――生きていてくれた。 デュオに支えられ、ゆっくりとこちらに歩を進める最愛の男の姿を見て、 ペルセフォネは閉じた瞼の裏が熱くなった。 生きていて良かった。それだけで嬉しい。 それが彼女の偽らざる想いだった。 この後、思いもよらない事態に直面するまでは――。 「…ナイトバーン…」 無事だったのね。今までどうしていたの? 再会したら山ほど言いたい事があった筈なのに、 いざ彼を前にすると、名前を口に出すだけで精一杯だった。 少しでも気を抜くと涙声になってしまいそうで、彼女は必死に上を向こうとする。 「こんな時は泣いてもいいのよ」と、今は亡き最愛の人は言うのだろうけど、 彼の前でだけは弱い所を見せたくなかった。 こんな所が、「可愛げがない」と言われてしまうゆえんなのだろうけれど…。 (そう簡単に変われたら、誰も苦労しないわよね……) 素直になろうと決心した筈が、やはり意地を張ってしまう自分。 ペルセフォネは軽い自己嫌悪に陥った。 そんな彼女の内心など知る筈もないデュオは、 彼女の沈黙を驚愕と取ったのか、どこか得意気に話し掛けてきた。 「ふふふ、驚いたでしょ?私だってもう無理かもしれないって思ってたんだけど、 上半身は奇跡的に落石を免れていたみたいでね。こうして生還する事ができたってワケ。 …諦めない限り、ヒトはなんだってできる…。あのコを見てたらそう信じられる気がするわ。 種族の壁なんて絶対に越えられるって…。ね?」 「フッ、そうだな……」 視線を合わせ、意味深に笑いあう二人。 ただならぬ雰囲気を醸し出す彼らに、ペルセフォネには掛ける言葉もない。 (何?何なの…?この状況は) 以前の彼らなら、視線を合わせる事すらなかった筈だ。 それが一体どうしてこんな事になっているのか。 あまりの事に一瞬の思考停止の後、彼女は慌ててデュオに詰め寄った。 「ちょっとデュオ!これは一体、どういう事なの?」 「どういう事って…見たまんまでしょ。ねぇ?」 首を傾げてナイトバーンに同意を求めるデュオは、本物の女よりも小悪魔的に見えた。 (嘘でしょ…よりにもよって、ナイトバーンとデュオが…なんて) それこそ認められない。認めたくない。 「待ちなさいよ!あなた達の場合は種族の壁以前に高い壁があるでしょう!?」 「あら、そんな事。ペルセフォネ、あなただって前に言っていたじゃない。 私達は、自分にないものをお互いに求め合うんじゃないかしら、ってね…」 …… ………… 言った。確かにそう言った。 だが、それはこんな事態を想定しての言葉ではなかった筈だ。 大体ぽっと出の、しかも男に彼を取られてたまるものですか。 カッとなった彼女が声を荒げようとした時―― 「なぁ、アンタら…お取り込み中済まないが、そろそろこっちに手を貸してくれないか?」 何しに来たんだ…と言いたげな村人達の視線に、彼らはようやく現在の状況を思い出した。