先輩、これどこ置くんすか」
「へ?」

必死でボールを集めていたのすぐ後ろで、そんな声がした。
振り返らなくても分かる。この声色―――。

「冷却スプレーは救急箱の中だよ、リョーマ君」
「じゃあ、ついでに入れといて下さい」
「へ!?む、無茶言うんじゃないよ〜!」

その一言に目を丸くしたを他所に、リョーマは平然との腕の中のボールの上に更に冷却スプレーを乗せた。

「わ、わ、ちょっ……わわっ!!」

慌ててバランスを取ろうとしたが、時既に遅し。
折角集めたボールが、あっという間にころころりんとコートに散らばった。

「あーーー!!」

唯一残ったのは、原因を作った冷却スプレーだけ。
「せ……せっかくあそこまで拾ったのにー!!」
半ば泣きそうな顔で、はそれでも急いで落ちたボールを拾う。
その様子をじっと見ていたリョーマは、一言。


「……トロい」
「なっ!!」


ころころころ……。


リョーマの言葉に反応して振り返った瞬間、またしても集めたボールが零れ落ちた。

「わわわっっ!!」
、何をしている!ふざけてるならマネージャーでも走らせるぞ!」
すぐさま、鋭い手塚の声が飛んだ。
「ふ、ふざけてこんなことする訳ないでしょーが!!」
怒りを含んで反論しながら、はキッとリョーマを睨んだ。

だが、当の本人はいつもの余裕の笑みでこちらを一瞥し、踵を返してそのままコートに戻ってしまった。




「―――ふう……」
やっと仕事を終えて、は部室のパイプ椅子に座ると大きく息を吐いた。
もう部員たちは皆帰った。
荷物の整理やら、スコアのまとめやらをしているうちに、気づくともう七時過ぎになっていた。
「今日は…いつもの二倍はくたびれた……」
それもこれも、全てあの一年生、越前リョーマのせいである。
二年以上多く人生を歩んでいるのに、良い様にからかわれる自分がうらめしい。

「何で今日はあんなにつっかかってきたんだろうなあ…?」

確かに今日は、いつも以上にからかわれた気がする。
何でかな?と思いつつ、は早速帰る準備を始めた。

そのときだった。

「……ん?」
部室のすぐ裏で、誰かの声がした。
中には自分しか居ないのだから、外に誰か居るのだろうか。

「こんな遅くに……一体誰だろ?」

何故かとても気になり、はそろそろと窓を開けてみた。
すると……。


「あ、あの――越前くん、今…好きな人…い、居るのっ!?」

――――え!!??

開けた途端、そんな声が耳に飛び込んできた。
予想外の出来事に、は思わず窓から覗き込んだ。
一年生らしい女の子と、リョーマが居る。

心臓が、どくどく言っている。
訳もなく、足が震えた。

―――ど、どうしよう…リョーマ君が、告白されてる……。

ここは窓を閉じたほうが賢明だろう。
だが、頭でそう思っても、体が動かない。

そうしている内に、目の前の出来事は進んでいく。


「…何でそんなこと聞くの」
「え、えっと、そ、それはっ……」

「―――居るよ、好きな人」

――――!!!
「えっ!?」

その言葉を聞いた途端、の胸に酷い激痛が走った。
無意識の内に、窓を閉じる。
そしてそのまま椅子に座ると、混乱した頭を整理しようとする。
でも、それは無駄な行為でしかなかった。

どうしてこんなに心臓の音がうるさいんだろう。
どうしてこんなに体が痛いんだろう。

ただ――リョーマが告白された現場を見ただけなのに。



「先輩、まだ帰らないんすか」
「っ!!」

いきなり真後ろで声がして、は勢いよく振り返った。
そこに立っているのは、越前リョーマ本人。
ユニフォームを着たまま、相変わらず眉一つ動かさずにいる。
この動揺を、悟られたくない。

「あ、あはは、そろそろ帰ろっかなー、なんて思ってたとこだよ」
「…何時まで学校に居る気なんすか?」
「だ、だから今から帰るつもりだってば!」

笑いながら、はそそくさと鞄をまとめる。
すると、自分でも思わぬ言葉が、口をついて出た。

「リョーマ君、もてるんだね」
「…は?」
「さっき、告白されてたでしょ。悪いとは思ったんだけど、偶然見ちゃったもんだから、さ」
「……で?」
「で、って…そんだけ」

それ以上話したら言葉に詰まりそうで、は努めて明るく笑いながら鞄を持った。

「さ、ここ閉めるよ。外出て外出て」
「…………」
「リョーマ君?」

の言葉に耳を貸さず、リョーマは入り口を塞ぐ形で俯いたまま突っ立っている。
怪訝そうに、は顔を覗き込んだ。

「……そんだけ?」
「え?」
次に聞こえてきた声の低さに、は内心たじろいだ。
リョーマは、顔を真っ直ぐこちらに向けて繰り返す。

「それだけ?」
「それだけって…」
「……どこまで鈍い訳?先輩」
「に、鈍くなんかないよ!」
「鈍い」

失礼な一言に、思わずが声を強めた。
だが、リョーマも怒ったような顔で反論する。
とうとう、は声を張り上げた。

「い…いい加減にしてよ!今日といい今といい、そんなに私をからかって面白いっての!?」
「………」
「っ……な、何よ……」

打って変わってこちらを見てくるリョーマに、半分涙目になりながらもは虚勢を張る。
すると。


「……から」
「え?」


のこと、好きだから」


「……………え??」

次に彼の口から出たのは、信じられない言葉だった。
余りの展開に、は呆然と立ちすくむ。
だが、先ほどとは全く異なり、体の中に熱いものが溢れ出ていた。
『嬉しい』
そんな気持ちで、胸が一杯になるのが自分でも分かった。


「俺、のこと、先輩だなんて思ったこと……一度もないよ」
「うそ…」
「こんなことで嘘ついても、得する訳ないじゃん」


――――リョーマ君が、私を、好き……?


そう思ったそのとき、不覚にも、涙が零れ落ちた。
「!!」
慌てて隠そうとするが、後から後から溢れ出てくる。
結局、無駄な抵抗に過ぎなかった。


「…何で泣くの」
分かっているくせに、にやにやしながらリョーマはに近寄った。
いつものような皮肉めいた微笑じゃない、本当に嬉しそうな笑顔だった。
「っ、し、知ら、ないっ…」
しゃくりあげながらも、は涙を拭う。
その震える肩を、まだ幼いリョーマの腕が包み込んだ。

「っ!」
驚きに体を硬直させるに、リョーマは抱きしめる腕に少しだけ力を込めて、もう一度―――言った。


が、好きだから」

「………」


それ以上は言葉にできなくて、何度も頷きながら、はぎゅっとリョーマのユニフォームを握り締めた。


リョーマは小さく笑うと、そっと、の頬に唇を当てた。

 

 

 

 

 

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か〜〜〜っっぺ!!
…としたくなったっしょ??(おいらはなったぞ!)
何よこのおとめっぷりは。
書いてる本人は乙女に一番ほど遠いってのに!


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