きみの笑顔






屈託のない笑顔を向けられる度、胸の奥がちくりと痛んだ。
君は何も、知らないから。
僕の中にある、君への想いを。


冗談めかして、今まで何度好きだと繰り返して来ただろう。自分に向けられる笑顔と信頼を失いたくなければ、気付いてはいけなかったのだ。
『好き』と言う感情が、友情としてのものではないことを…・


「え?顕ちゃんも明日オフなの?」
「も、って…琢ちゃんも?」
 Air−Gでのラジオの収録前。どんなに他の仕事が忙しくても、よっぽどの事情が無い限り、週に一度はここで顔を合わせられる。
 僕たちは、普段滅多にオフなんて重ならない。今は皆それぞれレギュラーを持ち、忙しい日々を過ごしている。有り難い事だと思わなければならないところだろうが、…正直、休みたいなあ、なんて思うこともある。こんなに忙しくなる前は、よく皆で遊んだりしていたけど。
「うん。珍しいねえ、オフ重なるって。何か予定とか入れてんの?」
いつもの人懐こい笑顔で…目をくりっと開いて、聞いてくる。
「いや?なーんにも。寝倒そうかと思って。琢ちゃんは?」
「俺も予定は何も。休みの日ってさ、せっかくの休みだから何しようかって、悩んでるうちにただただ時間が過ぎてっちゃうんだよね。かといって、明日はこれをやる!って計画立ててもさ、結局眠気に耐えられなかったりして。だから、計画立てるのやめちゃった。」
喋りながら、表情がくるくる変わる。可愛くて仕方ない。
「じゃあ、この後うちに泊まりにこないか?琢ちゃんのカレー、久しぶりに食べたいな。」
思わず言ってしまった後で、思いっ切り後悔した。自分の部屋で、一晩二人きり…理性が保てるか、不安になったから。でも、僕の胸の内を知らない琢ちゃんは、あっさりOKした。
「うん、いいよ。でも、作る代わりに材料は顕ちゃん持ちでねv」


 その日の収録は、その後の事ばかりに頭がいって、何を喋ったのか覚えてない。っていうか、『ラジオなんだから喋れ!』って、リーダーや大泉に突っ込まれたような気がする。
うわの空のまま仕事を終え、途中スーパーに寄って買い出し済ませて、家路についた。
「顕ちゃんちひさしぶりだな〜。二人でゆっくりすんのも久しぶりじゃない?ホラ、WARのパンフレットのさ、デート日記のとき以来…だよね?」
玉ねぎの皮をぱりぱりと剥きながら、琢ちゃんがいった。
“二人でゆっくり”だの“デート”だの、…つい過敏になってしまい、じゃがいもの皮を剥く手元が狂いそうになる。が、琢ちゃんはそれには気付かず、続けていった。
「あんときは顕ちゃん、いちごのケーキで祝ってくれたっけねえ…あっ!顕ちゃん、誕生日もうすぐじゃない!!」
ああ、そういえばそうだ。自分がすっかり忘れていた誕生日を、琢ちゃんが覚えていてくれたのが嬉しかった。
「ね、欲しいものある?して欲しい事とか。」
「えっ…いや、気ィ使わなくていいよ。」
僕はもう、そう言うのが精一杯だった。だって“欲しいもの” “して欲しい事” …口に出せる訳、ないじゃないか。
「いつもそう言うよね、顕ちゃんは。」
琢ちゃんは、少し困ったように笑った。
「さて。気合い入れていためるかあ。」
スライスした玉ねぎを、鍋の中へ。じゅわじゅわと音を立て始めると、香ばしい、いい香りがしてくる。もう何年も前、琢ちゃんの実家へ遊びに行ったとき、琢ちゃんのお母さんがカレーを作ってくれた。琢ちゃんのカレーは、そのときのカレーと同じ味がする。…と思うのだが。琢ちゃんが言うには、まだまだ及ばないのだそうだ。音尾家のカレーは、玉ねぎを1時間もかけてアメ色になるまで炒めるのだそうで。
「とはいえ、さすがに1時間も炒める根性は無いんだよねえ。三十分が限界かな。まだまだ時間かかるからさ、顕ちゃん風呂入っちゃえば?」
「他に手伝うことはない?」
「うん。後は炒めて煮込むだけだし。」
「んじゃ、悪いけど先に入ってくる。」
そういえば、ここんとこ忙しくてシャワーばっかりだったっけ。
「ゆっくりしてきてね。」


 湯船にたっぷりお湯をはって、肩までじっくり浸かる。…極楽。しかも琢ちゃんが飯の支度をしてくれて、明日は久々のオフ。
―――――でも。うまく過ごせるだろうか、今夜も。うまく気持ちを誤魔化して、いつものようにじゃれ合ったり、ふざけてキスしたり出来るだろうか。情けないとは思うけど、たとえ冗談めかしてでもキスのひとつも出来なけりゃ、こんなに我慢はしてこれなかった…と思う。
『好きだよ、琢ちゃん』
『琢ちゃん、愛してる』
わざと、皆のいる前で。だってその方が洒落になるから。寛容な友人たちは『安田は音尾が大好きだから』とか『音尾にしか心開いてないから』って、ほっといてくれてるし。僕のそんな言葉に、琢ちゃんはいつも苦笑して『うるせえ、バーカ!!』って答える。少し照れてるように見えるのは、僕の自惚れかな。それとも、他の誰かに同じこと言われても、やっぱりそんな顔するのかな。


浴室を出ると、カレーのいい匂いが部屋中に広がっていた。
「あ、上がった?ちょうど出来たとこだよv」
にっこり笑って琢ちゃんが振り返る。思わず、カレーをかき混ぜてる琢ちゃんの背中を、きゅっと抱きしめた。髪からは、ふわりとさっきの玉ねぎの匂いがする。
「こら、危ないでしょ。」
腕の中で少しだけ身を捩る。声は、もちろん怒ってなんかなくて。そんな言葉に構わずに、鼻先を琢ちゃんの髪に埋めた。
「いい匂い移っちゃってるね、髪に。さっきの玉ねぎの。」
僕がそういうと琢ちゃんも何かに気付いたように、くん、と鼻を利かせた。
「――あ、顕ちゃんもいい匂い…シャンプーとか石鹸、変えた?」
「ああ、試供品で貰ったやつ。…よく分かるね、そんなの。」
「うん。分かるよ、顕ちゃんのいつもの匂いじゃないもん。」
とくん、と胸が鳴った。琢ちゃん、頼むからあんまり可愛いこと言わないで。離せなくなるじゃない。抱き締めていた手に、更に力がこもりそうになったそのとき。
ピー・ピー・ピー
炊飯器の炊き上がりの音で、正気に戻った。
「あ、ご飯炊けた!食べよv 腹減ったー。」
琢ちゃんは僕からぱっと離れて、嬉しそうにご飯をよそい始めた。あんまり嬉しそうなので、つられて笑ってしまう。時計は既に十時半を回っている。腹が減るのも当たり前だ。ましてやカレーの匂いは、余計食欲を刺激されるもんね。
「いつ食べても美味いね、琢ちゃんのカレーは。」
「ありがと。でも、カレーって不味く作れる人の方が凄いと思うよ。」
「…じゃあ僕、凄いかも。」
「え?け…顕ちゃん?」


 そんなたわいない話をしながら、僕も琢ちゃんも一回ずつおかわりして満腹。
「あーーー、腹一杯ーーーv」
満足そうに言って、琢ちゃんはころんと絨毯に転がった。猫みたいだ。
「片付けは僕がやるから、琢ちゃんも風呂は入りなよ。はいこれ。パンツはちゃんと新品のだからね。」
琢ちゃんにタオルとパジャマと替えの下着を手渡した。
「あー、うん。今度新品ので返すね。」
よいしょ、と起きあがってそれを受け取り、琢ちゃんは浴室に入っていった。
ザーッと言うシャワーの音が聞こえてくる。…何だろう、ちょっとエッチな気分になってくる。今、裸なんだよな。…裸。…いや、今まで何度も見てきたけど。仕事でも、プライベートでも。…なのに。
 少し悶々としながら片付けを済ませ、つまみと酒の用意をした。琢ちゃん用のビールは冷蔵庫でキンキンに冷えてる。―――今日は飲み過ぎて理性吹っ飛ばないようにしないとな、なんて考えてるうちに、琢ちゃんが上がってきた。
「ふあ〜、気持ち良かった〜。」
洗いたての髪からは、まだ滴が落ちてて。前髪が下りてんのは、やっぱり可愛いな。
「ビール冷えてるよ。」
「うん、もらうね。」
冷蔵庫からビールを取り出し、すとん、と僕の隣に座る。美味そうに喉を鳴らして飲む琢ちゃんの横顔を、僕は見つめた。風呂から上がったばかりで暑いからか、パジャマの前を思いっきりはだけてることに気付いて、僕は慌てて顔を逸らした。テレビからは洋画が流れてて、二人して何となく見入ってしまった。お陰で、頭も少しは冷えてきた。
――――と。映画が中盤にさしかかった頃だろうか。隣に座っていた琢ちゃんが、ころんと横になり、あぐらをかいている僕の太股の上に頭をのせた。突然の事に、僕は思いっきり焦った。
「た…琢ちゃん、どうしたの?眠くなった?」
「うん、少し酔ったかも…」
顔が少し赤い。目も声も、とろんとしてる。
「寝るならベッド行く?」
「ううん…まだいい…。ねー顕ちゃん…」
何を言い出すのかと、ドキリとする。
「なっ…何?」
「前にさあ、俺のラジオにゲストで来てくれたとき、高校んときの親友の話してくれたでしょう。」
―――何を言い出すかと思えば。
「ああ、取り壊される旧校舎を二人で探検してて、僕が女子トイレに入り込んで汚物入れ覗いてたら、それ見て凄い形相で走り去ったって言うアレね。」
とほほ。言ってるだけで情けなくなってくる。
「そうそれ…。でね、マジ付き合いなくなった訳?」
「うー…ん。まあ、普通の友達並っていうか…クラスメート並にはあったかな。卒業後はもう全く連絡取り合ってないなあ…」
「…ふうん…。俺ならそんくらいで態度変えたり、ビビったりしないけどねえ…。だって、使われてないトイレのでしょ?分っかんないなー…」
優しいこと言うね、琢ちゃんは。ダメだよ、僕つけ上がっちゃうから。
「何やらかしたら、琢ちゃんは僕を嫌いになるかな。」
「…えー…?」
つい、口をついて出た問いかけ。琢ちゃんはとろとろと眠そうに目を擦りながら、考え込んでいる様子。
「思いつかないよ、そんなの…。じゃあさ、顕ちゃんは?」
「そりゃ愚問だね。僕が琢ちゃんを嫌いになるなんてあり得ない。」
きっぱりと言い放ってしまった。だって、本当にそう思えるから。
「…うっそだあ…、顕ちゃんだって、きっと…」
「琢ちゃん?」
何を言おうとしたのか。言いかけて眠ってしまった。こんなとこで寝たら風邪をひいてしまう。起こすのは可哀相だけど。
「琢ちゃん、ほら、起きて。頑張ってベッド行こう、ね。」
「うん…」


 目をしょぼしょぼさせて何とか起きあがった琢ちゃんの体を支え、ベッドまで運ぶ。寝かせて、毛布を掛けてやると、すぐに規則的な寝息が聞こえてきた。穏やかな寝顔…。
髪をそっと、撫でてみた。まだ生乾きのそれは、しっとりと柔らかい感触で……そのままその手は吸い寄せられるように首筋を辿っていた。
「んっ…」
くすぐったかったのか、小さく身動きした。パジャマから覗く胸元が、妙に艶めかしく見えて……僕の中で、どす黒い欲望がゆっくりと―――頭をもたげてくるのが分かった。そして、さっきの自分自身の言葉が頭をよぎる。
『何やらかしたら、琢ちゃんは僕を嫌いになるかな』
何をしたら、琢ちゃんは。
決して、嫌われたくないのに。この衝動を抑えることが出来なければ、きっと、失ってしまうのに。―――なのに、僕は。
『思いつかないよ、そんなの』
そうだよね、思いもつかないだろう。まさか、僕が、こんなこと考えてるなんて。

 僕は琢ちゃんの上にゆっくりと覆い被さり、そっと…唇を合わせた。一度離れてひの寝顔を見つめ、もう一度…、今度は深く――――貪るように。
「…ん…っ…、顕ちゃん?」
琢ちゃんは息苦しそうに身を捩って、薄目を開けて僕を見上げた。
ねえ、琢ちゃん。僕は今、どんな顔してる?きっと、とても醜いんだろうね。
僕は無言のまま。顕ちゃんの目を見つめ返すこともせず――――唇を琢ちゃんの首筋に押しつけ。胸元にするりと手を滑らせる。僕の指先が胸の突起に触れると、ビクっと体を強張らせた。
「け…顕ちゃん……?!何…!!」
心底驚いたような声に構わず、琢ちゃんのパジャマのボタンを全て外し、顕わになった胸元に口づけていく。さっき指先で触れた突起を口に含み、舐め上げては甘噛みを繰り返した。そこが、次第に固さを帯びてくるのが分かる。
「や…やだっ…顕ちゃんっ…」
弱々しい抗議の声に、顔を上げて琢ちゃんの顔を見た。目尻に涙が滲んでいる。信じられない、って表情で僕を見上げてる。
「…怖い?琢ちゃん…。嫌なら逃げればいい…僕を突き飛ばして…」
そうだ。逃げて。僕だって本当は傷つけたくないのに。君を失いたくないのに。だけど、自分ではもう、止められないから。
「速く逃げないと…僕、自惚れるよ…?」
僕は、最初から琢ちゃんを押さえつけてはいない。仮にそうしてたとしても…琢ちゃんが本気で抵抗してくれれば、おそらく僕は敵わない筈だ。でも、琢ちゃんは逃げない。いや、逃げられないんだろう。僕の下で戸惑いの表情のまま、身体を強張らせてる。
「なっ…なんで…?」
か細い声。きっと、それだけ言うのがやっとなんだね。
「…好きだから。」
どうしようもなく、好きだから。
「今まで何度も言ったじゃない。好きだって・愛してるって。逃げないなら、このまま僕のものにしちゃうよ…?」
琢ちゃんの口許が、何か言いたげにわなないてる。その耳元で、もう一度囁いた。
「好きだよ…」
言いながら僕の手は、琢ちゃん自身をやんわりと包んでいた。琢ちゃんの身体が跳ね上がる。
「あっ…!」
スタンドのほのかな明かりでも、琢ちゃんの顔が赤く染まっていくのが分かる。腰を浮かせた、その一瞬を逃さず、パジャマのズボンを引き剥がした。両脚を開かせ、琢ちゃん自身を口に含むと、涙混じりの甘い声が琢ちゃんの唇から漏れた。
「…ゃあっ…は…あ、あっ…」
琢ちゃんの両手はシーツをきつく掴んで、小さく震えてる。顔を背け、ぎゅっと目をとじて恥辱に耐える姿は、余計に欲望を掻き立てられる。もっともっと声が聞きたくて、僕は頭を上下に動かし、琢ちゃん自身の先端をきつく吸い上げる。琢ちゃんの身体が、がくがくと震えた、次の瞬間。
「ああっ…やだ…っ…顕…ちゃ…っ、離してっ…!!」
艶を含んだ切なげな叫び声と共に、琢ちゃんは僕の口の中で達した。吐き出された熱い液体を全て飲み込んで、僕は親指で口許を拭った。琢ちゃんは顔を横に背けたままぐったりとして、胸を激しく上下させている。閉じたままの目からは、涙が一筋流れ落ちた。それが、とても綺麗で。琢ちゃんの瞼に口づけて、熱を帯びた身体を抱き締めた。今まで見たこともなかった表情、初めて聞く艶やかな甘い声。僕も、もう限界だった。けど、焦り過ぎて琢ちゃんに辛い思いはさせたくない。力なく投げ出されたままの両脚の膝を折り曲げさせて持ち上げ、さっきよりも大きく開かせて、その最奥の敏感な部分に指を這わせた。琢ちゃんの身体が、またビクリと跳ね上がり、泣き出しそうな顔で僕を見つめた。
……そんな表情も、今の僕には媚薬。
「…ひ…あっ…」
琢ちゃんが少しでも傷つかないように、僕は舌先で琢ちゃんの最奥に唾液を流し込んでは、指を差し入れた。 くちゅ…といやらしい音が、室内に響く。
「琢ちゃん…苦しい…?」
答えなんか返ってこないと分かっているけど。
一本の指をたやすく受け入れられるようになったそこへ、二本目の指を差し入れる。
「ん…うっ…」
琢ちゃんは切なげに眉を寄せて、唇を噛みしめた。琢ちゃん自身の先端には、先走りの液体が溢れ始めていて…僕はその液体を指で絡め取り、また二本の指を琢ちゃんの中に戻して、内壁を擦った。
「ああっ…も、や…顕ちゃんっ…」
ずっとシーツを掴んだままだった両手が、僕の肩に廻された。
「琢ちゃん…?」
琢ちゃんの行為が信じられなくて。でも、琢ちゃんは苦しげな息をつきながら、思わず耳を疑うようなことを言った。
「…れて、…顕ちゃん…」
咄嗟には信じられなくて、思わず聞き返してしまう。
「…琢ちゃん…?今、なんて…?」
「…恥ずかしいこと、何回も言わせないでよっ…」
琢ちゃんの顔は真っ赤で…また、泣きそうな顔をしていて。そんな顔を見られるのを恥じて隠すかのように、琢ちゃんは僕の肩先に顔を埋めた。そして、小さな声で――――もう一度。
「欲しい…」
…嘘、だろう?嫌なんじゃなかったの?僕が怖くて、動けなかったんじゃ…。
確かめたくて、肩にしがみつく琢ちゃんの手をそっと解いて、顔を覗き込んだ。赤いままの顔。潤んだ目は、僕と合わせようとはしない。
「何だよっ…ちゃんと言っただろっ…」
琢ちゃんの声は、涙声で。呆然として固まってしまった僕に、琢ちゃんは堰を切ったように喋り出した。
「いっ…いきなり寝込み襲ってきてっ…俺の身体、好き勝手にしてっ…逃げないと自惚れるって…僕のものにするって、顕ちゃんが言うから……だから、恥ずかしくてもずっとじっとしていたんじゃないかぁ…」
琢ちゃん、それって……まさか、ホントに?
「おっ…俺ばっかり恥ずかしい目にあわせといてっ…い、いつまで黙ってんだよっ……何とか言えよぉっ…!バカあっ…!!」
琢ちゃんの目からは、ぼろぼろと涙が溢れおちてて…。琢ちゃん、ほんとにそれが、君の本心なんだね…?
堪らなくなって、僕は琢ちゃんを掻き抱いた。
「そうだね…ホントにバカだ…。ごめんね、琢ちゃん。ごめん…」
僕の手は、まるで子供を宥めるように琢ちゃんの背中を摩っていた。そして。両手で琢ちゃんの頬を包み、額に、頬に、唇に、キスを繰り返した。切なそうな目で見つめられて、僕はまた琢ちゃんの最奥に触れた。内壁が充分に柔らかくなったのを確かめて、ゆっくりと――――――琢ちゃんを貫いた。
「あ…あっ…」
喉を反らせて、琢ちゃんが喘いだ。
僕を受け入れた琢ちゃんのそこは、じわりと僕に絡み付いて、締めつけてくる。身震いするほどの陶酔感に襲われた僕は、ひとつ息を吐いて、ゆっくりと腰をグラインドさせた。
「…っ…、あ……」
琢ちゃんが苦しそうに息を詰まらせた。
「琢ちゃん…辛い…?」
僕の言葉に、琢ちゃんは弱々しく左右に頭を振った。
「…そんな、ヤワじゃないって…知ってるでしょ?大丈夫だから…もっと、して。」
琢ちゃんの言葉だけでイきそうになるのを堪え、僕はまた琢ちゃんを突き上げた。
「琢ちゃん…琢ちゃん…好きだよ…」
何度も何度も愛しいその名を呼び、甘い吐息を漏らす唇に口づけながら。ずっと、君とこうしたいと思ってた。決して叶うことのない夢だと思ってた。。
次第に早くなっていく、互いの呼吸と心臓の音。切れぎれに僕を呼ぶ、琢ちゃんの艶やかな声。味わったことのない快感が、僕の背筋を突き抜けていき――――同時に琢ちゃんも頂点に達し、僕らの意識は白く霞んでいった――――。


 次の日の朝。目を覚ました琢ちゃんは僕の腕の中で、昨夜言いかけた言葉の続きを照れくさそうに…穏やかに微笑んで、教えてくれた。
「俺の気持ちを知ったら、…いくら優しい顕ちゃんだって…本気で好きだなんて言ったら…、絶対引かれちゃって終わりだと思ってたから。」
だからずっと言えなかったと付け加えて、僕の胸元に、赤くなった顔を埋めた。


これからも僕は皆の前で、君を好きだと言い続けるだろう。誤魔化しではなく、素直な気持ちで。そして君はやっぱり、今まで通り「うるせぇ、バーカ!」って答えるんだ。
僕の大好きな、とびきりの笑顔で。






  




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