「FD3Fでの奇行」

 フェイヨンダンジョン3F。
 いつからかボンゴンが現れるようになり、大量の沸きポイントとして知られている。
 腕に自信のある者以外はハエの羽やテレポートを使って通り過ぎるのが常だ。

「いや〜沸いたなー」
 プリーストは聖書をぱんぱんとはたきながらのほほんとそう言った。
「……あぁ」
 アサシンは両腕に装備されたカタールの具合を確かめながら曖昧にうなずいた。
 足元には崩れ去ったムナックやボンゴンの骸が転がっている。じきに地面と同化してわからなくなるだろう。
「ちょっとは休めるかな……あーお前怪我してんじゃん。ホレ、見せてみ」
 ヒールするから、とプリーストが手を伸ばす。
「…いい」
 その手を避けるかのように、アサシンは身体を動かした。
「よくねーって」
「……大した事ない」
 そう言いながら、右手で左の脇腹を押さえている。
 暗い色の衣装でわかりにくかったが、じわりと血が滲んでいるのをプリーストは見逃さなかった。
「嘘つくなよ。ほらそこ、アチャスケにやられたんだろ」
 彼が押さえている部分を指差してプリーストはそういう。
「…」
 少し気まずそうにしたが、アサシンは顔を背けた。
「変な意地はらなくていいから、さっさと見せろって」
「…なんでもない」
「あーのーなーっ!」
 怒りを露にするプリーストにちらりと視線を投げかけると、アサシンはふいにハエの羽を放り投げた。
 ヒュン…と音がしてアサシンの姿が掻き消える。
「な…!?」
 唖然としたプリーストが声を出す。
「何考えてんだ、あのバカはっ!」
 慌ててパーティマーカーをMAP上で探すが、パーティを抜けてしまったのか、彼の姿を捉えることが出来なかった。
(ここはFD3階だぞ? 一人で飛ぶか、フツー!)
 とりあえず探すしかない…プリーストはありったけの支援魔法を自分にかけて、モンスター溢れる3階を単独で走り出した。

 一方、アサシンは。
(…少し、休むか…)
 じわじわと傷口からくる痛みは、どんどん体力を奪っていく。
 神経を研ぎ澄まして周りを確認すると、ほっと一息をついて壁にもたれるように座り込んだ。
 誰もいない。
 耳が痛くなるほどの沈黙。
 いつも隣にいた相棒がいないだけで、やけに沈黙が気になった。
 じわりと傷口が熱を持ち始める。
 こんなことなら、意地を張らなければ良かったと思い始めてくる。
(………強くなりたい…)
 そうすれば、こんな風に意地を張らずに済んだのに。

 ぴょいん…ぴょいん……。

(…ムナックか? 確実に3匹はいるな)
 ぐっと足に力を入れて立ち上がる。
(……囲まれると…やっかいだな…)
 回避が命のアサシンは囲まれるだけでその性能が半減すると言っても過言ではない。
 とはいえ、殲滅力よりも素早さを優先した彼にはどうしようもない。
(ジェム…は、なかったか…。と、なると…)
 腕に嵌めたジュルをじっと見据える。
「これしか…ないか」
 最後に頼れるのは自分自身の腕だ、と。
(あいつがいなくたって、何とかしてみせる)
 それが、意地だ。

「どーこへ行ったんだあいつわーっ」
 頭をわしわしとかきむしりながら、プリーストは叫んだ。
 広いというほど広い場所ではないが、いかんせん地形が入り組んでいる。
 同じような風景に、ループにでもはまったのではないかという気さえしてくる。
(じっとして……るワケにもいかねーか…。ここじゃじっとしてたら囲まれてお陀仏だしな…)
 ふと考えてから、溜息をついた。
(…ちょっと待てよ? ってことはアレか? あいつがハイドとかしてたら俺ってば永遠に見つけられなかったりして?)
 そう考えると、思わず地面に手をついて空をあおぎたくなってくる。
 とはいえ、見上げたとしてもここでは空は見えないが。
「バカやってねーで、とっとと捜すか」
 ルアフでも使って走り回ってやろうか…と呟きつつ、足を進める。
 薄暗いダンジョンは不気味ではあったが、彼の足取りは速い。

 ぴょいん ぴょいん

 飛び跳ねて徐々に近寄ってくるモンスターに、彼は半ギレになりながらヒールをかけて駆け足で進む。
(あーもー……これじゃ俺の方が先にくたばっちまうぞ…)
 などと思っていると、モンスターが自分とは違う方向へ向かっていることに気づく。
(アクティブのくせに俺に向かってこないってことはタゲが別ってワケで。……もしかして!)
 自分を無視してぴょんぴょん飛び跳ねていくモンスターと同じ方向へと駆け出す。
 その先には、孤軍奮闘するアサシンの姿があった。


 ボンゴンの正拳突きがアサシンの腹をとらえた。
「ぐ、がっ…」
 それでも、膝を折っただけで持ちこたえたのは…彼にとってある意味不運だったのかもしれない。
 いっそ気でも失えば、モンスター達も別の標的を捜したかもしれない。
 何匹ものモンスター。
 そのほとんどの攻撃を避けることすら叶わない。
(…オレは……死ぬのか…?)
 目がかすむ。
 自分の腕の一部のようでもあったカタールが重い。
 今にも倒れてしまいそうなほど、身体が痛い。
 死を前にして、思い出すのは…相棒のこと。
(……結局…オレは、あいつに依存してばかりだ…)
 ムナックの腕が振り上げられる。
 あとは、あの細く力強い腕が振り下ろされるのを待つだけ。
 斬首台の死刑人の気分、というやつだろう。
 それでも、キッと相手を睨みつける。目を閉じることなど、アサシンには許されない。
 死の瞬間まで、戦わなければならない。
(…オレが死んだら、あんた……泣いてくれるか?)
 それだけが、気がかりで。
 自分の上に落ちてくる腕を見る。
 その瞬間。
 地面がパァッと光を放った。
「え…」
 神々しいまでの光に、目がくらむ。
「来たれ、神の十字架!」
 凛と響く声を、彼は知っている。
 たとえ、姿が見えなくても理解できた。
「マグヌスエクソシズム!」
 聖職者の手によって召喚された十字架が、不死者達を滅ぼしていく。
 自分の頭上にあった腕もボロボロと崩れて土塊に戻った。
 徐々に弱くなっていく光の向こうで、プリーストが微笑んでいた。


「よぉ、生きてるか?」
 聖職者は手のひらをぱんぱんと払うとアサシンに駆け寄った。
「一応生きてはいるな。まー無茶しちゃってー」
 ケラケラと言うプリーストに、アサシンはうなだれたままだった。
「どしたー? 死んでるとか? まさかムナックの返魂の札で不死者になってたりとかして?」
 んなわけねーっつの、と自分でツッコミながら、アサシンの傷を診ていく。
「打撲、骨折、擦り傷切り傷刺し傷と…怪我のオンパレードだな、こりゃ」
 ぽりぽりと頬をかいて、プリーストは自分の道具袋を漁りだす。
「ヒールかけるよりサンクチュアリの方が早そうだな。俺も結構消耗して…」
 青い石を取り出そうとするプリーストの腕を、アサシンはつかんだ。
「…どった?」
「……いい」
「はぁ?」
「…わざわざ、そんなことしてくれなくて、いい」
 アサシンの小さな抵抗に、プリーストは聖書の角をアサシンの頭に落とした。

 ゴメッ

「〜〜〜〜〜っ!!」
 アサシンが頭を押さえてうめく。
 プリーストは大きな溜息をついて、道具袋から青い石を取り出す。
「…あのな。お前は俺のこと嫌いかもしれんが、とりあえず好意は受け取っとけ」
 口の中で小さく言葉を紡ぐ。
 さっきとは違う、暖かい光が二人を包んでいく。
「サンクチュアリ」
 そうプリーストが呟くと同時に、彼が手に持った青い石がパンッと音を立てて砕けた。
「やれやれ、一段落っと…」
 ぺたん、と地面に腰を下ろして、袋の中からブドウジュースを取り出す。
 何も言わずストローを差し込んで、一口飲んでは「ふー」と息を吐き出す。
 アサシンは黙ってうつむいたままで何も言おうとはしない。
 気まずい雰囲気がしばらくの時間流れた。
「で、なんであんなことしたワケ?」
 プリーストがストローを咥えながら尋ねる。
「…何となく…」
「もう一回聖書で殴るぞ」
 凶器と呼べそうな分厚さの聖書を手にとって睨む。
 その暴挙に、アサシンは溜息をついてからぼそぼそと喋りだした。
「…だってお前……オレなんかいなくても平気だろ」
「はぁ?」
「オレみたいなアサシン、いてもいなくても変わんないだろ」
 動物や植物のモンスターが暴れまわる場所ならいざ知らず、フェイヨン洞窟のような不死系のモンスターが徘徊するような場所では、支援に徹した聖職者の攻撃が一番効果的だ。
 だが、近接二次職…前衛として、それに頼ってしまうのはどうだろうか。
 己の肉体を鍛え上げ、たとえ一人でも戦えるように…と思っているのに。
 いや、そう思って来たのに。
「今だって、オレがいなくてもここまで走って来れたんだろ」
 相棒のプリーストは、いつも言っていた。
『お前がいなきゃ、俺は魔法の詠唱もできないよ』
 その言葉がアサシンを支えていたのは事実。
 だけど、今、彼は自分を必要としなかったではないか。
「だったら、オレなんて…」
「アホか」

 ゴスッ

「〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
 二度目の聖書の角がアサシンの頭に落ちた。
「お前ね、このついてる頭は飾りか? ん?」
 ぐりぐりと聖書の角でアサシンの頭を小突く。
「頭悪いにも程があるぞ」
 聖書の表面で軽くアサシンの銀髪の頭をはたくと、プリーストは溜息をついて聖書を地面に置く。
「確かに、俺はこの洞窟を一人で走ってきた。でもな、それはお前がいなかったから仕方なく全力疾走で駆け抜けてきたんだろうが」
 途中で沸きすぎて騎士とかウィザードに助けてもらったんだぞ、と続ける。
「…つまんないことで、俺を置いていくな」
 そう小さく呟くと、そっとアサシンを抱きしめる。
「俺の相方はお前だけだよ」
「……ありがとう」
「礼なんか言うなよ。…恥ずかしいだろうが」
 カラカラと音がした。
 ぴょんぴょんと飛び跳ねる音がする。
「いいムードだったのに」
 プリーストが離れてそう呟く。
「……似非聖職者め」
「何か言ったか? ん?」
 笑顔でそう言っているが、彼の手は聖書を持っている。
 アサシンは軽く溜息をついて、プリーストの前に出た。
「…支援、頼んだ」
「おう」
 つまらない意地なんて、張るもんじゃない。
 そう思ったアサシンだった。
end


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