「な、悟浄、火ィ貸して?」
サルからこんな台詞を聞く日が来るなん
ざ、お兄さん、涙が出て来るぜ。煙草なん
てもなァ、喫ってる人間が言ってても説得
力無いけど暇潰し以外の何もんでもなくて、
俺だって悪ィとは思っててもやめらんねぇ
のよ。うちのリーダー様だって同じだと思
うぜ?でなきゃ、俺よか軽目の煙草喫って
ねぇって。
「…ってなァ、サル!此れPEACEじゃね
ぇかよ。俺よりキツイ煙草って、テメェ煙
草初心者だろうが?!」
「いんだよ!何か自分苛めてぇんだから」
で、俺からライターふんだくって火ィ点
けて…様になってるかなー、って思ったら
咽てやがるしよ。
「ッカヤロ。いきなり吸い込むからだよ。
最初はな、吹かしでイインダヨ。出来れば
鼻から煙を抜く。やってみ?」
「……こう?」
………凶悪なほど似合わネェ、こいつが
鼻から煙だしてる姿って。もう別の意味で
教育的指導ね。
「とりあえず、吹かしから練習してろ!
ッたく、こんなに丁寧に煙草の指導する保
護者なんでいねぇぞ?」
「悪ィ」
でも、次の瞬間何も言えなくなる。煙草
に咽た所為とは、明らかに違うこいつの涙。
多分、あいつの所為、か。
少し恍けておいてやっか。多分、もう少
ししたら吐き出す筈だ。俺も吐き出したか
ったし。
「なあ、悟浄」
「んだ?」
「人間の…妖怪でも良いや、遣る事には
全部意味があんだよな?」
「ありがたーい教えに拠ればな?」
「じゃ、あいつの遣った事って、何だっ
たんだ?」
「あいつって?」
「判ってんだろ?焔だよ!」
「俺はあいつじゃないから判んねぇけど
な」
「はぐらかすなよ!」
……苦手な目をしやがるな。敢えて考え
たくなかった事を追求せずには居ない、熱
い目。結局お前と三蔵って良く似てるのな?
俺と三蔵が良く似た思考回路って言う声も
時々聞くけど、俺、こう言う考えに熱くな
れねぇもん。どこか逃げてるなって自覚は
ある。認めるのがヤなだけでさ。
「で、答えを今判って、何をしよってん
だ?」
「わかんね。只、燻っててヤだ」
そう、燻ってる。結局俺達はあいつの決
着を着ける為に振り回されはしたが、あい
つの幕を降ろしてやった訳じゃねぇ。あい
つは、自分の幕を俺達を使って降ろしたん
だ。観世音のオバハンから何か言ってくる
かと思ったが音沙汰もなし。…ったくよー。
下々の気持ちの所為は自分で付けろってか?
で、煙草見ててふと浮かんだ言葉。…仕
様がねぇ。今回は此れで逃げておくか。
「なあサル。もう少しゆっくり吹かして
みな」
「え?…こう?」
素直だねぇ。普段此れだけ素直ならお兄
さん嬉しいんだけど。
「美味いだろ?」
「ホントだ…」
「バカバカ急いで喫うのは、イライラを
消したくて味なんざどうでも良いって時の
喫い方。でもどうせ喫うなら不味い煙草は
喫いたかねぇだろ?」
「ああ」
「でもあいつは、多分煙草の味なんでど
うでも良くて、只煙らせたかったんだろう
よ。自分が此処に居るって事を感じたかっ
ただけで」
「そう、かな?」
「多分な。でも、お前まで其れを真似す
んなよ。ゆっくり喫った煙草の旨味を知っ
たからにゃ」
瞳を覗き込んで、もう一押し。
「煙草だって、良い煙になった方が成仏
出来るんだ。最後は、笑って死にてぇだろ
うが。お日さんみたいに笑ってよ」
「……にあわねぇー。でも、サンキュ」
ペシ!
「ってぇだろ!」
「教育的指導です。非行に走らせてどう
するんです?」
「あいつなら心配ねぇよ。何とか整理で
きたみてぇだし」
「なら良いですけどね。1本、くれませ
んか?」
「何時から喫ってやがった?」
「昔々、ね。たまには良いでしょう?」
そして八戒は、満足げに一筋の煙を吐き
出した。俺の顔めがけて。
(2001.5.5)