大きな戦を前に城全体がピリピリした雰囲気に包まれる。
毎夜ホウアンのもとを訪れていたシュウも、今は軍師としての勤めを果たすべく、夜も寝ずに軍の配置や軍力の配当などに余念がない。
ここ数日、いや、数週間ホウアンの前にシュウは姿を見せていなかった。
軍医と言う立場にあるため、それなりにホウアンも毎日忙しい日々を送っているが、夕刻になり波が引くように昼間の忙しさが薄れるとやはり思い出すのは彼の男のことだった。
「先生。戦はいつ始まるのでしょう」
トウタが薬ビンを片付けながら聞いてきた。
「戦など、しなければそれで良いのですが、今はそんなことも言っていられないでしょうね。」
ゆったりとした仕種で椅子から立ちあがると、ホウアンは外を見た。
「僕たちにできることをするまで。ただそれだけですよ、先生。」
小さいトウタに似合わない言葉にホウアンは目を見張る。
どこか大人びた、男の言葉だと思った。
しかしやわらかく微笑むと少し声を小さくしてホウアンは言った。
「そうですね…。」
愁うようにホウアンはまた外に視線を流す。そして呟いた。
「それでもやはり、軍医としても人としても、人が傷つくのは悲しいものです。」
落ち掛けた夕日がホウアンの頬をやわらかく照らす。
まるで美しい、1枚の絵のような光景だった。
「シュウ軍師が心配ですか?」
刺すようなトウタの声にまたもホウアンは驚く。
素直な髪が、驚きをさざなみに変えてホウアンの体の揺れを伝えた。
「皆のことです…。」
そう言ったきり、曲げた人差し指を口唇にあて、ホウアンは黙りこむ。
トウタも同じように黙りこみ、外を見た。
外を見ながらも視線の端に映る師を仰ぐ。しかし、この時ばかりは、ホウアンを自分の師と見れなかった。
軍師を愛している男を。自分よりも大切な人を作ってしまった男を……。
あわただしい足音が響き、続いて扉が開かれる。
何事かと、ホウアンは戸口へと駆け寄った。
「ホウアン先生!シュウ軍師がお呼びです。至急軍師の執務室へお越し下さい。」
そう言うと、兵はまたもあわただしく診療所を後にする。
ホウアンはこの場にトウタがいなかったことに安堵の溜息を漏らす。私的な話ではなくとも、シュウと会えることに心が逸るのを隠せなかったからだ。
急いで薄い夜着を身につけるとシンと静まる回廊をかける。
見なれた扉の前に立つと、まず呼吸を整えてから2度ノックした。
「誰だ」
突き刺さるようなシュウの声。見えるはずもないのに居住まいを正し、ホウアンは答えた。
「ホウアンです。お呼びのようでしたので参りました。」
言葉が終わらぬうちに足音が近づき扉が開かれる。
身奇麗にはしてあるが、少しばかり痩せた男をホウアンは見た。
変わらず精悍な、それでいて夜に徘徊する獣のような光を宿した眼は、やはりいまだにホウアンに畏れを抱かせる
足が知らずに一歩下がりそうになったところでシュウがやっと声を出した。
「どうぞ。軍医どの。」
扉を広く開け放ち、シュウはホウアンの肩を抱き中へと招く。
広い机の上には幾重にも巻物や羊皮紙が置かれ、乗りきらなかった物は床へと散らばっていた。
リドリーやキバ将軍とも話し合うことがあるのだろう、シュウの机の前には乱雑に何脚か簡素な椅子が置いてあった。
「座ってくれたまえ。」
そう言ってホウアンを座るよう促すと、シュウも自分の椅子に腰を下ろし大きく息をついた。
あまり見慣れぬその疲れたような仕種になぜかホウアンは胸がツンと痛んだ。
「単刀直入に言う。」
『大丈夫か?』とホウアンがシュウへ言葉をかけようとしたところで、シュウのほうが早く切り出した。
言葉を飲み込み、ホウアンはシュウの言葉を受ける
「なに用でしょうか?」
ホウアンは今、シュウの望み全てを受け入れてあげたい気持ちでいっぱいだった。
少しでも役に立てるのならば、この身も差し出すほどに…。
「トウタを次の戦の前線に出すつもりだ。」
一瞬の沈黙。頬を張られたような衝撃はホウアンの視界を揺るがした。
「ご冗談でしょう。彼はまだ子供です。」
目を左右に動かしながらホウアンは聞いた。
「年齢など関係ない。今度の戦は長引くことになる。前線で処置ができるよう、医学をかじっている者をつれていきたい。」
シュウがイスの背もたれによりかかり手を組みなおす。
「それならば私が!」
半ば立ちあがりホウアンが叫んだ。
「お前が前線へ行って万が一の事でもあったらどうする。ここの病人は?これからの戦で傷つく多くの怪我人は誰が見る?」
静かに言われ、ホウアンがグッと喉を詰まらせた。
「それに戦場ではお前よりもトウタのほうが役に立つ。いざとなれば武器を持たせられるからな。」
シュウの言葉にホウアンの体の裡が熱くなった。
「信じられません!あなたはあんな幼い子に武器を持って戦えとおっしゃるのですか!」
ホウアンは叫び、そして勢い良く立ちあがった。
その衝撃に近くにあった羊皮紙が何枚か床に落ちる。
だが構わずホウアンはくるりと踵を返すと戸口へと歩いていった。
「あなたは今、休養が必要のようですね。少し頭を冷やしなさい。トウタを戦になどと…。」
唸るように言ったホウアンだったが、シュウには背中を見せたままだった。
そのため、いつのまにかすぐ後ろへ来ていた男の気配を感じられなかった。
そんなホウアンの長い髪をシュウが強引に引っ張り上向かせる。
目と目があったとき、シュウは出会ったばかりの頃の冷たい口調で囁いた。
「そうか…。だが、言い合っている時間も頭を冷やしている時間も俺にはないのでな。」
ホウアンが言葉を理解できず目を瞬かせる。
構うことなくシュウは強い力でホウアンの腕を掴み、身体を投げ飛ばすかのように部屋の奥へと押しやった。
「うぅ……」
強い衝撃に机の角にしたたか腰を打ったのかホウアンが顔をしかめる。
その上へシュウが覆い被さった。
「イヤッ!」
あわただしく衣服に手をかけられ花弁をめくるように剥かれていったとき、ホウアンはようやくシュウの魂胆に気付いた。
そして抵抗を激しくする。
「こんなときに…」
唸るように言ってみたが後ろから首筋を噛まれるように吸われるとホウアンから尖った声が上がった。
「やめてください!」
しかし熱を灯された体はシュウの前で妖しげに揺れる。
首筋や背中に愛撫を受けながら穿いているものだけを下ろされ、ホウアンが体を震わせた。
それが合図のようにシュウは机の上においてある水差しを取るとホウアンの尻へとかける。
「ああ…ぅ」
滴る水の冷たさにホウアンの声も揺れる。
ホウアンの身体と同じように震えるホウアンの蕾は、まるで期待を含む綻ぶ前の花の蕾でもあるようだった。
シュウは水が全て滴り落ちる前にホウアンの蕾の周りをなぞり、指を使って慣らすように水を塗りんだ。
そしてすでに猛っている己にも水で濡れた手で何度か駆り立てるとシュウはホウアンの中に一気に穿った。
「ああっっ!」
全て入りきらず、引き攣るようにホウアンがシュウの侵入を阻む。
シュウの男を受け入れ、残酷なまでに広げられた蕾は今、白くなるほどその口を広げていた。
腰を使いシュウがホウアンへとわけ入る。
突くように何度か揺らすとホウアンがくぐもったうめきをもらした。
「痛…い……。」
握った指が机の上の羊皮紙をちぎる。
逃げるように上へと身体をずらすが、シュウはホウアンの腰を掴むと自分のほうへと引き寄せた。
「ヒッ!!」
脳天まで穿たれる錯覚にホウアンの額を冷たい汗が伝う。
進めば進むほど、拒むようにホウアンの蕾は固くなるばかりだった。
「ダメか…。良くならないか?」
シュウが胸をホウアンの背中にピタリと合わせ熱い息とともに耳元へと囁いた。
「あな…たは…最低…です……。」
絶え絶えの息の中、ホウアンは睨むようにシュウを見た。
だが、それはシュウに笑みをもたらすだけだった。
「だがお前はそんな俺が良いのだろう。ここを触れば悦ぶのだろう?」
シュウはそう言うとホウアンの前へと触れる。
恐れからか、痛みからか、竦みあがっているホウアンをやわらかく包むと親指と人差し指で先端を絞った。
「うっ」
転がすようにカリの部分を弄られると、ホウアンは小さなうめき声を上げ尻を揺らした。
「ほらもうこれだ。」
からかうようなシュウの言葉にホウアンは目元を紅く染める。
直接的な刺激に涙が溢れてくるが、シュウに見られまいとホウアンは肩口に顔を埋めた。
「何も『悦い』と伝えるのは口ばかりではないぞ?ホウアン。」
楽しむようにシュウはホウアン自身を弄ぶと、腰をまた深く打ちつけた。
「あ!」
咄嗟のことにホウアンから甲高い声があがる。
シュウを受け入れているソコは、もう進入を拒むことをせず、今は待ちわびるかのようにヒクつき花開こうとしていた。
花弁を優しく触るようにシュウも優しく腰を回す。
ただそれだけでホウアンは濡れた声を紡いだ。
「あ…ああぁ…うぅ…」
シュウの動きに合わせて机が軋る音を立てる。
波間を漂うように伸ばしたホウアンの手が机の上のものをなぎ払う。
深く穿ち、突き上げるようにするとホウアンの背が撓り始めた。
知らずとシュウの動きに合わせてホウアンも自分の腰を揺らしもっと深くへとシュウを誘う。
艶を含んだ尾を引く喘ぎは、濡れた音と相まってさらに卑猥に響く。
何日も離れていた互いの体は、怒りで熱くなっていたことも加え、瞬く間に登りつめた。
「あ…ぅ…シュウ……どの…」
極みが近いのか、ホウアンの口から含みきれなかった銀糸が零れ出る。
シュウも動きを早めしっとりと濡れたホウアンの首筋に赫い痕を散らす。
「もっと名前を呼べ…。俺の名前を…。」
力強く突き上げながらシュウが唸る。
と、そのとき扉を叩く音で二人の体が跳ねた。
「軍師!シュウ軍師!おられますか?」
兵が扉を叩き、声を掛ける。
シュウは動きを止めぬまま答えた。
「何用だ?ホウアンどのが見えている。手短に話せ。」
少し怒ったような口調に、見えなくとも扉の前で兵士がすくみあがったのがわかった。
ホウアンは軋む机の音が兵に聞こえはせぬかと祈る思いで眼を瞑った。
「リドリー殿がお呼びです。火急の用との仰せで…」
泣き声にすら聞こえるその兵の声がホウアンの体を固くする。
声を殺し息を詰めるホウアンを笑ってシュウが耳元で囁いた。
「…とのことだホウアン。残念だが急がねばならない。」
シュウはそう言うと何度か腰を激しく打ち付けるとホウアンの身体を抱え、中へと熱い奔流を小刻みに放った。
熱いシュウの猛りにホウアンも声を殺しながら果てた。
断続的に続く震えが甘い余韻を引きずる。
そんなホウアンの耳元へ、シュウはまたも囁いた。
「前線へ行くことはトウタから言い出したことだ。」
ホウアンの中からシュウが出て行ったこともあったが、それ以上にホウアンはビクリと身体を揺らした。
「嘘だと思うならトウタに確認してみるがいい。」
そう言いながらシュウは手早く身支度を整えると、ホウアンに放った己の残滓を拭いとり、そのままホウアンを残して外へと出て行った。
シュウの遠ざかる足音を聞きながらホウアンも震える手で身支度を整える。
愛する男との満たされるはずの行為なのに、ホウアンの胸は痛く、熱いものが頬を伝っていた。
ホウアンが部屋に戻るとトウタが薄明かりの中、ホウアンの寝台に座っていた。
ホウアンを見るなり、トウタが口を開く。
「ずいぶん長かったんですね。」
トウタの問いかけに、ホウアンはなぜか素直にシュウのところにいたと答えることができなかった。
だが、構わずトウタは続けた。
「シュウ軍師のところにいたんでしょ?先生。だったら僕の話も聞きましたよね?」
挑むような視線でトウタがホウアンを見る。
ホウアンはまだ身体の震えが止まらず、祈るようにトウタに問い掛けた。
「トウタ…シュウ軍師に戦争へ行きたいなどと言ってませんよね?」
ホウアンはトウタへと歩み寄り、少し大人らしくなったトウタをその腕に抱いた。
「言いましたよ。僕はもう子供ではありませんから。」
抑揚なく語られる言葉。ホウアンは目の前のトウタを驚いたように見つめた。
「僕は、僕のできることをするまでです。」
そして昼間言った言葉をもう一度繰り返す。
「軍師は、トウタを人手が足りなくなったら戦わせるつもりなんですよ!?」
泣き声にも近いホウアンの言葉は、だが次にもたらされたトウタの言葉によって遮られた。
「わかっています。全て承知の上です。」
またホウアンの身体が震える。
「僕はもう大人なんです。先生の庇護は要らない。」
悲しみの色を瞳に浮かべてホウアンはトウタを見た。
まるで知らない、初めて会ったかのような男にトウタが映った。
「怖いのでしょう?先生。でも大丈夫。僕が先生を守ってあげますから。」
トウタはそう言うとホウアンの腕の中から抜け出し、戸口へと歩いていった。
「明日も早いのですから。休ませてもらいます。先生もお疲れでしょう?」
今さっき軍師の執務室であった出来事を言われているのかと、ホウアンは体を固くした。
そんなホウアンにニコリと微笑むとトウタは自室へと帰っていく。
腕の中で暖めてきた雛鳥が飛び立った瞬間だった。
「トウタ……。」
崩れるようにホウアンが項垂れ、シーツを握った手の甲に涙が落ちる。
大きな戦を前にホウアンの裡で何かが崩れ始めていた。
トウタはいつから責めるような視線で自分を見るようになっていたのか。
そしてあんなにも大人へと近づいていたのか……。
ホウアンは何もない空を仰いだ。
そして呟いた。
「戦は人を変える……。」
そして敷布へと顔を埋め声ないままに嗚咽を漏らした。
おい ホウアン女々しいな…。 という事で反省会です。 BBSにGさんからシュウホウアン小説進んでますか?と書かれてあったのでゼンゼン進んでいなかったので頑張りました(苦笑)。 だが、それがいけなかったのかもしれません…。 何もかも中途半端。 しかし、ホウアンを攻める鬼畜シュウは相変わらずお盛んでございまして…。 これから長く続くシュウvsトウタ×ホウアンシリーズのプロローグですね。 私の中でトウタくんはこんぐらい男らしいキャラです。 なんつったって、ゲームでは武器もレベルも最強に育てましたから(屍)。 こうなりゃパロで、大人トウタ×ちょっと枯れかかりのホウアンって感じで小説書いてみたいものですわ(笑)。 毎度毎度のことですが、お目汚し申し訳ありません…。 |