蜜月夜 〜後編〜


        「シュウどの…。」
        船から降りたその足でシュウの部屋を訊ねたホウアンが、寝台に横たわっているシュウに呟いた。
        「お変わりはございませんでしたか?」
        夜に合わせた小さな声でホウアンがなおも訊ねる。
        部屋の明かりは全て消えているため、廊下の明かりをたよりにシュウの顔を覗う。
        「シュウどの…寒いのですか?」
        何枚か上掛けと毛布を重ねて掛けてはいるがシュウの口唇が微かに震えている。
        額に手を当てると思った以上の熱さにホウアンは驚愕した。
        「どうしましょう…風邪を召されたのですね…。」
        慌てて薬を取りにいこうと踵を返した時、袖口をシュウに掴まれる。
        寝ていたと思っていたホウアンはもう一度驚き振りかえった。
        「薬なら飲んだ。必要はない。」
        掠れた声。少し青ざめた顔はホウアンを焦らす。
        「しかし…」
        だが、病人とは思えぬ力でホウアンの袖口を掴むシュウにホウアンのほうが折れた。
        「では、上掛けを持ってまいりましょう。」
        ホウアンは寝台の横に膝を折りシュウの顔へ自分の顔も寄せる。
        そして汗を拭うようにシュウの額へ手を当てた。
        「それもいらぬ。あなたがここにいてくれればそれでいい。」
        溜息を吐き出すかのように囁かれたシュウの言葉は次には寝息となった。
        だが、シュウの震えはおさまらない。ホウアンはまたも沸き起こる焦りに似た感覚に突き動かされ、上掛けをはぐと、シュウの夜着を取り払う。
        そしておもむろに自身も一糸纏わぬ姿になると寝台へと横たわった。
        いつもより少し小さく感じるシュウの体を両腕で抱き、上掛けを掛ける。
        「こうするしか思いつきません。」
        免罪のようにホウアンは呟くと、震える男をまた強く腕に抱いた。
        そうすると不思議とシュウの震えが弱まり、ホウアンの内にも安堵が広がる。
        少しばかりそのままでいたが、静寂を破るようにホウアンがボツリと呟いた。
        「あなたは暴君なのか無邪気な子供なのかわかりません…。」
        うっすらと汗を浮かべる額に手をやり、汗を拭いそのまま髪の毛を梳く。
        「どちらも残酷ですが…。」
        自嘲気味に笑い、ホウアンはまた両腕で強く抱きしめた。
        徐々に整った寝息を立て始める男の腕の中はかの熱さを思い出させる。
        「もう寒くはありませんか?」
        答えないとわかっていてホウアンは問う。
        「……私は今、とても暖かい…。あなたに抱かれるとこんなにも熱く熟れる…。」
        シュウに聞こえていないから零れ出す言葉。
        「罪深いのは、あなたです……。」
        この言葉を最後に、部屋は沈黙へと変わった。



        ツキリと頭を刺す痛みが遠のいたことでシュウは熱が引いたことを知る。
        しかし、どこか重みを残した頭を巡らせるとシュウは隣に眠る男を目に捉えた。
        「ホウアンどの…」
        真っ白い身体が、自分よりも小柄な身体が、母が子にするように自分を腕に抱いている。
        記憶を辿れば、自分がホウアンの袖口を掴み、ここにとどまらせたことまでは思い出せたが、裸で抱きあうことになった理由はいくら考えても思い出せない。
        上掛けをシュウがまくったことで、ホウアンが寒さからか猫のように丸まった。
        だが、隣の身じろぎを感じたのか、ホウアンはゆっくりと瞼をあける。
        シュウが目覚めていることに気付くと、慌てたように寝台の上に座った。
        「熱は!?下がりましたか?」
        言葉と同時に額に手を当てられ、シュウが少なからずも不愉快な表情になった。
        「熱は引いた。俺は子供じゃないぞ。」
        額に当てられたホウアンの手を額から外させ、また二人が向かい合う。
        と、シュウはいきなりホウアンに怒鳴られた。
        「ご無理をなさるからです!冬の湖に飛ぶ込むなどと、あなたの立場をどうお考えですか!」
        初めて医者として声を荒げるホウアンを見た感じがして、シュウは目を剥く。
        眉尻の少し下がったやさしそうなホウアンの顔が今は怒りで頬をうすら赤く染めている。
        そんなホウアンに微笑むと、いたずらを告白するようにシュウは言った。
        「あなたの笑顔が見たかった。」
        「え…?」
        思いもよらぬシュウの言葉に今度はホウアンが驚く番だった。
        「あなたは俺の前で笑うことがなかったからな。師からの賜りものの大切なスカーフが戻ればあなたが笑ってくれると思った。」
        照れたような、少し不貞腐れたようなシュウの表情は、ホウアンの中で膨れ上がった怒りを萎ませた。
        言葉を繋げられずにいるホウアンを見ると、シュウはなおも続ける。
        「だが、スカーフを渡してもあなたは泣いた。」
        『それがわからない』とシュウは納得がいかないかのように肩をいからせた。
        その様が子供のようで、ホウアンは微笑みながらまたシュウを見る。
        だが笑っているはずなのにジワリとくる目元をシュウに見られないよう俯いた。
        そして数秒の沈黙のあと、ホウアンは声を震わせながら呟いた。
        「あのとき泣いたのは…あなたが無事だったことを嬉しく思ってのことです…。涙は悲しみだけのものではありません…。」
        最後はもう泣き声だった。
        ホウアンの心がシュウの心を見つけた瞬間だった。
        繋ぎつづけていた二人の手が一段と熱くなる。
        それが合図のようにホウアンは顔を上げるとシュウと視線を合わせた。
        そして微笑むが溢れた涙はツゥとホウアンの頬を伝い、それを追うようにシュウの指が涙を掬った。
        お互いを瞳の中に映し出した時、どちらともなく瞳は閉じられ、ゆっくりと二人の口唇が合わせられる。
        暖かい、とても暖かい口付けだった。

        互いの口唇を銀の糸が繋ぐ。
        内側から貪り尽くすような荒々しいシュウの口付けは、しかし今のホウアンにとっては優しい甘い愛撫でしかなかった。
        白い喉もとをそらせ上下に喘がせる。そこにシュウは噛みつくように口付けを落した。
        一瞬の引き攣るような甲高い悲鳴。緋色の標が白い柔肌に灯された。
        慣らされた身体はしっとりと汗を刷きほのかに色づく。
        シュウはなめらかな喉元を指で辿り胸元の飾りと少し戯れてからホウアンの花芯をなぞった。
        半ば兆しているホウアンの花芯は、五指に包まれ握られたとき、小刻みに震えを発した。
        ホウアンからも溜息となって大きく息が吐き出される。
        「相変わらずだな」
        揶揄するようにシュウがホウアンの耳元へ囁く。耳たぶを軽く噛むと今度は口唇でホウアンの体を辿った。
        なだらかな胸元を通りすぎ、微かに震える胸元の飾りへ軽く口付けると、シュウの手の中で息づくホウアンの花芯がまた露を零す。
        濡れた音が辺りに響き、部屋を白く染める朝の陽光ですら卑猥に感じられた。
        「シュウどの…もう……」
        ホウアンから小さく声が零れる。先を求める言葉なのか、それとも制止の言葉なのか、意識を半分飛ばし始めているホウアンからは読み取れない。
        頬を緩ませシュウがホウアンを弄る手の動きを早めた。
        「あぁ…」
        腰を浮かせホウアンが強い刺激に背を撓らせる。握ったシーツが大きく波打った。
        「あなただけ一人で感じていてはおもしろくない。」
        言葉とは裏腹に楽しそうな声でシュウはそう言い、人差し指と親指で輪を作りホウアンの根元を絞った。
        「イッ…」
        突然の痛みにホウアンの目が開かれる。
        水の膜を張ったように潤むその目が恨みがましくシュウを見つめた。しかしそれは懇願でしかない。
        「シュウどの…放して…痛い……。」
        軽く頭を振りながらホウアンがシュウの手をはがそうと試みるが、固く絞られた指は一本も動かなかった。
        「こちらの方があなたはお好きでしょう。」
        そういうと空いている手を花芯の更なる奥へと這わせる。まだ濡らされてないそこは、しかしもたらされている熱で息の上がったホウアンと同じようにピクリピクリと蠢いていた。
        ホウアンの花芯の先から滴る露を塗りつけ、シュウの指が周りをなぞる。
        その動きだけでもホウアンは体を震わせた。
        何度か確かめるように周りを辿っていた指がホウアンの中に潜りこむ。
        鳴き声のように尾を引く喘ぎがホウアンから零れた。
        「朝からはしたない。もう中は焼けるほど熱くなっていますよ。」
        指を一度根元まで埋めるとシュウは中で上下に揺らす。それから引っかくように引き出した。
        ホウアンの額に玉のように汗が浮き出す。
        「シュウどの…」
        閉じられなくなった口唇からベルベットの赤い舌が覗く。
        シュウは誘われるようにその舌を吸うと食い破るかのように口付けた。
        ホウアンがシュウの背中に知らずと手を回す。
        角度を変え、長く貪り合う口付けはそれだけで互いを濡らした。上がる息が辺りを湿らし、惜しむようにシュウがホウアンの口唇から離れた。
        「あなた次第だ。」
        ホウアンの上気した頬に口付けを落しながらシュウが聞く。
        「あなたが頷かない限り、俺はなにもしない。」
        だが、互いの昂ぶりを隠せるはずもなく、ホウアンは自分のと擦り合せられるように押し当てられたシュウの熱を感じた。
        「あなたはズルイ…」
        泣き出す前の表情でホウアンはシュウを見た。
        「あのような接吻けをされて私が拒めるはずがありましょうか…」
        愛しい者同士がするように、ホウアンはシュウの漆黒の髪を撫でる。
        「あなたが欲しい……。」
        最後は聞き取れぬほど小さな声だったが、シュウには届いた。
        「俺もお前が欲しかった。」
        シュウも応えるようにそう言うとホウアンの足を持ち上げ己をあてがう。
        はじめてそこで感じるシュウは太陽のように熱いとホウアンは思った。
        そしてシュウが腰を進める。
        二人が繋がる前、祈るように互いの指を絡めあう。
        そして「愛している」と微かにシュウは囁いた。
        だが、確かめる間もなくホウアンは口を塞がれ、その次に身体を割くのではないかという痛みに襲われた。
        ホウアンの悲鳴を飲み込むようにシュウが口付けを深くする。
        しかしシュウの身動ぎでさえもホウアンにとっては苦痛で、ハラハラと溢れ出す涙が止められず、頭を振ってホウアンはシュウのもとから逃げ出そうとした。
        合わせられた歯がガチガチと鳴る。
        「息を吐くんだ!俺の動きに合わせろ!」
        口付けが外されシュウの指がホウアンの口唇にかかる。
        「あ…うぁ……」
        埋めこまれる楔にホウアンは竦み、息を吸い上げることしかできない。
        シュウは痛みで竦みあがっているホウアンの花芯に手を添えると上下に擦り始めた。
        ビクリとホウアンの身体が大きく揺れる。
        「ゆっくりと息を吐くんだ。」
        前の刺激と後ろの痛みでホウアンの内で意識が混沌となる。
        深い眠りから覚めたばかりのように、目は開かれているが辺りが霞んでなにも見えない。
        ホウアンの呼吸に合わせるためか、シュウの動きが止まった。
        うっすらと額に浮かべている汗が、締めつけられることでシュウにも痛みとなっていることを告げる。
        お互いの息使いが絡まりあうように部屋に響いた。
        じんわりと蕩けるように熱が内側から広がりホウアンを蝕む。
        シュウに包まれているホウアンの花芯が少し固さを持つ。青ざめた頬にまたほんのりと紅が刺した。
        濡れた音が響き始めると、それが合図のようにシュウもまた腰を進める。
        痛みがだんだん和らぎ、圧迫に喉をせり上げたホウアンへシュウが言った。
        「俺の全てが入った。わかるか?」
        愛撫のようなその声は、ホウアンを喘がせただけだった。
        緩く円を書くようにシュウが腰を揺らす。
        ホウアンから痛みの声は上がらなかったが、内側から沸き起こる感覚に戸惑っているようだった。
        「あまり…動かさないで……。」
        その証拠にやっと出た声はこれだけで、あとは切れ切れの喘ぎとなる。
        シュウは張り出した部分がホウアンの蕾から覗くぐらいまで腰を引くと、また打ちつける。
        甲高い声とともにホウアンがシュウへとしがみついた。
        「さっきまで痛がっていたのにもうそれか?」
        シュウが笑ったときの腹部の揺れまでホウアンに伝わり、長く尾を引く喘ぎがホウアンから漏れた。
        「お前は上向きだな、ここをこうすると良いんだろ?」
        手の平で転がされるようにホウアンはシュウに翻弄される。
        先端で奥に眠る核を突つかれるとホウアンはまた涙を零した。
        「イヤ…変になる……」
        両手で顔を覆い、シュウの視線から逃れる。
        だが、シュウは構わず抽送を繰り返し、もうすでに反り返ったホウアンに手を添えた。
        「入れられるのは初めてじゃないのか?」
        シュウの動きに合わせて涙のように露を零している花芯をからかい、シュウが言った。
        「もうやめてください…。」
        ホウアンが羞恥のため全身を赤く染める。
        そのさまが美しく、艶めかしく、淫らで、シュウはまた下腹部がジンと重くなった。
        シーツの波をわけホウアンの手を取る。そしてまた祈るときの形と同じように指を絡めた。
        「あなたをやっと手に入れた。」
        切れ切れの息のホウアンにシュウが言う。
        そのときホウアンが嬉しそうに目を細めたように見えたのはシュウの思い過ごしではなかったはずだ。
        背を撓らせホウアンが極まりを迎える。
        妖しく蠢く内奥が、シュウも極まりへと誘う。
        絹を裂くようなホウアンの叫びも飲み込みシュウが口付ける。
        熱い息は二人を溶かし、そして落ち行く中でシュウは「愛している」と言葉ではなく心で告げた。



        目覚めると蜂蜜色に空が染まり、部屋の中へ長く光を落としていた。
        慌てて寝台の上に体を起こすが、ホウアンは身体に走る鈍痛と疲労にまたシーツの中へと沈んだ。
        そのとき、寝室の扉を開けてシュウが歩み寄る。
        「あまり無理をするな。」
        手に持っている水差しからコップに水を満たしホウアンへと手渡す。
        「私は…、あの……。」
        口篭もりながらシュウを見上げるが、とりあえずホウアンは乾く喉を潤した。
        「もう夕方だ。トウタには俺の風邪が移って、俺の部屋で休んでいるといってある。」
        ホウアンが聞くよりも先にシュウは答えた。
        「風邪が移った!?」
        自分でも驚くほど声が裏返り慌てて口を噤む。だが、今度は声のトーンを落としてからシュウに言う。
        「風邪が移ったなど!私がシュウどのと昨晩ずっと一緒にいたと言ってるようなものではありませんか!」
        慌てているのはホウアン一人で、シュウは寝台の近くにおいてあるイスに腰掛けると、その長い足を組んだ。
        「嘘ではないだろう。」
        言葉の終わりに首元を指で指され、ホウアンは視線を落とした。
        そこにははっきりとわかる愛撫の痕。うっ血した標は昨日、シュウにつけられたものだ。
        ありありと昨日のことが思い出されてきて、ホウアンは頬を赤らめながらまた寝台へと身体を沈めた。
        「トウタになんと言えば……。」
        溜息とともに手で顔を覆う。
        「だから俺が風邪を移してしまったといってあるから大丈夫だ。」
        いつもの調子でシュウに返され、ホウアンは睨むようにシュウを見た。
        「そう睨むな。」
        うっすらと微笑み、シュウがホウアンへと口付ける。
        恋人同士がするように、何気なくあわせられる口唇。
        自然の営みのようにホウアンも受け入れる。
        蜂蜜色の空は、もうすでに群青色へと変わり、そこだけ穴をあけたかのように先ほどの空と同じ色の月を残した。
        明日にはシュウと自分のどんな噂が本拠地に広まっているかと思うとホウアンは心を沈ませたが、シュウの口付けは暖かかった。
        身体の力が抜け、パタリとシーツの上へホウアンの手が落ちる。
        それが合図のようにまた二人重なり合う。

        隠すように夜の闇が深くなる。

        淡い月明かりだけを残して……。

         

        中途半端だという事は重々承知でございます。
        お許しください ペコm(_ _;m)三(m;_ _)mペコ。
        この言葉しかございません。
        まだ元気があるようでしたら、チョコチョコっとは直していくつもりですが、
        要は才能がないという事でご勘弁を…(汗)。
        でも、またシュウ×ホウアン書きます〜☆

         

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