『罪』・・・悪事や過ちをを犯す事
『罰』・・・罪をこらしめるためのむくい・・・咎め・・・。
大罪には刑を加え、小罪には罰を与えるのが昔からのしきたり・・・。
ならば、俺達は罰を与えられるべきなのだろうか?
『愛する』という甘美な罪を知ってしまった俺達は・・・罰せられるのだろうか?
いいえ、俺にとっては銀次に会えない事が『罪』であり彼から離れるのが『罰』なのです・・・。
『罪と罰』Act.2
「おいしい!」
紅茶を飲んで最初に銀次が悲鳴をあげた。
「気に入っていただいたみたいで良かったわ」
マリーアが優しい笑みを送りながら、銀次のカップに紅茶を注ぎ足した。
「こんなの飲んだ事無いよ!これ何?」
「ラズベリーティーだよ」
蛮が一口啜りながら、銀次に正す。
「へ〜・・・蛮ちゃん!物知りだね!」
「お前が知らねぇだけだろ?」
「あう〜・・・」
そのやりとりに、マリーアが優しい瞳で蛮を見る。
「・・・あんだよ?」
「別に♪」
クスクスと笑うマリーアにムッとしたのか、ソッポを向いて紅茶を啜る蛮。
「うっわー!これもおいしい!これ、何ですか?」
「ザッハトルテだよ!ああ!銀次!馬鹿!食う時は、その生クリームをつけて食べんだよ!」
「んあ!!」
一気に食べてしまった銀次がしまった!という顔をする。
「ったく・・俺のを半分やるよ」
「いいの?」
「あぁ、甘いのは得意じゃないんだ」
「ありがとvv蛮ちゃんvv」
二度呼ばれたその言葉に、蛮が照れくさそうに笑った。
その二人のやりとりをまったく別の目で見ている二人が居た。
一人は、孫の明るい姿を見て穏やかに微笑んでいる瞳・・・
もう一人は、いきなり現れた金色の少年に嫉妬とも言える、憎悪の瞳・・・
幸せな時間が過ぎる中、だれもその変化に気がつくものは居なかった・・・。
「い・・・・いいのかなぁ?」
銀次が自分の部屋でバスローブを引っ掛けたまま唸り声をあげている。
働くのは明日からでいいとの事だったので、夕飯を済ませお風呂で体を温め、用意された部屋に行くとそこは今まで見た事もないような豪華な部屋だったのだ。
「俺、一応使用人だよね?」
自問自答してしまう・・・どうみても、使用人らしい部屋ではない・・・しかも・・・。
ガチャ・・・
「おい、銀次!足りないものねーか?」
「う・・わぁぁっぁぁ!ちょっと!」
銀次が慌てて引っ掛けたままのバスローブの前を閉じる。
「あ!悪ぃ・・・・って!かまわねーじゃねーか!同じ男だろ!?」
その動作につい後ろを向いてしまった蛮が我に返り拳骨をくらわすと、銀次がベッドに突っ伏した。
「い・・いやぁ・・何となく・・・」
「ったく・・・湯冷めすんぞ?早く服着ろや!」
「う・・・うん。でもいいのかな?」
「何が?」
「蛮ちゃんの隣の部屋だよ・・・ここ?」
「?嫌か?」
「いえ、そういう訳では・・・」
「ならいーんじゃねーの?」
着替えを始めた銀次のかわりにベッドの上に乗り、枕を抱き締める。
ドクン・・・
その仕草に、銀次の胸が鳴る。
あれ?
体の異変にビックリして、思わずソッポを向いてしまう。
「お・・俺もっと使用人らしい部屋かなって思っていたから・・・こんな立派な部屋を与えてくれるなんて感謝だよね!」
顔が赤いのが自分でも分かる、『異変』を振り払うかのように話し掛けると、返事がない。
「蛮ちゃん?」
「・・・・スー・・・」
銀次の枕を抱き締めながら眠ってしまっていた。
「な・・なんだかな・・」
無防備な蛮の寝顔を見て、銀次も休もうと隣に入ろうとしたその時・・・。
「・・・?」
風に乗り、聞こえてくる・・・これは。
「ヴァイオリンの音?」
微かに聞こえてくる旋律に誘われるように、銀次は部屋を後にした。
音が聞こえるドアの前まで行き、その隙間から誰が弾いているのかと覗いてみる。
「・・・!おばあちゃん?」
蛮の祖母が、一人静かにヴァイオリンを弾いている。
蛮よりも伸びのいい美しい旋律。
でも・・・何だか悲しい旋律。
「誰だい?」
「・・・・!」
「そこに居るのは誰だい?そんな所で聞いていないで、入ってきたらどうだい?」
穏やかな声に導かれるようにドアを開ける。
「おや・・?」
「ごめんなさい・・・盗み聞きする気はなかったんです」
「そうかい?なら、次からは普通に入っておいで。遠慮は要らないよ」
「は・・・はい。あの!」
「ん?」
「おばあちゃ・・・お館様も弾けるんですね・・ヴァイオリン」
言い直した、銀次に面白そうにクスクスと笑う。
「おばあちゃん・・・で、いいよ。ふふ・・・孫がもう一人できたみたいだね?ヴァイオリンは私が蛮に教えたからねぇ」
「へ〜・・・そうなんですか?」
おばあちゃんを呼ぶ事を許された事に、銀次が照れくさそうに頭を掻く。
「あの子は負けず嫌いだからね・・・正確には、私が弾いているのをみて自ら学んだんだよ」
「・・・だからかな?」
「ん?」
「おばあちゃんのヴァイオリンも、蛮ちゃんのヴァイオリンも・・・とても、綺麗だけど・・・何か悲しいんだ」
美しい旋律・・・
心が温かくなる反面、その中には寂しさも混ざっているようで・・・
「優しい子だね・・・お前は」
「え?」
「銀次、一つ頼んでもいいかい?」
「はい」
カチャリ・・・と祖母はサングラスを外し、銀次の瞳を真っ直ぐに見た。
「頼むよ・・・蛮の事を・・・あの子を守ってやってくれ」
「・・・」
沈黙が流れた。
琥珀色の瞳が真っ直ぐにヴァイオレットの瞳をみつめ、やがてゆっくりと首を縦にふった。
「はい」
「ありがとう。さて、もう眠りなさい。明日から仕事が始まるよ?」
「はい、おやすみなさい」
銀次が部屋を出るのを見て、ゆっくりとサングラスをかける。
この瞳に惑わされなかった人間は・・・初めて、かもな・・・
この世のモノとは思えない、美しいヴァイオレットの瞳。
その魔性の瞳は、みつめただけで相手を虜にする。
「頼むよ・・・蛮には、お前が必要だ・・・」
これからの、つらい宿命の中、あの子を支えてやってくれ・・・。
この”力”に惑わされず、まっすぐにモノを見つめるお前にしかできない・・・。
儚い願いを胸に秘め、祖母はヴァイオリンを奏でる。
優しいトロイメライ・・・子供達がゆっくり眠れるように・・・。
翌朝・・・銀次は朝からマリーアの指示のもと、仕事に精を出していた。
水撒き、庭の手入れ、食事の支度、掃除、洗濯・・・初めてやった事も多く、銀次は早く慣れようと必死だった。
「ご苦労様、次は買い物に行ってきてくれるかしら?」
「あ・・はい」
「これ、地図と買い物のメモね」
買い物籠と、メモを受け取り地図の再確認をしていると、蛮がやってきた。
「おーおー!こき使われてんな?」
「蛮ちゃん」
「あら?お勉強は?」
「もう終わった」
「すごいね!蛮ちゃんヴァイオリンだけじゃなくて頭もいいんだね!」
「お前が馬鹿なだけだろ?」
むーっと膨れる銀次の手から買い物メモをひったくる。
「うわ・・結構な量だな?」
「うん、でも平気だよ!俺力持ちだから!」
「・・・そっか」
ちょっと寂しそうにメモを銀次に渡すと、その腕を掴まれる。
「一緒に行ってくれる?」
「あ?今、平気だって言ったじゃないか?」
「うん、でも天気いいし!たまには外に出ないと!」
「で・・でもよぉ・・・」
ちらりとマリーアを見ると、にっこりと微笑んでいる。
「いってらっしゃいな、蛮。今日の分のお勉強は終わったのでしょ?」
「あ・・ああ」
「決まり!いってきまーす!?」
「う・・わぁ!ちょ・・俺はまだ行くって・・・」
言葉を最後まで聞く事無く、銀次が蛮を引っ張っていってしまった。
「クスクス・・蛮のあんな顔見るの・・・久々だわ」
「マリーア、蛮は?」
「あら?夏彦さん。今、銀次君と一緒に出かけましたわよ」
「出かけた?護衛もなしに?」
「銀次君が居るから平気ですよ」
るんるんと台所に戻っていくマリーアの背を見ながら、夏彦は拳を握り締めた。
「・・・・邪魔だな・・・」
黒めいた嘆きを聞くものは、誰も居なかった・・・。
「んー・・・買い忘れ・・・ないかな?」
「ったく!何だってこんなに買う必要があるんだよ!」
銀次が買い物袋3つ、蛮が2つ、結構な量だ。
「まぁまぁ、天気もいいし散歩だと思えばいいじゃない!」
「散歩・・・ねぇ」
何でもプラス思考な銀次に半ば呆れたと言う顔を返す。
「!」
光を浴びて光る金色の髪に蛮が眩しそうに目を細めた。
「どったの?」
見つめられている事に気付いた銀次が蛮の顔を覗き込む。
「な・・なんでもねぇ!」
ガン!
と買い物袋で殴られた。
「・・・痛い・・・蛮ちゃんて、何でそんなに手が早いの・・・」
「うっせーよ!っつ!」
頭を摩っている銀次をほったらかしにし、かまわず歩いたいた蛮の足が止まる。
「どうしたの?」
目線の先を銀次が追うと、そこに目に入ったのは小さな白い小鳥だった。
「!怪我してる!?」
その白い羽を汚すように赤い血がべったりとついている。
野犬にでも襲われたのだろうか?銀次が買い物篭を放り投げて、鳥に手を差し伸べる。
「っつ!」
差し伸べた手を鳥が噛んだ。
「銀次!」
「大丈夫だよ・・・俺達は敵じゃない・・・君を助けたいだけなんだ」
噛まれた事に臆する事もなく、優しい瞳で語りかける。
「痛いだろ?すぐに手当てするから」
そっと、もう片方の手で包み込むようにしてやると、鳥が銀次の手を解放した。
「ありがと」
ズキ・・・
守るようにそっと鳥を胸に抱く銀次を見て、蛮の胸が痛んだ。
何だ?
自分でもわからない位に胸がモヤモヤする・・・。
蛮にはその感情がわからなかった。
「?行こう!蛮ちゃん」
「あ・・・ああ」
呼ばれ、後に続く・・・が、銀次の腕の中に鳥が居るのが・・・何か嫌だった。
屋敷に戻り、事情を話すとマリーアがすぐに手当てをしてくれた。
医学の心得もあるのか、かなり的確な手当てで驚いたほどだ。
銀次が責任をもって面倒を見るという事で、鳥かごは銀次の部屋に置かれた。
「ん〜・・・んあ〜・・・・んん〜・・・」
鳥かごを前に、銀次が腕を組みながら難しい顔をしている。
「うっせーよ!」
ガン!
蛮が持っていた本で殴られ、やっと正気に戻る。
「あれ?いつの間に入ってきてたの?」
「今さっき。ちなみに、ノックしたからな」
「気付かなかったや・・」
「気付かないくらい何考えていたんだよ?」
「この子の名前」
「鳥でいいじゃん?」
「それじゃ可愛そうでしょ?名前は重要なんだよ!んでね、俺考えたんだ!」
「はいはい・・・どんなんよ」
「”よさく”なんてどう?」
「却下」
速攻で却下され、銀次がしょぼくれる。
「じゃあ、”ポッポ”は?」
「鳩じゃないんだからダメ」
「じゃぁ・・・・あ!”ちっち”なんてどう?」
「ま・・一番妥当かもな」
「決まり!今日からお前は”ちっち”だよ」
ズキ・・・
まただ・・と蛮は思った。
銀次が”ちっち”と呼び、笑顔を向ける鳥が憎らしく思える。
この感情は・・・何?
「蛮ちゃん?どうかした?」
「どうもしねーよ!」
きつい口調で銀次に怒鳴り、そっぽを向いてしまう。
何やってるんだ?俺!
銀次に当たってどうすんだ??
自分の持っている感情がわからない・・その不安が神経を逆なでる。
最低だ・・・俺・・・
きゅうと唇を噛み、きつく目を閉じると温かい物が唇に触れた。
「!」
蛮が驚いて目を見開くと、銀次の顔がすぐ目の前にあった。
「嫌だった?・・・キス?」
真っ赤な顔して聞いてくる銀次に蛮の顔も赤くなった。
「何か買い物した時からおかしかったから・・・何をそんなに不安に思ってるの?」
不安?俺が?
「大丈夫だよ・・・俺は傍に居るよ」
フワリと微笑み、そっと蛮を抱き寄せる。
「ずっと傍に居るから・・・安心して」
抱き寄せられ、囁かれ蛮の胸からもやもやが消えていく。
不思議な感覚だった・・・無意識の内に口が動いていた。
「銀次・・」
「ん?」
「好きだ・・・」
「ん・・・俺も・・・」
見つめあい・・・そっと口付けをかわす。
初めて会ったあの瞬間から・・・俺達は恋に落ちていたのだ。
それに気付き、近づきあった夜・・・幸せだったね?
この幸せが続く事をどんなに夢に見た事か・・・。
銀次、俺の手を放さないで・・・ずうっと傍にいて・・・。
お前が傍に居てくれれば、地獄さえも怖くない・・・・
好評感謝!ACT2です!?はい!まだエロはありません(笑)次回はのっけからエロで暴走予定!私も早く暴走したくてうずうずしてます(爆!)また次回お会いしましょう!!