が、竜崎スミレの紹介でここの中学のテニス部にサポーターとして出入りしてから、結構経つ。
「ちゃ〜ん、ボール取ってくれるかにゃ?」
「ほいよっと」
「サンキュー!」
菊丸の言葉に、は笑顔でボールを放ってやり、それから再び手塚に向き直った。
そして、晒された腕を見ながら、箇所箇所をそっと押さえていく。
「うん…ずっと良くなってきたね。これなら、いけるよ」
「すみません」
「何かしこまってんの?」
いきなりの彼の敬語に、は心底可笑しそうに笑ってからかった。
すると、手塚はちらりと周りを見て、低く囁いた。
「……学校にいるときくらい、それなりの態度を取らないと示しがつかないだろう」
「…ぷっ」
その理由が余りにも彼らしくて、は再び噴き出して、するすると捲り上げたジャージを戻した。
手塚とはそれなりの恋仲だ。
テニス部の人は、誰も知らない。
あの手塚国光が知られないようにしているのだから、当然といえば当然だが。
ところが、そんな二人の関係で、はある不安を持っていた。
付き合いだして数ヶ月。
なのに、未だにキスすらない。
最初は年の差があるから仕方ないか、と思っていたが、最近どうにも不安で仕方ない。
しかし、それを彼に言えないまま、数日が過ぎていっていた。
「腕の調子は良さそうだし、何にも問題ないんじゃない?」
二人で帰りながら、がそう言った。
その言葉に、手塚は苦笑して小さく首を振った。
「満足したらそこで終わりだからな。まだまだ、上は高い」
「う〜ん、さすが手塚部長だ」
「当然のことだ」
感心したようにが頷くと、手塚は更に柔らかく笑った。
それを見て照れくさそうにも笑ったが、ふと、俯いて小さく言った。
「………国光」
「ん?どうした?」
二人のときだけの呼び名。
「国光」と「」。
「…あとどれくらい、こうして二人でいられるかな…?」
「何?」
思わぬ言葉に、手塚はの顔を覗き込んだ。
そこにあるのは、寂しそうな―――それでも、笑った顔。
「どういう意味だ?」
「ん…?別に大した意味はないんだけど…」
「はっきり言ってくれ」
はぐらかすの肩を強く掴んで、手塚は眼鏡の奥の瞳で彼女を見つめた。
「国光……さ、他に好きな人でも、いるの…?」
「…は?」
藪から棒。
寝耳に水。
まるで予期せぬ言葉に、滅多にないことだが、手塚はありったけ間の抜けた声を出した。
だが、の顔は冗談を言っているようにも見えない。
普段は、明るく年下にさえ見えるその姿。
しかし、今はやけに小さい。
「どこからそんな考えが浮かぶんだ?。俺がいつそんな行動を…」
「だって!」
呆れたような手塚の声を、は強く遮った。
その顔は真っ赤で、声もかすかに震えている。
「……だって、全然態度で示して……くんないじゃん……」
「……態度……?」
繰り返してその意味を理解し、手塚もまた顔を紅くした。
こんなに表情が動くのは、の前でだけだ。
「やっぱり…私じゃ、ダメなんじゃない?」
「そんなこと、ある訳ないだろう!」
「じゃ、どうして……さ?」
言ってるも、答える手塚も、互いに言葉に詰まる。
だが、とうとう手塚が動いた。
俯いたの顎に手を掛け、くいっと自分のほうを向かせる。
そしてじっとの目を見た後―――ゆっくりと、唇を重ねた。
「ん…」
恥ずかしいながらも、も目を閉じた。
短いような、長い時間が過ぎる。
やがてそっと唇を離すと、手塚は顔を見られないようにそのままを抱きしめた。
「…嫌がられたら、困るからな…」
「え?」
「が嫌がることは、したくなかったから…出来なかっただけのことだ」
余りにも彼らしい答え。
状況にそぐわず苦笑しながら、は彼の背中に手を回した。
「嫌がるわけないのに」
「…今度からはそうしよう」
そして腕を解くと、手塚は笑っての肩に手を置いた。
「…」
「うん?」
「……ずっとだ」
「何が?」
「さっきの…答え」
さっきの答え。
思い出して、は目を大きく開いた。
『あとどれくらい、一緒に居られるかな―――』
その答えは、『ずっと』
「―――だね」
まだ顔を紅くしながら。
それでもにっこり笑い、は手塚と揃って家路につき出した。
部長ーー!!
プラトニックかよ!!オイオイ!!
不二は裏に走る傾向に対して何さこの純愛ぶりは。
さすがいろんな意味で部長(爆笑)