心拍数・鱗の罠 編

 「やぁれやれ、今日も無事終わった…と。」
シゲはぽそっと呟きながら、手早く鍵を開けて自分の部屋の扉を開いた。ここのところ休みが多かったせいか、ほんのちょっとスケジュールが立て込んだだけで、なんとなく疲労感が増してしまう。
部屋の中に入ると、着ていたジャケット適当に放り投げる。でも被っていた帽子は、大事な大事なザクの肩に掛けて一満足。満足じゃないことと言えば、小さめの女の子くらいの身長を持つそれが、この部屋ではちょっとだけ邪魔に見えてしまうことぐらいだ。
「んー、今日もザクは俺のために役に立ってくれているんだな!! よし偉いぞッ!!」
などと訳の分からない独り言を呟いてにんまりしてから、シゲは台所に立った。腹も減ったし外食するほどの金も使いたくはないし―――と、考えるといつも自宅で手軽に作れるもので済ませてしまう。本日のディナーも、…パスタ。今日はふりかけもちょっと高めのものだから、いつもよりも美味しいだろう…なんて思いながら鍋を火にかけたところで、携帯が鳴った。
「はいこちらシゲ! ……おう、どうしたよ!珍しいんじゃないの? ん、ああ、帰ってきてるよー。これからメシ食うとこ。」
ストックしてあるふりかけの中からお目当てのものを選び出しながら、携帯を首の辺りに挟んで喋る。 
「え? 今から!? …………いや、いいけどさ。マジでお前どうしたのよ? …………あ、悩み? ほい! そーゆーことなら遠慮せずどうぞ〜。」
通話を終える頃、鍋の中がぐらぐらと沸き立つ。シゲは豪快に一掴みの塩を鍋に放り込んでから、適当にスパゲッティを投入した。
「……しっかし、悩みってなんだ? あいつに限ってそんなもんとは縁遠いと思ってたけどなぁ。」
菜箸でスパゲッティをかき混ぜつつ、時折訝しげな顔になっている。
 茹であがったスパゲッティにバターとふりかけで味付けを施して、完成したものを運ぼうとしたところでチャイムが鳴った。
「はいはい、今開けますよー。」
カチャリと扉を開けてやると、目の前にいきなりコンビニの袋が差し出された。
「はいおみやげ。ごめんねぇシゲ、押し掛けちゃってさあ。」
「いいってことよ! 可愛〜い音尾君の一匹や二匹、うちで泳いでたって全っっ然オッケー!」
差し入れの袋を受け取りながら音尾の後頭部をバン! と叩いて笑う。
「じゃあ、部屋中鱗まみれにして、なーまら生臭くしちゃうけど…シゲは許してくれるのかい?」
「…片付けさせる。でなきゃお前を刺身にして舟盛り。」
「女体盛りみたいにかい?」
シゲのむげな言葉にも、音尾はにやっと笑って言葉を返してきた。
「―――――――サカナの女体盛りは……辛いわ、音尾。」
わざとマジな顔をして暫く見つめ合ってから、二人は堰を切ったようにけらけらと笑った。

 「あー悪い、今から食べるところだったの?」
スパゲッティの皿とウーロン茶の入ったペットボトルを運んできて、どかっと床に座ったシゲを見た音尾が、しまったという顔をした。
「いいっていいって。ほれ座りなさい、そんなとこに立ってないで。」
言われるまま音尾はシゲの向かいに座った。
「お前メシは?」
「食ってきた。」
「あっそ。」
単純で味気ない会話。なんとなく音尾の口が重いのは、その悩み事とやらのせいだからだろうか。
「俺、なんか飲むわ。」
音尾がコンビニの袋をガサガサやって、缶ビールを2本取り出した。
「はい佐藤さん。」
「おおっ、ビールだべや♪〜って、仕事ある日は飲まないことにしてんだけどなー…ま、いっかぁ。」
ぐいっと中身を喉に流し込んで、ちょっとだけ幸せな気分。
「でー? 俺に相談したいことって、何よ?」
ずぞぞっとスパゲッティを豪快に啜ってから、シゲが問い掛ける。そもそも、電話でだっていいんじゃねえの?と言う疑問もなきにしもあらずだ。
「―――いやぁ、今はちょっと。食べ終わってからでいいよ。」
ぐいぐいっとビールを煽って、心なしか赤い顔の音尾。



 食べ終わった皿を台所に下げて、再びどかっと座り込んだシゲは音尾を真正面から見据えた。
「それで……何。」
凛とした顔を思いっきり向けられて、音尾は思わず怯んでしまう。が、ここで怖じ気づいてしまってはこれから何も言うことが出来ないと思い、必死で言葉を絞り出した。
「……あの、あのさ…シゲ―――――大泉と付き合ってるでしょ? …それでさ…………」
そこまで言った途端に突然音尾の顔に大量の霧雨が降り注いだ。ホップとアルコールの薫り高い……ビールの雨―――――。
「なななななななっ…何すんだよぉシゲーーーーーーッ!!」
上半身が、思いっきり酒臭い。ぶつぶつ言いながらシゲを見ると、顔面蒼白で口の端からビールの滴を垂らしていた。
「シゲ! シゲッ!?」
顔の前に手を翳してぶんぶん振ってみる。
「――――――――――おとっおと……音尾ぉ〜……?」
シゲが泣きそうな顔で見つめていた。必死で嘘を吐いて、誤魔化そうとしてる小学生のような顔をしている。
「シゲが自分で言ったんだよー。覚えてないの?」
「…………ません。つか、言ってません!! 俺そんなことはっ!!」
「記憶無くしてるときに俺が聞いたら、すっげー嬉しそうに答えてましたよ、佐藤さ〜ん。」
がっくりとシゲが肩を落とした。項垂れたまま、ぷるぷる震えている。
「知らねーよー。その辺全っっっっっ然ッ…記憶にない………」
記憶を無くしていた間のことは、全部思い出したわけではなかった。印象的な部分だけが断片的に思い出されるくらいで、その間自分がどんな言動をしていたかを全て把握していたわけではなかった。
「あれ? そーなの? ………あっりゃ〜、俺てっきり覚えてるもんだと思ってさあ、つい…」
音尾は素っ頓狂な声で言って、てへっと笑った。子供みたいな無邪気な顔しやがって、そんなんじゃ憎めねーだろうがよ…とシゲは恨めしげに見つめる。
「うわ〜それにしても随分とシゲってば豪快に吹き出してくれちゃって、びっしょびしょだべや。ベトベトするし…。ちょっと洗面所借りるからね。」
ジャージャーと流れる水音。顔を洗うだけにしちゃあ長すぎるぞと思っていたら、案の定頭ごと洗っていたらしい。シゲのバスタオルを勝手に使って、ごしごし髪の毛を拭きながら音尾がシゲの目の前に戻ってきた。
「ザクが手に持ってたヤツ、勝手に使ったよー。」
「ああ。それはいいけど、お前なんで上、裸よ。」
「シゲが酒吹きかけたりするからだよ!」
肩にバスタオルを掛け直して、音尾はずいっと顔を近付けてきた。
「でさ、さっきの続き。俺ね、シゲに教えて貰えないかと思ってさ…」
ひやりと背中に嫌な汗が流れた。―――なんだ今の意味深な台詞は!! 教えるって……教えるって…まさかッ!!―――――。
冷や汗が幾筋も流れるシゲを後目に、当の音尾はまた少し顔を赤くして言葉を続けた。
「シゲはほら、経験豊富みたいだから…そういうときのコツとか教えて貰えると、すっごくありがたいなーなんて。」
「コツ? 経験!? お前何が言いたいんだよ…」
てっきり実践で何かするかされるのかと考えていたシゲは、流石に自分が邪すぎたことを悟ってうっすら赤くなった。いくらなんでも音尾がそんなことを考える訳はない。ついつい大泉に毒され過ぎて、咄嗟に思考がそっちに飛んでしまった自分を恥じ入る。
「いや、だからさあ………男同士でするのって経験ないから、結構怖いんだよ俺。」
「…………」
シゲは黙って項垂れた。胡座を掻いている自分の足元とフローリングの床をただぼーーーーーっと見つめる。思わず思考を放棄したくなる恥ずかしさだ。
―――自分が大泉とそういう関係にあるのは仕方がない。好きなんだし―――
そう思って理不尽な関係を必死で肯定してきた。とは言っても、その気持ちをシゲ自身が受け入れるようになったのはごく最近のことで。そして、自分でもやっとのことで受け入れてる事実にあっさりと、しかもごく親しい人間に踏み込まれるのは、やはり身震いするほど恥ずかしい。
「シゲごめん、怒っちゃった?」
音尾が困ったような声で窺う。
「………いんや。」
ぼそっと呟くが顔は上げられない。真っ赤になっているに違いないであろう自分の顔を、どうやって音尾の前に晒せばいいのか見当もつかない。
「音尾。お前が聞きたいのは、どうすればいいかってことか?…それなら全くもって簡単なことだ。お前がいつもオンナとやってることをやればいいだけだよ!―――」
そこまで言って、はぁっと溜息を吐いた。
「そんなことは誰だって解るだろー!? 俺が聞きたいのはそうじゃなくって、どうすればうまく……」
そこまで言って音尾は口ごもった。
「何。もしかして安顕と、失敗したの?」
シゲはうまい切り返し口を見つけたとばかりに、そーっと顔を上げた。顔に不適な笑みを浮かべて。
「……失敗なんかしてねえって。大体、顕ちゃんとだなんて俺まだ言ってねえべや。ただ…たださあ、やっぱりなんか怖いから……………」
今度は音尾くんに盛大に赤くなって貰う番だとばかりに、シゲはちくちくと突っ込みを入れる。
「安田しかいねーべ? お前がそんなこと覚悟する相手なんてよ。」
案の定、音尾は顔を赤らめた。
「それで、痛くて入らねーってか?」
「イヤまだ何もしてないって!」
「どうだか! 思いっきり失敗して泣きついてきたってワケかよ…やれやれ。」
わざと突き放した物言いでなんとか優位に立ったシゲは、先程までの恥ずかしさも何処吹く風で話の核心に触れだした。
「あのね音尾。そう言うことは、俺じゃなくて安顕が大泉に聞けばいいことなんじゃないの?」
「そりゃそうかもしれないけどさあ、やっぱ俺だって心構えとかホラ、色々あるかなーと思って。」
音尾は真剣らしい。そんなことはお前等が二人で試行錯誤すりゃあいいだろうが…と半ば呆れるが、そこが音尾の可愛いところでもある。
「怖いっつーのなら、せいぜいゆっくり時間かけてやればいいこった。安田にその辺お願いしとけ! あと、ローションとかあるだろ? あれ使って頑張りなさいキミタチ。俺に言えることはそれしかねぇよ。あとは安田次第だろ。」
言ってて流石にシゲもまた顔が赤くなっていた。ついつい自分の体験と重ね合わせてしまう。
「シゲは最初どうだった? ちゃんと出来たの?」
「最初ー? ……ああ、ありゃ最悪っつー感じ。アイツ、その場の勢いで押し倒しやがって死ぬかと思ったって……って、何喋らせんのよッ!?」
音尾がにやっと笑っている。
「…うるせえな!」
「俺何も言ってねえ!」
にんまりとした視線から目を逸らして、シゲはふとこの前のことを思い出した。記憶がなかった時のことを。
思い出す限り、大泉はずっと手を出さないでいてくれてたなぁ…なんて。あいつが、全く記憶のない俺を抱いたときは流石に随分と労ってくれてたっけね。あのとんでもない最初とは大違いだわ。
 一瞬の間に過ぎった思考を遮るかのように、シゲの携帯が鳴った。この音はメールの着信音。
何やら嫌な予感がする―――と、シゲは恐る恐る携帯を取った。

『FROM:大泉洋 件名:綺羅星登場! 本文:今から参上ー!!』

何とも頭痛のしてくる短いメッセージが届いている。
「うっわ、最悪…」
思わず声に出してから、そーっと音尾の顔を見た。
「大泉、だろー? いいよいいよ、俺帰るわ。ごめんねシゲ、急に押し掛けてきて変なこと聞いちゃってさ。」
そう言って音尾が立ち上がった途端、玄関の鍵がガチャガチャッと鳴ったかと思うと、勢い良く扉が開けられた。
「いよぉーーーーっス☆ 洋ちゃん参上〜!!」
笑顔で飛び込んできた大泉は、呆気にとられているシゲと上半身裸の音尾を交互に見つめてから、面白そうに呟いた。
「……よりにもよって、音尾と浮気かい? しげ。」
「何だよお前は……メール来たと思ったら数分でお前まで来やがって!何考えてやがんだ大泉ぃッ!!」
「ねえシゲ、それ全然会話の答えになってないわ。」
三人それぞれが勝手な言葉を並べてから、顔を見合わせた。
「何ではこっちの台詞だろー。せーっかく忙しい洋ちゃんが遊びに来てあげたのに、よーもーやっ…サカナと浮気しているとは! 佐藤くん大胆過ぎて、洋ちゃん全く理解できないわー。」
「何で浮気よ! つか、忙しいなら来なくていいんだよてめーは。音尾はちょっと相談があるっつって来ただけなの!」
「で、シゲにビールぶっかけられたからこんな格好なワ・ケ 解った? 大泉く〜ん。」
大泉はふーんと音尾を睨め廻してから、言った。
「着るもの無いなら、シゲのシャツ借りればいいんじゃん。音尾。」
「……そういえばそうだね。いやー大泉さん賢い! 言われるまで気付かなかったわ。」
「――――あ゛。」
シゲが呆然としていた。音尾の『相談事』に気を取られて、そこまで気が回っていなかった自分のアホさ加減に、ただただ呆れる。
「安田から聞いたぞ〜音尾。」
大泉がにっと笑った。
「なぁんだ、大泉知ってたのか。顕ちゃんも…やっぱり大泉に聞いてたのかよ。」
照れ笑いをしながらシゲのシャツを勝手に漁って、音尾はそれを着込んだ。
「何お前、わざわざしげに聞きに来たの?そ りゃー駄目だろ。照れ屋さんだもんなーしげ そりゃまあビールもぶっかけられっちゃうわなー。」
「大泉だってこの前まで随分と必死に隠してたじゃんよー。すっかりオープンになっちゃってさぁ、どしたの?」
「こんだけ、ばきーーーーっとバレちまえば全〜然気にしねぇよ。」
和やかに交わされる会話をシゲは漠然と聞いていた。何だコイツラの日常会話のようにフツーなテンションは!! さっぱり理解できねぇ!! 俺にはついていけねえ!!
そんな思いがぐるぐる頭の中を駆け巡る。
「音尾ー、なんなら俺としげで実地やってやっから、見てくー?」
本気とも冗談ともつかない口調で大泉がさらっと恐ろしいことを口にしたので、シゲは心底血の気が引いていく。
「―――――おま…お前、お前ぇッ!!」
もっと文句を言ってやりたいのに、唇がわなわなと震えて何も言えない。
「おーいずみい…シゲ、すっごい怒ってるみたいだよ。俺、怖いからもう帰るわ。じゃシゲ、Tシャツ借りて行くから、後はお二人で存分に好きなことやってよ〜!」
「音尾!てめえッ!!」
けらけらと笑って、音尾はシゲの部屋を後にした。残されたのは短い時間に色んなことが津波のように押し掛けてきて混乱しかけている男と、涎を垂らして飢えている押し掛け狼男。
シゲにしてみれば、音尾の残していった鱗の跡のようなこのとんでもない状況に、困惑しきりだった。



 「音尾と安田の奴、青いったらないねー☆ いや〜おもろいわ。」
大泉が勝手に冷蔵庫を漁って、音尾が買ってきた缶ビールの残りを一本取り出してきた。
「お前等みんな、頭おかしくねえ? なんでそんなに赤裸々に語っちゃってんのよ!」
床に踞ってじっと大泉を観察しながら、シゲが憎々しげに漏らす。勢いで襲われそうだからと、大泉から少し離れた場所で自己嫌悪の嵐に襲われている最中。
「ああ? 佐藤だって要らんことまでよう喋るでしょーが。すーげえ誇らしげに。」
「バカかお前、それは普通のセックスについてでしょうよ! オンナ相手の!! 誰が男にやられてる体験、楽しげに語り合えっかよッ!!」
「…これ一本まるまる飲んじゃったら、洋ちゃん酔っちゃうかなー…」
「聞け話をッ!!」
シゲの言葉などまるで耳に入らない素振りで、くいくいっとビールを飲んでいる。
「佐藤くんねえ、ちょっとウルサイ。」
「じゃあ帰れ! 今すぐ帰りやがれ!!」
言ってからしまったと思う。売り言葉に買い言葉で言ってしまったが、本当に帰られると多分後で死ぬほど寂しくなる。きっと後悔するに違いないということを、咄嗟に自分で悟ってしまった。
「ま〜たそんなこと言って。洋ちゃん帰っちゃったら、寂しくなるのはアナタですよー?」
思いっきり今の心の内を見透かされたようで一瞬怯んだシゲの傍に、大泉がすっと移動してきて床にしゃがみ込んだ。
「帰って欲しいのかい?」
「おう、帰れ。」
今更後には引けなくて、どうしてもその言葉が口からついて出る。嫌になるほど意地っ張りな自分が前面に出張ったままだ。
「…頑固やね、キミ。」
そう言ったかと思うと、ついっとシゲの顎を掴んで上を向かせ、強引に唇を合わせた。
舌がねじ込まれると共に、苦い液体が口の中に流し込まれる。ごくりと喉を鳴らしてそれを飲み下すと、大泉の舌が絡み付いてきていやらしく貪られてから、ゆっくりと解放された。
「お裾分けー。美味しい?」
「苦いわ、バーカ。」
キスされたくらいでじわっと身体が疼いてしまうのが悔しくて、ふっと顔を背けて言葉を投げ捨てる。
「しげちゃんねぇ、そう言うことばっか言ってるからお仕置き決定〜!」
「あ?」
あっという間にねじ伏せられて、床に押し倒された。あまりの強引さと素早さにシゲもカッとなって、あらん限りの力で抜け出そうと暴れるが、所詮力の差は歴然としている。匍匐前進のような格好で逃げだそうとしていたところを上から押さえつけられ、両腕を後ろに回された。
「まーったく、佐藤さんときたらサカナと浮気はするは、素直じゃないはで本当〜に困ったちゃんだねー。これ以上暴れられるとちょっと面倒だから、たまにはこんなコトして見ちゃう
大泉は近くに落ちていたタオルをすかさず拾って、シゲの手首に手早く巻き付けた。
「や…お前ちょっと! これはヤバイってえ!! 大泉、嘘だろ!?」
「大丈夫だよー、ちょっとくらいなら痕残らねーって。」
「嘘だあッ!! 残るって絶対!! 止めろクソ馬鹿ッ!」
必死で叫んでも、大泉は一向に取り合わない。
「お前、マジで止めてよぉ、こんな格好でなんて嫌だあ、俺…」
「なんで? なまら色っぽいのに。」
芋虫のように身体をくねらせて逃れようと足掻く身体を、易々と押さえつけてころんとひっくり返す。シゲは往生際悪く足をばたつかせて暴たままだが。
「馬鹿野郎! お前何考えてんのよッ!! お仕置きとか言って、ただの変態丸出しじゃねーかよ!!」
矢継ぎ早に罵声を浴びせたが、大泉はひとつも表情を変えないで上からシゲを見ている。
「ああらまー、久しぶりに暴れてくれちゃうか。いや、洋ちゃんいっこも気にしないからいいけど。」
「気にしろ! 頼む気にしてくれ!! お前絶対おかしいってっ!」
「ああまぁ確かに。僕はすこぶる面白い男ではあるやね。なんつっても、人気者だしなあ。」
話をはぐらかしつつ、人差し指をつつっとシゲの胸の上で滑らせる。薄い布越しの感覚がかえって感度を高めるのか、シゲが真っ赤な顔で睨み付けていた。
「いやー佐藤さん、その顔最高〜に嗜虐心をそそりますわー。」
うっすらと硬くなり始めている突起を指でつついたり、捏ねたりしながら、泣きそうな表情に変わっていく綺麗な顔を心底楽しんで見つめる。
「…逃げないから。頼むからこれ外して―――こんなの俺、嫌だってぇ。」
ぞくぞくするような哀願も、今の大泉には獣欲を刺激する要素でしかない。愛しくて愛しくて仕方がないのに、泣かせたくて仕方が無くなる。泣かせて、縋り付かせて、自分のものであることを確認したく堪らない。浅ましい欲望だと解ってはいても、それを隠すつもりはなかった。ただ、有るがままにシゲを欲するだけだ。
 シャツをたくし上げる。白い身体に隆起した薄赤い蕾が二つ程焦れていて、大泉はそっと大きな手を這わせた。
次第に荒くなる息づかいを楽しみながら、柔らかい唇に口付けを繰り返して、胸元を弄ぐる。
「………ッ。」
声を噛み殺して喘ぐ姿が可愛くて、胸元に顔を埋めつい意地悪く蕾に歯を立てた。
「痛ッ……やめ………」
虚ろな半開きの目でシゲが大泉を見た。
「いやらしい顔してんなー…なまらメチャメチャにしてやりたいわ、お前。」
ちゅっと吸ってから舌で丁寧に舐める。
「もう手、外してくんないの? ……俺すっげえ手首も身体も痛いよ、大泉ぃ。」
「やだっちゅーの。可愛く言ったって、駄目〜☆」
可愛らしい物言いに一瞬心が揺らぐが、もう少し解放は先延ばしにすることにした。後ろ手に縛られて床に転がっているシゲは、何とも言えないいやらしさを漂わせていて、まだもう少しその姿を堪能したい気持ちが強い。
 スラックスに手をかけ、手早くジッパーを下げて中に指を忍び込ませる。シゲはさっと身体を強張らせた。
指先にシゲ自身を絡み付かせ、緩くさすった。下着の中でそれは先走りの蜜に塗れてしっとりと濡れている。
「大泉…っ」
切ない声で名前を呼ばれて、大泉はその声に答えるようにシゲに口付けた。甘い声を漏らす柔らかな唇が、淫靡に光る。
「なーによお…どうして欲しいのー? しげちゃんは。」
爪の先で先端をつついて、溢れてくる蜜を弄びながらもう一度口付けて耳元で囁いた。
「…………手ぇ外して。」
「却下。」
耳朶を甘噛みしてからぺろりと舐める。
「お前ぇぇ!! 一体いつまでこの格好させとく気よぉ…」
シゲが体を捩って抵抗し続けるのを面白そうに見つめながら、大泉は指先からくちゅくちゅと言う淫らな音を響かせている。
「いっぱい濡れちゃったねー、佐藤さん。そろそろイきたい?」
ぷいっと顔を逸らして、フローリングの床に頬をくっつけているシゲが可愛い。でも、もっと苛めてあげたい気分である。
「おお〜? まだキミは自分の立場というものが解ってらっしゃらない!」
大泉は突然、シゲのスラックスを口で銜えてぐいっと引っ張った。まるでケモノのように。
「バカこの! 脱がすんならちゃんと脱がしやがれ!!」
思わず口を突いて出た言葉に、シゲは更に赤くなって思わず目を瞑った。
「じゃあ、佐藤センセイのご要望どーりに! !ちゃ〜んと脱がさせて頂きましょ
してやったりと言った顔をしながら、大泉はシゲの下着もろとも丁寧に脱がせ始めた。シゲはもう何も抵抗せず、ただ為すがままになっている。
下半身だけを綺麗に剥ぎ取られ、膝を開かされて、シゲは屈辱のポーズのまま大泉の愛撫を受け入れた。
いやらしい水音を立てて敏感な部分を這いずり回る大泉の舌が、シゲのなけなしの理性を吸い取って、より一層抵抗する力を奪っている。
「……も………辛い…ぃっ…」
シゲが喘ぎ声の下から微かな声で呟く。肝心の愛撫は、シゲの欲しい部分にではなく、もっと奥まった部分のみを責め立てていた。
「お仕置きだって言ったべや。」
つらっと言い放って、大泉は唾液で潤した指を入り口付近に突き立てた。そのままぐちゅぐちゅと掻き回して、奥に沈めていく。
「頼むってぇ…」
切ない声が切れ切れに聞こえても、大泉は聞き入れようとはしなかった。
 更にシゲの中を乱すべく、大泉はちょっと腕を伸ばして、隠していたローションを取り出した。たっぷり指に塗りつけて、シゲの中に戻す。
「やだ……やだッ……気持ち悪…っ…」
瞑っていた目にうっすらと涙を溜めて、シゲが叫んだ。
「しげ、どうして欲しい?」
悪魔の囁きは常に甘い。
「ほら、言ってみれ? お前が今いっちばん望んでること……今言わねーと、してやんねえぞ。」
ぐちゅ…くちゅっ……水音だけが身体の中から響く。
気が狂った方がましだと思えるほどの疼きが、思考の全てを麻痺させる。
「…痛ッ!!」
太股の付け根に赤い口付けの痕を残されて、シゲが小さく叫んだ。
「しげちゃんは強情さんやね。よっしゃー、じゃ二択。指がいいかなー? それともお口かな?」
また、くちゅ…と言う音を中からさせながら、大泉は不思議な色気を湛えて微笑んだ。
「――――――くち。」
シゲが涙をいっぱい溜めた目を見開いて大泉を見つめ、そっと呟く。
「ああ〜いい子だ ちゃんと言えたねーしげ。じゃあ、洋ちゃんがお口でいっぱい舐めてあげるわ♪」
シゲの両脚の中心に顔を埋め、大泉はそっと蜜で溢れたシゲ自身に唇を押し当てた。頭の上では、切なくて甘い喘ぎ声がかすかに漏れた。
ギリギリまで怒張しているため、敏感になりすぎる程敏感なそソレに歯を当てないよう、慎重に口に含んでゆっくりゆっくり上下させる。これ以上ないほどの慈しみと、愛を込めて。
大泉の内と外からの責め苦に耐えかねて、あっさりとシゲは口の中で達していた。

 疼きの波がすうっと引いて、少しまともな判断が下せるようになったシゲは、改めてまだ自分が縛られていることに情けなさを覚えていた。しかも未だに身体の奥底には指を挿れられたままだ。
『随分と労ってくれてたっけね…』なんて、ついさっき思ったばかりだったというのに……今はこんな酷い格好のままで受け入れていなきゃならないのかと思うと、あまりに自分が情けなくて涙が出てきそうだ。
仮にも俺のことが好きだっつーくらいなら、こんな事しなくたっていいべや…と思う。一体大泉の“好き”って何よ?
そんな思いばかりが押し寄せて来るから、涙が出そうなほど悔しくて。
「…も……もういいだろ? ……なあ大泉。」
必死の表情で大泉を見つめるが、大泉は一向にお構いなしで上から楽しそうに見おろしている。
「いい加減にせぇよ! お前…ッ…」
「何がよ。」
「ふっざけんなッ…早く外せ!!」
睨んでも叫んでも、大泉はただニヤニヤしながら言葉をはぐらかすだけだ。
「ばーか。お仕置きだって言っただろーがよ! なんでハイそーですかっちゅーて、ほいほい外さないかんワケ?」
「何がお仕置きよ!! お前がただ変態なだけじゃねーかよッ。すぐ外せ! 今すぐ外せえッ!!」
喚いた途端、ぐいっと中の指が蠢いた。
「ひ…ッ……」
今まで動きをひそめていた大泉の指が、ぐちゅぐちゅと淫らな音を立ててシゲの中を掻き回す。自分の身体の中を弄くり回される感覚に、シゲは悲鳴を上げた。
指は自在に蠢いて、シゲに再び甘い疼きを与えてくる。悲鳴はあっという間に喘ぎ声に変わった。
「やーらし〜い、しげちゃんってば。すっげえ感じちゃって。」
「…おま…っ……このッ………っ…」
どんなに強がりの言葉を吐いたって、状況は歴然だ。大泉の言うとおり、気持ちとは裏腹に慣らされた身体は与えられただけの刺激に素直に反応し、あっさりと二度目の昂ぶりを示している。
「いやー、こんなに感じてくれちゃうと、洋ちゃんなーまら嬉しい
ひょいっとシゲを抱きかかえて、そっとベッドの上に降ろした。床の上よりは少し身体は楽だが、それでも彼方此方が痛いことに変わりはなくて…シゲは呻き声を上げた。
大泉はぱっぱと着ていた衣服を脱ぎ捨ててシゲの上に覆い被さり、シャツをたくし上げた。
「――ホラ見ろてめえ…手首外してくれないから、シャツ全部脱げねえべや。」
苦しげな顔の下から、ふっと小馬鹿にしたような表情が覗く。
「ああ? 脱げなきゃ別にこのままだっていいんだっつの、ほら。」
たくし上げたシャツの下から覗く蕾にそっと舌を這わせて、ぺろりと舐める。
「あくまでも外さねーつもりかよ…」
半ば諦めの境地で、ふうっと溜息を吐いた。我が儘いっぱいのこんな大泉に適うものなどないことは、シゲは身をもって知っている。
「もういい、好きにしろ!」
吐き捨てるように言った途端、軽々と腰を持たれてひっくり返された。両腕を後ろ手に縛れているから、自然ベッドに顔を埋める形で腰だけ後ろに突き出している――非常にいやらしい格好だ。
「じゃー、仰せのままに
上から四つん這いで覆い被さってきた大泉は、両手でシゲを抱き締めた。抱き締めて、肌を弄ぐって、首筋や背中のや肩に、口付けの雨を降らせる。
静かな室内に、荒々しくなる二人の息づかいだけが響いていた。

 やがて、先程まで指で弄ばれて解され続けていた部分に、ぐっと大泉の猛ったものが押し当てられた。
ぐちゅ…と音がして、圧迫感と共にそれはシゲの中に押し入ってくる。
「…や……あ…っ……ぁ…………」
いつものように指で大分、解されている。侵入してくる異物を、慣らされた粘膜が敏感にとらえて絡み付いた。
「………すげえ…………。しげってば、こんなに欲しがってたのかい?」
中まで収めてふっと息を吐いてから、大泉が嬉しそうに囁く。
「ち…ち、違ッ………馬鹿やろ…っ…………」
シーツに突っ伏した状態のまま必死で叫んでもどうにかなるものでもなく、かえって大泉を増長させるだけなのは解っている。―――頭では理解していても、やっぱり嫌悪感と恥ずかしさでつい、むきになって叫んでしまっていた。
「まあまあ照れ屋さん、キミのお口より身体の方が何倍も正直者なのは、よーく知ってるから…まぁせいぜい喚いときー。」
ぐちゅ…ぐちゅ……と、淫らな音をさせて大泉が突き上げてくる。シゲの細い腰を両手でしっかりと抱えて、実に規則正しく。その度に痺れにも似た疼きが、じわりとシゲの身体中を浸食していた。気が付けばいつも規則的な律動に合わせて、シゲの口からは切ない喘ぎ声が漏れてしまう。
 ゆっくりと繰り返されていた動きが早められて、悲鳴のようなシゲの声と荒々しい息づかいが室内を埋め尽くす。
大泉は確実にシゲの一番弱い場所を狙って突き上げた。
「……たす…………け……………て…ぇ……」
限界まで感覚を高められているシゲが、必死でその言葉を絞り出した。
「――――――しげ、俺の言うこと……後で聞いてくれるかい?」
一旦動きを止め、大泉がシゲの手枷に手をかけた。
「……………何、よ………………………」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな問い。
「聞くってことで、いいね?」
するりとタオルの結び目を解いて、やっと両腕を解放してやる。ついでにシゲの華奢な身体をころんとまたひっくり返して、仰向けにさせた。シゲの顔は涙と汗でぐしょぐしょだ。
「あーりゃあ、また泣いちゃった。佐藤さんねぇ…泣きすぎ。」
汗で顔に張り付いた髪を指で掻き上げて、そっと額に口付けた。それから、眦に堪った涙をそっと舌ですくい上げる。
「じゃ…泣かせるようなこと、すんなや……」
潤んだ瞳が、少しばかり憎々しげな光を湛えて大泉を見つめていたが、やがてするりと長い腕を伸ばして大泉の頭を抱え込んだ。
しっかりと抱き合って、唇を重ねる。何度も何度も。気持ちを確かめ合うように、互いに深く貪った。
 大泉はシゲの膝を抱え込んで体勢を整えると、再びシゲの中に楔を穿った。喘ぎとも悲鳴ともつかない声を心地よさげに聞きながら、最初はゆっくりと…徐々に早く抽挿を繰り返した。
「……………」
その声はシゲ自らの喘ぎにかき消されて大泉には聞き取れなかったが、おおよその見当はついた。
「…そうだな、もうヤバいなー。」
自分の二の腕に必死になって縋り付いている長い指をそっと引き剥がして、指に絡めた。ぎゅっと手を握り合ってから、シゲの弱い部分を素早く丁寧に攻め立てた。
「………っ。」
ほぼ同時に熱いものを吐き出して、二人はそのままゆっくりと脱力していく。荒い息づかいの中、大泉はシゲの上に覆い被さりながら、赤くて柔らかいシゲの唇に口付けて満足げに笑っていた。



 「…気持ち悪ぃ…」
疼きの余韻の中の筈のシゲが、ぶっきらぼうに呟いた。
「――お前ぇ、それは酷えわ。せっかく俺が頑張ったのに、いっこも気持ちよくなかったのかい?」
顔を覗き込んで、わざとふくれっ面をしてみせる。
「違うっつーの。……シャツ、ベタベタで気持ち悪ぃーんだよ。」
言われて身体を引き起こすと、それはもう見事にシャツに白いものがべっとりかかっている。そして、自分の胸から腹にも当然同じものが付着していた。
「おおぅ…これは凄いことに……」
慌ててシゲのシャツをえいっと剥ぎ取って脱がせ、ごしごしとそれで汚れた部分を拭き取っていく。
「……ひでえ奴だ。俺のシャツで拭くなんて!」
「いいべ、これくらい。どうせもう汚れてるんだから。」
そりゃそうだと思い、シゲは大泉の好きなようにさせる。彼は丁寧に彼方此方拭きまくって綺麗にしてくれてから、シゲの横に寝転がった。半ば強引にシゲを胸元に引き寄せて、まだうっすら上気している頬に唇を押し当てた。
「手首…どうしてくれんのよ。」
シゲがちろっと上目遣いで大泉を睨んだかと思うと、がしっと顔を掴んで引っ張った。
「あにふぅのおー!」
「それは俺の台詞だ、このクソ馬鹿。なーにがちょっとなら痕残らねーよ!! バッチリ残ってんべや!!」
ぎゅうぎゅう引っ張って大体満足してから、手を離した。
「痛えよお前! 洋ちゃんの大事なお顔に!」
「…そんなに大事なら金庫にでも入れて閉まっとけ、馬鹿綺羅星。」
シゲの勢いに大泉が根負けして、ちいさな溜息を吐く。
「いや〜ぁ、悪かった。スマンしげ! 頼むから機嫌直して下さいよ、佐藤さんってばー。」
ご機嫌斜めのシゲを抱き寄せて、唇をそっと近付けた。シゲは逃げずにじっと大泉を凝視している。
「あらら、お姫サマったら本気でご機嫌ナナメだこと。」
長さが自慢の脚をするりとシゲの華奢な脚に絡ませて、身動きを封じた。
「お姫様だぁ…? この凛々しい佐藤重幸様に、なんつー呼び方をしてくれるんですか、大泉さん……」
不満たっぷりの視線を浴びせかけつつ、呆れたと言わんばかりの口調でシゲが呟いた。
「だってこの前までお前、いばら姫みてーにぐうぐう寝てたじゃないのよ。えらい長いこと。」
「全く説明になってねえぞー、アホ。」
「いいんだっちゅーの、俺の中ではお姫様なの!」
ぎゅっと抱き締めてまた唇を重ねた。シゲは抵抗する様子もなくあっさり愛撫に応じた。
 シゲの白くて滑らかな肌の上を大泉の手が這い回っている。再び熱を持ち始めた身体が焦れるまで、抱き合って唇を重ね、身体中を弄ぐる。
絡ませ合った身体が熱く火照り出している感触を確かに感じて、大泉はシゲの耳元で囁いた。
「…しげぇ、お前…上乗れや。」
「…………ぁあ?」
ぎょっとしてシゲが動きを止める。
「言うこと聞くって…言ったべ?」
ギラギラした目で、嬉々として言い放つ。
「言って…ねえっ!」
慌てて否定し、大泉を睨め付けた。
「いーからいーから。諦めておとなしく言うこと聞け。」
「いいわけねーべや! やだ…大泉それは嫌だって!!」
相変わらずの往生際の悪さに、大泉は少々苦笑いをしながら子供に諭すように耳元で同じことを繰り返した。そして指先で、焦れた身体を更に弄ぶ。
「なあ……お前、こんなに欲しがってるんじゃないの? 素直になろうやー。」
双丘に手を伸ばして、シゲの中に指を差し込む。くちゅ…と、水音をさせて指が奥に侵入し、解きほぐされた中を更にやんわりと刺激する。そこには先程自分が残してきた体液が残っていて、くちゅくちゅという音が暫くその場に響いた。
やや暫く大泉に翻弄されたシゲは、苦しげな吐息の中で縋り付いてきて、自ら唇を求めた。
「苦しいなぁ、佐藤さん。」
ちゅっと口付けて、そっと囁く。
「もうツライやろー?」
大泉がそっと指を引き抜くと、ん…と小さく呻いて身体から力が抜ける。そこを見計らって、シゲの身体を誘導した。
「だって…………どうすればいいのよ………」
体を起こしたもののほんの僅かに残った理性が躊躇させているのか、それとも恥ずかしさで戸惑っているのか、泣きそうな顔で下を向いている。
「こっち向いて跨ればいいべや……ほい、こっちおいで…」
その言葉に従うべく、シゲはふぅっと小さく息を吐いた後、恐る恐る四つん這いになった。
そのまま素直に上に跨ると思っていた大泉の予想を軽く裏切って、頑固で照れ屋の自称『凛々しい』お姫様はいきなりその場で頭を低くした。
「?……し…げ………ぇ!?」
上体を沈めて大泉の下半身に顔を埋め、辿々しく舌で舐めている。そそり勃った雄を。
一体何をいきなりしてくれるのかと…ビックリする反面、嬉しくもあって大泉はつい声が裏返ってしまっていた。
「…何よ、驚いてんの? 大泉。」
してやったりという顔をしてぺろりと唇を舐めたゲは、艶っぽい笑みを湛えていた。妖艶と言ってもいい、挑発的な表情で大泉を見つめる。
「あー…もー俺、覚悟決めましたよー。どうせねぇ、俺は大泉さんには適いませからね。」
意を決したシゲは再び艶めかしい笑みを浮かべて、寝ている大泉の上を跨ぎ四つん這いになった。

 積極的に口付けをしてくる様が、大泉には愛しくて仕方がなかった。形の良い唇が執拗に自分の唇に重ねられるのが、嬉しくて仕方がない。
 再び息が荒くなり、シゲは大泉が誘導するまま上半身を起こして腰を落とした。
「…ッ……………ぅ…………」
腰を支える大泉の手を握りしめてゆっくりと身体を沈めると、ぐちゅ…と音がして大泉の雄が自分の中に呑み込まれていくのを如実に感じる。
「すっげえ…お前………さっきより、いい………」
中は一度目よりも、大泉のモノに絡み付いて淫靡に蠢いていた。大泉が感慨深げに呟く言葉が、媚薬のようにシゲに染み通ってゆく。最早理性の欠片などは消し飛んでいて、欲望のままどろどろの快楽の渦に身を任せている。
 頃合いを見て動くよう促すと、シゲがそろそろと腰を上下させた。
最初はゆっくりと……やがて情熱的に腰を動かして、大泉を身体中で貪った。
静かな室内に切ない喘ぎと荒い息づかいと、いやらしい水音が響き渡る。
「しげ、お前のがなまら涙流してるわー…」
シゲの分身が大泉の腹の上で辛そうに猛っていた。
「自分で触ってくれない?洋ちゃん、佐藤さんの自分で乱れる姿、見たいなーv」
「…………ぇ………? 何……………言って………ッ………」
朦朧としているシゲの右手を自分の手から引き剥がして、そそり勃っている自分のモノに触れさせることなど容易なことだ。
「いつも自分でやってるみたいに触ってみせれよ。」
言われるまま、シゲは自分の雄を右手で緩くさすりだす。
神経が右手にいってしまうのか、動きがどうしても緩慢になるので大泉が下から揺すぶった。

 細くて白い身体が自分のモノを銜えて身体の上で揺れている。自分の上で繰り広げられている痴態の光景は、大泉を魅了してやまない。熱に浮かされた目をして悦楽に溺れているシゲの姿が、大泉の鼓動を否応なく高めていた。
「……お前、なまら………綺麗。」
綺麗で、いやらしい…極上のシゲ。その姿だけで充分にイけてしまいそうなのに、大泉を銜え込んで収縮する情熱的なシゲの身体が更に追い打ちをかける。突き上げられる規則正しいリズムで、艶やかな唇からは熱っぽい吐息が漏れ聞こえるのも、大泉の欲望を限界まで誘った。
そしてそれはシゲも同じだったのだが。
「……ダメだ俺…………も…………ッ………イきそ…ッ………………」
先に音を上げたのはシゲ。内と外から感覚を煽られ続けて、限界ギリギリのところまできている。
「……っ……………同じく。」
シゲの上半身をぐいっと引っ張って身体の上に乗せてから、しっかりとシゲの身体を支えてあらん限りの勢いで下から腰を打ち付けた。
「………ッ…………!」
大泉の肩に縋り付いていたシゲの指先に物凄い力が入ったかと思うと、一気に力が抜けていく。
「……しげ…………最高ッ…………」
シゲの身体の中に勢い良く全ての熱情を迸らせて、大泉が耳元で呟いていた。



 「おーす、シゲお早う〜!」
あの怒濤のような一夜から数日経って。
ラジオの録りの為、今夜は局にNACSの連中が全員集合の日。前の仕事が早めに終わって、一番乗りだったのはシゲだった。
心なしか不機嫌な顔をしながら自分の用意をしているシゲの前に、二番乗りでやってきたのは幸せそうな笑顔の音尾。
「……………お早う。」
ぶすっとした顔のシゲがぞんざいに挨拶を返す。
「あれ? どしたのー、シゲ。調子悪いのかい?」
にこやかに笑う顔が、シゲには小憎らしくて仕方がない。
「あ゛〜僕ねー…な〜まら機嫌悪ぃーの。ほっといてくれる? 音尾さん!」
「あらら…ほんとに機嫌悪いじゃん、シゲ。どしたの? こないだ、大泉と喧嘩でもしたの?」
その言葉に反応して、ただでさえ鋭角的なシゲの顔に余計険が増した。
「―――音尾ぉ〜………お前のせいでなぁ、俺酷っい目に遭ったワケよ。見ろコレッ!!」
両手首を音尾の前に突き出して、填めていた腕時計とリストバンドを外してみせる。
「わ。すげー痣作っちゃってまぁ…。怒られるよ〜、こんな目立つところにこんなものあったら。」
「るせーよ!! もう怒られちまった後なんだよ俺はッ!! まったく誰のせいでこうなったと思ってんだ!」
シゲは今朝、隠していたこの痣を事務所で見つかり、副社にこっぴどく怒られてきたのだった。
そのせいもあってか、音尾に噛み付かんばかりの勢いで捲し立てるが、当の音尾はのほほんと笑っている。
「俺じゃねーもん、そんなの。ソレ、大泉がやったんだろ?俺、全然関係ないじゃん。」
ニヤニヤしながら、音尾はその場にあったペットボトルに手を伸ばした。
「お前が………お前が誤解されるようなことすっから……………その…………」
流石に八つ当たりだとは気付いているのか、シゲの語尾も濁る。
「知らないって。そんなの自分で阻止しなかったアナタが悪いんですよ〜だ。いや、あの大泉相手だから大変だろうけどねえ、シゲちゃんも
含み笑いを浮かべて、音尾がシゲを見遣った。
「……………うるせえんだよ。」
顔をほんのり赤くしてシゲが顔を背けてしまう。ホントに今のシゲの弱点って『大泉』なんだな〜…と、音尾はますます顔に楽しそうな笑みを浮かべてシゲを見つめた。
「……お、お前…何見てんのよ。だいたい、自分の方はどうなったんだよ!!」
必死で権勢の巻き返しを図るが、音尾はにっと幸せそうな笑顔を浮かべて口をつぐんだ。
「なんだお前!! 何よその態度は!! 元はと言えばお前が…………」
そこまで叫んだところで、控え室の扉が開けられたので慌ててシゲは言葉を飲み込んだ。
「…お早うございます。」
静かで、低い声。しかも小さい声で挨拶して、素晴らしく整った顔の持ち主が腰を低くして入ってくる。
「あ、顕ちゃんお早う〜。」
露骨に嬉しそうな顔をして音尾が小さく手を振った。この様子から察すると、このお騒がせなお二人は上手くやったのかもしれない。
八つ当たりの気分がますます高まってきて、シゲは安田を睨め付けた。仲良さそうにベタベタしている二人にも腹が立つし、手首の痣も見るたびに苛々を増す。なんで俺だけ――――――!!  
「おっはよーーーーーーーーーぅ!!」
悶々と考えていたシゲの目の前で扉が勢い良く開いて、苛々の大本がとびっきりの笑顔で現れた。
「お、まだモリ来てないのかい?」
「……見りゃわかんだろ。」
冷たく言葉を返して、シゲは近くにあった椅子に座る。わざと、大泉に背を向けて背中で拒絶の意思を表してみた。
「佐藤さんってば冷たーい。」
大泉が音尾の方を見て、両手で『なんじゃコリャ?』と言った感じのオーバーアクションをしている。
「お前が悪いみたいだぞー大泉ぃ。佐藤さん、両手首に酷い痣出来ちゃってさぁ、事務所で結構怒られたみたい。」
安田に背後からぎゅうっと抱きつかれて、満更でもない笑顔を浮かべている音尾が、大泉に語りかけた。
「…おやおやぁ、それは悪いことをした
つつっとシゲの座る椅子に近付いていって、大泉は後ろからシゲの顔を覗き込んだ。当然、シゲは顔を背ける。
何度か攻防を繰り返し、業を煮やした大泉がシゲの顔をひっつかんで思いっきり良く、唇を合わせた瞬間……
「おお〜、待たせたなぁ〜お前達ぃ〜……」
大きな声を響かせて、森崎が扉を開けていた。
全く事情を知らない森崎博之の目に飛び込んできた光景は、流石に彼を黙らせる破壊力に溢れていた。
「………………!!!????」
「リーダー…?」
音尾が困ったように話しかけた。森崎はぴくぴくとこめかみを引きつらせながら口を開く。
「――――――お前らぁーーーーーーーーーっ!! そんなことばっかやってたら、またNACSはホモ集団だって言われちまうべやぁーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!…………」
森崎の半分泣き笑いの怒号が響き渡る中、苛々どころではなくなってしまったシゲと、上手く誤魔化せてホッとしている大泉が、つらっとした顔でまるで何事もなかったように自分達のコーナー用の仕度を始める。
…………内心、シゲも大泉も心臓が口から飛び出る程びっくりしていたのだったが、今後の森崎の心の平安を乱さないために、咄嗟に二人とも絶妙のコンビネーションで乗り切っていた。

 そんな様子を、別にいつものことなので森崎の目など気にせず、背中に安田をくっつけたままの音尾が、何やら感心して見ているのだった―――――。



Fin


 

青〜いサカナに振り回された
シゲちゃんです(笑)
しかし、どんどん甘々になっていくぞ。。。どうしたことだ。
いつも【おにぎり】でいちゃついているからか???


因みにこのお話。
顕琢のカップリングで文月の翠サマに捧げさせていただきました。
イベント用の小説ですが、翠さんが挿し絵をつけて下さいました♪
『逸民の楽園』と言う本で御座います。
ご希望の方は、『同人』のページを覗いてみて下さいませ☆

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