いつもの場所でいつものように仕事を終えて、局へ戻って明日の打ち合わせを済ませ、家路に着こうと駐車場へと急ぐ。くたくただから早く寝たいなーなんて思いながら、上着のポケットから車の鍵を取り出した。夏場ならまだ少しは明るい時間だが、真冬ともなるとさすがにとっぷりと日が暮れてしまっている。でも外へ出てみると、いつもより明るい気がして、空を見上げた。
「………うわ………」
思わず声に出してしまうくらい見事な月が、雲ひとつない濃紺がかった黒の空に、ぽっかりと浮かんでいた。仕事が外だったとはいえ、ビルばっかりの街中で明るかったから、ちっとも気付かなかった。
「………勿体ないなあ、一人で見るの………」
一人呟いて、彼を思い出した。ここのところ忙しくて、仕事で一緒になれてもゆっくり話す暇も無かったっけ……。今どうしてるだろう。仕事中かな?電話してみようか…。
携帯を取り出し、かけてみた。
『顕ちゃん?』
ワンコールも鳴り終わらないうちに繋がって、ビックリしてしまった。
「た…琢ちゃん?どうしたの?」
余りに早く出たことに驚いて、自分からかけておきながら逆に聞いてしまう。
『…こっちが聞きたいよ。どしたの?』
琢ちゃんは少し呆れ声で。当たり前だよな…。
「…うん、特に用とかじゃないんだけどさ。あ、今どこ?」
『仕事終わって、今帰ってきたとこ』
「そっか。空、見た?」
『見てるよ、今』
「え?」
『車庫に車入れて部屋行こうとしたら、明るいなって思って……綺麗な月だよね』
同じ時間、同じことを彼も感じていたことに、驚いた。
「…うん、綺麗だったから…見せたいなって思ったんだ。それで……」
『………………』
黙ってしまった。ひょっとして呆れてるんだろうか。
「琢ちゃん?ごめん、疲れてる?切ろうか?」
『あっ、違うんだ。………俺もそう思って、電話……しようと思ってたから』
少し、照れたような声。ワンコールもしないうちに出たのは、そのせいだったんだ。
「…琢ちゃんの顔、見たいな。行ってもいい?」
『………うん』
綺麗なものを見つけたとき、素敵なことに出会ったとき。真っ先に思い出すのは、いつも君のこと。
――――――こんな風な、日常。
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