心拍数・すべての始まり編
初めての印象は、はっきり言って最悪だった。
どういえば良いんだろうか…つまり、俺がヤツを嫌いだったというか、気に入らなかったというか…。ともかく、俺が一目見てその男に嫌悪の情を催したと言うことだけは、事実。
そいつはいつも部室で誰か彼かに囲まれ、ちやほやされ、甘やかされているように…少なくとも俺には見えた。
ヤツの言うことは尤もらしい屁理屈で固められているようにしか思えないのに、周囲の人間はそれに逆らうどころか、迎合しているかのように見える。
……非常に、気に入らんかった。
一学年先輩の、佐藤重幸という男が…。
俺は当時、二浪もしてやっと大学に入ったばかり。同学年の奴らはそう、年下が多い。いっこ下って位なら違和感もないんだろうか、2こも下だと流石にジェネレーション・ギャップを感じざるを得ない場面が、多々あるわけで。ましてや俺が入った演劇研究会なるものは、ここは魑魅魍魎の類が跋扈しているのか? と、思うぐらい変わった人間の坩堝だった。総じて皆仲が良くて、入り込む隙があるような、ないような…不思議な人間空間。
そんな中においそれと入ってはいけないような気がして、なかなか俺は上手くうち解けることが出来ないでいたんだけど…佐藤先輩はそんな俺を冷ややかな目線で見ているような気がしていて…。何だかヤツと顔を合わすだけで、俺は苛々しちゃうんだよな。
そんな俺でも…徐々にではあったけども、何とかサークルの連中にうち解け始めていた。あれは夏頃だっただろうか? 本当にようやくって言った感じだったよ。小中高と、明るくて面白い人気者の大泉くんで通ってきた俺としては、まことに珍しいこ経験だったと思う。
まあねえ、半大人社会とも言うべき大学生活の、ましてや様々な年齢の人間が入り交じるサークルに於いて、それは必然的だったのかもしれないけど。
あの日、俺はサークルに顔を出すべく部室へと向かった。最近では演劇の話、面白かった映画の話なんかで周りの人間と熱い語りをするのが楽しくなってもいたワケで…いつも誰か彼かがいる部室でおちゃらけたり、物真似で笑わせるが面白くて仕方なかった。
扉を開けて中を見渡す。
…あれ? 今日は誰もいないのかぁ。そう思って自分も帰ろうかと思ったその時、ふと目線を下げてみる。
……なんか、窓の下に座って、ぼぅっとしている男の姿が目に入って、かなり嫌な予感。
窓から入り込む初夏の風が、膝を抱えて座っている男の、さらさらの黒髪を少し揺らしている。鼻筋が通っていて、眉がなまら凛々しいその顔は、どこから見てもま〜ぁ、二枚目。でも、苦手なアノヒト。
「よお! …大泉かあ!」
無駄に張りのある声だなー。…いや、そんな事じゃなくて…なんでこの人しかいないのよ〜……うわ、やべえなあ、どうやって逃げよう!?
「何、そんなとこ突っ立ってんのよ。どうしたー?」
どうしたー? って言われたってねえ…あんたが嫌いだから帰りたい! なんつったら、この先どんな目に遭わされるか解らないしなあ。
俺は腹を決める事にした。
「いやあ、佐藤さんじゃないですかぁ。どうしたんです? お一人? みなさんは?」
俺だって役者の端くれなのだ、これくらい出来ないワケはない…これも実践練習と思って……などと思いつつ精一杯笑顔で明るく答えてみた。我ながら、名演技だったと思うね。
「んー…まだ誰も来ないのよ。つまんねーから、そろそろ帰ろうかと思ってたんだけどさ。」
なんでとっとと帰ってくれなかったのよ…なんて密かな心の声とは裏腹に、俺は努めて笑顔。
「あー、そうだったんですかあ…」
………気まずい。
非常に、気まずい。重苦しい雰囲気に押し潰されてしまいそうだぞ俺…。頑張れ洋ちゃんっ!!
「……あのなぁ、大泉。」
「はい…?」
ヤツはキリっとした顔をこちらに向けながら、俺をちょいちょいっと手招きした。有無を言わせぬ雰囲気だ…。
「んな、入り口に突っ立ってないで、こっち来て。まあ座れよ。」
にっこり微笑まれてしまった……怖ぇよ。怖すぎる。何を考えてるんだ、この男は。
渋々隣に腰を下ろした。絨毯が敷いてあるわけでもない普通のピータイルの床は、ヒンヤリとしていた。隣の変な先輩と同じように、膝を抱えて体育座りしてみる。
「大泉は…48年生まれだよなあ?」
いきなりなんの話だよ? おいおい。だからどうしたってってんだ…俺の方が年上って事が気に入らねえとでも?
「で、二浪したんだっけ?」
おーよ、そうともよ!! 悪いか? このクソ優男め…。
「はあ……二浪しちゃってますが…何か?」
俺は思いっきり憮然とした顔で答えた。先程までの笑顔は一体どこへやらだ。
「あのねえ……俺も48年なのよ。生まれ。だからお前と同い年な。」
……へ?
「俺も一浪して入ったから、お前と同じなわけ。歳が。」
………あらぁ〜…? そうなの、同い年なの………で、それが何か???
「ああ、そーなんですか。そいつぁ知りませんでしたよ、佐藤さんが同い年だったなんて…」
何と返答して良いか解んなくて、もごもごしていると。
「でね、俺の基準ってね、生まれ年だから。俺には敬語とか使わなくて良いよ、大泉。」
「え? でも佐藤さん………一応、先輩後輩ってもんが…」
「ホラその佐藤さんは、やめれって。」
俺の顔見てけらけらと笑う。この人は俺のことキライじゃあなかったのか?
「はあ……では何と呼びましょうか……?」
「ふつーにシゲで良いよ。佐藤って呼び捨てでも良いしさ。」
シゲぇぇぇぇぇぇぇ???????
……取り乱してしまった。…こいつって……もしかして、めちゃめちゃイイヤツなんじゃなかろうか?なんだか、かなり吃驚しちまったよ。って言うか…その、結構感動してしまったね…俺…。
「いやあ…その、言いづらいですよお。今の今まで佐藤さんですからねえ。急に変えるのも…何かアレって言うか…。」
ちょっと口ごもりながらも俺の顔は自然に笑っていた。先程までの名演技など、微塵もない。
「ん? まあ何かさー、気楽にしてくれッて事よ。大泉…気ぃ張りっぱなしじゃ疲れんだろ?」
………うわぁ………
やべえ、なまら感動したわ。この人、ずっと俺を見てたんだぁ…。
と、感激ひとしおだった俺の横から、奇妙な音が響いてきた。
ぐぎゅうぅぅぅぅぅぅ…
間違いなく、それは空腹の合図。
「あの…腹減ってるの?そのぉ…佐……藤、くん。」
恐る恐る普通の言葉で話しかけて見た俺。隣では佐藤くんが、赤い顔をしていた。
「ま、ま、まぁな…。ちょっと、金欠で…………」
「もしかしてお昼、お食べになってないとか?」
「おう! お食べになってねえよ…」
俺は自分の鞄の中をごそごそと探ってみる。…ああ、あったあった。さっき購買で買ってきた俺のおやつ。
「食べます? お菓子。」
佐藤くんは俺の顔をじっと見つめて、綺麗な黒目がちの目をちょっと潤ませた。
「大泉〜…いいのか? いいのか本当に?」
「ポテトチップスだから腹持ちいいかどうか解らんけど。どうぞどうぞ♪」
缶入りのちょっと厚めにスライスされたポテトチップを、佐藤くんは嬉しそうにぱりぱりと食べた。そりゃあもう美味しそうに食べるんだ。この男。
成る程……以前、この男をみんなで甘やかしてやいないかと、俺は腹立たしく思っていたんだが、その気分もワカル。
こいつ、やけに子供じみてて可愛いんだなあ…。
ひとしきり食って満足した佐藤のシゲとかいう人は、非常に上機嫌だった。俺に物真似をせがみ、一々それに爆笑をかましてくれる。こうなると悪い気はしないもので、俺はリクエストされるまま、満足のいくべき物真似を次々と披露して、佐藤くんを楽しませた。
気付けばすっかり日は暮れかかり、部室には夕日が射し込んでいる。
「うーわー…大泉、お前やっぱり面白いわ! 久しぶりにこんな馬鹿笑いしちゃったよ俺。」
「そっスかー。いやあサトーくん、こんな馬鹿笑いかましてくれる人と思わなかったから、俺ビックリですわぁ…」
「なんでよ? 俺はそんなに笑わねえ?」
元先輩だった男はむうっとした顔で見てくるが、嫌みがない。
…そうか、こんな間近で話すとこのヒト、全然嫌じゃないんだねぇ…と、改めて思う。
「だってねえ。なんか俺はいい男ですーって顔して、つんっとしてたんですよー。佐藤さんは。」
「お! 当たってるぞ大泉ぃ!! 俺、いい男だもん。」
「勝手に言ってなさいよ…もう。僕、解っちゃいましたから! 佐藤重幸の正体☆」
「あーウルサイウルサイ! ほれ、帰るぞー大泉。」
すたすたと部室を出てゆく。慌てて後を追いかける俺。ほんの数時間前までだったら、死んでも考えられない光景だなぁ、これは…。
玄関を出たところでサトーくんがくるっと振り返った。
「俺、車だから送るわ。」
「ひえ?」
咄嗟に妙な言葉が口から飛び出した。
…送ってくれるぅ? うっわーーーーーー…凄い進歩じゃねえの?
「俺ん家、遠いですよー。ガソリン代払うほど俺、余裕ないですしねえ…」
いいっていいってと言いつつ、サトーくんはさっさと車を回してきた。このヒトも金欠って言ってたけど、そっか…意外とあったかくて律儀な性格なんだなー。
すげえ、新鮮だ。
俺達はこれがきっかけとなって、どんどん気持ちの距離を縮めていった。
元々、水と油みたいな性格同士なんだけど、そこが丁度いい突っ込み合いと言った様相で、うまく歯車が廻る。
かといって、突っ込んでばっかりか? って言うとこれが意外とそうでもなくて。
協調できる部分も結構多くって、お互い良い刺激になるんだよな。仲が良くなればなるほどに、ライバル心みたいなものがめらめらと俺達の間に沸き上がってきて、演劇面に於いても私生活に於いても、負けたくない! と自分を磨くことが出来る。
俺は俺でシゲの律儀さ、完璧主義的な真面目さを尊敬し、ヤツはヤツで俺のおおらかな部分や、もって生まれた才の部分を認めてる。今につながるもの凄くイイ関係を、この時期に構築していったことは確かだな、きっと。
それはまるで、奇跡のような俺達の時間。
何でか、部室で二人きりになることが多くて……思わず『こいつがオンナだったら絶対につき合っているぞ』って良く言い合っては笑ってた。実際、べたべたに仲良しさんだったからね。奇跡なんて言ったら、大袈裟だなんて言うヤツがいるかもしれない。
―――けど、これって、奇跡だよ。多分、いや、絶対。だって、どうしてあんなに多くの部員がいるのに、俺達だけ同じ時間で、二人きりで過ごしてるの? 当たり前のように、無人の部室で二人っきりって……不思議なんだよね。
そのうち、シゲは劇団に入って、本格的に舞台に立ち始めた。俺は俺で、深夜番組に出たりすることになって……気が付けば、北海道を代表するとか言われるまでの、見事なローカルタレントになってた。
お互い目指すものは同じだし、一緒に舞台をやっていく仲間達の一人として、身近な友人としての佐藤重幸から、共に舞台に立つ仕事仲間としても存在する、佐藤重幸。
俺の中で、シゲという人間が心を占める割合が、どんどん増してゆく。
どんな女とつき合っても、いつも頭の隅にヤツの影がちらつく。最初は、異様にモテるシゲに対するライバル心だとばっかり思っていたから、ちーーーとも、気にしてなかったのに。
ヤツの武勇伝を聞かされて、『ようし俺もー!』なんて奮起しているだけだと思ってたのに。
……気が付いたら、俺、シゲのことばっかり目で追ってる。
稽古中でも、飲み会でも、どんなときでも…俺ってば、シゲばっかり見てた。
――――もうねぇ、自分でもワケわかんないわけよ。
俺ってばどうしてこんなに佐藤のこと気にしちゃってるの?って、感じで。
たまにふざけてやっちゃう酒の席でのキスに、どうしてこんなにドキドキしちゃうんだろう…って。
ずっと何かがもやもやと溜まっているような気分だった。胸の底に。
それが、はっきり形を成してきたとき……俺は自分を否定したくなったね、正直。
――だって洒落になんねぇよ………シゲが、好きだなんて…………。
俺は気持ちを押さえ込もうと思ってた。
絶対に誰にもバレないように…気付かれないように。
好きだなんて、ホント、洒落になんねえって。
―――俺達は、これから舞台役者として夢を築こうとしてる。それはある意味とても恵まれていることで……この状況を覆す事は死んでも出来ないってのに。
………ああ、でも俺…いつまで我慢できるんだろ?すっげえ、心配だなあ………。
「シゲ! 来週お前んち、泊めて〜v」
俺は努めて普通に声を掛けた。この気持ちは悟られちゃいけないから。
「あ? 俺んちー? いいけど突然何だよ、いっつも勝手に押し掛けてくるじゃんか。」
そう言って煙草をふーっと吹いた。
ここは稽古場。稽古の合間の休憩で……でも俺だけ仕事で遅くなって、たった今到着したとこだ。
「いや、実家に泊めてくれー。俺、運転免許試験場に行かなきゃならんのよ。」
「……実家ぁ? てめー、俺の実家をホテル代わりに使おうって魂胆か!」
「おっ! 佐藤くん、言葉が悪いなあ。だってお前んち、ホントにあそこの裏じゃん。わざわざ朝早くに行くなら、近くにいたいってもんでしょー?」
シゲはまあなーとか何とか言いながら、渋々了解してくれた。
別に他意は全然、ない。今までだって何度も一人暮らししてるシゲのとこに遊びに行っちゃあ、泊まり込んでた。やばいなーって思うことも結構あったけど、そういう時はわざと女の話して。猥談で盛り上がって誤魔化した。
………ホントウハ、ダレヲダキタイノカ………
危険な思考に踏み入ってしまわないように、馬鹿話ばっかりして。シゲを笑わせて…。
だって俺、シゲの笑い顔、大好きだもん。あいつの顔が曇るのは嫌だ。嫌われるのも、悲しませるのも…二度と元の関係に戻れないのも、ごめんだ。
いつも爆笑させてやれればいい。それが、隣にいる俺の役目なんだなー、きっと。
仕事が終わってタクシーに乗り込む。一旦学校で待ち合わせして落ち合い、俺はシゲの車に乗せて貰った。
「いや〜あ、腹減ったわ。シゲ、飯食いに行くぞぉ!」
「んー、どこがいいのよ? この近くでお奨め、あんの?」
「美味いラーメン屋が近くにあるんですねえ、佐藤くんv」
俺は助手席でナビを務める。どこぞのディレクターには『地図も読めない馬鹿』だの何だの言われているが、市内だったらお手のものなわけよ。
余裕で誘導して、お目当てのラーメン屋へ。
「……………………」
「………おい………」
明かりの消えた入り口。勿論、暖簾だって下がっていやしない。
「調べとこうや…大泉ぃ…。」
あっという間に不機嫌な俺達。仕方がなく、車に乗り込む。こうなると是が非でも美味いラーメンが食いたくなるってもんだ!
しばらく走って、次の目当てのラーメン屋へ。
…良かった。ここは開いていた、と胸を撫で下ろしつつ店内へ入り、ラーメンと餃子を注文。
「さっきはなまら焦ったわ。お前が美味い美味いって何度もぬかしやがるから、俺ん中ですーーーーっかり! ラーメン食う準備万端だったってのによ。」
シゲがラーメンをすすりながら俺を睨み付けてくる。
「でも、ここのも美味しいでしょー?」
俺は餃子を口に放り込みながら、言い返した。睨んでる顔がえらい綺麗な男だなぁなんて、アヤシイ考え事しながら。
美味しいラーメンでご機嫌になったシゲは、俺に奢れと言い放って店をすたすた出て行った。
…くそう、今日は立場が弱い。
通された部屋は、1人暮らしを始める前までシゲが使っていたせいか、ほのかなシゲの匂いがした。
風呂を借りてさっぱりした後、俺達は少しのビールとワンカップでちびちびやりながら、馬鹿話やエロ話で非常に盛り上がっている。たまに笑いすぎて、シゲの親に怒られるかと思ったが、何も言われなかった。
「もう寝ちゃってるよ。朝までは起きてこねえだろーな。」
何気なく言ったシゲの一言で、俺は一瞬よからぬ事を考えたが、自制する。まー、当然だな。
でも、目の前で無防備な顔して笑われると、ドキッとするんだよ……困ったことに、シゲって俺の理想なわけで。男としてもこうありたいと思えるようなヤツだからね。女にはもてる、仕事はきっちりこなす。でもって変なとこ、くっそ真面目で。
……じゃ、オンナとしては……
――――ヤバイヤバイ。危険な思考だぞこれ。酒が入ってるからか〜?
シゲを女代わりにしたいんじゃない。
ただ……ただ…………。
そこまで考えて、俺は溜息をひとつ煙草の煙と一緒に吐き出した。目の前のシゲはうーんと、のびをしている。
「寝るか…」
「…そだな。」
頭をぶるぶると振って、左手で自分の頬をぴしゃりと一発。このままだと俺、何しですか解らん。
洗面所で顔をざぶざぶ洗ってみる。
むむーぅ…少し頭、冷えたか?
しばらく鏡の中の洋ちゃんと睨めっこしてから、歯をガシガシ磨いた。血ぃでも出るんじゃねえかって勢いで…何やってんだろーね? 俺ってば。さっきから動揺しっぱなしだべや…。
部屋に戻るとシゲが布団を敷いてくれてた。当然だけどヤツのベッドの下に。
「おう、悪いねぇシゲ。布団までひかせちゃってー。」
そんなことを言いながら、もそもそとヤツのベッドに潜り込もうとして、ケツに蹴りを食らう。
「って言いながらお前は!! 俺のベッドに入るな!」
お約束のボケをかました俺を、シゲはけらけら笑いながらひっ掴んで追い出した。
ケツをさすりながら布団の上に胡座をかくと、シゲが目の前でパジャマを脱ぎだして、なまら慌てる。
「なっ…何、脱いでんのよお前。」
「えー? ああ、だってやっぱ寝るときはTシャツにパンツの方が、楽じゃねーの。」
そりゃその通りだ。俺だって今日は同じ格好で寝るさ。でも、わざわざ脱ぐ必要はないんじゃないのか? ……それとも何か? 俺の考え過ぎか???
―――明らかに、考え過ぎか―――
軽く自己嫌悪に陥りながら、シゲの手によってぽいっと放り投げられたパジャマの下が落下するのを見ていた……。ああ、俺って、マジでおかしいかも………。
シャツの上からでも分かる綺麗な身体のラインや、トランクスから無防備に出された細い脚にドキドキしてやがんだよ――最悪。
あの身体にのしかかれたら、どんな気分かな……なんて、ついつい考えたりしてる。
シゲが前髪を両手で掻き上げてそのまま、またのびをしてる。うわ、す〜げぇ可愛い……。睫毛なんかバチっとして、触ってみてぇくらいだ。鼻筋も通ってて…なまら綺麗な顔だよ。こいつ……。
……はッ!! やべ〜って! なんか段々…制御しきれなくなってきてねぇか? 俺!! 洒落になんねーべや………………。
「…何、ぼーっとしてんのよ。具合でも悪いの?」
ベッドの上からぽんと俺の頭を軽く叩いてきた。俺が何考えてるかなんて知る由もない、幸せな男が。
「ああん? なんでもねーよ、気安く触んなぁ…」
ドキドキするから慌てて手を退かそうとしたが、シゲはわざと俺の癖毛な髪をくしゃくしゃと掻いてきた。
「やーめれって! お前〜ぇ…」
「ぼーっとしてるお前が悪い!」
散々髪をぐちゃぐちゃにして満足したシゲは、俺を見下ろしながらけらけらと笑っていた。
「ほれ、電気消すぞ〜。」
シゲがベッドからひょいっと飛び降りて、壁のスイッチを触る。ふっと暗闇が襲いかかってくるようだ。
ごそごそと布団に潜り込む………漆黒の闇だった部屋の中は、目が慣れたせいで部屋の中がうっすらと見えるようになってきた。カーテンがちゃんと閉まっていなかったせいで、差し込む月明かりが部屋を照らし出してるからだ。
横を見るとシゲがいる。……手を伸ばせば―――届く位置。
…抑え込んでいた感情が、ふつふつと沸き上がってくる。やばい……これは相当、やばい!!
「……シゲぇ………」
俺は自分で制御が利かないまま、突然喋りだした。
「お前のベッドに行っても…いい?」
何を言ってるんだ、俺ッ?? ちょっと待て、俺ーーーーーーッ!!!
意表をついて、突然けたたましい笑い声が頭の上から降ってきた。
「何だよお前ぇ…やめろよバーカ。寝る前にホモの真似なんかしてんじゃねえよー。」
げらげら…げらげら…。笑ってる。
おい、ちょっと待てコラ!
「笑うな!」
「だって……だって、お前…今の、すげえ名演技なんだもん!」
まだ笑ってる。
……かーっと血が頭に上るのが解った。
「お前ッ……!!」
反射的に身体が飛び出していた。気が付けば、俺はシゲのベッドの上に片脚をかけて、のしかからんばかりの体勢でいる。
「なっ……何よ、大泉……お前が悪いんじゃねえか!」
薄い闇の中でシゲは黒目がちな目をきょろきょろさせて、驚いてた。当たり前だ。
俺は無我夢中で、ヤツの布団を剥ぎ取る。
「なにしやが…っ……」
言葉の途中で、唇を強引に自分の唇で塞いでる自分がいた。もう、いつもの俺じゃない。
――――我慢できる、俺じゃない……。
咄嗟の事に身動きできずにいたシゲの唇を、強引に貪った。肩口を押さえつけて、無理矢理何度も口付ける中、身体の下では、シゲの両手が胸元をどんどんとすげえ力で叩いてる。それでも、離さない。絶対に離してやらない。
やっと唇を離すと、シゲは相当息苦しかったらしく、ぐったりとしていた。
「………おま……何の、つもりよ………冗談にしちゃ、度が過ぎてんぞ………」
目をうっすら潤ませて、手の甲で口を拭った仕草がやけに扇情的で…俺は、本格的にシゲの上に馬乗りになっていた。
「悪ぃ……もう俺、我慢出来ねぇわ……」
それだけ言って俺はシゲに抱きついた。ずっと前から、もう何年も前から、俺はこうしてこいつを抱き締めたかったんだよな……抱きついて、キスして……ずっと妄想の中で、いやらしいシゲの姿、想像してた。
逃げられないようにがっちりと上から抱え込んで、しばらくぎゅうっと抱き締める。
身体をピッタリと密着させちまったから、俺の下半身の昂ぶりもバレてるな……多分。
「ち…ちょ……っ……待てオマエ…ッ……」
身を捩ろうとするが、動きの取れないシゲは苦しげに呟く。
「シゲ……好きなんだよ……お前が。」
耳元で囁いた。うわ…こんなの、自分じゃねえみてえだ…。
「好き…? ……って、お前……何言ってんだよ…ぉ……」
「仕方ねえだろ……俺だって……自分でビックリなんだから。」
俺はそう言うのが精一杯で…シゲの綺麗な首筋に顔を埋める。
「……なあ、離せよ。俺、逃げねーからさ。」
その言葉に、ほんの少し俺は我に返った。そっと力を緩めて身体を浮かすと、シゲは思いがけず腕を俺の首にするりと廻してくる。
「お前…どうしちゃったのよ……何をそんなに………」
俺の後頭部をぽんぽんと手で叩きながら、宥めるように言ってくるシゲは、やっぱりどことなく先輩っぽかった。
「俺だってわかんねーよ。ただ…シゲが好きだなあって思ったら、いてもたってもいられねえっつーか……。」
「……そっか。」
あっけなくシゲは答えた。こいつ、意味ちゃんと解ってんのか?
「大泉ねぇ……俺もよく解らないわけよ。気持ちが……。でもさー、こういうのってやっぱ…気の迷いっつーか、勘違いだと俺は思うわけ。だって俺だってお前だってちゃんと、女が大好きでしょ?」
シゲは俺の頭を撫でながら、言い聞かせるように一言一言、語りかけてくる。
言ってることはよく解るし、否めないけど…でも、俺はやっぱり勘違いだとは思わないんだよな……シゲ。
「違うんだって、シゲ。……そんなんじゃねえんだって!」
もう一度、唇を重ねた。今度は最高にいやらしい、ねっとりとした口付けを繰り返してやる。
シゲは突然のことに、俺の肩を両手で掴んで逃れようと身体を捩った。でも、逃さない。
俺の中でケモノの感覚が這いずり回る。あれだけ絶対に泣かせたくない、嫌われたくないと思っていた気持ちとは全く逆の、いやらしいことをされて泣く様が見たくて。恥辱に震える切なげな顔が見たくて…。
「やめ…っ……やめろって…ぇ…」
シゲが哀願にも似た表情をして、俺の下で叫ぶ。
「やめない。」
一言、言い放って俺は、首筋に舌を這わせ始めた。俺の頭の上で、小さな悲鳴が上がる。
暴れる身体に手を廻し、がっちりと抱き締めて舌と唇で刺激を与えると、敏感なシゲの身体がびくっと跳ねる。
少しの隙をついて逃げようと暴れるシゲに業を煮やし、咄嗟に頭の上で手首を交差させるような形で軽く縛り上げた。その辺にあったシゲのパジャマの袖を使って。こうすれば片手で楽に動きを封じることが出来る
「オマエ!! 何しやがんだよッ!! ……これじゃ……っ……」
睫毛を震わせてシゲは叫ぶ。泣きそうな顔が俺を煽るのも知らずに。
「これじゃ……強姦っぽいって? でも、そうだもん……」
俺は自分でも信じられないことをさらりと言ってのけた。獣性が解放されているせいかもね…。
「…やめ…れぇっ……お願いだから……ぁ…ッ…」
そんな哀願も色っぽくていいなあ。そんなことを考えながらシャツの裾を捲って、胸元の突起をさらけ出してやった。そうっと、指の腹で触ってみる。
「……!……」
ビクッと身体を震わせる。へえ…やっぱ男でも感じちゃうもんなんだね……。
指先で優しく捏ねてやると、それは次第に赤く、堅くなってくる。思わず舐めたい衝動に駆られて、唇を押し当てた。
「ば…か…ッ…ホントにやめれっ…てば…!」
甘い声が聞こえる。こんなに艶やかなシゲの声、そそられるわ――――。
ついばんで、舌でころがして。いやらしい音をたてながら、丹念にそれを味わった。明らかに女のそれとは違って、堅くて小さめの輪郭。……でも、極上。
途切れ途切れに喘ぐ声が上から聞こえる。必死で声を殺そうとして、身体を震わせ耐えるお前のこんな姿――――見たかったんだ俺、ずっと。
「……も…やめ……ッ…」
言葉もろくに紡ぎ出せないんだな…感じ過ぎて。そんなシゲも、可愛いよ……もっと、お前…乱してやりたい……。
トランクスの隙間からするりと手を忍ばせて…やんわり触れてみる。
「シゲの……触っちゃった。」
シゲは必死で逃れようと暴れる。でも、お前の身体……正直だなー…。こんなに硬くなって、しかも……濡れてるべや………。
「さわ……さわん…なッ……頼む…っ………」
「痛くしねえって…」
先走りの液体をねっとり指に絡ませながら、緩く擦ってみる。
「おお…いずみ……ぃ……」
「泣きそうな声だな、シゲ。色っぽいじゃねーの…」
シゲは顔を真っ赤にして、目をぎゅうって閉じてる。横に背けて、少しでも顔を見られたくないって感じで。
――――舐めたいな。
……そんな欲求がふつふつと沸いてきた。でも、体勢変えるとシゲが暴れるし………………ええい! ままよ!!
今まで上から覆い被さって身体の動きを封じてきたのだが、思い切って下にずり下がった。俺の抑圧から逃れたシゲの身体が思ったとおり暴れようとしていたが、俺はそれを上手く逆手にとって、シゲの両脚をがっちり掴んだ。
大成功!!
膝を立てて、まるでMの字みたいな格好になった脚をきっちり抱え込んでから、トランクスを少し引きずり降ろして……ちゅっと口付けた。まずはご挨拶程度に。
「…勘弁……してよ……頼む…ってば………」
腰を捩って逃れようとしながら、シゲが泣きつく。
お構いなしにそっと指先を添えて、涙を流してるみたいな先端に舌を這わせた。
…体液は、味も涙みたいで……俺はそれを舌先で丁寧にすくって味わってから、先端を吸った。
「や………ぁ……ッ……」
シゲは下からも上からも綺麗な涙を零してた。多分自分ではどうしようもないくらい感じちゃってて、眦に涙を浮かべてる。そんな泣き顔が……すげえ、綺麗。
さっき縛り上げたシゲの手は、俺の手の拘束から解かれて腹の上にのせられていた。何とかパジャマの拘束を取ろうと必死で頑張ってるよ、シゲちゃんてばv
「……ゴメンゴメン。今、取ってやるよーシゲ。ゴメンな、痛かった?」
一旦愛撫はお預け。するするっと縛っていたのを解いて、薄赤くなってるとこに唇を押し当てた。
「暴れるから、赤くなっちゃったぞぉ。」
「…………じゃ、んなこと…やめてくれ。」
力なく呟いた声も、愛しい。
「いやです。」
俺はまた愛撫に戻るべく、ねっとりと舌をシゲ自身に絡ませた。
「だから…っ……ヤダって…ぇ……」
頸木を解かれていた手が、必死で俺を退かそうと絡み付いてくるが、あまり力が入らないらしい。
俺がほんの少し舐めたり口付けたりするだけで、シゲの中心にあるモノは益々、密を垂らして俺を誘う。やんわり握ってちょっと擦るだけで、すぐにイきそうになってる。
……お前、感じやさんだもんな…。
あんまりいたぶるのも可哀相なので、持続的に擦ってやったら…見事に俺の手の中でイっちゃった。ああ、可愛いなあ……俺がイかせちゃったんだぞ〜v って、実感。
俺は手の中の液体を拭かずに、自分の舌で舐め取った。シゲ自身に付いたのも、綺麗に舐めてやる。
「も……やだ……やだよ……」
泣き声になってるシゲの哀願。そそるね。
「シゲー…大好き。なんでか、お前のこと…大好きなんだなあ……」
俺はちょっと笑いながら言って。でもこの後も容赦する気は全然ないわけ。体を起こして立ち膝になったら、ぐったりしてるシゲの下半身をひょいっと持ち上げて、ベッドの上に高く掲げた。当然、これで解放されるんだと信じてたシゲは、悲鳴みたいな声をあげる。
「あんまり叫ぶと……お前の親、起きてきちゃうぞ。」
ベッドの上で下半身を高々と持ち上げられてる姿を自分で見て、シゲは絶句した。口だけぱくぱくさせてる。この格好だと、どうやったって逃げられない上に俺には好都合だって……お前だって解るよね? いっつも女にやってることだろ?
ぴちゃ…と、舌を這わせたのは、シゲの一番奥まった部分。その途端に、シゲがばたばたと足を動かすけど、抱えられてるから空中をぶらぶらしてるだけで、抵抗にも何にもなりゃあしない。
「やだ!大泉!!ホントに…やだって…ッ……」
嫌なのは知ってるって。でも、俺……お前と繋がりてえんだよね……ゴメンな、シゲ。なるべく痛くしないようにするから………。
ぴちゃぴちゃと唾液で潤して、徐々に舌を差し込む。シゲは身体をびくびく小刻みに震わせて、それでも声をあげないように耐えてた。両手で必死にシーツを掴んでる。
そっと下半身を下に降ろしてやった。あんまりやると、頭に血が上っちゃうもんな…。でも、これで解放じゃないってのは…もう解るよな?シ・ゲv
人差し指にたっぷり唾液を絡ませて、そーっと入り口に挿れてみた。
「うわ……ああ…ッ………」
弾かれたみたいに背を反らせてる。でも、肩の上に両脚をのっけてがっちり固めちゃったから、動けないでしょう。
ほんの少し入れては出す。ゆっくりそれを繰り返してるうちに、徐々に俺の指はシゲの中に呑み込まれていった。
「や……怖い! …助けてよ…大泉ぃ………」
「大丈夫だって……ちょっとずつしか入れてねえから。ほら、あんまり痛くないだろ?」
「だって、何か……入ってくる……ッて! ……やだぁ……!」
あ、泣いちゃった。かーわいーなー……
指に慣れてきたら、今度はもう一本足してチャレンジする俺。ゆるゆると動かして出し入れできるようになったら、更にもう一本。
結局、三本の指で中からシゲを蕩かそうと、努力を続けた。幸い、まだ痛がってはいないみたいだから…何とかなるかも。
指先で内壁を柔らかく擦って、シゲのいい場所を探し始めてみた。シゲは腰を捩って逃げようとするけど、もうあんまり力は残ってないみたいだね。
「……ッ!……」
それは突然だった。その部分ををそっと擦った途端に、シゲの身体は硬直し、喘ぎ声のようなものを口から漏らした。
「や……あ…あッ……ぁ……はぁ……ん………」
シーツをきゅっと握って、耐えようとしてるのに…我慢できなくて目に涙をいっぱい溜めてる。いやらしいなあ……シゲ。妄想の中のお前より、ずっと艶っぽいわ…。
「ココ……いいんだな。」
ほんのちょっとそこを弄くるだけで、シゲは髪を振り乱して…啼いた。なまら、妖しく…色っぽく。
「やめて…やめてぇ……ッ……おおいず…み…ッ……」
「イっちゃっても、いいよ。シゲ……」
「ヤダ………やだよ…ぉ……」
ああもう。可愛いよお前。俺、今…最高に幸せかも。
硬度を取り戻して反り返っちゃってたシゲ自身を、ぱくっと口に啣え込んで舌先でちろちろと舐めてやると、頭の上でかすれた悲鳴が上がった。
びくんと大きく体が跳ねて、とろりとしたシゲの液体が吐き出された。全部飲み下したい衝動に駆られたけど、途中で口を離して手のひらでそれを受ける。
シゲの中から指をずるりと引き抜くと、また小さい悲鳴が上がる。シゲ……もう少ししたらこんなもんじゃ済まないんだぞ?お前……。
引き抜いた指先にシゲの液体を絡み付けて、中に戻す。潤滑剤代わりに使おうって魂胆。シゲの中は大分慣れてきて、案外容易に受け入れてくれた。まー、時間かけたしな。
全部塗りつけたら、いよいよ本番だね。俺のモノがさっきからいきり勃って、正直すげえ辛い。シゲの中に入りたくても、ずーっと耐えてたんだから当然か……。
とっととシャツとパンツを脱ぎ捨てて、俺はシゲの最奥にそっと自分のモノを宛う。先走りの液を塗りつけるようにしてから、ちょっとだけ先端を押し入れてみた。
「痛い! ……痛いって…ぇッ!……」
ほんのちょっと前まで放心状態で虚ろだったシゲが、悲鳴を上げた。
「悪ぃ……ちょっと我慢しろって…」
じっとして、少し慣れるのを待ちたかったのに、シゲは俺の手首にぎりぎりとと爪を立てて抗う。
―――――これが、なまら痛いんだ。あ、でもシゲの方が痛いよな。
華奢な腰をしっかり持って、一回腰を引いてからもう一度……。シゲはまた悲鳴を上げた。
「…助けて……お願いだから…ぁ………」
お願いされたって、やめてなんかやらねえっつの。
何度か同じことを繰り返す度に、俺のモノはシゲの中に少しずつ呑み込まれていく。
「…解るか? ……結構、入ったぞ。」
「……怖ぇんだってば…ぁ…すげえ…気持ち悪ぃ………」
固く閉じた目から、涙がぽろっとこぼれ落ちてた。
「シゲの泣き顔って…そそられちゃうねえ。」
「見るな…バカ…ッ!!」
慌てて両手の甲で顔を覆い隠してる。……遅ぇぞ、シゲ。さっきからたっぷり堪能しちゃったよ、俺。
そんな事してるうちに、俺の雄はじわじわとシゲの内部に食い込んでいって、根本まですっかり収まる。シゲの中はあったかくて、狭くて、それだけで身震いするほど気持ちがいい。
「シゲぇ…目ぇ開けてみれよ。」
「…やだ。」
相変わらず顔を隠したまま、顔を背けた。……この意地っ張り野郎。
ぐいっと突き上げる。途端に悲鳴。どちらの刺激も、今の俺には最高の快感。
何度も何度もゆっくり突き上げた。悲鳴は徐々にかすれて喘ぎ声みたいに変わってきてる。…もしかして、ちょっとは気持ち、イイのか?
「お前の顔、見せて…。」
繋がったまま覆い被さって、隠していた手を取る。そのまま半分無理矢理、指を絡めて。唇にバードキス。
ゆっくりだったのを少し早めながら、首筋に、耳たぶに、瞼に口付けの雨。それだけで。シゲの口から、小さな喘ぎ声が漏れる。意地っ張りだから、声も出さないようにしてやがるんだな…。
月明かりの中で見るシゲの顔は、いつもと同じく整った顔。なのに…めちゃくちゃいやらしい雰囲気で。時折、眦に浮かぶ涙が彩りを添える。
「…いやらしいねー。お前……」
つい、そんな言葉が口から出ちゃった。だって男に犯されてるっつーのに、その顔があんまり綺麗すぎて。
「……ざけ……んな……ッ…」
必死に絞り出した声が可愛い。……でも、めちゃめちゃにしてやりたい。
勿体ないけど、一旦俺のモノをシゲの中から引き出した。
「ひ……っ……ぁ………」
ずるりと引き出される感覚に呻いたシゲを俯せにして、腰だけ上げさせた。その上に覆い被さって、今度は後ろから突き上げる。
「…も……やだ………ぁ……」
シゲの甘い泣き声に煽られながら、腰を使った。今度は少し激しく。俺の息づかいも荒くなってゆく。
「おおいず……や…ッ……ぁあ……ッ…ん……」
言葉にならないシゲの喘ぎ声で、シゲの感じちゃう場所が解っちゃった。
俺はそこを集中的に攻めた。シゲは切なく啼き続けている。痛みと快楽に苛まれて、蕩けているように見えるのは、気のせいなのかな。
そっと前に手を伸ばしてシゲのモノを握り込む。あらぁ…もう、暴発しそうな勢いだ。
「いや…ッ……ヤダ…ぁ…死んじゃう……ッてぇ………」
「…いいよ。一緒に、死んじまおうぜー………なぁ、シゲぇ…」
そう言った後、俺はうっという呻き声を思わず漏らした。
みっともないことに一瞬、俺が先にイってしまった…。そのほんの少し後に、シゲがイっちまったけどな………。
腕の中で放心してるシゲを、ただぎゅっと抱き締めていた。
体液で汚れたとこを丁寧に拭き取ってやって、しばらく経ってもシゲは虚ろな目でぐったりしてる。
段々正気に返ってきた俺は、取り返しの付かないことをしたと、青ざめながら…シゲを抱き締めることしか出来なかった。
「…ゴメンな……シゲぇ…」
何度目かの呟きの後、シゲがぼそりと答えてきた。
「お前はこれで……満足なの…?」
「………」
抑揚のない声。途端に罪悪感に苛まれて………俺はまともに顔を見れず、シゲの胸元に顔を埋めた。
「大泉…ぃ…」
次々と罪悪感が俺を責め苛む。俺……シゲになまら酷いことしてた………。その思いで、心臓の動悸が一気に上がるのが感じられた。
「………もう、怒ってないよ…俺。」
―――へ?
シゲはふーっと息を吐き出してから、ぎゅっと抱きついてきて、あやすみたいに俺の頭を撫でてきた。あれー? そういえば、さっきもこんなことされてなかったか? 俺。
「……お前の気持ちは……解ったよ。」
「シゲ………?」
優しく撫でられながら、俺はどきどきしてる。シゲは一体、何が言いたいの?
「…俺もさ。お前の存在って、結構解らなかったのよ……。」
シゲはちょっと言葉を区切ってから、また言葉を続けた。
「正直…まだ解らねーけど。多分、嫌いにはなれねえと思う……」
「って何? シゲも俺のこと、好きって事かい……?」
俺は顔を上げ、なまら心臓をばくばくさせながら、期待いっぱいで訪ねた。
「……それは解らねえんだって。さっきあんな無理矢理、強姦されちまったのに……それでも、お前のこと嫌いになれんのだわ…俺…………」
複雑な顔をして、またふうっと溜息をついていた。なんつーか、その……俺も複雑な気分だ…。
「…きっとさ……やっぱり大泉も俺も、何か勘違いしてんだと思うよー………でも、んー…何て言ったらいいのかなぁ………」
シゲは柔らかく俺の髪を掴んだ。答えと言葉を探しあぐねている。
「……なーシゲ………無理に答え出さなくてもさー、いいんじゃない?俺達。」
「え?」
俺はシゲの耳元で呟いた。
「だって…俺はお前のこと好きだもんね。で、お前は良く解らんのでしょう? ……じゃー、いいじゃない。」
「いいじゃないって……んー……………、んんー…………――――――――」
シゲは困った顔をしてうなっていた。そうだよなぁ…。でも、俺は凄くホッとしたわ。お前に嫌われなくて。本当に良かった……。
「シゲちゃん……大好きッ!!」
俺は思いっきり抱き締めて、唇を突きだした。キッスしてくれるかと思ってv
べしっ!
「いい加減にしろ、大泉。」
シゲは冷静に唇をひっぱたいてきやがった。
「言っとくけどなー、少しでも他人の前で変な素振り見せやがったら、その時は殺すからな!」
「……へいへい。」
「それと!!」
「何ですか、まだあるのぉ?」
「俺を束縛しようなんて考えるなよ! いーなっ!!」
それだけ言うと、シゲは俺の腕の中で背中を向けてしまう。我が儘で意地っ張りなヤツだなあ。
「でもシゲちゃん大好き〜♪」
俺はシゲの背中を抱き締めて寝ることにした。シゲのベッドは成人男性二人にはかなり狭いけど、くっついていれば、まー平気だ。
素肌がすべすべして温かくって、もう一度何かしたい欲望で、ほんの少し俺はむらむらきてたけど…流石に最初から何度もいたしてしまうのは、シゲが可哀相だし………幸い、次って機会があることも確信できたわけで。俺はおとなしく眠ることに決めた。
――――で、翌朝。
俺はばっちり寝過ごして………結局ここまで、シゲを犯しに来ただけの、不届き者となったのだった―――――――。
BGMはエンドレスで face to ace/RAIN
さびの最後の言葉が、大好きv
何となく、この話の洋ちゃんの心境と重なりそうで…