おねだり…
それはカサっと乾いた音をたてて鞄の中に収まった。
引き出しの中から日の目を見たそれは、大事な大事な今日の主役……。
きっかけは本当に他愛もないいつもの雑談からだ。
芝居の打ち合わせの最中、ちょっとした休憩時間に盛り上がった下ネタと女の話。そして、その男は自慢げに語りだしたのだった。
「…こないだお持ち帰りしたねーちゃんがさあ、いい〜感じのオッパイで触り心地が抜群なワケさ!いや〜あれは得したねッッ!!なーまらエキサイトしちゃったもん、俺。」
なかなかに聞き捨てならないことを平気な顔をして嬉しげに語る男は、よりにもよって自分の最も愛しい人間。
そんな割り切れない思いを抱えつつも、へえ〜っと普通の顔を装いながら、大泉は内心非常に不機嫌だった。
「シゲ、まーたそんなことばっか言って自慢ばっかりして。いちいちウルサイんだよね、あんたは!勝手にでっかいパイオツ触りまくってりゃあいーじゃん。」
呆れ顔で適当に会話している音尾の横に座りながら、普通の顔をして煙草をふかす。
でも気付けば普通以上に煙を吸い込んで、大仰に吐き出すことを繰り返した。どうしても平常を保てなくなっている自分に段々嫌気がさす。
「あー…あほらし。付き合ってられんわー、洋ちゃん。」
延々と続くシゲの生々しい体験話に、結局苛立ちを隠すことが出来なくなった大泉は、煙草をぎゅっぎゅっと灰皿に押しつけると、打ち合わせ用の会議室を出た。
廊下に出てふうっと溜息を吐く。アイツは何を考えているんだろう…とまた苛ついて、頭を掻きむしりながらトイレへと向かった。
「あら。お前もおったんかい。」
大泉がちらりと顔を見たのは安田。きりっと凛々しい顔をして手を洗っていた。
「いましたよ。…おやおや大泉くん、不機嫌そうな顔して。」
「…べっつにー…」
ぷいっと顔を背けて機嫌の悪さを露呈している大泉を、安田が無言で見つめた。
「……佐藤、ひでえよな。」
ぼそっと呟く。
安田がそんなことを話しかけてきたので、大泉はちろりと声の方を見た。
「あれ、わざとじゃねーの?アイツ。」
「……あー、やっぱそう思う?」
苦々しく言うと、安田は無言で頷いた。
「女とヤるな!なんて言うこたぁ出来ないけどね、流石にああも堂々と語られてしまうといくら寛大な大泉さんでも、結構切ないもんですねー。」
やけっぱちの口調と表情で力なく笑うと、安田が肩にぽんと手をかけてきた。
「あら何?安田くん。同情は洋ちゃん、イラナイ。」
「いや、同情とかじゃなくてね…俺もほら、同じ立場でしょ。琢ちゃん…さ。だからこう、何て言うのかな…身に詰まされるって言うか。」
そうして二人でふうっと溜息を吐く。どんよりとした空気が辺りを支配していたその時。
突然安田がぎゅっと肩を強く掴んで大泉の顔を見た。
「大泉!思い出したよ!!」
「あ?何が。」
「ほら、俺『マンホール』で中国に行ったとき、みんなにお土産買ってきたべや!!」
ふと考えてから、はいはいと大泉が相づちを打つ。
「お前には内緒でもう一つあげたでしょう!アレ。」
「…はい?」
大きな目玉をきょろりと動かしてやや暫く考えてみる。そういえばあの時こっそり何かもらったっけ…?
「忘れちゃったのかよ。君だけに買って来たの、あったでしょ。ほら!」
「……………ああー!なんかあやしーい箱に入ったのがあったねえ。」
安田がにやっと笑みを浮かべた。
「そう、アレ。あのねえ大泉くん…ここだけの話だけどねえ……………アレ、良いよ。」
何とも言えない含み笑いを浮かべている。
「―――――――…………あー、ああ、ハイ。思い出しました……」
複雑な表情を浮かべて大泉が頭を掻いた。
中国のお土産と称して、安田が以前大泉に渡したのは中国製の高価な『媚薬』と言われるもの。しかもご丁寧に二種類もくれていた。
貰ったその時点で大泉に使う気など更々無くて、部屋の何処かにしまい込んだままずっと忘れていたのだった。
「いやー…悪いんだけどねえ、あれをどう使ったからってしげの女好きが治るかって言うと…そうじゃないと思うし。第一俺は別にアイツを満足させてねえっつーワケじゃないからさあ。」
安田の気持ちは非常に有り難かったが、正直それがどうしたという気持ちだ。
「違うんだって!絶対に後悔しねーからまあ試しに使ってみろって!!」
にやりと笑みを湛えて安田は大泉の背中を軽く叩いた。その表情はかなり意味深である。
「んん……そんなに違うかい?それ。」
あまりにも自信ありげな表情に、ほんの少し興味がでてきた大泉が問い掛けてみた。
「いや俺もね、買ってきたは良いけど最近まで忘れててさ。でもね……………何て言うのか、アレを使うとねぇ…性生活っての?やっぱ全然違うんだなあ……。」
楽しげな声色に、大泉も更にのってきた。
「あーそうかそうか。そこまで安田くんがお奨めするなら仕方がない。俺の意思には多少反するが、試してみるとすっかあ!」
「いよっ、その意気ですよ!大泉さん!!」
シゲのスケジュールで翌日がオフになる日を狙って、大泉はいつものように仕事帰りに押し掛けた。
鞄の中にしっかりと例のものを潜ませて。
「おおーす。しげちゃんお疲れ〜。」
普段といたって変わらぬ様子で勝手にシゲの部屋の合い鍵を使い、中に入る。
「やっぱり来たのかよ。たまにはオフの前くらいゆっくりさせろよな!」
そう言いつつも満更でもない顔をしたシゲが、入り口で出迎えた。
「まあまあ。お土産買ってきてあげたから、文句言わない言わない☆」
にかっと笑って手に持っていた包みをシゲに手渡した。
「しげ、今帰ってきたばかりでしょ?メシまだだと思って。」
「お、何これ?まだあったかいよ大泉。」
無邪気な顔で包みをガサガサと開けるシゲ。中からはお持ち帰り用のスープカレーが出てきた。
「ぉおー!?なまら美味そうじゃん!!何?わざわざ買ってきてくれたの?」
「ここねー、最近俺のお気に入り。今日は無理言ってテイクアウトにして貰っちゃった。」
「うわマジ?いやー嬉しいねえ大泉さんv 俺もう腹ぺこぺこでさあ!」
目を輝かせて嬉しそうにしているシゲを座らせてから、まるで自分の家のように大泉はその他買ってきたペットボトルのお茶やスポーツドリンク、ビールなどをテキパキと冷蔵庫にしまった。
「まーったく、そうやってるとここが誰んちかわかんねーな。」
シゲは半分呆れながらも、幸せそうにカレーを口に運んでいる。
「美味しいですかー?佐藤さんv」
目の前にどかっと座って顔を覗き込んだ。シゲは手を止めてそんな大泉の顔をじっと見つめてから、にかっと笑った。
―――凶悪なくらい可愛い―――
感動にも似た感情が沸き上がる。と同時に、この前味わわされた屈辱にも似た感情が混じり合って、大泉の体の奥底にじわりと重い欲望が鎌首をもたげ始めていた。
「んあ?…なしたのよ。」
そんなことなど一向に知らないシゲは不思議そうな顔をしながらスプーンを口に運ぼうとしたが、ふっと動きを止めた。そして大泉の口の前にそれを突き出す。
「ほれ。」
ぶっきらぼうに言って大泉の口許にスプーンを突き付け、有無を言わさぬ態度だ。
「ホラぁ、あーんしろって!」
いや、食べたかったワケじゃ無いんだけど……これはこれで凄く嬉しい…かな……。
そんなことを思いながら口を開けると、シゲが口の中にスープカレーを運んでくれた。
「自分で買ってきといて、お強請りするなんて…まったく我が儘なやつだなあ。」
けらけらと笑いながら再びカレーを食べ続けるシゲが可愛らしかった。
こうしているとこのまま今すぐにもシゲを押し倒してしまいそうになる。だがそれでは折角持ってきたものも使う暇がない。
「俺、汗かいてベタベタだからよー。先にシャワー借りるぞお。」
そんなことを言いながら大泉は慌てて浴室に向かった。
ザクの手持ちタオルで頭をガシガシと拭きつつ戻ると、シゲはお腹がいっぱいになったのかころんとフローリングの床に横になってテレビを見ていた。
「しーげーぇ、食べてすぐ横になると牛になるっちゅーの。」
「…うっせえって。あ、カレーご馳走さん!美味かったよ。今度店に連れてけな。」
ひょいっと体を起こし、満面の笑みだ。
「ほいタオル〜。とっとと身体中磨いてこい☆」
ぽいっと自分の使ったタオルをシゲに投げつけて意味ありげな笑顔をすると、シゲはぱっと顔を赤くした。
「お前ねえ…もうちょっと考えてからもの言えよな…」
もごもご言いながら浴室に消えたシゲを確認してから、大泉はそっと鞄から例のものを取り出した。
「んー…ビールに数滴……だったべか?」
呟きながら箱を見つめる。安田が教えてくれたことを思い出しつつ、箱に書いてあるインチキくさい日本語の説明を読んでいた。所々間違った日本語がなんとも面白い。
ガタン。
浴室からシャワーの水音が止むと共に、物音が聞こえた。そろそろ湯気が上がってほっかほかのお姫様が御登場するようだ。
ぺろりと舌なめずりして、大泉は冷凍庫で冷やしておいたタンブラーを取り出し、シゲに手渡す方に媚薬を一滴、また一滴…と、数滴垂らした。そしてその上から何事もないようにビールを注げば完璧。
自分のタンブラーにもビールを注ぐ。見た目はどちらも全く解らない。
「…おー、気が利くねえ大泉さんってば。」
濡れた髪を肌に張り付かせて何とも言えない湯上がりの色気でいっぱいの姫は、嬉しそうに近付いてきた。何も知らずに。
「ほいしげちゃん!お疲れ〜。」
「はいお疲れ〜っ!」
チン、とグラスが鳴る。大泉はぐいっと琥珀色の液体を喉に流し込みながら、横目でシゲの様子を見ていた。
こくこくと喉を鳴らして美味しそうに飲んでいる。どうやら気付かれてはいないようだ。
「いい飲みっぷりやないのぉ?佐藤さん。」
「ぷはっ!いやー、美味いッ!!」
取り敢えず何も感づかれてはいない。さて…あとはどのくらいで効き目が現れるか?大泉は獲物がじわじわと網に絡まれていくのを見つめるような気分で、心臓を高鳴らせながらシゲを見つめていた…。
数分が経過する。これと言って今のところシゲに変化は見られない。
一杯目のビールを飲み干して、二杯目に入っている。テレビを見て時折ゲラゲラ笑いながら、大泉に向かって思いっきり普通に話しかけてきていた。
―――――やっべえ……俺、もしかして安田に騙された…?―――――
一杯食わされたんだとしたら非常に情けない。この間からずっとそわそわしてこの機会を窺っていたと言うのに、これが安田の他愛ない嘘とかだったりしたら目も当てられないぞ、オイ……。
そんな思いが怒りに変わりそうになって、大泉はグラスに残っていたビールをぐいっと煽った。
――――煙草でも吸って気持ちを切り替えっかぁ………。でもって、もう薬なんかに惑わされずにいつも通り、しげを抱けばいいんやしなぁ。ああ、ヤメヤメ、なんかもうあほらしいわー……――――
ふうっと煙を吐いて、ちろっとシゲの方を見た。
シゲは先程まで床に座っていたのだが、今はソファの上に座っている。ソファと言ってももうボロボロで粗大ゴミ一歩手前と言った感じの代物だが、シゲは気に入っているらしく未だ捨てる気はないらしい。
座ったままにじり寄っていって、シゲの脚にもたれ掛かる。子供が母親に甘えるような格好で膝に縋り付いた。
「うわ、甘ったれ。」
言葉は冷たいがシゲは満更でもないらしく、大泉の髪の中に指を差し入れて優しく梳いてくれた。
「佐藤さん…やーさしーぃv」
そう言ってからふざけて膝頭にぱくっと噛み付いてみる。
「ひゃ……ッ……」
身体がビクッと跳ね上がる。シゲの身体が感度良好なのは重々承知の大泉だが、ちょっとばかりこの反応には驚かされた。
「しげぇ、なしたの?まさかこのくらいで感じちゃったわけかい?」
半信半疑で見上げた大泉の目の中に、とろんとした表情のシゲが映り込む。
「………うっそ…!マジかぁ……………」
思わず感嘆の声を上げて、大泉はまじまじと見つめた。
「大泉……ぃ…………俺、なんか変かも…………」
しどけない表情で困惑しているシゲ。明らかに普通とは全然違う様子に、大泉は薬の効き目を確信して密かに心の中でガッツポーズだ。
「佐藤さ〜ん……なしたの?調子悪いのかい?」
こみ上げてくる笑いを必死で堪えて、あくまでも何も知らないフリをしながら、噛み付いた膝頭に唇を押し当てた。
「それ…………やめて……………」
きゅっと大泉の髪を握って、刺激に耐えようとしている。だが大泉は一向に気にしない風で、わざと舌を使いだした。
「こんなんで気持ちイイのかい?…ん?」
「……やめろって……」
どうしていいか解らない様子が手に取るように伝わってきて、大泉の中で一気に嗜虐的な気持ちが昂ぶってくる。
一旦身体を離して立ち上がるとソファの上に座っているシゲの上にのし掛かった。
「今日のしげ、すげえ可愛い…」
耳元でそっと囁いて唇を求める。それをシゲは抗いもせず、自ら進んで受け入れていた。
ソファの上に倒れ込み、思うがまま唇を貪った。舌を差し入れ、唾液を絡ませ合いながら互いの身体をシャツの上から弄ぐり合う。
テレビの音に混じり、部屋の中は荒い息づかいと甘やかな吐息が響いている。
「…大泉……おおい…ず………みぃ……」
切なげに名を呼んでくるシゲが愛しくて仕方がなかった。呼ばれる度に小さく返事をして、きゅっと抱き締めた。身体中で欲していることを伝えたくて。
「俺…やっぱ、変だぁ……」
シゲが苦しげに呟いて、大泉にぎゅっと縋り付いた。
「変じゃねーよ、しげぇ。きっと今日はお前、自分に正直なだけなんと違うかー?」
くっくっと笑いながら、シゲの着ているシャツを脱がし始める。
最近二人とも同じジムで身体を鍛えているのだが、シゲは目に見えて綺麗な筋肉が付いてきて…大泉も暫し見とれる綺程の麗なラインが形作られていた。しなやかな筋肉と引き締まった足腰が、女性には無い独特の色気を醸し出している。
シャツを脱がし終えてトランクスに手をかけ、素早く剥ぎ取ってから大泉はふと、あることを思いついた。
「しげ…触って欲しい?」
唐突に聞かれて困惑気味の顔で大泉を見上げる。当然愛撫されるものだと思っていたので、シゲはまだ何も気付いていない。
「え………何……?」
「こんなに元気におっ勃てちゃってー…これなら洋ちゃん、要らないんとちゃう?」
わざと突き放した言い方をして、そっと身体を離した。
「ちょ…っ…………お前、何…今更…ぁ……ッ…」
泣きそうな表情になる。それが大泉にとっては最高の媚薬…。
身体の中心で蜜を迸らせているシゲの分身に、長い指でそっと触れてみた。
指先に透明なそれを絡ませると、びくりと身体を強張らせる。
「いーっぱい濡れちゃってまあ。まだなーんにもしてあげてないのに。」
くちゅ…と、指先に絡み付かせると、さっさと指を離した。
「……あ……」
絶望にも似た声を出して本気で驚いているシゲを眺めながら、指先の蜜をぺろりと舐め取った。
「続きはお預けだなー…なあ?佐藤さん。」
「嘘…ぉ……マジで…っ…?…………俺もう、変になるよぉ…………大泉ってばあ………」
身体を起こして必死に大泉に縋り付いてきた。ゾクゾクするような瞬間だ。
「じゃー、自分でやればいーんじゃない?しげ。」
顔を近付け、耳を甘噛みしながら尚も囁き続ける。
「俺に見してみれや………お前が乱れるとこ。したらご褒美になーんでもしてやるって…」
大泉のシャツに縋り付いている指にぎゅっと力が入る。今顔は見えないが、きっと泣きそうな顔をして唇を噛みしめているに違いない。
「俺の目の前で…一人でやってる時みたいに、やってみせろや……」
そう言って、そっと胸元の硬くなっている蕾に指先を這わせた。
「…ん……ッ……」
ビクンと上半身が跳ねる。感じやすい上に媚薬のせいでより感度が増したシゲの身体は、ほんの少しの愛撫にも苦しげな吐息を漏らした。
「うわ☆佐藤さんってば…感じやす〜いv」
楽しげに言ってシゲを身体から引き離し、ちゅっと軽い口付けをしてからじっと見据えた。
シゲは案の定泣きそうな顔。目に涙を溜めて大泉に哀願するような顔で唇を噛んでいたが、やがてギッと大泉を睨みながら口を開いた。
「あんた…大嫌いだよ………いっつもいっつもそうやって………俺を焦らして……………」
言い終わらないうちに大泉が唇で塞ぐ。今度はねっとりといやらしい口付けで、更にシゲを煽る為に。
大泉の目の前でシゲは気が狂わんばかりの痴態を晒していた。
ソファの上に座り直させられ、肘掛けに片脚を掛けさせられて、自慰行為をさせられている。
悔しくて気が狂いそうな状況でも、身体はその行為に感じてしまっていた。本能が理性を簡単に裏切っていくこの状況は、更にシゲを艶めかしい陶酔の中に引きずり込んでいく。
「なーまら可愛いいわ…しげ。」
うっとりとした表情で、食い入るようにその様子を見つめている大泉。目を爛々と輝かせてこの痴態を見続けられる事に、シゲはある種の快感を感じ始めていた。
好きだと思っている男の視線を身体中に絡み付かせて、自らの手で達しようとしている屈辱行為。
それは今までとは比べものにならないような悦楽だ。
今まで心のどこか片隅にはなけなしの理性が残っていた筈だった。だが今日に限ってそれは全くと言っていいほど働かない。それどころかこのまま肉体の赴くままに引きずられる事を、心地良くすら感じ始めていた。
「……ねえ…………大泉…ぃ…………」
更に刺激が欲しくて。もっともっといやらしい責め苦に合いたくて。今のシゲは簡単に理性のタガを外す。
「舐めてよ。お前の舌で。俺が感じるとこ……お前、よく知ってんだろ…………?」
うっすらと目を開けて大泉を見つめる。多分自分が今、どんなにいやらしい顔をしているか想像が付く。とんでもない蠱惑の表情で大泉を誘っているであろう事を。
「…どこ、舐めて欲しい?」
汗で頬に張り付いた髪を大きな手で掻き上げながら、大泉が耳馴染みの良いいつものイントネーションでそっと尋ねる。
「……ここ……」
シゲは右手で自身を、左手で胸元を愛撫していたが、そっとその手で胸の蕾を指さした。
その手をそっとどけて、大泉が胸元にむしゃぶりつく。荒々しく蕾に吸い付かれ、シゲは小さな悲鳴を上げた。
「お手手、お留守にしちゃ駄目でしょーがぁ…ほれ、こっちもちゃんとしなきゃーねー。」
そう言ってシゲの手の上から一緒に扱き始めた。
「……く…ッ…………ん………………ぁ………はぁ……………ん…ッ……………」
シゲの右手をしっかりと握り、どんどん動きを早める。
「ぁ………あ…………気持ちイイ…………もっとして……………お願い大泉……ッ!」
夢中で哀願するシゲが可愛くて、大泉は胸元の蕾をいやらしく舌で舐る。勿論重ねた手にも更に力を込めて一緒に愛撫してやった。
「……凄…い…ぃ…………も………………イ…………………くッ……………」
身体を後ろに反らせたかと思うと、シゲは自分の手の中に白いものを吐き出した。
「キス……頂戴よ…」
蕩けた表情のままでシゲが呟く。
「俺……アンタが欲しい。」
思いもかけない言葉が次々とシゲの口からこぼれ落ちる。
「しげ…?……うわ、ウッソみてえだなー…お前、そんなことまで言ってくれるちゃうか。」
やや困惑しながらも、愛しい姫の仰せのままに唇を重ねた。深く口付けて、舌で蹂躙する。
ゆっくりと唇を離すと、シゲがそっと大泉の雄に手を伸ばす。いきり勃っているそれを指先でなぞって、愛しそうに緩く扱いた。
「お前のこれで………俺を滅茶苦茶にしてみろよ。俺ん中に突っ込んで、気が狂うぐらいグチャグチャに掻き回してよ……」
指先にきゅっと力が籠もる。
「そんなに俺が欲しい?しげ…」
首筋ちゅっと吸って軽くキスマークをつけながら言うと、シゲが不適な笑みを浮かべながら頷いた。
こんなに快楽で理性が吹っ飛んでいても、たとえ言葉が哀願だとしても…シゲの表情は誇り高い。簡単には手折れないプライドと獣欲の狭間で足掻くシゲが、大泉にはこの上なく愛しい。
「…じゃーまだあげられない。」
くくっと意地悪く笑って大泉は身体を離し、ソファの近くに転がっていた鞄に手を伸ばした。
「…ひでぇ………また焦らす気…か…」
辛そうな呟きを漏らすシゲに再び近付いて、額に唇を押し当てて口付けをする。
「ちょっといい子にしててな。」
そう言いながら手の中のチューブから中身を絞り出し、自分の指にたっぷり塗りつけた。安田から貰ったもう一つの媚薬だ。
ソファの背もたれにもたれ掛かって脱力しているシゲの両脚を肩に掛け、中心の秘部にそっと指を宛う。
「冷て…っ…」
ぴちゃ…と音をさせ入り口の辺りを指で丁寧に塗りつけていく。
シゲは抗うこともせず、逆に大泉の頭を両手で抱えてその行為を受け入れていた。
くちゅ…くちゅ…と音を響かせながらシゲの中に指先を埋め込み始めると、辛そうな吐息を漏らす。ゆっくりと入れては解し、内壁に媚薬を塗りつけては抜き出してまた指先にたっぷりと塗りつけ中に戻す。
いつもより時間をかけて慎重にローションを使われているとは思っていたが、シゲはそれが第二の媚薬であることなど全く知らない。抜き差しされる度にいつもよりも身体の奥底が痺れてくる快感に、ただ身を任せていた。
すっかり塗りつけ終わると指はあっさり引き抜かれた。拍子抜けしているシゲを抱え起こし、大泉は自分もソファの上に座る。
「大泉ぃ……そりゃ…ないってぇ………」
泣きそうな顔で訴えかける唇をそっと人差し指で制して、大泉が悪戯っ子のように笑う。
「お預けだなv 続きがして欲しかったら、洋ちゃんのも気持ちよくしてや。」
履いていた下着を自分で脱いで、天を仰いでいきり勃つ自分の分身をシゲに触らせた。
シゲの手の中でそれはガチガチの硬度を保ち、先端から蜜を滾らせている。
突き動かされたようにシゲはソファから降りて床に膝をつく。そして大泉の股間にそっと顔を埋めた。目の前にそそり勃つ雄に唇を這わせ、ソフトクリームでも舐めるかのように舌を使った。
「…なまらすげえ………お前、すーげぇえっちな顔して俺の舐めてるぞ。」
その言葉に顔を赤く染め、泣きそうな顔をしながらも懸命に大泉のものを舐り、やがて口を大きく開けてそれを銜えた。
怒張したものを口いっぱいに頬張ってゆるゆると上下させる。
「俺の…美味しい?」
シゲの頭を優しく撫でながら問い掛け、必死で銜えている顔をまじまじと見つめた。
とろりとした目をして、シゲは大泉を見つめる。先程よりも媚薬が効いてきているのか、より蕩けた表情だった。
「…………………」
うっとりとして熱に浮かされた顔が何かを訴えようとしている。だが口に銜えさせられたままではどうすることも出来ずにいるようだ。
諦めたのか再び顔を上下させ大泉の雄を愛撫するシゲの頭を掴み、力を少し加えて早めに達するのを心掛けると、やがて耐えきれない程の快楽の波が襲いかかってきて…大泉は自分の精を吐き出した。
どくどくと吐き出されるそれは慣れないシゲの口では全て受け止めきれずに、顔にもかかってしまっていたのだが、何とも言えない蠱惑的な表情をして体液を飲見下そうとする姿が扇情的だった。
シゲが苦しそうに縋り付いてくる。半泣きの顔をくしゃくしゃにして、何かを語りたげに目で訴える。
「ん?どしたのしげちゃん。」
人差し指を鎖骨に這わせると、びくりと身体が跳ねた。
「…嘘……つき…ぃ…」
切れ切れの言葉が苦しそうで、なかなかに大泉をそそる。
「大泉の……ばかやろー……」
涙がぽろっと片目からこぼれ落ちて大泉の手の甲に当たった。おそらくは媚薬のせいで相当に辛い状態なのだろう。小刻みに震えて息も絶え絶えといった風情だ。
「俺…もう死んじゃうよ…ぉ………」
そう言って吐き出したばかりで萎えてしまった大泉の雄を握りしめてくる。
「…しげ………俺にそんなにして欲しいのかい?」
耳元で囁いて、耳の中に舌を差し込むと小さな喘ぎ声が上がった。
切なげで、儚い夢のように甘美な…シゲの声。
「もう助けて、お願い……。俺の中……疼いちまって………………なまら気が狂いそうなのにさあ…お前、なんにもしてくれねーじゃんよぉ……」
ソファの上に座ったままの大泉の上に自ら跨って抱きついてくる。
大泉はそっとシゲの双丘に指を這わせた。くちゅ…といやらしい音をたてて、指先は簡単にシゲの中まで滑り込む。
ほんの少し入り口に埋めただけの指は、刺激を欲しがってひくついている内壁によって易々と中まで呑み込まれていった。
「うわすげえ…………」
おもわず感動のあまり呟いてしまう。媚薬入りのローションがシゲの中で温まり、とろとろと指を伝って滴り落ちた。
「……お願いだってば…大泉ぃ……」
指では満足しきれないらしい。我を忘れて必死に哀願してくる。
そんなシゲの指の中で、大泉のモノはあっという間に硬さを取り戻し始めていた。
「あーあ、仕方ねえなー。お前がそんなに言うなら、挿れてやってもいいよー。」
ニヤニヤしながら指をずるりと引き抜くと、シゲが小さい声を上げて身体を反らせた。
「ホラおいで、しげ。お前の大好きなこれで、中グチャグチャにして欲しいんやろ?キミは。」
大泉のからかうような口調にさっと顔を赤らめながらも、シゲはゆっくり大泉の雄を身体の中に飲み込み始めた。
息を荒げ、夢中で腰を落としてはそれを深く静めてゆく。
すっかり収めてしまうと、はぁっ…と息を吐き、ぎゅっと大泉に抱きついてきた。
「んー、どしたの佐藤。そんなに気持ちイイのかい?」
頭を優しく撫でながら囁きかけた。
言っている大泉も極上の快楽に芯まで蕩けそうな気分だ。媚薬に侵されたシゲの中はいつもよりもねっとりと大泉に絡み付く。温まったローションが泉のように溢れ出してきて、シゲの中で溺れてしまいそうな気さえする。
「……お前の、すげえ…………イイ……」
シゲが熱に浮かされたような顔で言って微かに笑った。先程までの半泣き顔はどこへやら。むしろ勝ち誇ったような笑みを浮かべて、大泉の唇を積極的に求める。
大泉の首に腕を回して最初はゆっくりと、段々に動きを早めてシゲは身体中で大泉のモノを貪った。
情熱的に抽挿を繰り返し、その動きに合わせて甘い吐息を聞かせてくれる。
両手でシゲの形の良い双丘をしっかりと掴み、大泉もシゲの動きに合わせて自分の雄を穿ち続ける。漏れ聞こえる喘ぎが少しずつ辛そうな色合いを帯びてくると、耐えきれなくなりシゲの身体を抱きかかえて体勢を入れ替えた。
ソファの上に乗せると、太股を抱え込んで狂ったように上から腰を打ち付け始めた。
「…ッ…………ぁあッ………………や……………あ………!」
望み通りに目一杯身体の中を侵され、掻き回されて、シゲは切ない悲鳴を上げ続けた。
「……しげ……………………もうイっちまいそうなの……?」
嬉しそうに笑みを浮かべ、大泉がシゲの顔を見つめる。勿論追随の手は緩めず、激しく抽挿を繰り返す。
「…くッ……………も………………イく…ぅ……ッ…………」
「イけよ…しげ。全部出しちまえ!」
その言葉に素直に従ったのか、シゲは大泉の背中に手を廻してしっかりとしがみついて、ビクリと大きく体を反らせた。
大泉の頭の中が真っ白になる。
ふわりと浮かぶような感覚に飲み込まれたあと、徐々に気だるい脱力感が襲いかかってきてシゲの上に身体を重ねた。
媚薬はシゲに飲ませたはずなのに、まるで自分まで口にしていたような錯覚に陥っている。あまりにもシゲの中が気持ち良くて…そしてシゲが愛しくて……。
自分の吐き出したモノに塗れて萎えかけている雄を中から一旦引き抜こうとして、大泉はふと何かを思い立ち動きを止める。
腕の中で顔を上気させ肩で息をしているシゲをまだ貪り足りないような気がして、少し悪戯心を出したのだ。
苦しそうに喘いでいた唇に自分の唇を重ね、ちゅっと吸う。
「……へ………?」
綺麗な睫毛で縁取られている瞼を重そうに上げて、シゲはゆっくり大泉を見た。
まだとろりと色気を湛えた瞳が、大泉の意味ありげな笑みを見つめた。
「…まだ、足りねーべ…しげ。」
そう言ってシゲの赤く色づいた唇を舌でいやらしくなぞる。
「あ…………」
小さな喘ぎが漏れて大泉の耳を擽り、それと同時に大泉の雄を銜えたままのシゲの内壁が、きゅっ…とソレを締めあげた。
「…うっふっふv いやーしげちゃんたらな〜、なーんてまあいやらしいんでしょうねえ…キミのカラダ☆」
「嫌ッ………………違ッ………馬鹿この!てめえ…ッ……………」
大泉の言葉に思わず泣きそうになって必死にシゲは否定する。…が、身体はまだ快楽が欲しいと言わんばかりにぐちゅぐちゅと蠢きだしていた。
「あのねーしげ。お前のアソコ、お前よりエッチだわ。」
ひく…ひく……と艶めかしく動いて、収められたままのモノを締め付ける。その度に、先程体内に出された体液が糸を引いて落ちていた。
「このままじゃーもう、あっちゅー間に元気になりそうやなー。…俺の。」
シゲの胸元に大きな手を這わせ、蕾をそっと捏ねた。小さな吐息と下半身の締め付けの甘美な二重奏が、大泉の感覚を煽ってくる。
「…………うわ……………大きくなってるよ…ぉ……………お前の……………」
苦しげにシゲが呟いた。
殆ど動かない大泉のモノが、どんどんシゲの中で硬さを取り戻して大きさを増していくのが如実に感じられるらしい。
「んー、だって佐藤くんが俺のをぎゅうぎゅうに締め付けちゃうからでしょー?洋ちゃん、何にもしてないよー?」
指先で蕾を弄びながら囁いた。
「…………お前が………弄くる…からだろ……がぁ…………」
シゲは喘ぎながら大泉にしがみついて、自らゆっくりと腰を使いだした。
ぐちゅ…ぐちゅ……と、いやらしい水音が結合部から響き渡る。
「………ほら、やっぱり。まだ足りてなかったべ?」
その様子を熱に浮かされた目で見つめながら、大泉もゆるゆると腰を打ち付け始めていた。
「しげぇ…見える?」
腰と脚をを高く掲げられ、上から貫かれている。
そっと目を開けたシゲの視界に、大泉の雄が自分の中に埋め込まれている光景が生々しく映し出される。
普段なら目を背けたくなるほど恥ずかしくて情けない姿であるのに、今日に限ってはそんな様子すら嬉しく感じてしまう。
やはり今日の自分はおかしい…と思いつつもその感覚には抗えなくて、シゲはただその光景をうっとりと見ていた。
「…うん……………すごいわ………」
嬉しそうに呟いて、ギリギリまで反り返った自分のモノにそっと指先を這わせた。先程からの抽挿で自分の分身は苦しげに蜜をたらたらと垂らして腹や胸元をテラテラと光らせている。
「だーろ?」
満足げに頷いて、大泉もシゲのモノに触れてくる。
「もっと……して。大泉…………俺が気が狂っちゃうくらい…………たっくさん……………してよ………」
吐息の合間に響いてくる最上の媚薬。
「……してやってもいいよ、もっと滅茶苦茶に。でもねー、俺に突っ込まれるのが一番好きってしげちゃんが言ってくれなきゃ、俺……やだ。」
子供のような理屈をこねて、大泉がシゲのモノの先端を指先でつついた。
「………な…に?それ…ぇ…………」
シゲがふっと呆れたように笑う。
「だーかーらーぁ、洋ちゃんが一番じゃなきゃイヤなの!」
ぷうっとふくれるフリをする。
シゲは困ったように微笑んで、そっと言った。
「…お前が一番じゃなきゃ、こーんな恥ずかしいカッコのままで…んなこと言えないでしょ………?」
「ホントかい?」
「ホントホント………大泉さんでなきゃ、俺こんなに馬鹿みたいにエッチしまくんねーよー…もういい歳なんだしさあ。」
くすくすっと笑って、身体の上にいる大泉に手を伸ばした。
「何度でも言ってやるよ。俺はお前にされるの………好きだよ、大好き……。今日はねえ、俺…なんかなまら変だからさ、もう何でも言っちゃう。俺、大泉くん…好きだよ……」
伸ばした手を大泉の胸元にピッタリとあてて、少しはにかんで言う姿が可愛らしい。
その途端、抱えていた腰をおろしてぐいっと手首を掴み引っ張り上げてシゲを抱き締める。
「何よ大泉……感動してんの?」
くすりと笑うシゲの唇に唇をかぶせて、言葉を遮った。
最早言葉など要らない。こんなに素直に言って貰ったのは初めてで。
たとえそれが薬の力だったとしても――大泉には関係なかった。普段、滅多に見せてくれないシゲの本音がかいま見えたのが嬉しくて。
「ああー僕ぁ〜大感動してますよ!してますとも!!これが感動せずにいらりょうか!!」
「………大袈裟だって、ばぁか。」
ピシャ…と軽く大泉の頬を叩いて、ちゅっと口付ける。
正常位で情熱的に責め立てたあと、一旦身体を離した。
引き抜こうとするとシゲは『あ…』と声を出して切なそうに目を瞑った。
「大丈夫〜だって、しげ。もう意地悪しねーって。」
瞼の上に舌を這わせてから唇を押し当てて、そう言った。
くるりと身体をひっくり返し、ソファの上に四つん這いにさせて上に覆い被さる。
今まで陵辱されっぱなしだったシゲの秘部に指を這わせると、体液でぐちゅぐちゅになっている。そこにそっと自分のモノを押し当てて、深くゆっくりと押し入った。
「…ぁ………あ………ッ………」
綺麗な背中や首のライン。そして洗い晒しの髪の毛がサラサラ揺れる後頭部。何もかもが愛しくて、じっと見つめてしまう。
「大泉ぃ………顔が見えないの……俺、やだよぉ……………」
一生懸命首をねじって見つめてくる懸命な顔が可愛くて、大泉はぐいっと更に深く貫いた。
「じゃ、びったりくっついといたるよー。これならいいでしょ?」
シゲの背中に胸板をぴったり重ねてしっかり抱き締める。
「なあ?ほらこれで一緒v」
片手でシゲの胸元を抱き締め、もう片方の手で感じまくって勃ち上がっているシゲのモノを丁寧に愛撫した。
「ほらしげちゃん、気持ち良いなあ……キミ、すぐにでもイっちゃいそうやなあ。」
「……や…………ッ…………もっと…………もっと欲しい…………ッ……」
媚薬のせいで思考も言葉も大胆だ。勿論のこと、肉体も。
「んー、ちゃんといっぱいあげるよ。お前の気持ちイイとこぜーんぶ、してやるって。」
大泉はわざと決定打を与えずに、常に一定の快楽を与え続ける。
荒い息づかいと、悲鳴のような喘ぎ声とが入り交じる中で、いつしか大泉も無心でシゲを犯し続けていた。
やがて耐えきれなくなったのか、シゲの感じやすい部分をめがけて力強く腰を打ち付けだした。
「あッ………ああ……………俺……………も………………ッ……………イっちゃ………ッ……………………」
最後は言葉にもならず、小さな悲鳴に変わっていた。
「イ………ッ……けえ……………………………ッ!!」
硬直するお互いの身体。
大泉の掌に温かい液体が数度に分けて吐き出される。それは勢い余ってソファまでもぐっしょりと濡らしていった。
そして大泉は再びシゲの粘膜の中に吐き出していた―――――。
朝。と言っても、もう既に昼近い時刻。
もそもそと身体を動かすが気だるい。腕の中にいる眠り姫はまだぐっすりと寝込んだままだ。
もう一寝入りしたいところだが、流石にこれから仕事の入っている身としてはもう微睡んでいるわけにもいかない。
…と思いつつも、ついついゴロゴロしてしまう。すぐ傍にある綺麗な顔をぼんやりと眺めては薄ら笑いを浮かべてみたりもして。
―――――――いやー…まさかあんなに乱れてくれるとは思ってなかったなあ………正気だったら絶対にナイねえ、あんな事は―――――――
思い出し笑いをして、またにんまり。
暫くの間、愛しい顔を見つめていたら流石に時間が足りなくなって、慌てて布団から這い出た。
勝手にシャワーを使い、身支度を整えたところで寝坊スケのお姫様が目を開けた。
「おう!おはよー佐藤くん。目覚めの気分はどうかね?」
「ん…んん……? あれ………………………?」
シゲは寝起きの腫れた目を擦りながら大泉を見つめた。
「どしたー?まだ寝惚けてるのかあ?」
顔を覗き込んで唇を重ねると、怪訝そうな顔でちろりと見るがやっぱり寝起きの悪いお姫様は、大泉と同じようにしばらく微睡んでいた。
「俺そろそろ仕事行くわ。しげ、まだ寝てる?」
「………………んん…起きる。」
ぶっきらぼうに言って布団をはね除け、身体を起こした途端…………かくりと身体が再びベッドの上に倒れ込んだ。
「おお、なんだー?無理すんなー、しげ。」
慌てて抱き起こして座らせようとすると、シゲの顔が曇った。
「…………痛ぇ………………」
辛そうに顔を歪めて呟く。
「……やっぱり、なんかやりやがっただろ……お前。」
「は?」
恨めしげな顔をして睨めつけてくるシゲ。
「俺、昨夜の記憶ほとんどねーもん………お前なんか変なことしたんだろ?え!?大泉さんよぉ……」
「バッカ!な〜に人のせいにしてんだぁよ、お前ぇ!お前がお強請りするから言うこと聞いてやっただけだべや!」
一部を伏せてはいるが概ね事実には変わらない。大泉は余裕綽々である。
「…なんだよそれ!!誰がお強請りなんかするかよッ………」
さっと顔を赤らめてそっぽを向いた。
「してんだよ、バーカ。」
髪をくしゃっと触って、額に口付けた。
「………知らねーよ。大体、こんな腰抜けるほどやることないだろ!?………これじゃせっかくの休みになんも出来ねーべや………」
「おお〜し解った☆仕事終わったら洋ちゃんが遊びに来て上げよう!」
「来るんじゃねえッ!」
ばしっと枕を投げつけてから、苦痛に顔を曇らせていた。
「まあまあ。そんなに怒ったらせ〜っかく綺麗な顔が、しわくちゃになるよーv」
シゲはじろっと横目で睨む。その目にはありったけの抗議が込められているようだが、そんなことは大泉には通じない。
「んじゃまたあとでねー、佐藤さんv」
「……………………」
そっぽを向いたままのシゲに手を振ってから、そっとソファの横に転がっている鞄を手に取った。シゲには絶対に秘密のものをそそくさとしまって、何事もなかったように部屋をあとにした。
その夜、にこにこ顔で再び訪れた大泉の視界に入った、一枚の置き手紙。
『ソファを弁償しろ。』
たった一言だけ書き殴られて、昨夜の狂乱で汚れてしまったソファの上に置いてある。
肝心の本人は無理矢理出掛けてしまったのか、部屋はもぬけの殻だ。
「……はい〜、佐藤くんお仕置き決定〜……(怒)」
鞄の中のものを今夜もまた使ってやろうと、心の中で秘かに誓う大泉だった。
キリ番 111 をゲットされました、ユミカ様からのリクです。
コンセプトは『媚薬』
前々から一度は使ってみたいと思っていたので
思いっきり乱れさせてしまいました。。。(汗)
いつもよりは素直にお強請りする姫をご堪能頂けましたでしょうか。
ってなんじゃそりゃ(笑)
お楽しみ頂けていると幸いですv