女性のための風俗から男性向けの風俗ギャルまで自分の体を使って実体験してみるこれは女性の側からの男性社会に対するアンチテーゼこれまで男たちが漠然と考えていた女性観が覆されるときがやってきたのだ
かつて、勤めていた広告代理店を不況のためにリストラされ、しばらくプーしていたころ、新宿歌舞伎町の飲み屋さんでアルバイトをしていたことがあった。飲み屋さんといってもゴールデン街にあるような５席ほどしかない小さなカウンターだけのバーだった。私はそこで水割りを作ったり、簡単なおつまみを作ったたりして、ママの手伝いをしていた。
そこに来る常連さんで、大宮さん（仮名）といって４０歳そこそこの会社員の人がいた。彼が、いつものように店に来たある日、「ねえねえ美穂ちゃん、とっぱらいのアルバイトしてみない？」と、私に話しかけてきた。８月の終わりごろだった。“とっぱらい”とは、仕事が終わったら、その日のうちにギャラがもらえることである。
「温泉コンパニオンなんだけど」なんでも、大宮さんの仕事の得意先で、埼玉県の自動車部品工場の部長さんがいて、慰安旅行のお世話をすることになったという。「派遣会社でコンパニオン頼むと８万円くらいとられるからね。それで、その半分くらいでやってくれる女の子を探しているんだよ」半額といっても４万円か。温泉にも入れるし、結構おいしいバイトじゃないか。「ところで、温泉コンパニオンって、何をするんですか？」「いやね、おじさんたちのお酒のお相手をすればいいんだ。普段この店で君がやっているようなことでいいんだよ」そうか。水割りを作ったり、お酌したりするだけでいいんだ。「やります！」私は元気に答えていた。
場所は群馬県にある“猿ヶ京温泉”というところだった。「一人だとなんだから、ママも誘っておいたから」という言葉にも安心した。温泉につかり、おいしいごちそうを食べ、それでいてお金がもらえる！超ラッキーなバイトではないか！私はルンルン気分で当日を迎えた。しかしこの時、行った先の温泉で地獄絵図を見ることになろうとは、同時の私は知る由もなかったのである。
さて、猿ヶ京温泉に行くには、上越新幹線に乗り、そこから上毛高原に向かう。当日、ママと上野駅の上越新幹線乗り場の改札で待ち合わせすることになった。「ボディコンを着て来る」というので、それらしき人を探した。向こうからピチピチの真っ赤なボディコンを着た女の人がオッパイをユサユサさせてやって来た。ママは３７歳で若かりし頃ヌードモデルをやっていた。人はいいけど、男と酒に弱い。ある店で酔っ払っておしっこしちゃったとか、骨肉腫であと半年の命と宣告された客と駆け落ちしたとか。ゴールデン街では、そのようなママにまつわる逸話が後を絶たなかった。
結局、どの恋愛沙汰も情熱が続くのはしばらくの間だけで、すぐに飽きてしまう。いまに雇われママの仕事も、いずれは飽きてやめてしまうだろうと、皆噂していた。「おまたせ！」ママは歳のわりには子供っぽく、人懐っこかった。２人して新幹線に乗り込んだ。私とママは、和気あいあい駅弁を広げた。「酔っ払いのオヤジたちの相手だから、なにかいやなことされたら私にいってね！」ママは、カタカタと笑った。この人と一緒なら、楽しい旅になるだろうと思った。ふと見ると、私たちの座席の前には営業に向かうらしき、“オカマの団体”がいた。そのうるさいこと！どうやら、どこかの温泉で、ショーをするらしい。衣装のこさや振り付けの話しなど、周囲のことはおカマいなしというふうに、大声で騒ぎまくっていた。
次第にママは、彼らの態度に我慢できなくなって、「うるせー！黙れ！タマなし野郎！」と、一喝してしまった。一瞬の沈黙の後、「なによー、オバサン、私たちの美貌にひがんでるの？」と、リーダー格らしきオカマの一人がいい返してきた。そんなオカマの逆襲にもビクともせず、ママは相手を睨み返していた。頼もしい限りだ。この人がいれば、スケベオヤジたちの相手だってへっちゃらだ。