金木犀


        月の光を集めたかのような黄金。
        深緑の葉を広げ、黄金を称えるように木は月を仰ぐ。
        少し寒さを乗せた風に花弁を撫でられると、金木犀はその芳香を風に与えた。
        月が出ている夜は金木犀の香りに艶が出るようで、ホウアンは外に出られずにはいられない。
        金木犀の房を取り、顔を近づける。
        喜ぶかのように金木犀は辺り一面に芳香をちりばめた。
        「ホウアン。」
        肩を捕まれて体をビクリと揺らす。
        声は聞きなれたものだったが、いきなりかけられる声になれることはない。
        振りかえるなり、ホウアンはムッとした表情を浮かべた。
        「シュウどの!いつも申し上げている通り、いきなり声をかけられては生きた心地がいたしません!」
        声を荒げるホウアンだが、なぜ気配を消して歩くのか?とは問えなかった。この男が気配を消して歩くのは意識の外かもれないからだ。
        だが、代わりにホウアンは怒ったようにシュウに背を向ける。
        だがシュウは優しくホウアンの肩を抱くとあごをとり振り向かせる。
        お互いの視線がぶつかったとき、シュウはからかうように言った。
        「そんなに怒る事もなかろう。おまえの驚いた顔や怒った顔は可愛いのだから。」
        シュウのその一言でホウアンは悟ったように表情を変えた。
        「わざとなのですね!」
        叫んでから抱かれた腕から逃れるようにホウアンは腕を突っ張らせる。
        「あなたはいつもそうやって私をからかって!」
        力いっぱい押しても離れない胸元に、今度は何度か頭を振る。
        「なぜそんなにも!」
        『意地が悪い』と言いかけたとき、ホウアンは口唇にシュウの人差し指をあてられた。
        ホウアンは何度か目を瞬かせる。
        「おまえに見せたいものがある。」
        まだ怒っているホウアンのことなど構いもせず、シュウは強引に肩を抱きながら連れて行く。
        抱かれた腕の中は、憎い男の体温だが冷えた体にはとても暖かく心地よかった。



        「月の好きなお前のために作らせたのだよ。」
        シュウの部屋へと招かれたホウアンは、目を見張った。
        前回来たときにはなかった露台が作られていたのだ。
        「今回の改築の際に頼んだのだが……」
        湖に面している露台ではなかったが、ここからだと月がよく見える。
        先ほどの金木犀の香りも僅かながらに運ばれてきていた。
        「とても気に入りました!」
        ホウアンの機嫌は一変で変わり、シュウを見る目が細められる。
        奥の部屋からシュウが酒瓶を持ってくると、ホウアンは、これもシュウが持ってきただろう椅子に腰掛けた。
        そして杯に注がれた酒に月を映し出すと、少し甘いその酒をホウアンは飲み干す。
        そんなホウアンを見ながら、シュウも杯をあけた。

        「バルコニーというらしい。」
        突然シュウが話し始めた。
        「ばるこにぃ?」
        言葉を覚えたての子供のように不思議そうな顔をしてホウアンはシュウに返した。
        「カミューから聞いた。やつの国ではそう言うらしい。」
        シュウの言葉を聞いて、初めてホウアンはこの露台のことを言っているのだとわかった。
        「カミューどのはもうここに来られたのですか?」
        大人気ないとわかってはいても、シュウに一番にこの露台へに誘われたのが自分ではなかったのだと、ホウアンは落胆した。
        聞こえないように溜息をついて手の中の杯をぐるりと回す。
        「いや、何を作っているのかと訊ねられて答えたら、カミューの国での呼び名を教えてくれたのだよ。」
        すらすらと答えたシュウを訝しげにホウアンは見た。
        「妬いているのか?」
        少し間を置いて返ってきた言葉。
        首を縦に振ることはしなかったが、『違う』と答えることもホウアンには出来なかった。
        「まったく、おまえには振りまわされっぱなしだ。」
        甘い声をだし、シュウがホウアンの口唇を吸う。
        思ってもみなかった言葉にホウアンは目を大きく見開いたが、口付けが深くなったことで眠るように目を閉じた。
        月明かりの下、口付けがなお深くなる。息苦しさに口付けを解き、息を吸えばあの金木犀の香りが体をつつんだ。
        少し冷たい風を嫌い、ホウアンはすがるようにシュウの首元へと手を伸ばす。
        ガタンと椅子の倒れる音がして、シュウがホウアンを抱き包んだ。
        二人を照らすことを恥らったのか、月が輝くことをやめ雲間に隠れた。

        「寒くはないか?」
        聞かれてホウアンは答えず頷く。
        裾から差し込まれたシュウの指が、冷たい空気とシュウのいたずらに凝る突起を弄る。
        そのとき、ホウアンはまた背を反らした。
        体の奥深くまで埋められた楔がホウアンを苦しめる。
        だが、吐き出す息は湿った熱いものだった。
        腰を抱かれ、熱を注ぎ込まれ、熱い楔を打ちつけられる。
        濡れた音が夜空に吸い込まれる。
        交し合う湿った二人の息も夜空に昇る。

        「…あぁ…悦い…」
        意識せず口から零れたホウアンの声だけが二人をつつんだ。
        「おまえは淫らな華だ。」
        シュウが喉を震わしホウアンを見る。

        今宵の金木犀は艶のある香りを漂わせる。
        淫らに、しかし凛と咲く夜の花のように。
        震える花弁をしっとりと露に濡らしながら……。

         

    Gさんリクエストのバルコニーでエッチです(笑)。
    『本拠地のシュウさんの部屋の奥にあるバルコニーは逢引場所』
    と言うお言葉をヒントにこの小説を書きました。
    ちょうど金木犀の香りが心地よい季節だったので、金木犀という題名にしました。
    ホント、やまなし 意味なし 落ちなし小説ですね…。


     

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