背 徳 の 逢 瀬
その日の安田と音尾は、珍しく仕事早く終わり、偶然事務所でばったり会った。
会話を交わすうち、お互い明日がオフだということが分かった。
めっきり忙しくなったここ数年、オフが重なるのは奇跡といっていい程のことだった。
そのとき音尾は、既に以前番組で共演した女性と結婚していたのだが―――――何せその相手も多忙な女優業、普段は東京に住まいを構えており、音尾の札幌での生活は、殆ど…いや、今のところ全く一人住まいという状況といっても過言ではなかった。
「久しぶりに俺んち来る?」
そう安田を誘ったのは音尾だった。
おそらくは、ほんの軽い気持ちから。
そして安田も、最初は何の気なしにその誘いに応じた。
懐いてくれていた裕次郎の遺骨にも、まだ手を合わせていなかったこともあったからだ。
が、安田はふと何かを思い立ったような顔をし、一旦家に帰ってから出直すと音尾に告げ、事務所を後にしたのだった。
安田が音尾の家に着いた頃には、もう夜も更けていた。
インターホンを押して名を告げると、出迎えてくれたのはいつもの人懐こい笑顔。
しかも無防備なことに、風呂上がりらしくTシャツにパンツ姿で、濡れた髪をがしがしとバスタオルで拭いていた。
―――――はっきり言ってこれだけで、安田にとっては理性が吹き飛びそうだった。
当の音尾には、何も気にしている様子は見て取れない。
安田は気を取り直し、部屋の片隅に置いてある裕次郎の遺骨に手を合わせた。
小さな箱に納められた遺骨。
琢ちゃんはあの日―――――リスタイルライブの裕次郎が亡くなった日、どんな気持ちで舞台に立っていたのか。
そう考えると安田は、胸が締め付けられる思いになっていた。
「…よく、頑張ったね…琢ちゃん」
裕次郎の遺骨を前にそう言った安田の言葉が、何を指しているか分かったのであろう音尾は、すとん、と安田の隣りに座り、その肩にもたれかかった。
「………まあ、覚悟は…少しはしてたしね。仕事柄、ああいうとこそちゃんとしないとさー…お客さんに悪いじゃん?」
…そりゃあ、幕が上がってしまったら、身内の不幸も日常の何もかもを忘れざるをえない因果な職業ではあるけれど。
…それを選んだのは自分達だろうと言われれば、それまでのことだろうけれど。
それでも、あのときの音尾は―――――周りの誰にも何も気付かせずに舞台をこなし、帰り際スタッフの一人にだけ裕次郎のことを話し、早々に裕次郎を引き取りに行ったという。
…きっと、沢山泣いただろう。
安田は、そのときに事実も告げられず弱音さえ吐いてもらえなかったことに、一抹の寂しさを覚えていた。
もっとも、もし上演前に裕次郎のことを話してしまったら、琢ちゃん自身の泣くまいと精一杯張り詰めた糸が、ぷつりと途切れてしまっていたのかもしれないから…言えずにいたのかもしれないのだが。
「…しんみりすんのはやめよ。裕次郎、成仏出来なくなっちゃうよ。あんまり未練を残しすぎると、次に飼ったコが長生き出来ないって聞いたよ。この遺骨もね、いずれちゃんとしたところに納めるつもりだしね。今奥さんが飼ってる犬が早死にしても悲しいしさ〜…」
………身勝手なもんだ。安田は自分をそう嘲った。
自分にも妻がいて子もいて―――――なのに、音尾の口から『奥さん』と聞いて、言い様のない嗜虐的な思いが沸き上がる。
自分自身に反吐が出そうになるのに、安田はもう自分を止められなかった。
半ば強引にその場に音尾を押し倒し、乱暴に唇を奪った。
逃げる舌を捕らえてはねちねちと吸い上げ、右手をそっと音尾自身へと伸ばす。
びくりと震える音尾に構わず、下着の上からやわやわと擦り、ときにきゅうっと握り込む。
音尾の口から、悲鳴めいた声が上がった。
てっきり拒まれるだろうと思っていた安田だが、音尾はおとなしく安田に抱き上げられ、寝室へと運ばれた。
そっとベッドに降ろされて、音尾は熱に浮かされたような目で安田を見上げた。
誘っているかのようなその目に、安田はもう一度口付けた。
安田は着ていたものを一切脱ぎ捨て、音尾のシャツもパンツもはぎ取った。
仕事のときとは明らかに違って見える、音尾の艶めかしい裸体。
安田は暫くその身体に魅入った。
「綺麗だよ、琢ちゃん…」
安田のその言葉に、音尾は少し顔を赤らめて目を瞑る。
そんな音尾の額に、頬に、唇に、口付けの雨を降らす。
右手は音尾の身体をまさぐり、胸の蕾をきゅうきゅうと揉んだ。
「ひっ…ああ…」
敏感な音尾のそこは、簡単に反応した。
―――――そう、音尾の身体をこんなふうにしたのは、他でもない安田だ。
安田の口許に、笑みがこぼれた。
「…琢ちゃん…俺、今夜は抑えきかないからね?覚悟、してて…」
音尾の部屋の、そこここに見て取れる女性らしいインテリア。小綺麗に片付けられた部屋。
身勝手だと分かっていながら、安田の嗜虐的な感情は、加速度を増していた。
音尾の身体を抱き締めながら、首筋から胸元、そして色付く蕾へと、唇を移す。
唾液をたっぷりのせては吸い上げ、舐め回しては派手な音を上げてまた吸い上げる―――――。
もう片方は指先で擦り、揉みしだいた。
「んあ…ああっ!いっ…やぁ…あ…」
びくびくと震える音尾が心底愛しい。今度は、反対側の蕾に同じことを繰り返した。
既に、音尾は目からも自身からも雫を流していた。
「相変わらず…感じやすいね、琢ちゃんは……」
安田は手を伸ばし、音尾自身に指を巻き付けた。
先走りの雫を潤滑剤代わりに、慈しむように優しく擦った。
「んうっ…顕、ちゃん…」
イヤイヤをするように頭を打ち降る音尾に構わず、安田は音尾自身を口に含んだ。
優しく先端を舐め回し、やがて激しく頭を上下させる。
頭上から聞こえる、甘くて激しい吐息と、声。
それだけでイきそうになるのを、必死で耐える。
シーツをきつく握り締めていた音尾に、程なく限界が訪れる。
身体を弓なりにしならせ、息を詰めて―――――音尾は安田の口の中に全てを吐き出し、がっくりと身体をベッドに沈めた。
久しぶりに味わう、音尾の精液。安田は口許をぐい、と手の甲で拭い、満足げに脱力した音尾を見つめた。
安田はベッドの傍らに置いてあった自分の鞄の中から、ローションと携帯を取り出した。
音尾はこれからどんなことが行われるかなど知る由もなく、四肢をベッドに投げ出したままだ。
安田は音尾の膝裏を持ち上げ、大きく開いて音尾の最も奥まった部分を露わにすると、そこにローションを垂らした。
――――――そう、そこまではいつもと同じ行為だった。
が、実はそのローションは以前、仕事で中国を訪れた際に興味本位で買ったもので、音尾には数年前に一度だけ、内緒で使ったことがあった。
効き目など半信半疑だったのに、そのときの音尾の感度の良さと大胆さ、可愛さには本当に驚かされたものだった。
久しぶりに抱き合える今夜は、またあの日のような………いや、それ以上の音尾の痴態が見たかったのだ。
安田はローションを垂らしたそこに、指を一本差し込んだ。
音尾は一瞬顔を曇らせたが、慣れたそこはすぐにもう一本の指を受け入れた。
音尾の内壁に、まんべんなく媚薬がいきわたるように―――――ときどきローションを足しながら、ゆっくりゆっくり丁寧にそれを塗り込めていく。
ぐちゅっぐちゅっ…という淫猥な音が、室内に響く。
「ふ…ううんッ……あっ………あ………」
既に媚薬が効きはじめたのか、音尾が甘い吐息をもらす。
音尾は、いつもとは違う感覚に戸惑いつつも、安田から与えられる快楽に酔いはじめていた。
自分の中が、じりじりと熱い―――――もっともっと、掻き回して欲しい。
その変化に気付いた安田は、意地悪く音尾の耳元で囁いた。
「気持ち…いいかい…?琢ちゃん……。どうして欲しい?」
紅潮させていた頬を更に赤らめながら、音尾は安田に縋り付く。
差し入れられた二本の指を、音尾のそこは貪欲にのみ込み、ひくひくと蠢かせていた。
「…どうして欲しいの?ほら、言ってみて…」
入れていた指を三本に増やし、ぐちゅぐちゅと派手な音を立てて出し入れしながら、安田はもう一度音尾に問い掛けた。
「……ひっ、…あ…ッ……も…入れ…て……顕ちゃんの…入れてぇっ………!」
安田のモノは、既にはちきれんばかりに怒張していた。
音尾の口から発せられた言葉が、更に安田の欲望を煽る。
安田は音尾の中から、ずるりと指を引き抜いた。
音尾の膝裏を抱え直し、自身をそっと音尾の秘部にあてがう。
自身の先端からも溢れ出していた蜜をぬるぬると音尾の秘部に塗り付けると、いつもより乱暴に、一気にぐいっと音尾の中に侵入していった。
「うッ…ああ…っ………!」
音尾は安田の肩に縋り付き、苦しげな声を上げた。
音尾の中は、熱くて蕩けそうだった。
ひくひくと安田をのみ込み、貪欲に締め付けてくる。
それだけでイきそうになるのを、まだ懸命に堪える。
安田の額にも汗が滲み、すぐにでも音尾を突き上げ、頂点へと昇り詰めたかったが―――――我慢した。
もっともっと音尾の口から、自分を求める声を―――――淫猥な言葉を、聞きたかったからだ。
「…け…顕…ちゃん……お願いっ………」
荒い息で音尾が言った。
「…何………?」
音尾が何を言わんとしているのか分かっていながら、聞き返す。
「…お願いっ………動いて……突いて…!」
顔を真っ赤にして言ったその言葉に満足げに微笑むと、安田はゆるゆると腰を使いはじめた。
必死に安田の腕に縋り付いてくる音尾に、次第に激しく楔を打ち込んでゆく。
「…あッ……い……顕…ちゃん………あああっ……!!」
頭を振りたくる音尾の自身は反り返り、先走りの蜜は腹筋をぬらぬらと濡らす。
安田もイきたくなるのを懸命に堪えながら、激しい抽挿を繰り返した。
「…も……イきそう…っ…」
絞り出すような声で、音尾が言った。
「…いいよ……一緒にイこう…?琢ちゃん……」
音尾の耳元でそう囁くと、安田は息も荒く、嬌声を上げ続ける音尾をより一層激しく突き上げた。
「んあああっ…!!あ、あ、ああっ………!!」
―――――音尾の放ったものが白く腹の上を伝い、流れ落ちる。
そして安田も―――――音尾の中に全てを射出し、どさりと音尾の上にくずれおちた。
自身はまだ音尾の中に納めたまま、汗だくの身体をきつく抱き締める。
音尾もまた、脱力していた腕を安田の身体に巻き付け、愛しげに抱き締めた。
やっと互いの呼吸が整いはじめたと思った頃。音尾は愕然としていた。
昇り詰めたばかりだというのに、安田を受け入れたままのそこが、益々熱をもって痺れさえ感じるのだ。
―――――吐息が熱い。中を掻き回して欲しくて堪らない。
そんな音尾の変化を、安田は見逃さなかった。
そっと身体を起こして音尾の顔を見ると、音尾は目を潤ませ、今にも泣きそうな顔をしていた。
安田は無言のままその頬に触れ、唇にちゅ…と優しく口付けた。
「琢ちゃん…いっぱい気持ち良くしてあげるからね…?安心して…」
そう、安田にとってはここからが本番と言って良かった。
音尾の身体をまさぐり、硬くしこった胸の蕾を指の腹で刺激した。
「んうっ…」
音尾が眉を寄せて顔を横に向けた瞬間、パシャリとカメラのシャッター音のような音が響いた。
きつく目を閉じていた音尾だが、その音に反応し、目を開けて安田を見上げた。
―――――信じられない光景だった。安田が携帯のカメラを自分に向けていたのだ。
「け…顕ちゃん…?!な…に………」
安田は口許にうっすらと笑みをうかべ、呆然とする音尾に構わず、もう一度胸の蕾に手を伸ばす。
指の腹で円を描くように撫で、きゅうっと揉むと、音尾はまた身体を反らせて甘い声を上げた。
その瞬間を逃さず、安田は再びシャッターを押した。
「いやっ…顕ちゃん、なんでっ……」
「大丈夫……これは俺だけの宝物にするだけ、だからさ………」
こんな痴態を撮影されるなど、この上ない屈辱的なことなのに―――――本気で拒むことが出来ないどころか益々感じてしまう自分に、音尾は驚いていた。
自分が与える愛撫に喘ぐ顔、まさぐられている胸、二人が繋がっている部分まで―――――安田はシャッターを押し続けた。
自分しか知らない音尾の淫らな姿に、安田のモノはすっかり硬さを増していた。
そしてまた音尾も、自分の内側でドクドクと脈を打つ安田自身を感じていた。
安田は、今度は音尾の両膝を肩に掛け、突き上げはじめた。
待ちわびた刺激に、音尾は自分でも驚く程の嬌声を上げ続けた。
そんな音尾を、安田は今度はムービーで撮り始めた。
腰を使っているので画面は多少ブレるが、代わりに音尾の可愛い声も、ぐちゅぐちゅという淫猥な音も録音される。
「…あ…っ……もぉ……やあっ……!」
「…気持ちいいかい?琢ちゃん…」
ムービーで撮影しながら、問い掛けてみる。
撮られていることが分かっている音尾は、顔を横に反らしたまま、すぐには応えない。
安田は意地悪く、グイッと抉るように腰を使って突き上げた。
「ひっ…!ああっ…」
「どう…?琢ちゃん…」
悲鳴じみた声を上げた音尾に、安田はもう一度問い掛けた。
「…あ…あ……いっ……、もっと……してぇっ………!!」
――――――それは、音尾の理性が吹き飛んだ瞬間と言っても良かった。
再び頂点を迎えた二人だったが、安田にはまだまだ音尾を解放するつもりはなく―――――音尾もまだ、治まらない身体の熱に浮かされていた。
汗と精液にまみれた身体を抱き締め合い、激しく唇を貪る。
唇を離すと、二人の間ですうっと糸が引いた。
と、ふいに音尾は態勢を入れ替え、安田の上になった。
突然のことに驚いて見上げた安田の唇に、音尾はもう一度口付けた。
そのまま唇は安田の首筋、胸元を辿り、胸の蕾をちゅ、と吸い上げた。
安田のその部分の感度は音尾ほどではなかったが、それでもぴくりと反応した。
「琢…ちゃん?」
今まで有り得なかった音尾の行動に呆気にとられているうち、音尾の顔は安田の下半身に埋められていた。
「琢ちゃん?何…」
驚いてベッドに肘をつき上半身をわずかに起こした安田は、目の前の光景が信じられなかった。
音尾が安田自身にそっと触れて持ち上げ、口の中に収めたのだ。
たどたどしくはあったが、いつも、安田がしてくれるように―――――優しく先端を舐め回し、ゆっくりと顔を上下させる。
その目は蕩けるように潤んでいた。
「…っ…くっ……」
音尾のあまりにも健気で可愛らしい行為に、安田のソレは簡単に反応した。
この行為もムービーに撮っておきたい衝動にかられたが、今は一時も目の前の光景から目を離したくなかった。
それに、気を抜いて音尾の口の中で達してしまう訳にはいかない。
自分の放ったもので音尾の口を汚すのは可哀相だからだ。
「…すっげ……気持ちいいよ、琢ちゃん……」
安田は手を伸ばして音尾の髪をそっと撫でた。
――――――そろそろ限界だ。
そう考えた安田は、自身を離すよう音尾を促した。
音尾の口の端から流れた雫を、親指で拭ってやる。
「琢ちゃん…俺を跨いで…」
その意味を理解した音尾は、さっと顔を赤らめたが―――――安田自身の上に跨がると、自ら進んで安田自身に手を添え、腰をおとした。
「…うっ…ああんっ………」
安田の全てを収めきり、音尾は苦しげにのけ反った。
安田はまた、傍らに置いてあった携帯を手に取る。
ムービーのボタンを押し、意地悪く音尾に言った。
「動いて…お前の気持ちのいいように……ほら…」
右手ではムービーを撮り、左手は音尾自身を揉みしだき、しごいた。
「あッ…あ!」
のけ反った音尾の顔、胸元、勃ち上がり先走りの蜜を溢れさせる音尾のソレを、安田はうっとりとした目で撮り続けた。
音尾の身体に刺激を与える度に、安田を受け入れている内壁もひくひくと蠢いてしまうので、さすがにまた画面はブレてしまうのだが―――――やはり感じている音尾の声や、繋がっているところから聞こえるぐちゅぐちゅという淫猥な音が録音されるので、それだけで満足だった。
「ん…っ…くっ、あ、ああッ……」
ゆっくりと動き始めた音尾が、くぐもった声を発した。
騎乗位など滅多にしたこともなく、ましてや安田のリードも無しでは、身体が安定せずに辛いらしい。
安田は撮るのを諦め、かたわらにムービーモードにしたまま携帯を傍らに置いた。
そしてがっちりと音尾の腰を両手で支えると、下からガンガン突き上げた。
「はあんっ…あ、あ、あ、ああっ…!!」
刺激に堪えきれずに前へ倒れ込みかけた音尾の二の腕を、安田はがっちりと掴んだ。
音尾も咄嗟に安田の二の腕に掴まり、下からの刺激をそのまま受け続けた。
安田にも限界が近付いてきていたが、音尾の内壁をぐりぐりと掻き回しては、敏感な部分を抉るように何度も精力的に激しく突き上げ続けた。
「あ…あっ……顕、ちゃん……すご…っ…凄いよぉっ………!」
音尾の内壁はねっとりと安田にまとわりつき、ひくつきながらじわじわと締め付けてくる。
自身からは蜜をだらだらと溢れさせ、涙を流しながら安田の腕に縋りついてくる。
「琢ちゃん……いいんだよ……イっちゃっても…」
安田も額にじっとりと汗を滲ませ、音尾の腕を掴んでいる手に力を込めた。
「…ん…っ……け…んちゃ……いっしょ…にっ………」
息も絶え絶えに音尾が誘う。
「…っ…ん……琢ちゃん…一緒に…イこう……」
安田は乱れた呼吸でそう言うと、渾身の力で音尾を突き上げた。
「ひあああっ…!んぁ、ああ―――――…っ!!」
音尾は、自分でも驚く程の嬌声を上げた。
二人の視界が真っ白に染まり、音尾自身から吐き出されたモノが宙を舞い――――――安田の身体にも点々と白く降りかかる。
安田もまた、音尾の中に全てを注ぎ込み――――――果てた。
どさりと倒れ込んできた音尾の身体を受け止め、きつく抱き締めて――――――安田は言い様のない幸福感に満たされていた。
気を失った音尾の身体を、安田はそっと仰向けに寝かせてやる。
愛しげに髪を撫で、唇を重ねると、音尾はぼんやりと目を開けた。
安田を見て、安心したかのように微笑む。
「…辛かった…?」
安田が済まなそうに問い掛けた。音尾はううん、と首を横に振る。
「抱かれたまま、死んでもいいと思った…」
その言葉に驚く安田に、音尾は続けて言った。
「…俺、さ…彼女となら、と思って結婚して…後悔はしてないよ?守るものが出来たから、男としてしっかりしなくちゃって思ってる。………でも、やっぱり顕ちゃんのことも大好きで…。ずっと一緒にいて、俺のこと一番分かってくれてるのは、顕ちゃんだと思ってる。…だから、今夜はあらためて自分の気持ちを整理したくて…顕ちゃんを誘ったんだ。…俺が結婚したことで…もしかしてもう、顕ちゃんにこういうこと拒絶されるんじゃないかって思いもしたから……」
自分勝手だよね、と音尾は情けなく微笑んだ。
それを聞いた安田の表情は複雑なものに変わった。
「そんなの…今となっちゃお互い様だろ?しかも家庭を先に持ったのは俺が先で、なのにお前は変わらず俺を好きだと言ってくれて、側にいてくれた。お前が自分を勝手だと言うなら、俺の方がずっと勝手だ。―――――もしかしてもう、お前を二度と抱けないんじゃないかって……不安だった…。だから今夜は好き勝手しまくった。…家庭は大事だよ。でも…上手く言えないけど、それとは別の意味で琢ちゃんが大切で、好きなんだよ…」
「俺も…」
微笑みあうでもなく、二人は見つめ合った。
――――――――多分、この背徳の行為は、この先ずっと続いていくのだ。
互いを失うことなど、決して出来ない。考えられない。
きつく抱き締め合い、互いの唇を激しく貪り合う。
この背徳の果てに待っているものが地獄だとしても―――――――後悔は、絶対にしない。
END.
2008/10/06 up
* お戻りの際はブラウザを閉じませう *
お久しぶりの翠さん小説ですv
どちらも既婚者という立場になりつつも、お互い離れられない…
そんな愛情の葛藤を正面から描いた意欲作
だと思います。
実際のところ、あの二人は離れられないと思うし。
闘魂兄弟のがっちりハグには『ハグ』以上の何か深い感情が
見え隠れしていた…
とも思います。
っつーか、2さんの抱き締め方が情熱的かつイヤラシイんだよ(笑)
ステージを見て赤面し、慌ててスクリーンを見て更に赤面したよ。
43で見慣れてる筈のこのワタクシが。。。ですよ(大笑)