「Z」
〜殺戮の天使〜




「Z……総帥がお召しです。いつものお部屋でお待ちになられています。」
マネージャーのMR.×が入ってきた途端、扉の前で恭しく頭を下げた。
「………今、行きます。そう、総帥にお伝えを………」
俺はいつものように返事をし、×もいつものようにこの部屋を出ていく。
×は幼かったこの俺をこの組織にスカウトした男だ。いわば今のこの俺の状況を作り出した張本人である。
あれから一体どの位の時が流れたのか――もう正確には覚えていない。
俺は………いや、俺達は皆、世界一強い男になるためにこの組織へと身を投じたのだから。
あの時一緒だった仲間達はこの組織から逃げ出し、互いに最も強い男を目指して争うことになったという。
そしてこの俺は―――組織に残り、他の追随を許すことのない最強の男となったこの俺は、今では組織を裏切った者達を闇へと葬り去る最強の刺客として、我が総帥の為に生きている。

そう、全ては総帥のために。

俺にはケンやタクマのように残された家族も無い。
たった一人で俺を育ててくれていた父は、炭坑の事故で死んだ。
だから誰かを守るために強くなろうと誓ったのではなかった。ただ、自分の為に。
生きるために強くなったに過ぎない。
だが、いつからだろうか………俺をここまで育てあげてくれた総帥の為にもっと強くなりたいと願うようになったのは。
 ケンやタクマが×に連れてこられてチョビ髭教官の元で切磋琢磨していた頃、俺だけはたった一人で総帥に教えを受け育てあげられた。
かつて最強の男と称えられた総帥の全ての思いを受け、俺は今日まで生きている。


 御祓を終え白いガウンを身に着けた俺は、組織内の一部の者しか知らない秘密の通路を静かに歩いていく。
通路の壁には作りつけの燭台の上の蝋燭の灯りが幾つもゆらゆらと揺れ、その炎が俺の姿をも幾つも壁に映しだしていた。
豪奢な絨毯が敷き詰められた長い路の一番奥まった場所に、総帥の私室が設えられている。
大きな扉の前に立つと、真鍮制の重々しいドア・ノッカーをきっかり三回叩き、中に入る。
これもいつもの決まりだ。
総帥は何十にも厚く掛けられたカーテンで締め切られ、豪華な装飾で飾り立てられた暗い部屋の真ん中に置かれたお気に入りの大きな椅子に腰を掛け、此方を笑いながら見ていた。
「Zよ……遅かったではないか。私を待たせるとは………いい度胸だ。」
口許にのみ笑みを浮かべてそう言うと、総帥は手招きする。
俺はその足元にひれ伏し、そっとその手に唇を押し当てた。
「は………申し訳御座いません。総帥をお待たせするつもりなどは……」
それだけを言い、後は押し黙った。
「よい。それよりも早くお前の美しい肉体を私に見せておくれ……私が育てた芸術品を。」
俺は軽く頷くと、その場に音もなく立ち上がり部屋の奥へと歩を進めた。
部屋の奥には天蓋から豪奢なカーテンを吊した大きな寝台がある。
やはり部屋のあちこちに置かれた燭台ほのかな灯りに照らされたそれは、得体の知れない生き物の腹の中を思わせた。
ぽっかりと開いた穴ぐらのような寝台の上にる促されるままに座ると、総帥がゆっくり椅子から立ち上がった。
過去の戦いのせいで自由の利かなくなった左脚を引きずりながらゆっくり此方に近付いてきて、倒れ込むように寝台へと腰を掛けた。
「……大丈夫ですか? どこか傷めたところなどは……?」
思わず口をついて出た言葉を遮るように総帥の革手袋の指先が伸びてきて、俺の唇を人差し指を立てるようにして塞いだ。
「…………ああ、大丈夫だ。」
ゆっくりとそれだけ言うと革手袋の指先はするすると肩口に伸ばされ、ガウンの襟元を掴むとやや強引に前をはだけさせられた。
そのまま結んでいた腰ひもにも伸びてきて程なく結び目を解かれ、着ていたガウンは音もなく寝台の上に滑り落とされる。
「おお…………相も変わらず美しい。お前は私の最高傑作だよ、シゲユキ。いや……Z。もっと良く私に見せておくれ……」
促されるまま総帥の前に立つ。
ガウンの下に身に着けていたもの――――チタン製の貞操帯がよく見えるように……。
古代ローマの闘士が身に纏っていたようなこの貞操帯は、先日のお召しの時に総帥御自ら俺に着けて下さったものだ。
貞操帯はペニスを根本から納めてしまうと動かすことは出来ない。
先端や所々透き間が空いているので、日常生活等に不便はない。むしろ戦いの時には身を守る役にも立つ。
そう言って総帥は嬉しそうに一つ一つ装着していった。
勿論それが、俺に不用意な性衝動による勃起をさせないためだとは、重々解っているつもりだ。腰には鎖が巻かれて繋がっており、更には両の太股にもチタンのベルトがはめられている。
そして要所に鍵を掛けられていた。
「お褒め頂き………恐縮です……総帥。私は貴方の手足となるようこの身の全てを捧げ、またいつまでも貴方の最高傑作でいたいと、それだけを願い日々鍛練しております。」
サングラスの奥に見え隠れする総帥の熱い眼差しを見据えながらそう呟くと、総帥は口許に笑みを浮かべていた。
「お前は本当に可愛い奴だ。さあ、おいで………その引き締まった美しい体を私に捧げておくれ。」
革の指先が脇腹にそっと触れたかと思うと、筋肉をなぞるように撫で上げた。ぞくぞくっとした甘い痺れが体を突き抜けていく。
何度か脇腹をさすられて耐えきれずに、腰を掛けている総帥の首もとに腕をまわして縋り付いた。
指先は脇腹をゆっくり降りると今度は俺の臀部に這っていく。その動きはまるで得体の知れない毒蜘蛛のようなゆっくりとした動きだった。
尻を撫でさすられ、思わず身を震わせてしまう。これからこの身に起こる快楽を想像しただけで、体が疼き始める。
と、同時に下半身に鈍い痛みが走った。
貞操帯の中で抑え付けられた俺の自身が余裕の無くなってきた空間の中で、それでも自己主張をしたいと喘いでいた。
「ふふ……どうした? Zよ。お前ほどの男がこれしきのことで………」
そんな事を言いながら総帥は既に固く立ち上がってきている俺の胸の突起に舌を這わせてくる。
痛いようなむず痒いような焦れったい疼きを見透かしてか、ほんの僅かな舌先の動きが俺を翻弄する。
「………ん……っ…………」
耐えきれずに声を漏らしたことを恥じながら、俺は唇を噛みしめた。
「………我慢せずともよい、辛かったら啼けばいい。」
そう言って乳首に歯を立ててくる。
「ひ…‥‥あ…っ……………」
頭の奥が麻痺してしまうような甘美な痛みに、思わず声をあげた。
「そうだ……Zよ。お前は俺のものだ。お前を泣かすのも、苦しめるのも、全てこの私の手の中にあるのだ。」
もはや総帥の表情を伺うことは出来ないが、多分いつものように口許に酷薄な薄笑いを浮かべて居られるのだろう。

そう、このお方が俺を欲しがるのは―――――決して温かな情からではない。

幼い頃から手塩に掛けて育ててきた俺が最強の男となり、意に染まぬ者達を自分の替わりに闇に屠る様を喜んでいらっしゃるだけだ。
かつて最強と謳われたご自分と重ね合わせて……………

このお方が俺などにその寵愛を注いで下さるようになったのは、あれは俺が最初に組織のトーナメントで頂点を極めた夜だった。
傷だらけの俺を抱き締め、血と汗に塗れたこの体を愛撫して下さり、その全ての熱情を傾けて下さった。
あの時から俺は、この身の全てを総帥のために捧げる、捧げられると確信した。

―――例えそれが本当の寵愛などではなく、偽りの愛だとしても―――――。



 胸元を唇でさんざん舐られ、貞操帯の下の自身がはち切れんばかりに充血していた。
下半身を容赦なく痛みが襲う。
「……そ………うす…い……ッ…………」
総帥の背に爪を立てて縋り付き、着ているお召し物を掻き乱しながら必死に訴えかけるが、一向に腰の鍵は外して貰えない。
それどころか再び寝台の上に戻され、俯せにさせられた。
シルクのシーツの上に顔を伏せたまま腰だけを上に上げ、尻を総帥の顔の前に突き出した。
総帥は革の手袋で再びゆっくりと撫でさすり、その度に俺は脂汗を流して身を震わせている。
「なんと美しい眺めだ………」
うっとりとした口調でそれだけ言うと、双丘を両手でこじ開けて奥まった場所に舌を這わせてくる。
襞の一つ一つを丁寧に舐め上げ、または固く窄めた舌先が入り口の辺りを執拗に出入りする。
その度に唾液が内股を音もなく伝って落ちていった。
「……ぅ……っ………あ…ん…………」
あまりの快楽に、俺は止めどなく声を漏らした。総帥のあの酷薄な唇や舌先が俺の全てを愛して下さっていると思うだけで、身が震えるような羞恥と共に例えようもない喜悦に襲われてしまう。
「総帥………そう…すい…ッ…………」
シーツを掻きむしりながらただその名を呼ぶ。
愛しいお方のその全てをこの身に欲して――――。

「――――欲しいか、Zよ。この私が。」
総帥はいつもの何かを面白がっているかのような口調で、淡々とそう尋ねた。
俺は言葉にすることすら出来ず、ただ何度もシーツに顔を押し付けた。
「……では顔を上げなさい。」
背後で布ののこすれるような音がした。おそらくは総帥が口で革手袋を剥ぎ取った音だと思われる。
不意に口許に総帥の指が回され、強引に何本かの指が口の中にねじ込まれた。
「Z………私の芸術品…………」
総帥は上と下から俺を攻め立てる。
口の中で掻き回されてはたっぷりと唾液を絡ませる長い指と、奥まった場所を舐りながら唾液を送り込んでくる舌で。
その度に疼く下半身に鈍重な痛みがねっとりとまとわりつき、もう気が狂いそうだ。
「さあ、準備は出来た――――おいで私の上に。」
言われるままふらふらと身を起こし、腰掛けたままの総帥の膝の上に跨ってその首に縋り付いた。
汗一つかかず、ましてや衣服の乱れもない総帥の首に腕を回し、大きく脚を開いて次の行動を待つ。
もう頭の奥が痺れて何も考えられない――――考えたくもない。
ただこの背に縋り付いて甘美な快楽に身を委ねていたくて。

 たっぷりと唾液を纏った総帥の指先が、さっきまで舌で愛撫されていた場所に宛われたかと思うと、くちゅ…という粘液性の音と共に俺の体の奥に埋め込まれた。
慣れた指先はじっくりと味わうように俺の中の内壁を解しては広げてゆく。じわり…じわり…とゆっくり体の隅々まで犯されていくようで、自然に震えてしまう。
下半身からいつしかリズミカルな水音が響いてくる頃、その責め苦に身を委ねて喘いでは、総帥に縋り付いた。
そんな俺の首筋に吸い付いては小さな朱い跡を刻みつけ、より一層俺の中で跳ね回る長いしなやかな指先に翻弄されるまま、俺は絶頂にも似た感覚を味わっていた。
充血してもその形すら変えることを許されずに放置され続ける俺自身の痛みと、後ろの穴を自在に弄ばれる刺激は、俺の感覚をかつて無いほどに狂わせていた。
二つの目からは涙が止めどなく溢れ、口からはだらしなく唾液を滴らせ、その口で叫ぶのは意味不明な喘ぎと吐息と、ただ総帥の御名……のみ。
ひくひくと震えながら意思と反して反り返る俺の鍛え上げた肉体は、総帥の指先一つで調教され弄ばれているのだ。

何と愚かなことだろう………最強の刺客と呼ばれるこの俺は。

ただ、この与えられる快楽に身を委ねては嬌声を上げている愚かなこの俺は。

この身の全てを捧げてほんの僅かな寵愛に涙する、愚かな一人の男に過ぎないのだ。


 「……随分と、楽しんでいるようじゃないか……シゲユキ。」
昔の名で呼ばれ、はっと我に帰った俺を冷ややかな眼差しで見つめながら総帥は散々陵辱していた数本の指を俺の中から無造作に引き抜いた。
「っく…ッ………は……………」
内臓をいきなり引き抜かれるような感覚に思わず声を上げてしまう。
「…………一人で楽しむのは…ルール違反ではないか? Zよ。」
今さっきまで俺の中で踊るように暴れていた指先が腰の鎖に伸びたかと思うと、反対の手の指先に握られていた鍵が静かな金属音を立て始めた。
次の瞬間幾つものパーツが総帥の膝の上やシーツ、床の上に落ちていくのをぼんやりと眺めた。
ほんの少し前まであれほど解放を願っていたというのに、開放感は無い。
貞操帯の下から現れた俺自身は先程まで先端から滴らせていた先走りに塗れながらもやや萎え、普段の大きさと殆ど変わらない程度だ。
「おいで、Z。私の最高傑作。」
促されるまま、剥き出しにされて天にそそり勃つ総帥の自身に手を添え、そこめがけてゆっくり腰を落としていく。
入り口に宛ったらぬるぬると総帥の先走りを擦りつけ、息を吐きながらその身に総帥を受け入れた。
「ん………ああ………お前の中は最高に気持ちが良いよ……」
満足そうにそれだけ言うと、俺の双丘を両手で掴み、下からぐいっと奥まで突き上げてきた。
「…ぅあ…ッ…………ああ…………」
突然奥まで挿入され、思わず悲鳴を上げた。慣れてはいるが、やはり異物の大きさに慣れてからでないと、いくら俺でも内側の粘膜までは鍛え上げることは出来ない。
「――――痛いか、Zよ。お前でも痛がることがあるのだな……」
面白そうないつもの口調でぼそぼそと耳元に囁く。
こんな時の総帥の声はいつも以上に艶を含んでいて、さらに煽られてしまう。
「……い………え……………痛みなど………ッ…………」
今度は自分から積極的に腰を動かし、総帥を更に俺の奥まで受け入れた。先程とは比べものにならない粘液性の水音が下半身から聞こえてくる。
そのまま狂ったように腰を上下させた。
萎えていた俺自身はいつの間にか復活し、体の間で反り返って揺れている。
刺激が欲しくて自分で触ろうと総帥の首もとから伸ばした右手を、遮られてしまう。
「………させるものか。」
俺は唇をきつく噛みしめながら僅かに頷くが、右手は手首を握られたままだ。
その状態のまま互いに貪り合い、粘膜を擦り付け合った。
総帥も荒い息になる。先程までの汗一つかかない姿からは想像もできない。
今はただ荒々しく俺の中を陵辱し、僅かな快楽も逃さない様な勢いで俺を求めてくれている。
再び両手で総帥に縋り付いて中を抉られることに専念した頃、総帥が俺自身に手を伸ばし、やんわりと握り込んできた。
「……そ……っ………すい…………」
その刺激だけで達しそうになる。必死に堪えながら首を振るが、総帥はわざと俺のものを握り込み先走りを指先に絡ませてはぬるぬるといやらしく弄ぶ。
ひくひくと体が震えた。
総帥の爪先が鈴口に差し入れられると、あられもない悲鳴を上げて背中を反らした。
その間も奥を抉られ続けられる。
気の狂いそうな甘美な疼きと陶酔の先に見え隠れする絶頂の波を堪えるのに必死だった。
「………お願い……します……ッ…………もう……我慢出来ませ……ッ…………」
ただ必死にに哀願する。
ただ縋り付き、総帥の背に爪を立てながら耳元で何度も何度もそう繰り返したか解らなくなる頃、総帥が片手で俺の腰を強く掴むと突き上げる動きを止めた。
疼く腹の奥に熱い脈動をはっきりと感じる。そして総帥の熱が体の奥底に放たれたことを感じ取った瞬間、堪えきれずに総帥の手の中で俺も達した。


 「Z、口を開けろ。」
俺は総帥の膝に跨ったまま、意識をすっ飛ばしていたらしい。
慌てて首を軽く振ると言われたまま口を開け、ぼんやりとした意識のまま目の前に突き出された指先を口の中に受け入れた。
どろりと、生臭くて苦い―――――今まで溜めることしか出来なかった、濃い…自分の精子だ。
総帥のお手を汚してしまったことを恥じながら、懸命に舌で舐め取っっていく。
「……ああ、もういい。」
半分ほど綺麗にしたところで総帥が自分の口許に汚れた手を持っていくと艶めかしい舌使いで舐めていた。
「お止め……下さい、私の放ったものなど口になさるなど………」
恥辱と申し訳なさでいっぱいになる。しかし総帥はわざと見せつけるようにねっとりと舌を使った。
余りに扇情的なそのお姿に、俺の体はぞくり…とまた疼いてくる。
あの舌使いで胸元や首筋をを攻められていたのかと思うと、つい注視してしまっていた。
「……なんだ? まだ足りないか? 可愛いやつめ……」
口許にうっすらと笑みを浮かべ、手を差し伸べて俺の汗でびしょ濡れになった髪を掻き上げた。
その仕草にそこはかとない優しさが感じられて、思わず胸の奥が締め付けられる。

所詮は愛玩動物と同じ、この身だ。
だがほんの僅かでも優しさを傾けられると胸がきりきり痛む。

髪を掻き上げてくれる大きな手にそっと自分の手を添えると、益々感情が迸って……どうにも止められない。
「………どう…した? 何故そんな表情をする………」
総帥の手が俺の頬を包み込むようにそっと触れ、親指が目のすぐ下を拭う。
この時になって俺はようやく自分が涙を流していることに気が付いた。
「なん……でも……ありませ……っ…………」
唇が戦慄いた。

愚かな、愚かな――――自分。
『望んでない』と打ち消しても、欲するのは――――――我が総帥の全ての愛情。
求めることすらおこがましいというのに。
手塩に掛けて育てて頂けただけで充分すぎるというのに……………。


「……何故泣く? お前は私が嫌いなのか…………」
いつになく低い声で囁かれて、慌てて激しく首を振った。唇を血が滲むほどきつく噛みしめる。
今口を開いたら泣き言を言ってしまいそうで恐かった。
「では泣かずともよい………お前が私のものである限り、私の全てはお前が望むままだ。この命も何も彼も全てをお前に預けているのだから。」
そう言うと、不意に抱き締められ唇を重ねられた。
血の滲む唇をあの艶めかしい舌先で何度も舐められ、ぞくりと体の奥が疼いてしまう。
唇を重ねられたのはいつ以来だろう…………最初のあの夜以来かもしれない………。

 夢中で唇を貪っていた。
口の中に滑り込んできた生き物のように自在に動く生暖かい舌に、辿々しくまとわりついた。
それ以上どうしていいか解らずに、一旦離れようとしたところで更にねっとりと絡み付かれ吸い上げられる。
唇の端から一滴、また一滴と唾液が糸を引いて滴り落ちていった。
……体の奥がじんじんと痺れ、まだ総帥を受け入れている部分がみっともないほどと蠢いてしまう。
このまま動いても良いのか迷っていたその時、抱き締めてくれていた総帥の長い腕が俺の体から離された。
急に全てを拒絶され、突き放されてしまったような孤独感に苛まれる。
「………な………?」
また目の奥が熱くなってきて、慌てて手の甲で何度も目を拭ったその時、離れていた腕が腰と尻に回されしっかりと掴まれた。
と同時に納めていたモノが液体と共にずるりと体の奥から引きずり出される感覚に続いて体が宙に持ち上げられ、そのまま寝台の上の肌触りの良いシーツの上に強引かつ乱暴に投げ飛ばされた。
「おお、手荒な真似で驚かせてすまんな……」
口許にいつもの酷薄そうな笑みを浮かべた総帥が、不自由な脚をずるずると引きずりながら俺の上に伸し掛かってくる。
覆い被さってきた総帥の肩口に掴まり首筋や肩口のあらゆる場所に朱の刻印を享受しながら、最上級の喜悦とに陶酔していた。

これでまた少し――――俺は生きていける。
先程のお言葉と先程の口付けだけで、此処に在ることを一生悔いはしない………。


 総帥の唇が首元から移動し始める。
あれよあれよという間に胸元や脇腹に焦れったいような僅かな痛みを刻みつけられ、気が付けば腹筋の割れ目に剃って舌を這わされていた。
上向きに折り曲げられた両脚は両膝をしっかりと大きな掌で掴まれて大きく開かされ、その間に体を伸し掛かられては身動きも取れはしない。
「……そ……総帥…っ…………それ以上は………」
俺の腹筋の上には、しっかりと存在を主張している俺自身が堆積を増して乗っている。
「―――舐めて下さい、とはその口は言えないのかな? Z。」
いつものからかっているような口調でそう言うと、柔らかな唇をゆっくり押し当ててくるが、我が総帥にそんな行為をさせるわけにはいかず、ただ首を横に降った。
 幾つかの場所にそっと押し当てられ、小さな音を立てて吸い上げられると体が戦慄いてしまう。
「……ん…ッ……………ぁあ……ッ…………」
耐え難い甘美な感触に思わず声を漏らしていた。
総帥は蛇の舌先のようなちろちろとした動きでわざと煽ってくるが、それ以上は決して続けてこない。
そんな事を繰り返されて、焦れったさともどかしさとなけなしの理性がせめぎ合いを続けている。
更に蛇の舌先は先端からだらしなく腹の上に垂れ流されているであろう先走りの体液を舐め取り、わざと音を立てて啜っては舐め回し始めると、俺の心臓は早鐘のように脈打ち体中に甘い痺れが駆け抜けた。
「………ああ…ッ…………お願い…です……………もっと…舐めて……くだ……ッ…………」
気が付けば夢中でそう叫んでいた。
総帥はあの艶めかしい動きで自分の唇をべろり…と舐め回したかと思うと、ゆっくりとした動きで俺の脚の間に顔を埋めてきた。
止め処もなく液体を滴らせている鈴口に固くした舌先をねじ込まれ、唇で包まれて吸い上げられると、あられもない声が出てしまう。
裏の筋から張り出した傘の部分まで丁寧に舌先で擽られ、温かい口腔内に呑み込まれて上下に激しくしゃぶられ続け、呆気なく達しそうになるのを幾度も堪えた。
目の前は霞み、脂汗が額から滴り落ちる。
だが今絶頂を迎えたら総帥の口を汚すことになる―――それだけは何としても避けたかった。
「駄目…です………もうお顔をお離し……くだ…さい…ッ…………これ…以上…………………っく…ッ…………」
両手で総帥を引き剥がそうと力を入れるのだが、我が総帥に傷など付けたらと思うと指先に力など少しも入らない。ましてや襲いかかる絶頂の波に呑まれそうになるのを堪えているので、最早非力なものだ。
総帥は俺の言葉を聞いて更に煽り立てるように顔を上下させたかと思うと舌で擽るように全体を激しく舐め回す。
「……や…………あ……あ…………ッ……………」
体がびくびくと震え、出口を求めていた欲望が堰を切ったように下半身から脈打つのを感じた。
程なく俺は絶頂に達していた。


 もうどうしていいか解らず、呆然としていた。
総帥は口の端から少しはみ出た俺の精を何もなかった火のように手の甲で拭い、口許にいつもの酷薄な笑みを浮かべていた。
何か口を聞かなければと思うのに、喉の奥に溶かされた鉛でも流し込まれたようで言葉が一切出てこず、口だけをぱくぱくさせてしまう。
総帥はあの艶めかしい舌の動きで、口の端に付着していたものも舐め取ってからゆっくり口を開いた。
「………Z、おいで………」
言われるまま体を起こし、四つん這いで総帥の膝元に向かう。
寝台の上に胡座をかいて座っている総帥の股間へと慣れた仕草で顔を埋めた。
そそり勃っている総帥の雄に指を添え、根本から順番に上へと向かって唇を押し当てた。
それからちろちろと舌を這わせていく。
頂上に達したら自らの口の中へと招き入れ喉の奥まで受け入れた。
適度に舌を使いながらゆっくりと顎を上下させる。
総帥は時折俺の動きをその手で止めて、雄を銜えたままの俺の顔をじっくりと見ると、満足げにされていた。
時々頬や額に汗で張り付いた髪を掻き上げて下さる。
俺の唾液と総帥の液体が充分に雄を充分に濡らす頃、両出て動きを制されて離れるよう指示された。
いつものならこのまま最後まで奉仕させて貰えるのだが、今日の総帥はそんな気分ではないらしい。
唇を離すとと、唾液だか何だか解らなくなった液体が糸を引いて落ちていった。
それを指の背で拭い、次の指示を待った。
いつものパターンであればこのまま膝の上に呼ばれる筈だが、総帥は俺の髪を撫でているばかりだ。
「Z……シゲユキ。私だけの芸術品………」
そう言いながら慈しむように時折指先で唇に触れたり、頬を撫でさすったりする。
あまりにも焦れったいこの行為に俺は総帥の指先を軽く掴むと、舌を這わせた。
出来るだけ丁寧に舌を使い、おそれ多くも総帥の指先を自ら積極的に舐め回してみたのだ。

もう一度、この人が欲しくて………。

つつ…と、音も立てずに唾液が総帥の指を滴り落ちていった。それでも俺は行為を止めずにいる。
「……Z、そんなに待ちきれないのか……?」
そう言って俺が舐めていた指を強引に喉の奥まで突っ込んで掻き回してくる。不意に襲われる吐き気を懸命に堪えると、自然に涙がこぼれ落ちた。
総帥は俺の唾液をたっぷり絡ませた指を、口から無象に引き抜くと先程まで受け入れていた場所に押し当ててきた。
四つん這いで総帥のものを愛撫していた為、少し手を伸ばせば奥まった場所にも楽に届いてしまう。
ぐちゅ…と音をさせて総帥の指が埋め込まれていく。
「…う…っ…………ん………っ…………は……ぁ…………」
慣れた痺れと疼きが下半身から全身に行き渡り、思わず感嘆の声を漏らした。
総帥の指は得体の知れない生き物のように淫靡な音を立てて俺の中を犯していく。
「………お前の中に残してきた私のものが……こうすると、ほら、垂れてくる………」
入り口を弄くられる度、俺の腹の中から総帥の精子が一筋、また一筋と内腿を伝っていくのが自分でも解った。
 指で中を思う存分犯されながら俺は再び総帥の脚の間へと顔を埋め、口にそれを含んだ。
喘ぎながらなので上手く奉仕は出来ていなかったように思う。
でもとにかくそれが欲しかったから両手で掴み、夢中でむしゃぶりついた。
「…………Z……おいで。」
ずるりと無造作に引き抜かれる指の感触に背を反らせながらあられもない声を上げた。
促されるまま、総帥の上に跨って奥へと導く。
ゆっくり腰を落とすと、気が狂うくらい気持ちが良かった。
そのまま総帥の首に両手を回し、懸命に腰を上下させる。あまりの快楽に時折体が震えた。
 総帥の大きな手が俺の腰に回され、しっかりと掴んでくる。途端に下からがくがくと突き上げられた。
「ふふ、Zよ……お前だけ楽しませない………」
そう言ったかと思うと腰から尻にかけて掴み、俺が狂いそうになる部分を集中して攻めてくる。
苦しくて、でも気持ちが良くて声を上げた。
総帥の頭を抱え込むように縋り付き、その唇に自分の唇を押し当てようとしたその時、ひらりとかわされる。
よもや身を引かれるとは思っていなかったので呆気にとられてしまうが、そのまま総帥の上半身はゆっくりシーツの上に仰向けに倒れ込んでいく。
「……え…?……あ………」
しっかり縋り付いていた俺もろとも寝台の上に寝転がった。
やわらかなスプリングに、暫し二人の重なった体が弾む。まだ何が起こったのかを把握しかねている俺の腰を掴んでいた手はそのまま下に這い降りていき、双丘に指を食い込ませるように掴んだ。
「ん……ひ…………っ………………あ…ッ…………」
下から激しく突き動かされ、揺さぶられて中を抉られる。俺は四つん這いで抱きついたまま下から攻め立てられていた。
「可愛いよ………シゲユキ………」
耳を擽る総帥の声。二人きりのときにのみに甘く囁かれるかつての俺の名も、甘美な媚薬だ。
「総帥…………」
もう一度自分から唇を重ねた。今度は総帥も受け止め、応えて貰えた。
夢中で舌を使い、その唾液を啜る。
奥底から沸き上がる感情と喜悦に身を預けながら、快楽にうち震えてしまう。
「……そ………………すい………」
目の奥がちかちかと火花を散らし始めた。絶頂はすぐ目の前まできている。
「Z、少し我慢しなさい。」
突然そう言われて、訳も解らず小さく頷いた。
俺の体の下の総帥は激しかった動きを止め、俺の尻を握って体を重ねたまま横に転がり、いとも簡単に上下を入れ替えていた。
こういう技は上手いものだ……と、思わず呆気にとられながら感心してしまう。
かつての最強の男の組技はこんなところで生きている。
などとと感心しているべきでは無い。
脚の悪い総帥が俺の上に覆い被さるのは――やはり阻止せねばならない。
「総帥っ!…………いけません! 上になられるなど………」
そう言いながら体の下から抜け出そうと足掻いてみるが、物理的に無理な話だ。
両脚を大きく開いた状態でしっかり体を重ね合わせてる上に、しっかり充血し堆積を増した総帥の楔が打ち込まれたままなのだから。
無駄な足掻きと解っていても、それでも身を捩って抜け出そうとする俺を総帥は上から冷ややかな目で詰めていた。
「シゲユキ……貴様、俺から逃げようなどと………出来ると思ったか……」
口許に薄笑いを浮かべながらそう耳元に囁かれ、ぐいっと突き上げられた。
俺はもの凄い力で両膝の裏を掴まれ、シーツに押し付けられて腰を使われると、ぐちゅぐちちゅといやらしい音が響いてきた。
「ち………が…ッ…………」
再び頭の奥が真っ白になってくる。甘い疼きが体中の隅々まで行き渡り、俺を溶かしていく。
「何が違う? シゲユキ………シゲユキよ、お前は逃がさない………永遠にな!」
総帥の目にはいつもと違うものが宿っていた。
身を震わすような――――狂気。
そんなものに突き動かされているようだった。
総帥が不意に首もとに吸い付いてきていつもの刻印とは違う痛みが鎖骨の辺りに走ったかと思うと、生暖かい舌先で舐め回される。
続いて唇に口付けされると血の味が口一杯に広がった。

ぞくり…と身が震えた。

執拗に絡みつく舌の感触と甘い血の味に。


総帥は執拗に俺を攻め立ててくる。狂ったように穿ち、時折大きくかき混ぜるように動くと、その度に俺はみっともないくらい背を反らして震えてしまう。
腹の上で放置されている俺自身は苦しげに堆積を増して自ら吐き出した体液に塗れていた。
ほんの少し前まで目の前に迫っていた絶頂の波が、今やまた目前に見え隠れしはじめる。
俺は総帥の二の腕辺りに指を絡ませて、ただあられもない嬌声をあげていた。
気が狂いそうな快楽。
身も心もその全てを求められ、差し出す快楽。

―――例えそれが本当の寵愛などではなく、偽りの愛だとしても―――――。



「………っ…く…っ…………シゲ……ユキ………」
体の奥底に迸る熱い液体を感じ、それを追いかけるように自分の体も戦慄いて達していた。
力の抜けた総帥の体が俺の上に倒れ込んできて、それを両手で受け止め、抱き締めた。
総帥の体は身に着けた衣服ごと汗でじっとりと湿っていた。
額からは玉のような汗が滲んでいる。
こんなになるまで、ましてや不自由な体で無我夢中で自分を求めてくれたのかと思うと、胸が熱くなった。




俺のこの命が尽きるときは、総帥の命が尽きるとき。もしくは、この身を盾にして総帥をお守りするとき。

願わくば、この世が終わるその時まで―――――この身がお側に在らんことを。

それだけを願って止まない……………。



<cast>

KILLER−Z:戸次重幸  総帥:大泉洋  Mr.×(バツ):鈴井貴之

ケン:安田顕  タクマ:音尾琢真


* お戻りの際はブラウザを閉じませう *







。。。ふざけたサブタイトルに寒気を感じた方、ゴメンナサイ。

しかもあのお馬鹿コント?のキャラクター達を
全く正反対のものにしてしまいまして
違和感バリバリでゴメンナサイ(笑)

そして、キラーZを
史上最強のドM小僧に仕立ててしまいましたね。

お前どんだけMよ!?
つか、あのふざけた格好の総帥にメロメロってどうよ。。。

と、書いててツッコミを入れてしまいましてよ(笑)



それでも、少しでもお楽しみ頂けたなら
幸いで御座います……。









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