ…」
恥ずかしいことをずけずけ言ってのけて。ちゅっ、と口付けてくる。
「琢ちゃんの中……最高に気持ちいい……」
顕ちゃんはそう言うと、動きを早め始めた。突然背筋をぞくりと快感が駆け抜け、びくんと身体が跳ね上がる。
その反応のせいか、顕ちゃんはそこを執拗に攻め続けた。
「あ、あっ……や、ダメ…っ……」
口で何て言っても、内壁は顕ちゃん自身に貪欲に絡み付き、締め付けてた。快感を貪ること以外、もう何も考えられない。顕ちゃんの背中に縋り付いていた手は、爪を立てていた。
顕ちゃんの呼吸も激しさを増していく。
「…い…くっ…顕ちゃ…っ……!!」
「…っ……琢ちゃん……!!」
――――――――二人、ほぼ同時に頂点を迎えて――――――――俺は意識を失った。


 「………朝っぱらからすることじゃないよなあ……」
ベッドに突っ伏して、溜息混じりに呟いた。
顕ちゃんは肘をついて上体を起こし、空いている方の手で俺の髪を撫でながら言った。
「そうだけどさ……。っ、顕ちゃんっ!」
不意に背中に悪戯っぽくキスをされて驚いた。
「背中も感じやすいんだ? 今度試しちゃおうかなー
顕ちゃんがにやりと笑う。俺は思わずがばっと起き上がった。
「…ばっ……何言ってんの?!」
「ま、今夜と明日もあるしね しようと思えば。」
本気なのか、からかってるだけなのか。顕ちゃんはニコニコ笑ってる。
―――――そういえば。ここへ来たのはそもそも、顕ちゃんの誕生日のプレゼント代わりだった訳で………してみたいプレイってのは縛りだったり、風呂場でのアレだったんだよなあ……? 明後日の朝まで時間はあるんだから、………まだ何かあるんだろうか。
「琢ちゃん?」
黙ってしまった俺に、顕ちゃんが首を傾げる。
「あっ…ううん。なんでも……」
返事をして、もう一つ忘れてしまっていたことを思い出した。
「んね、顕ちゃん。俺の服と荷物どこ? 見当たらないみたいなんだけど。」
俺の問いに顕ちゃんは視線を逸らし、頭をぼり、と掻いた。
「顕ちゃん?」
「……隠してある。」
「…は?」
何を言っているのか分からなくて聞き返した。顕ちゃんは目を合わせようとしない。
「言ったまんまだよ。…隠したんだ。携帯も電源オフにしたし。」
訳が分からない。隠したらどうだっていうんだ?
「な、…何で?」
「……僕がしたかったのはね、日数限定の……監禁。でも、さすがに琢ちゃんを縛りっぱなしなんて出来なかったから。………だからこれは、軟禁だね。」
……何だろう。聞いても訳が分からない。俺、今きっとアホ面してる筈だ……。
顕ちゃんはそんな俺に気付いたのか、ぷっと吹き出した。
「だからね、閉じ込めたかったんだ。誰の目にも触れさせないで、僕だけのものにしたいって。…このオフの間だけ。だから隠したんだ。何処にも行けないように、服も財布も携帯も鍵も。………分かった?」
……言ってることは分かったけど……必然性が無いというか、……俺は、シャクだけど顕ちゃんのものっていうか……大体、逃げようなんて思わないし。
「だって俺…何処へも行かないよ? 今回のオフはプレゼント代わりに付き合うって約束したでしょ?」
俺の言葉に、顕ちゃんが微笑む。
「うん。分かってる。でも考えてみてよ。もし大事な電話とかメールが? どんなに大事な用が出来ても、僕は琢ちゃんを外に出さないよ?」
「だってそんなん……滅多にないもん。ウチに電話来たって、そんときの気分で出ないこともあるし……むしろ、顕ちゃんとの時間……」
そこまで言いかけてハッとした。顕ちゃんを付け上がらせてしまうであろう発言をしそうになったからだ。
「…むしろ……何…?」
やっぱりの突っ込みが来た。でもまあ、一年に一回のプレゼント代わりなんだし、サービスしちゃってもいいかな、なんて思って言ってしまった。
「…むしろ、顕ちゃんとの時間、邪魔されたくないかなって……」
さすがに目を合わすことが出来なくて。逸らした目の端には、顕ちゃんがはっとこっちをみるのが映ったけど、見ないフリをした。
―――――と、顕ちゃんの手が伸びてきて、そっと上向かされた。
「…閉じ込め甲斐、無いなあ…琢ちゃんは……」
そう言って、顕ちゃんは穏やかに微笑んだ。
「…何よ。出せ、帰せって暴れたら良かった訳?」
「そーじゃないけど…少しくらいうろたえるかなと思ってたんだけどね。」
「…だってさあ、顕ちゃん怖くないもん。……え? あ。」
押し倒されて、またする気なんだろうかと驚いて顕ちゃんを見上げた。が、顕ちゃんはそういうつもりではなかったらしく……俺の胸に頭を預け、抱きついてきた。
「…琢ちゃん、覚えてるかな…。琢ちゃんが入ってきた年の演研の宴会のときのこと。」
「ああ、泊まりがけの? んー…、部屋戻ってからの記憶はうろ覚えだなあ……」
突然何を言いだすんだろ、と思いつつ答えた。
「酔い潰れた僕の世話、してくれたでしょ。」
「あー……、でも世話ったって、布団掛けたり水持ってきたりって程度でしょ? 俺もあの時はかなり飲まされたから、大したことは出来なかった筈だけど。」
俺の返事に顕ちゃんはくすっと笑った。
「やっぱ忘れてる。僕思いっきり吐いてさ、琢ちゃんが後始末してくれてたんだよ。その後、自分の布団に行こうとしてんのを無理矢理引き止めて、一緒の布団で寝てもらったの。」
言われて、何となーくそんなこともあったかな、なんて思い出しかけた。でも、俺が起きたときには顕ちゃんはもう起きてて、隣にいなかったっけ。
「こんな風にね、してもらってたんだ…。目覚ましたら琢ちゃんが僕を抱いてて、すやすや眠ってて……その顔が可愛くてさあ。…今にして思えば、きっとあのときから僕の中で琢ちゃんは……特別になったんだなって………」
…そうだった。吐いた後、心細そうに俺のシャツ引っ張って、『傍にいてくれ』って言うから……まあいっか、って思って同じ布団に入ったら、抱きついてきて。そんなに心細いのかと思って、宥めるように抱き締めちゃったんだ。
他意はなかったけど、仮にも先輩だった顕ちゃんを“可愛い人だなあ”って思ったのも事実。ずっと、忘れてた……。
「…思い出したよ。…俺もそれがきっかけだったのかなあ…。いつからなのか、自分でも分かんなくてさあ……」
「僕も…。僕のものにしたいなんて思うようになったの、いつからなのかハッキリとは覚えていない…」
顕ちゃんは目を瞑って、それ以上は何も言わず、じっとしている。
「寝るの?
「…ん……こうしてて。」
甘えられるのも悪い気はしなくて、顕ちゃんをそっと抱き締めた。
顕ちゃんの匂い、温もり、身体の重み……全てを感じながら、目を瞑った。まどろみの中でぼんやりと――――自分の誕生日には何をしてもらおうかなんて考えた。俺もお金で買えないものにしたいな…なんて。でも顕ちゃんのことだから『プレゼントの代わりにキモチ良くしてあげる』なんつって、結局今回と変わらないことになってしまうかもしれない。

……………いいけどさ、それでも別に。





NOVEL HOME


実に一年前の作品です。

「微熱」と同じく、随分とこの作品が日の目を見るのが遅くなりました。

いえ、ワタクシがちゃんとリライトすればよいだけだったのですが。。。(汗)





もうちょっとペースアップしないと駄目だなー、わし。。。






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