心拍数…





 ギシギシとベッドのきしむ音が部屋の中に響いていた。
単調でほぼ規則的なそれに呼応して、やはり規則性を持つ荒い息づかいとともに。
 …俺の上に、大泉がいる。
当然のように俺の部屋に来て、当たり前のように俺を押し倒し、当然の権利のごとく俺を抱く。一体いつから、どうしてこんなことになっているのか、もうあまり思い出せない…。この関係は、もうずっと昔からだからだ。
そう、ずっと続いている………どうしてだか理解できないまま。


 「しげー、煙草一本くれや。」
俯せのままで呼吸を整えていた大泉が、少し体を起こして俺を見ながら言う。でっかい目玉をきょろっとさせて見つめてくるのは、甘えてるつもりなんだろう。
「やぁだね! 自分の吸えばいいだろ? なーんでお前なんかに!!」
「さっきラスト一本だったんだっつ〜の☆ ケチケチすんなぁしげぇv
俺はベッドの上に膝を立てて座り、枕をクッション代わりにして壁に背中を預けている。荒かった呼吸が整ってきたので体を起こして一服していたところだ。何せやっとこのわがまま男の体から解放されたところだから。
「やだよ。吸いたけりゃ、てめぇで買いに行ってこいよバーカ!」
「そう言うこと言う? しげちゃんってば。」
「…言ってやるね。大泉のバーカバーカバーカ!」
トドメに吸っていた煙を顔めがけて吹きかけてやった。
「しーげッ! お前ぇ!!」
そう言ったかと思うとあっという間に体を起こし、こいつはいきなり襲いかかってきやがった…次の瞬間には唇を塞がれている俺。
 しばらく唇を貪られて息苦しい中、大泉の指先が首筋や耳を触り続ける。微かに触れるか触れないか程度の刺激が重なって、おさまっていた快楽の余韻が体の奥深いところからジリジリ沸き上がってくるのを感じる。
 ―――ヤバイ―――
咄嗟にそう思って、体を捩った。俺たちが離れると、目の前の大泉の唇と俺の唇の間にすうっと糸が引いているのが見えた。
「どうしたのよ…しげ。感じちまって困ったのか?」
含み笑いの笑顔は、いつものこいつの屈託のない笑顔と相反していて、ほんの少し恐怖を感じさせた。そう、こいつはいつもこうだ。
いざとなると俺なんて絶対に太刀打ち出来ない何かがある。背が高くて、組み伏せられると敵わないのも相まって、途端に俺は思うように身動きが取れなくなってしまう。まるで、蛇に睨まれた蛙のように…。
「……も、もういいだろ…さっき十分やったじゃねぇか……俺たち明日だって仕事だし…さ。」
仕事を理由にこのまま帰って貰えないかなーと、少し期待するが一向にお構いなしの様子で、大泉は俺の鎖骨に手を這わせた。
「おやおやぁ☆ 残念だったなー、しげ。明日は昼過ぎからの仕事じゃないかぁ♪ まだまだ時間はたっぷりあるって
「てめぇ、そんなにやりたきゃ俺なんかとしないで、ちゃんと女のトコに行けよッ!!」
絶叫にも近い俺の言葉は聞いちゃいない風で、首筋に唇を押し当ててくる。
 ……大体俺たち、女には全然不自由していない。俺もそうだし、こいつにだって熱狂的なファンはゴロゴロいる。学生時代のこいつはともかく、今はこんな事しなくたって性欲の処理くらいどうにでもなるはずだってのに………大泉は未だに俺との関係に固執しているのだ。
「馬鹿だなあ佐藤くんは。僕は今、君が抱きたいんですよね〜ぇ…。」
からかうような口調で耳元に囁いてくる。ああ。段々この声に逆らえなくなってくる………。


 膝を抱えていたので、この格好はヤツには好都合だったようだ。さんざん胸元を弄くりたおした大泉の手が、するすると降りてきて俺の太股あたりを撫で回し始めた。
諦めて大泉の首元に両手を回していた俺は、その新たな刺激に思わずぴくりと体を反応させてしまう。こいつが喜ぶのを知っているから、必死で我慢しているのに…どうしても、体が動いてしまう………。
「しげぇ…感じちゃう?」
くすくす混じりで囁かれて、耳までかっと赤くなるのを感じた。
「うっ…るせえよ……。」
首元にしがみついているので、顔を見られなくてすむ事にほんの少し救われていた。
「おいおいぃ、こんなにぎゅっとしがみついてたら、なーんにも出来ないじゃないかぁ…」
あっさりと手をほどかれて顔を覗き込まれてしまう。もう何もかもがこいつのペースだ。
「あ…バカ……やめろって。」
大泉はあっさりと俺の膝を開かせた。上から下まで舐めるように見てから、俺の正面に割り入ってきた。
舌を胸元に這わせてくる。先程まで指先で弄ばれていた突起を執拗に攻めて、俺の感覚を煽り続けた。いやらしい音を俺の胸元で響かせながら、ヤツは再び手を俺の太股に伸ばしてくる。
「頼むから…止めろって…ぇ……大泉ぃ…。」
こんな言葉くらいで大泉が行為を止めるはずもないのは重々解っているのだが、どうしても哀願せざるを得ない。これ以上はもう俺の理性が保たなくなるのだ……こいつのせいでタガが外されてしまう自分を見せつけられるのは、今日だけで一体何回目になるのか。そう考えただけで、恥辱に体が震えた。
「何だよしげ、止めろって言われてもさぁ…こんなになっちゃって、止めてもいいワケ?」
するりと指先が俺自身に触れてくる。そしてその部分から溢れている液体を指先に絡ませて、俺の目の前に翳した。
「………。」
「おぅやあ? 顔が赤いぞぉ、佐藤くんv
獣のような四つん這いで俺の上に覆い被さるようにしているこの男は、何でこんなに楽しそうなんだろう。俺が愛撫されて感じちまう様がそんなに嬉しいのか…?
目をぎょろぎょろさせて俺を舐め回すように見ては、にっこにこしてやがる………。

 再度胸元を舌で舐めあげられながら自身を弄られて、俺の理性がどんどん消失していくような気がしていた。
「おおいず…みぃ……。」
その一言で慣れたこいつは俺が何を言いたいのか、何を欲しているのかがすぐ解っちまうらしい。
「……ちゃんと言わないと、イ・ヤ・だねえ。僕はしげちゃんの哀願する声が欲しいなあ。」
「お前、鬼かよぉ…。」
「へっへっへ。そんな事はないですよォ、いつも優しい貴方の洋ちゃんです♪」
にやにやしながら突起を啄んでいる顔がいやらしい…くっそぅ……腹が立つ。でも言わなけりゃ、ずっと俺は焦らされたまま…。
「頼むから、もうイかせろよ…。」
顔を見られるのが嫌なのでぷいっと背けて、ふて腐れた声で言ってやる。絶対に哀願なんて、してやらない。
「…わあッ……ぁ!」
言い終わった途端に大泉の指先にきゅっと力が込められ、俺はみっともない叫び声をあげた。これじゃあイくどころじゃない。
「佐藤くんは意外と頭が悪いのかな? そーんなぶっきらぼうに言われちゃ、気持ち良くなんかしてあげられないなあ。」
そう言ってぺろりと胸元を舐めた。
 ………本気でこいつは鬼かもしれない………
「頼むから…もう、解放してくれよ……。」
「そうそう、その調子だよーしげv
「バカ! てめぇッッ……ぶっ殺してやる…。」
言い放つ言葉には全然力がなくて、情けない気分になってくる。ああ…もう、助けてくれぇ……。
「仕方がないなーしげちゃんは。じゃあその表情だけで勘弁してあげよう!」
そう言ったかと思うとヤツは自分の顔を俺の胸元から離し、体制を低くして下半身に近付けていた。
「ん…ッ……んん…。」
柔らかくて生温かい舌が敏感な部分にねっとりと絡み付いてきて、思わず声を上げてしまう。
大泉は所々唇を押し当てては、舌を這わせてきた。困ったことにこいつはどうすれば俺が最も感じてしまうか、どんなことをすれば気持ちが良いかを熟知している。
あっという間に昇りつめそうになるのに、あともう少し…と言うところで、大泉は愛撫を止めてしまう。何度も何度も繰り返されて、俺は頭がおかしくなりそうだ。
「勘弁して…くれよぉ…俺もう………駄目だってぇ…。」
ついに半泣きになって俺は弱音を吐いてしまった。
「駄目駄目、俺もっとしげの色っぽいトコ、見たいもん。」
「鬼ぃ! 悪魔ぁ!! 大泉洋の変態野郎ーッ!!」
「……何て言われたって僕は構いませんよー。オマエが辛いだけなんだし。」
大泉はぺろりと俺の先端を舐めては止め、口付けをしては離した。決して口の中に含んでくれようとも、手を使って刺激を与えようともせず、僅かな感触だけで俺を苦しめ続けている。
「なぁ………お願いだからぁ…。」
「んーーーーーー、どうしようっかなぁ。」
俺の指は全く無意識に、ヤツの髪の中を彷徨っていた。既に頭の中はイかせて貰うことでいっぱいで、下半身に貪り付いて愛撫を繰り返す男の頭を抱えて悶えている。
「しげー…。」
大泉がまた、ちゅっと唇を押し当ててきた。
「可哀相だから…イかせてやるよv
ふっと笑みをこぼしながら、大泉はゆっくりと俺を口の中に含んだ。そして、顔を上下させる。
「…ぁ……ッ……は…ぁん………ッ。」
強烈な浮遊間と陶酔感が襲ってくる。そして次に後ろめたい罪悪感が。
俺は大泉の口の中であっという間に達し、脱力していた。いいように振り回され、焦らされてイかされてた敗北感と、何とも言えない複雑な感情が絡み合って、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「ばぁか、泣いちゃったのか。」
言われるまで気付かなかった。大泉は体を起こし、俺の上に覆い被さるようにして顔を近付け、目尻のあたりをぺろりと舐める。涙が滲んでいたらしい。
「…………。」
「ああもう! ガキだなぁ、しげはー…泣くんじゃねえよ、こんな事で。」
そう言ってぎゅっと抱きしめられ、背中をぽんぽんと叩かれて、どきんと心臓がなった。
そのまま鼓動が激しくなる。大泉の腕の中で、大泉の匂いに包まれて、ぎゅっとされているだけで俺の鼓動は鳴り止まない。
どきどきしたまま、そっとヤツの首に腕を回して俺は珍しく自分から唇を押し当てていた。
 しばらく唇を貪られながら体中を撫で回され、少しずつ指先が下半身に近付いてくるにつれ、流石に体を強張らせてしまう。
「コラ! 力抜けや。」
指先が、先程さんざん弄んだ部分をするりとすり抜けてゆく。
「あ〜ほらほら、緊張しちっゃてるぞ佐藤くん。」
つい1時間くらい前に大泉を受け入れていたその部分を触られて、思わず体がびくんと跳ね上がった。そんなことは一向にお構いなしで指を差し入れてくる。
「うわッ………。」
ぐちゅぐちゅと艶めかしい音がヤツの指先から奏でられていた。
「さっきの俺のが残っているんだよ…ほらしげ、ぐっちょぐちょだ。」
「バカ! 何でそう言うこと言うんだよ!!」
恥ずかしさにカッとなった。何とか逃れようと頑張ってみるのだが、俺は両脚を大きく開かされている。その間に大泉が入り込んでいるのだから、逃げようがなかった。
 大きな抵抗も出来ずに、そんな状態で指の陵辱を受け入れ続けていた。慣れた手つきで敏感な部分を刺激され、再びヤツのアレを受け入れる準備が俺の中で整っていくのが悔しかった。
頃合いを見て大泉が全ての指を引き抜く。くちゅりと、いやらしい音とともに異物が引き抜かれていく感覚は何とも言えずに体が震えてしまう。
「しげ………おいで。」
大泉は一旦体を離し、俺の目の前に座った。ヤツの長い足が無造作に投げ出されている。
続きの刺激が欲しくて…俺は怖ず怖ずと大泉の膝の上に跨っていた。向かい合わせの格好でヤツにしがみついて、そっと腰を落とす。
「う…ッ…は…ぁあ…んッ……。」
大きな手に腰を支えられながら大泉のいきり勃っている雄を体の中に沈めていく。
慣れた俺の体、ましてやつい先程まで同じように受け入れて、中を体液でいっぱいに満たされていたそこは、容易に異物の侵入を許してしまっていた。
粘液性の水音が体の奥底から響き渡り、さらに俺達を煽るかのようだ。
 「この辺…だよな、お前が感じちゃうのって。」
俺の中の一番敏感な部分を下からゆっくりと正確に突き上げてくる。身震いするほどの快感が背筋を走り抜けて、掴んでいた大泉の肩に思わず爪を立ててしまっていた。
「ビンゴ☆」
俺の胸元で嬉しそうに呟いていた。そのまま、また立ってしまっていた胸の突起を優しく啄んでくる。
「……ぃ…ずみぃ……。」
苦しくて、ただ苦しくて…それしか言葉が出てこない。襲いかかってくる快楽の波は先程の比ではなかった。ほんの少し前に放出したばかりで満足していたはずの俺自身が、体の間に挟まれてじりじりと勃ちあがっている。再び解放されたい欲望と、奥底から与えられる喩えようもない刺激を必死で堪えようと、ますますヤツの肩を強く握りしめて唇を噛み締めていた。
 そんな俺の下半身にそっと手を伸ばして、大泉は指を絡ませてきた。俺を上下に揺さぶりながらその動きに合わせて扱きだす。
「や! …だめ……駄目だってぇ…………。」
泣き声になっている自分がいた。これ以上され続けたらあっという間にイってしまうのは解っている。でもそれでは俺ばかりで、こいつはイけやしない…そう思うと、余りに不公平な気がして叫んでしまっていた。
「大丈夫…お前のそんな声聞いたら、俺だってすぐにイっちゃうな……。」
俺の気持ちを見透かしたように、ぼそりと呟かれた。その言葉で、ますます俺の心臓が早鐘を打つ。こんなにも大泉ににどきどきするなんて……。
 激しくヤツの雄を擦られ、突き上げられて、俺は悲鳴にも似た喘ぎ声をあげてしまっていた。名前を何度も呼ばれながら揺さぶられて、心拍数がどんどん上がっていくのを感じていた。
 辛そうな大泉の呼吸、そして自然にあがってしまう自分の嬌声。高鳴りっぱなしの鼓動の中で、俺は身体の狭間に白い情熱をぶちまける。ほぼ同時に、俺の奥深くに熱い液体をぶちまけられながら……。



 しばらく俺は気を失っていたらしい。
気が付けば、大泉に体中を綺麗に拭かれているところだった。
「お…目が覚めた。」
楽しそうな顔で顔をのぞき込まれる。
「今日のしげちゃんは格段に色っぽかったね〜v さっすが、ハンサムさん。」
「バカにしてんのか…? オマエ。」
「素直じゃないなあ。俺がこ〜んなに誉めてるのに。」
大きな手がふわりと額に置かれ、汗で張り付いた髪をすっと掻き上げた。
…何だか気恥ずかしい…。
「誉めてる? …惚れてるの間違いじゃねぇの? 大泉くん。」
わざと強がって挑発的な顔をしてみる。そうじゃないと恥ずかしくて顔がまともに見られない気がして。
「おっ! 言うねえしげも。じゃー教えてあげよう♪」
大泉がにんまり笑って髪の毛をくしゃくしゃっとする。
「僕ぁね、ホームページでだって堂々と佐藤重幸が好きだと、結婚します! と、言い切った男ですよ! 惚れていて当然じゃあないですか!! それよりも佐藤さん…君の方こそ、実は僕にめちゃめちゃ惚れているんですよーと、僕は言いたいですねぇ。」
聞き捨てのならないことを畳みかけてくる。誰が誰に惚れてるってよ…。
反論しようと口を開いたそのタイミングを狙って人差し指が唇に触れ、大泉は続けた。
「意地張らない方が楽なんだぞ、しげ♪」
「……オマエ、自惚れやさんだなー……。」
それを言うのが今は精一杯だ。下手に反論したら、俺はますますこいつをつけ上がらせることになるだろう。
だって、もう既に俺の心臓はいっぱいいっぱいで、またどきどきし始めてるんだから…。
「可っ愛いよなー、ホントに。」
そう言ったかと思うと、俺の左胸に顔をぴたっとくっつけて、くっくっと笑う…。
嫌な奴……これで後輩だったっんだから、本当に信じられない。
まあ、俺はそんなこと気にしてはいなかったけどさ。
「お前の心臓、素直で好きだなあ僕。」
「何が言いたいのよ…。」
「赤くなってるよ、しげちゃん。んー、そんなところも大好きだね!」
ぎゅっと抱きしめられる。バカ野郎…動悸が激しくなるだろ! 
…まったく、今更ながら認めなくちゃならないのかよ、俺は。
………大泉洋が好きだなんて、気持ちに…………。

止まらずにどんどん上がってゆく俺の心拍数が、絶対に認めたくない真実を如実に物語っているのだった…。



  

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