『さあ、いい玩具が手に入ったな』
彼奴はその美貌を微塵も崩さずに一人ごちて居る。
『手に入れたからには、活用しないと、ね』
そしてその視線の先には、新しい玩具の元の持ち主
の姿。
『一気に楽にしてあげた方が好いか…生きてても仕
方ないもんね』
無邪気な…余りにも無邪気ゆえに善悪の境を一切決
めていない、残酷な子供の様な支配欲が瞳に滲む。
『僕には呪文なんて要らない。思うだけで好いんだ。
カミサマだからね』
やがて迸る光と舞い踊る経文。西への旅行きも、此
処までか。
だが、その経文と光は、施術者を包み込んでいた。
『…馬鹿な!僕じゃない!あいつらだ!』
言葉も空しく彼奴を包み込むばかりの光。そして、
絡め取られる身体。そして、急激に衰えてゆく其の美
貌。
愚かだねぇ。
全く愚かだ。
自分の意思におぼれて、術を遣うリスクに気付か
ないなんざ、全く愚かだ。
約千年ぶりに現れた、愚かにも自分の糧になりに来
た男に向かって彼は吐き捨てる。
大体こんな大技を相手に掛けるんだ。手前が無事
な訳は無いと言う事ぐらい判らんかね?
第一、永き時を経た道具が、何時まで経っても
非情な訳は無かろう?今の持ち主達は人間だから、
此方も糧を戴くのに手心を加えただけの話さ。
これだけの力を解放しようってぇんだから、た
っぷり戴いてもどうせ回復するだろうさ。…それ
だけの気概があるならだけど、ね。
「…成程な。確かに恐ろしい道具だ」
三十一代目東亜玄奘三蔵法師は、改めて恐れ入った
という感慨に浸って呟く。
魔天経文でさえ此処までの恐ろしさを秘めている。
増してや其れが聖天経文と対になった時、どれだけの
力を開放するというのか。
改めて、師・光明三蔵の偉大さを知ったのである。
そして一行が立ち去った後には…。
非情に酔う余りに非情によって命を無駄にした、哀
れな抜け殻が一つ………。
(2001.3.28)