『  空  』






 琢ちゃんが居ない。
どこにも居ない。もう十何年も当たり前のように必ずぴったりと自分の側にいたのに、どんなに周りを見渡しても見当たらない。
そりゃあそうだ。だって音尾はいま東京に居るんだもんな。
自分に何度もそういい聞かせてみるが、でもやっぱり気付くと俺は視界の中に琢ちゃんを捜している。
こんなに離れていた事って……今まで無かったよなぁ。
 ぼんやりとそんなことを思いながら、今日も俺は事務所の中でスケジュールの確認をしながら無意識に琢ちゃんの姿を探してしまい、小さく溜息を吐いた。
「あれあれ、調子悪いの? 安顕。」
同じくスケジュールの確認に来ていたシゲがひょいっと俺の顔を覗き込んだ。
「…………。」
答えるのが億劫なので、ただ黙って首を横に振った。
「いつにも増して暗黒面が増大してますよー、顕ちゃん。」
――――――俺はジェダイじゃねえぞ、馬鹿野郎。
シゲは機嫌が良いらしく、更に話しかけてくる。
「音尾が居ないからってそう落ち込みなさんな! あともう少しの辛抱だべや。」
へらっと口許に意味深な笑いを浮かべてそう言うと、ふらりと出ていった。
お前は良いよな、シゲ。
いくら大泉が忙しいからって、アイツ結構マメにメールしたり電話したりしてくるらしいじゃねえか。
しかも同じ番組で一緒の行動なんてのもザラだし。
お前はそうやって余裕ぶっこいてられるだろうけど………俺はそんな風にはなれっこないよ。
恨めしげな視線を足元に落として、またもやぼんやりと考える。

琢ちゃんに………会いたいなあ。


 「音尾、今平気?」
その日の夜、耐えきれなくなって俺から電話してみた。
忙しいから…と思って今までは電話をかけたりはしなかったが、そうすると音尾琢真ってヤツはいつまでたっても音沙汰無しだ。
たまに簡単な近況メールは届くけど、やっぱり俺としては琢ちゃんの声が聞きたいよ。
痺れをきらし自分から電話をしようと携帯を手に取ったものの、やっぱりかけるのに色々と悩んだ挙げ句、一時間近くも携帯を握り締めていた。
掌からじわりと滲み出た変な汗で携帯はベトベトしていて、しかもしっかりと握り締めていたせいで本体がなまら熱くなっていた。
『おお、安田さんじゃあないスか〜! うん、今大丈夫だよー。さっき帰ってきたとこなんだ。』
良かった…と思わず小さな声で呟いてから、他愛もない日常会話を少しする。
琢ちゃんは疲れているだろうに少しも嫌な声を出さないで、楽しそうに自分の近況報告をしてくれた。
『そうそう、スタッフがもの凄〜く優しくしてくれてさあ。うん、そう。共演者の人達にも可愛がって貰ってるよ。』
屈託のない声でそんな事を言ってくる。
そりゃあ可愛がられるだろうよ。だって琢ちゃんだもんな。
いたたまれなくなって思わず無言になってしまう。
『あれ? どしたの、顕ちゃん。』
俺が急に喋らなくなってしまったので、慌てて聞いてくれた。こう言うところが可愛いんだよ、お前。
「あー……ごめんごめん。なんかさ、琢ちゃんの楽しそうな声を聞いてたら……その………何ていうか、そっちの共演者達が羨ましくなっちゃってさ………。」
ぼそぼそと呟くと、途端に電話口から琢ちゃんのころころと笑う声が聞こえてくる。
『なんだよそれー! 顕さんってばヤキモチやいてんのー? もう、無類のおバカさんですな!』
…………いや、お前にだけはそれ言われたくねえぞ、音尾。
口ごもりながら否定とも肯定ともつかぬ言葉を呟いていた俺の耳元に、琢ちゃんの甘い囁きが飛び込んできた。
『そんなに淋しいなら暇な時に会いに来ればいいじゃん、顕さんってば。』
「いいの!? マジでッ!?」
びっくりして速攻で返事したら、琢ちゃんがまたけらけら笑っていた。
『いいよ〜。どうせ今。浜松公演まで間が空いてるから暇なんでしょ? 俺はいいよ。つっても夜くらいしか会えないけど。』
降って湧いたような幸福。そんな言葉がぐるぐると頭の中を巡る。
………人生って、捨てたもんじゃないよな。つくづく今そう思ったよ。
 俺は有頂天でスケジュール帳を確認した。仕事の合間に幾つかオフが入っている。
「行く! 一泊でもいいからそっち行くわ! 遊びに行く!!」
声がうわずっていた。我ながら情けない。
『解った〜。日にちとか決まったらまた連絡頂戴ね。あ、それから俺が今泊まってる部屋、なまら狭いけどいい?』
狭かろうが古かろうが構いやしねえよ! 会えるだけで充分ってもんだ!
そんな事を叫んでから慌てて口を押さえた。こんな深夜に大声出したら、近所迷惑だよな。

ああ………電話してみるもんだなあ。今まで俺、一体何を頑張って意地を張ってたんだろう………。



 散々全国ツアーで各地を回った割に、身体はこの暑さと湿気には順応していないようだった。
飛行機を降りた途端、そんな事を思った。
いや待て……意外と名古屋の暑さや仙台の梅雨なんかも平気だった筈。やっぱり一旦地元の環境に戻っちゃうと駄目って事なんだろうな。
幸いなことに建物の中や電車の中なんてのは寒すぎるほどに冷房が利いて、本当に鳥肌がたつくらいだ。これは外に出たときの気温差が凄そうだな……と思いながら、窓の外に広がる景色を見つめていた。
時刻はもう夕方。朝から昼近くまでは仕事が入っていたのではやる気持ちを抑えながらそれらを片付け、慌てて飛行機に飛び乗った。
こんなドキドキわくわくした気持ちは実に久し振りだ。
あと数時間もすれば琢ちゃんに会える。
そう思うだけで俺は誰彼かまわず捕まえて、音尾の可愛さ素晴らしさについて語り出したいくらいだった。
勿論それをやったら変態・安田の名に更に危ない人の烙印を押されそうなので、静かに我慢したが……。
 窓の外を流れていく家並みが静かに夕暮れに染まっている。こんなに線路に隣接していて、しかもほぼ全てが瓦屋根の家々に、異国に来たような違和感と興味を掻き立てられた。
空は赤々と燃えていた。

 ホームに降り立った途端、何とも言えないもわっとした熱気にくらくらときた。今までクーラーが利きすぎていただけに、やはりこの天国と地獄くらいの気温差にめまいを起こしそうだったが、これも全て琢ちゃんに会えるならなんの障害にもならないさ。
電車を乗り継いで待ち合わせの場所に到着した頃には、既に日も落ちて薄暗くなっていた。それでもやっぱり蒸し暑い。
額から静かに流れ落ちる汗を手の甲で拭い、琢ちゃんが指定したコーヒーショップを目指した。
平日とは言え凄い人の波が行ったり来たりしている。
どこからこれだけの人間が来るんだろうなあ……なんてやや呆然としながら人の流れにもみくちゃにされ、自然に暑さも増していく。
ようやく目指す場所を見つけてほっと一息。流れる汗はもう既に滝の如しといった感じだ。
壁一杯がほぼガラス窓になっていて外がよく見渡せるようになっているカウンター席に座り、アイスコーヒーを注文しながらハンカチで汗を拭った。
程良い冷房と冷たいコーヒーが火照りを覚ましてくれる中、窓の外を忙しなく行き交う人達をぼんやりと眺める。
この人の波の中から琢ちゃんが現れるのを期待して、少しでも似た背格好の奴を探しながら。
もっとも待ち合わせした時間にはまだちょっと早いから、今すぐ現れるわけはないんだけどさ………。
 そうこうしてるうちに待ち合わせの時間は過ぎていった。既にグラスは空っぽで、今度はホットコーヒーを頼んでみる。
もう撮影に入ってるらしいから、きっと押してるんだろう。だけど今日はあまり遅くならないって言ってたんだけどなあ。
待ち合わせ時間を一時間近く過ぎても琢ちゃんはまだ現れなかった。勿論メールも来ない。
これはあと数時間待たされるかもしれないなー…なんて腹をくくる準備をしながら、やっぱり何となく惰性で外の人の流れを見続けた。
音尾によく似た人影を見つけるたび、ぱっと顔を輝かしてしまう自分が心底恨めしい………。
すっかり日も暮れたというのに街は明るい外灯で輝き、行き交う人の姿形も結構はっきりと見える。
そしてまたもや似たような背格好の奴を発見した。
今度の奴はまた本当に音尾によく似てるなあ……………目の離れ具合まで、バッチリじゃん。
って、音尾だ!
琢ちゃんだ!!
気が付けば俺は窓ガラス越しにブンブンと手を振り、満面の笑顔だった。
音尾も気付いたのか笑いながら小さく手を振って俺の前を通り過ぎた。
もうすぐ音尾がやってくる。俺の目の前に本物の琢ちゃんがやってくる。
そう考えたら居ても立っても居られなくなって、入り口の方を凄い勢いで振り向いた。
――――――俺の回りに居た客が数人、いかにも怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。
でもそんなこたぁ、俺ぁもうどうだっていい!
「……お待たせ〜、遅くなってごめん顕ちゃん! 撮影ちょっと押しちゃってさ。」
急いで来たのか音尾も少し汗をかいて、それでも満面の笑顔で俺の側に立っている。
俺は感動のあまり、暫く無言で音尾の顔を見つめた。
懐かしいハナレっぷりも笑顔も健在だ。少しばかり疲れていそうな感じもするけど、でもやっぱり音尾だ!
「あれー……どうしたんですか安田さん…………そんなに僕に会えて嬉しいですかー?」
にっと笑う顔を見つめながらそれでも無言で音尾を見つめる。
「やだなあ顕さん、黙ってばっかりで。」
だってお前…………久し振りの本物の音尾じゃねえか。感動して口聞けなくなっちまったっていいじゃねえか!


 「しっかし安田君ってば、荷物それだけ? 相変わらずだよね〜アナタって人は。」
取り敢えずメシでも食おうと入った近場の居酒屋で、琢ちゃんは俺の隣りに置いてあった俺の手荷物をやや呆れ気味ながらも面白そうに見て、そう言う。
確かにリュック一つで中身はパンツ一枚と文庫一冊ってなもんだ。ちょっと旅行に行くってよりは、ちょっとその辺散歩してくるわ……くらいな感じだけど、俺はこの身軽さが信条だ。
「パンツくらいは持ってきてるぞ。昔よりはマシだって。」
そう言うと、音尾は箸を持ったままけたけたと笑い出した。
「あ〜れはねえよなー、顕ちゃん。漫画本一冊しか持たないでうちの実家来んなよ!」
屈託のない笑顔が心底可愛い。
今すぐここで食っちゃってもいいですか? ってくらい、魅力的な笑い顔だ。
思わずくいっと猪口を煽り、きゅーっと辛口の酒を喉に流し込んだ。
酒の肴に琢ちゃんの笑顔。これ以上ないってくらいの極上のつまみだね。
ほろ酔いでそんないい雰囲気に浸っていた俺だったが、やがてそんな気分に少しばかり暗雲が立ちこめてきた。
「でさ、顕ちゃん……内野さんがさ………って、聞いてる? ねえ安田さんってば!」
上機嫌の琢ちゃんの口からはさっきからその名前ばかりがやたらと飛び出してくる。今回の時代劇の主役を務めている人の名前だ。
大層可愛がって貰っているらしくて、琢ちゃんの話は終始その名前で始まりその名前で終わる。
他の出演者の名前もチラホラ出てくるが、大部分は主演の方の演技がどれだけ素晴らしいか、格好良いか、そしてどんなに良くして貰っているかを熱く語る琢ちゃん。
―――――これって俺としては少々面白くない。
でもここであからさまに不快感を顔に出しては折角の今夜も台無しになりそうで、俺はいつもよりも相槌を多くしながら熱心に聞いているフリをした。
正直…………そんな話どうでもいいよ、琢ちゃん。


 メシを終え、店を出た。
あれだけ人がごった返す繁華街だというのに、少し行けばわりと古めの民家が並ぶ住宅街だった。琢ちゃんが使っているウィークリーマンションもそんな住宅街にあるらしく、そんなに遠くないので二人で並んで歩いた。
折角のいい雰囲気の中、手でも繋ごうかなーなんて思っても……音尾はずっと撮影現場の話を楽しそうに続けている。
気が付けばもうマンションの前。
見てくれは普通の中古マンションのようだし、なかなか良い感じの建物だった。
部屋に入ると成る程、確かに狭いねこりゃ。
入ってすぐにトイレとキッチン兼通路といったもの、続いて浴室兼洗面所が付いていて、その奥にベッドが一つとテレビと小さなテーブル。
部屋の広さは八畳よりやや大きいくらいで、音尾の荷物が乱雑に投げ捨ててあるせいか更に狭く見える。
「狭いけど居心地はまあまあいいんだよねー。ゴキブリ出るのが怖いけど。」
音尾がどさっとベッドの上に手荷物を放り投げながら笑った。
「………マジで? ゴキブリ見たの!?」
流石におっかなびっくり聞いてみると、琢ちゃんも苦笑いしながら頷いた。
「なまらびびったよ。結構でかいわけさ、コレが! しかもなんかカサカサいってて、なーまら気色悪いって。」
思わず床をあちこち見回してみる。取り敢えず音尾の衣服が散乱してるくらいで、蠢く物体は見当たらない。
「あー大丈夫大丈夫。まだ一回しか見てないから。まあその辺座ってよ。」 
床にどかっと座り胡座をかいてみた。ゴキブリも怖いけどでも何というかまぁ……正直なところ落ち着かない。気分的にはこのまますぐにでも押し倒したいし………いや、でも琢ちゃんはそんな気更々無いのかもしれないし。何だか一人で悶々としながら、いついい雰囲気になだれ込もうかと考えている俺の様子に気付こうともせず、琢ちゃんは何やら通路に置いてある冷蔵庫を開けてごそごそと中を漁っていた。
「…あー……やっぱり何にも無いべや。飲み物もなんも全部飲み尽くしてるわ、俺ってば。」
ばたんと扉を閉め、俺の方を見る。
「麦茶もジュースもビールもなんにも無い。顕さん先に風呂入っててよ! 俺ちょっと裏のコンビニ行って調達してくる。」
バタバタと台所から戻ってきて、座ってる俺の膝を豪快に跨いで行く。
「いや、一緒に行くよ俺も。」
出来れば風呂は一緒に入りたいし……折角会えたんだから少しでも一緒にいたい。
そんなささやかな俺の思いを、やっぱり音尾は微塵も感じ取れないらしい。
「いいって! 汗かいてベタベタのままじゃ気持ち悪いべや。バスタオル適当に使っていいから、シャワーでも浴びてさっぱりしてきてよ。」
満面の笑顔でそんなことを言われては敵わないわけで……俺はすごすごと床に放置してあるバスタオルの一つをひっつかみ、浴室へと向かった。
 中に入ってみれば見事に狭い。どう考えたって大の男二人でいちゃいちゃ出来るスペースなんかありゃしない。
浴槽のすぐ隣りに小さい洗面台らしきものがくっついていたりして、ここでエッチ何ぞしようもんなら腰か背中をすぐにぶつけてしまいそうだ。
琢ちゃんが一緒に風呂に入ろうなんて微塵も考えつかなかったのが少し解って苦笑いを浮かべながら、ぬるめのシャワーを浴びていた。

 「じゃあ俺も入ろうっと。冷蔵庫にビール入れといたから、勝手にやっててね〜安田くん。」
浴室から出るなり、シャツを脱いだ半裸の琢ちゃんが俺の横を猫のようにすり抜けていった。
………そんな無防備に美味しそうな肉体美を晒していいと思ってんのか? 今すぐここで押し倒してやってもいいんだぞ、音尾。
浴室に消えていった実に綺麗な逆三角形の背中の余韻に浸りながら、ぶつぶつと独りごちた。
いや、俺も腰にタオル巻いただけの実に男らしい格好だから、人のことは言えない。でも最近の俺ときたら自慢のマッスルボディーも幸せの贅肉に圧されてナリを潜めているくらいだし……琢ちゃんのきりっと均整のとれた筋肉質な身体と比べちゃあいけないわけなんだが。
ここは一つダイエットも兼ねて、今夜は熱〜い夜を過ごしたいもんだねえ………。
口許に小さな笑みを浮かべつつ、俺は出してきた缶ビールを歩きながら開けてぐいっと煽った。
更に琢ちゃんのベッドの上にどっかりと座り、ぐいっともう一口。
そのままぐいぐいと喉に流し込む。
夏場の風呂上がりビールは格別だ。ましてやもうすぐほっかほかの琢ちゃんが俺の前に現れるかと思ったら、興奮してきて飲まずにいられるかってもんだ!
さあ来い音尾! 今夜は組んずほぐれつの熱い肉弾戦でメロメロにしてあげちゃうよバカヤロウ。
 先に一人で盛り上がってビールも二本目に突入した頃、熱気でピンク色に茹であがった可愛いおサカナさんが浴室からようやく出てきた。
「あっちー……俺もビール飲もうっと!」
くるりと背中を向けて冷蔵庫を開ける音尾。
この角度で見ると綺麗な背中がそそるんだよな〜って……………あれ?
―――――何で浴衣着てるのよ、お前。
まるでビジネスホテルなんかに備え付けてあるようなペラっペラの浴衣を着て、音尾はビールを手にご機嫌で俺の隣りに腰を下ろした。
「………お前……何でんなもん着てんのよ…………」
睨め廻すように見てやるが、当の音尾はあっけらかんとしている。
「何でって……パジャマ持ってきてねえし。洗濯してねえから替えのシャツもそろそろやばいのさ。せめて撮影所行くときは汚い服で行けないから大変よーもうっ。」
ぐびっと飲んでからへらっと笑った。
「いやー…………あのさ音尾くん、そうじゃなくて。別に寝るときに浴衣着ることねえべや今更。」
どうせ脱がすんだからいんだけど、やっぱり少し気になって聞いてみる。
もしかして琢ちゃん……無言で牽制してんのかな? なんて、考えたくないけど根暗な考えが頭をよぎっていた。
「………一々うるせえんだよ、顕さんは〜。こんなクーラーガンガンかけてる部屋で裸で寝て、風邪でもひいて撮影に支障きたしたらどうすんのよ、あんた責任とってくれんの?」
ちょっとムッとした表情に変わった音尾が口を尖らせた。
―――――いや、言い分は解るけど。解るけどその言い方はないべや、琢ちゃん。俺、しっかり傷ついた………。
そっか……そうだよな。琢ちゃんは今大事な大事な仕事の最中なんだし………風邪なんてひいたら一大事だよな。
すっかり気分が滅入って、持っていた缶ビールをちびちびと啜る。
心も口の中もほろ苦い味で一杯だな………。
「なんだよ顕ちゃん、急にテンション下がっちゃって! あなたは浴衣がお嫌いですかー?」
鈍感な音尾も流石に少し言いすぎたと思ったのか、ふくれっ面だった顔を笑顔に変えて話しかけてくれた。
「…………嫌いじゃねえよ、好きだよ。」
中身の方がもっと好き…と言いかけて止めた。
「じゃ、いいじゃん!」
琢ちゃんはくいっと勢い良く缶を呷って喉を鳴らしてビールを飲んだ後、俺に笑いかけた。
この笑顔さえあれば、俺は何にも必要ないかもしれない。
そんな事を思いながら、俺も精一杯笑ってみせた。

 琢ちゃんが新しいビールを冷蔵庫から出してきて、また俺の隣りにすとんと座った。ふわりと漂う石鹸の香りにくらっときそうになりながら、ビールを受け取る。
指がほんの少し触れただけで、身体が熱くなってくる。
そろそろ………本格的に本能に火がつきだしてる。頃合いを見て押し倒してもいいよな……そんな事ばかり考えて頭の中がぼうっとしていた。
「―――ねえちょっと、聞いてるの? 安田さん!」
慌てて聞いてるよ、と返すと琢ちゃんはまたにこにこしながら撮影所の話をしだした。
「そういえばこの前さー、内野さんと殺陣をやったんだけどさぁ……男ながらあの人はもの凄く格好良いよ、マジで! 惚れちゃいそう、俺!!」
話題がまた件の方になっていた。さっきまでは色々な役者さんの話だったのに……。
「また内野さんの話? 琢ちゃん、随分と惚れ込んでるみたいじゃあないの………」
ちくりと嫌味を言ってみた。なのに琢ちゃんは全然気付かず、笑顔で肯定した。
「いやー、憧れますよあの方には! 顕さんも絶対に惚れるって! とにかく格好良いから!」
駄目だ、全然解ってねえ……コイツ。
そう思ったらかーっときて、缶の中身を勢い良く呷った。
駄目だ、どうしよう。むかついているのかな、これ。いや、悲しい………もの凄く頭に来てるのに、切なくて……悲しい………。
どうして俺ははるばる飛行機に乗って会いに来て、余所の男の話を延々聞かされなきゃならんわけ。
会いたくて会いたくて必死の思いでここまで来たのに、自分以外の男に「惚れそう」とか言われて、俺はどうすればいいのよ。
俺は久し振りにいちゃいちゃしたいんだってば、音尾!
口にしたくても出来ない想いが胸の中で渦を巻いていた。沸々と何かが音をたてて煮えたぎり始めている。
襲いかかってくる感情の波を必死で抑え込もうと頑張っていた俺の耳に、脳天気な音尾の一言が突き刺さった。
「なんだよー顕ちゃん、やっぱり聞いてないの? 内野さんが……」
その名前を聞きたくなくて、気が付いたら言葉を遮るように琢ちゃんをベッドの上に押し倒していた。
「……なっ……何すんだよ! 頭でもぶつけたら危ないだろ!」
きっと睨み付けた顔を無言で真上から見下ろす。
頭の中でぶちぶちと血管の切れる音が聞こえたような気がした。いや、もしかしたら理性が切れる音だったかもしれない。
更に何か言いかけようとした唇を自分の唇で乱暴に塞いだ。
強引に唇を我って舌をねじ込み、逃げ回る舌を捉えて絡めてやる。
俺の下でバタバタと暴れる身体を無理矢理抑え込みながら、唾液を絡ませては何度も執拗に唇を貪った。
徐々に力が抜けていく身体に指を這わせながら浴衣の襟を大きく開かせ、今度は首筋に唇を滑らせた。
「け………顕……ちゃ…っ……………何をいきなり……………………」
困惑しながらも、唇が肌に押し当てられるたびに可愛い声を漏らしてびくっと震える。
そんな様子が可愛くて………でも憎たらしくて、自分でも訳が解らないような嗜虐的な思いに駆られていた。
腰に適当に巻き付けてあった浴衣の紐を乱暴に解いて引っ張ると、浴衣が大胆にはだけてきりっと引き締まった琢ちゃんの肌が露出した。
「……ちょっと………待…っ……………なんか顕ちゃん…………怖いよ………………」
普段はぽやーっとして鈍感な琢ちゃんも何かを感じ取ったらしく、慌てて俺に背中を向けて逃げようとした。
咄嗟にその腕を取って背中側に捻りあげ、逃げられないようにしてから更に反対側の腕も掴む。
柔道で培った技を生かして寝技のように動きを封じ、後ろ手にしてから帯で両手首を縛りあげた。
「うわッ! 顕ちゃん何してんのさっ!? 止めろよ馬鹿野郎!!」
手首に跡が残らないように少し緩めに縛ったものの、抜けないようにしっかりと固定してから、喚きまくる琢ちゃんをじっくりと眺めた。
「顕さん………酔ってる?」
戸惑いの表情を浮かべながら恐る恐る聞いてくる。
そうだね、俺少しばかり酔ってるかもね。うん……酔ってるから今日の俺は何するかわかんないよ、琢ちゃん。
そう思ったら思わずにやりと口許が緩んだ。
「……うるせえぞ〜、音尾。お前さっきから内野内野ってうっせえから………お仕置きしてやる。」
わざと低い声で呟くと、また琢ちゃんが喚きだした。ふざけんなとかいい加減にしろとか…ああ五月蝿い。
「………いいのか〜い、音尾くん。ここ、壁が薄くて両隣に声が筒抜けとか言ってませんでしたか〜?」
何だか楽しくなってきて、思わずニヤニヤしながらシーツに突っ伏してる琢ちゃんの顔を覗き込んだら、見事に真っ赤な顔をして睨み付けてくる。
ぺろりと頬を舐めてから、ちゅっと音をたてて首筋に口付けた。
案の定びくっと震えてしまう身体が可愛い。
梳かさず後ろから抱き締めて浴衣の中に指先を這わせた。
すべすべの肌をねちっこく撫で回して、徐々に胸元の突起に近付く。
「……や…っ…………やめ………っ………何でこんな……っ……………」
琢ちゃんは息も絶え絶えといった感じで甘い声をあげながらも、必死で耐えようと頑張ってる。
………小賢しい。
「お仕置きだって言ってんだろー………撮影に支障が出るような跡はつけねえから、安心しやがれ………」
またもや牽制するように低い声で呟いてやる。
「な……なんで…っ……………お仕置きなんか………………」
早くも琢ちゃんは半泣きだ。
でもお構いなしにいやらしく撫で回し続ける。指先がいよいよお目当ての突起に辿り着きそうだ。
ゆっくりと円を描くように爪先で弄くりながら、思う存分焦らした。
琢ちゃん……乳首感じやすいから、もの凄く甘い声をあげてくれるんだよね……。
「や……安田の…………馬鹿やろ……っ…………」
甘い声の間に罵声を入れてくるなよ、おい。
散々触れそうで触れないくらいに弄くり回し、琢ちゃんが焦れるのを楽しんでからそっと指の腹で触れてみた。
「……ひ…………あ…ッ……………」
小さく仰け反る。
「ココ………大好きだよねー………………琢ちゃん………………こんなに固くしちゃって。」
耳元でそっと囁くと、琢ちゃんはより顔を赤くして小さく震えた。
そんな様子を目で楽しみながら、そっと指先で摘んだり捏ねたりして更に可愛らしい声をあげさせる。
「顕……ちゃん…………手を解いて…………………」
そんな哀願が俺の耳に心地いい。何だか癖になりそうだなあ……。
「―――駄〜目。解いちゃったらお仕置きになんねえじゃん。」
そう言いながら琢ちゃんの身体を抱き起こして、俺の脚の間に座らせる形で抱き締める。こうすると身動きの取れないままの琢ちゃんは俺に背中を預ける格好になる。
今度は左手で琢ちゃんの左胸を弄ぐりながら、右手をゆっくりと降ろしていき、脇腹辺りを優しく撫で回した。
ダイエットと殺陣で鍛えられたのか、また琢ちゃんの身体は引き締まったみたいで……腹筋が指先に心地いい感じだ。
その殺陣が例の男と……と思っただけで、またもや焦燥感にも似た嫌な感情がどっと押し寄せてくる。
腹筋を弄ぐっていた手を今度は下着の上に滑らし、じわじわと攻めるように触り始めた。
下着の上からでもはっきり解るくらい膨張している琢ちゃんのモノを爪先で引っ掻くように触ると、腕の中の身体が跳ねた。
更に布地越しに刺激を与え続ける。
次第に荒い息を漏らしながら、琢ちゃんが腕の中でしきりに身体を捩った。
「け………顕ちゃ……………」
焦れったい愛撫にどうしていいか解らなくて、琢ちゃんが喘ぐ。そんな姿もいつもと違って、より一層そそられるね。
いつの間にか布地にはしっとりと濡れた染みが浮き出ていた。
ここにきてようやく俺は下着の中に手を突っ込む。でもやっぱりねちっこくいやらしく侵入して、固く凝っている琢ちゃん自身には触れずに、その下にあるモノを指先でやわやわと揉みしだいてやる。
「……や…っ……………ちが……っ………………顕ちゃ…ぁ……ん…………………」
てっきりいつものように触られるとばかり思っていたんだろう琢ちゃんは、うっすらと目に涙を浮かべて懸命に俺の方に顔を向ける。
俺はと言えば素知らぬ振りをして黙ったまま、黙々と行為を続けるのみだ。
――――そう簡単には許してやらんからな……音尾。

 一旦手を止めて俺はベッドの下に転がっていたリュックを拾い上げた。
中身はさっきも言ったとおり殆ど空に近いが……でも大事な物だけはちゃーんと持ってきてある。
愛用のローションを取り出してからリュックをまた足元に放り投げ、さっきより染みが大きく広がっている下着に手を掛けると剥ぎ取った。
やや無抵抗になりつつある琢ちゃんを後ろから抱え直し、膝を立たせて大きく開かせた。
たっぷりと手に取ったローションを奥まった場所に丁寧に塗りつけ、更に自分の指にもふりかけて準備はオーケィ…ってところだ。
最初は入り口に指先で触れてみる。
それから徐々に宛った指を中へと押し入れた。
途端に琢ちゃんの身体が硬直し、口から小さな悲鳴が漏れた。
「痛かった?」
琢ちゃんは微かに首を横に振りながら、小さく呟く。
「痛くは……………ないけど……」
明らかに困惑した顔で俯いていた。
何だか少し可哀相かな…なんて思うけど、乗りかかった船だ。取り敢えず続けてしまおう。
少しずつ指を奥へと潜り込ませ、頃合いを見計らって蠢かせると……琢ちゃんの口からは本当に極上の喘ぎ声が上がった。
ぐちゅぐちゅと淫らな音をたてて中を弄くり回すたびに奏でられる、甘くて切ない吐息混じりの声。
慣れたソコが俺の指を呑み込んだまま、静かに締め付けては蠢いている。まるで早く俺のモノを欲しがっているみたいに……。
「………琢ちゃん………気持ち良さそうだね。」
何も触られることなく放置されたままの琢ちゃん自身からは、透明な蜜が幾つも幾つも玉となって溢れては滴り落ち、淫らな輝きを放っている。
「ちが…っ…………やだ……………こんなの……………やだって……………」
上気した頬の上を今度は別の雫が滴り落ちた。
頬を伝う涙をそっと舌先ですくい上げ、俺は低く囁く。
「――――じゃあ、どうして欲しい?」
意地悪い質問だとは重々承知だ。だけど今はその口で言って欲しい。
別の男の事ばかりを褒め称えていたその口で、哀願して欲しい。
くちゅ…と中に埋もれた指を動かして軽く内壁を擦る。
当然ながら琢ちゃんは甘い吐息を漏らす。
「……ほら…………言わないとなんにもしてあげないよ………………」
ぐちゅ…
更に弱い部分を抉るように弄くる。琢ちゃんは小さな悲鳴を漏らした。
「………俺の…………ちょっとでいいから…………触ってよ………………お願いだから…ぁ……」
俯きながら、本当に小さな声で屈辱の言葉を吐いた。
「イかせて欲しい?」
その言葉にビクッと身体を震わせながら、琢ちゃんは小さく頷いた。
「――――いいよ。沢山苛めちゃったから………沢山気持ちよくしてあげるよ…………」
奥底に指を入れたまま、もう片方の手でそっと琢ちゃんのモノに触れた。先端から滴り落ちていた蜜を指先に塗りつけ、最初は優しく撫で回してやる。
熱い吐息を漏らす琢ちゃんの首筋に舌を這わせながら、やがて掌で熱く固く凝ったモノを包み込み、優しく扱いてやる。
腕の中で琢ちゃんが甘い悲鳴を漏らしながら身体を震わせていた。
大きく脚を開かされた恥ずかしい格好で奥底俺の指を受け入れながら自身を扱かれ、最早言葉らしい言葉も出ないのか、苦しそうに艶めかしく喘ぐばかりだ。
普段の時やお芝居の時の良く通る声からは想像つかないくらい、可愛くて柔らかな甘い啼き声に背筋がぞくぞくっとくる程、感じてしまう。
こんな可愛らしい琢ちゃんは………俺だけのもの。
誰も知らないよね、琢ちゃんがこんなにもいやらしく感じちゃう身体だなんてさ………。
愛しくて、でももっともっと支配したくて……つい琢ちゃんがイきそうな気配を見せると手の動きをセーブしては、その口から漏れる可愛らしい哀願を楽しんでしまう。
俺って………意地が悪いね、きっと。
 散々目と耳で楽しんでから、ようやく俺は琢ちゃんを開放するべく慈しみを篭めて扱いてやった。
腕の中で琢ちゃんは頭を仰け反らせ、目をぎゅっと瞑ったまま小さな悲鳴をあげて身体を強張らせる。
結構な量の液体が掌の中に放たれて、少しだけ俺の気持ちも開放された気がした。
………もしかして俺に会うから、自分で慰めるのを少し我慢しててくれたのかな。
そんなことを思いながら、どくどくと溢れ出た白いソレを丁寧に舐めた。
久し振りに味わう、琢ちゃんの味だった。


 くたっとしてもたれ掛かっていた身体を一旦離す。琢ちゃんは意識朦朧としていて、そのままベッドの上にゆっくりと沈んでいった。
もうそろそろ両手を開放してあげようかと思ったがこんな機会は滅多にないわけだし、もう少しだけ苛めたい欲望が勝って結局はそのまま放置した。
さっきから臨戦態勢バリバリの俺の息子を解き放つべく、下着をズリ降ろす。
他の連中にゃ小さいだの包茎だのと散々な事を言われているが、いざとなったら結構いい仕事をしてくれる俺の可愛い相棒だ。
今日も元気に膨張率100%って感じのソレを、シーツの上に俯せで倒れ込んでいる琢ちゃんの鼻先に近付けた。
琢ちゃんはうっすらと目を開けてぼうっと俺の息子を見てから、上目遣いで俺を見た。
とろりとして何ともいやらしい顔をしている。
「……琢ちゃん……………」
琢ちゃんは黙って俺を見上げていた。
「さっきのお仕置きの続きだよ…………」
琢ちゃんの上半身を抱え上げ、俺の脚の間に持ってくる。それでも琢ちゃんはまだ先程の余韻のせいかぼんやりとしていて、事態をよく把握していないみたいだった。
「お口……開けて、あーんしてご覧…………」
ようやく俺の言葉が届いたのか、琢ちゃんは慌てて首を横に振った。勿論口をしっかり閉じている。
俺は優しく頭を撫でながらもう一度同じ言葉を繰り返したが、琢ちゃんは泣きそうな顔をぷいっと横に背けた。
「………駄目だなあ…………ほら、お口開けて。」
背けた顔をこちらに向き直させ、左手で頬を撫でてから顎を支えるようにし、右手の指先を唇の上に這わせた。
ぷるんと柔らかい唇の手触りが気持ちいい。
そのままちょっとだけ強引に指を割り込ませ、口の中をくちゅくちゅと掻き回す。
唾液をたっぷりと絡ませるようにして優しく刺激してから、すっと指を引き抜くと唾液が細く糸を引いてきらきらと光りながら消えた。
そうしてから唾液でいやらしく光っている唇に、息子の先端をそっと押し当てた。
強制は……したくない。でもその口で……愛して欲しい。
先端から溢れている液体を塗りつけるようにゆっくり唇をなぞると、可愛らしい唇を更に艶やかに彩った。
何度かゆっくりと擦り付けると、琢ちゃんは涙目で俺を見上げてから、そっとその口を開けてくれた。
怖ず怖ずと舌を伸ばし、溢れてくる先走りを舌ですくい取ってから、その口の中に俺のモノを含む。
その様子はまるでスローモーションのようだった。あまりにも健気で、しかもいやらしいこの光景は、俺の眼球から脳髄にしっかりと焼き付けられ、同時に背筋からは電気のようなものが走り抜けて強烈に俺を震わせた。
思わず涙が零れそうになる。
とにかく嬉しくて、雄叫びを上げてしまいそうなほど猛烈な可動にうち震えていた。
「琢ちゃ………ん………………すげえ……………すげえよ、なまらお前……可愛い………………………」
呪文のようにそう呟きながら、辿々しい舌使いで俺のモノをしゃぶり始めた琢ちゃんの頭を撫でた。
決して上手とは言えないけど、琢ちゃんが必死に俺のモノを愛撫してくれているかと思ったら嬉しくて……益々息子に血液が集まり、逆流してしまいそうな勢いだ。
いつまでもこの最高の光景を見ていたいけど、やっぱりそれは可哀相だから………俺は慌てて琢ちゃんの顔を両手で離した。
きょとんとした顔で見上げた琢ちゃんは、口から唾液とも俺の先走りともつかない透明な液体を幾筋も滴らせていて、本当に扇情的だった。
はやる気持ちを抑えながら抱え起こして両手を拘束していた紐を解いてやる。
しゅるしゅると音をたてて琢ちゃんの手首から離れた紐はそのままベッドから床へと滑り落ちていった。
「………ごめん、琢ちゃん。痛かったよね………………本当に、ごめん。」
ぎゅっと抱き締めると、琢ちゃんは小さな声で呟いた。
「……………やめてよねー…まったく。顕さんじゃなかったら俺、絶対大暴れしてるよ……………」
そう言ってはにかんで笑った。
そんな笑顔がまた愛しくて、俺はもう一度ぎゅっと腕の中に抱き締めた。
好きだ。
琢ちゃんが大好きだ。
一時も早く一つになりたい。
想いが溢れてきて、鼓動が早鐘を打つ。
抱き締めたまま押し倒し、両脚を抱えて大きく開かせた。
怒張した息子をさっきまで指で弄びながら慣らした場所に宛い、想いと同じように溢れて止まらない先走りの液をぬるぬると凝り付ける。
「………少し、力抜いてろよ。」
小さく囁くと琢ちゃんは声の振動でぴくっと身体を震わせた。
耳たぶをぺろりと舐め首筋に口付けしてから唇を重ね、宛っていたモノを少し押し込む。
「…ん…っ………あ…………ん……………」
俺の唇から逃れるように身を捩り、切ない喘ぎを漏らした。
琢ちゃんの肩を両手でしっかり掴み、ゆっくりゆっくり…中へと押し入る。
温かい粘膜がじっとりとまとわりついてきて俺のモノを呑み込み始めると、身震いするほどに気持ちがいい。
琢ちゃんはしっかりと俺の腕にしがみついて、全身で受け入れてくれていた。
くちゅ…といやらしい音をたてながら琢ちゃんの中に入っていき、時間をかけて全て収めてからもう一度唇を重ねる。
舌を絡め合いながら何度も深く口付け、唾液を貪った。
少しずつ腰を動かし抽挿を繰り返して、より深く繋がろうと抱き合う。
甘い吐息が漏れるたびに深く突き上げ、淫らな水音を響かせた。
「……ぁ…っ…………ん…………や………っ………………」
二の腕にぎりっと爪を立てながら琢ちゃんが喘いだ。どうやらイイ所を探り当てたようだ。
「…………これ……………気持ちいい?」
嬉しくて思わずにやつきながら、その部分をぐいっと抉るように突き上げる。
「や…ッ……………ああ…………ひ……………あ…っ……………」
真っ赤な顔でびくびくと肩を震わせている。
「おやおや……いいのかな? ここって壁薄くて声が筒抜けじゃなかった? そんなに可愛い声出して啼いたらお隣さんに丸聞こえだなぁ……」
琢ちゃんは慌てて片手で口許を押さえた。
でも俺が抽挿を繰り返すたびにどうしようもなく声が漏れてしまうようで、半泣きのまま必死に喘いでいる。
「いいじゃん………聞かせてやればさ。俺らはこんなにイイコトしてますよ…って、みんなに知らせてやるべ。」
いつしか琢ちゃんは口を塞ぐのを諦め、突き上げられるままに声を漏らしていた。
俺はと言えば執拗に中を攻め立てては肌がぶつかる音と水音が奏でるハーモニーを楽しむ。
琢ちゃんはもう心此処に有らずと言った感じでとろりと蕩けた目をし、開かれた口から再び透明な雫を幾筋も滴らせていた。
本当にいやらしいなあ……琢ちゃんてば。
淫らで……可愛くて……誰にもこの肌に触れさせたくない。

 密着させていた上半身を一度離し、腰を抱え直した。さっきよりも大きく脚を開かせ、膝を曲げて腰を高く突き上げさせる格好にしてやった。
こうすると繋がっている部分が丸見えで、よりいやらしくて最高の眺めになる。
ローションと俺の先走りの液を滴らせた琢ちゃんの奥底に再びぐちゅりと音をたてて俺の雄を埋め込むと、琢ちゃんは切ない声を漏らした。
甘さを含んだ艶めかしい声だった。
何度も正確に琢ちゃんの一番好い所を責め立てていると、固さを取り戻していた琢ちゃんの息子が先端から蜜を漏らしだしていた。反り返って綺麗な腹筋にぴったりと張り付いているソレは、俺に中を突き上げられ掻き回されるたびにビクビクと震えては透明な雫をだらだらと垂らし、琢ちゃんの艶やかな肌を濡らしている。
腹に落ちた雫は筋肉の割れ目を伝って静かに伝い落ちていった。
―――いっぱい、感じてくれているんだなぁ……琢ちゃん。
嬉しくて、更に激しく抽挿を繰り返した。
背筋を駆け昇るような快楽の波がぎりぎりまで沸き上がってきて、そろそろ限界を迎えたがっている。
「琢……ちゃん……………そろそろイくよ………………」
独り言のように小さく呟き、何度も何度も腰を打ち付けた。
「………あ…っ…………顕………ッ……………ちゃ…ああ…ッ……………」
琢ちゃんは顔をますます紅潮させ、自分の腰を掴んでいる俺の腕に爪を立てて悲鳴とも喘ぎともつかない声を漏らしながらも、必死で俺の名前を呼んでくれた。
「顕…ちゃ………………っ……………すご……………………凄い……よ…ぉ…………………」
閉じられた瞼から涙がにじみ出す。
「…………俺……………あ…っ……………イ………っ………イ…っちゃう…ぅ……ッ…………」
切ない悲鳴のような言葉が漏れた途端、琢ちゃんは身体を強張らせて白いものを勢い良く腹の上に吐き出した。
「…………琢……ちゃ………ッ………………」
大きなうねりに呑み込まれるような快楽が襲いかかってきて、最高の達成感と開放感が俺の頭も心も真っ白にしてゆく。
ビクビクと震えながら、俺も琢ちゃんの中に溜めに溜めまくった全てのものをぶちまけて………果てた。


 放心している琢ちゃんをまだ俺は手放さず、精液と先走りの蜜に塗れたままの琢ちゃん自身をそっと口に含んでは舐め回した。
綺麗にして上げようと舐っているうちに、やっぱり飽き足らなくなって先端の鈴口に舌を差し込む。
「……顕……ちゃん……………もうやだよ…ぉ………」
力なく言う琢ちゃんをちらりと見てから、俺はお構いなしに先端を刺激し、再び溢れてくる新たな蜜を味わう。
ほんの少し前に二回も達したのに、琢ちゃんのソレはまた固さを取り戻してくるので更にエキサイト。
本格的に口に含んで舌を使いながら丁寧にフェラチオしてやる。
「…………あ………………は…………ぁ……………や…っ……………や…あ…ッ………………」
可愛い声で啼いてくれちゃって。そんな声出されたら俺のもまた元気になってきちゃうよ、琢ちゃん。
 俺はたまらなくなって口から琢ちゃんのモノを離し、手際よく四つん這いにさせてからその上に覆い被さった。
後ろから綺麗な背中を抱き締めて幾つか口つけを落としてから、再び反り返って勃つ俺のモノを目当ての場所に宛う。
琢ちゃんのソコは俺が吐き出したものを垂らしながら、まるで待っていたと言わんばかりの柔軟さで俺のモノを呑み込んでくれた。
「………け…………んちゃ…………………」
途切れ途切れの甘い吐息の間に名前を呼ばれると、より一層ゾクゾクするね………。
明日も撮影があるしもうあまり琢ちゃんに負担はかけられないから、なるべく荒っぽいことは避けなきゃいけないと思いながらも、ついぐちゅぐちゅと派手な音をたてて突き上げては中を抉るように掻き回した。
その度に琢ちゃんは信じられないくらい可愛い声で俺の名を呼ぶんだ。
――愛しくて、愛しくて………このまま永遠に繋がっていられたらいいのになんて思う。
お互いの名を呼び合いながら、ずっとずっとこうしていられたらいいのに…………。
幾度となくそんな事を思いながら琢ちゃんを抱いてきたけど、多分これからもずっとこの想いは変わらない。
 中途半端に愛撫したままだった琢ちゃん自身をそっと掌で包み、情熱的に中を犯しながら掌で撫でさすった。
爪の先で先端を弄くり、掌で扱いては時折その下のものまで揉みしだく。
前と後ろから同時に攻め立てられて、琢ちゃんはもう息も絶え絶えと言った様子で啼いていた。
俺の方もまた限界が近付いてきて、唇を噛みしめながら精力的に突き上げては抉った。
琢ちゃんは顔をシーツに埋め腰だけを突き出したまま俺を受け入れ、先端から止め処もなく蜜を垂らしている。
「顕……ちゃ…ぁ…ん………」
途切れながらも名前を呼んでくれる。
「琢ちゃん…………琢ちゃん……………イっちゃえ……………」
狂ったように腰を打ち付けながら、いつしか俺は無意識に呟く。
「………けん……………ちゃ…………っ…………す…き…ッ……………………」
琢ちゃんは確かにそう言ってくれた。
その言葉が駄目押しのように俺を襲い、半ば暴発のように琢ちゃんの中に精を吐き出した。
俺の掌の中にも、真っ白なものがどくどくと流れては指を伝って滴り落ちていた……。



 今日はこっちも暑いなあ……。
事務所を出て見上げると、真っ青な空に白い雲が筋状にかかっている。
北の夏がやってきたなあ……そんな感じが肌にひしひしと感じられて、俺はすっと目を細めた。
 あの日の翌日、俺達は朝飯を外で食ってから駅で手を振って別れた。
琢ちゃんはちょっと疲れた顔をしてたけど、でも別れ際までずっと笑ってくれていた。
撮影に向かう為に改札をくぐっていく琢ちゃんの背中を見つめながら、いつまでも俺は手を振る。
琢ちゃんもそれに気付いてこちらに振り返り、大きく両手を振ってから走っていった。
満面の笑顔だった。
言葉は少なかったけど……何だか幸せな朝だった。

今日はまた朝から撮影なんだろうなぁ、琢ちゃん。
忙しくてまたメールも電話も途切れがちになるかもしれない。でも暫くは大丈夫だと思う。
側にいないのはやっぱり寂しいけど……お前が帰ってくるのを一日千秋の想いで待つよ。
なんならまた押しかけてやるし。
いや、その前に別の土地で会えるかな。
どっちにしてもその時はまた嫌って言うほど抱き締めてやっから、覚悟しておけ。
早く俺の側に帰っておいで、琢ちゃん。

青い空を見上げながら俺は額を伝いはじめた汗を手の甲で拭うと、車に乗り込んだ。

今日もまた、忙しい一日が始まる…………。 







親愛なる文月翠サマへ。

大分過ぎてしまいましたが、お誕生日のプレゼント兼日頃の感謝をこめて

このお話を贈ります。


ご希望通りの鬼畜テイストになったかどうかは甚だ微妙な所で御座いますが

気に入って頂ければ幸いです。



そして全国の小魚ちゃん達へ……(笑)






因みにこれを書いていたときはまだヘダイマスターだのヤースヘイダーとやらも
出てきていませんでした。
ゴルゴを聞いてビックリ大笑いでしたよ。




+ ブラウザを閉じてお戻り下さいませ +





PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル