心拍数・風邪編


 

「うえ〜…やっべえ……」
思わず声に出してみる。目が覚めたら頭痛と吐き気に、多少の目眩が襲ってきた。
「やっぱ熱っぽいよ、俺……」
身体は異様に熱いのに、ゾクゾクとした寒気が襲いかかってくる。慌てて体温計を探し、口に突っ込んでみた。
暫くして、ピピ…と体温計が鳴り、取り出して見てみる。約38℃近くってトコだ。
マジかよ…今日も仕事で忙しいっつーのに、何で俺また風邪ひいてんのよ? って、自分を呪いたくなる。
だって俺、年末のカウントダウンで、正月だって風邪ひいてたのよ……何で、治ってまたすぐかかっちゃうかなあ。
 のそのそと部屋の中を這い回り、とりあえず着るものをしっかり着込んだ。額からうっすらと汗が滲むのが自分でも解る。うう…気持ちが悪い。それでも仕事には行かなきゃならないわけで…こんな時、普通の会社勤めじゃない身分を恨めしく思ったりするね。風邪ひいたからって、俺の仕事はお休みさせて貰える類のものじゃないものなー。
 厚着をして、アパートを出た。今日はタクシーで行った方が無難だよなぁ…なんて思いながら近所のコンビニへ。真っ直ぐ飲料水のコーナーに向かって、カゴの中にポカリスエットをボコボコぶち込む。俺はこれさえあれば取り敢えず風邪は治ると信じている! それはもう、絶大な信頼と言ってもいいくらいだろう。
だが流石にポカリだけじゃ風邪薬も飲めないので、あまり食欲は無かったが取り敢えず腹に入れるものも一緒にカゴに入れて、レジで会計を済ませた。ああ…本当は布団の中で、嫌っつーほど寝ていたいんだけどなー………。

 コンディションはまさに最悪の一文字だね。熱のせいで顔が赤いのを、ドーランの厚塗りで必死に誤魔化して、ぼろぼろの状態をひた隠す。それでも死ぬ思いで夕方の生出演をなんとかこなした。笑顔が引きつらないように頑張ったよ、俺は。具合が悪いなんて悟られちゃあ男が廃るってもんだからな。しかし、頑張って普通の顔をしていたせいか…熱はもう上がる一方だ。
 やっと仕事を終わらせて、タクシーで次の仕事場に向かった。正直、もう限界だと思う。熱のせいでコンタクトは目に張り付いて痛いし、フラフラしている。身体の関節もギシギシ言いやがって、まるで悲鳴を上げてるみたいだ。
手にポカリのペットボトルを握りしめたまま、俺は朦朧とした意識で車に揺られていた。
 
「ありゃー…アイツ、やっぱり来ちゃったのぉ。」
新番組のロケ先に死人のような顔で現れてすぐメイクのためロケバスに向かってくるのを見た俺を見て、大泉が心底呆れたような顔で呟いた。
「シゲ、来たのかいー?」
呑気な声で、リーダー・森崎が顔を向けてくる。
「あれ、アイツ…フラついてない? 大泉ぃ…」
大泉の正面にいた音尾が、異変に勘付きやがったのか、大泉に話しかけていた。
「んー…さっき、『どさんこ』見てたらねー……な〜んとなく、調子悪そうなんだよねー。」
明らかに心配げな顔を一瞬だけ覗かせた大泉の顔は、他のメンバーの手前、すぐにいつもの顔に戻っていた。


 「うい〜ッス……」
いつもの口調で喋ったつもりだが、どうにもテンションが低いのはモロバレのようだ。
口々にみんなにまた風邪ひいたのか? だの、体調管理しろ! だの、罵られ笑われ、やたらに口が達者な連中の口撃にさらされてしまう。
「解ってるよー、大〜丈夫だって! すぐ治るからほっといてくれっ!!」
頭に来て思わず叫んだら、クラクラきた。―――――踏んだり蹴ったりだべや……ったく。

 幸いなことに、今日の撮りは意外に早い時間で終わってくれた。カメラがまわっている間だけは、俺は風邪ひきの病人ではなく、元気なシゲを演じられる。だが撮影が終わった今はもう心底へとへとで、歩くのも喋るのも何をするのも億劫だ。ただ、ポカリを飲んでは肩で息をしているだけで、生きる屍状態になっている。
「シゲぇ、タクシー来たから。お前先に乗っちゃえよ。」
音尾が、しゃがみ込んだままの俺の元にやってきて、そう言ってくれた。いや、何だかんだいってもこういう気遣いって、ホント…有り難いわ。音尾はそのまま俺の腕を掴んで引っ張り上げ、連れていってくれた。
タクシーの扉が目の前で勢いよく開かれる。最後の力を振り絞ってシートに乗り込む俺の身体を、音尾が見かねて押し込んでくれた。
「あー…悪ぃ、ありがとー………」
そう言って顔を上げた瞬間、目の前には肝心の音尾の姿はなく……そこには隣に乗り込もうとする、大泉の姿だけがあった。
「…?……あれ………?」
頭の整理がつかない。おかしい…今さっきまで確かに音尾がいた筈だよなあ。何で……大泉よ?しかも、何でこいつ乗り込んでくるの?
「運転手さん、出しちゃって下さいー!」
大泉はさも当然と言った感じでそう言うと、てきぱきと俺の住所を告げた。
「……大泉?なんで……?」
「だーって、お前すっごい辛そうじゃん。」
「…いや、そうじゃなくて。何処から沸いて出たワケ?」
「あのなぁ……ヒトをボウフラみたいに言わんといて頂戴っ☆さっき音尾がお前をタクシーに連れてくの見てさ、慌てて飛んできたっちゅーワケよ。」
事も無げに言って、すっと肩に手を廻してくる。
「そんな事はいーから! まあ寝なさい寝なさい。洋ちゃんが肩を貸して上げるからねー。」
俺は山ほど言いたいことがあったが、取り敢えずは言われたとおり肩に顔を預けて目を瞑った。今は何より、ただ眠りたかった。照れくさいとは言え、正直とてもコイツの気遣いが有り難かったし……。

 いつものことなのだが、部屋は冷え込んでいた。外と変わらないんじゃないかと思うほどの冷え具合に、大泉も困った顔をしている。
「さみーと思ったら……この部屋、2℃だってよ……す〜げぇとこに住んでんな、シゲ。」
「…るせーよ。1人暮らしのアパートなんてこんなもんなんだよ。ご実家にお住まいの優雅な誰かさんとは違いますぅ!」
悪態を吐いても、今日は迫力がない。大泉も判っているのか、それには何も言わずに俺をベッドの上に座らせた。
「ほい、熱計ってみなさい。」 
手渡された体温計で計ってみると、39℃を軽く越していた。それを見ただけで余計にクラクラする。
「今ねー、お風呂にお湯張ってるからもうちょっと待ってなさいねー。」
「……風呂ぉ?……いいよ、風呂なんて。明日の朝、シャワーにすっからぁ……」
「そう言いなさんな佐藤くん、この部屋寒いからねー…ちゃんと暖まらないと、治るものも治らないってー。」
妙に優しい顔で言うから、反論できなくなる。具合が悪いときは、こんな変態でいやらしい男でも、優しく見えるものなんだろーか……つーか、きっと人恋しくなってんのね、俺。
 未だ暖まらない部屋の中で、俺はコートも脱げずにストーブの前に踞っていた。うつらうつらしていると、暫くして大泉が俺を起こし、浴室に引っ張っていった。
「佐藤くん、一緒に入ってあげよーか?」
「ふざけんな、バーカ。」
「んー、そーだねえ。ここの風呂めっちゃ狭いからなー。」
にやりと笑う。実は以前、無理矢理一緒に入らされてえらい目にあった事があった。おそらくはその時のことを思い出しているに違いない。
「もーいい。帰れてめーは!!」
さっきまでの優しい顔が、一気にいやらしい顔に見えて、俺は思いっきり背を向けて浴室に飛び込んだ。
 渋々とは言え、湯船に浸かると流石に気持ちがいい。ぼーっとしながら、ちょっと言い過ぎたかな〜なんて、多少反省もしてみた。もしかしたら、本当に帰っちゃってるかもなぁ…なんて考えると、無性に寂しい。
――――やっぱり、俺、風邪で気弱になってるみたいだね――――

 たまにしか着ないパジャマに着替えて浴室から出てみると、俺の家の中には人の気配が無くてがらんとしていた。
「ええ〜っ!………マジでえ!?………」
流石に本気で帰ってしまうとは思わなくて、俺はかなりショックを受けていた。部屋はちゃんと暖かくなっていたが、妙に寒々しい。隠れているのかと思って狭い部屋の中を見回してみるが、当然いるわけもなく…俺は呆然とその場に立ち尽くす。
「そんなのって……アリかよぉ……」
哀しくなってきた。いくら悪態吐いたって、俺って一応病人なワケで……あんな言葉、真に受けて帰っちゃうなんて…酷いよ、大泉のバカぁ……。俺が死んだらお前のせいだからな…バカ野郎……。
思わず涙が零れそうになって、慌てて上を向いた。
ガチャガチャ…カチャリ。
玄関の鍵が突然開けられて、扉が開く。
「ぅお゛〜い。そんなトコにそんなカッコで突っ立ってたら、風邪悪化しちゃうぞーぅ。くぉの、バカタレがー。」
大泉がコンビニの袋を両手に抱えて入ってきた。
「……いたの…?……」
俺は呆気にとられたまま、大泉を珍しい物体でも見るかのように眺めた。
「いますよ〜う♪」
にっと笑って、どさりと荷物を床に置く。
「ほい、ポカリ。沢山買ってきてやったぞー。」
ペットボトルをぽいっと投げられて、受け取った。
「どしたのー? シゲ。……さては帰っちゃったと思ったの?」
図星をさされ、俺は視線をふいっとそらす。
「僕ぁ〜病人の佐藤くんを一人置いて帰るような、人非人じゃーないでしょ?」
にっこり微笑んで、大泉は俺の髪をくしゃくしゃと触った。
「早いとこ布団に入って、おなか空かせて待ってなさい、ほれぇ

がしっと抱き上げられて、ベッドの上に降ろされた。
「ちょっと待て…大泉。お前、まさか何か作るつもりじゃあ………」
恐る恐る聞いてみる。確かに少しお腹はすいてきた。考えてみればロケ弁も全く手が着けられなくて、何も口にしていなかったのだが。こんな調子の悪いときに、流石に大泉の手料理は………キツ過ぎる…。
「んー。お粥作ろうと思ったんだけどねー…米買ってきてわざわざ炊くのも面倒だから、レトルトで我慢して貰おうかと思っちゃったワケ。」
「おおー、助かった〜……」
思わず出てしまった言葉に、すかさず反応した大泉はムッとした顔で俺の頭を叩いた。
「もうシゲちゃんには何も作ってあげないから。洋ちゃんの美味しーーーーーーいスパゲッティ、食べさせてあげない。」
「………いらねえよバーカ。」
そう言って布団の中に潜り込んだ。
暖かくてウトウトしかけていると、大泉が温めたお粥を持ってきてくれた。
「食べたら寝なさいねー。冷えぴたシートも買ってきてあげたから、後でおでこに貼ってあげちゃおう。」
―――なんかコイツ…楽しんでない?―――
 ふと目を覚ますと、でかい図体の大泉が小さく縮こまって、床に転がっていた。
「大泉! おい!! そんなトコで寝るなー! 起きやがれぇっ!!」
むくりと起き上がり、辺りをきょろきょろと見回す。
「ぁあー…佐藤んちだったんだ……何処かと思ったぁ………」
「寝ぼけてんじゃねえ。床でうたた寝なんかしてっと、今度はお前が風邪ひくべや。」
大泉は頭をぼりぼり掻きながら、立ち上がって大きな伸びをした。
「俺ならもう大丈夫だからさぁ……タクシー呼んで帰りなよ、大泉。」
流石に床に寝かせてまで引き留めておくのも忍びない。
「んー? 平気ですよ、僕ぁv それよりシゲ、汗かいてないかい?」
言われて気付くと、パジャマや下着は汗でぐしょぐしょに濡れていた。大泉はさっさとタオルを取り出してきてお湯で温めてくる。
「どうれ、おじちゃんが拭いて上げよう。」
「止せバカ。んなことは自分でやるって!」
抵抗を試みたものの、あっさり組み伏せられてパジャマのボタンを外された。
「あらぁ〜、随分とぐっしょりだねえ。こらぁ、全部着替えないとダメじゃないのー。」
てきぱきと身体を拭いては、少しずつ脱がせられてゆく。だけどさ…何か……拭き方が妙に―――やらしい気がするんだけど――――。
「あの…もういいよ……大泉。ホント、自分でやるから!」
「ああ〜ん?せっかくノってきたっつーのに、今更やめられっかよぉ。」
……って、――――ちょっと、待てコラ――――
「大分、熱はひいてきたみたいじゃないのー。」
額の冷えピタシートをぺりぺりっと剥がして、タオルで顔ごと拭かれた後、ヤツの広い額がくっつけられた。
「そりゃ…ま……大分、楽にはなったけど。…じゃなくて!」
続きを喚こうと思った瞬間に、すっと唇が重ねられていた。深いキスではなかったが、舌先が唇の上を微かに這い回って、ぞくりとするような感覚を呼び起こされる。
「…お前ぇ……俺、病人だぞ………」
必死で睨み付けようとするが、力が入らない。
「解ってますよ。……でも今の佐藤くん、なーんかいやらしいんだよねぇ〜……何て言うんだろ、こうしっとりとした色気が俺を誘ってる感じがするっちゅーか。」
「だ、だ…誰が誘うかッ! いい加減にしろー!!」
「そんだけ元気があれば……いっかな?」
「…いっかな? ……じゃねーって!! 冗談じゃないッ!!」
上にのし掛かってきた大泉を退かせようと、下から叩いたり揺さぶったりしてみるが、頑として動かない。それどころか、ますますパジャマを脱がせて、きわどいところまで拭き始める始末。
「こらこらぁ〜、じっとしてないと……もっとエッチなことしちゃうぞ〜ぅ!」
言葉とは裏腹に、既に大泉は指先で俺の胸元をまさぐりだしてる。じっとしていようが、暴れていようが、お前もうやる気満々じゃねーかよ!!
「やだよー……勘弁してくれぇ……バカ泉ぃッ!!」
「すぐ解放してやるって。無理だとは思うけど、まーおとなしくしてなさい☆」
大泉はパジャマの下を剥ぎ取って、タオルであちこち吹きまくりながら、そーっと舌を胸元に這わせてきた。触るか触らないかくらいの微妙な舌先が、かえって感覚を煽ってくる。
気がつけば、見事に俺はすっかり裸にさせられていた。
「悪化して死んだら……お前絶対呪い殺してやるからなッ…………」
「おやまあ非科学的な。佐藤くん、科学的なことしか信じないんじゃあなかったんかいな?」
「んなこたぁどーでもいーんだよッ!………死んじゃうよ〜……俺、変態男に殺されちゃうよぉ〜………」
半泣きで叫んだら、すかさず口付けで唇を塞がれた。そのまま暫く俺は、いやらしい口付けの嵐に苛まれていた。

 散々胸元を舌で舐め回されて、じりじりと俺の大事な部分が熱を帯びてくる。困ったことに俺は既に裸にひん剥かれているわけで…大泉もその様子は間近で見ている。
にやりと笑いながらそっと手をそこに這わせて、指先を絡めてきた。
「熱、大分下がってきたやないの〜。元気にちゃんと勃つもん、シゲってばv」
抗議の意味を込めて睨み付けてみるが、平然としている。いや、かえって大泉は嬉しそうな笑みを浮かべていやがった。
漠然とそこを愛撫されるものだと思っていたが、いつまでたっても何もしてこない。瞑っていた目をそっと開けてみると、何やらチューブの中身を指に塗りつけ終わったところだった。
「……へ? ………何……やってんのぉ…? お前………」
大泉は何も言わず俺の上に覆い被さったかと思うと、唇を重ねてきた。
―――ちょっと待て!………まさか………?―――
 咄嗟に感づいて何とか腰を引こうとしたが…時、既に遅しとはこの事だろうか。ひやり、ぬるり…とした感触があの部分に感じられて、俺は思わず小さな悲鳴を上げていた。
「うわッ…何でお前! ……まだ……ちょっ……嘘ぉ……!!」
パニック状態で、自分でも何を叫んでいるのか解らなかった。大泉はと言うと、含み笑いを浮かべている。
指先がぐちゅぐちゅと嫌な音を立てながら、俺の中にずぶずぶと埋められていく。まだ心の準備も何もしていない無防備な状態で、俺の中に異物が挿れられていくのは、正直すげえ悔しい。
「何でよー…ッ…! ……てめッ……何してんのよッ…!?」
下半身から気持ちの悪い圧迫感が押し寄せてきて、涙が出そうになる。何でいきなりこんな目に遭わされてんのよ、俺。………大泉、本当は俺のことなんかちーーーーーっとも! 好きなんかじゃないんじゃないのぉ!? バカバカ! クソ泉洋の変態大バカ野郎めぇ〜ッ!!
 そうは思ってても実際は全然声が出てこない。気がつけば、変な喘ぎ声しか口からは出てきやしない。
「……気持ち、いいかい?」
平然と聞いてくるが、俺は精一杯首を横に振ってから思いっきりバカ男を睨み付けた。
「あ、さよか〜。じゃーちょっと待っといてなーv」
オクラ直伝の怪しげな関西弁もどきでそう言ったかと思うと、俺の顔の前にあった大泉の顔は、するするっと下半身の方に下がっていって………俺の猛っていたモノに唇をそっと押し当ててくる。
「……ぁ……」
ソコへの刺激に飢えていた俺の身体は正直にも、僅かな愛撫だけでビクビクッと震えてしまった。みっともないことに、意図していないのに喘ぎ声が漏れてしまう。ヤツもそれを解りきってて、舌と唇での微妙な愛撫を繰り返しながら、あくまでもメインは俺の中。くちゅくちゅと嫌な音を立てて、身体の中を蹂躙しながら、とき解し続ける。
「…やめろ……よぉ………」
もっと言ってやりたいのに、快楽に溺れた俺の身体がそれを阻んで、脳まで麻痺させている。……最悪だ……。
 「そろそろ…ココ触っちゃおーかなー……」
そう言われた途端に、身体の奥から痺れるような快感が突き抜けた。頭がおかしくなりそうなくらい強烈な、陶酔感に支配されていく。……そこを弄くられると、いつも…そう………。
「や…ぁッ……は……ぁんッ………たす…けて……ッ…」
耐えきれないほどの刺激が身体中を駆けめぐって、俺はもう暴発寸前。何を叫んでいるのかも解らない。
「よしよし…いいよー……シゲ………」
今まで決して銜えてくれようとはしなかった大泉の口が、俺のモノを頬張って、ほんの少し舌で触られただけで……もう耐えきれなくて、一気に体液を放出していた。

 一瞬なのか長い時間なのか解らなくなる、真っ白な瞬間が過ぎてふと我に返ってみると、大泉が俺の上に跨って服を脱ぎ捨てている最中だった。
決してがっしりとした筋肉質な身体ではないけれど、しなやかな体つき。しかも意外に力もある。組み伏せられちまうと絶対に抜け出せねーし、簡単に抱え上げられもしてしまう。ダイエット対決やって、同じくらい痩せたくせに、筋肉はそんなに落ちてなかったから余計に腹が立つんだよね。
そんな身体を呆然と見上げていたら、全部脱ぎ終えた大泉がにかっと笑って、四つん這いで覆い被さってきた。
「…シゲぇ……」
甘い声で囁いてきて、すっと唇が重ねられた。今頃気付いたけど、そういやぁ風邪って唾液とか粘膜とかから感染しなかったっけか? ………まあいいや。そんなこと、どーでもよくなってきてるわ、俺……。
 貪られるような激しい口付けが繰り返されて、俺の意識は完全にえっちモードに入っていた。キスされながら身体をまさぐられ、自然に口から吐息が漏れてるのが解る。最近気付いたけど…どうやら俺、一回イかされてからの方が感じやすくなっちゃうみてーなんだよな……。
そこがこの男の狙い目なのか―――くそ。長年つき合ってるから、まあ、よく知ってるよねぇ…俺のこと。
 「もう少し脚開けっていっつも言ってるだろぉー…ほらぁ…」
ぐいっと手で開かされて、大泉の身体が割り入ってくる。恥ずかしいからやっぱりそんなに大胆な事なんて出来ねえ。でも、抵抗も出来なくてずるずる受け入れちゃうんだよなー……アレ。何だかんだ言って、慣らされ過ぎだね……俺は。
嫌だ嫌だって思ってても、結局快楽に負けちゃう。辛いし、めちゃめちゃ気持ち悪いのに……挿れられて、暫く動かれてたら……気が変になるくらい、気持ち良くなってきちまう。
―――うわあ…俺って、男としては最低かも。
 って、何でかこんな時にそんなこと漠然と考えてた。
結局、気付かされちゃったんだよね……俺がコイツのことを好きだって言う厳然たる事実。認めたくは無いし、出来ればそんな事実からは逃げ出してしまいたいけど、もう目を反らすことが出来ない。
学生ん時からずっと…俺はどうしてもこの男を拒むことが出来なくて、なあなあで関係を受け入れてきてたけど……気付いてしまえば何のことはない。やっぱり俺は、大泉が好きだったワケで――――そろそろ自分を誤魔化せなくなってきたっつー事なんだよなぁ………。

 「…っ……ぅ……ッ」
大泉の猛ったアレが、俺の中に押し入ってくる。さっき、かなりローションで解されてたからそんなに痛くはないけど、異物感で気持ちが悪い。
何度か注挿を繰り返され、その度に少しずつ奥まで入り込んでくる。気がつけば、しっかりと根本まで銜え込まされていた。
「すげえ……あったけー………」
熱出してんだから当然だろ! と一発殴ってやりたい心境だが、この状態ではどうしようもない。
「シゲん中で……溺れそうだわー……」
「…っずかしい事……言ってんじゃ…ね……よ…ッ……」
精一杯の言葉と、あらん限りの抗議の睨みを、ゆっくりと突き上げてくる男に対して送ってみるが、かえってヤツはギラギラした目つきで俺を睨め廻した。
「…シゲのそーゆー顔……すげえ、好き……」
ぐいっと大きく突かれて、思わず悲鳴を上げた。尚も大きく腰を打ち付けてきながら、大泉は大きな手のひらで俺の身体中を隈無くまさぐってくる。
 慣らされた身体が、貫かれる刺激と肌が触れ合う刺激で粟立っていた。脳味噌まで犯されているような、気が狂うほどの快楽に呑み込まれて、泣きたいような気分になってくる。翻弄されることに耐えきれない。とにかく何かにしがみつきたくて、無我夢中で近くにあるものを手繰り寄せた。
……今日は、大泉の腕だった。
その時によって違うが、ヤツの肩だったりシーツだったり。ああ、首や頭に縋りついてることも結構あるかな…。
 そうやって一旦何かを抱き寄せてしまうと、もう完全に理性なんてぶっ飛んじまう。
大泉の二の腕にギリギリと爪を立てて掴まり、揺さぶられる動きに耐えた。口からは自分でも信じられないくらいの喘ぎ声や掠れた悲鳴が漏れてて…快楽を貪ることに夢中になってる自分がいる。時折耳元で囁かれるいやらしい言葉も、胸元や首筋を舐め上げてくるねっとりした舌先も、苦しげに漏れ聞こえる大泉の荒い息づかいも、その全てが俺を煽り立てて、極限の淵に誘ってくるから………。
 「…シゲ……シゲぇ…………」
大泉が一旦動きを止め、俺の上にぴったりと身体を重ねてきた。
「……なによ……」
「寒くないかと思ってさー……」
そう言って俺の身体を両手で抱きかかえながら、ゆっくりと確実に腰を打ち付けてくる。
身体中が全部密着してるような感じは、安心感があって何だかとても不思議な気分だ。全身で繋がってるような錯覚を起こす。今まで俺、こんなに抱き締めてあげてなかったよな…どんな女もさぁ……。
 「…好きって、言ってみろよ………」
耳朶に舌を這わせてきながら、そっと囁いてきた。…冗談じゃねえ……死んでも言えねえって。そんな恥ずかしいこと………。
「…バぁ…カ………」
俺がそれだけを呟いて、大泉の首筋にちゅっと唇を押し当てると、大泉はまるでその言葉に報復でもするように、動きを早めてきた。
「……ん…ッ…!…ぁ…あ……んっ…………」
思わず喘ぎ声が止めどもなく溢れて、自分でも怖いくらいだった。勃ちかけてた俺のモノが完璧に反り返り、俺達の身体の間でギリギリの状態にまでなってる。……一番感じちまうとこを、集中的に攻められたからだ。
「や…やだ……ッ………そんなに…したら………ッ…ダメだっ………てぇ……ッ!」
我慢出来ないほどの快感に、身体ががくがくと震えてくる。もういつイっちゃっても…おかしくないくらい。
「いいよ……シゲちゃん………イっちゃえ………」
優しく呟く声が…信じられないくらいイイ声で―――ぞくりときた瞬間―――――――身体が、硬直する。
「お………いず……み…ぃ……ッ……」
特別なその名前を叫びながら、耐えきれずに白い液体を吐き出した。
「……へへっ………シゲぇ……。なんか、嬉しいべや………」
そんなことを言いながら、大泉が熱い体液を勢いよく中にぶちまけてくるのを朧気に感じながら…俺は全身の力が一気に抜けていくのに身を任せて、目を瞑っていた。
 やべえよ―――俺。
マジでコイツのことが好きになってる。
濃いヒゲ剃り跡の残る顎越しに、半開きのデカイ目玉して眠る男の顔を見つめて…心底、やばいと思う。
爆睡してるくせに絶対に腕枕をやめないで、俺を両手で抱えて眠る男が……何でか好きでたまらないんだよ、自分でも不思議なんだけどさ。
もう十年近くも付き合ってきて…しかもそのうち半分の年月は、男同士にあるまじき肉体関係まであって……それでここ最近になってから実感してるってのも、変なハナシだけどよ。
抱き締められると……鼓動が早くなって、苦しくなる。
気持ちがいいのに、時々…泣きたくなる。
こんな感情――――多分、初めてかもしれない。今まで、誰かをそんな風に感じた事なんてほとんど無かった。
気に入れば付き合って……簡単に、身体重ねて。その場の快楽の後に俺の中に残るのは、嫌な罪悪感と虚しさだけ…。
でも、お前とだけは何かが違う……。
お前はどんなヤツとも違う―――特別になってる。男でも、女でも……きっと代わりがきかない、存在に。
多分これからも、憎まれ口は死ぬほど叩くだろう。素直になんて絶対になってやらないとも、思う。
でも、これだけは言える。
佐藤重幸の特別は、恐らくずっと……大泉洋なんだろうって事――――。

一生お前には言わないと思うけど。
お前が俺を自分の事務所に誘ってくれた、あのとき。
すごい、嬉しかったんだよね………。

つけ上がるから、きっと一生……お前にゃ、内緒にしとくけどね…………………。




                                                       Fin

  
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先にイラスト先行しちゃった風邪編。
年明けから風邪ひいたって騒いでたので、やっと書いてみました(笑)
なんだか砂を吐きそうなくらい、甘い雰囲気になってきて
書いてる本人が一番ビックリだったりして☆

BGMは
CANTA
face to ace・そして何故かビスマルクBGM集(笑)
なんでグレディを聞かないのかというと。。。
シゲちゃんの声を聞くと照れるからで御座います(爆)

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