心拍数・Jは見ていた編




Jこと、川井“J”竜輔は、急いで稽古場から降りてきていた。
稽古の合間に、買い出しを言い遣っていたからだ。ぱたぱたと階段を下り、外に出るとすぐ近くに見慣れた車が止まっている。
『おおっ、ハンサムの車じゃ〜ん! やっと来たのかよ〜。』…そんなことを思いつつふと見遣った視界に、人影が二つ飛び込んでくる。
人影はほんの少しの間ひとつに重なり、やがてシゲの言葉とともに、また二つに別れた。
 見てはいけないものを見てしまったような罪悪感に捕らわれて、Jは慌ててその場から立ち去った。そうだ、自分は買い出しで急いでいたんじゃん! と…自分に言い聞かせながら。

 稽古場に戻ったJを、いつもの風景が出迎える。何の変哲もない、普通の稽古場の風景。見慣れた連中が、だらだらと笑い合い、バカ話を繰り返しながらも、稽古をしている。その中には先程下で見かけたシゲも入っていた。
「おう! J、やっと帰ってきたのか。おっせーぞー!」
屈託無く声をかけてきたシゲに対して、どうしても顔が強張ってしまうのをJは感じていた。
「んー? Jってば、どしたのー?」
もう一人、Jの顔を強張らせる張本人が、呑気な声を出しながら語りかける。
「いやー、あー…なんでもねーっスよぉー…。」
ぶっきらぼうに答えを返して、おもむろに買い出しの品をみんなに配り始めた。だが、心臓が高鳴りっぱなしだ。
どうしても先程の光景が頭の隅に焼き付いて、何度も何度もリプレイされてしまう。暗がりの中ではあったが、あれは確かに……シゲと大泉。
大泉が強引にシゲを掴んで、唇を重ねていたように見えた。そして、シゲの『いい加減にしろ!』と聞こえた言葉は、言い慣れた色合いで…本気で拒んでいるような風ではなかった。
 冗談でやっていたのかもしれない……そう思えば、いつだってみんな酒が入れば、キス・ゲームくらい平気でやってしまうわけだし。ましてやNACSの連中って言うのは、一種異様に仲の良い男共だ。
そう、必死で考えて、自分を落ち着けようと努力を重ねるJだった。
 そして、二度目の目撃。
それは、芝居の通し稽古の日のこと。小道具置き場に物を取りに来たJは、またしても例の二人と遭遇してしまったのだった。今回もハンサムと大泉は、Jの存在にはこれっぽっちも気付かないでいる。
小道具部屋の隣、とりあえず雑多な物が詰め込まれた空き部屋から漏れ聞こえる、大泉の甘い声と…シゲの抗うような声。なるべく声を潜めて、必死で逃げようとしているシゲの様子がよく解るが、結局大泉に捕まって何やらされている気配――――――。
もう、それだけでJの鼓動は破裂しそうな勢いだった。
 前に見かけたのは、冗談で済まされるとしよう………。だがしかし、今日のこの出来事に関して言えば、けっして冗談では済まされないのではないか? そんな思いがぐるぐるJの頭を巡った。
 ――――うっそ!? マジでぇ!? ……ハンサムと、大泉。デキてるんかぁ〜?――――
信じようにも、信じられないような事実。決して人前でそんな素振りは一切、無いと言っても過言ではなかった。
何故なら、どちらも無類の女好きだから………。

 数日後、探りを入れるべくJは行動を起こした。
まず、シゲと一緒にやっている番組の打ち合わせ中に、それとなーくシゲに問いただしてみることにしたのだ。
「なあ〜ハンサムぅ………お前って、モテモテさんだよなー。」
「何を今更、いきなり何言ってんのよ?」
シゲはつらっとしている。
「シゲってさー…女ばかりじゃなく、男にもモッテモテなんじゃぁないのぉ〜?そんなにハンサムさんなら、もうみんな放っておかないぞって感じでさー。」
何気ない感じを精一杯装って、動揺するかどうかをつぶさに観察してみた。
…ところがシゲときたら顔色ひとつ変えず、普通に言葉を吐き出した。
「男なんかに言い寄られたら気持ち悪ィよ、バーカ!」
実に平然としている。これだけだったら、本当にあの二回の目撃は、寝ぼけて見た夢だったのかと思う程だ。
だが、Jは怯まない。
「ふーん…結構モテそうだと思うんだけどなあー、やっぱ男はお嫌いかぁ?」
「…まあ、あり得ねーな! 仮にあったとしてもだなぁ…俺が相手にするわけないだろーね。世界がひっくり返ったとしても、だ!!」
「そうだよな。シゲが男色に走るなんて、想像もつかないもんな〜。」
隣にいた清水がへらへらと幸せそうに笑っている。
「全くそのとーり!!」
そう言ってシゲは笑いながら、ペットボトルのお茶をくっと喉に流し込んだ。Jの視界に、綺麗な首筋と鎖骨のラインが飛び込んでくる。普段意識はしてないけど、こうやって見てると成程…大泉が手を出したくなった気も、判らないでは無いぞと言う、複雑な気分だ………。
 かえって平然としているシゲの態度に、なんとなーく確信を持ったJは、それ以上追求することを止めた。
最初はかなり動揺したのだが、判ってしまうと結構どうでも良くなるものだ。
第一、キスやなんだぐらいでどうこう言うのも、ちょっとガキ臭ぇよなーなんて、少々反省。まあ、そこまでは所詮Jにとって、対岸の出来事でしかなかった訳で。
 シゲはもの凄く上機嫌だった。
ロードツアーでこの海の街に来ることをごり押ししたのは、正解だった。公演はとりあえず大成功だったと言っても過言ではないし、第一食べ物がこの上もなく美味しい。何を食べても新鮮で、酒が進む。昨日は劇団の連中と一緒だったから、今日の夜はちょっと別行動などして、美味い寿司屋で大人な酒の飲み方を満喫したところだ。
深夜過ぎ。ほろ酔い加減で宿にしているホテルへと戻る。
自分の部屋には誰もいない。みんな一カ所に集まってまだ飲んでいるらしい。一応、そちらに顔を出してみると、男連中の大半は雑魚寝している状態だった。
その中には大泉も混じっている。これなら安全でしょうとばかりに、いそいそ自分の部屋へ戻ると、替えの下着を持ってシゲは大浴場へと向かった。

 流石にこの時間は誰も入っていない
しーんと静まり返った中、湯気だけがもうもうと漂っている。一通り色々な風呂に入って遊んでから、シゲは露天風呂に出た。
「うーひゃー…キモチいい〜♪ すごい綺麗だなー。」
んんーと伸びをしながら湯船でゆったりとくつろぐ。眼下にはもの凄くきらきらと煌めく夜景と、真っ暗な海。そして、点々と浮かびながらも、煌々としている漁り火が鮮やかなコントラストを彩る。そんな風景の中、秋の夜風が火照った顔を吹き抜けて行くのは、とても気持ちが良いものだった。
「誰もいないから泳いじまおうかなー……でも、流石に立派な大人として、それは許されるだろーか?」
そんなことを呟きながら湯の中で脚を伸ばして、ちゃぷっと指先を水面に出してみたりする。
と、その時。
カタカタっと音がして、露天に出てくる人の姿が微かにシゲの視界に入ってきた。折角の露天風呂独り占めを満喫していたというのに、興ざめだよ…と思いつつ、泳いでなくて良かったと少し胸を撫で下ろす。
「ぃよっ
……その言葉に、一気にさーっと血が引いた。さっと身体を緊張させて、すすすっとなるべく端っこに寄るシゲ。
「オマエ、寝てたんじゃないの……?」
「寝てましたよー。」
じゃ、なんで起きるんだよと思いつつ、憮然とした顔で牽制する。
「おい。それ以上、寄るな。」
「あら冷たい☆ 佐藤くんってばまーたそんなこと言ってー。」
ざぶっと湯船に浸かったかと思うと、正面切って見つめてくる人懐こい目玉。
「うるせえんだよ!」
そんな会話を繰り広げつつ、さりげなくシゲは湯船から上がろうとしたのだが……
「おっと待った!!」
するっと近付いてきて、あっという間に手首をがっちり掴んだ体躯のいい男。当然、それは大泉なわけで。
「せーっかくこんな綺麗な夜景なんだからさー、もうちょっと楽しもうよ。なー? しげー
「バカ言うなって!オマエが居ると、夜景どころじゃなくなるだろー!!」
「お。話が早いねえ♪ 最近ご無沙汰じゃーないのぉ? 俺達さー
げ、やっぱり…と、シゲは大泉を睨み付けた。
「あのなあ、大泉! 何考えてやがんだよオマエは!! こんなとこで、てめえの欲望なんかスッキリさせてやれるかっつの!!」
捲し立てるように言って睨み付けるも、効果は無さそうだ。言われた本人は何も聞いていないかのように、けろっとしている。
「じゃあな。俺は上がる!! オマエ一人で夜景でも見ながら、恥ずかしい事でもしていやがれ!!」
背中を向けて逃げようと、身体を湯船から上げるがぐいっと引っ張られて、再び温かい湯の中に引きずり込まれること三回。その度に一頻り暴れて抵抗を試みていたのだが、酒が入った為か、流石にシゲはふらふらしている。
「やめれって! いい加減にしろこの変態っ!!」
そう叫んだシゲの唇に、ぴったりと大泉の指が当てられた。
途端にぞくっとして、今までの勢いがシゲの中で萎んでゆく。見据えてくる大泉の目は、マジだった。
 そっと唇が降りてきて、シゲの唇に重なった。艶めかしい口付けを与えられて、シゲの顔にもいやらしい欲望の色が兆すのを大泉は決して見逃さない。
湯の中でシゲを思いっきり抱き寄せて、指先で身体をまさぐった。お湯の中で触れる感触はとてもソフトで、感じやすいシゲは、思わず小さな甘い声を漏らしてしまう。
「服脱がす必要ないから、楽だよなー。ホントは一枚一枚剥ぐのもこう、なんちゅーかソソられるものがあるんだけどねー。」
そんなことを呟いて首筋の黒子にぺろんと舌を這わせる。
「………」
シゲがピクンと身体を強張らせた。
「抱いてって言って見ろよ…」
大泉は意地悪く言葉を投げかけた。首筋を舌で攻めながら、両手でシゲの胸元の蕾をまさぐりだしている。
「…ふっ………ざけん…な……っ……」
絶え間なく与えられる刺激と酒の酔いも手伝って、シゲは朦朧としかけているのだが、なけなしの理性で精一杯抗う。
「泣かしてやるぅ。」
へらっと笑ってシゲの身体を浴槽壁に押しつけた。水面から上に出た薄ピンク色の蕾に、ちゅっと口付けてから、吸い付く。
「…や…ぁめ…………っ………」
苦しげな声が可愛くて、大泉は更に音を立てて吸っては、舌先でぴちゃぴちゃと舐めて、よりシゲを煽っていく。
 闇の中、設置された外灯のみの明かりの中で、シゲの白い肌が浮き上がって見えている。視線を下に移すと…暗い湯の中でうっすら見える、シゲの愛しい分身。舌先で両の蕾を交互に弄びながら、するりと手を伸ばして優しく握りしめると、…ぁ…と言う小さな吐息。
「まだ…言わないのー?」
大泉が甘い声で問い掛けると、きゅっと唇を噛みしめて耐える素振りをする。いつもの事だけどいい加減強情だなー…と感心しきりで、湯の中でシゲ自身をゆるゆると愛撫した。
「……ひ…っ……」
シゲは小さな悲鳴を上げて大泉に縋り付いてきた。必死で抱きついて、耐えようとするのがいじらしい。
「このまま、イっちゃうかい…?」
シゲは頭をふるふると振って抵抗を示すが、そろそろ音を上げそうな雰囲気なのは、付き合いが長いので一目瞭然だ。
しがみ付いて刺激から逃れようとする度、シゲは身体を震わせて甘い悲鳴を上げる。抱きついた腕が大泉の頭を抱えるようにして、髪の中を彷徨う度に、大泉の欲望もどんどん煽られてゆく。
「バカ。そんな顔されちまったら、俺だってすぐにイきそうだべや☆」
「…ってに……ってろ………バぁカ………」
「おー、そんなこと言うとすぐに挿れちゃうぞお
シゲの太股に屹立し始めた自分の雄をあてがって、その存在をわざと誇示してみると、シゲの顔が真っ赤になった。
「…う…わぁ……マジで、やんのぉ………?………」
息を乱しながら、シゲが切ない顔をして問い掛けてくる。
「ダメかー? 俺、結構、我慢出来ないんやけど…」
胸元の蕾を唇に銜えたままくぐもった声を出すと、音の振動と微かな息で感じてしまったのか、甘い吐息がシゲの口から漏れた。
「しげぇ……」
大泉が愛しげに名を呼びながら、その行為に及ぼうとするのをシゲの手が必死で止めた。そして、諦めたかのようにふーっと息を吐き出すと、自らの手を大泉の雄にやり、そっと握った。
「……これなら、文句…ねーだろ………」
 お湯の中で抱き合って、互いの一番敏感な部分を触り合う。コレはコレでいやらしくて気持ちがいいから、大泉も満足するだろうとシゲは踏んでいた。
ともかく、これ以上こんな公共の場所で、変な事をされて誰かに見られでもしたら、どうしようもない。そう思うととにかくさっさと、大泉の欲望を吐き出させてやればいいのと…精一杯考えた上で結論を導き出したのだった。
 「おやおやぁ、大胆じゃーないの…しげちゃんってば……。」
大泉が息を乱しながら、耳元で甘い呟きを漏らしてくすりと笑う。だがシゲはもうそんな言葉でもどうでもいいのか、与えること与えられることにいっぱいいっぱいで、泣きそうな顔をしている。
「…お…いずみ……ヤバい………お湯、汚しちゃうわ………」
必死で声を絞り出した言葉の意味を察した大泉が、シゲの身体を抱え上げて浴槽の縁に座らせた。自分も下半身は湯の中に漬けないように気をつけながら向かい合い、またシゲを抱き締めて愛撫を再開する。
「…やべぇ………」
シゲは辛そうな顔で、呟いた。 
「いいぞー、先にイっちゃっても…」
「……やだよ……」
…俺だけイったって、意味ねーんだって……とシゲは思う。そもそも自ら譲歩してこんな事してるのだって、すべてはこんな場所でやられてしまわない為の、苦肉の策なのだ。
 不貞腐れた顔をして何とか平静を保とうとしているが、そろそろ限界が近いのは自分でもよく解っている。ジレンマに苛まれながら、こんな状態に甘んじているのは流石にシゲも辛かった。
「なぁんだろーねー佐藤くん。我慢しちゃ体に毒だってば
蜜をたらたらと零している先端を、優しく撫でて液体を絡み付かせては緩く早くさすっていた指先が、一旦するりと離れた。いきなり止められたシゲが、何事かと身体を起こそうとするのを大泉は素早く制止して、華奢な細腰を掴んだ。
「あ? おま……ちょっ……待てっ! ……や…あっ………」
慌てるシゲを気にせず、大泉がシゲを浴槽の縁に俯せにさせて、四つん這いの格好にさせた。
「うわ…バカぁ! 何する気だよぉ………」
半泣きのシゲを上から抱き締めて、先程の愛撫とは比べものにならないくらいの勢いで刺激を与え出す。
「や……っ……は…あ………っ……あ……」
背中には唇の愛撫が降り注ぎ、片手で胸元の突起を撫でられる。そんな中で激しく擦られたシゲ自身は、あっという間に大泉の手の中に体液を迸らせていた。
 ―――うう。…やべーよ。かなりマズイ状態だよ、これぇ……――――
朦朧とした頭の隅で、必死に考える。でも身体は快楽の余韻で、動けない。 そうして、大泉の為すがままになってしまうのだ。
 案の定大泉は、手に受けた体液をいそいそとシゲの秘所に塗りつけ始めた。
「やめろや……マジで、こんなトコじゃやだよぉ………大泉………頼むからぁ………」
「大丈〜夫だって。誰もこんな時間に来やしねーって!」
哀願なんて聞く気は更々ないらしい。手慣れた手つきでシゲの身体の中に、すっと指を差し入れてくる。
「……ッ…!……」
声にならない呻きが、シゲの柔らかな唇から漏れた。何度同じ事をされていても、毎回最初のこれだけは慣れることはない。
「しげ……可愛い
「るせーんだよ…こっちの身にもなれ……っつんだ………」
辛そうに吐き出す途切れ途切れの言葉は、かえって艶めかしかった。
 くちゅ、くちゅ…と中からいやらしい音が響き、慣らされた身体が徐々に刺激を求め出す頃、大泉はシゲの中に自身を宛った。
「………く……っ………」
指とは比べものにならない異物感がシゲを襲う。いつにも増して張りつめている大泉の雄が、楔を穿つかのように少しずつ呑み込まれる感覚が、もの凄く気持ちが悪いのだが……何故か、代え難い充足感も伴ってくる。こんな時つくづくシゲは思う。
――――やられ過ぎなんじゃないの?俺―――――、と。
 「ばばんばばんばんば〜ん、っとくらぁ♪」
脳天気な歌声が、しんとした脱衣所に響いた。
「だぁれも居ないっつーのは、気持ちいいね〜っ!」
ガラガラっと引き戸を開けると、中から凄い湯気が溢れ出した。深夜なので照明もかなり落ちていて、ちょっとした探検気分を味わえる。早速一番大きな浴槽でばしゃばしゃと子供のようにクロールをした後、お次は犬かき。更に平泳ぎまで加えて、気分は上々だった。
「お、そうだ!! 今度は露天で泳いでみようかなーっと♪」
タオルをきゅっと頭に巻いて、Jは踏み入れてはいけない禁断の場所へと、一歩一歩近付いてゆく。
 内風呂と露天風呂の境の扉に手をかけ、寒いかな〜? と、様子を窺う。外灯のみで暗い露天風呂は、それほど寒くはなかったが、背筋が寒くなるような光景は繰り広げられていた。
「……………――――――――――」
とにかく言葉が出てこない。
暗がりから薄ぼんやりと見えてくる、絡み合う姿態。そして押し殺したような甘い吐息と、荒々しい息遣い。
紛う方無きそれは――――ハンサムと、大泉――――。
心臓が爆発しそうな勢いで血液を送り出す。と言うより、口から心臓が出そうな気分だ。
……よもやこんな場所で、あの二人が、こんな事に及んでいるとは!! しかも、ハンサムが色っぽいの何のって!!……
Jの目は、暗がりで見せるシゲの肢体に釘付けになった。女性の見せる痴態とは全く違うその様子が新鮮だ。背後から大泉に攻められて、切ない喘ぎ声をあげる淫らな姿は、いつもの凛々しくて小憎らしい態度をとるハンサムぶりとは対照的で、かえって心惹かれる何かがある。
 やや暫く呆然と立ち尽くしているJに、たった今シゲの中で達した大泉が、はっと気付いて振り返った。流石にヤバいと言う顔でこちらを見ている。
その目が余りにも見開かれていて、少し滑稽にさえ見えた為か、咄嗟にJは右手を軽く挙げて指先をぴらぴらと振った。そして、顔の前で手を軽く合わせて謝ってから、そーっとその場から離れた。

 …………焦ったぁ〜…………
そう思いつつ、下半身にじんわりと血液が集まるのを感じて、Jはぽりぽりと頭を掻いた。
――成る程ね。大泉ってば、あーやってハンサムを啼かしてたワケね〜…なんか、少しだけ羨ましい気持ちなのは、何故だろうな〜……?―――
以前、キスしてる場面を目撃したときよりもずっと生々しいのに、気持ち悪いって感覚があまり無いことに自分で驚きつつ、Jは浴衣を着込んで脱衣所を後にする。出るときにちょっとした親切心で『清掃中』の札を掛けておこうと、辺りを探してみる。
―――見当たらない。
「あれ〜? おっかしいねえ。」
そんなことを呟きながら、脱衣所の扉をふと見れば、何と既にかかっている。
「あらあ。大泉ってば、用意の良いことで…って、俺、見ないで入っちゃったのか。」
にっと唇の端を上げて笑うとくるりと背を向け、そのままぷらりぷらりと歩いていった。
「あーあ。こちとら欲求不満だってぇのに、うっらやましい〜ね〜、だぁ☆」


 ………さっきは心底、焦ったね。万が一夜中に来る奴がいたらまずいと思って、予め札を下げておいたから、絶対に誰も入ってこないと踏んでいたっつーのに。
よもや入り口にJが居るなんて思わなくて、思う存分やっちゃってたよ俺、ってな感じだ。
しかしバカだねーあいつ。なんでわざわざ入って来ちゃうのよ。思いっきり、引きつった顔してさ〜……誰かに言ったりしないだろーか? まー、咄嗟に謝ってなんかいやがったから、いいけど……Jは結構、イイヤツだし。かえって驚かせちまったかなー? 
…おし。後で、謝っておこう。

 大泉はシゲの上に四つん這いでもたれ掛かったまま、ほんの一瞬だけ悶々と考えていたが、とりあえずまあいいやーと吹っ切ってしまった。何にしろ、まだ全然渇望が癒されていない。大泉の中では未だシゲに対する欲望が、どろどろと煮え滾ったままだ。
肝心のシゲは、四つん這いのまま肩で息をしている。綺麗な張りのある肩と、しなやかな背中のラインが、もの凄く綺麗だ。シゲの中心にある自身は、まだ解放されることなく息づいている。何のことはない、大泉が我慢できずに先にイってしまったので、中途半端なままにしてしまったのだった。
「ごめんなー、佐藤。ちょっと俺、早かったわー………」
「……ん………」
大泉はすすっと手を滑らせて再びシゲのものをやんわり握ってみた。
「あ…っ……」
身体がビクッと硬直する。大泉の手の中のシゲ自身は先走りの雫が滴っていた。
「あーゴメンゴメン。今、格好い〜い、洋ちゃんがなんとかしてあげるからねー
そんなことを言いつつ、シゲの身体を一旦湯の中に入れるべく、後ろからよいしよっと抱え上げた。
浴槽の中にある階段状の部分の一番上に座らせると、丁度お尻だけが湯に浸かる状態になる。自分の身体は温泉に浸かったままシゲの両脚を思いっきり開かせて、その中心に顔を埋めると、いきり勃っているそれにそっと唇を這わせた。
「…も………い……いよ…ぉ……大泉ぃ…………」
辛そうに目をきつく閉じたシゲが、やっとのことで言葉を吐く。
「いやーそんなワケにはいかないって。つか、俺が舐めたいんだぁって♪」
愛しそうに先端に口付けて、滴る蜜をそっと舐め取った。シゲの口からは小さな吐息が漏れる。
舐めても舐めても溢れ出す秘密の液体をちゅっと吸い上げてから、大泉はシゲを口に頬張った。
「う………ぁ…っ………」
何とも言えない甘やかな声。シゲの何とも言えない響きを持つ声は、大泉の芯まで染み渡る媚薬のひとつ。
「……あ………もう………」
綺麗な両脚を大きく開かされているあられもない姿で、シゲは大泉の愛撫を受け入れている。温かい口腔内にふくまれ、舌にねっとり絡み付かれているのが、気が変になるほど気持ちが良くて……簡単に上り詰めてしまえそうだ。
「イっちゃえよ…しげ…」
銜えたまま囁かれて、その振動でまた更に煽られてしまう。シゲの両手は自然に大泉の頭を抱えて、指先が癖毛の中を彷徨っていた。
 こんな時、大泉は至上の幸福を感じる。身体が繋がっているときと同じくらい、乱れたシゲが髪を無意識に触ってくる瞬間が大好きだった。
「……や………はぁ…んッ………お…いず…みぃ……っ…」
限界に近い声が頭の上からあがる。そろそろ潮時。
口だけでなく指先も使って、ほんの少し刺激を強めただけで、シゲは身体を後ろに反らせて硬直させた。耐えきれずに大泉の口に、どくどくと白いものを吐き出してしまう。
それをすっかり飲み下して、口の端から漏れていた液も手の甲でそっと拭った大泉が、放心しているシゲの隣にすわって抱き寄せた。
「……美味しかったよー 佐藤くんvv
「………」
目を閉じていたシゲが薄目を開けて、ちろりと大泉を睨む。
「君のそんな目つきも好きですよー僕は。」
瞼にちゅっと口付けた後、柔らかい唇にも自分の唇を押し当てた。そのまま、淫靡な唾液の音をさせ舌を絡ませる。
 大泉の手がシゲの手を取ると、そっと再び勃ち始めた自分のモノを触らせた。びくりと身体を強張らせて、シゲが身を引く。
「……ほらあ。ココもこ〜んなにしげが好きだってさ。しげちゃんは? 洋ちゃん嫌いかなー?」
「………嫌い。」
ぶすっとしながら肩口に顔を埋めた。つくづく、意地っ張り。
「おやおやぁ? それは、本当なのかなあ?」
くくっと笑ってシゲの内股に手を差し入れ、緩くさすり始める。  
「…大泉ぃ……」
「はいよ。」
シゲが顔を少し離して、遠くを見つめた。視線の先にはきらきら輝いている夜景が広がっている。
「……すげえ夜景だよな。」
そう呟いて、唇を軽く押し当ててきた。その突然の言動に大泉は驚きつつも、心底喜びを味わっていた。
あの、意地っ張りの! クールでドライな! しかも子供じみた佐藤重幸が………屈折した表現方法とは言え、自ら受け入れてくれているこの瞬間が、奇跡のように感じられる。
「いやー…、夜景もいいけど俺ぁやっぱ、しげちゃんが一番かな
「…アホか……」
「マジ。だってしげの中、すっげーよ…マジで。あったかくって、ぎゅうって狭くて、ひくひくしてんのよ。それがすーげぇ、気持ちいいの。」
そう言われて、シゲが耳まで顔を赤くした。
「オマエ…ッ………もうちょっと、言い方ないんかよッ!!」
背中を向けようとしたシゲをがっちりと抱え込んで、向き直させる。シゲは視線を逸らして泣きそうな顔をしていた。
再びすすっと内股に手を潜り込ませ、今度は奥まった場所を指先でやんわりと弄くりだす。
「あ……バカ……」
口ではバカと言いつつ、シゲは自分で少し脚を開いて、指の蹂躙を受けやすい様にしていた。
 指先が入り口を掻き回すたび、くちゅり…くちゅ…と音を立てる。先程大泉が体内に残してきた体液が、その都度中から糸を引いて漏れ出しているのが、シゲにも感じられた。屈辱的で、もの凄く恥ずかしい現象なのに、ぞくりと背中を駆け抜ける快感に、思わず身震いしてしまう。
「大泉……」
悔しげに名を呼ぶ。それだけで、すべて理解してるよな? と言う、暗黙の合図だ。
「欲しいなら……来いよ。さっきより、メチャメチャにしてやるから。」
耳元で呟かれた悪魔の甘い囁きに、シゲは熱に浮かされるように従った。向かい合わせで大泉の上に跨って立ち膝になり、その首に両手を巻き付けしがみ付いた。
「てめえ…いつか、ぶっ殺してやるからな……」
涙目でそう言うと、屹立した大泉の雄に向かってゆっくり腰を落とした。
「…く…ッ…………は…ぁ…っ…!…………」
背筋を反らせて呑み込む様を、大泉は舌なめずりしながら見つめる。片手で細い腰を支え、もう片方で胸元の蕾を弄んで、艶めかしく乱れるシゲの様子を堪能する。
 すっかり呑み込んでほっと一息つくと、ゆるゆると腰を上下させだした。甘い吐息を吐き出しながら。
ぐちゅ、ぐちゅ…シゲが動くたびに繋がった部分から漏れ聞こえる淫らな調べが、更に二人を煽り立てる。いつしか大泉も下から動きに合わせて突き上げ始めた。
吐息が徐々に悲鳴のような喘ぎに変わる頃、大泉は両手で腰をがっちりと持って確実にシゲの一番感じる部分を攻め始めた。
「……あ…ッ……そこは………や…はあッ……ん……止め……ッ…!……」
「ちゃんと自分で言えってぇ……じゃないと、ホントに……やめちゃうぞぉ…」
大泉の息も荒い。いつ達してもおかしくないくらい、ギリギリまでキていた。それでも動きは加減しない。
「お……いずっ……ダメだ……ってぇ……」
「…言えよ。俺……お前の口から……聞きたい………」
目の前で上下に動く薄ピンクの蕾にそっと舌を這わせながら、囁きかける。
「…ちゃう…っ…」
絞り出された小さな声が、形の良い唇から漏れた。だが、大泉は容赦しない。
「ああ? 聞こえないって…ほら、ちゃんと言えや……」
限界まで達しているシゲ自身をぎゅっと握り込んだ。
シゲはその苦しさのあまりに切ない悲鳴を上げ、苦しげに上半身を反らせた。緩く揺さぶられ、規則的な喘ぎ声を上げながら、再び小さく言葉を絞り出す。
「…イ……っちゃう……て…っ……」
「イかせて下さいじゃねーの? 佐藤ぉ…」
意地悪く責め立てる大泉に、シゲは半開きになった瞳から幾筋もの滴を零した。
「……あ…ぁぁ………」
ぽろぽろと涙を零して大泉に縋り付く。リズミカルに律動を繰り返されても、決してイかせて貰えない責め苦が、気が狂うほどシゲを苛んでいた。
「………頼む…から……も……イかせ……てよ…ぉ………」
途切れ途切れに大泉の望むべき言葉を吐き出して、シゲは唇をぎゅっと噛みしめた。悔しくて、恥ずかしくて、涙が溢れてくる。……それなのに、心の何処かではこの恥辱に塗れた責め苦に悦びを感じているのが、悔しかった。
「…ん〜 良くできましたー!」
するっと指先から力を緩めて再び腰を掴むと、シゲの中の確実な場所を正確にゆっくり突き上げた。
泣き声のような悲鳴が上がり、シゲの身体が硬直した。何度もイっていると言うのにまだ勢いよく、シゲの体液が大泉の胸元に放たれる。
その瞬間、大泉は痙攣するように締め上げてくるシゲの内部で、自らも身震いしながら思いきり自分の情熱をぶちまけていた。
 体液と汗でべとべとになった身体を、かけ湯でゆっくり洗い流す。粘液性の強い液体だけに、ちゃんと洗わないとなかなか後で厄介なわけで…。
「おーい、大丈夫? 生きてるー?」
問い掛けに、シゲはうっすら瞼を開いた。しどけない目をしていて、また襲いたい気分にさせるような艶を含んでいると、大泉は思う。
「……死にそう……」
一言吐いて、また目を瞑った。身体をすっかり大泉に預けて、可愛いと言えば可愛いが、高飛車と言えばその通りで、いつもながら非常に態度がでかい。
「…わ〜るかったって。ほれ、身体が冷えちゃったぞー、お湯ん中入ろーって。」
苦笑しながら、シゲを抱きかかえて温かい温泉の中へ。膝の上にシゲを乗せて、抱き締めてやると、シゲもするりと両腕を首の後ろに廻して子供のようにくっついてくる。
「今日のしげちゃんは大胆で可愛いねえ…どしたのー? そんなに俺のこと、好きかい?」
にひゃっと笑う大泉の顔を、シゲはちらっと冷めた瞳で見つめる。と言うより、冷めたように見えるのはその鋭角的な顔のつくりからなのかもしれないのだが。
「…おい、大泉洋……オマエそんなに、俺に好きって言って欲しいの?」
「だって佐藤くん、ちーっとも! 言ってくれないでしょー?」
「じゃあ、言ってやろう。俺はオマエが大嫌いだよ!」
そう言って、にやりと笑う。凛々しいつり気味の眉毛に切れ長の瞳が、悪戯っぽい笑みを浮かべるととても蠱惑的で…まるで小悪魔のようだ。
「あーはいはい。とっても佐藤くんらしいお答えでしたねー…」
ふーっと息をついて、大泉は諦めたような笑顔で返した。もう少し素直になって、一言くらい言ってくれても良さそうなものなのに、シゲは意地でも言わない。好きだという気持ちは、時折態度で示してくるから解るくらいだ。…それが大泉としては非常に物足りなくて、ついついカラダで苛めてしまうのだった。
「何だよ。まだ何か言って欲しいのか?」
挑戦的な笑顔で見つめてくるが、まあそれも愛しいのだから仕方がない。
「いやー、しげちゃんは……これで充分だわ。」
ちゅっと額に口付けて、いつもの笑みを浮かべた。
 流石に腰砕けになったシゲを負ぶって、大泉はシゲに割り当てられた部屋に入った。部屋はまだもぬけの殻で、同室の森崎や音尾はまだ大泉達の部屋で寝ているらしかった。
「んじゃ、俺あっち行くからなー。おやすみ〜佐藤

シゲを布団に寝かせて、自分もばれないように部屋の戻るつもりでいた大泉の浴衣の裾を、シゲがぎゅっと掴んだ。
「おお? どしたー? しげぇ…」
「……このバカ。一人にすんな!」
大泉の顔がきらきら輝きだした。
「なになにー? 寂しいのー? シゲちゃんってばっ♪ やっぱ一緒に居ないとイヤかい?」
シゲは顔を真っ赤にして、ちょっと口ごもってからぽつりと言った。
「そうじゃねえっ………………一人じゃ怖いんだよっ!」
半泣きの顔で訴えてくる。
「あーもう! かっわいい〜ねー
こーの、恐がりやさんっ!!」
「何とでも言え、バカ野郎っ!!」
シゲの髪をくしゃくしゃっと撫でて宥めてから、大泉も空いてる布団に潜り込んだ。朝になって何か言われたら、適当な理由を言って誤魔化せばいいやと考えつつ、シゲの寝顔を見ながら眠りにつくことにする。それもまあ、悪くはないねえなんて思いながら…。



 翌朝、朝食の時間。
少々寝不足気味の大泉の横に、すっと寄り添ってきたのはJだった。
「よお〜、大泉ぃ。」
「いよっ☆」
「昨夜は……あー、悪ぃねー! 邪魔しちゃってよ〜。」
Jはばつが悪そうに頭を掻きながら、ちらりと大泉を見た。多少眠たそうではあるが、実にスッキリとした顔をしている。いかにも満足しましたという顔だ。
「いやーーーーマジでビックリしたねー、あれはー。気を付けてくれんと困るよー全く☆」
照れ笑いをしながらも偉そうに文句を言う大泉。昨夜、謝っておこうかと考えていたのは一体何処へ行ったのやらの、この男に、更にJがくっついてきて、耳元でそっと囁いてきた。
「ところでさぁ…ものは相談なんだけど……」
「はい?」
Jは、にやーっと笑って更に小声で呟いた。
「……今度ハンサムとえっちする時、俺も混ぜてくれません?」
「……………………………嫌じゃ!……………!!」
言い終わらないうちに、鈍い音が響いた。大泉がJの頭をげんこつで殴った音だった。
「ってーーなーーーーーっ!!! 何しやがんだよ〜!」
頭を抱え込んでしゃがみ込んだJの頭を、がしっと上から押さえ込む。
「バカこのぉ! 何、考えとんじゃーわれぇ!!」
「いてててててててて! 悪い! 悪かったってぇ大泉ー…ゴメンってばー……」
「許すか!」
大泉がJをタコ殴りにしているのを遠くから見ていたシゲは、相変わらず冷めた目で見つめている。彼らが何を話していたかなど、全く想像も及ばない。勿論、知っていたら半狂乱になるだろう事は、確実だが。
「…あーらまあ。うちのバカ二人が……要らないくらい、元気だねぇ………」
ふうっと煙草の煙を吐き出し、シゲはぼそりと呟いた。
「…さて、今日も頑張りますかーっと!」
立ち上がると、うーんと伸びをする。
清々しくスッキリした顔をしているのは、大泉だけではなかったようだった……。



Fin


 

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