Emerald Isle
◇ 2 ◇
先に浴室から出されたシゲは、バスローブだけを羽織って広いベッドの上にごろりと転がった。
数日ぶりにちゃんと身体を洗えて、実にスッキリと爽快な気分だ。
浴室からは大泉の歌が聞こえてくる。大熱唱で歌っているのは作詞:大泉洋、作曲:スタレビの皆さんによる『本日のスープ』。つい先日、大晦日の夜のカウントダウンで披露され、大いに盛り上がったらしい。
しかし自分で作詞したという割に、浴室で気持ちよさげに歌われている歌は随分と適当な歌詞に変換されてしまっていて…つい苦笑してしまう。
この歌詞を作っている時間の大半は一緒に居たので、シゲも歌詞をよく知っている分…おかしくてたまらない。
「どうやったらあんなに好き勝手に変えられんだよ、せっかくいい歌詞なのにさ…」
呆れ顔でそう呟いていた。
暫く出鱈目な歌詞バージョンの『スープ』を聞いていたが、むくりと起き上がるとベッドから立ち上がり室内に設置されているバーコーナーに向かった。
ざっと一通り酒を見渡す。思ったよりは色々な種類の酒が置いてあった。シゲが好きなスピリッツ系のボトルやカクテル用のリキュール類も意外に豊富だ。シェーカーやミキシンググラスもきちんと用意されている。
ほんの少し考え込むように眺めてから、手にしたのはやはりドライジン。四角いシンプルなラインが綺麗な透明ボトルで、ラベルには『Silver Top』と書かれている。
その次に手にしたのは緑色の液体が綺麗なリキュールのボトル。こちらは『CHARTREUSE』と書いてある。
ミキシンググラスに目分量でジンと緑色のリキュールを入れ、マドラーで適当にかき混ぜてからロックアイスを入れたグラスに注ぐ。カクテルと言うにはあまりにも粗雑な作り方だが、かえって気取らない雰囲気で飲めるというものだ。
ロックグラスの中からは氷の溶けるパキパキという微かな音が心地よく響いてくる。それを持ってそっとテラスに出てみた。火照った身体に夜風が気持ちいい。眼下には真っ暗な海とライトアップされた海辺や街の灯りが対照的に映えている。
しかし何よりも綺麗なのはやはり月の光に照らされた海だろう。空気が澄んでいるせいか、その光が海面を照らしている様はまるで月まで真っ直ぐに延びた光の道のようだ。
そんな景色を目に焼き付けながらグラスに一口、口を付けたところで背後に人の気配を感じた。
「風邪ひくべや、そんな裸同然でこんなとこにいたら。」
大泉が同じくバスローブ姿で立っている。髪からはまだ雫が滴っていた。
「だって外の景色が綺麗だからさー。せっかくだから見とかないと…勿体ないでしょ?」
「だからってこんなに身体冷たくすることないっつーの。」
背後から抱え込まれるように抱き締められて、首筋辺りに口付けを一つされる。
「しかも飲んべえの本領発揮じゃーないですか、先生ってば。」
ちょっと不機嫌そうな声になる。
「…いいべや、酒くらい。」
「じゃー洋ちゃんにも一口頂戴。」
「駄目、お前死ぬから。」
きっぱり言ってのけられ、大泉はますます憮然とする。
「強いの? コレ…」
「勿論ですとも。アンタが飲んだら口から火ぃ吹いて死んじゃうって。」
けらけらと笑いながら絡み付いている大泉の腕を解いて、部屋に戻る。そのままソファに腰掛けた。
「なーによ、ちょっと酒強いと思って。」
大泉も面白くなさそうに呟きながら室内に戻り、椅子に腰掛ける。
「…それ、なんて酒? 俺も絶対飲むわ。しげなんかに負けられますかってんだ!」
鼻息荒く尋ねてくる。シゲはグラスを目の高さにひょいっと上げてにっこり微笑んだ。
「カクテルだから無理。エメラルドアイルって言うの。絶対アンタには作れないって。」
「カクテルぅ!? まーたしゃれーっとしやがって。くっそ! ぜってーそれ作って飲んでやる。ばきーっと飲み干してやる!!」
「…まあまあ大泉さん。そんなにムキになるなってば。」
流石に困ったように笑いながらチョイチョイと手招きをする。口を尖らせて大泉が近付いた。
「ほらぁ…隣座って下さいよ。」
悪魔の誘惑さながらに、シゲは余裕で微笑む。渋々その言葉に従うと、シゲは持っていたグラスに口を付けた。
そして…大泉の首に腕を廻し、自分から唇を重ねる。
ゆっくりと舌を絡め、口の中の液体を大泉の口に移してやった。
案の定大泉は大きなギョロ目を益々ギョロつかせて慌てている。それでもシゲは唇を離さなかった。
「……おおう…………………………これはキビシイわ、マジで………」
辛口の口付けから解放された大泉が、本当に死にそうな声で呟いていた。
「だーから言ったのに。度数高いんだからさ、これ。酒弱いアンタが飲んでいいもんじゃ無いワケ。解った?」
ふふんと笑い、シゲは余裕でゆっくりともう一口。
慌てて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してそれをゴブゴブと飲んだ大泉は、呆れ顔でシゲを見つめる。
「佐藤さん…アル中で死にますよー。」
「おお、じゃあ俺が死んだら骨はこの海に撒いてくれ。」
上機嫌で微笑むのが大泉としては尚更悔しいところだが、そんなシゲも色っぽくて溜息を吐いた。
「……随分と美味しそうに飲んでますけど、エメラルドなんとかっだっけ? それ。」
「エメラルドアイル。緑の島のアイルランドって言う意味らしいけどね。どっちかっつーとこの色見てると、沖縄の海の色に似てるなーって思いません?」
グラスの中に湛えられた液体は、確かに綺麗な透き通った柔らかい緑色で…先程シゲと二人で遊んでいた淡いエメラルドの海を思い起こさせる。
「はあはあ、成る程なー。確かにそんな感じやね。」
「でしょ? さっきフッと思いだしてさ、作ってみた訳よ。」
もう言いながらもう一口飲もうとしたところを大きな手でやんわりと遮られた。
「これ以上、んな強い酒飲んじゃーいけないと思いません? …佐藤さん。」
大泉の言いたいことが解って、シゲがほんのりと顔を赤らめる。
「流石に今日は手荒なことしないから…そろそろ俺にも美味しいものを味わわせて貰えませんかね?」
乾きかけの前髪をさらりと掻き上げて、綺麗な額に唇を押し当てた。
「………このどスケベ。」
シゲは持っていたグラスを目の前のテーブルに置いて、ゆっくり両手を大泉の身体に廻していた。
ベッドは大きめのセミダブルが二つ並んできっちりとくっついていたので、感覚的にはキングサイズだった。
手をしっかりと握られてそこまで引っ張っていかれ、座らされる。そして隣には勿論大泉。
大泉はシゲの右頬に触れないように注意を払いながら髪を掻き上げ、何度も唇を触れ合わせた。薄赤くて形の良い唇はそれだけで淫らな雰囲気を醸し出していて、つい夢中になって貪ってしまう。
二人の息が次第に荒くなる。
こんなにゆっくりとした気持ちでいられるなんて、この二人には滅多にあることではなかった。それが自然と気持ちを高ぶらせているようだ。
大泉の指先がシゲの首筋を優しくなぞり、ローブの内側に滑り込んだ。無駄な贅肉を付けないようにきちんと鍛えている体はきゅっと引き締まり、滑らかな肌は指の腹にしっとりと吸い付いてくる。
「……俺ちょっと…太ったろ?」
顔をうっすら赤らめながら、そんなことを気にしているのも可愛らしくて…大泉は耳元でそれを否定した。
元来シゲは何事もがむしゃらにやり過ぎる。禁煙もダイエットも程度というものを知らずに突っ走っては、リバウンドしてみたり。
まぁそんなところすらも大泉にしてみれば、苦笑いしつつも愛しく思ってしまうのだが。
「大丈夫。ちゃーんと綺麗なカラダしてるよ、お前は。気にしすぎなんだっつーの。」
掌でゆっくりと撫で回して微妙な刺激を与えてやると、シゲの身体は時折小さく跳ねた。肩口のローブを滑り落とし、露わになった鎖骨や肩口に唇を這わせる。舌先でちろちろと舐め回しては小さな赤い跡を残して楽しむ。
「……やめ…れ…………あんまし跡、つけんなや………」
困惑した瞳で呟いてくる。
「いいって、これぐらい。誰にもわかりゃーしねえって。」
そう言いながら唇を肩口からもっと下に移動させ、胸元にあるお目当ての突起をちゅっと吸ってやるとびくりと身体を震わせた。その反応がつい嬉しくて、何度もそれを繰り返した。気が付けば突起は赤く色付き、硬く凝っている。
美味しそうに色づいているそれを漸く舌で転がして舐ってやると、シゲの口からは微かに吐息があがり始める。
胸元の蕾を啄みながらゆっくりと身体をベッドの上に押し倒した。
次は手付かずの反対側の蕾も同じようにして弄びながら身体を密着させた。そして昂ぶりつつある自分の雄をローブ越しにシゲのモノにゆるく擦り付けて、僅かずつ感覚を煽ってやる。焦れったさにシゲが音を上げるまで。
やがて荒い息の合間に聞こえ出す切れ切れの懇願を、大泉は心地よく聞いた。ぴったりくっつけていた身体を離し、少し上からシゲを見下ろす。上半身がはだけたローブの下から覗く白い身体は所々を薄赤い痣で彩られ、息苦しそうに上下している。
紅潮した顔と潤んだ瞳が何とも艶めかしい。長い睫毛は潤んだ雫でほんのり濡れ、形のよい唇はいつもよりも更に赤く色づいていた。
「…泣くなって……」
唇を重ねてからそっと囁いた。
「じゃあ………こんなの止めてや………」
苦しそうに呟く。その声があまりにも切なそうで、流石に大泉も少し反省した。
「しげったら……可愛いんだからなーもう。」
右手をローブの隙間に忍ばせ、下腹部を辿った。ビクビクと震える身体をわざと彷徨いながら、お目当てのモノに辿り着かせる。
身体の中心で昂ぶりを示していたソレは、思った通りもう既にぐっしょりと自身の蜜で濡れていた。
「いっぱい濡らして………えっちやねー佐藤さん。可愛くて可愛くて、全部食べてしまいたいわ……」
掌でゆるゆると扱き、身体の下で喘ぐシゲを楽しんでみる。触るか触らないかの絶妙な具合で与えられる刺激は更にシゲを焦らしていた。切ないような感覚だけが全てを支配している。
「おお……………いず……みぃ……」
目に涙を溜め、切れ切れに名を呼んだ。そんな姿を愉しみながら、慎重に身体をずらして股間に顔を埋めた。腫れている左膝に触れないように注意しながら、右脚だけを持ち上げ自分の肩に掛けさせる。
目の前で息づくモノにそっと唇を這わせた。甘い甘い吐息が頭の上からあがるのをうっとりと聞きながら、蜜を零し続ける先端を舌先で舐めた。丹念に、何度も。
舌先を少し窄めて割れ目に指し挿れ、溢れ出る液体を舐め取っては時折ちゅっと吸ってやる。それだけで吐息はいやらしさを増すが、決してそれ以上の決定打は与えずに延々と焦らす。
「…も……やだ…………やめて、お願い…………俺、気が狂い……そ…ッ…………」
そんな哀願も聞き入れられず、淡々と舐め回すだけの愛撫でシゲを翻弄した。
やがてシゲは無意識に腰を動かし始めていた。
大泉の頭を両手でしっかりと抱え、僅かずつながらゆらゆらと腰を振って強い刺激を求めようとする。
「…腰振っちゃって……」
あからさまな勝利の笑みを浮かべ、大泉はぺろりと舌なめずりをした。
そして張り裂けんばかりに膨張しきったシゲのモノを銜え、力強く顔を上下させる。
「…は…………ぁっ……………ああ………………う……ッ…………」
耐えきれずに喘ぎ声を漏らしてシゲが一気に昇り詰めてゆく。あっと言う間に身体が硬直し、暫くしてからすうっと力が抜けていく。
大泉はと言うと、喉を鳴らしながら次々と吐き出される液体を慣れた様子で飲み下した。
「大泉の…………馬鹿やろう………っ………」
蚊の鳴くような涙声での悔しげな呟きが、静かな室内に響いていた。
身体の奥底で舌と唇がいやらしく這いずり回る。
大泉が奏でる卑猥な音。ぴちゃぴちゃと水音をさせて敏感な部分を舐め回されては、ただ熱い息を漏らすことしか出来ない自分に、シゲは多少の憤りを感じずにはいられない。
思うがまま弄ばれて――――振り回される。
例えそれが大泉の溢れんばかりの愛情から来る愛撫でも、やはりどこか我が身が口惜しいのは……シゲが人一倍意地っ張りのせいだろう。
快楽に引きずり込まれてドロドロにされながらどこかで、与えられ続けるだけの自分を卑下してしまうのかもしれない。
快楽が欲しいのは事実。大泉によってもたらされる至上の快楽を……心の奥底でいつも求めている。
だが、不公平なのは自分が許せない。自分だけが何度も頂点を迎え、欲望を吐き出すのが切なくて。
自分が与えられるだけの同じものを、大泉にも与えたくて………
だからシゲはありったけの勇気を振り絞って、行動を起こしてみた。
ほんの少し屈辱的。でも、きっとこうすれば少しは返すことが出来るかもしれない―――同じような喜悦を。
大泉は一旦身体を起こしてベッドに腰掛け、近くに投げ出してあった自分の鞄をごそごそと探っていた。いつも使っているローションを探して。
その間にシゲもそっと身体を起こす。
ほんの直前まで舐め回されていた身体の奥底がじわりと疼いたが、欲しがる感覚を必死で押さえ込む。
左脚に注意しながらベッドの上を這い、大泉の背後に辿り着いた。
「あれ? お前、何してん………」
言いかけた言葉を塞ぐように背中から大泉を抱き締めた。立ち膝での格好なので左脚がずきずきと痛むが、構わず抱き締め続ける。普段こんなに積極的に自分からしたことはあまり無かったのだが、今日は特別だ。
自分がされて気持ち良いことを出来るだけ返してやりたくて…シゲは胸元を大泉の背中にぴったりと合わせる。
二人とも無言のままだった。静かな室内に二人の息遣いだけが響いていた。
「……どうした? 怒ったのか? お前。」
大泉が手を伸ばし、自分の右肩に乗せられたシゲの頭を撫でた。まるで性格が現れたかのような真っ直ぐな髪が耳元で、しゃらしゃらと針が触れ合うような…あるいは仄かな鈴の音に似た耳心地の良い音をたてている。
「違う。」
「じゃあ………なしたのよ。」
ふっと笑って髪をくしゃくしゃと触り続ける。
「俺ばっか気持ちいいの…………癪じゃん。」
抱きついていたシゲの腕がするりと下に伸びて、大泉の下腹を弄ぐった。
指先に触れた大泉のモノはやはり先走りの液でぬらりと濡れている。あと少しで自分の中に入る筈の楔。ギチギチに張り詰めて血管を浮かせているのが指先だけで解る。
それを軽く握り、優しく扱いてみた。
「………しげ………」
鼓膜から脳内にじわっと響く声が心地いい。大泉の声はいつも不思議な響きを含んでいる。
歌声も好きだが耳元で囁かれる声のぞくっとくるこの感覚が、シゲはたまらなく好きだ。最も本人に伝えたことはないが。
掌に絡み付いた蜜が、硬くそそり立った雄を扱くたびにくちゅ…と湿った音をたてる。
大泉の息が荒くなっていた。もう少し速度を早めてやれば確実に達するだろうと思っていた矢先、突然その手を掴まれて行為を遮られた。
「……もう駄目〜……」
「駄目って……何で!?」
驚いて目を見開いているシゲと、含み笑いをする大泉。
呆気にとられたままのシゲから身体を離して、大泉は改めてベッドの上に座り直す。大きく胡座をかいて正面を向かれると、目の前にははち切れんばかりの硬くそそった雄があった。
二人ともまた黙り込んだ。まるで目と目だけで、会話しているようだ。シゲは暫く大泉の顔を見つめていたが、顔をうっすらと赤らめながら這って近付く。
顔の真下にそれが来ると、再び無言で上を向き大泉の顔を見た。そこには好きでたまらない男の、意味ありげな笑みがあった。
その場で四つん這いになり、ゆっくりと上半身を伏せて股間に顔を埋める。天を仰ぐ雄に唇を当て、柔らかく口付けを繰り返した。
そうしているうちに舌を這わせ、舐め回し始める。丁寧に丁寧に舐って溢れては絡み付く蜜を舐め取った。裏も表も万遍なく、舌を這い回らせる。
上からその様子を眺めている大泉はご満悦のようだ。熱っぽい瞳で食い入るようにじっと見つめ続けている。
大泉にしてみれば滅多に無いこんな光景を、つぶさに目に焼き付けておこうとしていただけなのだったが。
綺麗な顔が自分のモノを懸命に舐め廻している様は、背筋がゾクゾクするほどにいやらしい光景だった。汗で張り付いた黒髪が悩ましげに白い肌を際立たせる。しかも右頬に張られたガーゼすらもどこかマゾヒスティックで、余計に興奮させられた。
自らこんな行為に及んでくるなど普段なら想像すら出来ない筈の男が、こんなにも健気に、しかもどこか屈辱的にフェラチオしているなど、到底あり得る話ではなかったのだから。
「…すげえ……やらしい顔………」
蜜の溢れる先端にぱくりとかぶりつき、ちらっと上目遣いで大泉を見てくるシゲは、まるで猫科の猛獣を思わせる野生の美しさを湛えていた。淫靡な目つきが大泉の心を鷲掴みにする。
耐えきれずに、今までずっと頭を撫でてやっていた右手で軽くシゲの頭を掴み、ほんの少し強引に奥まで銜えさせる。苦しげな表情を浮かべるのすら、甘い媚薬に過ぎなくて。
シゲは慣れない動きで顔を上下させていたが、暫くすると余裕が出てきたのか下から意味ありげな目をして見つめては、わざといやらしく大泉のモノをしゃぶった。
自分がどんなに艶を含んだ表情をしているのか、そしてどんな顔をすれば大泉が喜ぶのかをちゃんと理解している。
はち切れそうな雄を口一杯に銜えるシゲは、芳しくも淫猥な匂いを湛えていた。
大泉の息遣いが荒くなる。限界を迎え、身体を硬直させ始めていた。
「…………しげ……ッ……………」
愛しげに漏れる言葉と共にビクビクと痙攣させて、大泉はシゲの口にの中に欲望を吐き出す。
どろりとした白い液体が口の中に注ぎ込まれて、流石にシゲは一瞬パニックを起こしそうになった。以前同じ事をしたときは、飲み下すことが出来ずに咽せて吐き出してしまったが、今度はそれを懸命に飲み下そうとする。
慣れない味と匂いに涙を浮かべながら、口に溜まったものを少しずつ飲ん込んだ。
「あ! ……ああ、いいって! 無理に飲むなってば!」
大泉が慌てて吐き出させようとしたが、最後の一口を飲み下した後にシゲはにやりと不適な笑みを浮かべた。
「……お前に出来て俺に出来ないワケ…ねーべや………」
涙目で言っても説得力など無いのだが、それが精一杯の強がり。そして、シゲなりの大泉への気持ちの証。
「口、疲れたろ…」
唇に何度も口付けをくれながら囁いた。
「今、水持ってきてやっから待ってれや。」
冷えたペットボトルを渡され、シゲは渇いた喉にそれを流し込んだ。そして大泉に戻す。代わる代わる水を飲んで一息ついたところで、二人してベッドに寝転がった。大泉の腕に抱き寄せられ、自然に腕枕をされる。
「お前……よくあんなにごっくごく飲めるね…………いやぁ…信じられないわ。」
シゲが真剣な顔をして大泉の顔を覗き込む。どうやらやはり相当に辛かったようだ。
「ああ? そらーアンタ、愛してれば何だって出来るでしょうがよ。」
「………へ〜え。」
「へ〜えって、何よ? 何が言いたいのよ、お前。」
怪訝な顔をしてシゲを見つめた。シゲは何やらにやついている。
「愛してくれちゃってんだ、アンタ。俺はまたてっきりただのどスケベなだけかと…」
「なーにを仰いますの! そらぁあんた多少はスケベかも解らんけど、僕はいつだっっって…」
「いつだって?」
切れ長の瞳が意味ありげに大泉を見つめてきていた。
「全身で愛してますよー、佐藤さんを!!」
勝ち誇って言うのが可愛らしいと、シゲは思う。そして、真っ向から愛情を示してくれることに、こそばゆくも嬉しくて………つい照れてしまう。
そんな動揺を可愛いと思っている男が目の前にいるのも…気付かずに。
「…もうチョイ脚開け。」
そう言いながら大泉はぐいっと膝を立てさせた。左脚の膝は腫れているので無理はさせられないが、少しでも開いて貰わないとこの後どうにもならないわけで。
指先にたっぷりとローションを塗りつけ、そっと奥底に宛っては塗り込める。そんな作業を何度か繰り返して、少しずつそこを慣らす。
指が奥まで呑み込まれると、ぐちゅぐちゅと出し挿れしたり掻き回して、少しずつ感覚を煽ってやった。
最初のうちは必死で声を噛み殺していたシゲも、いつの間にか中を弄くられる度に切なく甘い吐息を漏らしている。
「相変わらずココ、気持ちよさそうだなー…啼き声がやらしいわ、お前。」
ぎらついた目で見つめながら、耳元で囁く。羞恥に耳まで赤くするシゲが見たくて。
「ほら、ココ。ちょ〜っと触っただけなのに……あらら…」
面白そうに言いながら、指を折り曲げては特定の場所を指先で刺激する。
シゲはそれだけで身体を引きつらせ、ビクビクと痙攣する。指先が白く変わる程にシーツを掴み、目をぎゅっと閉じて甘い喘ぎ声を漏らした。
「…ん………ゃ……ッ……ぁああ………」
閉じられた瞳から涙が滴り落ちてシーツを濡らした。
頃合いだと判断した大泉の指が大きく中を数回掻き回してから、ゆっくりと引き抜かれる。
「んじゃ…もっと可愛い啼き声、聞かせて貰うとすっか。」
両膝を抱え、自分の二の腕辺りに掛けさせて大きく体を開かせてから、奥まった部分に自分の昂ぶりを擦り付けた。先走りの液とローションで塗れたソレが、入り口辺りで湿った水音をさせていたが、やがてゆっくり入り口に差し入れられる。
くちゅ…といやらしい音をたてながら呑み込まれては一旦引き出され、徐々に奥まで収めていった。
「…………っ………ん………」
「ん? 痛い?」
緩やかに中に押し入りながら、大泉が少しだけ心配そうに尋ねる。
「……いや……………平…気…………」
押し寄せる違和感に目を瞑って耐えているシゲの睫毛が小刻みに震えている。黒くて長い、あまりにも綺麗すぎる睫毛は大泉のお気に入りの一つだ。普段開かれている時は切れ長の瞳を艶やかに縁取っているが、閉じられると更に艶めかしさを増す。凛々しい眉毛に不釣り合いなくらいのこの睫毛が、愛しくてたまらない。
「………なんか……………その……………」
シゲが苦しげに言葉を紡ぎ続けていた。
「なした?」
顔を近付けて整った顔を覗き込むと、シゲはうっすらと瞼を開けた。ほんのり潤む黒目がちの瞳も恋しい。
「………すげえ………気持ち、イイのさ…………」
シゲは自分で言ったその言葉に自分で顔を赤くした。そんなところも何とも言えず、可愛らしい。
「馬っっ鹿…そりゃー気持ちイイに決まってるべや………」
嬉しそうな笑みを浮かべ、赤い唇に唇を押し当て舌を侵入させた。歯列をなぞり、舌を舐り、唾液を啜っては舌を絡める。
そうしながらゆるく使っていた腰を徐々に強く打ち付けた。奥まで呑み込もうと蠢きだした内壁に包まれながら。
楔がシゲを突き上げる度、切ない吐息が漏れていた。限りなく甘くて何よりも淫らな調べが大泉の耳を擽る。
中を犯され、掻き回されて悲鳴をあげ、シゲは泥沼のような陶酔の淵へと堕ちていた。無意識に大泉に縋り付いて、奥底まで貫かれては愉悦に身体を震わせる。
身体の狭間ではその証拠のように、硬く昂ぶりを誇示しているシゲの分身が息づいていた。
自らの蜜に塗れ、ぬらりとそぼ濡れて光りながら、苦しげに脈打っている。
「……ぁ…………ああ……っ……………は…ッ………ぁん………っ…………………」
シゲは快楽に翻弄されながら喘ぎ声をあげ、襲いかかる高まりにともすれば意識を失ってしまいそうだった。
奥底に規則的に穿たれる大泉の雄が気が狂いそうな感覚を呼び起こして、知らずに両の眼から涙が溢れてしまう。強烈な一体感と絶頂に達しそうで達しない切なさが、身体中を貫いて駆け巡る。
全てから解放されたいのに―――この感覚にいつまでも呑み込まれていたくもあるから。
相反する感情がぐちゃぐちゃに沸き上がって、次第にシゲの頭の中を真っ白にしていく。
―――――もう何も考えられない。ただずっと、こうされていたい。一番敏感な部分で繋がったまま、気が狂ったように抱き合っていたい。ただ、それだけ―――――。
するりと指が伸びてきて、シゲの昂ぶりに触れた。何も刺激を与えられずとも自然に勃ち上がって蜜を垂らすソレを、大泉の長い指先が優しく捉えて扱く。
途端に大きく上体をびくんと反らせ、逃げようと足掻きだす身体を愛しげに見ながら、中から、外から……じわじわと追い詰めてゆく。
「…さわ…っ………触った…ら………………」
「触ったら何よ? ……駄目なの?………」
わざと意地悪く聞き返す。
「……も………………出ちまう…ッ…………」
シゲは唇を噛みしめて、悔しげに顔を背けた。
「…そんなにやべぇの……?」
「………………」
唇を噛みしめたまま目に涙を溜めて黙り込んでいるのが少し可愛らしくて、大泉はついつい意地悪をしたくなる。
「黙ってたら解んねぇ…っつーの。ああ?」
指先できゅっと根本を握り込み、簡単にはイかさないようにしてから大泉は更に強く腰を打ち付けた。
素肌がぶつかり合う音と湿った粘液の音。それにシゲの掠れた悲鳴が絡み合って室内に響き渡る。
「や……やあ…ッ…………………ああ…………は……ぁッ……!……」
怒濤のように押し寄せてくる刺激にシゲは半狂乱で泣き叫んだ。意識が吹っ飛びそうな程の強烈な陶酔感が目の前すら霞ませてゆく。
最早理性など消し去られ、突き上げては掻き回す楔に悦びうち震えるばかりだった。
「………おね………がい…ッ……………もう………………」
「もう? …………何?」
大泉も荒い息の下、必死で言葉を紡ぐ。
「……イかせ………ッ………………おねが……………ッ……………」
幾筋もの涙が眼から伝い落ちていく。それだけを伝えるのがやっとと言った感じで、シゲはまた甘美な喘ぎ声を漏らしていた。
その様子を見て漸く満足したのか、大泉は握り込んでいた根本から指をそっと離した。そして、思うがままにシゲを貪り尽くしてゆく。
奥底まで楔を穿っては引き抜き、シゲの弱い場所をぐちゅぐちゅと丁寧に責め立てては離れるといった事を数度繰り返した。
シゲが身を反らせるたび、華奢な鎖骨や肩口のラインが綺麗にしなる。そんな肩を両手で抱き締め、最高の高みまで昇り詰めるべく突き上げ続けた。
「イけ…………しげ…イけ! ……………俺のでお前の中、一杯にしてやっから…………イっちまえ!!」
耳元で囁いた数秒後、密着させていた腹や胸元に生暖かい感触がじわっと広がっていく。
ほぼ同時に、大泉の身体からも糸が切れたかのように力が抜けていた。
ひくひくとまだ軽く痙攣し続けるシゲの奥底には、大泉のありったけの思いが迸り溢れていた。
「…………あーーーーあ、やっちまったよ俺。見てみ、大泉。」
シゲが呆れたような声を出す。視線の先には昨日よりも少し腫れが増している、どす黒い左膝があった。
「……んん? 何よ………」
まだ寝惚けた素振りで呟いた大泉が、眠い目を擦り擦り見た。
「おおぅ…………………これは痛そう。」
「痛そうって………なーまら痛いんですけど。」
憮然としながらシゲはベッドからそっと降りてゆっくり歩いてみた。思った通り、膝は昨日より曲がらなくなっている。
「…………あー……あれだ。ゆうべ、お前が調子こくから。」
頭をぽりぽりと掻きながらにやっと含み笑いをしてシゲをじろじろと見つめてくる。
「―――ま、俺は随分とイイ思いさして貰っちゃったから別にいいんだけどさ。」
そう言って背後から抱き締め、うなじにそっと唇を押し当ててきた。
「………うっさいわ!」
耳まで赤くして、首筋にへばりついている頭をぽこんと一殴り。
大泉を背中にくっつけたままコテージに出ると、朝の清々しい日差しが全身に心地良い。
目の前にはどこまでも蒼く煌めくエメラルドの海が、陽光に煌めきながら悠然と広がっていた。
「……あーあ。やっと沖縄に来てるっつー実感湧いてきたのに……今日はもう帰る日かあ。」
「今度は最初っから二人っきりでゆっくり来るべ、なあしげ。今回は下見っちゅー事にしとこうや。」
背中から抱き締められてそんな事を囁かれてしまったシゲは、朝っぱらから顔を赤くしていた。
大泉の気持ちが心底嬉しくて。
だから振り返ってそっと口付ける。感謝の気持ちをそっと込めて………。
ホテルでの朝食を取ったばかりだというのに、大泉は早々にチェックアウトを済ませて車に乗り込む。
お目当ては美味しいソーキソバらしい。豚一家の名に恥じないグルメぶりを披露するこの男に少々呆れた笑いを浮かべながらも、シゲは存分に付き合い、食べ、笑った。気が付けば昼を過ぎ、もう数時間で飛行機の時間だ。
大泉はご機嫌で車を走らせ、いつの間にか那覇市内に入っていた。
「ちょっとまだ時間有るなあ。と言って、もう腹一杯だろ、しげ?」
「――――先生。食べ物はもう勘弁して。俺、マジで札幌に帰ったらダイエットしないと、かなり厳しい……」
うんざり気味の顔でシゲは反っくり返っている。
「これぐらいで音ぇ上げやがって。駄目やねー、君は。少しは部長見習えや。」
ぶつくさ言いながらもけらけらと笑っている。
「微妙な時間だし、ちょっとあそこ寄ってくか。ビーチ。」
「ビーチって、波の上?」
「そう。あそこからなら空港なーまら近いし、ちょっと時間潰すのもいいでしょう?」
言いながらどんどん車を其方に向かって走らせてゆく。
「いや、ちょっと待って大泉さん! 俺……あそこはちょっと…………」
言い辛そうに口ごもる。昨日の昼間の出来事を思い出して、かなり不快な気分になっているらしい。
「あ? なしたのよ。昨日行ってたから嫌なのか? 俺、行ってないから見たいんやけどなー。」
何も知らない大泉が怪訝そうな声で聞いてくる。仕方がなくシゲは全てを話すことにした。
「―――あのねぇ、怒らないで聞いてくれるかい?」
「聞きましょう。」
「昨日の昼ね…俺あそこで時間潰しててさ、それで公衆トイレ入ったのよ。で、用を足したら隣りに変〜なオッサンが来て、ジロジロ俺のこと見るわけ。」
「おっさん?」
「そ。で、隣から俺のアレ見てね『兄ちゃんのでっかいね!』だの『これからちょっと付き合わない?』だのこっちの言葉で執拗に話しかけてきてさ………鬱陶しいから逃げようと思ってもホラ、俺、脚引きずってるからなかなか振り切れなくてね。オッサンにずーーーっとトイレから付きまとわれちゃったわけ。もう俺、なーまら気持ち悪かったのよ!!」
言い終わってそーっと大泉の顔色を窺ったが、意外に普通の顔をしている。どんなに怒り狂うかと正直冷や冷やしていただけに、何となく気が抜けてしまう。
そうしているうちに車は公園内の駐車場へと入っていく。大泉は何事もなかったかのように車を停め、渋るシゲを助手席から引きずり出した。
そっと手を繋いで公園内をゆっくり散策する。
日差しは相変わらず初夏のように爽やかで、駆け抜ける風も心地が良い。綺麗に整備された公園のすぐ下にはこれもまた良く整備されたビーチ。人口のビーチらしいが、そんな事を微塵も感じさせない雰囲気だ。
「――――なあ。」
「何よ。」
意を決して話しかけても、大泉はぶっきらぼうにしか返事をしなかった。
シゲは日焼け防止のキャップを被りつつ、しかも俯きがちで歩いているので大泉がどんな表情をしているのか解らない。仕方がなくそっと顔を上げ、横目でちらっと様子を窺ってみる。
途端に目が合ってしまう。結局どうして良いか解らずにまたシゲは俯いた。
「佐藤さん。」
ぽんっと頭の上に大きな手が乗せられる。そのままぽんぽんとあやすように叩かれた。
「せっかく最後なんだから…んな顔するなっちゅーの。洋ちゃん、困っちゃうでしょ?」
そのままキャップを剥ぎ取られ、長い指で髪をくしゃくしゃと触られた。
「だってお前……気にしてんじゃ………」
「気にしてんのはお前じゃー! ボケが!!」
ぐしゃっと髪を掴まれ、強い力でそれはもう見事に両手でぐしゃぐしゃにされた。
「痛い! 痛いってバカこの!!」
その場で取っ組み合って、結局は力任せのじゃれ合いになってしまっていた。
散々攻防を繰り返したが結局力の差で大泉に押さえ込まれ、抱き締められる。力つきて二人とも芝生の上にへたり込みながら、堰を切ったように笑い合った。
「痛っ……いてててて………あんまり笑ったら顔が引きつれて痛ぇ………」
慌てて右頬を押さえた。昨夜の狂態で実は朝からかなり疼いていたところに馬鹿笑いをして、更に追い打ちをかけたようだった。
「どら…舐めてやっから見してみれ。」
「ふざけんな! 思いっきりバイ菌入るべや。」
「じゃあもう俺、絶対舐めるわ! 意地でも舐め回したる!!」
本気とも冗談ともつかない口調で大泉が叫いたその時、何やら聞き取りづらい言葉が背後からかけられた。
「………!?…………」
二人とも唖然として顔を見合わせた後、そーっと振り返ってみる。
「…………あッ!! ……………オッサン…………」
「よう兄ちゃん。昨日あんなにつれないと思ったら……そうかあ、彼氏と来てたんかあ。彼氏と別れたらおじさんにイイコトさせてや、なあ。」
今度はちゃんと聞き取れた。だがシゲは顔を真っ赤にして目を白黒させている。
「…あのなあ、おっちゃん。コイツねぇ……俺の大〜事な大事な恋人だからそれは無いわ。悪いけどゴメンなー。」
大泉がにやりと笑みを浮かべ、シゲを抱き寄せた。
「おおっとお熱いねえ。でも兄ちゃん、あんまり苛めちゃ駄目だなあ、そんなに傷だらけにしちゃってさあ。」
含み笑いを浮かべてオッサンは立ち去っていった。茫然とするシゲと勝利の笑みを湛えた大泉を残して。
「―――おおい………ず……………」
口をぱくぱくさせたままのシゲをもう一度抱き締めて、耳元で囁いた。
「しげちゃん…モっテモテ〜……………でも、お前は誰にも触らせねーから安心して俺の傍に居ろ。」
真っ赤なシゲの顔を隠すようにキャップを被せ、大泉はにっこり笑った。
「さー帰るべ。寒〜い雪の大地が俺らを待ってるよー、しげ。」
シゲの目の前に手を差し出した。
差し伸べられた手をしっかりと掴み、シゲはゆっくり立ち上がって極上の笑みを浮かべる。
これ以上ないくらいの幸せを噛みしめて。
目の前にはエメラルド色の海。昨夜グラスの中で煌めいていたような淡い緑色。
エメラルドの島は今日も輝いていた。そして、また二人で来るときもきっと同じように輝いていることだろう。
最高についてなくて、でも最高に幸せな一年の始まりにシゲは胸を高鳴らせながら、明日から戻ってくる多忙な日常へと帰っていくのだった。
その手をしっかりと大泉の手に握られたまま――――……………。
キリ番7777を獲得されましたハル様のリクエス度御座います。
コンセプトは
「シゲの沖縄一人旅に突然現れた洋ちゃんと。二人は南の島でイチャイチャv」
さあて、果たしてちゃんとご期待通りに書けたんでしょうか!? いつもの如くやっぱりナゾで御座います。
しかもまたもや砂吐くほどの甘さです。。。(笑)
因みに最後の方で出てきた『部長』とはおにぎりあたためますかでの『サトウマミ』のあだ名ですな。
鉄の胃袋を持つ『完食王』なんでゴザイマス(汗)