ANDROMEDA
〜The princess currently restrained〜
[2]
ぐったりと壁にもたれ掛かっているシゲの手錠を外してやる。途端に力の抜けた腕が落ちてきて、だらりと垂れ下がった。
ずるずると力が抜けていく身体を受け止めて浴室の床に座らせ、目隠しベルトを緩めて顔から外してやると、ベルトの下から涙でぐしょぐしょの目が現れた。
長くて黒々としたバサバサの睫毛は涙の雫で濡れて光り、シゲの綺麗な顔をより強調する。だがその瞳は虚ろで、何を見ているのか解らないままぼんやりと宙を彷徨っていた。
汗で顔に張り付いた髪を梳いてから、涙に濡れた頬に口付けをした。
コトが終わった直後だというのに、こんなにもしどけないシゲを見ていたら今すぐにでも二回戦に突入してしまいそうな勢いの大泉だ。
慌ててシャワーヘッドを手に持ち、コックを捻って勢い良く湯を出す。少しめるめの温度になったところで、ゆっくりとシゲの身体にお湯をかけてやった。
手足を洗い流し、腹や胸にべっとりとかかったシゲの液体も掌でマッサージするように優しく擦りながら湯水で流して綺麗にした。
最後に顔を洗ってやろうと自分の手の中に湯を溜めてから、そっとシゲの顔を流してやる。シゲはまだ呆然としていた。
シゲを綺麗に清めてから自分の身体にかかったものをシャワーで洗い流し終わり、シャワーヘッドを壁に戻そうと少し身体を離した途端、シゲが思いもよらない行動に出た。
それまでぼんやりとされるがままになっていたシゲは、突然大泉の肩と首に手を伸ばして縋り付き、自重で大泉の身体を引き寄せた。
不意打ちを食らった大泉がバランスを崩してシゲの身体の前に崩れ落ちると、シゲの両手がしっかりと首に巻き付いている。
親指が喉仏の下に食い込み、今にも力を篭められそうな不気味な気配を醸し出して、シゲは無表情で大泉を見つめていた。
「……………しげ?」
首を絞められてはたまらないと、大泉は必死で優しい声を出しながら見つめ返した。シゲの顔に表情はなかった。
だが喉元の指に力が篭められることも無かった。
ゆっくりと自分の首に両手をやり、シゲの手首を掴もうとしたとき………再びシゲが動いた。予想もつかない行動で。
咄嗟に身を強張らせた大泉の首筋に、シゲは両腕で縋り付いていた。まるで子供が全身で親に抱きつくような感じだった。
「……しげ?……………」
返事は返ってこなかった。全力で首に両腕を廻して抱きついているので、表情すら見えはしない。
自分の顔の横にある後頭部を、大泉は右手でゆっくりと撫でた。
「………どしたのよ………」
「………………」
濡れてしずくが滴り落ちる髪を梳き、左手をすべすべの背中に廻した。
「………なした? しげ………」
シゲはまだ無言だったが、首に巻き付いている腕に更に力が籠もる。
シゲの白い背中をゆっくりと撫でながら暫く無言で抱き締めていた。辛うじて低いフックに戻すことが出来たシャワーヘッドからは温かいお湯が雨のように降り注ぎ、床にへたり込んで抱き合う二人をほんのりと温めてくれていた。
「………いい加減にせんと風邪ひくぞー……しげ。」
抱きかかえて立ち上がろうとする大泉を、シゲはやはり床に引き戻した。
「おいおい、いつまでこんな事してんのよ………そんーなに、君は俺のことが好きなんか? ん?」
シゲはぎゅっとしがみついて、やっと言葉を口にした。
「……うっせえよ!」
意地っ張りなシゲらしい、何とも子供のようなしゃべり方だった。
「………ばかやろ……っ………………大泉の………大バカ野郎…ッ……」
ますます縋り付いて、絞り出すような声でそう呟く。
「……………なーによ…………」
子供をあやすように頭を撫で、背中をぎゅっと抱きながら大泉がほんのり笑った。
「………お前が…………………手錠なんかかけやがるから……………………」
シゲはその先に続けようと思っていた言葉を呑み込んだ。
本当は全てぶちまけてしまいたかったが、口にするのはやっぱり恥ずかしくて……ぐっと堪えて再びぎゅっと抱きつき、大泉の背中にぎりっと爪を立てた。
「―――――ああ…はいはい。そういう事ねー佐藤くん。」
勘のいい大泉がそれを悟って、顔のすぐ近くにあるシゲの耳元にちゅっと口付けた。
「やだなあ佐藤さんっば………甘えん坊なんだからねーもう………」
満面の笑みを湛えて、力強く抱き締めていた。
あれだけ苛立った気持ちもお仕置きも、もうどうでも良かった。
こんなに可愛らしく想いをぶつけてこられてしまっては、最早タケシへの嫉妬心など何処かへ吹き飛んでしまうと言うものだ。
もう向かうところ敵無しと言った気分の大泉だった。
濡れて頬に張り付いた髪が扇情的だ。
窓際に置かれたいつものベッドの上で、白い顔に張り付いた髪を時折指で掻き上げながら、大泉はゆっくりと規則的にシゲを揺らしていた。
室内には、大泉が入ってきたときから停止されることなく再生されたままのアニメの音楽と効果音が、まだ流れている。だがそれ以外にはシゲを貫くたびに結合部から響いてくる水音と、香り立つように甘やかな吐息しか聞こえなかった。
大泉はシゲの腰の下に枕を入れて高くし、両脚を高く掲げさせて自分の両肩に掛けさせたまま、緩急をつけて抽挿を繰り返していた。
その度にシゲは信じられない程甘い声で啼き、熱い吐息を漏らした。時折指を大泉の二の腕に絡ませ、必死で縋り付いている。
そんな光景が嬉しくて、大泉は何度も淫らな喘ぎを漏らす唇に吸い付いては存分に舐った。舌を絡め、唾液を吸っては歯列をなぞってやる。
舌先を絡め合うたび、より強い快楽を欲してシゲの奥底が卑猥に蠢いた。
徐々に強く楔を穿ちながら、大泉も息を荒くしていく。もっとシゲが欲しくて欲しくて…どんどん鼓動が早まっていく。
「………しげ…………………好きって言え………」
耳元に囁きかけながらシゲの弱い部分を狙って小刻みに腰を使った。先端とカリで抉るように突き上げると、シゲが小さな悲鳴をあげた。
「………好きって…………言え………」
更に煽ってやりたくて、胸に手を這わせた。色づく果実のように、或いは咲き誇る直前の蕾のように…胸元の突起が熟れて固く凝っている。
それを捏ねたり撫でたりしながら、確実にシゲを追い詰めていく。
「…………なあって……………言えや、しげぇ……………」
シゲは更に善がり声を上げて顔を何度かゆっくり左右に振った。涙を滲ませた瞼をぎゅっと閉じて、押し寄せてくる悦楽の波に耐えている。
大泉は肩に掛けさせていた脚を片方だけ下ろし、脇に抱え込んだ。こうすることによって結合がやや斜めになり、更にシゲを追い立てることになる。
案の定、更に激しく襲ってくる痛みと快楽の入り混じった感覚に、シゲは喘ぎ、掠れた悲鳴をあげた。自分が自分でなくなるような深い陶酔感と、今にも爆発してしまいそうな紙一重の快楽に苛まれて気が狂いそうになる。
どうにかなりそうな自分を必死で制御しようと…必死で大泉の腕にしがみつきながら、目を開けてみた。
目の前には大泉がいた。
部屋の明かりを背後から受けて、やや逆光気味に上から自分を覗くその顔は、裸眼ではぼんやりとしか見えないが、やはり嬉々としているように思える。
途端に胸の奥が締め付けられるように苦しくなって……シゲは顔の方に両腕を精一杯伸ばしてみた。
きっと大泉なら受け止めてくれる。
そんな確信的な想いを抱きながら手を伸ばして、きつく抱き締められることを望んだ。
大泉はよく動く悪戯な目線をシゲに注ぎながら、上半身をゆっくりとシゲの上に被せて密着させてきた。
肩に掛けていた脚を太股の上に掛け直し、なるべく全身が密着するように身体の下に両手を滑り込ませてきた。
シゲの望んだ通り、苦しいくらいにきつく抱き締めてくれる長い腕がそこにあった。
大きくて広い肩口は、シゲの頭がすっぽりと収まってしまう。
耳元に響く荒い息遣いは、大泉がシゲを欲して止まない証。
時に荒々しく、時に優しくいたわるように、シゲの中に穿っては出し挿れを繰り返す楔。
それらの全てが、この瞬間のシゲを捉えて離さなかった。
もっと深く……限りなく深く、愛して欲しかった。
全身で抱き締めてくれる大泉が心底愛しくて、シゲは身体の奥底から駆け昇ってくる快楽と感慨に苛まれながら、その言葉を口にした。
本当に微かな声で…………。
「………大泉………好き……だよ………………」
目前の大泉の顔に笑みが浮かぶ。
「……もっと言って……しげ……………好きって言って………………」
首筋に熱い口付けがいくつも降り注ぐ。時折小さな音を立てて吸われ、疼くような痛みに身体を震わせた。
「………………お前…………大好き……ッ……………」
大泉の髪の中に指先を差し入れ、愛しげに彷徨わせてはそんな言葉を囁いた。
「……しげ…………しげ…っ……………」
大泉の腰が大きく早く動き出す。
シゲの顔の横に両手を付いて身体を少し離すと、大泉は狂ったように一点に向かって打ち付けてきた。
下腹部に重くて狂おしい感覚が増し、身体の心まで蕩けてしまいそうだ。揺らされる度に自分の分身が腹に着くほど反り返り、固く大きく体積を増して筋を浮かせながら震えている。
先端からは耐えきれないと言った風情で透明な蜜が幾筋も流れては、てらてらと光っていた。
中を犯されて達しそうになっている自分の分身すら、シゲは愛しかった。
大泉にそうされているからこそ、ここまで感じてしまえる自分の従順な身体が愛しくて、シゲは達することに全神経を集中する。
辛そうな大泉の息遣い、そして知らず知らずに漏れ出す自分の喘ぎ声を聞きながら、段々と気が遠くなっていく気すらする。
駆け昇ってくる快楽にいよいよ耐えきれなくなって……シゲは大泉の名を呼びながら、ビクビクと自分の腹の上に白いものをぶちまけていた。
それとほぼ同時に大泉もシゲの名を呼ぶ。
愛しくて愛しくて、時には苛めてしまうほどに可愛らしい者の名を口にしながら、我慢していたものを漸くシゲの狭い奥底に何度かに分けて注ぎ込んで、早鐘のような自分の鼓動を聞きながらシゲの身体の上に倒れ込んでいた。
暫くの間放心状態で倒れ込んでいたシゲが、漸くのっそりと起き上がった。
ベッドの上に身を起こして、大泉が手渡してくれたペットボトルを喉を鳴らして飲み、大きく肩で息を吐いた。
大泉は既に隣で身を起こし、パンツ一枚のままで一服やっている最中である。
紫煙をくゆらす大泉の顔は、お世辞にも艶々しているとは言い難かった。目の下にうっすらとくまを作り、顔色もあまりいい方ではない。
連日の過密スケジュールで相当疲れているのは明白だった。
………俺になんか構わずに、とっとと実家帰って寝ちまえば……少しは疲れもとれるだろうに。
そう思いながらも、嫉妬と怒りで真っ赤になってすっ飛んできた大泉が可愛いやら嬉しいやらで、シゲは思い出し笑いのような笑みを口許に浮かべながら、そっと肩口に頭をもたれ掛けた。
大泉も何も言わず、長い腕をするりと肩に廻してくる。
二人とも言葉を口にせず、ただ寄り添っているだけの静寂な時間だった。気が付けばアニメの再生も終わり、テレビも無音のまま放置されていた。
暫し静寂を楽しんでから、シゲがゆっくりと口を聞いた。
「今日は? 泊まってくの? あんた。」
ちらりと横顔を見た。ぼんやりとした視界の中で、大泉は相変わらず煙草をくゆらせているようだ。
「んー………これから帰っても寝る暇ないしなー。」
それだけ呟いて、大泉は近くにあった灰皿を手繰り寄せて火を消し、吸い殻を捨てた。
その行動のために自分から離れてしまった身体をぼんやりと見つめながら、シゲは手にしたペットボトルのキャップに手を掛けた。
もう少ししたら寝ないと、明日の仕事に差し障る―――――そんなことを考えながら。
「しーげー。」
不意に名を呼ばれて曖昧に返事をすると、大泉の手がするすると伸びてきて背後から脇の下に入れられた。
あまりのくすぐったさに泣き笑いで暴れたが、結局はそのまま引き寄せられ身体を移動させられてしまう。
大きく広げた脚の間に背後からすっぽりと抱え込まれ、そのまま抱き締められていた。背中に感じる大泉の肌がすべすべして温かくて、何だかホッとする感じだ。
うなじに軽い口付けを受けながら、ぼんやりと微睡んで背中に体重を預けてしまう。このまま眠ってしまいたいような温かくて柔らかい時間が、心底気持ちいい。
背中からはつい先程まで吸っていた大泉の煙草の匂いがふんわりと漂っていた。
「…………大泉、ごめんね。」
そう言えばまだ謝ってなかったっけ――――そんな事にふと気付いて、シゲは小さな声で呟いた。
「………ああ。」
解っているのかいないのか、大泉の返事は実に曖昧な一言だ。
「本当にホント………ゴメン。今回ばっかりは俺が全面的に…悪かった。」
「…………今回ばかりじゃねーよ、いっつも全部お前が悪ぃんだよ、しげ。」
ぶっきらぼうに言われてかちんときたシゲが振り向こうとするが、大泉はがっちり抱きかかえてくる。おまけに顔のほぼ横に自分の長い顔をくっつけるように肩の上に顎を乗せ、動きを封じてから耳元で囁いた。
「ま、お前に迷惑かけられんの、嫌いじゃねーけどよ……」
ふわりと煙草の香りがシゲを包んだ。
「………だって、あんた忙しいじゃん。」
嗅ぎ慣れた大泉の匂いに包まれて安心してしまったのか、シゲはつい本音を口にしてしまっていた。
こうなればままよといった感じで、シゲはぽつりぽつりと今まで言えずにいたことを口にする。
「俺だってさ、ほんとは海に行ったりライジングサン見に行ったりするのは、タケシじゃなくて大泉と行きたいのよ……けど、どうひっくり返ったってあんたと一緒に行けるワケないじゃない。」
「あ〜……そらぁねー、しげちゃん…………ムリ。」
呆れたように大泉が笑った。
「でしょ? 時間だって全然無いしさー…」
ここまで言って、ふうっと息を吐き出した。
「タケシはさ…なんつーか凄いかわいいのよ、俺の言うことなまら一生懸命ハイハイ聞いてくれんだぜ。」
大泉の表情が憮然としたものになった。そのまま腕にぎゅっと力を篭めてくる。
「ちょっ…苦しいって、大泉!」
「うーるせえ……」
諦めた表情で、シゲが肩口に乗っかる顔に自分の顔をもたれかけた。
「あいつ、すげえ気を遣ってくれるからさ…ちょっと断るのも何だなーと思ってさ、ついつい………ね。ま、概ねこんなワケ。解ってくれた?」
大泉の憮然とした顔はそれを聞いても一向に晴れない。
「解るか! ボケがぁ。」
今まではもたれてくるシゲの身体を支えていたが、突然自分の身体を前倒しにして逆にシゲにもたれ掛かる。
「重いっ! 止めろ大泉!! 鬱陶しいってお前ッ!」
「アホか、鬱陶しいのもお前じゃ。」
にやりと笑う。
口では解らないの何のと言ってはいるが、取り敢えずシゲの本音も聞けたことだし、大泉は少しばかり悪くない気分を味わっていた。
だが、ここで甘い顔をすると腕の中の小悪魔はきっともっとつけ上がるので……それはシゲには教えない。
あくまでも機嫌が悪いまま、せいぜい謝り倒して貰う事に決めていた。
「いいかー、しげ。二度と俺とタケシを比べて、あっち優先させんな! お前がタケシを可愛がるのは勝手やけどなー、二度とやったら今度はあんなお仕置きくらいじゃ済まさんからなー。」
腕の中のシゲは、少しばかり不満そうな声ではあったが自分の非を認め、もう一度謝罪の言葉を口にした。
「よーーーーし、解れば宜しい。」
「……へいへい、今日はもう逆らいませんよー、俺は。」
諦めた口調でそう言いながら、シゲは自分の身体に巻き付いている腕に両手を絡ませて再び後ろにもたれ掛かった。
「いい加減もう寝ようぜ…………ね、洋〜ちゃん!」
途端に大泉は喜色満面と言った顔になっていた。なかなか滅多に呼んで貰えない下の名前を呼ばれて何だかもの凄く嬉しくなり…子供のようにはしゃいだ声を出した。
「……もっかい呼んで!」
シゲは暫く黙ってから極上の笑顔でこう宣った。
「勿体ないから、また今度な。」
つらっと言い切ったシゲの首筋に思わず噛み付く真似をし、大泉が低い声で呟いた。
「………もっぺんお仕置きしたろか、お前は……………」
彩香サマからリクエスト頂きましたキリ12345は
「手錠・SM系ソフト鬼畜・そして定番の甘々とタケシが絡んでの嫉妬」
この要素を取り入れてとのことでした。
。。。ご期待に添えました? ドキドキ。。。
猿轡は可愛い姫のお声が聞こえなくなるので止したのですが
前半は目隠しベルトを使ってみました。
何でベルトかというと、目隠しアイマスクだと間抜けなお顔に見えるのと
姫サマの綺麗なお顔が半分以上隠れてしまうからです。
はい、だの個人的趣味です(笑)
因みにタイトルの「ANDROMEDA」は鎖で繋がれたお姫様のイメージで。
間違ってもアテナの闘士じゃーございません(笑)
ネビュラチェーンなんぞ使えたら、手を出す前に王子は即死です(大笑)