「罪の意識」
初めは、ほんの少しの好奇心だった。
ただ、一度見てみたくて。
……それだけ、だったのに。
カタールが、マントが、頬が、銀の髪が。
返り血で、真っ赤に染まっていた。
彼の足元には、同じアサシンの骸が転がっている。
溢れるように血を流して、地面を紅く染めている。もう息はないだろう。
青空が、この悲惨な光景には不釣合いで。
いっそ大雨でも降ってくれたらいいのに…そう、願わずにはいられなかった。
「……俺…」
黙っていたアサシンが口を開く。
「…俺…」
血まみれになった手を見つめながら、塊を吐き出すかのように呟く。
「この手で、カタールで、こいつを…殺したっ…」
一歩、また一歩とその骸から逃げるように足を引く。
とん、とオレの胸にアサシンの身体が当たった。
「殺し…たんだ……。俺、人を、殺したっ!」
血を吐くようにそう言ったアサシンを、オレはただ抱きしめることしか出来なかった。
その日、オレは一つの提案をした。
『PvP、見に行ってみないか?』
別に殴り合いがしたかったとか、似非善人を気取ってみようとかそんなんじゃない。
何となく、行ってみようと思っただけだ。
まぁ、簡単に言えば「好奇心」というやつだ。
野次馬でもしてみようか、そう思っただけだ。
『別に、いいけど』
相方のアサシンはそう言った。
嫌そうというわけでも、喜んでというふうでもない。単に興味がないのだろう。
それでも文句も言わずに付き合ってくれる相方が、オレは好きだった。
その後、何があるかも知らずに、オレたちはPvPマップへと移動した。
「お前は、オレを護る為に戦っただけだ…」
抱きしめた身体は、いつもよりもずっと小さい気がした。
「悪くない、お前は悪くないんだ」
アサシンは首を横に振った。
泣いているのかもしれない、そう思った。
PvPプロンテラフィールド。
「思ったより、人いないもんなんだな」
首都を象ったフィールドは、本当の首都なんかよりもずっとがらんとしていて。
皆が話すから、もっと人が多いものだと思っていた。
「…狩り、してるほうがいいからじゃないか?」
相方の言葉にもっともだと頷いた。
正直、オレもそう思う。
「せっかく金払ってまで来たけど、人いないし…帰るか」
オレの言葉に頷きだけで返す相棒。いい声をしているのに、ぽつぽつとしか喋らないのが惜しいと思ってたりする。
歩き出そうとしたその瞬間だった。
「危ないっ」
珍しく、相棒が叫ぶのを聞いた…と思ったら、背中を押されてよろめいた。
背後で、ギンッと刃が触れ合う鈍い音がする。
「な、なんだぁっ!?」
慌てて振り返ると、相方と、もう一人……見知らぬアサシンが切り結んでいた。
カタールを交差させ、突き、斬り、払い。
猛スピードで行われる戦いに、オレは何も出来なかった。
いや……むしろ、してはいけない気さえしていた。
「あいつの声が聞こえるんだ。『死にたくない』、『死ぬのはお前だった』って…っ!」
「ンなワケないだろ! あいつは死んだ! 喋れるわけがないんだぞ!?」
……アサシン…暗殺者などと呼ばれるが、実際は冒険者がほとんどだ。
本当に人を殺すことを生業にしている者は極僅か。
事実、この男もオレと一緒に旅を満喫していた。
モンスターを狩ることはあっても、人を殺すことなんてなかった。
「聞こえるんだ……。断末魔が、恨みの声がっ…」
聞こえるはずのない、声。
それから逃げようと耳を塞ぐ。
頭を振って打ち消そうとする。
そんなことで、罪からは逃れられない…そう、知りながら。
「うあぁあっ!」
もう、慰めも通用しない。
だけど、このままではきっと…壊れてしまうだろう。
そう思ったオレの取った行動は、信じられないものだった。
……この日、オレは二つの罪を犯した。
…聖職者である自分が、刃物を持ってしまったこと。
そして、その刃物で……愛する男を殺したこと。
ぽつぽつ…と水滴が顔を濡らした。
雨、だ。
もっと早く、降っていれば……こんなことにはならなかったかもしれない。
「…神よ」
願わくば、彼の者に……次なる生と祝福を。
冷たい骸を抱いて、祈りを捧げた。
end
PvPってば仮想フィールド(?)だからこうはならないんですけどね。
てーかリザ使わないんですか、プリさん……?(爆